臨牀透析 37巻9号 (2021年8月)

透析患者の消化管疾患AtoZ

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序文 花房 規男
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本増刊号では,透析患者における消化管疾患を特集した.透析患者において,消化器管疾患を考えることは,複数の点で重要である.すなわち,①生命予後と関連する疾患であるということ,②全身性の疾患で消化管と腎臓の双方に病変を生じる疾患が存在すること,③検査を行う場合に,腎不全の存在を考慮しなければならないこと,④透析患者において高頻度にみられる消化管疾患・合併症が存在することが挙げられる.

目次

透析患者の消化管疾患AtoZ 総論

1 食欲低下 磯部 伸介
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栄養障害は透析患者において生命予後に重大な影響を与え,かつ25〜75%の患者で生じる頻度の高い合併症である.透析患者における栄養障害の原因は多岐にわたり,腎不全および透析による蛋白喪失以外にも,不適切な食事制限,味覚異常,口腔内の問題,消化管疾患を含む併存疾患,慢性炎症,薬剤の副作用,精神状態,社会環境,加齢そして本槁で取り上げる食欲低下などが問題となる.

2 悪心・嘔吐 西野 隆義
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悪心・嘔吐は,頻度の高い愁訴であり原因となる疾患も多岐に及ぶ.維持透析中の患者では,透析に関連が深いと考えられる悪心・嘔吐と,透析に関連が薄いと考えられる悪心・嘔吐に分けて考える必要がある.透析に関連が深いと考えられる悪心・嘔吐としては尿毒症,不均衡症候群などが考えられる.一方,透析と関連が薄いと考えられる疾患は消化器疾患にとどまらず,中枢神経性疾患,代謝性疾患,薬剤性,精神疾患など多岐に及ぶ.鑑別診断には,詳細な病歴の聴取,身体診察および検査所見が必要である.とくに尿毒症は悪心・嘔吐以外にも,各臓器の典型的な症状を合併していることが多く,臨床徴候の詳細な観察が非常に重要である.本稿では,まず,悪心・嘔吐の発生機序について述べ,次いで,尿毒症とそれ以外の疾患に伴う悪心・嘔吐について鑑別点を含めて述べる.

3 下痢・便秘 富田 寿彦 , 三輪 洋人
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透析患者では下痢や便秘などの消化器症状を訴える頻度が高い.神経障害や透析による除水,水分摂取制限や食物繊維の摂取不足,運動量の低下などが原因となって便秘を引き起こす.最近の報告では便秘は慢性腎臓病(CKD)や心血管疾患との関連が報告され,適切に治療すべき疾患であるとされる.近年,本邦では新しい作用機序の便秘薬が続々と発売され,新規便秘薬と既存の治療薬をどのように使い分けるかに注目が集まっている.そこで本稿では,CKDや透析患者に多い下痢・便秘について概説する.

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腹痛などを主訴に外来受診する透析患者の急性腹症に遭遇することは比較的多い.急性腹症とは,発症1週間以内の急性発症で,手術などの迅速な対応が必要な腹部(胸部なども含む)疾患とされている.本稿では,透析患者における急性腹症について症候・診断を中心に概説する.

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日常臨床では,慢性腎疾患を有する患者の消化管出血を経験することが少なくない.血液透析患者では透析中の抗凝固薬使用に加え,併存する動脈硬化性疾患に対して抗血栓治療が行われていることが多い.動脈硬化を有するため,腸管虚血を起こしやすい背景もある.つまり透析患者における消化管出血は,虚血による病態と出血傾向の双方に留意しなければならない.加えて,慢性貧血や低アルブミン血症などにより粘膜組織の脆弱性や組織修復能の低下が起こりやすいため,通常の場合では出血の原因にならないような浅い粘膜病変であっても透析患者では消化管出血の原因となりうるのである.

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消化管疾患診断の主役は,内視鏡検査となっている.消化管造影は病変部位の確認に用いられるが,これもCT colonography(CTC)に移行しつつある.小腸や大腸の炎症性疾患スクリーニングや経過観察にはMR enterography(MRE)やCT enterography(CTE)が用いられるようになってきており,欧米では一般化している.絞扼性小腸閉塞症や非閉塞性腸管虚血など腸管虚血の診断が重要となる場合にはCTによるダイナミックスタディが行われる.閉塞性腸疾患の場合にはMRIのきわめて短時間で撮像できる撮像方法を用いることにより,腸蠕動が損なわれた閉塞部位を非造影で診断することもできる.超音波検査は病変腸管を可視できれば,壁の肥厚,蠕動,虚血の有無などを診断できるが,病変の広がりや腹腔内で起きている変化全体を概観することは難しい.本稿では腎不全患者に対する各種造影剤使用における注意点・禁忌などについて述べ,次に各画像の適応と活用の実際について述べる.

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消化器症状を訴える透析患者の割合は高く,約70%と報告する研究もある.そのうち,上部消化管に起因する症状や疾患はさまざまな要因で起こりうる.たとえば,尿毒症による嘔気や嘔吐,末期腎不全(end―stage renal disease;ESRD)に伴う高リン血症や,二次性副甲状腺機能亢進症の治療に用いられる薬剤による消化管出血,潰瘍,さらに,透析患者の併存疾患,たとえば虚血性心疾患に対して処方される低用量アスピリンなどによる消化管粘膜障害など,その原因,疾患は多様である.

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透析患者は,血液透析時や電解質異常を是正する薬剤,併存疾患の多さから,便秘,貧血,下血などの症状が起きやすく,血液透析中の虚血性腸炎の発症などにも注意しなければならない.また,透析患者は,大腸ポリープ,大腸癌の有病率が高いとの報告があり,虚血性腸炎および直腸潰瘍の高危険群である.透析開始後の生存期間が長期化すれば,非透析患者と同様に,大腸癌などの罹患率は高くなり,下部消化管内視鏡検査の重要性は増してきている.

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透析患者における貧血の原因として,消化管出血に伴う鉄欠乏が重要である.2015年版の「慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン」によれば,慢性腎臓病(CKD)の患者に貧血が合併し,一定量以上の鉄補給をしても血清フェリチン値・トランスフェリン鉄飽和率(TSAT)が上昇せず貧血の改善が得られない場合,消化管出血の有無の検索をすべきとされている.透析患者では,毛細血管のうっ血と毛細血管前括約筋の破綻に起因する粘膜下静脈の慢性的な閉塞が原因となって血管内皮細胞増殖因子(VEGF)依存性の脆弱な血管増生が起きると考えられている.また,抗血小板薬内服などによる粘膜障害も,小腸出血の原因となると考えられる.

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透析患者における手術は,①血液透析でのバスキュラーアクセスの作製や腹膜透析に腹膜カテーテルの留置は必須である.また②進行腎不全に関連する合併症で現在は手術適応が少なくなったが腎性副甲状腺機能亢進症に対する副甲状腺摘出術,また手根管症候群に対する手根管解放術やアミロイド骨症に対する整形外科的手術などがある.そのほか③腎不全とは直接関連しない手術もあるが,消化管手術はこれにあたる.

11 栄養療法 加藤 明彦
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透析患者では食欲低下などの消化器症状による栄養障害を高率に合併し,総死亡を含む予後に重大な悪影響を及ぼす.そのため,長期にわたって栄養補充が必要となる場合がある.透析患者における栄養障害のおもな原因を表1に示す.これらのうち,とくに炎症は栄養障害と密接に関連する.透析患者では,血液とダイアライザ膜の接触によるリンパ球の活性化,酸化ストレスやカルボニルストレスの増大,尿毒症環境などにより,血管内皮細胞や単球から炎症性サイトカインが放出され,慢性的な炎症状態(inflammaging)を呈しやすい.炎症性サイトカインは体内に貯蔵した糖質,アミノ酸,脂肪酸を分解し,エネルギー源として利用するため,体脂肪や骨格筋量が減少する.炎症が主役である栄養障害は,動脈硬化性病変を合併しやすいため, malnutrition, inflammation and atherosclerosis(MIA)症候群と呼ばれる.しかし,実際は炎症以外にも尿毒素の蓄積,代謝亢進,経口摂取量の低下などの複数の要因が関連している.そこで,2006年に国際腎栄養代謝学会からすべての腎臓病患者の栄養障害をprotein―energy wasting(PEW)と呼ぶことが推奨され,現在に至っている.

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組織脆弱性・易出血性・易感染性・創傷治癒遅延・臓器局所の循環血流不良など,透析患者は腎機能健常者と比較して手術を行ううえで不利な点が多く,とくに65歳以上の高齢透析患者は術後合併症リスクが高く予後不良であると報告されている.また透析患者は腎不全のみならず糖尿病や高血圧,心血管疾患を合併していることも多く,消化器疾患において低侵襲手術の代表である腹腔鏡下手術の報告は未だ非常に少ないのが現状である.しかし自動縫合器やエネルギーデバイスなど鏡視下手術で使用する器具の進歩に伴って,透析患者であっても腎機能健常者と同等の手術クオリティが得られるようになってきており,今後透析患者の消化器疾患に対する腹腔鏡下手術の報告は増加していくものと思われる.

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慢性腎臓病および透析患者には潰瘍や血管性病変といった消化管出血の合併症が多いことが知られている.内視鏡による止血処置の一つであるアルゴンプラズマ凝固法について述べていく.

透析患者の消化管疾患AtoZ 各論

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消化管穿孔は全身麻酔下緊急開腹手術で最も頻度の高い疾患である.消化管穿孔はTreiz靭帯より口側の上部消化管穿孔と同靭帯より肛門側の下部消化管穿孔に大別される.上部消化管穿孔の原因は胃・十二指腸潰瘍が最も多く,ほかに胃癌や内視鏡による医原性などがある.下部消化管穿孔は大腸(とくにS状結腸)に多いが近年では小腸穿孔が増加している.原因としては,憩室,腫瘍,宿便性,特発性,外傷,医原性,虚血,イレウス,ヘルニア嵌頓,異物,炎症性腸疾患,潰瘍,感染性腸炎,薬剤性,自己免疫疾患,アミロイドーシスなどがある.

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種々の原因により生じた消化管運動の障害に伴い,さまざまな臨床症状を呈する疾患群である.消化管運動の障害部位により引き起こされる症状も異なり多彩である.本項では透析患者にしばしば認められる消化管運動異常を中心に解説する. 透析の種類により発症しうる消化器疾患の内訳は異なる.腸管虚血や消化管出血などは血液透析患者に多いが,腹膜透析患者に多く見られる消化器疾患(症状)も存在する.透析患者によく見られる消化器症状は,便秘・ディスペプシア・腹痛・逆流症状であり,腹膜透析患者はディスペプシアや逆流症状などの上部消化器症状を訴えるケースが多く,血液透析患者は便秘などの下部消化器症状を訴えるケースが多いと報告されている.

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口腔から肛門に至る消化管にはさまざまな感染症が発生する.食道にはカンジダ症が好発するが,胃酸分泌抑制薬の使用が誘因となるほか,免疫不全患者では高度な病変がみられることがある.ほかにヘルペス食道炎や食道結核もみられる.胃で高頻度にみられるHelicobacter pylori感染症は慢性胃炎,消化性潰瘍から胃癌やmucosa associated lymphoid tissue lymphoma(MALT)リンパ腫に至る腫瘍性疾患や特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の発生にも関連する.胃ではほかにサイトメガロウイルス(CMV),結核菌,梅毒トレポネーマが病変を形成するほか,厳密な意味での感染症ではないがアニサキス症の好発部位でもある.日常的に経験することが最も多いのは腸管感染症であり,原因となる病原体は多岐にわたる.以下,本稿では腸管感染症を中心に解説する.

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誤飲とは消化管への異物混入である(気道異物は誤嚥).2020年中に東京消防庁救急相談センターに寄せられた「異物誤飲」の相談は3,502件(全相談の1.8%)で,本邦特有の魚骨咽頭異物570件と合わせ1日10件以上の相談があった.小児・高齢者が実数でも人口比でも非常に多いが,成人・高齢者の誤飲が多い背景には,口腔内感覚の麻痺(老化・義歯・飲酒・喫煙・不衛生など)や認知機能の低下〔うっかり・慌て・慣れ・薬品包装(PTP;press through package)容器の不用意な扱い・認知症など〕が挙げられる.成人・高齢者に多い消化管異物には,咀嚼不十分な食品,魚骨,爪楊枝(とくに欧米),柿や毛髪から生じる胃石,歯科異物〔治療器具・義歯・歯冠〕,PTPや各種の液体〔酸・アルカリ・洗剤・消毒薬・灯油〕などがある.慢性透析療法患者約35万人の大多数は複数の内服薬を常用しており,PTP誤飲の危険が常にある.1996年3月,業界団体の自主申し合わせでPTPのミシン目が1錠ずつ切り離せなくなったが,服用者は1回分ごとに保管するために,また薬局は端数を処方するために,切り離す行為はなくならず,PTP誤飲は根絶されていない.

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アミロイドーシスはアミロイドと呼ばれる線維状の異常蛋白が特定の臓器または組織の細胞外へ沈着して,機能障害を引き起こす疾患の総称である.消化管はすべてのアミロイドーシスの病型において共通して侵される臓器であり,また本疾患の確定診断の際に最も多く生検される臓器である.

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血管炎は血管壁に炎症を生じる疾患の総称で,炎症の主座がある血管のサイズごとに分類されたChapel Hill分類が現在広く用いられている.血管炎では炎症による全身症状とともに虚血や出血を伴いさまざまな臓器症状が出現する.血管炎による腎臓病変は比較的高頻度にみられる.急速進行性糸球体腎炎の病型の中では,顕微鏡的多発血管炎が20%程度と高頻度に見られ,多発血管炎性肉芽腫症やクリオグロブリン血症性血管炎も散見される.消化管病変はまれにしか出現しないが重症度と関連することが多く,難治性の消化管出血や穿孔は生命予後と密接に関与する.本稿では血管炎の消化管病変をANCA(anti―neutrophil cytoplasmic antibody)関連血管炎と免疫複合体性小型血管炎を中心に概説する.

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悪性リンパ腫は,リンパ増殖性疾患の代表的なものであり,リンパ組織を発生母地とする腫瘍の総称である.消化管リンパ腫は節外に発生する悪性リンパ腫のなかでもっとも頻度が高い.消化管リンパ腫の大部分はB細胞性であり,リンパ濾胞の濾胞中心部から濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma;FL),その外側のマントル層からマントル細胞リンパ腫(mantle cell lymphoma;MCL),その外殻のmarginal層から粘膜関連リンパ組織(mucosa―associated lymphoid tissueリンパ腫;MALTリンパ腫)が発生する.また,びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(diffuse large B―cell lymphoma;DLBCL)は濾胞外から,あるいはMALTリンパ腫あるいはFLのtransformationによって発生する.

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口腔機能低下症は,加齢だけでなく,疾患や障害などさまざまな要因によって,口腔の機能が複合的に低下している疾患と定義されている.オーラルフレイルは,口腔機能が低下している「状態」を表しているのに対して,口腔機能低下症は「疾患名」である.オーラルフレイルと口腔機能低下症はともに可逆性と捉えられており,適切な歯科治療やリハビリテーションといった口腔機能管理によって維持・改善できると考えられている.さまざまな口腔機能低下のうち,透析患者で異常を起こしやすいと報告されている口腔乾燥,低舌圧,および味覚障害について概説する.

3.口腔 2 歯周病 稲垣 幸司
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ギネスブック2001年版において,歯周病は,「全世界で最も蔓延している病気で,地球上を見渡してもこの病気に冒されていない人間は数えるほどしかいない」と記載された.Global Burden of Disease Study(GBD,1990―2010)によると,歯周炎は世界で6番目に有病率の高い疾患で,全成人の有病率は11.2%で,約7億4,300万人が罹患していると推定されている.このような蔓延する病,歯周病は,細小血管症である腎症,網膜症および神経障害とともに,糖尿病の慢性合併症として,さらに糖尿病は,喫煙とともに歯周病の危険因子として位置付けられている.

3.口腔 3 顎骨壊死 岩本 潤
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骨粗鬆症や癌の骨転移などに対して,ビスホスホネート(bisphosphonate;BP)やデノスマブ(denosumab;DMab)が使用される.これらの骨吸収抑制薬での治療中に,抜歯などの顎骨に対する侵襲的な歯科処置や局所感染に関連して顎骨壊死(OsteoNecrosis of the Jaw;ONJ)が発現する症例がある.本病態において,口腔内における骨露出が典型的である.わが国の顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー20161)では,BRONJ(BP―Related ONJ)とDRONJ(DMab―Related ONJ)を包括したARONJ(Anti―resorptive agents―Related ONJ)という名称が使われている.

3.口腔 4 口腔内悪性腫瘍 田中 彰
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口腔内は,歯を除く全域を粘膜で覆われており,上皮は重層扁平上皮で構成されている.また,顎骨に加え,大唾液腺である舌下腺のほか粘膜下には至るところに小唾液腺が存在するため,種々の発生母地を有することになる.つまり,悪性,良性を問わず,さまざまな上皮性腫瘍,非上皮性腫瘍が発生する.このほか,顎口腔領域に特異的な腫瘍として,おもに顎骨内に発生する歯原性腫瘍がある.歯の発生過程で顎骨内に起源となる細胞が迷入し,腫瘍化すると考えられているが,代表的なものにエナメル上皮腫があり,悪性変化を伴うことがある.

4.食道 1 食道癌 小田島 慎也
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食道は本邦において,がん罹患数男性7位,女性13位(2017年),がん死亡数男性7位,女性12位(2019年)の臓器である.累積罹患リスクは全がんで男性65.5%,女性50.2%であるなか,食道癌は男性2.4%,女性0.5%という罹患リスクとしては比較的低い癌ではあるが,その一方で食道癌の5年相対生存率は男性40.6%,女性45.9%であり,予後の悪い癌の一つとして知られている.組織型としては,本邦では扁平上皮癌が約90%と大多数を占め,腺癌は5%前後であるとされている.透析患者においては悪性腫瘍の発生率や発見率が高いとされる報告もあるものの,食道癌が透析患者にどの程度発生するかの報告はない.

4.食道 2 胃食道逆流症 本郷 道夫
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胃食道逆流症(gastro―esophageal reflux disease;GERD)は,酸性胃内容物が下部食道に逆流することによって起こる①胸やけ・呑酸などの不快症状,②下部食道粘膜を中心とする酸消化性病変(びらん・潰瘍)のいずれか,もしくは両方を呈する病態と定義される.すなわち,胸やけなどの逆流関連症状,内視鏡的に確認される逆流性食道炎のいずれかがあるものであり,逆流性食道炎より広い概念となる.したがって,GERDの疫学は逆流性食道炎の疫学より広範囲になる.

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肝炎ウイルス,アルコール多飲,非アルコール性脂肪肝炎(NASH),そのほか種々の原因による肝疾患の進展に伴い門脈圧亢進症をきたす.このほか特発性門脈圧亢進症,肝外門脈閉塞症,Budd―Chiari症候群,進行した膵臓癌など種々の病態で門脈圧亢進症をきたす.胃・食道静脈瘤は門脈圧亢進症の一部分症として最もよく認められ,背景疾患ゆえにしばしば生命に関わる消化管出血の原因となる.

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国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」の2021年のがん統計予測によると,胃がんの罹患数は男性で前立腺がんに次いで第2位(90,000人),女性で乳がん,大腸がん,肺がんに次いで第4位(40,500人),男女計では大腸がんに次いで第2位(130,500人)となっている.また,死亡数は男性で肺がん,大腸がんに次いで第3位(27,200人),女性で大腸がん,肺がん,膵がん,乳がんに次いで第5位(14,800人),男女計では肺がん,大腸がんに次いで第3位(42,000人)を占めており,依然本邦におけるがん対策において,最重要がん腫の一つに位置付けられている.

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胃・十二指腸潰瘍とは胃または十二指腸粘膜に欠損が生じた病態を指し,胃潰瘍と十二指腸潰瘍を一括して消化性潰瘍と総称する.病理組織学的に粘膜筋板を越え,粘膜下層より深部の粘膜欠損を認めた場合に潰瘍と診断し,粘膜層のみの組織欠損はびらんと定義される.

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胃前庭部毛細血管拡張症(gastric antral vascular ectasia;GAVE)とは胃前庭部を中心に血管拡張を認める病態であり,消化管出血の原因の一つである.1953年にRiderらによって報告されたのが最初であり,1984年にJabbariらが胃前庭部の特徴的な血管拡張をwatermelon stomachとして報告して以来広く知られている.

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機能性ディスペプシア(functional dyspepsia;FD)は,胃十二指腸に器質的な異常がないにもかかわらず胃もたれや胃痛などの上腹部症状を呈する症候群である.本邦のFD診療ガイドラインで「症状の原因となる器質的,全身性,代謝性疾患がないにもかかわらず,慢性的に心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患」とされ,一般診療で用いられるように定義されている.世界的には,1988年にRome基準が提唱され,3度の改訂がなされ,現在ではRome Ⅳ基準が用いられている.このRome Ⅳ基準では,わずらわしい上腹部症状,すなわち食後の膨満感,早期飽満感,心窩部痛,心窩部灼熱感のうち一つ以上の症状を有する患者で,6カ月以上前から症状があり,最近3カ月間は上記の基準を満たしており,内視鏡検査や腹部超音波検査で症状の原因となる器質的疾患が確認されないものと定義されている.また,症状のパターンから食後愁訴症候群(postprandial distress syndrome;PDS)と心窩部痛症候群(epigastric pain syndrome;EPS)に分けられている.

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Helicobacter pylori(H. pylori)感染症は,わが国における最大の慢性感染症であり,現在においても約3,000万人の国民がH. pyloriに感染しているとされる.H. pyloriは幼少期に経口感染し,持続感染に移行する.感染経路は明確にはなっていないが,母親からの口移しなどでの経口感染が主であると推測されている.H. pyloriが胃粘膜に定着した場合,ほぼ例外なく胃粘膜に慢性炎症が惹起される.この病態が「慢性胃炎」と呼ばれるもので,保険病名としての疾患名は「ヘリコバクターピロリ感染胃炎」である.

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かつての曖昧な消化管間葉系に由来する腫瘍とする概念から,今日では発生機序研究に立脚し,消化管筋間神経叢に存在するペースメーカー細胞であるカハール介在細胞に由来する腫瘍を消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor;GIST)とする考え方が確立した.その根拠はカハール介在細胞のみがGISTと同様に,KITおよびCD34が発現していること,特定のエキソンに変異のあるc―kit遺伝子ノックインマウスで消化管のカハール介在細胞過形成様腫瘍およびGISTが発生することが明らかにされたことなどである.予後不良GISTは10万人当り2〜3人と報告されてきたが,新しい疾患概念の確立と検診で発見される小さい胃GISTもあり,実際の頻度はもっと多いと推定される.消化管GISTのうち,60〜70%が胃,20〜30%が小腸,大腸は5%以下と推定されている.

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日本の外科の教科書は,イレウスを「腸管内容の肛門側への輸送が障害された状態」と定義し,機械的腸閉塞と機能的腸閉塞に分類し,機械的腸閉塞を単純性(閉塞性)腸閉塞と複雑性(絞扼性)腸閉塞,機能的腸閉塞を麻痺性腸閉塞と痙攣性腸閉塞に亜分類してきた.

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NOMIは,腸間膜血管主幹部に器質的な閉塞を伴わないにもかかわらず,分節状,非連続性にその支配領域の腸管血流障害をきたす病態である.比較的まれな疾患であるが,発症早期には特異的な症状に乏しく,継時的な変化で虚血の進行を認められるようになる.血液生化学検査においても腸管虚血の病態のみならず,全身状態を反映した検査結果のみのため,特異性に乏しく,臨床所見や画像診断が重要となる.しかし,NOMIは早期診断が困難で,致死率も56〜79%と非常に高く,予後不良な疾患である.

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炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;IBD)は,消化管に慢性的な炎症をきたし,増悪と寛解を繰り返す自己免疫疾患である.狭義には,潰瘍性大腸炎とクローン病を総称する.本邦においてこの数十年IBD患者は増加の一途をたどっており,厚生労働省の定める指定難病登録に基づく統計によれば,潰瘍性大腸炎は約20万人,クローン病は約7万人にのぼるとされる.IBD罹患者数の増加の背景には,生活の欧米化が関与していることが示唆されており,世界的にもカナダや米国をはじめとした欧米諸国での有病率が高く,近年の報告ではカナダの有病率は725/10万人で人口の1%近くにのぼる.

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過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome;IBS)は,腹痛とそれに関連する便通異常が慢性もしくは再発性に持続する機能性腸疾患である.2016年にRomeⅣ基準が公表され,IBSの診断基準が改定された.IBSの診断の基本は腹痛,排便頻度,便形状などについての病歴聴取であるが,通常の臨床検査,大腸検査などの消化器検査により器質的疾患を除外する必要もある.本稿では,IBSの定義,診断に至るプロセスと鑑別診断,また透析患者における注意点などについて概説する.

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短腸症候群(short bowel syndrome;SBS)は,“なんらかの原因による小腸大量切除のため吸収面積が減少し,水分,電解質,主要栄養素,微量元素,及びビタミンなどの吸収が障害されるために生じた吸収不良症候群”と定義される.わが国では小腸大量切除の一般的な目安として,小児では残存小腸75 cm以下,成人では150 cm以下または1/3以下が用いられている.SBSでは栄養素および水分の吸収がともに障害されている.主要栄養素の吸収では,小腸を50%以上切除した場合,炭水化物81%,たんぱく質62%,脂質61%が吸収されるとの報告から,摂取エネルギーの約1/3は吸収されていない可能性があるので,より広範囲の小腸大量切除ではさらに吸収が低下している.

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発症機序は虫垂内腔の閉塞が発症要因であると考えられ,閉塞は通常リンパ組織過形成であるが,糞石・異物などが原因となることもある.炎症が進行すると虫垂は虚血・壊死を起こして穿孔し,膿汁や腸液が腹腔内へ流れ出して腹膜炎を起こし,重症化すれば盲腸や回腸にまで炎症が波及する.俗にいう「盲腸」とはこの病態が由来である.急性虫垂炎は日常診療で遭遇する疾患であるが,診断の遅れや誤診で患者に不利益をもたらすことも多い.早期の適切な診断と治療により腹膜炎に移行することなく,アウトカムが改善することが透析医の責務である.

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日本人の死因の第1位は悪性新生物であり,2019年の癌死亡率の原因は男女計で1位肺癌,2位大腸癌(結腸癌+直腸癌),3位胃癌である.2018年の癌罹患率は男女計で1位大腸癌(結腸癌+直腸癌),2位胃癌,3位肺癌となっている).「わが国の慢性透析療法の現況」によると,悪性腫瘍は2007年から維持透析患者の死因の第3位になり,横ばい状態である.高齢化の進む透析患者においても大腸癌の治療は重要である.

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大腸憩室は大腸壁が袋状に外側に突出した病態で,そのほとんどが後天的に形成される.憩室は年齢とともに増加し,多い患者では200個を超える場合があり,個人差が著しい.大腸憩室保有率は増加傾向にある.本邦における大腸内視鏡による憩室同定率は2003年で18.2%,2011年では23.0%との報告がある.しかし,米国では,平均年齢55歳の解析で大腸憩室保有率は60%や憩室保有率42%との報告がある.つまり,本邦における大腸憩室保有者は増加傾向にあるが,欧米より少なく,まだこれからも上昇する余地がある.

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腎不全・慢性透析患者は易感染性状態にあり,とくに細菌の多い肛門において肛門周囲膿瘍,痔瘻,フルニエ症候群の高リスクである.また,慢性的な便秘に悩む患者も多く,硬便やいきむ習慣から,痔核,裂肛,直腸脱,直腸潰瘍を発症しやすい.本稿ではそのなかで痔核(内痔核,外痔核),肛門周囲膿瘍,痔瘻,フルニエ症候群,裂肛,直腸脱,直腸潰瘍について簡潔に述べる.

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細菌性腹膜炎とは病原性細菌によって引き起こされる腹膜の感染症である.外傷性の腸管損傷,手術後の吻合不全,腸管内細菌の腹腔内への移行,および管腔臓器の炎症や穿孔によって引き起こされる病態であり,①原発性細菌性腹膜炎(primary bacterial peritonitis)と,②二次性細菌性腹膜炎(secondary bacterial peritonitis)とに分類される.①は特発性細菌性腹膜炎(spontaneous bacterial peritonitis;SBP)に代表される腸管損傷を伴わない腹膜炎であり,小児や非代償性肝硬変および免疫抑制状態の患者などにおいて発生する.②は腸管穿孔や腸管壊死および穿通性の腸管感染などによる消化管損傷によって引き起こされる腹膜炎である.また,原発性および二次性腹膜炎の初期治療後にみられる持続性または反復性腹膜炎を三次性(tertiary)腹膜炎と称することもある.

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腹膜播種が転移として多い癌に消化器癌や婦人科癌がある.消化器癌ではとくに胃癌,婦人科癌では卵巣癌の頻度が高い.卵巣癌は初期には症状に乏しく,40%以上の症例で進行した状態で診断される.胃癌では検診内視鏡検査の普及により早期の段階で診断される症例が増えている一方,すでに遠隔転移を伴った状態で診断される症例は40%程度いる.腹膜播種を伴った状態,いわゆる癌性腹膜炎と診断された場合には,肝転移など他部位の転移と比較して,その予後は非常に不良であることが知られている.血液腹膜関門がバリアとなり,経静脈投与された抗癌剤が腹腔内の播種結節に十分に到達せず,治療効果が得られにくいためである.また,癌性腹膜炎は小腸や大腸などの消化管や胆道に通過障害をきたし,腸閉塞や閉塞性黄疸を生じる.その際,外科的あるいは内視鏡的ドレナージ治療が必要となる.さらに多発狭窄を生じた場合には,ドレナージ治療が無効なことも多く,麻薬性鎮痛薬などで症状緩和を図る必要も生じるため,さまざまな科の連携が必要である.

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被囊性腹膜硬化症(encapsulating peritoneal sclerosis;EPS)は腹膜透析患者にみられる重篤な合併症である.その発生頻度は0.9〜2.4%と報告されており,長期間にわたる腹膜透析液,とくに酸性液・高濃度ブドウ糖透析液,ブドウ糖分解産物への曝露,細菌性腹膜炎の合併などが原因として考えられている.実際に透析歴が長いほどEPSの発生率は高く,細菌性腹膜炎の既往がある患者では,EPSの発症率が高いことが示されている.

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ヘルニアとは,狭義には鼠径部ヘルニアで代表される腹部ヘルニアを指す.腹膜透析(PD)患者では,腹部ヘルニアは重大な合併症であり,腹壁の脆弱性とPD液による腹腔内圧の上昇により発症し,次第に増大することが多い.また,多発性囊胞腎との関係が報告されている.

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索引

奥付

基本情報

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臨牀透析
37巻9号 (2021年8月)
電子版ISSN:2433-247X 印刷版ISSN:0910-5808 日本メディカルセンター

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