臨牀透析 37巻8号 (2021年8月)

特集 透析医療における災害対策

ハザードマップの活用 原田 孝司
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近年,自然災害の頻度が増加し,その規模が大きくなってきている.自分が住んでいる地区または患者にとっては治療を受けている施設地区の自然災害の被害を予測しておくことは重要である.国土交通省:国土地理院が中心となって全国的に地域的なハザードマップが作成されている.ハザードマップとは,自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で,被災想定区域や避難場所・避難経路など防災関係施設の位置などを表示した地図である.防災マップ,被害想定図などともいわれている.その地域の被害の要因となる地形や地盤の特徴および過去の災害履歴の基づき災害が想定される地域の避難場所・避難経路など防災地理情報が求められる.全国の地方自治体ごとに図に示すような,ハザードマップポータルサイト上の地図に災害種別を選択することにより,その地域のリスクレベルが色分けされて表示されている.

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水・電気などの安定供給を要する透析医療が持続困難となるのは災害時である.最初の災害時支援透析は1978年宮城県沖地震で,以来2019年まで25回の組織的支援を必要とする自然災害が報告され,地震11回,風水雪害14回に上った.地震への災害対応は経験値の蓄積が進み,対応力も向上したが,近年激しさを増す気象災害は,被災回数も規模も地震被災を超えることが増加した.これは地球温暖化による風水害の激甚化が原因の一端とされており,全国どこでも発生の可能性がある.透析医療の災害対策は新たな方向性として,気象災害への取り組みが必須となる.具体的には①早期情報収集,②事前の避難方法確立,③早期避難,④施設設立時のハザードマップ活用,⑤さらなる患者教育の徹底が主となると考えられる.

2.大規模地震・津波 宮崎 真理子
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大地震や津波は都市機能を壊滅的に破壊する.建築技術,機械や通信工学,地震や津波の研究は進歩を続け,施設の脆弱性はある程度把握が可能になった.一方,透析患者は高齢化し,生活支援や介護を要する患者も多く,災害弱者の度合いは強まっている.そこで医療者や設備を護り,患者を教育し,災害直後の活動に必要な備蓄,災害後の救援を最大限に利活用するための受援計画などを業務継続計画(BCP)として日頃から備える.災害直後の初動には安全確保と情報管理が重要である.最大多数に最善の医療を限られた医療資源で提供しながら,被災地内外の医療者,インフラ事業者,行政機関が連携して透析医療を継続し,復旧を遂げなければならない.

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2018年9月6日,北海道胆振地方中東部を震源としてM6.7,最大震度7の巨大地震が発生し,本邦初となる一エリア全域に及ぶ大規模停電(ブラックアウト)が起きた.その影響で断水などライフラインの寸断が起き,透析医療は甚大な被害を受けた.透析患者の依頼や受け入れには透析条件の伝達や把握が重要で,災害時においても正しい情報の発信・収集は最重と考え,通信手段の確保や電話不通時でも情報伝達ができる地域情報伝達システムの構築も重要である.また患者には,平時から災害発生時の自身の行動や心構えを教育・啓発しておくことも必要であるとともに,災害時の地域における自施設の役割を反映した災害マニュアルや地域ネットワークの構築も必要である.

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豪雪災害は,透析医療を提供する医療機関の設備・物資・人員体制に,また透析医療を受ける患者の通院・交通手段や在宅療養環境にも影響を及ぼす.血液透析治療は社会インフラの正常な機能を前提とする治療であるため,他の大規模災害と同様に豪雪によっても大きな被害を受けうる.豪雪地帯では,医療圏域内で通常の透析医療の提供ができなくなった雪害の事例も発生している.新潟県は中越地震,中越沖地震,東日本大震災などの大規模災害発生時に,行政(県)と新潟大学医歯学総合病院が連携し指揮系統を統一,円滑な情報管理を行い透析患者の治療を行った実積があり,この連携体制は災害発生時の透析医療の確保にきわめて重要である.

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2018年7月7日西日本豪雨のため岡山県倉敷市真備町はその1/4,1,200ヘクタール,約5,700戸が浸水,まび記念病院は4階建ての1階部分が完全に水没,ライフラインを奪われ病院機能が停止,避難民,入院・施設患者,職員335名が病院に孤立した.停電・断水のため透析医療の停止を決定,102名の透析患者情報を岡山県透析医部会災害対策本部に連絡,患者受け入れを依頼した.9名の入院透析患者はヘリコプターで他施設に搬送,7月9日までにすべての患者の透析が岡山県内18施設で実施でき,病院内全員は7月8日夜無事救出された.電源の復旧とともに,9月25日から外来透析診療を再開,2019年2月には病院の1階部分復旧工事が完了し,透析診療を全面復旧できた.

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原子力災害は国民生活と密接に関わる災害であるにもかかわらず,国民の認知度や基礎知識は必ずしも高くなく,災害対応者の従事意図は低い.福島第一原子力発電所事故の経験からは,医療従事者における基礎知識に基づく適切なリスク認知が,災害医療の質の担保のために必要不可欠であることが教訓として得られた.また,原子力災害では放射線による直接的健康影響のみならず,避難生活に伴う生活習慣病の増加や心のストレスなど,放射線では直接説明できない間接的健康影響が公衆・作業員の双方に長期に及びうることが明らかになった.原子力災害は,医療者はもとより全国民にとって決して他人事ではない.

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東日本大震災で被害を受けた福島県浜通り(いわき)地区の被害状況と透析患者の集団避難の背景と実態について述べた.同地域は地震と津波によるライフラインの損壊のみではなく,東京電力福島第一原子力発電所の事故による放射能汚染によって,医療スタッフを含めた住民の他県への自主避難と風評被害も加わった急速なマンパワー不足と物流的孤立化により,透析治療継続が困難となった.原発事故発生6日後にいわき市の全透析患者の53%が集団避難した.その経緯を概説する.

7.都市型災害 花房 規男
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都市型災害においては,自然災害・人為災害の双方で特色がある.地震は,わが国のあらゆる場所で生じうるが,火災,交通への影響,また住民の特性が都市では大きく影響する.水害には,機能の集中,地下空間の拡大,さらに急な増水のリスクが存在する.人為災害には,マスギャザリングとCBRNE(Chemical,Biological,Radiological,Nuclear,Explosive)とがとくにテロ行為の場面と手段として存在する.CBRNEは特殊な知識が必要であり,とくにCBRでは災害の存在が明確ではないことも多いことにも留意する.

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内閣府の想定では30年以内の南海トラフ地震の発生予測率は,M8〜9クラスの地震が起きる可能性が70〜80%と非常に高い値となっており,地震・津波などを含め甚大な被害が生じると想定されている.それらの被害への対策は各施設,市町村,都道府県以上のレベルでも検討されている.本稿では,Incident Command Systemの概念(CSCA)を用いて災害時の透析医療体制について検討する.Incident Command Systemは,米国で開発された災害現場や事件現場などの緊急時における標準化された組織マネジメントの手法であり,わが国でも災害対策の場で標準的に用いられるようになっており,とくに指揮命令系統の部分に焦点を当てて検討していくこととする.

9.火山災害 山川 智之
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透析医療に影響を与える災害にはさまざまなものがあるが,そのなかでも日本に住む以上備えておかなければいけないものに,火山災害がある.日本は世界有数の火山大国であり,また火山噴火被害は多岐にわたり,とくに火山灰が都市インフラに与える影響は甚大であり,大規模な火山被害ではあらゆるインフラが崩壊し,透析医療に与える影響はきわめて大きなものになる可能性がある.とくに富士山は300年間活動していないが,元は活発な活動をしていた火山であり,噴火した場合の首都圏に対する影響も大きいことから警戒の必要性は高い.一方,噴火活動は予知の実績があり,早い対応により被害を抑えられる可能性がある.

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日本透析医会災害時情報ネットワークは,災害時に被災地,支援地,行政間で迅速に正確な情報を共有するwebベースの災害時情報ネットワーク情報共有システムと,関係者のメーリングリストからなる情報共有ツールである.2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震をはじめ,数々の災害時に重要な情報共有ツールとして機能してきている.通信インフラが機能しない場合や被災施設からの情報発信が困難な場合がある点,技術的にはやや古くなった影響がある点など課題はあるが,2020年からの山川らによる厚生労働省科学研究「慢性腎臓病患者(透析患者等を含む)に特有の健康課題に適合した災害時診療体制の確保に資する研究」で問題点が改善され,さらにより良いシステムになることが期待される.

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1995年の阪神・淡路大震災発生当時,医療はまったく無防備であったため,被害はよりいっそう大きなものになった.この教訓を軸として2011年の東日本大震災では,日本透析医会を中心に組織としての支援活動を実施した.これらの必要性はきわめて高いものであることが認識された.この経験を出発点として医療職関連団体が協力し,支援部隊「JHAT」を発足させるに至った.発足後,2016年の熊本地震が最初の活動で,その後2018年の西日本豪雨,2019年の台風15号(令和元年房総半島台風),および台風19号(令和元年東日本台風)で派遣活動を実施した.これらの活動を通じて,成果が報告されている一方,多く問題点があることもわかった.今後は,有事の際に有効な活動ができるよう,対策を講じていく.

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わが国は昔から災害に対する意識は高かったが,こと医療に関しては全く準備がなされていなかったことが露呈されたのが阪神・淡路大震災(以下,1.17)であった.1.17の死亡6,434人のうち約500人は防ぎえた災害死(preventable disaster death;PDD)であったと報告されている.1.17の防ぎえた災害死の原因として,①急性期の現場における医療が欠落していたこと,②災害医療を中心的に担う病院がなかったこと,③重症患者の広域搬送が行われなかったこと,④医療情報が全く伝達されなかったことの4点があげられた.これらの教訓を活かし国は急性期の医療を担う災害派遣医療チーム(DMAT)の創設,災害に強い病院である災害拠点病院の指定・整備,重症患者を被災地外へ運ぶ広域医療搬送計画の策定,そして医療情報を共有するための広域災害救急医療情報システム(EMIS)を開発した.本稿では,DMATと広域医療搬送計画の概要を述べる.

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長期避難生活における合併症とは,貧弱な避難生活環境による健康被害である.これらを予防するためには十分な数のトイレ(T),調理できるキッチン(K),簡易ベッド(B)のTKBが3日以内に必要である.このうち簡易ベッドの使用は静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群),不活発病(ロコモティブシンドローム)および感染症を予防できるので重要である.しかしTKBを早期に準備するためには大規模な備蓄,避難所を運営するための職能ボランティア組織の育成と派遣システムが必要で,そのためには災害関連法の見直しや,国と県に災害専門省庁と下部組織が必要である.

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地震,津波,台風,火山とさまざまなタイプの大規模災害が多発するなかで,定期的な通院が必要な慢性維持透析患者が被る健康面での二次災害の影響はきわめて大きい.2011年の東日本大震災では多くの血液透析(HD)患者が透析施設を転々とし,さらには遠隔地に大量移送されたことは生々しい記憶として残っている.一方で,腹膜透析(peritoneal dialysis;PD)患者については,その記録は限定的・断片的である.この理由の一つは,PD患者数はHDに比べ圧倒的に少ないことが挙げられる.東日本大震災における被災地域での透析患者は1万2千例,PD患者数はそのなかで3%程度と推定されている.被災中心地である宮城県でのPD患者数は当時50〜60例と国内でも最小であり,その意味でPDのアピール度がHDに比べて圧倒的に小さかった.報道される内容は,もっぱらHD患者たちの大変さばかりが目立った.PD治療の利点についての報道は残念ながらほとんどなかったように思う.しかし,震災当時,被災地で活動していた筆者は,HDとは全く違うPD治療の利点を大変強く実感した一人である.

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例年,全国の至る所で災害が起きている.震災・水害・豪雪・落雷・火災などありとあらゆる災害が私たちに襲い掛かってきている.そして,新型コロナウイルス感染症.次は何だろうかと思うくらいである.そのようななか,透析患者はいかなる状況下でも透析を止めることは死を覚悟することになる.透析が十分できない状況でも,食べないと生きていけない.今,自身がどのような状況に置かれているのかをきちんと判断して対処する知識と能力が求められる.

OPINION

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サイトカインの制御は,とくに重症のCOVID-19患者の治療における重要な課題の一つとして考えられている.本シリーズは,COVID-19に対するサイトカイン制御,というテーマで,前半に薬物療法,後半に血液浄化療法をまとめている.後半である今回は,COVID-19における血液浄化療法について,代表的なものを概説する.血液浄化療法はCOVID-19に伴う重症急性腎障害(AKI)における腎代替療法(RRT)としての役割はもちろんのこと,COVID-19の進行や多臓器不全の原因となる免疫調節因子を除去することで,転帰の改善に寄与することが期待されている.

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フルニエ壊疽は会陰部の壊死性筋膜炎であり,頻度としては比較的まれな疾患である.現在でも致死率は高く,適切な診断,治療を行うことが重要である.今回,血液透析患者に発症したフルニエ壊疽の症例を経験したため報告する.

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目次

次号予告・頻出略語一覧

編集後記

基本情報

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臨牀透析
37巻8号 (2021年8月)
電子版ISSN:2433-247X 印刷版ISSN:0910-5808 日本メディカルセンター

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