臨牀透析 37巻10号 (2021年9月)

特集 CKD・透析患者の最近の知見による体液管理

本特集の読み方ガイド 中山 昌明

1.体液調節機構とその異常 小松 康宏
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腎臓はNaバランス,水バランスを調節する主要臓器である.細胞外液量の減少は,静脈系の低圧圧受容体や動脈系の高圧圧受容体によって感知され,レニン・アンジオテンシン系,抗利尿ホルモン,交感神経系などを介して,腎臓からのNa排泄が調整される.腎障害が進行するとNa,水バランス異常が生じやすくなる.Na排泄の低下は細胞外液量増加を招き,水バランス調節の異常は血漿Na濃度の異常を招く.慢性腎臓病が進行しても,腎臓の適応機序によって,末期腎不全に至るまでは,体液量バランスは比較的維持される.

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既存のNa・体液バランスに関する概念は,ヒトにおいて極端な食塩摂取量の変化かつ数日単位の短期間の実験で証明されたものである.これに対して,日頃われわれが摂取している範囲の食塩摂取量の変化,そして100日以上にも及ぶ長期間のNa・体液バランス研究が健常人を対象として実施され,既存のコンセプトを覆す知見が明らかにされている.「食塩摂取量が増加すると尿素による体液保持機構が活性化され飲水量は減少し,尿量は変化しない」「腎臓とは独立して皮膚も生体のNa量を制御している」などの最新知見をもとに,Na・体液バランスの概念を再考する必要があるのではないだろうか.

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体液過剰状態は,慢性腎臓病(CKD)・透析患者の予後危険因子であるが,この背景には,体液過剰は,細胞外液量増加による高血圧・左室肥大に加え,低栄養・炎症・貧血といった内分泌代謝系の異常とも密接に関連しているという点が挙げられる.一方,最近の研究で,体液調節機構において皮下組織のナトリウム(Na)イオン貯蔵が重要な役割を果たしていることが明らかにされているが,CKD・透析患者では皮下Na貯蔵が増加しており,この程度は左室肥大,血管内皮障害,炎症と相関すると報告されている.したがって,CKD・透析患者における体液過剰に伴う諸症状には,細胞外液量増加と皮下Na貯蔵増加という二つの病態が関与していると考えられる.

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慢性腎臓病(CKD)患者において体液量過剰は高頻度にみられる異常所見であり,不良な生命予後と関連するとの報告が国内外で多くなされている.本稿では,CKD患者における体液量過剰に関する疫学データとともに,高血圧発症の機序・生命予後・腎予後への影響・貧血への影響などについて述べる.塩分摂取過多・体液量過剰・高血圧は互いに密接に関連する事象であり,適切に体液量および血圧を管理し,心・腎イベントを回避することは全世界に8億5千万人存在するCKD患者の予後改善につながる可能性がある.このために,さらなる良質な疫学データと病態および治療に関する知見の蓄積が必要である.

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透析患者は自尿が少ないため,容易に体液過剰状態に陥りやすい.したがって透析患者特有の体液調節機構を理解し,その管理に努める必要がある.透析患者における体液過剰は心血管系合併症や高血圧を引き起こし,予後に大きく影響する.心血管系合併症による死亡は,透析患者の死因のおよそ3割を占める.また高血圧の有病率も依然として高い.透析患者の体液量や血圧管理を論じるに当たり,透析間体重増加(IDWG)についての理解も不可欠である.とくに本邦のIDWGは他国に比較して大きいことがわかっている.本稿では透析患者の体液量状態について,おもに心血管系合併症や高血圧,IDWGの疫学を中心として,近年得られた知見を紹介する.

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残存腎機能保持の面から,末期腎不全患者の腎代替療法としてPDを優先的に考慮するPD firstという概念が世界的にも広まってきているが,PDはHDと比較して体液過剰となりやすく,定期的な腹膜機能評価とそれに対応した透析液や貯留時間の調整が必要となる.また,体液過剰に対してはイコデキストリン透析液による除水強化が有効だが,PD単独での管理が困難になった際には,原則週1回のHDを行うPD+HD併用療法が選択される.

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多周波生体電気インピーダンス法は微弱な電流により体組成を測定する低侵襲かつ簡便なツールであり,Fresenius Medical Care社から発売されているBody Composition Monitor®は体組成を除脂肪組織量,脂肪組織量および過剰体液量の三つに区分し,健常者サンプルを用い除脂肪組織内の過剰細胞外水分量(excess ECW)と脂肪組織内のexcess ECWの総和をoverhydrationとして算出する体成分分析装置である.本装置で計測される透析前後のoverhydration値の変化と透析による除水量が概ね一致し使用者の信頼を得ており,少なくとも透析前overhydration/ECW比≧15% in menあるいは≧13% in womenは生命予後の独立危険因子として報告されている.本稿では多周波生体電気インピーダンス法の原理とdry weight定量的評価への課題と期待について述べる.

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透析患者の適正体重を設定することほど難しいものはない.患者の自覚症状,理学的所見を中心に,胸部X線写真や血液検査所見を参考に設定しているのが現状である.実際に,体重を上げることを示唆するサインと下げることを示唆するサインが混在することは珍しいことではない.得られた情報を総合的に評価し,至適体重を設定しているのが現状である.本稿では,体重設定における心臓バイオマーカーとエコー検査の有用性について概説する.忘れてはいけないことは,どんな手法においても,患者の正確で至適な体液量を導き出す手法はないことである.

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細胞外液量が増加すると,まず浮腫が出現し,さらにこれが高度になると肺水腫が生じる.また,細胞外液量が増加すると,難治性高血圧を合併することもある.一方,細胞外液量が過度に低下すると透析低血圧が生じる.適正体液量の指標としては,体重よりも細胞外液量のほうが適切である.細胞外液量を求める方法には,すでに市販されている身体のインピーダンスを測定する装置を用いる方法と,定期採血結果(透析前後の血清尿酸濃度)から算出する方法がある.これら二つの方法で測定した細胞外液量は一致する.

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過剰な塩分摂取は体液の貯留と強く関連しており,高血圧,心血管疾患(CVD),慢性腎臓病(CKD)などさまざまな病態を増悪させる.一方で,減塩は血圧低下や心疾患リスクを低下させ,CKDの進行を抑制する.減塩を行うために1日塩分摂取量を知る必要があり,24時間蓄尿や随時尿でのNa排泄量から推定する方法や質問票による推定がなされているが,それぞれに一長一短があり広く普及していない.本稿では現在までに報告されている塩分摂取量の評価方法を挙げ,それぞれの特徴と問題点について述べる.

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組織内のNa濃度は血中のNa濃度と異なり調節されている.組織内Na濃度を評価することにより局所のみならず,全身の病態を評価できる.23Na―MRIは組織内のNa量を評価できる方法であるが,未だ普及には至っていない.今後の23Na―MRIの研究と臨床応用が期待されている.

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体液管理はCKD患者の生命予後に大きく影響する.そして,体液管理の手法として最も重要なのが減塩である.保存期CKD患者であれば利尿薬投与,透析患者であれば透析での除水というのも体液管理の手法ではあるが,減塩はすべてのステージのCKD患者の体液管理において有用である.そのため,CKDの早い段階から減塩が患者の生活の一部となることが,その後の患者の生命予後改善とQOL向上に役立つ.一方で減塩は食事という嗜好やライフスタイルに応じた個別性の高い生活習慣への介入であり,画一的な教育的介入では行動変容につながらず,指導には医療者のスキルと多職種チームによる多面的な患者介入が必要である.

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口渇感は維持血液透析患者での有病率が高く,透析間の体重増加(IDWG)を多くする要因となっている.体重増加が多いと,高血圧を引き起こし,心血管リスクの上昇や,生活の質の低下,医療コストの増大につながる.口渇感を減らすための対策として,食塩摂取制限,口腔乾燥症の改善,低Na透析液などがあるが,効果に関するエビデンスは乏しい.日常臨床では,口渇感を軽減して日常生活の質を向上し,IDWGを抑制するために,栄養カウンセリングなどの努力を継続することが望まれる.

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利尿薬には作用機序の異なるループ系・サイアザイド系・K保持性利尿薬などさまざまな種類が存在する.また,Na利尿ペプチドやバソプレッシン受容体拮抗薬といった新たな利尿薬も臨床で用いられるようになってきた.CKDにおける利尿薬はステージ1〜3はサイアザイド系,ステージ4以降はループ利尿薬が主軸となるが,両者は相加効果を認め近年しばしば併用される.K保持性利尿薬は利尿作用以外に抗蛋白尿・心保護効果などでCKDにおいても用いられることがある.腹膜透析だけでなく血液透析においても残腎機能は生命予後との関連が示唆されており,透析療法開始後も利尿薬が一定の効果をもつと考えられる.

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現在,本邦で使用されている透析液Na濃度は140 mEq/Lが主流である.低Na透析液を使用することで高血圧を是正することができるが,高Na透析液を使用することで透析中の循環動態を安定させ,高齢透析患者の予後改善を期待することができる.よって,診療している患者母集団に合わせ透析液Na濃度を調整していく必要がある.透析でのNaの除去は血圧安定化に寄与しており,オンラインHDFを行うことで透析低血圧を防ぐといわれている.HD,前希釈オンラインHDF,後希釈オンラインHDFで透析1回当りのNa除去量を比較したところ,前希釈オンラインHDFにおいて相対的なNa除去量の低下が見られた.このことが透析中の血圧安定化に寄与している可能性があると考えられた.

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現在使用されているPD液のNa濃度は132〜135 mEq/Lの範囲に設定されており,水に対して相対的にナトリウム(Na)を体内に残してしまう傾向にあるため,体液過剰の是正という点では効率的とはいえない.また,腹膜にはNaイオン(Na+)に対する篩効果(sodium sieving)が存在するため,除水目的にAPDサイクラを使用して高濃度ブドウ糖PD 液を短時間交換しても,塩分の除去は不十分となりやすい.経腹膜的Na除去効率を上げる目的で,低Na濃度PD液の検討が行われている.

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近年,多周波数生体電気インピーダンス法(multi frequency bioelectrical impedance analysis;BIA)が透析患者の体液管理に有用であるとする報告がなされるようになった1).現在,BCM®(フレゼニウス社)やIn Body®(インボディ・ジャパン社)などが医療現場で用いられることが多いが,2018年3月,新たなBIA機器としてseca mBCA 525®仰臥位型体組成計(seca社,以下,seca)が日本において発売された.このsecaの特徴として,①体水分量や細胞外水分量がゴールドスタンダードである重水素希釈法や臭化ナトリウム希釈法と強く相関すること,②健常日本人の基準値が搭載されていることが挙げられる.本稿ではこの新しいBIA機器であるsecaについて概説する.

OPINION

歴史は繰り返すか

CKD患者に推奨されるワクチン接種

インフルエンザワクチン 安藤 亮一
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インフルエンザはおもに冬期に流行し,発熱,関節痛,咳,くしゃみなどを主症状とするインフルエンザウイルスによる感染症である.ウイルスにはA型,B型,C型があり,A型には,表面抗原であるヘマグルチニン(HA)16種類(H1〜H16)とノイラミニダーゼ(NA)9種類(N1〜N9)の組み合わせにより,さらに亜型に分類される.現在,ヒトの間で流行を繰り返している亜型はAソ連型(H1N1),A香港型(H3N2)とB型である.毎年流行があり,北半球では1〜2月がピークで,日本国内での推定感染者数は例年1,000万人とされ,本邦におけるインフルエンザによる死亡者数は年200〜2,000例程度とされるが,超過死亡の概念を用いると年1万人程度が死亡しているとも推定されている.

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編集後記・奥付

基本情報

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臨牀透析
37巻10号 (2021年9月)
電子版ISSN:2433-247X 印刷版ISSN:0910-5808 日本メディカルセンター

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