臨牀透析 35巻7号 (2019年6月)

CKD 患者におけるがん化学療法─透析患者を中心に

本扉

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序文 高野 利実
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透析についてほとんど何も知らない私が,歴史ある『臨牀透析』の企画をさせていただくというのは,青天の霹靂であった.私は,がんの患者さんを診る「腫瘍内科医」である.腫瘍内科医のおもな仕事は,抗がん剤や分子標的治療薬やホルモン療法などの「がん薬物療法」を,適切に行うことである.すべての医療行為にリスクがあるが,がん薬物療法のリスクの程度は,一般的な医療行為や一般的な薬物療法よりも高いことが多い.それでもがん薬物療法を行うのは,リスクを上回るベネフィットが期待できるからである.しかし,期待したほどのベネフィットが得られず,リスクだけを患者さんに与えてしまうことも多く,腫瘍内科医の診療は,日々迷いと反省の連続である.診察室では,患者さんと治療目標を共有し,リスクとベネフィットのバランスを慎重に検討しながら,治療目標に近づくにはどうすべきか,ギリギリの判断をしていくことになる.

目次

I 総論 扉

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• Onco-Nephrologyは腎臓学の視点から見た「がん患者診療中に生じた腎障害」,腫瘍学の視点から見た「腎不全患者に対するがん診療」に大きく分類される.

• がん患者における慢性腎臓病(CKD)の保有率は上昇してきており,CKD を合併したがん患者の予後はそうでない場合と比して増悪する.

• 薬物治療モニタリング(TDM)を活用して,腎機能正常患者と同じ血中濃度の再現を目指すことで透析患者のがん薬物療法を支援しようという試みが始まっている.

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• 一般人口死因の 1位である悪性新生物(悪性腫瘍)は,透析患者では死因の 3 位である.

• Iseki らによれば,わが国の透析人口の一般人口に対するがん死亡標準化死亡比(SMR)は2.96 である.

• 海津らによれば,わが国の透析患者の一般人口に対するがん罹患標準化罹患比(SIR)は,男性1.07,女性1.41 である.

• 透析患者のがん罹患SIR は,若年者で高く,男性では腎がんと多発性骨髄腫,女性では子宮がんで高い.

• 米・欧・豪,そして台湾においても,透析人口の一般人口に対するがん罹患SIRは高い.

• 透析導入前の慢性腎臓病(CKD)患者では,推算糸球体濾過量(eGFR)が低いほどがん罹患率が高い.

• 急性腎障害(AKI)の既往は(透析から離脱していたとしても)がん罹患リスクを高める.

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• 透析患者は一般集団と比較してがんの発生率は高いが,スクリーニング検査の有用性は確立されていない.

• 腫瘍マーカーのなかには,腎機能正常者と基準値が異なるものが存在する.

• 透析患者のがん手術では周術期の合併症に留意すべきである.また多くの抗がん剤で用量調整が必要であるが,その方法は確立されていない.

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• 透析患者を含め腎障害患者へのがん薬物療法のエビデンスは乏しく,腎障害患者は薬物動態が異なるため,抗がん薬の用量・投与のタイミングに十分注意する必要がある.

• 抗がん薬の治験における腎障害患者への投与に関する情報は限られている.市販後の文献情報などにおいても,忍容性に関する報告はある程度散見されても,有効性に関する報告は少ない.

• 腎障害患者の抗がん薬治療を最適化するためのエビデンスをつくっていく必要があるが,限界もあり,腎障害患者への抗がん薬の投与の可否の判断や投与設計においては,薬物動態学的な面から理論的に考察することも重要である.

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• 腎機能評価は,患者が年齢・性別に応じた標準的な体格であればeGFR が推奨される.

• 透析患者も含めて腎機能の低下した患者に対する腎毒性軽減のための適切な抗がん薬投与量が不明なことが多い.

• がん薬物療法時のさまざまな腎機能低下予防法が考案されているが未だ不十分である.

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• これまで透析患者を対象とした抗がん薬治療に関する臨床試験はほとんど行われておらず,透析患者における抗がん薬の適切な投薬量や安全性について十分なエビデンスはない.

• 現在,「血液透析中の消化器癌患者に対する FOLFOX療法の安全性と有効性に関する多施設共同臨床試験」を開始している.

• 本臨床試験では,Part 1部分で FOLFOX 療法の推奨開始用量を決定し,Part 2 部分で血液透析患者に実施可能であるか(feasibility)を評価する.

Ⅱ がん薬物療法の特性 扉

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• バイオアベイラビリティ(F)は剤型が変更になるときに有用であり,肝代謝型薬物(とくにCYP3A4 基質薬物)の代謝阻害の強度も予測できる.

• 分布容積(Vd)を利用すれば目標とする血中濃度になる設定をするために必要な投与量が計算できる.Vd が小さいと血中濃度の振れ幅(ピーク濃度とトラフ濃度の差)は大きくなるが,平均血中濃度が変化するわけではない.平均血中濃度はクリアランス(CL)に依存する.Vd が大きい薬物はいかなる血液浄化法によっても除去不可能である.

• CL が小さくなると消失が遅延する.透析患者では腎CL が著明に低下しているため,腎排泄型薬物の消失が遅延し,連続投与によって血中濃度が上昇しやすい.

• 透析患者では活性代謝物が蓄積して腎機能正常者では起こりえない副作用が起こることがある.

• 尿中排泄率が高ければ透析患者での減量は必須であるが,尿中排泄率が低くても透析患者では血中濃度が上昇する薬物の報告が近年,増加しつつある.

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• プラチナ製剤は,開発から約半世紀が経過した現在でもがん薬物療法のキードラッグである.

• 腎毒性,消化器毒性,聴覚毒性,神経毒性がおもな有害事象である.

• 毒性を軽減した,カルボプラチン,オキサリプラチン,ネダプラチンが,シスプラチンに続いて開発された.

• 透析患者における投与については,症例報告ベースの知見に限られている.

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• 腎臓は多くの抗がん薬とその代謝物の排泄経路であり,腎機能低下により薬物の排泄が障害され,毒性が増強する可能性がある.

• 腎機能が廃絶した透析患者に抗がん薬治療を行う際には,透析のタイミングや用量調整について慎重に考える必要がある.

• 多くの固形がんで標準治療として用いられる代謝拮抗薬について,CKD/透析患者への使用方法を述べる.

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• 殺細胞性抗がん剤は,第二次世界大戦後活発になったものであり,その歴史は比較的短い.21 世紀に入ってからは,分子標的薬の開発が盛んになったが,殺細胞薬はまだ現場では標準治療として使われているため,その薬効薬理,副作用対策などはしっかりと修得しておきたい.

• アルキル化薬,微小管阻害薬,抗腫瘍性抗生物質,トポイソメラーゼ阻害薬の薬効薬理,腎機能障害時の使い方についてマスターする.

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• 抗体薬の多くは免疫グロブリン G(IgG)の構造を基本にしており,一般的に緩徐なクリアランス,長い半減期,そして限定的な組織移行性といった内在性IgG と同様の薬物動態を示す.

• 血液中での可溶性や安定性は非常に高いものの,分布や排泄は線形性を示さないことも多い.

• 高分子であることから,基本的には腎臓による排泄を受けない.

• 一般的には腎機能は抗体薬の体内動態に影響しないとされ,透析患者にも減量や投与タイミングには影響なく使用可能と考えられるが,一部には,腎障害が報告されている薬剤もあり,腎機能低下での慎重投与の報告がある.

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• VEGFR-TKI 投与中は手足症候群,高血圧,腎障害などの特徴的な副作用管理が必要である.

• CKD/透析症例に対する VEGFR-TKI投与時は減量投与が望ましい.

• EGFR や ALK,HER2,BCR-ABLなどを標的とした増殖シグナル阻害 TKI は,おもに肝代謝・胆汁排泄であり,腎機能低下症例においても慎重な配慮のもと治療を実施できる可能性がある.

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• 本邦でがん治療薬として使用できるmTOR阻害薬には,エベロリムスとテムシロリムスの2 剤がある.

• 頻度は多くないが,時に mTOR阻害薬による急激な腎機能障害や腎不全をきたすことがある.

• エビデンスレベルは高くないが,透析患者でも比較的安全かつ有効に使用できることが報告されている.

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• 免疫チェックポイント阻害薬は自己免疫を賦活化することによって抗腫瘍効果をもたらす薬剤である.

• 悪性黒色腫や非小細胞肺がんをはじめとして,多くのがん種に保険適用となり,使用されている.

• 腎機能低下の患者において,免疫チェックポイント阻害薬の代謝経路を考慮すると用量調整は不要である.ただし,安全性や有効性について明確なエビデンスはなく,慎重に投与する必要がある.

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「がん免疫療法」をうたう科学的根拠なき治療法 2018 年10 月1 日,本庶 佑・京都大学特別教授のノーベル生理学・医学賞受賞が決まった.本庶先生が発見した,免疫にブレーキをかける分子であるPD-1,PDL-1 から開発された「免疫チェックポイント阻害薬」が脚光を浴び,ちまたでは「がん免疫療法」が話題になった.免疫チェックポイント阻害薬はその有効性が証明され,現在,保険適用になっているが,一方で「免疫療法」とうたう治療法のなかには,自由診療として科学的根拠なく提供されているものがあふれているので要注意である.なかには,1 回の費用が数十万円かかり,最低でも5~6 回は投与するようにと言われるため,数百万円かかるというものもある.これらの免疫療法を行っているのは多くはクリニックであるが,研究や治験として行っているものでもなく,インターネットで派手な宣伝をして患者から高額な医療費を徴収している.

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• サリドマイドとレナリドミドは免疫調節薬と呼ばれる内服薬であり,おもに多発性骨髄腫の治療に用いられる.

• サリドマイドは腎機能低下患者でも用法・用量の変更は不要であるが,レナリドミドは減量が必要となる.

• 催奇形性が報告されているため,安全管理手順に従った厳格な薬剤管理が必要である.

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• CKD 合併肺がん患者への化学療法はその投与法に明確な基準はなく,実臨床では症例報告を基にした治療法を選択している.

• CKD 合併非小細胞肺がん患者ではおもにタキサン系抗がん剤,あるいはカルボプラチンの投与が選択されている.

• 分子標的薬,免疫チェックポイント阻害薬は CKD 合併非小細胞肺がん患者に比較的安全に使用可能である.

• CKD 合併小細胞肺がん患者ではカルボプラチン,エトポシド併用療法が選択される.

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• 化学療法の休薬,減量,中止の判断に絶対的規準は存在せず,レジメン開発過程で行われた臨床試験における投与規準を参考に行う.

• 治癒または治癒率の向上を目的とした化学療法では,その可能性を下げるような減量は可能なかぎり避けるべきである.

• 切除不能進行または再発消化管がんでは無用な副作用を避け QOLの向上を心がけるべきであるため,開始用量を含めて減量もしくは早期の休薬を判断すべきである.

• 本邦の維持透析患者を対象とした調査では,減量が不要と考えられていた 5-FUおよびタキサンなどの抗がん剤も多くの症例で減量され,白金製剤の投与方法にもばらつきがあった.

• 消化管がんを有する維持透析患者に対する化学療法は適応および治療の目的を十分に検討し,安全性に最大限配慮した体制で開始することが肝要である.

• 5-FU の異化産物であるフルオロ・ベータ・アラニンは腎排泄であり,維持透析患者では体内に蓄積する可能性が指摘されている.

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• 膵臓がん・胆道がんでは,シスプラチンやオキサリプラチンのようなプラチナ系抗がん剤を含む治療法が標準治療となり,治療中の腎障害の悪化などに慎重な対応が必要である.

• がん患者の高齢化に伴い,腎障害を合併している患者への抗がん剤化学療法も増加傾向にある.腎障害による抗がん剤の投与量の減量など,専門医との連携が不可欠である.

• 抗がん剤による腎不全の急激な進行に対して,透析などの救命に必要な処置について,事前の準備が重要である.

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B 型肝炎ウイルス(HBV)再活性化とは,臨床的な寛解状態にあるHBV 感染患者が,免疫抑制や化学療法などを受けることにより,HBV が再増殖することである.HBV 再活性化は,キャリアからの再活性化と既往感染者(HBs 抗原陰性かつHBs 抗体陽性またはHBc 抗体陽性)からの再活性化がある.既往感染者の再活性化による肝炎(AST やALT の上昇)は,「de novo B型肝炎」と呼ばれる.HBV 再活性化による肝炎は重症化しやすいため,発症を阻止することは非常に重要である.強力な免疫抑制や化学療法を行う際には,日本肝臓学会の肝炎診療ガイドライン作成委員会により作成された「B 型肝炎治療ガイドライン(第3.1 版)2019 年3 月」に準拠する必要がある.

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• 乳がんに対する薬物療法は,サブタイプに応じて,ホルモン療法,化学療法,抗 HER2療法が標準的に行われる.

• CKD/透析患者の乳がんに対する代表的な化学療法を施行する際は,用量調整なし,あるいは減量を考慮する.

• CDK4/6阻害薬に関する CKD/透析患者におけるデータは乏しい.

• 重篤な腎機能障害や透析患者に対する抗 HER2 療法のデータは乏しい.

• 新規薬剤により標準治療は年々変化しており,CKD/透析患者に対する今後のデータ集積が必要である.

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• 前立腺がんのホルモン療法,化学療法は肝代謝が多く,腎機能低下例や透析例でも治療可能である.

• 骨修飾薬を使用する際は,ゾレドロン酸では腎機能に応じた用量調節を,デノスマブでは活性型ビタミンD の補充に留意する.

• 腎がんの分子標的療法や免疫チェックポイント阻害薬は,腎機能低下症例や透析例でも使用可能と考えられており,複数の症例報告が存在する.

• 尿路上皮がんの化学療法は,シスプラチン不適症例にはカルボプラチンを使用する.

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• 婦人科がんでは多くの抗がん剤を使用する.血液透析中の抗がん剤治療では,それぞれの投与経路,代謝,消失経路や抗がん剤の透析性を考慮し,用量調整と投与のタイミングに注意する必要がある.

• 腎障害時には,毒性が増強する場合があり,有害事象のモニタリングを密に行う.

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• 末期腎不全および維持透析中の患者に発生した B 細胞性非ホジキンリンパ腫に対するR―CHOP 療法では,減量せず施行することもあるが,シクロホスファミドについては減量することが多い.

• 末期腎不全および維持透析中の患者に発生した急性骨髄性白血病に対する寛解導入療法では,アントラサイクリン系抗がん剤を半量とすることが勧められている.

• 末期腎不全および維持透析中の患者に発生した慢性骨髄性白血病に対する治療では,イマチニブに比べ,ダサチニブ,ニロチニブのほうが,腎不全の進行が少なく,扱いやすい.

Column がんゲノム医療 林 秀幸
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がんに対する新たな治療戦略として,がんクリニカルシークエンス(臨床現場で治療介入を意図した遺伝子解析を行うこと)による網羅的がん遺伝子解析の結果,遺伝学的背景からもっとも有効性が期待される治療法を選択して行う,がん精密医療(がんプレシジョンメディシン)が注目されている.

IV がん患者のサポーティヴケア 扉

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• 腎機能低下患者における抗がん薬の安全性に関するエビデンスは少ない.

• 透析患者では,抗がん薬投与後の有害事象のモニタリングを密に行うことが推奨される.

• モニタリング項目や有害事象発現時の対応方法をあらかじめ整理しておくことが重要と考えられる.

• 今後の研究によって,腎機能低下時におけるがん薬物療法の有効性と安全性のエビデンス構築が望まれる.

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• がん化学療法誘発性悪心・嘔吐への対応として,予防的制吐療法と悪心・嘔吐出現時の適切な制吐薬の使用が重要である.

• CKD および透析患者においては,すでに催吐因子をもっている可能性が高く,悪心・嘔吐が出現しやすい可能性がある.

• メトクロプラミドなど腎機能低下時に減量が必要な薬剤もあるが,多くの制吐薬は減量不要であり,適切な用法用量での使用が推奨される.

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• CKD・透析患者は疾患自体の特性,食事療法や透析などの影響できわめて高頻度に便秘を合併する.

• リン吸着薬などの常用薬や化学療法の関連薬剤も便通に影響するため,下剤とともに投薬内容の見直しも重要である.

• 下剤は高マグネシウム血症の懸念から刺激性下剤が主体だったが,上皮機能変容薬などの新規薬剤がより望ましい.

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• 一般的にがん患者は貧血の合併が多いが,そのなかで化学療法に伴う貧血(CIA)の占める割合がもっとも多い.

• がん患者では,赤血球造血刺激因子製剤(ESA)の使用により,血栓症や死亡のリスクが上昇する可能性がある.

• がんを合併した慢性腎臓病(CKD)患者の貧血管理に対して,ESA の積極的な使用は推奨されない.

• 一般のCKD 患者とは異なり,がんを合併したCKD 患者では,病態に応じた個別の貧血管理が必要である.

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• 発熱性好中球減少症(febrile neutropenia;FN)は「好中球数が 500/μL 未満,または1,000/μL 未満で48 時間以内に500/μL 未満に減少すると予測される状態で,腋窩温37.5 ℃以上(口腔内温38.0 ℃以上)の発熱を生じた状態」と定義される.

• 治療レジメンごとの FN 発症リスクと患者側の FN 発症リスク因子を事前に把握していることが大切である.腎機能障害は患者側のFN 発症リスク因子である.

• FN 発症リスクが20 %以上のレジメンを選択する場合はG-CSF製剤の一次予防的投与が推奨される.FN 発症リスクが10~20 %のレジメンの場合は,患者側にFN 発症リスクがある場合にG-CSF 製剤投与が考慮される.

• G-CSF 製剤の投与方法は,腎機能障害の有無,透析治療の有無によらず同一である.

• FN の初期治療における抗菌薬選択の原則は,抗緑膿菌活性をもつβラクタム系抗菌薬単剤投与である.ただし,腎機能障害のある患者では使用する抗菌薬とその投与量に配慮が必要である.

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• がん疼痛を丁寧に評価し,痛みの程度,原因病態,腎障害の程度,薬剤の特徴により最適な薬剤を選択する.

• 腎障害のある患者の軽度の疼痛には,まずアセトアミノフェンを十分量使用する.

• さらにオピオイドを上乗せする.第一選択はフェンタニルであり,オキシコドン,ヒドロモルフォンも比較的安全に使用できる.

• 神経障害性疼痛には鎮痛補助薬を併用するが,eGFRをモニターし過量時に生じる眠気などの有害事象に注意する.

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• 苦痛緩和のための鎮静とは,「治療抵抗性の苦痛を緩和することを目的として,鎮静薬を投与すること」と定義され,おもな鎮静薬はミダゾラムである.

• 間欠的鎮静とは,鎮静薬によって一定期間(通常は数時間)意識の低下をもたらした後に鎮静薬を中止して,意識の低下しない時間を確保しようとする鎮静を指す.

• 調節型鎮静とは,苦痛の強さに応じて苦痛が緩和されるように鎮静薬を少量から調節して投与する鎮静を指す.

• 腎不全患者や透析患者への鎮静は,おもに間欠的鎮静や調節型鎮静を行い,少量の鎮静薬から開始し,こまめに状態の観察を行う必要がある.

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• 呼吸困難は主観的な症状であり呼吸不全とは異なるため,患者の表出に基づき評価する.

• 呼吸困難の原因は,必ずしも肺病変によるとは限らず,複数の原因が混在する.

• まず症状の原因・病態を評価したうえで,原因治療を検討する.

• 症状マネジメントにおいては,酸素療法,オピオイド,ベンゾジアゼピン系薬,コルチコステロイドなどの適応を検討する.

• 腎機能が低下した患者にオピオイドを使用する場合には,モルヒネやコデイン以外のものを選択する.

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• がんおよび透析療法はいずれも栄養障害の原因となるため,これらを合併した患者ではとくに栄養管理に留意する必要がある.

• 原則的にガイドラインに準拠した栄養計画を立てるが,実際の指示量は個々の患者の状態に応じて頻回の調整が必要であり,結果を見て調整するという姿勢が重要である.

• 終末期となった場合には QOL の維持が第一義となる.

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• 腹水コントロールは塩分制限と利尿薬投与が基本である.

• 悪性腹水は予後不良で,コントロール不良な場合,腹水穿刺やカテーテル留置が薦められている.

• 血液透析患者の腹水では透析中の低血圧や出血が問題となる.時にPD 療法による腹水除去が行われる.

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• 医療チームは,患者に事前指示書を作成する権利があることを説明し,事前指示書を尊重した治療とケアを行うことが重要である.

•「維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」は終末期患者を対象としており,治療により長期延命が可能な非終末期患者に対して透析見合わせの選択肢を提案することは差し控える.

•「提言」で述べられている透析見合わせを検討する状況において,「提言」の意思決定プロセスに準じて対処する.

• 精神疾患がない非終末期患者で見合わせの強い意思が変わらず,家族も同意したときには,その意思を尊重しながらも医療チームは透析を開始/継続するように話し合いを継続する.

• 透析を見合わせた場合は,アドバンス・ケア・プランニング(「人生会議」)により効果的な緩和ケアを提供する.

V 症例報告 扉

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症 例:60 歳代,女性 既往歴:慢性腎不全(維持透析),ヘパリン起因性血小板減少症,狭心症,閉塞性動脈硬化症,腎性貧血,肺気腫,高血圧症 現病歴:2016 年12 月に胸部異常陰影を主訴に当院初診.陰影が小さいため経過観察となっていたが,2017 年1 月に結節影の増大を認め,2017 年3 月に気管支鏡下肺生検にて小細胞肺癌と診断した.臨床病期はT1bN2M0 Stage ⅢA 期(UICC-TNM 分類,第7 版)と診断された.本人に治療希望がなく経過観察となっていたが,徐々に倦怠感の増強を認め,治療を希望するようになった.臨床病期はT2aN3M0Stage ⅢB 期(UICC-TNM 分類,第8 版)と進行を認めていた.2017 年8 月に治療目的のため入院となった.

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わが国の維持透析患者は2017 年末において約33 万人に達し,2010 年透析導入患者の5 年生存率は60.8 %と長期透析例が増加傾向である.化学療法の進歩によって進行大腸癌患者における生存期間は延長しており,維持透析を受けている大腸癌患者にとっても化学療法を受けるメリットは大きい.これまで維持透析患者に対してFOLFOX 療法を行った報告はいくつかあるが,いずれも腎排泄であるオキサリプラチン(L-OHP)による有害事象を懸念してL―OHP 投与終了後数時間以内に透析を開始されている.しかし,透析当日のFOLFOX 療法は患者の身体的負担が大きく,維持透析と化学療法の双方が施行可能な施設に限定されてしまう可能性が高く利便性に問題がある.

 今回われわれは,進行大腸癌2 例に対し透析日および非透析日にmFOLFOX6 療法を行いL-OHP の推移,安全性および有効性を評価し,患者の身体的負担や利便性を考慮した非透析日mFOLFOX6 療法の可能性を検討したので報告する.

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今回,維持透析中の進行食道癌患者に対して化学放射線療法を行った症例を経験したので報告する.

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症 例:53 歳,男性 主 訴:背部痛 既往歴:高血圧,右踵骨骨折 家族歴:父;悪性腫瘍(詳細不明),高血圧 内服歴:アムロジピン5 mg 分1,オルメサルタン20 mg 分1 生活歴:飲酒;焼酎2 杯/日,喫煙;10 本×33 年,職業;建設業(現場監督,営業,事務作業など) 現病歴: X 年11 月に背部痛を主訴に前医受診し,CT で右腎がんを指摘された.同年12月に右腎摘除術施行(病理:淡明細胞癌G2>G1).その後は定期的な画像フォローをされて無再発で経過した.術後6 年目のフォローCT で左腎腫瘍を指摘された.当院泌尿器科を紹介され,左腎部分切除術施行(病理:淡明細胞癌G2>G3). 再手術から2 年で多発肺転移,左胸膜転移,多発骨転移を指摘され,再発の診断となり,泌尿器科でスニチニブ,エベロリムス(薬疹で中止),ソラフェニブを逐次投与された.経過中に脳転移を指摘され,薬物治療を中止のうえでガンマナイフ治療を行った.その後,全身治療の再開目的で腫瘍内科を紹介受診となった.

Column 笑い療法 伊藤 孝史
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「笑い」は日常生活においてはありふれたものであり,日本では「笑う門には福来たる」ということわざがある.「いつも笑顔が絶えない家庭・人には,幸運が訪れる」という意味である.また,笑いが人体に対して良い影響を及ぼしていることはよく知られているが,最初に笑いの効果を示したのは,笑いの医療のパイオニア,ノーマン・カズンズである.彼は強直性脊椎炎を笑いとビタミンC の投与で克服し,笑いのもつ奇跡の力を自らの治療体験記としてまとめて報告した.

 健康人でも1 日に3,000~5,000 個のがん細胞が発生している.しかし,誰もがすぐにがんを発症しないのは,NK(natural killer)細胞がすべてのがんを認識し,攻撃できるからである.伊丹仁朗は,自院のがん患者18 名に約3 時間漫才や喜劇を見て大笑いをさせ,その前後でNK 細胞の活性を測定した.その結果,平均レベル以下であった患者のNK 細胞の活性は軒並み上昇し,CD4/8 比も大半が正常範囲内に入ったと報告した.Berk らは,60 分のユーモアのビデオを鑑賞した際にNK 細胞の活性が上がることを報告した.

索引

奥付

基本情報

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臨牀透析
35巻7号 (2019年6月)
電子版ISSN:2433-247X 印刷版ISSN:0910-5808 日本メディカルセンター

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