臨牀透析 35巻6号 (2019年6月)

特集 AKI診療のエビデンスと課題

Editorial 加藤 明彦
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歴史的にみると,「急性腎不全(acute renal failure;ARF)」という用語が初めて使われたのはHorner Smith 博士が“The Kidney:Structure and Functionin Health and Disease”(1951 年)という書籍の第24 章で,Acute RenalFailure Related to Toxic and Traumatic Injuries というタイトルをつけたことから始まる.同年12 月には,“The pathogenesis of acute renal failure associatedwith traumatic and toxic injury;renal ischemia, nephrotoxic damageand the ischemic episode”という総説が発表され,ARF は一般的な用語として広く認識されるようになった.しかし,ARF の定義や診断基準が施設や報告ごとで異なるため,ARF の疫学研究はなかなか進まず,予防や治療法は研究間で比較できないため,ARF の臨床研究を進めるうえで大きな障壁となっていた.

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急性腎障害(acute kidney injury;AKI)は,「腎機能の突然の低下」として定義された広範な臨床症候群である.過去には重症型の急性腎不全 (acuterenal failure;ARF)が関心の中心であったが,近年,急性で比較的軽度で可逆性の腎機能低下が腎予後,生命予後に悪影響を生じさせることが認識されるようになった.ARF の統一された診断基準や臨床的定義はなかったため,今世紀に入りRIFLE(Risk・Injury・Failure・Loss・End―Stage Kidney Disease)基準,AKIN(Acute Kidney Injury Network)基準を経て,AKI の統一基準として2012年にKDIGO( Kidney Disease:Improving Global Outcomes)基準が報告された.本稿では,KDIGO 基準とAKI 診断の注意点について概説する.

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近年,急性腎障害(AKI)の発症率は増加傾向にある.AKI は慢性腎臓病や末期腎不全のリスク因子としてだけでなく,生命予後因子としても重要である.2004 年以降,RIFLE 分類・AKIN 分類・KDIGO 分類とAKI の診断基準が提唱された.以後,AKI について多くの報告が集積され,2016 年には本邦初のAKIガイドラインである「AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016」が刊行された.このガイドラインでは,院内発症AKI と院外発症AKI について区別することを指摘している.疫学研究では,多国間共同研究であるthe 0by25 initiative がスタートし,発展途上国を含めたAKI の予防・対策が重要視されている.また,最近ではAKI の再発といった新たなリスク因子が報告されており,AKI 後のフォローアップも重要な課題となっている.

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急性腎障害(AKI)に対する確立した治療法はなく,早期診断・介入が重要である.臨床におけるAKI バイオマーカーとして,日本では尿NGAL(neutrophilgelatinase-associated lipocalin,2017 年保険適用), 米国では尿TIMP2(tissue inhibitor of metalloproteinases 2)/IGFBP7(insulin-like growthfactor-binding protein 7)が使われており,日常診療における早期診断・介入の機会が高まっている.また利尿薬を使用した方法(フロセミド負荷試験)もAKI の進展を予測するのに役立つ.

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急性腎障害(AKI)は重症患者において死亡率の上昇やコストの面からもっとも深刻な合併症の一つであるが,単一で有用な予防法や治療法は存在しない.ガイドラインで推奨されている手法をまとめて行うケアバンドルの有用性が近年注目され,評価されている.また,重症患者の体液管理についての知見も蓄積されてきている.とくに高Cl 輸液がAKI に関連していることが指摘されている.本稿では本邦およびKDIGO のガイドラインについて言及し,近年注目されているAKI 予防およびAKI 発症後の体液管理および輸液,ケアバンドルについて言及する.

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2012 年に公開されたKDIGO(Kidney Disease:Improving Global Outcomes)ガイドラインで急性腎障害(AKI)の定義,診断,腎代替療法(RRT)を含む治療および予防に関して標準化がなされ,さまざまな推奨がなされている.しかしながら本邦におけるAKI の日常診療では,同ガイドラインで十分に対応できるとはいえないため,2016 年にAKI 診療ガイドラインが作成された.本稿では,AKI におけるRRT の開始時期や方法および中止時期に関して,新しい研究報告も含めて解説する.

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急性血液浄化療法に使用される血液浄化療法装置の進歩について,簡潔に解説した.TR55X―Ⅱは,血液浄化装置として備えるべき,脱血検知,圧力計,気泡センサ,除水制御機構などの必須の基本安全機構に加えて,シリンジポンプ(セット状態検知ダブルセンサ),回路クランパー(ロータリークランプの採用),警報圧力自動設定機能(返血圧)の特徴的な安全機構を追加搭載した.ACH-Σ® は,一体型パネル回路やステータ可動式ポンプによる血液回路装着の短時間化・簡易化,各種自動制御機能,高精度の除水制御システムなどが特徴であり,安全性向上と機能追加がなされている.

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急性血液浄化療法導入時には一般に腎排泄型薬物の体内動態が変化しやすい.持続的腎代替療法(CRRT)による薬物除去能力は濾液流量(QE)により決定され,わが国における実施条件ではクレアチニンクリアランス(Ccr)あるいは糸球体濾過量(GFR)として10~30 mL/min に相当する.そのため,CRRT導入時の投与量は,原則として腎機能が中等度に低下した患者(Ccr あるいはGFR で10~50 mL/min)と同用量でよい.また,持続低効率血液透析(SLED)導入時の投与量についても基本的にはCRRT 導入時と同量でよいと考えられるが,情報は不足しており,今後さらなる検証が必要である.

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急性腎障害(AKI)患者の栄養介入により,① permissive underfeeding は持続的腎代替療法の導入を減らす可能性があること,② ICU 在室中は経腸栄養が望ましく,静脈栄養の併用は7 日目以降に開始すること,③ とくにインスリン使用中のAKI 患者では低血糖に注意すること,④ AKI 患者はフレイルを発症しやすいため,ICU 退出後も長期にわたる栄養管理や運動リハビリテーションが必要であること,などが明らかとなっている.AKI 患者の多くは高齢者のため,救命のための集中治療後にサルコペニア,認知機能低下,メンタルストレスなどの集中治療後症候群で苦しむ可能性がある.そのため,AKI 患者の栄養管理は,人工呼吸器装着期間やICU 在室日数・入院日数の短縮だけでなく,AKI 回復後の身体機能低下を回復させるとともにCKD 進展抑制を目標とする.

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近年の疫学研究において,急性腎障害(AKI)から慢性腎臓病(CKD)へ進展することが明らかにされている.また,AKI の実験動物モデルにおいても近位尿細管障害が糸球体硬化や間質線維化,腎性貧血などを引き起こすことも示されている.さらにCKD への進展を決定する因子として,障害の頻度や重症度,加齢のみならず,症例の腎予備能(RFR)低下の関与が示唆されている.RFR は生理的負荷に対する糸球体濾過量(GFR)の上昇幅で規定され,定常時のGFRの低下に先行してRFR が低下することから,より正確に腎機能を反映すると考えられる.本稿ではAKI からCKD への移行の病態生理,およびRFR に焦点を当て概説する.

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小児における急性腎障害(AKI)の診断にはKDIGO の診断基準・分類が用いられる.小児のAKI の発症率は全入院患者の33 %程度で,小児集中治療室での発症が多い.腎代替療法の導入の原因疾患は2/3 を腎外疾患に起因する二次性AKI が占め,二次性AKI では死亡率が高いが,生存した場合の腎機能予後は良好である.小児のAKI の早期診断や予後の予測にNGAL をはじめとした各種バイオマーカーが検討されているが,ガイドラインでは明確な推奨には至っていない.AKI の支持療法としては体液管理が重要であり,適切な輸液管理および利尿薬投与により体液量の過剰を回避する.保存的加療でAKI の諸症状が管理不能な場合は腎代替療法を導入する.近年はデバイスの進歩により小児・新生児期においても安全に血液透析が実施でき,病態・体格や施設の習熟度に応じて適切な血液浄化療法が選択される.

11.高齢者におけるAKI 守山 敏樹
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近年の高齢化をうけて,末期腎不全にて維持透析導入に至る患者に占める高齢者の比率は高く,高齢者が腎機能低下,腎不全のハイリスク者であることは明らかである.また,急性腎障害(AKI)においても高齢者の発症頻度は若年層より高い.そして,AKI は既存のCKD を悪化させる因子としても重要である.予防への配慮が求められる所以である.高齢者では合併症も多く,AKI に対する治療においても,血液浄化療法の治療効果は限定的となる場合がみられ,血液浄化療法の適応については非高齢者とは異なる考慮要素が求められる場面も増える.とくに患者・家族の意向についてよく話し合う必要があり〔共有(または共同)意思決定〕,倫理的観点からの考察が重要性を増している.

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急性血液浄化療法施行時,看護師は患者にもっとも近い場所におり,患者のモニタリングや看護ケアを行うとともに,血液浄化コンソールが示す各種パラメーターのモニタリングやアラーム初期対応等も実施している.急性血液浄化療法施行時の看護の質を向上させ,患者へ安全な医療・看護を提供する方略として,看護師に対する教育体制を整え知識や技術を習得すること,さまざまな合併症やリスクに備え患者の状態(バイタルサイン,in-out バランス管理,出血傾向,バスキュラーアクセスカテーテル管理,疼痛・鎮静管理,皮膚トラブル等)をアセスメントすること,多職種と十分に連携を図り看護師が患者の病態を踏まえた施行条件を理解し看護実践することが必要となる.

OPINION

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2025 年には,「団塊の世代」の多くの人が75 歳を迎えることに加え,改善しない低出生率によりわが国の高齢化が急速に進行することが懸念されている.日本透析医学会が発表している「わが国の慢性透析療法の現況」では,2017年末の維持透析患者の平均年齢は68.4 歳であり,65~69歳の増加がもっとも大きいことを示している.さらに,透析への新規導入患者の平均年齢も年々上昇していることから,透析医療現場では2025 年を待たずに超高齢化社会となる可能性もある.

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現病歴:X-1 年12 月に糖尿病性腎症による慢性腎不全のため,A 病院にて血液透析導入.左前腕橈側で自己血管内シャントを作製されるも,発達不良であった.X 年1 月よりB 病院にて外来維持透析を施行中であった.2 月より心不全症状が出現し2 月19日に当院循環器科に紹介入院.冠動脈造影にて3 枝病変を認めたため,3 月1 日に冠動脈バイパス(CABG)術を施行された.術後経過良好にて3 月16 日にB 病院に転院となったが,内シャント閉塞のため3 月27 日に当科に転院.CABG 術後であったが左室駆出率40 %の低心機能であり,人工血管による内シャント作製は心不全増悪の危険性が高いと判断し,3 月28 日に右内頸静脈よりカフ型カテーテルを留置.3 月29 日にB病院に転院.3 月31 日に悪寒を伴う38.4 ℃の発熱が出現,同日よりメロペネム(MEPM)0.5 g/day の投与が開始された.徐々に解熱傾向となるも37 ℃台の発熱が持続したため,4 月3 日に血液培養を1 セット採取されたが陰性であった.その後いったん36 ℃台に解熱したが,4 月7 日より再度38 ℃台の発熱が出現.4 月9 日に抗菌薬をビアペネム(BIPM)0.3 g/day に変更されたが皮疹が出現.4 月10 日より抗菌薬をセファゾリン(CEZ)2 g/day および透析ごとにバンコマイシン(VCM)0.5 g に変更された.発熱の精査加療目的にて4 月12 日の透析後に当科に転院.

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目次

次号予告・頻出略語一覧

編集後記

基本情報

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臨牀透析
35巻6号 (2019年6月)
電子版ISSN:2433-247X 印刷版ISSN:0910-5808 日本メディカルセンター

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