臨牀透析 35巻8号 (2019年7月)

特集 既存のガイドラインを透析患者にどう活用するか

1.慢性心不全 今井 俊介 , 松原 琢
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日本循環器学会/日本心不全学会合同の心不全ガイドラインが2018 年に「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017 年改訂版)」に改訂された.透析患者についてはβ遮断薬とレニン・アンジオテンシン系(RA 系)抑制薬の有効性以外に個別の記載はない.透析患者は心血管疾患を合併するリスクが高く,心不全による死亡が多いため,全患者で心血管疾患のスクリーニングが推奨される.また,体液過剰は独立した心血管死の危険因子である.ドライウエイトの設定やシャント血流の影響は透析患者特有の課題である.心機能低下例ではその評価がより難しいものとなる.

2.急性心筋梗塞 伊苅 裕二
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急性心筋梗塞の診断のガイドラインによると,典型的な胸痛を示す患者には来院後10 分以内に心電図を行い,またトロポニン検査にて診断を確定する.ところが,透析患者においては糖尿病例の多くで無痛性であり,また透析導入時にすでに重篤な肺水腫を経験していることから,心筋梗塞の胸痛をあまり重大なことではないと考える例も多い.心電図では透析症例は高血圧性心疾患の合併によりもともとST の変化があるうえ,日常的にカリウムの値が変化するため心電図の偽陽性が多い.さらにトロポニンは腎排泄のため心筋梗塞でなくても高くなっており,やはり偽陽性が多い.通常のガイドラインを適用することは困難であり,診断法の確立が今後必要であると考える.

3.弁膜症 藤井 秀毅
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透析患者の重要な心血管合併症の一つとして,弁膜症が知られている.僧帽弁閉鎖不全症,僧帽弁狭窄症,大動脈弁閉鎖不全症,大動脈弁狭窄症がおもな弁膜症であるが,そのなかでもとくに透析患者において頻度が高いのが,大動脈弁狭窄症である.そして,透析患者における弁膜症に特徴的であるのが,体液量の変化による圧パラメーターの変化,そして弁の石灰化である.治療方針を決める際にも,ガイドラインを鵜呑みにするのではなく,透析患者の特徴を考え,それに応じた治療方針を決めていくことが重要であると考えられる.これらの患者の特徴をよく理解し,適切な治療を行うことが予後改善につながるのではないかと思われる.

4.肺炎 横村 光司
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肺炎のガイドラインには,日本呼吸器学会が公表している「成人肺炎診療ガイドライン2017」がある.透析患者の肺炎は医療・介護関連肺炎(NHCAP)に分類される.NHCAP は院内肺炎(HAP)とともに一つの疾患群として診療のプロセスが示されており,診療方針を決定する際には最初に疾患末期あるいは老衰などの不可逆的な死の過程にある終末期の患者を鑑別することが治療区分の考え方として新たに取り入れられた.敗血症の有無・重症度・耐性菌リスクも考慮して抗菌薬を選択するが,透析患者における起因菌の種類や耐性菌の割合などに関するデータは乏しく,患者背景や施設ごとに異なることも予想される.予防には肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンの接種が推奨される.

5.敗血症 土井 研人
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敗血症は,感染に対する宿主生体反応の調節障害により引き起こされた,生命を脅かす臓器障害と定義され,2016 年に発表された新しい定義(Sepsis-3)では,臓器障害を評価するSOFA スコアにおいて2 点以上の上昇を伴う感染症を敗血症と規定している.敗血症の診療ガイドラインにおいて透析患者に特化した推奨は存在しないが,水分制限を理由とした初期輸液の差し控えを避けるなど,注意すべき点がいくつか存在する.

6.腎癌 三宅 秀明
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本邦における腎癌のガイドラインとしては,日本泌尿器科学会が編集している「腎癌診療ガイドライン」があり,2017 年に第3 版が刊行されている.本ガイドラインはClinical Question(CQ)に対してClinical Answer(CA)として解説するという形式が採用されているが,透析患者に焦点を当てているCQ/CAとしては,スクリーニングおよび病理診断が挙げられる.しかし,performancestatus 不良症例など,透析患者も該当する病態を対象とした記述は散見されるものの,上記2 項目以外に直接的に透析患者に言及している記載は認められない.このことは腎癌診療においては,透析患者であっても通常と大きく異なる診療を提供する必要性は低いということが示唆されていると考えられるが,一方で日常臨床においては薬物療法を中心に透析患者に適した治療に関する多くの議論がなされているのも事実である.本稿では,実践的な視点から透析患者に対する本ガイドラインの適切な活用法を概説する.

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脳卒中治療のガイドラインには,日本脳卒中学会が提案する脳卒中治療ガイドラインがある.「脳卒中治療ガイドライン2015」および「脳卒中治療ガイドライン2015[追補2017]」には透析患者に関する脳卒中管理についての記載は少ないが,慢性腎臓病(CKD)に関しては生活習慣の改善,糖尿病や高血圧の管理が必要であり,また,非弁膜症性心房細動を合併した場合には抗凝固療法が勧められる,と記載されている.末期腎不全や透析状態における特有の病態を考慮して,現行のガイドラインに新たな知見を組み合わせて治療法を検討する必要がある.

8.高血圧 花房 規男
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高血圧のガイドラインには,日本高血圧学会が公表している「高血圧治療ガイドライン」がある.最新版の2019 年版のガイドラインにも,透析患者に関する記載がみられる.透析患者,とくに血液透析患者における血圧管理の特殊性について述べられており,具体的な数値目標を設定することは困難であるとしている.透析患者における高血圧管理においては,管理すべき血圧測定のタイミング,降圧目標値・降圧薬の種類についてのエビデンスが乏しい,透析患者は多様性があり,治療目標についてもどの期間における予後を改善するかについて個人差が大きいという問題がある.

9.糖尿病 阿部 雅紀
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一般の糖尿病患者に対する治療ガイドには,日本糖尿病学会が公表している「糖尿病治療ガイド2018―2019」,保存期の糖尿病性腎症患者に対しては日本腎臓学会が公表している「エビデンスに基づくCKD 診療ガイドライン2018」がある.透析患者,とくに血液透析患者においては糖代謝・血糖管理の特殊性があるため,日本透析医学会の「血液透析患者の糖尿病治療ガイド2012」が参照されている.血液透析患者において,HbA1c 値は腎性貧血やESA の影響により低下し,透析患者の血糖コントロール状態を正しく反映しないため参考程度に用いる.随時血糖値180~200 mg/dL 未満,グリコアルブミン(GA)値20.0 %未満,また,心血管イベントの既往歴を有する場合や低血糖傾向のある対象者にはGA 値24.0 %未満を血糖コントロールの暫定的目標値とする.腎機能が低下している場合,インスリンや経口血糖降下薬のクリアランス低下と腎での糖新生低下により,低血糖が生じやすい.低血糖のリスクを回避しつつ,生命予後の向上を目指して随時血糖値,GA 値などを総合的に判断しながら,血糖コントロールを行う.

10.肝炎 菊地 勘
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HBV は一度感染してしまうと臨床的な緩解状態(既往感染)となり,血中にHBV が検出されなくなった場合でも,長期間にわたり肝細胞内に残存している.そして,患者の免疫が低下する病態あるいは治療により再活性化(HBV DNA陽転化)する.したがって,HBV の感染対策はHB ワクチンを接種して,感染そのものを予防することが重要である.また,HBV は環境表面で長期間生存することから,HBV 感染透析患者は個室隔離またはベッド固定を行い,水平感染を予防することが重要である.ゲノタイプ1 のHCV は,2014 年にインターフェロン(IFN)を使用しない,内服のみで治療可能なDAA が発売されて,大きな副作用なくHCV 排除を目指せるようになった.そして,2017 年末にはゲノタイプ2 の患者でも使用可能なDAA が発売されて,すべてのHCV 感染透析患者の治療が可能となった.現在のガイドラインで推奨しているDAA の効果はほぼ100 %と非常に高く,大きな副作用がないことから,すべてのHCV 感染透析患者に積極的な治療が推奨される.

11.骨粗鬆症 鈴木 正司
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CKD・透析患者の骨折頻度は有意に高く,CKD―MBD 諸検査値との関連はほとんどみられず,骨塩量の減少との関連が明瞭である.一般住民とはその背景病態が異なってはいるが,骨粗鬆症の定義に包括される病態である.骨質を改善する薬剤は知られておらず,骨塩量を増やす薬剤が使用され,そのガイドラインが存在する.しかしCKD・透析患者での使用に際しては,個々の薬剤の特性を理解したうえで,副作用への慎重な配慮が必要である.

12.大腿骨近位部骨折 風間 順一郎
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透析患者の大腿骨近位部骨折リスクは高い.日本透析医学会もKDIGO もCKD-MBD ガイドラインの中でその対策を論じてきたが,これがCKD―MBDの部分症状であるかどうかは疑問である.これらのガイドラインの中では効果的な予防策も提唱されていない.これに比較して日本整形外科学会のガイドラインは有用な情報が多く記載されているが,しかしそのすべてをそのまま透析患者の診療に当てはめることは危険である.近い将来には透析患者に特化した大腿骨近位部骨折診療ガイドラインの策定が求められるだろう.

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サルコペニア,フレイルのガイドラインとして,「サルコペニア診療ガイドライン2017 年版」と「フレイル診療ガイド2018 年版」が発刊されている.サルコペニアの診断はAsian Working Group for Sarcopenia(AWGS)基準で,身体的フレイルの定義は日本版Cardiovascular Health Study(J―CHS)基準を用いることが推奨されている.透析患者では,骨格筋量よりも握力や通常歩行速度などの身体機能のほうが生命予後と関連する.自宅での有酸素運動は,軽度~中等度強度の散歩を1 日30 分,非透析日を中心に週4~7 日行い,当初の目標歩数は4,000 歩/day とする.Protein―energy wasting(PEW)は,国際腎栄養代謝学会(ISRNM)の診断基準で評価する.しかし日本人透析患者では妥当性が低いため,新たな評価法が必要である.

14.認知症 鶴屋 和彦
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2017 年に改訂された「認知症疾患診療ガイドライン2017」では,認知症の診断,治療から社会制度まで診療全般について詳細に記載されたが,透析患者に関する記載は乏しかった.透析患者では認知症の診断において,まず尿毒症や不均衡症候群,薬剤性,電解質異常などによるせん妄を鑑別することが重要である.また,透析患者では抗認知症薬の安易な使用は控えるべきである.実臨床における認知症対策としては,血管性因子や非血管性因子への対策が重要である.一方,高齢認知症患者の増加に伴い透析の見合わせに関する環境整備が必要と思われ,2014年に策定された「維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」がどのように改訂されるかが注目される.

15.造影剤腎症 猪阪 善隆
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腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドラインでは,造影剤腎症(CIN)の診断基準として,従来の「72 時間以内に血清クレアチニン値が前値より0.5 mg/dL 以上または25 %増加」を基本的に踏襲している.腎機能の廃絶した透析患者においてはCIN という病態は当たらないが,腹膜透析患者への造影剤投与は残存腎機能低下のリスクとなる可能性がある.また,CIN の発症予防を目的とした造影剤投与後の血液浄化療法はCIN 発症のリスクを減少させず,血液浄化療法は推奨できない.とくに血液透析は施行しないことが推奨される.CIN により致死的な体液量,電解質,酸塩基平衡異常が生じた場合は速やかに腎代替療法を開始すべきである.

OPINION

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皆さんは,行ったことのない国やプライベートではちょっとハードルが高く,まず行かないような国に行ってみたくはありませんか.具体的には東南アジア~一部の東アジア諸国ですが,そこに医療分野での仕事で行けたら,なんて素晴らしいことだとは思いませんか.心の中で思うことは多々ある方が多いと思いますが,実際には多分自分にはそういう機会はないであろう,行こうと思えばいつでもいける所だ,学会で欧米諸国へ行って最先端のことを学ぶほうが有意義ではないか,と考える人も多いと思います.私もそう考えていました.一方,時折,学会にて個人的にもしくは病院単位で海外で医療支援をしている医療関係者の方の発表を聞くたびに,うらやましいが,自分の身の回りや職場環境ではそんなことをしている人はいないし,そういう機会は巡ってこないだろうと思っておりました.

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透析患者では病原体に対する脆弱性が知られている.好中球,リンパ球,単球,マクロファージの異常からとくに細胞性免疫不全となることが知られており,バスキュラーアクセスを介した病原体の侵入機会の増加,栄養障害などの要因も加わり易感染性宿主となりやすい.感染症のなかでも健常人に比べて結核感染が多く,肺結核より肺外結核の比率が高い.肺外結核は症状が非典型的で不定愁訴で来院する患者も多く,診断に難渋する場合が少なくない.今回,CT ガイド下リンパ節生検を用いたことにより血液透析患者における腹部リンパ節結核を診断しえた1 例を経験したので提示する.

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目次

次号予告・頻出略語一覧

編集後記

基本情報

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臨牀透析
35巻8号 (2019年7月)
電子版ISSN:2433-247X 印刷版ISSN:0910-5808 日本メディカルセンター

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