臨床雑誌内科 102巻5号 (2008年11月)

感染症の治療 抗菌薬を使いこなそう

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現在の薬剤耐性菌は、多くの抗菌薬に耐性を示す多剤耐性菌である。methicillin耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やvancomycin耐性腸球菌(VRE)など薬剤耐性菌は院内感染症の原因菌のみならず、penicillin耐性肺炎球菌(PRSP)やβ-ラクタマーゼ非産生ampicillin耐性インフルエンザ菌(BLNAR)など、市中感染症の原因菌も薬剤耐性菌が増加している。薬剤耐性菌を作り出さない抗菌薬の選択には、原因微生物を迅速に検査する診断方法の開発も欠かせない。抗菌薬の選択に際しては、常に自らの医療施設あるいは地域における薬剤耐性菌の最新の情報を把握しておくことが重要である。賢い抗菌薬の用法・用量にはPK(薬物動態)/PD(薬力学)の理論に基づいた薬剤の投与方法を行う。

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抗菌薬適正使用の大原則は、感染病態を早期に診断し、原因微生物を的確に捉え、その原因微生物に抗菌力を示す抗菌薬の中から安全性のもっとも高い薬剤を選択することである。臨床症状から推定できることが多いが、乳児の場合には臨床症状が非特異的であることも少なくなく、各種細菌学的検索を行いその結果感染病巣部位が判明することもある。基礎疾患を有する場合には、基礎疾患に関連する感染に常に留意する必要がある。また、画像診断によりはじめて感染病巣が明確となる場合もあり、これらの各種検索を行うことにより感染病巣を推定する。感染病巣、原因菌を検索および推測し、原因菌の薬剤感受性を考慮して抗菌薬を選択する。その際に抗菌薬の体内動態、副作用についても十分な配慮が必要となる。

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かぜ症候群はウイルス性疾患が大半であり、本疾患に対する無制限な抗菌薬処方は、耐性菌増加のリスクを生ずる。delayed prescription(待機処方)が主に英国圏で、急性上気道感染症への抗菌薬処方を減量する試みとしていくつかの検討がある。「待機処方」の症例対照研究では、咽頭痛の症例などで症状改善が1日程度延長した報告がある。咽頭痛を主訴に受診する症例中のA群溶連菌による咽頭炎は、成人で10%程度であり、抗菌薬処方の要否決定の基準が問題となる。A群溶連菌による咽頭炎を疑う症例にはペニシリン系、同系にアレルギーがあるなどの場合にはマクロライド系の処方が望ましい。

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市中肺炎の診療で抗菌薬を決定する際には、重症度の判定と細菌性肺炎・非定型肺炎の鑑別がキーとなる。初期治療抗菌薬を決定するうえで、肺炎球菌およびレジオネラの尿中抗原の測定は、結果が短時間で判明し有用である。耐性菌増加抑止の観点からニューキノロン系抗菌薬は、エンピリック治療の第一選択薬としては推奨されていない。抗菌薬は投与を開始してもただちに臨床的改善が得られるわけではないので、効果判定は72時間程度で行い、それまでは抗菌薬の変更はしない。ただちに臨床的改善が得られないからといって1,2日で抗菌薬を変更すると治療効果が判定できない。

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慢性気管支炎は「2年以上連続して少なくとも冬期は3ヵ月以上、毎日咳・痰等の症状を認めるもの、ただし気管支拡張症や肺結核などの気道系の器質的障害や心疾患によるものを除く」と定義されるが、近年COPDの一部としても認識されるようになった。原因微生物としてインフルエンザ菌、肺炎球菌、Moraxella catarrhalisが重要で、緑膿菌は慢性持続感染の原因菌として問題となる。また、マイコプラズマやクラミジアおよびウイルスの関与も重要である。エンピリック治療には経口薬のレスピラトリーキノロンおよび注射薬のカルバペネム系薬が有用であるが、可能であれば培養結果が判明次第、狭域スペクトルの薬剤への変更を考慮する。

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細菌性髄膜炎はとくに緊急性を要する重篤な疾患で、初期治療の成否が予後に大きく影響する。起炎菌が髄液検査で想定できない場合は、疫学的なデータに基づいて可能性が高い起炎菌を対象にエンピリック治療を行う(起炎菌の種類は患者年齢層によって異なる)。髄液検査で起炎菌が想定された場合は、その細菌の薬剤感受性や耐性率を考慮して治療薬を選択する。抗菌薬の髄液中への移行はよくないので、細菌性髄膜炎では他の感染症よりも1回投与量、投与回数ともに多くする必要がある。細菌性髄膜炎に対して抗菌薬と副腎皮質ステロイド薬の併用は有効であるが、副腎皮質ステロイド薬の種類、投与方法については現段階では限定的である。

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感染性腸炎の多くは自然治癒するため、抗菌薬投与の対象は限られる。感染性腸炎は市中感染下痢症(旅行者下痢症を含む)、院内下痢症、持続性下痢症に分けて治療方針を考える。下痢のタイプがいわゆる大腸型/小腸型のいずれなのか、患者背景、疫学情報などが起因菌の推定に役立つ。下痢の重症度、推定される起因菌、基礎疾患などが、治療方針を決定する際には重要である。

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敗血症は、原因として感染症が確定、あるいは疑われるSIRSであると定義される。精神状態の変化、説明のつかない高ビリルビン血症、代謝性アシドーシス、血小板減少などは、敗血症を疑う手がかりとなる。敗血症を疑った場合、感染病原体とその抗菌薬感受性を把握するために、血液培養を実施する。敗血症の治療は、一次感染巣と起因菌を推定し、適切な検体を採取後、培養の結果を踏まえて抗菌薬を狭域化する。

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単純性尿路感染症の起炎菌はグラム陰性桿菌が大多数を占め、そのほとんどが大腸菌である。単純性尿路感染症分離菌では薬剤耐性菌の頻度が少なく、現在のところBLI配合ペニシリン系、セフェム系およびニューキノロン系抗菌薬にて治療可能である。複雑性尿路感染症の起炎菌は単純性尿路感染症と比べグラム陽性菌が増加し、大腸菌の割合が少なくなっている。複雑性尿路感染症分離菌株は薬剤耐性菌の頻度が高く、とくにニューキノロン系抗菌薬に対する耐性率は10%を超えている。複雑性尿路感染症に対する治療は尿路への移行のよい抗菌薬が推奨されるが、ニューキノロン系抗菌薬に関しては耐性菌が多く慎重に使用すべきである。

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皮膚細菌感染症は、急性膿皮症、慢性膿皮症、全身性感染症、その他に分けられる。原因菌は、黄色ブドウ球菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、化膿連鎖球菌、緑膿菌、グラム陽性菌、グラム陰性菌などである。急性膿皮症の原因菌は、多くが黄色ブドウ球菌で、多剤耐性である可能性が高い。第一選択はβ-ラクタム系薬である。4日間経っても効果がなければ抗菌薬を変更する。MRSAが想定される場合は、β-ラクタム系薬とfosfomycin(FOM)を併用するか、minocycline(MINO)かフルオロキノロン系薬を使用する。トキシックショック症候群ではsulbactam/ampicillin(SBT/ABPC)点滴、MRSAが分離されたときは抗MRSA薬の経静脈的投与を行う。アトピー性皮膚炎の二次感染は、入院例では約90%でMRSAに菌交代するといわれる。

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高齢者では、さまざまな生理機能が若年成人と比して低下している。感染症の重症化や複雑化、抗菌薬による有害事象の発生などには、若年成人以上に注意が必要である。明らかな腎不全を認めない高齢者においても、潜在的に腎機能が低下している症例は多い。多くの抗菌薬は腎排泄性であるため、高齢者では腎からの薬物排泄が遅延し、血中濃度が予想以上に上昇したり、血中濃度曲線下面積が拡大する場合も少なくない。高齢者の感染症治療を成功させる一つの鍵は、若年成人と異なる特徴を知り、過不足のない抗菌療法を心がけることである。

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マクロライド系薬やclindamycin,minocyclineなど、腎機能低下を気にしなくてもよい抗菌薬が存在する。β-ラクタム系薬は腎障害の程度に応じて多少の投与量調整が必要であるが、厳密な基準は存在しない。ニューキノロン系薬は濃度依存性に出現しやすくなる副作用があるので、中等度から高度腎機能低下の際は、1日投与量の1/2~1/5程度まで減ずることが望ましい。アミノグリコシド系薬は、血中濃度モニターを行いながらの使用が望ましい。腎機能低下時は投与間隔を空けるのが原則である。linezolid以外の抗MRSA薬は、腎毒性を示すので、血中濃度モニターや尿一般検査、腎機能がらみの血液検査ならびに特殊検査も十分行って、投与量調節ならびに異常の早期発見に努める。

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肝機能障害時に、薬物の体内動態の変化を予測する簡便なマーカーはない。感染臓器に加え、臓器移行や代謝・排泄経路を考慮して慎重に抗菌薬を選択する。肝代謝型の薬剤の投与には、十分な注意が必要である。β-ラクタム系薬やニューキノロン系薬は、変更の必要性は高くない。腎障害のある場合、腎で排泄が代償されないので、腎障害の合併に注意する。可能な薬剤ではTDMを行い投与計画を立てる。

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妊婦の感染症治療に有用な抗菌薬は、ペニシリン系薬やセフェム系薬などのβ-ラクタム系薬を第一選択薬とし、次いで、マクロライド系薬を使用する。投与量は常用量でよいが、投与期間は、可能な限り短くする。併用療法は可能な限り避け、単剤で治療する。新薬の使用には慎重になるべきであり、可能な限り、ただちに用いない。十分なインフォームド・コンセントを得てから使用することに、心がける必要がある。

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薬物アレルギーとは、薬物に対するIgE抗体や感作リンパ球などが関与する免疫学的機序によって発生する異常薬物反応であり、非免疫学的機序によって発症する副反応とは区別されるべきである。抗菌薬アレルギーでもっとも頻度が高いのは薬疹であり、アナフィラキシーショックはまれである。抗菌薬アレルギーの診断においては、薬歴と発症経過の詳細な問診が重要であり、即時型アレルギーが関与する患者では、皮膚テストを行う。即時型アレルギーが関与することが疑われる抗菌薬アレルギー患者に抗菌薬を投与する際には、側鎖構造などから被疑薬と交叉抗原性が低い薬剤を選択し、皮膚テスト陰性を確認してから、慎重に抗菌薬を投与する。

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海外からの帰国者すべてが、特殊な感染症に罹患するわけではない。感染か非感染か、海外に特異的な感染か否かを考慮する。血清は必ず治療に先立ち、保存しておく。海外から輸入される感染症は、専門医でも未経験の感染症が存在する。海外では、わが国と抗菌薬の種類や治療法が異なる場合も多い。わが国で用いられている抗菌薬の個々の疾患におけるエビデンスが少ない場合や、薬剤が入手困難な場合もある。治療にあたっては、適正薬剤を適正な量、期間で投与する。感染症の発生状況は、診断上有益であるので把握する。

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中等量以上のステロイド薬投与では、あらゆる感染症の合併に注意し、結核、ニューモシスチス肺炎(PCP)のハイリスク者には予防策を講じる。ciclosporin,tacrolimus投与中は抗菌薬との相互作用に注意する。抗TNF製剤により結核、非結核性抗酸菌症(NTM)、PCPが増加する。結核はスクリーニングを徹底し、ハイリスク者にはINHの予防内服を行う。帯状疱疹の増加、B型肝炎の劇症化、慢性活動性EBV感染症、進行性多巣性白質脳症(PML)など、潜在ウイルスの再活性化も今後問題になると思われる。肺炎球菌感染症やインフルエンザは、ワクチンによる予防が推奨される。

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わが国では、ペットを含む動物由来感染症に対する認識が薄く、医師が正確に診断できないことも多い。ペット由来感染症は感染経路に特殊性があるため、飼育者に感染症の知識をもってもらい、予防対策を徹底してもらうことが重要である。

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レジオネラ曝露の危険因子としては、最近の1泊以上の旅行、井戸水の使用、上水道の破損、温泉、生活環境の近くに冷却塔があること、があげられている。本症の潜伏期間は2~10日間で、突然の高熱や呼吸器症状で発症する。確定診断は、臨床検体からのレジオネラの分離培養、特異抗体を用いた直接蛍光抗体法による検出、間接蛍光抗体法による血清抗体価測定、レジオネラ尿中抗原検出、PCR法による。治療にはキノロン系薬、あるいはマクロライド系薬を用いる。レジオネラ症は感染症予防法4種感染症であり、本症を診断した場合には、ただちに保健所に届け出ることが必要である。公衆浴場における水質基準は、レジオネラが検出されないこととしている。

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性感染症(sexually transmitted diseases:STD)は、性痛病変をきたすものと性器以外に主病変を生じるものとに大別される。主な性器病変としては、尿道炎、潰瘍性病変、腫瘍性病変があり、症状からある程度の鑑別が可能である。わが国でもっとも多いSTDは性器クラミジア感染症で、定点観測の対象疾患である。そのほか、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症も、定点観測対象の疾患である。一方、梅毒、HIV感染症/後天性免疫不全症候群(AIDS)、B型肝炎は全数届け出疾患であるため、診断した医師は必ず届け出なければならない(感染症法における届け出基準を参照すること)。

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抗菌薬は副作用が少ないという認識から、安易に使用されるケースが散見される。抗菌薬は選択毒性を有するが、作用機序や、また大量投与や長期投与によって副作用が発現する。副作用は、(1)用量依存性の毒性効果、(2)予期せぬ副作用、に大別される。今日、副作用でもっとも問題になるのが、「常在細菌叢の破綻」である。とくに広域スペクトラムを有する抗菌薬は、常在細菌叢の破綻を起こしやすく、それに伴う副作用として、抗菌薬関連の下痢に代表される菌交代症や、薬剤耐性菌の出現などが起こりやすくなる。抗菌薬は、決して副作用が少ない薬剤ではない。抗菌薬投与後は、患者を十分に観察し、各抗菌薬に特有の副作用に注意する。

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アミノグリコシド系抗菌薬など濃度依存性の薬物は、1日1回の投与方法が有効性の面からも、副作用回避の観点からも優れている。コンピューターシミュレーションの結果、濃度依存性のβ-ラクタム系抗菌薬は、MICが上昇するに従い、1日2回の分割投与ではtime above MIC%(TAM)の増加はむずかしく、3~4回分割投与が最適である。腎機能低下患者におけるvancomycinの投与方法において、クレアチニンクリアランスに応じて投与量を算出するMoelleringのノモグラムは、透析患者などでは投与量が過小に算出されるおそれがあり、不適切である。一方、Matzkeらにより提唱されているノモグラムは、まずクレアチニンクリアランスに応じた投与間隔を算出し、初回25mg/kg、2回目以降からは19mg/kgを投与しながらピーク濃度を30μg/kg、トラフ濃度を7.5μg/kgに調節する方法であり、PK/PDの観点からもっとも合理的である。

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薬物相互作用には、薬物動態学的な相互作用と、薬力学的な相互作用がある。有害な薬物相互作用には、作用の増強により毒性が現れる場合だけでなく、作用の減弱により期待した薬効が得られない場合も含まれる。薬物動態学的な相互作用は、吸収、分布、代謝、排泄の各過程で起こりうる。薬物動態学的な相互作用のうち、代謝過程で起こる相互作用の発現頻度が高く、臨床的に重要なものが多い。代謝過程で問題となる多くの薬物相互作用には、チトクロムP450が関わっている。排泄過程で問題となる主な相互作用は、尿細管分泌の抑制である。同じ輸送系では運ばれる薬物を併用すると、薬物の排泄が遅れ、作用の増強をみることがある。

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抗菌薬サイクリング・ミキシングは、病原微生物の薬剤耐性化、および、すでに生じている耐性菌の減少を図るため、米国感染症学会、米国医療疫学協会などにより提唱された方策である。使用する抗菌薬の数、抗菌薬の種類、サイクリング期間などに関して標準化されたプロトコールは確立されておらず、実施する各施設に委ねられている。抗菌薬サイクリングにより耐性菌の減少が確認されたとする報告と、臨床的成果が得られなかったとする報告が混在しており、大規模な多施設による検証も報告されていない。臨床的成果についての結論は、今後の報告を待たねばならない。

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新規に臨床使用可能となった経口レスピラトリーキノロン系薬としてmoxifloxacin,garenoxacin,sitafloxacinを取り上げた。キノロン系薬は、DNAの複製に必須な酵素であるDNAジャイレースやトポイソメラーゼIVの作用を阻害することで抗菌活性を示し、殺菌性に作用する。呼吸器感染症および耳鼻咽喉科領域感染症の主たる起炎菌である肺炎球菌、インフルエンザ菌、マイコプラズマ、クラミジアに対してのみならず、これらの多剤耐性菌に対しても強い抗菌活性を示す。光線過敏症、痙攣誘発作用、低血糖などの副反応のリスクは軽減されているが、QT間隔延長に留意が必要である。

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従来に比べて、新たに開発される抗菌薬は確実に減少傾向にあるが、それでも、特徴のあるさまざまな新薬がすでに市販されたり、開発段階にある。現在開発中の抗菌薬の多くは、耐性菌に対する抗菌活性が重要な課題となっており、とくにMRSAなどへの作用を強めるとともに、より広域の抗菌活性を有している。これらの新薬は、今まで以上に広域な抗菌薬が多いため、適応をしっかりと判断し、抗菌薬の適正使用に努める必要がある。

診療controversy medical decision makingのために AKIでのhANP介入治療

積極的な立場から 笠原 正登

消極的な立場から 西 裕志

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28歳男性。患者は10年前より度々腹痛、嘔吐、下痢症状があり、今回も腹痛、水様性下痢、血性物を混じた嘔吐が生じ、入院となった。所見では腹部は平坦、臍部を中心に圧痛があり、筋性防御と反跳痛が認められた。また、白血球数増加、CRP高値が認められ、CTでは小腸の非連続性肥厚と腸間膜脂肪織のdensity上昇がみられた。以上より、本症例はCrohn病の急性増悪が疑われ、絶飲食、補液、抗生物質による保存的治療を開始したが腹痛は持続し、翌日に行なわれたCTで右下腹部小腸壁近傍にfree airが認められた。消化管穿孔を来したCrohn病による汎発性腹膜炎と考え、開腹手術を行なったところ、回腸に小さな穿孔部、Douglas窩と右横隔膜下に膿性腹水が確認された。切除標本では、ほぼ全長にわたって腸間膜側に縦走潰瘍が存在しており、標本中央の潰瘍部には10×7mmの穿孔が認められた。病理所見では粘膜固有層から筋層にかけて全層性の炎症細胞浸潤と非乾酪性の小型類上皮肉芽腫の形成があり、最終的にCrohn病と診断された。

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77歳女性。患者は5年前に腹部腫瘤の生検でB細胞リンパ腫と診断され、化学療法で寛解した。今回、認知症が急速に進行し、脳MRIで脳室に4cm大の腫瘤が認められ、更に可溶性IL-2Rの上昇からリンパ腫の中枢神経系(CNS)再発と診断し入院となった。所見では口渇・多飲・多尿から尿崩症の合併が認められ、desmopressin点鼻が開始された。また、入院第3病日目より痙攣発作の予防にバルプロ酸、dexamethasoneが投与され、あわせてCNSリンパ腫に全脳照射が行われた。脳の腫瘤が消失したため退院となったが、退院後、外来受診時に強い黄疸が認められ、腹部超音波が行なわれるも胆管の拡張は認めず、血液検査でもA・B・C型肝炎が否定された。そこで、薬剤性肝障害を疑い、バルプロ酸を中止し、再入院時からウルソデオキシコール酸の投与を開始した結果、入院前日のtotal bilirubinは44.7mg/dlをピークにし、以後は急速に軽減、肝障害も改善を認め、退院となった。

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25歳女性(ブラジル人)。患者は嘔吐の繰り返しで受診となった。胃腸炎と診断され、制吐薬と整腸剤で軽快したものの、11日後に左側腹部痛で再受診、食事摂取困難と腹壁緊張を認めたため入院となった。所見では左側腹部から下腹部にかけて自発痛、圧痛、反跳痛が認められ、血算では炎症所見が認められた。X線では小腸ガス像がみられ、CTでは小腸・大腸壁の肥厚と骨盤腔内、肝周囲に腹水が確認された。以上より、本症例は骨盤内感染症と腸炎を疑い、絶食をはじめ補液、minocycline点滴を開始した。その結果、翌日には腹部症状は軽快し、経口摂取開始後1週間で退院となった。尚、腸管浮腫から膠原病疑いで精査したところ、CH50とC4の著明な低下がみられ、C1インアクチベータ活性も測定感度以下であった。問診により血管性浮腫と診断され、外来にてtranexamic acidの内服が行なわれたが、両側手足の浮腫と腹痛を認め、prednisolone内服とfexofenadine頓用に変更するも発作性浮腫が認められた。そこで、danazolの定時内服に変更し、以後は発作を認められなくなった。

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58歳女性。患者は口渇・多尿を放置し摂食困難となり、清涼飲料水を飲んでいた。今回、顔面・四肢の痙攣が出現したため近医を受診、高度脱水を指摘され、その後、歩行不能となり、全身性痙攣および意識障害を認め、著者らの施設へ救急搬送された。意識レベルはJCS 200-300で、WBC、CRP、血糖値の異常高値、肝機能・腎機能の障害がみられ、動脈血ガス分析では混合性アシドーシスが認められた。また、頭部CTおよび胸部X線では異常がみられず、腰椎穿刺では髄液圧は低いが、脳炎は否定的であった。以上、これらの所見より、本症例は糖尿病性昏睡と診断され、生食の大量輸液、インスリン持続静注が開始されたが、血圧低下と発熱、DICを認め、抗生物質と昇圧薬の投与が行なわれた。その結果、第3病日目に会話は可能となったものの多尿が出現し、輸液量を調節し、第10病日目に経口食を開始した。精査で糖尿病は2型と診断され、食事療法で血糖値は改善され、第80病日目よりインスリンを中止した。以後、多尿の遷延で徐々に輸液量を減らし、飲水指導を行いつつ、患者は第129病日目に退院となった。

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65歳男性。患者は他院で胃腺癌と肝転移に対し胃幽門部分切除術と肝部分切除術を受けた既往があった。今回、帰宅途中に意識消失発作が生じ、著者らの施設へ救急搬送された。所見では著明な低血糖、低カリウム血症、低総蛋白血症がみられ、あわせて低アルブミン血症、肝機能異常が認められた。内分泌検査ではIRI、Cペプチド、IGF-I、GH、IGFBPは全て低値であったが、IGF-IIの高値であった。一方、内視鏡では残胃胃炎が確認され、CTでは肝臓内に門脈塞栓を伴う多発性腫瘍が認められた。また、患者血清のウエスタンブロットではIGF-IIのほかにbig-IGF-IIバンドが認められ、IGF-II産生胃癌による低血糖(NICTH)に特徴的な所見であった。更にこれらを踏まえて前医の手術標本に対する抗IGF-II抗体の免疫染色では、胃腺癌細胞は胃および肝臓で染色され、肝転移組織で強い染色性が認められた。以上より、本症例に対し低血糖へは経静脈的に糖補充を開始し、hydrocortisone投与が行なわれたが、患者は肝機能の悪化と原因不明の急性腎不全で第14病日目に死亡となった。

基本情報

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臨床雑誌内科
102巻5号 (2008年11月)
電子版ISSN:2432-9452 印刷版ISSN:0022-1961 南江堂

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