臨床婦人科産科 52巻5号 (1998年5月)

今月の臨床 早産対策—いま臨床医ができること

早産をどう理解するか

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 早産は,未熟児出生,感染症など,われわれ周産期医が日常直面する数々の問題を多く含んだ病態であり,抗生物質,ステロイドの使用,tocolysisなど,早産管理に関してでもいまだcontroversialな点が多い疾患である.人工サーファクタントの使用に代表される未熟児医療の進歩に伴い,以前にはintact survivalが得られなかったpreterminfantに対してもかなり期待が持てるようになってきた.事実,早産の定義が妊娠24週からであったのが妊娠22週に改められたのは,ひとえに未熟児医療の進歩による.

 早産の原因は単一であることは珍しく,いくつかの原因が絡み合って起こる場合が多い.最近では未破水症例にもかかわらず絨毛羊膜炎が先行し,その際,産生されたprostaglandinが子宮収縮を起こすという概念が定着している.しかしながら,切迫早産症例において羊水培養の陽性率が低率であること,抗生物質投与による妊娠延長の効果が期待できないことなど,切迫早産を感染症と決めるには今後のさらなる検討が必要と言わざるを得ない.いずれにせよ,いくつかの原因の可能性を考慮しつつ,十分にその病態を検討,把握することが重要と思われる.

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 早産の発生率は全妊娠の約5〜10%にすぎないが,先天性奇形のない新生児死亡の約75%,児の中枢神経障害の約50%の原因になるとされるため,現在の産科領域で最も重大な合併症といえる.

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 1990年1月より1996年12月までに当科で早産期の前期破水(preterm PROM)と診断された82人(全分娩数の3.1%)について検討すると,妊娠28週未満の破水例では,破水から児娩出までの時間が他の破水時期よりも有意に長く,待機的に管理された症例が多いことがわかる(図1).また,破水後,抗生剤投与は74人(90.2%)に,tocolysisは43人(52.4%)に,dexamethasone投与は18人(22.0%)に,羊水補充療法・プロムフェンス®などの装着は8人(9.8%)に行われ,これらの治療の有無と破水した妊娠時期との間には有意な関連が認められた.

 このようにpreterm PROM症例では,破水した妊娠週数が早いほど待機的かつintensiveな治療が行われる.しかし,妊娠28週未満の破水例では絨毛羊膜炎(CAM)と陣痛抑制困難がterminationの理由として最も多く(表1),この時期のpreterm PROMの管理の難しさを表している.

外来での対策—私はこうしている

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 近年の産科領域においては医療側と患者側のコミュニケーションの方法がすこしずつ変化しつつあるようだ.看護婦や医師の患者に対する言葉使いの改善(過剰な改善?)や超音波検査時の胎児写真のプレゼントなど,妊婦健診時の患者へのサービスというものを重視する傾向が強くなっているのが現実であろう.そのなかでも患者に不快感を与えないという目的で健診時の内診が省略されているケースが増えてきている.確かに健診ごとに内診を受けることに対して抵抗感を抱く患者が多いのも事実であり,その抵抗感に対して具体的な内診の医学的有用性を説くことができるのかどうかは疑問である.また諸外国の妊婦検診の状況をみても,内診を重視する国とそうでない国があり,内診に対する世界共通の理念というものは明瞭でない.今回はこの内診というものがいかなる医学的意義を持ち,また日々の診療上絶対に必要なものかを文献的考察を中心として検討した.

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 早産防止に対する経腟超音波断層法(以下,経腟法と略す)の応用として,切迫早産および頸管無力症における子宮頸部の観察がある.このうち切迫早産では主として頸管閉鎖部分の長さ(頸管短縮度,cervical length)が早産の予測因子となり,頸管無力症では内子宮口部分の開大が診断基準となりうる.ここでは経腟法による頸管無力症の診断について,当科における臨床成績および文献的考察に基づいて言及する.なお,われわれはcervical lengthを頸管短縮度と表現するが,その理由は他の文献に詳述したので,これを参照されたい1)

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 頸管は長くて硬いほど,胎児先進部は下降しにくく,したがって早産しにくい.逆に短く軟らかいほど早産しやすい.また,初産婦に比べ分娩を経験した経産婦の頸管は,妊娠初期より外子宮口がすでに弛緩していることが多く,しかもいったん下降しだすと初産婦に比べて急速な進行をみることは,切迫早産の日常臨床においてよく経験されることである.また従来より指摘されているように,無症状に内子宮口の開大をみる「頸管無力症」の存在もある.

 われわれはこのような「常識」を早産予防のstrategyに反映させるために,近年検討されてきた経腟エコー所見〔頸管長(内子宮口もしくは卵膜先端より外子宮口までの最短距離),内子宮口開大の有無〕と,従来より行われてきた内診所見(consistency,外子宮口挿入度)を組み合わせたものを「頸管の妊娠維持能」として個別に評価した.さらに既往歴,今回多胎妊娠か否かを加味して,総合的に今回の妊娠における早産のriskの程度を個別に検討しそれをスコア化し,その評価によりhigh riskとlow riskに選別し,診療の効率を図った.

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 早産を予防するためには,切迫早産の早期発見が重要である.

 これには妊娠中に切迫早産を考慮した問診や診察を行い,下腹部緊満感や下腹部痛の出現や増加,あるいは性器出血や帯下の量が増加するなどの訴えがあれば,必ず胎児心拍陣痛図を用いた子宮収縮頻度の確認,内診による子宮頸管の状態の確認,および超音波断層法による内子宮口の状態を観察し,切迫早産といえるかどうかを判定することが重要である.

3.炎症マーカーの利用・2 斎藤 滋
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 近年,早産の原因として絨毛羊膜炎の存在が注目されている.筆者らのデータにおいても早産243例の57.7%に病理学的絨毛羊膜炎の所見が得られている.このことは絨毛羊膜炎を早期に診断し治療すれば,早産数を現在の1/2に減少させ得ることを意味する.外来での妊婦検診に際して,産科医は腟炎や頸管炎を早期に診断する必要性が生じてきている.ここでは炎症マーカーを利用した早産対策について述べる.

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 早産の時期に破水感や水様帯下を主訴に外来を受診した妊婦に対して,最初に実施すべきことは問診である.破水感のあった時期,流出量,流出状況,色調,出血・子宮収縮の有無,排尿との関連について詳細に聞くだけで,ほとんどの場合破水かどうかの診断が可能である.ついで内診台で羊水の流出を確認する.外陰部に及ぶ水様帯下や腟内にプーリングが認められて,子宮口から羊水の流出がみられれば破水の診断は容易である.その場合でも表1に示す破水と鑑別すべき事象を念頭におきながら,pH試験紙(BTB試験紙)を用いて流出液がアルカリ性であることを確認している.羊水流出の確認ができない場合,あるいはBTB試験紙がアルカリ性を示しても破水と断定しがたいときには,癌胎児性フィブロネクチン測定試薬(ロムチェック®)の結果で判定している.いずれの検査でも破水であるとの診断には至らないものの,その可能性を否定することもできない場合の対応が,本稿の主題となる.

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 前期破水(premature rupture of the mem—branes:PROM)はすでに妊娠維持機構が破綻したことを意味する.したがって,切迫流早産例はむろんのこと,満期例においても前期破水例にはその発症時期に応じた適切な産科処置が必要となり,そのためには正確な破水の診断がきわめて重要である.一般的に妊娠後期の破水例,とくに低位破水例では相当量の羊水流出を伴うので,腟鏡診と超音波による残余羊水量測定から破水の診断はそれほど難しくはない.しかしながら,高位破水例,偽破水例や妊娠中期の破水例などでは診断に苦慮することがしばしばある.

 また逆に,たとえ各種検査の結果が「未破水」を示しても,破水感を訴えて来院した妊婦に対して未破水と断定することには,つねにいちまつの不安を覚えるものである.まして各種の検査結果がdiscrepancyを示す場合はなおさらであろう.とはいえ,すべての破水疑診例を入院管理としたり,子宮内感染を恐れて分娩を誘発するのは,明らかに誤りである.

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 多胎妊娠における早産予防対策は,安静入院1,2),予防的頸管縫縮術3-5)が行われている.一般的には妊娠28〜34週での入院安静が早産予防に有効との報告が多く,予防的頸管縫縮術の有効性には否定的な報告が多い3,4).しかし,これらの報告には再検討の余地がある(表1).そこで筆者らは予防的頸管縫縮術の有効性を再検討した.

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 日本産科婦人科学会周産期委員会の報告によると,わが国の周産期死亡率は著しい減少を遂げてきた.しかしながら,未熟児の出産数は減少しておらず,むしろ増加の傾向にある.その理由としては未熟児医療の進歩により,以前は出生後治療が諦められて,死産となっていた児が積極的に治療が行われるようになってきたことが大きいと考えられる.しかし,近年の不妊症治療による多胎の増加もけっして無視できる要因ではないと考えられる.そこで本稿では,当院での双胎を中心とした多胎妊娠管理方針について文献的な考察とともに紹介する.

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 低出生体重児が出生する原因はほとんどの場合早産である.近年のめまぐるしい新生児医療の進歩により低出生体重児の予後は改善されたといえるが,成熟児に比較するといろいろな問題点は存在している.したがってわれわれ産科医にとっては,この早産の予知と予防は大きな課題の一つである.わが国の早産の頻度は約5%で,その75%が前期破水と切迫早産による.切迫早産のハイリスクとしては,既往症に早産,中期流産があったり,若年妊娠,高齢妊娠,羊水過多症,多胎妊娠,妊娠中毒症,子宮奇形,子宮筋腫合併妊娠,喫煙,就労および絨毛羊膜炎がある1).絨毛羊膜炎は細菌の上行性感染で起こるもので,頸管炎,絨毛膜炎,羊膜炎,子宮内感染へと順次進行していくものであるが,ほとんどの場合は無症状であり,血液検査上白血球増加,CRP上昇という結果もかなり進行してきた場合にのみ認められる.最近は局所の病変を早期に予知する検査として胎児性フィブロネクチン,顆粒球エラスターゼの検出法も確立されている.

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 早産は,妊娠22週から妊娠37週未満の分娩と定義され,新生児死亡および脳性麻痺を含む重篤な後遺症発生の大きな原因となっている.年々,少子化が進む現在,早産の管理とその治療は以前にも増して重視されるべきものと考えられるが,わが国の統計によると早産の発生頻度は微増傾向にあり(1980年4.1%→1995年4.9%),その管理の更なる改善が望まれる1)

 早産の防止にあたっては,そのハイリスク群(流・早産の既往,多胎,子宮奇形,頸管無力症など)を抽出することによる妊娠初期よりの厳重な監視ならびに実際に切迫早産症状を呈したものに対しての適切な診断・治療の2点に集約される.本稿では,後者に関して,とくに外来診療において入院管理の必要性を診断する基準について解説する.

病棟での対策—私はこうしている

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子宮収縮の評価

 子宮収縮の評価は,妊婦自身の腹緊,下腹部痛の有無を尋ね,胎児心拍数図に描かれる子宮収縮曲線から判断する.規則的な子宮収縮がある場合には入院管理とする.

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 近年,周産期管理やNICUの発達とともに周産期死亡率は減少しているものの,早産率はいぜん妊娠37週未満では8〜9%,妊娠32週以前では1〜2%を占め,早産(preterm birth)は今なお,周産期死亡の主な原因となっている.また,早産の病態が子宮収縮と子宮頸管熟化であることは明らかであるものの,その成因やリスク因子は多岐にわたっていることや臨床的に偽陣痛(pretermcontraction)と切迫早産(preterm labor)との鑑別が困難であることから,その治療法も子宮収縮抑制による対症的治療が主体であった.しかし,最近,早産の病因としてプロゲステロンの消退を初めとする妊娠維持機構の抑制解除や,種々の感染症(尿路感染,細菌性腟症,絨毛膜羊膜炎)に伴う炎症性サイトカインの増加が,プロスタグランジンの増加による子宮収縮や好中球エラスターゼ,MMPの増加による頸管熟化を惹起することが次第に明らかとされるとともに,種々の早産マーカー(顆粒球エラスターゼ,癌胎児性フィブロネクチン)や経腟超音波による子宮頸管長の形態的変化を容易に捉えることが可能となってきたため,早産の早期予知と個々の症例に応じた治療が可能となってきた.

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妊娠中期の破水例に対する基本方針とインフォームドコンセント

 未熟児を受け入れてくれるNICUの臨床的許容レベルに応じた治療方針を選択しなければならない.当院のNICUでは,体重1,000g以上で合併疾患がないことを受け入れの許容条件としている.

2.前期破水症例の管理・2 友田 昭二
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 昔から子宮は“最良の保育器”とよばれているが,いったんPROM(前期破水)に伴い細菌が羊膜腔内に侵入すれば“最適な細菌培地”となり早期娩出が望まれる.早産PROMにおいては胎児感染の有無が新生児予後に大きく影響するため,胎児感染の診断が重要になる.PROMの診断,感染の予防・診断に関しては他の執筆者にまかせ,筆者は分娩時期決定に際し児の予後の面から根本的な見直しを行うとともに,将来の展望についても言及したい.

2.前期破水症例の管理・3 松田 義雄
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破水診断とその注意点

 病歴を詳細に聴取した後,外陰部を十分に消毒して滅菌した腟鏡を使って視診を行う.大量の水様性帯下が外子宮口より持続的に漏出する典型的な症状に加えて,その帯下がpH 7.1〜7.3の弱アルカリ性でNaClや蛋白を含んだ羊水であることの3項目が確認されれば,正診率は93%まで上昇することが示されている1)

 Nitrazineやbrom-thymol-blue(BTB)試験紙によるアルカリ化の証明と,NaClの存在をスライドグラス上でのシダ状結晶(ferning)で確認する方法は,ベッドサイドで簡単にしかも迅速に行えるという点で有用であるが,おのおのにfalsepositive, false negativeがあることを念頭に入れておく必要がある2)(表1).また,同時にGBSなどの細菌培養も必ず行っておく.

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 低体重児が出生する原因は,妊娠22週以降37週未満に出産をする早産と分娩開始以前の卵膜の破綻である前期破水(premature rupture of mem—branes:PROM)で約80%を占め,とくに32週未満の早産でPROMは約40〜50%を占める.そのため,妊娠中期に起こるPROMは,管理上,児の未熟性を考慮し,可能なかぎり児を子宮内にとどめておく必要がある.この子宮内保育待機策として子宮収縮,羊水流出,子宮内感染に対し有効な治療がなされなければならない.

 1995(平成7年)度の厚生省心身障害研究(武田班)の調査によると,妊娠中期PROM後,三次センターへ母体搬送された466例と妊娠初期から三次センターで管理しPROM後入院となった162例の比較では,母体搬送例の約40%が搬送後3日以内に分娩に至り,2週間以上妊娠期間が延長した例は約20%しかなく,逆に三次センター管理例でも約20%は3日以内に分娩に至るが,50%は2週間以上妊娠期間が延長していた1).これは搬送例ですぐに分娩に至った症例は,母体への抗生剤投与と安静のみで管理され,感染による子宮収縮がコントロールできず3次センターへ母体搬送された例であった.そのためPROM後すぐに適切な管理が施行されれば妊娠期間の延長により児の予後が改善できると考えられる.本稿では妊娠中期PROMの管理を中心に述べる.

3.胎胞膨隆症例の管理・1 辻 啓
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 筆者らの検討によると,頸管が3cm以上開大して腟内に胎胞が膨隆している重症の頸管無力症に対しては普通のシロッカー原法では38%が有効であったに過ぎないが,筆者らの考案した改良法,すなわち「補助loop付き二重シロッカー法(辻,渡辺変法)」では85%の有効率を収めている1-4).次にその改良術式について紹介する.

 麻酔後,胎胞を還納するために図1のごとく手術台を頭低位,骨盤高位に傾斜させ,ディスク型ネオメトロ(ソフトメディカル製)のバルーンに少し滅菌水を入れて頸管を通過できる大きさにして,胎胞を押し込みながら頸管内にネオメトロを挿入する.次にバルーンの内容液を50mlぐらいに増量するとネオメトロが頸管の栓になって胎胞は出てこない.

3.胎胞膨隆症例の管理・2 金山 尚裕
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 切迫早産のなかでも胎胞膨隆例は早産が切迫している状態で重症に分類される.この管理には苦慮することが多い.従来は頸管縫縮術を速やかに行うことが第一選択として考えられていた,しかし最近,頸管熟化や開大の機序にサイトカインを中心とした炎症反応がその背景にあることが明らかになった.頸管縫縮術は頸管に物理的な炎症刺激を加えることになるので,なかには増悪し早産に至ることもある.したがって頸管の炎症反応を抑制することが,切迫早産の根本的治療法として重要である.

 われわれは尿中トリプシンインヒビター(UTI)に各種サイトカインの抑制作用や子宮収縮抑制作用があることを見いだした1,2).また尿中トリプシンインヒビターは胎児尿由来物質であり,胎児の生理的物質であり安全性がある.この尿中トリプシンインヒビターを腟坐薬にし切迫早産例に投与し,妊娠維持効果にきわめて有効であることを報告してきた3).とくにUTI腟坐薬療法は,長期妊娠維持の難しいとされる胎胞膨隆例の切迫早産に対して効果がある.以下に,その具体的使用法について概説したい.

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 早産による母体搬送をした経験のない産婦人科医は稀と思われる.逆に早産(とくに妊娠28週未満)による母体搬送を受け入れた経験を持つ産婦人科医は少数派であろう.したがって,互いの立場の違いからの行き違いも時として経験する.本稿では受ける立場から母体搬送を解説する.さらに本稿における早産とは前期破水,切迫早産,頸管無力症に引き続き起こるものを主に扱い,母児合併症におけるターミネーションによる早産については扱わない.

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 いうまでもなく,出生する児になんらかの異常が生じるリスクが高いと判断される場合には,分娩後に新生児搬送を行うよりも,分娩前に母体をNICUのある分娩施設(周産期管理施設)へ転送すること,すなわち,母体搬送のほうがはるかに望ましいと考えられ,その搬送のあり方については地域性による多少の差異はあるにせよ,現在では積極的に広く行われるようになってきている.早産妊婦を母体搬送する場合,一次施設(産科診療所)においてもっとも重要なことは,早産妊婦を高次施設(周産期管理施設)へいつ搬送すべきか,母体搬送する最適時期の決定を的確,迅速に行うことである.早産〔切迫早産,前期破水(PROM)〕対策として,母体搬送の決断を下す最適時期について,一次施設(産科診療所)の立場から,その実際について述べる.

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 1996(平成8)年における日本の周産期死亡率は6.7であり,世界的にも優れた成績を上げている.この背景には出生前,分娩時の母児管理および新生児管理の向上があるものと考える.本稿では妊娠22〜28週での分娩の問題点およびわれわれの管理方針について述べていく.

5.妊娠22〜28週の分娩・2 是澤 光彦
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 新生児異常の原因として表1のような要因が考えられるが,その第1に挙げられるのが早産未熟児である.この20数年の間に未熟児医療が進み,重症の病的新生児あるいは極小未熟児・超未熟児の救命ができるようになったとはいえ,超未熟児においては蘇生時の血圧変動・出生後心機能アダプテーションなどにより肺出血や脳室内出血が高頻度に起こり,さらにPVL(白質脳軟化症)の問題,古くて新しい未熟児網膜症の問題があるので,生命予後のみならず生育しても障害を残すことが多い.このような未熟児に起こる諸病変を予防する唯一の方法は早産を予防することにある.この意味において産科への期待は大きい.

早産児の初期管理

出生直後の早産児の管理 加部 一彦
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 出生後に新生児が搬送される新生児搬送よりも,母体搬送によって周産期管理を受けた後に出生した児のほうが予後がいいということが明らかになるにつれ,どこの周産期医療施設においても母体搬送が増え,新生児搬送は減少する傾向にある.とは言え,周産期医療施設,なかでも新生児集中治療室(NICU)の病床数は全国的に不足しており,収容先のNICUを探しているうちに,やむを得ず出産に至るというケースも少なくない.

 また,早産児,とくに極低出生体重児の出生が予想されるような場合には,新生児科医の立ち会いのもとに分娩されることが望ましいが,実際には,それとても手配できない状況が存在していることも事実である.

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 卵子と精子の出会いの場となる卵管においてもいろいろな病態がみられるが,現時点での腹腔鏡下手術では,卵管に対する専用の器具・器材,一定の確立した術式や手技・手法の点など,いまだ多くの課題が残されている.しかし一方.CO2ガス下である気腹法による腹腔鏡下手術は,(1)臓器を空気に曝さない点,(2)温度や湿度などは安定している点,(3)モニター画像には対象臓器も拡大できる点,など卵管手術にとっては開腹して行う従来法のマイクロサージャリーの条件に比べて優れた環境を提供する手法として捉えられている.今後は専用の器具や器材の改良や開発,新たな術式の考案や開発,当然ながら手技の習得や習熟などにより,より有用性のある手術法として普及していくものと期待している.

 今回の卵管に対する腹腔鏡下手術としては,これまでに体験してきた卵管疾患におけるいくつかの手術内容を振り返りながらマイクロサージャリーへの方向性についても模索したいと考える.

連載 Estrogen Series・26

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 ホルモン補充療法は動脈かゆ状硬化にどのような影響を与えるのであろうか? イタリアのミラノ大学の著者らは,24名の子宮摘出および両側卵巣摘出術を受けた(手術の適応以外には)健康な女性を対象に,まず術後の3か月間は血中リポ蛋白濃度のみを測定した.次いでホルモン補充療法(HRT)の開始を希望した19名のボランティア女性を対象にHRTを開始し,3,6,12か月後のリポ蛋白を調べた.

 測定したリポ蛋白は総コレステロール,低密度リポ蛋白(LDL),高密度リポ蛋白(HDL),中性脂肪(triglycerides),リポ蛋白(a)などである.それ以外にFSHとLHを測定した.更年期後のリポ蛋白(a)=Lp(a)については,あまり多くが判明していない.ある研究によれば,Lp(a)は心筋梗塞,脳卒中,冠動脈バイパス手術後の狭窄などの独立した危険因子(risk factor)である1).Lp(a)の血中濃度は主として遺伝的に決定されるが,肝硬変で減少し,また腎不全や糖尿病で上昇することが知られている.さらにエストロゲンなどの性ホルモンによりLp(a)は著しく減少する2)

連載 産婦人科キーワード・7

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語源

 活性酸素を消去する酵素にはスーパーオキシドを過酸化水素と酸素に変えるスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)や過酸化水素を分解するカタラーゼ(catalase)などがある.“dismutase”の“mutase”はラテン語“mutatio”(変化,転換)からきており,mutation(突然変異)やmutant(突然変異体)も同じ語源である.ジスムターゼ(不均化酵素)とは同一の2分子あるいはそれ以上の物質から酸化・環元などによって2種類以上の物質を生じる反応を触媒する酵素という意味である(O2+O2+2H→H2O2+O2),また“catalase”はギリシャ語の“katalusis”(分解)に由来している.

連載 産婦人科キーワード・8

減胎手術 前田 和寿
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語源

 「減胎手術」は外国では当初,選択的胎児殺(selective feticide)という言葉が用いられたが,直接すぎる表現のために現在は選択的中絶(selec—tive termination),選択的減数(selective reduc—tion),選択的出産(selective birth),選択的人工流産(selective abortion),多胎妊娠減数(multi—fetal pregnancy reduction)という言葉が用いられている.

連載 病院めぐり

浦和市立病院 池田 俊之
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 浦和市立病院は埼玉県の南に位置し,JR京浜東北線北浦和駅もしくはJR武蔵野線東浦和駅よりバスで十数分の見沼田圃沿いの小高い丘の上にあり,周囲は緑に囲まれ春には満開の桜に包まれる.当院は昭和28年に創設され平成元年11月に病床数566床,診療科14科の総合病院として新たにスタートした.厚生省の臨床研修指定病院に認定され,毎年5人程度の研修医を受け入れ2年間のスーパーローテートを行っている.産婦人科は日本産婦人科学会認定医制度卒後研修指導施設に指定されている.また,厚生省のモデル事業として浦和市医師会との病診連携体制をとり開業医との協力を密にし,二次救急に対する24時間体制をとる公的医療機関として地域住民の信頼も厚い.

 産婦人科は平成元年11月に新設され,現在のベッド数は62床(産科病棟15床,婦人科病棟47床)である.当初より慶應義塾大学産婦人科学教室の関連施設であり,現在は常勤医師5人で診療に当たっている.うち1名は卒後研修として慶應義塾大学からの出張である.

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 熊本市立熊本市民病院は昭和21年2月1日に開設され,熊本市の東部に位置し,病院の南西には阿蘇山からの伏流水による江津湖が展望できる.現在の全病床数は一般病床数540床,伝染病床数40床の580床で,医師数が職員77名,専修医20名,研修医11名の総合病院である.厚生省の臨床研修指定病院と日本産婦人科学会認定医制度卒後研修指導施設と母体保護法指定医研修機関に指定されている.友好都市であるハイデルベルグ市と姉妹都市であるサンアントニオ市との国際交流が盛んで,ハイデルベルグ大学とは1年に数名の医師,看護婦,技師が相互研修を行っている.

 産婦人科に関しては医師は研修医1名を含む6名である.勤務は今だに土曜日も診療を行っている.月曜日から金曜日までは外来担当が4名,病棟担当2名で行っているが,病棟担当者が病棟の処置が終わり次第,外来診察を手伝い,午後1時頃にようやく外来診療が終了する.手術日は火,水,木曜日の午後の3日間である.金曜日の午後は新生児科との症例検討会,病棟回診,入院患者診察,検討会を行う.土曜日の勤務は原則として2名で行うことにしているが,他に2名ほどが自主出勤しているのが現状である.当直は産婦人科当直があり,6日に1回は当直があり大変である.研修医は他に研修医当直(全館)を月に1〜2回行うためさらに大変である.

CURRENT RESEARCH

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 大学での研修後,いくつかの赴任病院で産婦人科のさまざまな症例に遭遇したころ,妊娠した場合,果たして本当にhCGのみで妊娠黄体が誘導され,着床の成立を維持できるのかどうか,また妊娠初期の母体の急速な変化は,内分泌系のみで説明できるのかなどを,素朴な疑問として感じるようになりました.しかしながら,その当時にいくら成書を繙いても明確な答えは得られませんでした.8年前に大学の研究室にもどって主に卵巣細胞の分化に関する研究に携わるようになり,妊娠黄体にTリンパ球に対する細胞接着分子が発現していることを明らかにしました.このときから妊娠黄体の維持を含め,妊娠初期の母体の変化に免疫系が積極的にかかわっているのではないかという考えに至りました.その後,当時の教室主任である森教授より,着床現象も含めて解析するようにと助言をいただき,同僚であった故後藤康夫君とともに,本研究を開始して,本稿で紹介するような展開となった次第です.

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 当科において過去20年間に低悪性度子宮内膜間質肉腫と診断された5例を臨床的に検討した.初発年齢は32歳から46歳,平均38歳で,いずれも閉経前の経妊婦人であった.主訴は不正性器出血と過多月経で,全例が子宮筋腫あるいは子宮腺筋症として単純子宮全摘出術を受けていた.発生部位は5例とも子宮体部で,ポリープ状あるいは粘膜下筋腫様に発育していた.割面はいわゆる虫状で淡黄色調を呈する傾向がみられた.1例で組織学的に子宮傍組織進展と卵巣転移が認められた.術後6か月から19年の経過観察中,2例が再発した.1例は8年後に骨盤・腟再発,10年後に左肺転移,16年後に再度骨盤内に再発し腫瘍摘出が行われた.他の1例では4年後に骨盤再発と肺転移をきたしたが,黄体ホルモンの大量療法と白金製剤の投与が奏効した.再発例では両側付属器摘除術が施行されていなかった.今のところ5例全例が生存している.

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 症例は29歳初産婦で,既往歴に特記事項はなく,月経歴に異常は認めない.妊娠26週ころより下肢の浮腫が出現し,妊娠30週に皮下出血,蛋白尿,低カリウム血症も認めたため妊娠中毒症の診断にて入院した.入院後も症状は軽快せず下肢の筋力低下が著明となった.内分泌検査よりCushing症候群合併妊娠が疑われた.妊娠34週0日陣痛発来し,自然分娩となった(2,191g,男児).産褥2日目,腹部CTで右副腎に腫瘍像を認めたため,右副腎腫瘍によるCusing症候群の診断のもとに,右副腎摘出術を施行した.摘出腫瘍の病理組織診断は副腎腺腫であった.

基本情報

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臨床婦人科産科
52巻5号 (1998年5月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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