総合リハビリテーション 25巻10号 (1997年10月)

特集 中枢神経障害のリハビリテーション

リハビリテーション診断学・処方学

理学的所見と評価 安藤 徳彦
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はじめに

 リハビリテーションの多くの教科書は「障害の評価」に説明の中心を置いているが,それはリハビリテーション医学の特徴の理解を得ることを目的とするからであり,診断学を軽視した結果ではない.リハビリテーションの評価は診断学から独立して別個に存在するものではなく,診断を前提として成立するものである.疾患の予後を正しく知らないでリハビリテーションの治療計画を設定することは不可能である.

 とはいうものの,リハビリテーションの目的は患者の社会的活動性をできるだけ元の状態に戻すことだから,疾患を直接・間接の原因として起きているあらゆる障害を把握する必要がある.中枢神経系の神経診断学に関係する手続きも,機能障害の推移を把握して予測することに中心が置かれるべきである.また,機能障害の結果として生ずる能力低下はもっとも重要な評価対象である.さらに,退院後の家庭の状況,生活を営む地域生活環境と社会資源,職場や学校の物的・人的環境を無視して,機能障害のみを対象にリハビリテーションを終始させるようでは,その結果は虚しいものに終わる.

 以上の観点に立って,中枢神経系の診断・評価法の概論をリハビリテーション医の立場から述べる.

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はじめに

 リハビリテーション医療では,一人の患者に対して複数のリハビリテーション・スタッフが,同時進行形式で治療(訓練や指導を含む)を進めていく.そのため,円滑なリハビリテーション治療を行うには,リハビリテーション医師の基本的治療方針の明確化,スタッフ間の意思統一,正確な医療指示の伝達,訓練状況や治療効果の客観的把握が大切である.リハビリテーション診療録では,これらの条件を満たす記載をする必要があり,なかでもリハビリテーション処方はリハビリテーション医の業務上の指示を伝達する手段として大変重要である.ここでは,リハビリテーション診療録,問題リスト,リハビリテーション処方,退院要約に関して注意点の概要を述べる.

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診断・評価・処方とリハビリテーション医の役割など

 脳卒中(stroke)は,脳血管の閉塞または破裂による非外傷性脳損傷が原因となる,突然の神経学的欠損(neurological deficit)を示す病態である.その障害像は,片麻痺などの運動機能障害だけでなく,行為,認知,コミュニケーションの障害,生命維持に必要な嚥下や排泄の問題など,きわめて多岐にわたる.さらに,病型や病変部位によって,対処しなければならない障害の種類は異なってくるため,画一的なリハビリテーション・アプローチは存在しないといっても過言ではない.したがって,脳卒中のリハビリテーションでは,国際障害分類に基づいてリハビリテーションの問題点を整理し,問題点に沿ったアプローチを展開していくことが重要である.

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 診断・評価・処方とリハビリテーション医の役割など

 脳卒中患者に対する研究はこれまで多くなされており,論文発表も多く,リハビリテーションに関しても大きな柱はできあがっている.しかし,同じ脳損傷である外傷性脳損傷(Traumatic Brain Injury;TBI)のリハビリテーションに関して注目されだしたのは,わが国ではここ数年のことである.同じ脳損傷でも,脳卒中では片麻痺による身体機能障害が主な問題となるのに対し,TBIでは運動機能障害に加え,高次脳機能障害や認知障害,行動異常などが問題となり,そのリハビリテーション・アプローチは複雑で難しいものとなっている.本稿では,TBI患者の病態や障害像を概説し,そのリハビリテーション・アプローチについて述べる.

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 診断・評価・処方とリハビリテーション医の役割など

 頸髄損傷(頸損)による四肢麻痺者に対するリハビリテーション・アプローチは,身体の残存機能によって大きく異なり,ひとまとめにして論ずることは困難である.完全麻痺のうち,第5頸髄節残存(C5)以上の比較的高位の頸損者では,生命維持のための呼吸管理と介護者の教育,福祉機器などの導入が必要となる.C6以下の頸損者では,できるだけの日常生活の自立と就労や就学等の社会参加が目標となり,上部胸髄損傷による対麻痺とほぼ同様の対応が期待される.一方,不全麻痺や高齢者では障害像が一人一人異なっており,画一的な対応は困難で,リハビリテーション・プログラムやゴールの設定が難しい.

 ここでは,リハビリテーション専門病院で扱うことが多い,比較的若年のC4,C5の完全損傷を中心に,リハビリテーション・アプローチ実をまとめた.

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 外傷性胸・腰髄損傷(以下,脊損)のリハビリテーションはリハビリテーション医学における障害のモデルともいわれ,スタッフ間での最ゴールの設定を共有しやすく,目標に近い結果を得ることができる.しかしながら,医療・社会情勢の変化に伴い,従来の画一的なADLだけでく,個々のQOLまで配慮したニーズが拡がり,当科においても鎮痛・鎮痙を目的とした硬膜外脊髄通電法やWalkaboutによる実用的歩行装具の試み,さらに入院中早期から屋外訓練や車いすスポーツ活動などの取り組みがなされてきた.

 平成8年までの12年間に当科に入院した頸髄損傷を含む外傷性の脊損は290例で,このうち胸・腰髄損傷は113例であったが,最近の傾向として褥瘡(とくに坐骨部)の処置や尿路感染症での再入院が増加している.これは幅広い社会活動に基づくことにもよるだろうが,ニーズを充足する前に,ベースにある障害像の見極めとともに,二次的合併症の管理・指導の徹底が十分なされているかをもう一度見直す必要があろう.

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 診断・評価・処方とリハビリテーション医の役割など

 パーキンソン症候群は陽性症状として振戦・固縮,陰性症状として動作緩慢・姿勢反射障害・歩行障害・認知機能低下を主徴候とする慢性・進行性の神経変性疾患で1),一般的に表1のように分類される.パーキンソン症候群のなかではパーキンソン病が80%近くを占め,厚生省の統計によれば,人口10万人当たりの有病率は50人といわれている2).リハビリテーション医療においては,脳血管障害にっいで治療の対象となることの多い中枢神経疾患である.

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 診断・評価・処方とリハビリテーション医の役割など

 脊髓小脳変性症(Spinocerebellar degeneration;SCD)とは

 脊髄小脳変性症は,主として運動失調を呈する原因不明の中枢神経変性疾患である.臨床的特徴として,緩徐進行性で,遺伝性に発症することもあり,運動失調症に加えて,錐体路症候,錐体外路症候,自律神経症候,末梢神経症状や,これらに伴う脊椎彎曲,足変形などを認めることがある.これらの症候の有無によりSCDの臨床病型を診断する.

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 診断・評価・処方とリハビリテーション医の役割など

 横浜市における発達障害児の療育は,「障害児地域総合通園施設構想」(1984年)に基づいて,横浜市総合リハビリテーションセンターを中核に各ブロック別に再編成された総合通園施設(地域療育センター)が保健所との連携を軸に対応していくことになっている.

 今回,一地域療育センターの例をもとに,脳性麻痺児の療育(リハビリテーション)プロセスについて,その現状と課題をまとめた.

各種疾患のリハビリテーション

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はじめに

 クモ膜下出血はクモ膜下腔へ出血した状態を言う.1761年,Morgagniによって初めて報告されて以来,今日に至るまでさまざまな病因論や病態生理が述べられてきた1).近年,脳血管障害の発生率および死亡率が減少しつつあるものの,クモ膜下出血は一向に減少傾向を示さない.したがって,リハビリテーション診療においても,クモ膜下出血後の患者を扱うことは少なくない.

 本稿ではクモ膜下出血の原因の大部分を占める脳動脈瘤および脳動静脈奇形を中心に,リハビリテーション診療上の留意点につき解説する.

多発性脳梗塞 水間 正澄
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はじめに

 多発性脳梗塞は,その疾患の概念については曖昧であるが,リハビリテーションの日常診療においてしばしば認められる病態であり,多様な障害への対応が困難となることも少なくない.一般に,脳血管障害の臨床経過は,急速に症状の悪化(発作)をきたし,その後,徐々に軽快していくものが多いが,多発性脳梗塞の場合は以下のようないくつかのパターンが考えられている1,2)

 ①再発性の脳梗塞であるもの

 ②臨床的には初回の発作であるが,画像診断上は,複数の梗塞病変が認めらるもの(責任病巣が明らかなものもあれば不明のものもある.)

 ③小さなエピソードが段階的にみられ,全体として徐々に悪化していくもの

 ④TIAあるいはRINDが先行していて,新たな完成発作としての脳梗塞発作が加わるもの

 ⑤脳梗塞の明らかな発作はないが,痴呆,パーキンソニズムや仮性球麻痺などの症状が徐々に出現してくるもの(画像診断上は多発性の脳梗塞病変を認めるもの)

 ⑥画像診断上,複数の無症候性脳梗塞の認められるもの(頭痛・めまいなどの精査や脳ドックなどで偶然発見されるもの)などのパターンに分けられる(図).

 無症候性脳梗塞は多発性脳梗塞の進展,再発の要因として最近重視されており,この大半は穿通動脈領域のラクナ(lacuna)梗塞であるとされ,個々のラクナ(直径15mm以内の小梗塞)の神経症状が明らかでないまま次第に進行し,徐々に神経症状を呈するようになるものである3).また,ラクナが多発した場合,lacunar state(etat lacunarire)と呼ばれ,多彩な症状を呈する.

 多発性脳梗塞は梗塞巣が多発している状態であるので,そのなかには両側性のものもあり,呈しうる主な症状としては,両側錐体路症状,仮性球麻痺,痴呆,血管性パーキンソンニズム,排尿・排便障害などがあげられている.そして,それらの症状は多かれ少なかれさまざまな組み合わせで同時に伴いやすいとされ,その出現のしかたも,緩徐に出現するものや急速に出現してくるものまでさまざまである.したがって,多発性脳梗塞によるとされる種々の障害に対してのリハビリテーションについては,前述の③,⑤,⑥のパターンのように,急性期や回復期などと,それぞれ分けて論じるのは困難なものも多い.

脳腫瘍 小林 恒三郎
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はじめに

 脳腫瘍とは頭蓋内新生物の総称である.脳実質由来の一次性腫瘍と転移性腫瘍がある.症状は,腫瘍そのものが周辺の神経組織を傷害することによる場合と,頭蓋内圧充進の2つに分けられる.前者はいわゆる局在症状である.

 脳腫瘍患者のすべてがリハビリテーション治療の機会を持つわけではないが,日常のリハビリテーション診療で決して少ない疾患ではない.脳腫瘍治療の現状に触れながら,リハビリテーション医療における問題点を考える.

低酸素脳症 栢森 良二 , 三上 真弘
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 疾患の概念

 低酸素脳症(hypoxic encephalopathy)とは,心循環系あるいは肺呼吸系の障害による脳への酸素欠乏によって生じる脳損傷である.

非外傷性脊髄障害 出江 紳一
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 非外傷性脊髄障害のリハビリテーション

 脊髄障害の1/3~1/2は非外傷要因による,対麻痺・四肢麻痺・神経因性膀胱などの個々の障害に対しては,外傷性脊髄損傷で確立された技術を援用することができる.一方で,以下のように非外傷性脊髄障害特有の問題点やアプローチもある.

 1)原因,病変部位(灰白質主体か白質主体かなど),経過,転帰はさまざまであり,疾患と障害の予後予測に基づく目標設定と治療法の選択には柔軟な対応が要求される.

遺伝性痙性対麻痺 森本 茂
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はじめに

 遺伝性痙性対麻痺(hereditary spastic paraplegia;以下,HSP)は,慢性進行性の主として両下肢に強い痙縮と対麻痺をきたす疾患である.HSPに限らずリハビリテーション・プログラムを設定する時に常に注意しなくてはならないことであるが,HSPのような慢性進行性疾患でのリハビリテーション処方においては,特に中長期ゴールの設定が重要である.主治医(リハビリテーション医)は,コメディカルスタッフへ,長期的なリハビリテーション・プログラムの方針をうち立てること,そして,この基本方針が,各スタッフ間で統一されていることが大切である.通常の脳血管障害,脊髄損傷と大きく異なる点は,この疾患が,他の進行性神経疾患と同様に状態(impairment)が徐々に悪化していくことであり,その経過のなかで,リハビリテーション医は,レベルダウンの程度・速度を予測し,スタッフ間で共通して認識できるようにすること(できること)が重要である.

HAM 山鹿 眞紀夫 , 森 修 , 高木 克公
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はじめに

 HAM(HTLV-Ⅰ関連ミエロパチー;HTLV-Ⅰ associated myelopathy)は,ヒトのレトロウイルスの一つである成人T細胞白血病(ATL)を起こすHTLV-Ⅰ(human T cell lymphocytic virus type Ⅰ)によって生ずる慢性脊髄疾患であり,1986年,納らにより発見,命名された1).同じ頃,カリブ海地域でHTLV-Ⅰとの関係が見いだされた熱帯性痙性脊髄対麻痺(TSP;tropical spastic paraparesis)のうちHTLV-Ⅰ抗体陽性のものとHAMは基本的には同一のものと考えられ,総称としてHAM/TSPの名称も使われている2)

 HAMはその報告以来,大きな注目を集め,急速に解明が進められているが,現在,根本的治療法はなく,種々の治療法が試みられている3).HAMは基本的に緩除進行性の疾患であり,最終的には車椅子から寝たきりレベルに至り,その経過を通してリハビリテーションの必要性も大きい.

筋萎縮性側索硬化症 中野 恭一 , 藤原 誠
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 概念

 筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis;ALS)は19世紀に報告されて以来よく知られた疾患であるが,原因はもとより有効な治療法の確立されていない進行性の神経系統疾患である.本疾患についてCharcot & Joffroy(1869)は次のように記載している.それによると,20~50歳の間に上肢筋萎縮と不全麻痺で発症する.次いで,下肢に痙性麻痺が見られ,遅れて筋萎縮が現れる.最後に球症状が出現し,2~3年の経過で球麻痺のため死亡する.しかしながら,知覚麻痺,膀胱直腸障害はなく,褥瘡は作らないものとしている1).その後,このような古典的ALSとは異なる症例が多数報告され,最近では,各種の運動ニューロンに病変のある疾患群のうち,障害される運動ニューロンの部位によって亜型分類がなされているが,ALSもその一亜型と位置づけられている(表1).

 発症年齢は35~69歳1)とするもの,またさらに幅広く16~77歳(平均55歳)2)など,報告により異なる.吉田(1996)3)は,臨床統計学的にその平均値を54.4±11.1歳(男性54.0±10.8歳,女性55.1±11.5歳)とし,男女比は1.72:1と報告しているが,いずれも男性に多く発症し,遺伝的要素は少なく,罹病率に人種差が低い疾患であるとされている.

 病因として,「遺伝」,「外傷」,「中毒」,「代謝・栄養」,「ウイルス」,「金属」など指摘されて久しいが,確実なものはない.地域特性として紀伊半島とGuam島がALS多発地域として確認されているが,10年以上の長期生存例の割合も多い4)

 病理像は,下位運動ニューロンと錐体路の変性であるが,脊髄前角細胞では主に大型の神経細胞が脱落し,末梢神経でも径の大きい有髄線維の脱落をみる.脳神経核の変性は舌下神経核,疑核,三叉神経運動核,顔面神経核の順によくみられるが,動眼,滑車,外転神経核に変性をみることはほとんどない.

多発性硬化症 小林 一成
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 疾患の概念

 多発性硬化症(multiple sclerosis;MS)は,中枢神経系に起こる原因不明の脱髄疾患で,大脳,小脳,脳幹,脊髄,視神経の神経軸索髄鞘に,破壊と修復の機転が限局性に次々に生じる.そのため,多彩な神経症状(空間的多発性)が増悪と寛解を繰り返す(時間的多発性)ことが特徴で,診断は剖検により確定されるが,以上述べた特徴を,臨床症状,検査所見,CTあるいはMRI画像の組み合わせから同定できれば,臨床的にも確定診断できる.

 発症は,成人に多く,子供や老人にはまれであり,やや女性に多いことから自己免疫機序の関与が考えられている.経過が長いこともあって,欧米では最も多く見られる神経疾患のひとつであり,米国の20代から50代までの生産年齢層が障害者となる原因の第3位を占め(第1位:外傷,第2位:関節炎),年間発症率は約8,000人と,脊髄損傷の約2倍である4,19).しかし,発症率には地域差があるため,欧米で人口10万人あたり30~80人の有病率が,日本では1~4人であり,わが国ではむしろ比較的少ない神経疾患である9)

 特異的な治療法はないが,発症に免疫機能の異常が考えられていることから,免疫抑制剤や副腎皮質ステロイドの投与が行われる.しかし,現在のところ,薬物治療によって疾患そのものを治癒させることはできず,薬物治療の主体は個々の症状に対する対症療法で,これに加えてリハビリテーションがきわめて重要な位置を占める.

ミトコンドリア脳筋症 阿部 和夫
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 疾患の概念

 ミトコンドリア脳筋症は,好気的エネルギー産生に必須な細胞小器官であるミトコンドリアの異常が存在するために,種々の神経症候および筋力低下などをきたす疾患群の総称である.現在のところ表1のような分類が行われている1-3)

 ミトコンドリアは,そのほとんど全てが母親からのみ子供に伝えられるので,遺伝歴のある例では母系遺伝形式をとる.エルゴ負荷などの好気的運動負荷により,血中乳酸,ピルビン酸の上昇が認められることが多く,診断に有用である.病理学的には生検筋標本でGomoritrichrome染色によってragged red fiber(RRF)と呼ばれるミトコンドリアが異常集積した筋線維,およびcytchrome c oxydase(CCO)染色で染色されない筋線維が認められる4)(図1).各臨床病型ごとに特定のミトコンドリアDNA(mtDNA)の変異が同定されているため,白血球あるいは生検筋を用いての遺伝子診断が可能である.

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はじめに

 アルツハイマー型痴呆は1906年のアルツハイマーによる症例報告以来,代表的な痴呆性疾患として精力的な研究がすすめられている.特にわが国では,急速な高齢化社会の進行による患者数の増加のため,医学的のみならず社会的にも注目を浴びている.

 アルツハイマー型痴呆は65歳未満で発症する早発型(狭義のアルツハイマー病)と65歳以上で発症する晩発型(アルツハイマー型老年痴呆)に分けられる.また,近年,発展著しい分子生物学的技法により,常染色体優性遺伝を示す家族性と散発性に分類され,家族性のものとして第1染色体および第14染色体の膜蛋白の点変異,第19染色体のアポリポ蛋白Eのε4対立遺伝子,第21染色体のアミロイドβ蛋白前駆体遺伝子の点変異の4種類のものが発見されている.

 一方,治療に関しては,その中核症状である知能低下に対する有効な薬剤はいまだ存在せず,リハビリテーション医学領域からのアプローチも模索されている.

 そこで本稿では,まず,アルツハイマー型痴呆の診断の際に重要である診断基準および画像診断について述べ,そしてリハビリテーション施行にあたっての評価および処方上の留意点について概説する.

トピックス

脳虚血とアポトーシス 似鳥 徹
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はじめに

 われわれヒトは精子と卵子の融合すなわち受精によってこの世に生を受ける.一個の細胞としての生物の誕生である.その後,受精卵は増殖・分化・成長を遂げ,個体として誕生する.この一見輝かしき“生”の連なりのなかに,実は常に細胞の“死”が存在し,それなくしては正常な形態形成および機能の獲得が行い得ないという事実がある.

 この発生過程に見られる細胞の死は予定細胞死(programmed cell death)と呼ばれるもので,遺伝子のなかにあらかじめ書き込まれていた死のプログラムが,予定された死の時期を迎えたある種の細胞において発動し,細胞を死へと導くという現象である.すなわち細胞は自らの遺伝子の発現によって粛々と死への道筋をたどるのである.

 こういった生体内に共存する細胞死の現象は,生後の発育過程や成熟さらに老化の各段階においても同様に存在する.成熟した組織(細胞の集合体によって形成される)や器官(臓器:種々の組織の組み合わせによって形成される)においては,その恒常性を維持するために,役割を終えた細胞が処理され,新しい細胞に取って代わる,いわゆる細胞の更新(turnover)が行われる.ここで行われる細胞の処理も細胞自身の静かな細胞死への移行によってなされるものであり,細胞の死が細胞の新生と同調し,統合された環境内で行われなければ,組織内の細胞数の数合わせがうまく行かなくなり,異常な増殖組織の形成が起きる.言うなれば,細胞が予め決められたように死んでくれないと,個体としての生命を持続することが難しくなってしまうのである.

 これに加えて個体には突発的なあるいは徐々に条件付けられた細胞群の不慮の死(accidental cell death)が時折訪れる.このように,個体は“生”の期間中に,さまざまな状況での細胞の“死”を生理的な必須条件として経験しながら,さらに,細胞の不慮の“死”と戦い,そして個体としての“生”を全うする.

 近年,この細胞死の現象が生理的な意義のみならず,病理学的な面からも注目され,死に至る機構の細胞生物学的あるいは分子生物学的な研究が盛んに行われている.

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はじめに

 近年,痴呆患者の人口は増加の一途をたどり,なかでもアルツハイマー病の占める割合は大きく,早急な対策が迫られている.アルツハイマー病は今世紀初頭にドイツの医学者であるAlzheimerが報告して以来,主として臨床的,病理学的,生化学的な研究が行われてきたが,その一義的な病因は不明であった.近年,特に,ここ10年間の分子遺伝学(遺伝子解析)の進歩により,これまで明らかでなかったアルツハイマー病(Alzheimer disease:AD)の病因に関連した遺伝子が次々と明らかにとなり,急速な進歩が認められている.

 アルツハイマー病の大多数は,明らかな家族歴のない孤発性アルツハイマー病であるが,少数例ではあるが,常染色体性優性遺伝を示す家族性アルツハイマー病(familial AD;FAD)が存在する.また,これらはそれぞれ発症年齢で65歳を境に(欧米では60歳を境とすることも多い)早発型と晩発型とに分類されている.

 アルツハイマー病の病因解明という観点から,分子遺伝学的には現在大きく分けて2面からのアプローチが行われている.すなわち,早発型FADでは主として単一遺伝子病としての見地からのアプローチが,孤発性アルツハイマー病,晩発性FADでは主として多因子遺伝学的なアプローチが行われている.

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はじめに

 近年,分子生物学的手法が多くの遺伝性疾患の研究に応用され,単一遺伝子が原因と考えられる疾患であれば,比較的迅速にその遺伝子を決定することができるようになった.なかでも,原因が不明であった遺伝性の神経変性疾患の研究・診断に,分子生物学的手法は多大な貢献をした.

 筋萎縮性側索硬化症amyotrophic lateral sclerosis(ALS)は,上位および下位運動ニューロンが侵され,進行性に全身の筋の脱力と萎縮をきたし,呼吸のサポートを行わなければ発症から平均3年以内に死亡する原因不明の疾患であるが,そのうち5~10%に家族歴が認められ,多くが常染色体優性遺伝を示す(Familial ALS;FALS).近年,FALSの一部の家系で変異Cu/Zn superoxide dismutase(SOD1)が原因遺伝子として同定され,変異SOD1によるトランスジェニックマウスが四肢麻痺を呈することがわかり,注目を集めている.SOD1に遺伝子変異が見いだされるのは,FALS全体の10~20%にすぎないが,個々の症例の臨床症状は孤発性ALSのそれと区別できず,病理学的には運動ニューロンが高度に侵される.

 このように,FALSと孤発性ALSとは類似点が多く,変異SOD1が運動ニューロンに変性をきたすメカニズムを研究することで,ALSの大部分を占める孤発性ALSの病態解明にも寄与するものと期待されている.

構音障害と発語失行 中西 雅夫
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はじめに

 言語障害とは,言語という表象符号を用いた情報伝達過程のいずれかのレベルの障害により,言語の符号化・送信・受信・解読などの機能に破綻を生じた状態をいう12).その広義の分類4)は,以下のごとくである(表1).

 1)言語による表出と了解の基盤にある心理・生理・解剖学的メカニズムに異常があって出現する言語障害(一次性言語障害)

  ①失語aphasia

  ②発達性言語障害

 2)言語のみの限定されない心理一般の異常(種々の精神障害ないし精神症状群)があり,その二次的結果(部分症状)として出現する言語障害(二次性言語障害)

  ①精神障害性言語障害

  ②神経症性言語障害

  ③発語障害dysphemia

 3)言語による表出と了解の前提条件をなす運動系または聴覚系に異常があり,出現する言語障害(発語障害)

  ①構音障害dysarthria

  ③聴覚障害(特に難聴)

 この分類では,発語失行apraxia of speechは後述のごとく発声・発語筋群の異常が認められないので,一次性言語障害に入ると思われる.

 平山6)は,言語障害のうち言語表出面の異常のみを取り上げ,これを運動性発語障害とした.これは構音障害,失構音anarthria(=発語失行),運動性失語からなり,失構音は構音障害と境を接し,運動失語と往々にして重畳すると述べている.この重畳するということは,発語失行が運動失語とくにBroca失語の主要症状の1つになっており,これがBroca失語から分離し得る症状であるかどうかが問題になっていることを示している.

 したがって,発語失行について述べる場合,この問題を避けられないので,このことから述べていきたい.

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はじめに

 バイリンガルの失語(bilingual aphasia)とは,一般には2か国語話者(bilingual)に生じた失語症のことを表すが,決して2か国語に留まらず数か国語話者(polylingual)の失語症者も含めており,広い意味では博言家の失語症(polyglot aphasia)を示している.

 当然,2か国語以上の多くの言語を使用できる人口が増えない限り,失語を呈する症例の頻度も増すことはない.よって,より都会ほど,より国際都市になればなるほど,その頻度は増してくることになる.日本では,方言を入れれば必ずしも単一ではないが,ほぼ単一言語世界であるために,他国語に目を向けることが少なく,この分野の研究は他国と比較するとかなり遅れている.バイリンガルの失語症の研究となると,ヨーロッパでは約100年前より始まっているのに対して,日本では文献上では約20年前に,綿森ら1)によって報告されたのが始めてである.

 本稿では,ヨーロッパを中心としたこれまでの研究結果のまとめと,それに対して自験例を追加した本邦での文献報告症例による検討を行う.

流涎の病態と対策 鈴木 美保 , 才藤 栄一
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はじめに

 流涎の英訳にはsialorrheaとdroolingがある.sialorrheaは,唾液の過度の分泌という意味を暗に含み,droolingは,通常,口唇からの唾液のこぼれ落ちている状態を意味する.しかし,広い意味での流涎は,口唇からの唾液のこぼれ落ちだけでなく,“口腔後部へのこぼれ落ち”すなわち通常なら,嚥下反射を誘発するはずの唾液が下咽頭に流入し,そのまま停留することを含めて使用されている.口唇からの唾液のこぼれ落ちは,本や道具,衣服などを汚染し,衛生上好ましくない(図1).また,こぼれた唾液は悪臭の原因にもなるばかりでなく,常に唾液にさらされている皮膚には難治性の潰瘍が生じたりする.体液や唾液に含まれている栄養分の喪失も否めない.さらに,対人関係においては相手に不快感を与え,仲間はずれ(social rejection)になることもある.リハビリテーション訓練においても,療法士がひっきりなしに流涎を拭かなければならず,運動療法や作業療法の進行にさしつかえる場合もある.また,口腔後部へこぼれ落ちた唾液は,適切に嚥下されないと,むせやせきこみ,悪心を起こさせ(gaging),誤嚥を引き起こすことにもなる.

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はじめに

 近年,リハビリテーションの場で摂食・嚥下障害患者を扱う機会が増えており,いろいろな意味で「重度」な症例に遭遇する.今回,昨年1年間に当院で経験した重度摂食・嚥下障害症例および対応に難渋した症例を検討し,原因と対策につき考察を試みた.

歩行障害の評価と訓練 鈴木 堅二
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はじめに

 運動障害の評価には時・空間的(temporo-spatial)手法,運動学的(kinematic)手法,運動力学(kinetic)手法,動作筋電図(EMG-polygraphic),運動生理学(work physiological)手法,発達学的(developmental)手法が用いられてきた.しかし,中枢神経疾患の運動障害では,骨・関節疾患とは異なり,動作パターンの規則性が低く,運動学的や運動力学的解析による評価には訓練や治療への実時間での臨床応用が難しいという問題点もある.

 中枢神経疾患の歩行障害の評価に先立ち,運動障害に関わる神経学的評価を行う(表1).歩行障害の評価では,従来から用いられてきた時・空間的手法,動作筋電図や発達学による解析が臨床的に行われている.ここでは,歩行障害の病態,歩行機能の計測と評価について述べ,最近注目されている神経・生体力学的手法(neuro-biomechanics)による片麻痺歩行の評価と訓練について概説する.

脳卒中患者の転倒 尾花 正義
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はじめに

 脳卒中患者は,片麻痺,感覚障害,運動失調,軽症の意識障害,注意障害などのさまざまな要因により,転倒する危険がある.しかも,転倒による骨折や頭部外傷は,脳卒中患者に対するリハビリテーションの大きな阻害因子となる.そこで,脳卒中患者が生活する病院や家庭などにおいて,転倒に対する予防対策が大切となる.

 ここでは,脳卒中患者の転倒の実態とその予防対策に関して,最近の文献および1995年4月から12月の間に東京都立荏原病院(以下,当院)のリハビリテーション科に入院した脳卒中患者134例における転倒の実態(以下,自験例1))から述べる.

脳卒中患者の性機能障害 川平 和美
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はじめに

 脳血管障害による性機能障害の内容は,これらの疾患が多い中高年者の性意識や脳卒中発作前の性機能と密接に関連しており,今後の高齢化社会ではそれへの理解と対応はますます重要となる.

 海外では性活動をQOLに影響する要因として重視する傾向は強まっており,癌患者における性機能障害の検討や身体障害のある女性についての社会的な要因などを含めた詳細でかつ広範な検討1),脊損女性の性機能を男性で行われているような性的な視覚刺激や性器への刺激に対する膨潤を含む性反応の検討が行われるなど,性機能の詳細な検討が進められている2)

 わが国においても,障害者の性の問題をQOLに影響する重要なものと認めながらも,まだまだ性について語ることが少ない社会のためもあって,リハビリテーション施設における性生活の指導など,現実の対応となるとまだまだ不十分な状態で3),今後,もっと積極的な姿勢が求められる.

 ここでは,セクシャリティのうちの異性との交流がもたらす心理情緒的なものには触れず,性交自体に関連したことを述べるが,脳卒中患者の性機能障害の理解と性生活の指導に参考になるように,日本人の性意識と性行動についても簡単に触れたい.

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はじめに

 脳卒中後遺症としての機能障害と能力低下が患者の復職を困難にしている点は,リハビリテーション関係者の最大の悩みであり,復職を念頭に置いたリハビリテーション訓練の合理化と質的向上は,切実な課題である.

 これまでの調査では,稼働年齢層の脳卒中患者の再就労阻害要因と,復職交渉で雇用者側から求められる能力は,表1,表2に示すものであった1)

 中枢神経障害者一般の職業リハビリテーションとはやや趣を異にする,中途障害者の復職問題は,患者の置かれた立場(職務,家族扶養など)を考慮するとリハビリテーション医療でも軽視できず,将来,同年層の患者の増加が十分予測されるため,本格的な取り組みが求められている.

 この稿では,脳卒中患者の復職を支援する立場から,

 1)医療現場で実施できる能力評価法の選択

 2)復職に有効な残存能力の提示

を行い,患者の復職の可能性を多角的にチェックする臨床的意義について述べる.

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編集後記
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 ・第34回日本リハ医学会,IRMA Ⅷが盛況の内に終わり,先生方もあの熱気を秋風で冷ましつつホッと一息というところでしょうか.今回,例えば国内学会で,京大・木村淳先生企画のシンポ「筋電図と臨床神経生理学入門」,そして石神・伊藤先生司会のパネル「在宅訪問における評価」や慶大・池上直己先生講演「介護保険が提起するリハ医の新しい課題」などが多く聴衆を集めていたことに,最近のリハビリテーション医事情が象徴的に示されていると思いました.

基本情報

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総合リハビリテーション
25巻10号 (1997年10月)
電子版ISSN:1882-1340 印刷版ISSN:0386-9822 医学書院

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