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はじめに
多発性脳梗塞は,その疾患の概念については曖昧であるが,リハビリテーションの日常診療においてしばしば認められる病態であり,多様な障害への対応が困難となることも少なくない.一般に,脳血管障害の臨床経過は,急速に症状の悪化(発作)をきたし,その後,徐々に軽快していくものが多いが,多発性脳梗塞の場合は以下のようないくつかのパターンが考えられている1,2).
①再発性の脳梗塞であるもの
②臨床的には初回の発作であるが,画像診断上は,複数の梗塞病変が認めらるもの(責任病巣が明らかなものもあれば不明のものもある.)
③小さなエピソードが段階的にみられ,全体として徐々に悪化していくもの
④TIAあるいはRINDが先行していて,新たな完成発作としての脳梗塞発作が加わるもの
⑤脳梗塞の明らかな発作はないが,痴呆,パーキンソニズムや仮性球麻痺などの症状が徐々に出現してくるもの(画像診断上は多発性の脳梗塞病変を認めるもの)
⑥画像診断上,複数の無症候性脳梗塞の認められるもの(頭痛・めまいなどの精査や脳ドックなどで偶然発見されるもの)などのパターンに分けられる(図).
無症候性脳梗塞は多発性脳梗塞の進展,再発の要因として最近重視されており,この大半は穿通動脈領域のラクナ(lacuna)梗塞であるとされ,個々のラクナ(直径15mm以内の小梗塞)の神経症状が明らかでないまま次第に進行し,徐々に神経症状を呈するようになるものである3).また,ラクナが多発した場合,lacunar state(etat lacunarire)と呼ばれ,多彩な症状を呈する.
多発性脳梗塞は梗塞巣が多発している状態であるので,そのなかには両側性のものもあり,呈しうる主な症状としては,両側錐体路症状,仮性球麻痺,痴呆,血管性パーキンソンニズム,排尿・排便障害などがあげられている.そして,それらの症状は多かれ少なかれさまざまな組み合わせで同時に伴いやすいとされ,その出現のしかたも,緩徐に出現するものや急速に出現してくるものまでさまざまである.したがって,多発性脳梗塞によるとされる種々の障害に対してのリハビリテーションについては,前述の③,⑤,⑥のパターンのように,急性期や回復期などと,それぞれ分けて論じるのは困難なものも多い.
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