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はじめに
障害の受容(acceptance of disability)はリハビリテーションにおける「問題解決の鍵となる概念(キイ・コンセプト,key concept)」の一つである.客観的(外形的)にはリハビリテーションのゴールが達成されていながら,障害者(患者)本人の障害の受容が達成されていないために結局リハビリテーションが完結しないという場合が少なくない.リハビリテーション・カンファレンスの場でも「最大の問題は本人による障害の受容だ」という所までは全員の意見が一致しても,「では一体だれが,どのようにして障害の受容を援助するのか」という実際の方法論となると,いくら話し合っても結論がでず,結局「もう少しPT・OTを続けて様子を見よう」というところに落着いてしまうこともしばしばである.
このように重要な障害の受容であるが,これを正面からとりあげた論文は内外ともに意外に少く,部分的に触れているものを含めても,筆者が直接に接することができたのは20篇のみであった1~20).これらの中で理論的にもっとも詳しく包括的なのはWright2)の古典的な名著の策5章“Value Changes in Acceptance of Disability”であり,教科書的によくまとまったものとしてはHerman5),高瀬10),古牧17)などがある.また最近の中司15),松田他19),蕪木他20)はこの問題への実証的なアプローチとして価値高いものである.
筆者は心理学または精神医学の専門家ではないが,リハビリテーション医としてこれまで多くの身体障害をもつ患者・障害者に接し,障害の受容に到る苦痛に満ちた過程に触れ,また可能な限りその過程を促進し,援助しようとつとめてきたし,その過程で持った感想を述べたこともある11,14).また昨年,筆者の所属する東大リハビリテーション部の全職員の参加する勉強会のテーマに障害の受容を選び,数ヵ月にわたって,いくつかの症例の検討を通じて,障害の受容にいたる心理的ダイナミックスの法則を理解することと,その援助の上でリハビリテーション・スタッフの果たすべき役割と注意について議論を重ね,得るところが大きかった.特に長期にわたる抑鬱から短期間のうちに劇的な立直りを示し,障害の受容のめざましい成功例だと担当者たちは考えていた一症例が,角度を変えて見直してみると,実は抑鬱期にある患者に自立を「強要」し,それが十分達成されないことに対して,批難がましい感情をもつことによって一歩誤まれば非常な危険な瀬戸際まで患者を追いつめていた可能性があり,我々にもう少し深い洞察力と患者の苦しみに対する共感力とがあれば抑鬱の期間をはるかに短かく切り上げて,数か月も早く受容に到達させ得ていたかもしれないということの認識(と反省)に到達しえたことは我々にとって一つの啓示といってもよいものであった.
本論文では文献的考察にそのような経験や反省をもまじえつつ,障害の受容の問題をよりよく理解し,よりよく対処することを目的として種々の角度からの考察を試みたい.
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