Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
太宰治の『人間失格』—文学による救いと癒し
高橋 正雄
1
1筑波大学
pp.740
発行日 2025年7月10日
Published Date 2025/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.038698220530070740
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昭和23年に発表された太宰治の『人間失格』(筑摩書房)の主人公・大庭葉蔵は,彼の写真を見た人に,「生きている人間の感じはしなかった」,「どこか怪談じみた気味悪いものが感ぜられて来る」,「見る者をして,ぞっとさせ,いやな気持にさせる」など,普通の人間とは違う忌まわしい感じを与える青年とされている.
そればかりか葉蔵自身,「自分には,人間の生活というものが,見当つかない」,「自分には,人間の営みというものが未だに何もわかっていない」,「人間に対して,いつも恐怖に震いおののき,また,人間としての自分の言動に,みじんも自信を持てず」などと語るように,いわば異邦人的な意識が強く,この世に生きづらさやなじみがたさを感じている人間なのである.「自分の幸福の観念と,世のすべての人たちの幸福の観念とが,まるで食いちがっているような不安,自分はその不安のために夜々,転輾し,呻吟し,発狂しかけた事さえあります」.
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