神経研究の進歩 14巻1号 (1970年4月)

特集 脳のシンポジウム

特別講演

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 筋紡錘なる筋受容器は,神経によつて支配されているが,この役割は伸展反射を述べることによつて説明される。LiddelとSherringtonは1924と1925年に,除脳ネコをつくつて伸展反射の機構をよく説明してくれたのである。われわれが直立しているために,もし筋が伸ばされるとただちにこれに対抗する力が誘発されるという伸展反射,現代流にいえば負のフィードバック機構の働きによつているのである。当時は筋の伸びを感覚する筋紡錘,これを支配する紡錘運動ガンマー神経についてはなんらの知識もなかつた。

 SherringtonとLiddelは,正常人について,この伸展反射を誘発し難いのに,臨床家が病的なときこれを誘発しているのを理解できなかつたのである。最近に至り,HagbarthとEklund(1966)は筋を振動させると伸展反射が誘発されて筋は収縮する。しかもその状態でさらに筋を伸ばすと正常人では普通得られない伸展反射による張力発生をみたのである。これまで除脳ネコで,伸展反射が亢進していることをみてきたが,これはガンマー環が活動したためで,振動によつてもこれと同じ結果として第1種終末の発射が誘発されたのであるとした。

主題—脳死をめぐつて

司会者の言葉 時実 利彦
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 1967年12月3日,C.Barnard博士によつて世界で最初の心臓移植が行なわれ,医学界のみならず各分野に非常なセンセイションをまきおこした。それから数えて第30番目の心臓移植が1968年8月8日,当地の札幌医大の和田寿郎教授によつて日本で最初に行なわれた。手術をうけた患者の宮崎君は,和田教授のすぐれた術式と術後の万全の対策によつて,非常に順調な経過をとつていたのであるが,惜しくも83日目に亡くなつた。

 脳は別として,心臓はほかの臓器と違つて,まだ人工心臓が十分に開発されていないために,とりだせばドーナーは死亡する。したがつて,私たちは,医の倫理として,ドーナーが死亡したことが確認されてからでないと心臓をとりだすことは許されない。そこで,法律には明記されてなくて,医師の常識として判定していた死亡の時刻が問題になつてきたのである。せつかく移植するからには,できるだけ生きのよい心臓を使いたいのは医師としての願いである。それには,できるだけ早い時期に死の判定を下すことが要請されるわけである。

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I.はじめに

 心臓は生体にとつてただ一つの,かつ搏動している臓器であるという臓器特異性から心臓移植を考慮するとき,必然的にドーナー心臓について限られた制約をうけざるをえないのが実状である。

 反面,100例を越す同種心臓移植術の延命効果に対して現時点における異種心臓移植の失望的な実験的および臨床結果と(表1),昨年4月,米国,D.A.Cooleyら1)による人工心臓完全置換術の臨床知見から,当然,ドーナー心臓として同種心臓の臨床上の重要性が一段と考えられるようになつてきている。

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 これまで臨床医が日常行なつてきた,通念的な死の判断の基準は,今日でも決して間違つているとは思えないし,今後もこれでよいと信ずる。

 ただ,このような通念的な死の判断の基準が,近頃,時々,間にあわなくなつたような印象を受けることがあるのは,二つの特別な場合が登場してきたからであると思う。

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はじめに

 「脳波の消失」という現象は一応大脳半球の機能が喪失したことを示すものである。したがつてわれわれは臨床的に種々の原因によつて深い昏睡に陥つた症例において,しばしば平坦な脳波を記録することがある。そして「脳波の消失」が一定時間を超えて継続するような場合には,大脳半球の機能の回復はまず不可能であると判断し,その症例の予後は絶対に不良であると考えている。ただ,しかしこのような状態に陥つてからでも,心拍動停止・自発呼吸停止・瞳孔散大・対光反射消失という古典的な死の認定基準によつて決定される現行法律上の死亡,すなわちいわゆる心臓死に至るまでには,なお一定の時間的へだたりがあることが多い。

 そのためわれわれの約10年間に扱つた臨床症例の中から,とにかく「脳波の消失」という現象がみられた20症例を選び,脳波所見,神経徴候およびvital signつまり脈拍・呼吸・体温などを比較検討した。これらの症例の主なものは脳腫瘍・脳の血管性病変・頭部外傷などの脳に一次的の病変を有する脳外科的疾患であり,さらに各種の原因による脳無酸素症などによる昏睡症例が含まれている。

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 これまでに危篤状態に陥つた場合の脳波はある程度まで集積しているが,問題の脳死というものに直結する脳波はもちろんのこと,死に至る終末段階の脳波は持ち合わせていなかつた。そこでこの度のシンポジウムにおいて,脳死ないしはその脳波について発言を要請された時,大いにためらいを感じたのであるが,今日のシンポジウムまでに若干の時間があることを考え,該問題にふれ得る資料を求めるべく厳粛な死と対決する本小研究を始めた。しかしなにぶんにも時間がなく,また一方では死の宣告が下されるのに数日間の追究を要する症例もあつたりして,脳波記録に当つた教室脳波室研究員の体力がこれ以上の症例追究を許さなかつた。そこで本発言以上に多くの症例数や経験を有しておられる方々の御意見をうかがうための素材として,本報告を行なうことを許していただきたい。

 さて,これまでの死亡以前の脳波記録経験例において,いずれはやがて死に至ることが確実とみられるものに,次の2脳波型がある。

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I.緒言

 「脳死」の定義を「脳死と脳波に関する委員会」では,大脳半球のみならず脳幹をも含めた脳全体の回復不可能な機能の喪失としているが,この定義について誰しも異論はないものと思われる。ただ問題は,この「脳死」の判定を何に求めるかということにある。自発呼吸の停止,痛み刺激に対する反応の消失,瞳孔散大,対光反射の消失,脳波の直線状平坦化,血圧低下などが脳死と判定する基準になることは明らかであるが,これらの所見はあくまでも総合的な指標であつて,このうちの一つあるいは二つで脳死と判定することは不可能な場合が少なくない。さらにこれら指標相互に必らずしも相関関係がなく,大脳半球の機能喪失の判定にきわめて重要な指標である脳波のflat化も,vital signsの変動と相関関係を示さないことが多い。

 われわれは,この脳死判定の総合的な指標として,脳波のfiat化のほかに,緩電位(SPと略す)や電気impedance,あるいは三叉神経末梢刺激による誘発電位の変動などをも利用できないものか,その有用性について基礎ならびに臨床の両面より検討を加えてきた。なお,一時的に脳死に近い状態と考えられたが,その後長期間生存しえた一症例をも合わせて報告する。

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 従来,死は不可逆的な心停止および呼吸停止,あるいは,病理解剖学的徴候たとえば死斑,死後硬直,腐敗などによつて診断されてきていた。

 私どもの専門とする脳神経外科学の分野とくに脳の各種の疾患の場合において,脳が全くかあるいはほとんど全く,その活動を失なつたと見られる場合においても,最近の進歩した蘇生術により,心拍あるいは呼吸を持続することが可能となり,いわゆる動物実験におけるLungen-Herz Preparatに似た状態あるいはvegetableの状態で,長時間「生存」させることが可能であることは多数の人々によつて経験されているところである。

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いとぐち

 脳死判定の資料としてSchwab et al.(1963)1),Hamlin(1964)2),Hockaday et al.(1964)3),Spann et al(1967)4),Rosoff and Schwab(1968)5)などの記載によつて平坦脳波の確認が重要であることが強調され,とくにHockaday et al. は脳波の分類を行なつてgrade-VaまたはVbを脳死判定のための脳波であるとした。しかし一方ではこのような平坦脳波を示しても生存しえた症例が報告された。すなわちBental and Leibowitz(1960)6)は4週間平坦脳波を示した脳炎症例が社会復帰したことを報告し,本邦でも津田・宇山7)は急性睡眠薬中毒例にて平坦脳波を認めたが生存しえたことを述べた。このように平坦脳波が脳死確認のポイントとして強調される一方,平坦脳波が可逆的であつた例も報告されたことから,脳死判定における平坦脳波の価値について一抹の懐疑がないとはいえない。このような平坦脳波をめぐる懐疑が生じた理由は脳死判定の資料として脳波のみをあまりにも重視したためであると思われる。

 著者は脳死の判定は,患者の原疾病,臨床症状,脳波所見の3者によつて行なうべきであると考え,臨床所見として脳幹の血管運動中枢機能障害による血圧低下を重視している。

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I.麻酔の立場からの死の定義

 麻酔学者の間にいわゆる脳死の問題がとり上げられたのは,1964年Las Vegasにおける第8回国際麻酔学会で,心臓移植の際の心臓提供者の死の問題が提起されたより前のことである。

 その理由は手術中,あるいは手術室以外でも,いわゆる急性心停止を起す症例がある。この症例に対する新しい呼吸循環の蘇生法が発達し,それまで救命し得なかつた症例が蘇生に成功する率が高くなつたが,一応呼吸循環は回復しても,種々の程度の意識障害を残し,長期間vegetative stateで生存する患者も多くなり,いわゆるsocial deathの患者が社会経済上の問題となつたためである。

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 大阪大学医学部付属病院特殊救急部において,多数の脳外傷による脳死患者を取り扱つたが,これら患者の呼吸,循環の状態は悪化の一路をたどり,身体死に到るものである。高位頸髄損傷や筋神経疾患では呼吸を人工的に維持すれば,長期間にわたり生命を維持できるのとは対照的である。呼吸,循環などの身体機能に高位の脳が重要な役割を果たしていることが明らかである。われわれは,この点について一連の臨床的研究をしているが,本日はその一部である呼吸機能と脳障害の関係について述べる。

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 近年臓器移植が行なわれるようになり,死の判定をめぐつて「脳死」という考えが導入されてきた。脳死は脳髄の死であり大脳半球のみならず脳幹をも含めた脳全体の回復不可能な機能喪失と解釈されている。それではこのような脳死をいかにしたら早期に発見できるか,いいかえると脳死を判定するよい指標はないものだろうか,という点が問題となる。

 そこで今回はネコを対象として,手術的な脳の除去,窒息,脳血行遮断などの方法によつて,実験的に脳の機能を障害廃絶させ,脳波,種々な自律神経現象,運動反射などがどのように変化するか,これらを指標として大脳半球機能と脳幹機能との関連はどうかについて検討し,脳死に関する基礎資料を得ようとした。

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 脳幹における血管運動調節機構,いわゆる血管運動中枢の局在部位ならびにその神経機構に関し,脳幹横切断実験1,37),局所破壊実験18,21)あるいは電気刺激実験1,3,11,20,28,35)が重ねられてきた。これらの実験成績から下位脳幹一橋下部から延髄の網様体に血管運動調節に必須の神経機構が存在すると考えられている4,22,34)。しかし,これらの実験成績を詳細にみると,多くの不一致点がある。また,上述の諸実験方法のもつ制約から,それぞれの結果の解釈にはおのずから限界のあることはいうまでもない30,34)

 電気刺激実験においては先端直径数十〜百μの刺激電極を用い数Vの電圧を加えた場合に比較的低閾値で大きな血圧変動を起す刺激点が下位脳幹部に多数見出されるという。しかし下位脳幹部に限らず,中脳,視床下部,大脳皮質など中枢神経系の諸部位の電気刺激によつて著明な血圧反応を惹起せしめ得ることが明らかにされている4,15,18,22,24,34)

脳死の組織像について 小宅 洋
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 今回のシンポジウムで私に与えられた課題は,いわゆる脳死に何か形態学的な基盤が存在するか,もしあるとすればどのような変化かということになると思います。私は近寅彦君ら1〜7)とともに,脳の組織病変が近代医学の進歩によつてどのように変貌したかという主題を追求してまいりましたが,それらの成績が脳死の問題に結びついてきたことを,望外の喜びとするものであります。

 脳死という言葉はもともと脳障害によつて起つた全身死,すなわち心臓死とか肺臓死とかに対立する概念でありましたが,ここでは神経機能が不可逆的に廃絶した状態,平たくいえば死んだ脳とか,死につつある脳とかいつた意味で用いられております。もちろん脳死が起れば不可避的に早晩全身死が将来されるわけでありますが,近代医学の進歩,たとえば人工呼吸の適用によつて,両者間の解離という現象(解離死dissociated death Kramer8,9))が出現し,脳死という状態がはつきりと浮び上つてきた次第であります。

主題—前庭神経・前庭神経核の組織と機能

司会者の言葉 藤森 聞一
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 運動平衡筋の緊張などを論ずるばあい従来は主として大脳皮質,大脳基底核,小脳などが注目され,前庭神経核は,とり残されたかつこうで放置されてきた感があります。しかし,この神経核は,ただいま述べた観点から重要な役割をはたしていることは明らかであり,今後は,いよいよこの神経核を中心として諸方面から総合的,系統的な研究が進められるものと思われます,

 そこで,飜つてこの方面の研究業績をみますと,我が国ほど基礎から臨床の広い範囲にわたつて,とくに若い研究者層を含んで,国際的に優れた研究者の揃つている国は,ほかにないと思われます。

前庭神経核の細胞構築 萬年 甫
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 前庭神経核は延髄上部から橋中部にわたつてひろがる大きな灰白質で,脳幹の構造物の中では,局所解剖学的関係を理解するのに最も困難なもののひとつであると思う。私自身脳の勉強をはじめた当時,この核はまことに把えがたく,よくわからぬままに過した。ところが皮肉なことに,恩師の小川教授から最初に出されたテーマが人脳の前庭神経核の細胞構築を調べよということであつた。当時小川教授が脳神経外科学会から「眼振の解剖学」と題する講演を依頼され,その一翼を分担することになつたのである。そこで髄鞘染色やニッスル染色による連続標本を繰り返し鏡検して,自分なりに所見をまとめ,シェーマを描いた。それが図1である1)

 前庭核はNucl. medialis,Nucl. lateralis,Nucl. superiorおよびNucl. inferiorの四つに分かれている(図2)。前庭根が橋下部に入つて,前庭域に達した部分に大きな細胞いわゆるDeitersの細胞が密集している。これがNucl. lateralisである。根線維は一部背方におもむくが大部分はほぼ直角に屈して下行する。この下行線維の間に存在する細胞群がNucl. inferiorである。これより内方にあつてNucl. inferiorに比して有髄線維が乏しく横断面で三角形の領域がNucl. medialisである。

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 前庭神経核は古くから四つに区分されてきたが,これらはPNAによると上核,外側核,内側核および下核と称せられるものである。この区分はその機能の分担という意味をも含めて,必ずしも明確なものではないが,これらの核に出入する神経線維連絡の立場から考えると,この分類は現在のところ一応無意味ではなく存続されてよいものと思われる。したがつてこの分類を用いて前庭神経核の線維連絡を論述する。

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I.緒言

 前庭神経系は限球運動の発現あるいはその調節,躯幹や四肢の筋緊張の維持,自律神経系の調節など広汎な機能に関係する重要な役割を果たしている。ここでは前庭受容器から前庭神経を経て脳に送られる信号が,どのようなニューロン機構で最終出力である外眼筋の運動神経細胞に伝えられるかについて述べたい。

 前庭神経から外眼筋に到る反射弓は,機能的には頭位の変化に際して一点を注視するための眼球運動の調節に役立つている。たとえば,頭部を水平に廻わすと廻転方向の水平半規管が刺激され,その結果反対側の外直筋および同側の内直筋が収縮して眼球が反対側に廻転する。この反射弓の最も短い径路は哺乳類では3個のニューロン,すなわち前庭神経1次線維,前庭神経核細胞から出て内側縦束を通る2次線維,および外眼筋を支配する運動神経細胞からなりたつていることはSzentagothai1)らの研究によつて古くから知られていた。また眼球が頭位の水平廻転方向と逆向きに廻転する時,同側の外直筋および反対側の内直筋は弛緩するが1),この抑制性反射弓のニューロン機構については精しい解析はなされていない。

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I.はじめに

 前庭迷路を感覚器官とする「前庭系」vestibular systemに対する生理的刺激は,頭部の回転運動あるいは直線運動など機械的刺激である。

 機械的刺激に感受する末梢感覚路としての前庭半規管に関する研究は数多いが,今回はそれにふれないこととする。クプラや耳石膜の偏位は毛細胞を刺激し,これは神経終末に活動電位の変化をひきおこす。

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 一次の前庭神経線維は延髄に侵入後,同側の前庭核を支配し,ついで小脳に上行してフロックルス葉,ノズルス葉を中心とする前庭小脳に分布し,苔状線維として小脳皮質内に終わる1)。前庭小脳の皮質からはプルキンエ細胞の軸索が延髄に下行し,前庭核に終つている2)。このようにして一次の前庭性インパルスは直接前庭核に作用すると同時に前庭小脳を介して二重に前庭核に働きかけることになる。筆者らの実験では3,4)一次前庭性インパルスと小脳性遠心性インパルスの作用を,前庭神経核細胞からの細胞内誘導により明らかにし,これに基づいて小脳の果たす役割についての考察を行なつてきた。

 ネコはすべてネンブタールで麻酔し,背位に固定して脳底頭骨を開き,延髄腹面から微小電極を挿入して右側の前庭上位核,ダイテルス核,下行核,内側核の細胞に刺し入れた。同側のチンパニック・ブラを開いて蝸牛を除去し前庭神経核を露出し,針電極で刺激した。同側の小脳フロックルス葉には背方より垂直に直径0.5ミリメートルの同軸性刺激電極を刺入した。その尖端の位置は定位固定装置により定めたが,前庭核内で観測される刺激効果を指標にして調節した。また小脳室頂核近傍にも同軸性電極を刺入,固定しておいて小脳深部の刺激を行なつた。

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I.緒言

 前庭神経核への求心線維としては,前庭神経求心線維,小脳皮質,室項核などの他に弱いながらも脊髄前庭路が直接終止していることが知られているが,前庭神経核から脊髄へは,内側および外側前庭脊髄路が下降しており(Nyberg-Hansen,1966),脊髄に対する促通効果は主としてダイテルス核を起源とする外側前庭脊髄路を介するものと考えられている(Brodal,Pompeiano & Walberg,1964)。

 本稿においては,脊髄すなわち四肢末梢神経線維からのダイテルス核細胞に及ぼす効果,逆にダイテルス核に電気刺激を加えた際の腰仙髄γ運動細胞に及ぼす効果,外側半規管支配神経に電気刺激を加えた場合の四肢α運動細胞に及ぼす効果などについて,著者らが数年来行なつてきた実験成績をもとに述べる。

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I.緒言

 従来の刺激実験と破壊実験によつて,前庭神経外側核いわゆるDeitersの核に起源する前庭脊髄路が,四肢の伸筋に対して促通効果を及ぼすことが知られている1〜3)。これらの研究は主として.錘外線維(extrafusal fibre)を支配するα運動細胞の活動を記録したものか,あるいは最終効果としての筋の働らきを指標としたものであるが,γ線維―筋紡錘―Group Ia線維によつて構成される閉回路(γ-loop)の役割りを考えるとき,γ運動細胞がこの下行路からいかなる作用を受けるかをあわせて解析することの意義は明らかである。最近にいたり,Pompeianoとその協同研究者4,5)は筋紡錘の求心性活動を指標として,Deiters核の刺激が伸筋支配のγ細胞に対して促通効果をもつことを示した。一方Granit6)は,反射活動においてα,γ両細胞がともに促通効果を受ける(coactivation)とき,両細胞に対する反射経路がたがいに結合していると考えてこれを,"α-γ linkage"とよび,その機能的意義を論じた。Pompeianoらの研究4,5)はDeiters核からの下行作用にα-γ linkageの成り立つことを示唆するが,このlinkageが前庭脊髄路によるかどうか,作用のシナプス機構がどうなつているか明らかでない。

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はじめに

 前庭迷路が血管運動系に対し,影響をもつことはすでによく知られている。Spiege16)らは,ウサギで,回転刺激,前庭の温熱刺激や,直流電流刺激などにより,血圧の下降,または下降後上昇することを報告している。他の研究者によつてもこのような方向の研究が多くなされている。最近Megirian4)らは,前庭神経を電気刺激し,交感神経活動に対する効果の一部を明らかにした。

 今回われわれは,前庭神経の交感神経活動に対する効果は弱い電気刺激では抑制効果だけをもたらし,刺激を強くすると興奮が出現しはじめ,抑制の閾値が低いことを明らかにしたので報告する9)

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I.はじめに

 頸部深部受容器がヒトや動物の平衡に重要な役割を果たすことはこれまでにもよく知られている。したがつてこの平衡器に障害が起ると「めまい」,平衡失調が惹起される。最近問題となつている鞭打ち損傷による「めまい」,平衡失調はこの平衡器の機能障害で起ることを私たちは漸次明らかにしつつある。正常人でも深層項筋にprocaineを注射し,その部に分布するγ線維のactivityを封鎖し,急激にその筋の緊張を低下させるようにすると,「めまい」,平衡失調が必発する。

 このようにこの筋に分布する深部受容器は身体平衡維持に重要な役割を果たすことが明らかになつている。さて頸部深部受容器と眼運動系の関連については,Magnus,Baranyの研究以来多くの報告がある。しかし不思議なことに視性眼振と頸部深部受容器の関連については系統的な報告がない。私たちは鞭打ち損傷による「めまい」例の平衡機能検査を行なつているうちに,この眼振の発現と頸部軟部支持組織緊張亢進は密接な関連を有することに気づいた。すなわち被検者の項部痛または項部緊迫感が強い際には,視性眼振の出現が抑制されたり,場合によつてはこの眼振のinversionが起る。治療により項部の愁訴が消褪すると,視性眼振の出現は活発となり異常眼振が正される。この事実は視器と頸部深部受容器の間には密接な平衡機能上の連繋の存することを示唆している。

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 私の主題optic vestlbular coordlnatlonは檜教授によつて話されましたので,私は最近作りましたfilm「ニスタグムスの生理」をお眼にかけます。

 さきほどの演題の中にも指摘されていましたように,眼の運動は頭の運動と密接な関係があります。それで私は,眼運動のみならず頭の運動をも記録できるテレメーターを作製しました。100m以内のヒトの運動中の眼および頭の運動が記録できます。本法によりバレーの回転,スケートのスピンなどにおける眼および頭の運動をみますと,激しいニスタグムスが起つていることが明らかになりました。この詳細をこれから見ていただきますが,ニスタグムスはヒトの運動に重要な役割をしている運動反射であることを明らかにしました。

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 眼球の動きが精神状態をかなりよく反映することは,たとえば,「眼をきよときよとさせて落着きがない」,「腹が立つと眼がすわる」などの日常語にもあらわれている。

 一方,眼球運動は,身体のほかの部分の運動とは違つた独特な態度をとることがある。たとえば,子供の眠りぎわにゆつくりした振子運動がおこることは古くから気づかれていた。また逆説睡眠相の存在は熟睡中に早い大きい眼球運動が出現するという事実を契機として発見されたものである。この逆説相の眼球運動が夢のなかに生ずる視覚像と密接な関係をもつことを主張する学者もある5)。眼球運動が運動機能の中で独特な位置を占めることは,いわゆる失外套症状群や無動無言症akinetic mutismの状態において一層はつきりしている。無動無言症の状態を初めて報告したCairnsら1)の記載によると,第三脳室の類上皮嚢腫をもつ少女は,全く身動きせずベッドにねていたが,いまにも口をきくかと思われるほどに検者をよく注視し,目で追い,音がすると視線をそらした,ということである。失外套症状群ではこのような生き生きとした注視の動きはないが,眼球が不規則に動くことが少なくない12)

主題—情動と自律神経・内分泌機能

司会者の言葉 諏訪 望
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 昭和39年2月29日に,日本学術会議脳研究連絡委員会の主催で,"行動の神経機構"に関するシンポジウムが行なわれ,その主題のひとつとして,"情動とその障害"が選ばれた。(脳と神経,16:800〜856,1964)。今回はその続篇であるといえる。

 今度の主題は,"情動と自律神経・内分泌機能"ということになつている。情動の定義は,いろいろな角度から試みられているが,"生体が示す基本的な現象の一つで,衝動や欲求と直接に結びついている感情状態"と解すれば,それが自律神経・内分泌機能と表裏の関係にあるという意味をも含ませることができるであろう。このシンポジウムでは,とくにその中枢との関連をいつそう明らかにすることを目標として,大脳辺縁系ないし視床下部,さらに脳幹網様体の機能を中心として,問題を一段と掘下げてみることにした。

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I.情動の中枢

 私は,ネコ脳の電気刺激の実験結果から,情動の中枢は脳幹にあるという立場をとり,その中枢を脳幹情動系と呼んでいる3)。しかしながら,脳幹以外の部位,たとえば大脳辺縁系に属する扁桃核の電気刺激によつて,いろいろの情動の変化がおこされることは,人間についてよく知られていることである。このことから,扁桃核も情動の中枢に含めてよいかもしれない。事実,Fernandezde MolinaとHunsperger1)は,ネコ脳の電気刺激の実験結果から,情動を統制する部位は扁桃核から中隔,視床下部を経て,中脳中心灰白質に至る一連の構造であるという考えをもつている。

 私が,彼らと同じく,ネコ脳の電気刺激の実験結果に基づきながら,中枢について彼らとは違う意見を持つているのは,中枢の定義の差異によるのである。

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 情動emotionは文字通りわれわれを「動かす」一ある行動にかりたてる。その行動が世間をさわがしたり,他人に迷惑をかけるようなものでなければよいが,そういうものである時は問題となる。そのようなもののひとつに狂暴症とか,violent bchavior,aggressive behavior,rage attackなどと呼ばれるもの,およびその根底にある情動障害がある。すでに発表したようにその治療としてわれわれは種々の手術を試みて来た5)。そしてついに視床下部の後内側部に定位的に小さな損傷をつくるposteromedial hypothalamotomy(Sano,1962)がこの情動障害にもつとも有効であることを見出した5〜7,10,11)

 動物で視床下部を刺激したり破壊したりした実験は数え切れないほど多いが,人間におけるそれはまれであつて,Spiegcl & Wycis12)が分裂病の患者にdorso-medialthalamotomyに合併してsubthalamusの近くの外側視床下部に定位的損傷を作つた報告が目立つ程度である。しかしこの報告でも刺激効果についての記載はきわめて不十分である。われわれはこの点に関してもすでにいくつか発表して来ている3,8,9,11)が,本シンポジウムの機会に現在までの47例についての経験を要約してお話したいと思う。

情動と大脳辺縁系 横田 敏勝
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 系統発生学的観点からみると,人類の脳は三つの部分から構成されているように思われる。その最も古い部分は,基本的には爬虫類からの遺産で,脳幹の大部分を構成している。第二の部分は,下等哺乳類から継承したもので,大脳辺縁系に相当する。第三の最も新しい部分は,人類において最も高度に発達しており,新皮質などがこれに属する。情動という観点からは,第二の大脳辺縁系が最も興味のある部分と見做すことができよう。この部位は,かつては嗅覚と密接な関係があるとされ,「嗅脳」と呼ばれていたが,最近では,この部位に属する大脳皮質の大部分がBroca(1878)の大辺縁葉(grandlobe limbique)に含まれることに由来して名づけられた「大脳辺縁系」(limbic system)という用語が広く用いられるようになつて来た(MacLean,1952)。

 本系統は,哺乳動物の大脳半球の脳室の入口を取り巻く輪状構造で,すべての哺乳類に共通のものである。また,大脳辺縁系と視床下部の間には密接な,線維連絡があり,この点は,情動のみならず自律神経,内分泌機能の観点からも特に重視されなければならない。

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 扁桃核手術の最初の例は1958年12月に手術が行なわれ,現在術後約10年を経ている。この手術は本来,器質性素因によるヒトの情動面の異常,ことにその異常な昂進した状態と考えられる,落ちつきのなさ,易怒性,昂奮,乱暴,暴行などに対して,脳外科的に治療の手を試みるものとして始められた。したがつて精神外科の一つの手技として出発したのであるが,約100例について手術後数か月ないし10年の経過を追求,観察して来た過程には,本来の精神的側面における効果,病像の変化のほかに,脳波上,また,てんかん患者でのけいれん発作等に対して本手術のもつ意味も検討されてきた。

 前に(Confinia Neurologica 27,1966)1),最初に(1963)Archives of Neurology2)その他3,4)に発表した60例についての長期予後報告は発表してあるので,今回は主として,てんかん性素因との関連についてのべてみたい。ここに報告する例は前回の60例を除き,それにつづく第61例より100例にいたる40例についてであり,1962年9月より1968年8月の間に手術された症例についてである。

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 人体ならびに高等動物にみられる2大調節機構である神経系と内分泌系がいわゆる神経内分泌協関によつて統合されていることは周知の事実である。なかでも中枢神経系と内分泌系の主座を占める下垂体前葉との協関は神経内分泌学の中心テーマの一つとして大きな関心が寄せられて来た。ACTHの分泌調節に関しても多様なストレスに呼応して中枢神経系は種々の影響をACTH分泌に及ぼしているが,その最終共通路である視床下部の向下垂体液性因子すなわちACTH放出因子(CRF)の動態は一つの要としてきわめて注目されるわけである。CRFについては化学的本態や検定法およびその特異性などがまず問題になるわけであるがすでに他の機会にのべたので(広重,1967,1968)必要に応じて簡単にふれるにとどめ,今回は種々の実験条件下でのラット視床下部組織内CRF量の変動をとりあげその生理的意義について自分たちの実験成績を中心にのべてみたい。

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I.はじめに

 ACTHの下垂体前葉からの分泌は神経性ならびに体液性の二重支配によつて調節されている。一方,この神経性調節はホルモン,その他体液性因子によつて影響されている。これら二つの調節機序はどの程度生体内外の環境によつて影響を受けるかという点は興味ある問題である。ネズミにおいても,ヒトの飼育するものと野生のものとては種々のストレスに対する反応態度は異なつている。内分泌の面からみると高温,低温などの温度環境や精神性情動刺激を負荷した場合,野生のネズミでは,飼育ネズミほど,副腎皮質のアスコルビン酸やリピッドの減少が起らない。しかし,これらの野生のネズミでもACTHを投与した場合には,飼育ネズミと同様の反応がみられる(Woods, J. W. 1956)。成熟後においてストレスに対する順応形成の難易は,出生直後から授乳期において,あるいはヒトでは小児期までの間における経験によつて変わることが知られている(Ader, R. 1966)。たとえばラットやその他の動物で幼弱の時に,手で背中を撫てるなど種々の人工的処殿を加えることによつて,その動物の負荷ストレスに対する心理的反応は処置を加えなかつたものと異なることが明らかにされている(Levinc, S. 1962)。

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はじめに

 精神医学の臨床の場において,情動に関する精神生理学的な検索をすすめてゆくと,必然的に次の二つの現象が研究の対象となる。その一つは,不安,興奮などの情動の乱れに伴う二次的な生理的変化であり,いま一つは,そのような情動の乱れの背景にある精神疾患そのものに根ざす身体的変化である。すなわちある意味では,前者は心身相関の生理であり,後者は精神疾患の本態に関する追究であるということもできよう。しかもこの情動の乱れが,あらゆる精神疾患の中核となる症状である以上,後者の研究がまず前者についての十分な検討を前提として行なわれることはいうまでもない。

 私どもの教室で十数年来つづけている「情動の精神生理学的研究」も,当然ながらこの二つの研究対象をもつたものである。その間に検索を試みた身体機能および研究成果については,ほかの機会にも発表したので,ここでは一切省略する。ただ一応の結論としていえることは,情動のうごきに伴つて思いがけないほど広範かつ大幅な身体機能の変化がみられること,しかし一方において,ある種の症例とくに精神分裂病荒廃例などにおいて,そのような心身相関の生理からは説明のつかない異常所見がしばしば見出されること,の2点である。今回はこのような知見をもとに,とくに副腎皮質機能の日内リズムを中心とし,さらにストレス反応性に関する最近の成績も加えて,報告したい。

体内時計と内分泌リズム 本多 裕
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 従来人間の生体リズムの中,明暗,気温,温度など外界の因子と一応独立して自律的なリズム現象を営んでいるとされているものには,睡眠,下垂体一副腎皮質機能,体温などがあげられる。これらの基本的なリズム現象は,いずれも中枢神経系にその源があると考えられ,いわば体内時計と呼ぶことができよう1,2,9)。しかしこれらの基本的体内時計相互の関連性および他の種々の内分泌,自律機能のリズムとの関係は,今日なお十分解明されていない。

 多くの精神神経疾患の症状が季節的,周期的変動を示し,また1日の中でも朝と夕方とでは症状に変化が起ることはしばしば経験される4,11)。すなわち精神神経疾患の病因および症状形成の上で,生体に基本的なリズム現象の障害が関与している可能性が考えられる。われわれは精神神経疾患について,いくつかの体内時計を同時に測定し.また1日のみの測定では外界因子の影響がありうるためリズムの恒常反復性を確認することが困難であると考え,数日間連続して測定を行ない,日周期リズムとしてとらえてみた。

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解説

 亜急性壊死性脊髄炎がフランスでFoixとAlajouanineによつて1926年に報告されてから約40年を経た頃,すなわち1964年から1966年にかけて,わが国でも3例の解剖例が観察されるようになつた。

 第1例は虎ノ門病院て昭和39年3月25日に剖検され,臨床病理カンファレンスで望月病理部長より提示され,今回,桶田博士(神経進歩,13巻2号375頁,昭44)により,とくにその血管病変の詳細な報告がなされた症例である。

基本情報

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神経研究の進歩
14巻1号 (1970年4月)
電子版ISSN:1882-1243 印刷版ISSN:0001-8724 医学書院

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