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パーキンソン病に対する神経再生と細胞移植に関して,筆者らのデータを中心に解説した。Glial cell line-derived neurotrophic factor(GDNF)のfamilyであるneurturinに注目し,ドーパミン細胞への神経保護効果と神経再生効果を実験的に検討した。ラット線条体に6-OHDAを緩徐に注入して進行性パーキンソン病モデルを作成し,この動物にあらかじめneurturinを局所注入しておくと,中脳黒質のドーパミン細胞の変性脱落が抑制された。6-OHDA投与の後,neurturinを投与すると,線条体内ドーパミン終末は対照群に比し有意に増加し,豊富な神経再生が観察された。しかし黒質ドーパミン細胞の数には有意差はなかった。Neurturinが黒質ドーパミン細胞の神経再生を促進することが示された。近年,幹細胞が多分化能と自己複製能の観点から移植ドナーとして注目されている。筆者らは神経幹細胞をパーキンソン病モデルラット線条体内に移植し,移植片の生着,ドーパミン細胞への分化と回転行動の減少を認め,神経幹細胞の脳内移植の効果を証明した。幹細胞の脳内移植に関する今後の展望と問題点にも言及した。
はじめに
パーキンソン病は無動,筋固縮,振戦,歩行障害や自律神経症状を主体とする進行性変性疾患である。発病は40~50歳代に多く,人口10万人あたり100~200人の患者がいるといわれている。その病態は中脳黒質のドーパミン含有細胞の変性脱落が主体である。パーキンソン病の治療は,歴史的には当初,淡蒼球や視床の定位的破壊術が唯一の治療法であったが,L-dopaの出現により外科的治療はほとんど忘れ去られていた。しかし,近年L-dopaの長期投与例が増加するにつけその問題点が明らかになり,再び外科治療が注目されるようになった。つまりL-dopaの長期投与ではその効果が減退するwearing off,onとoffが突然出現するon-off現象,L-dopa増量によるdyskinesiaや幻覚などがあり,これらの副作用が患者さんを悩ませている。L-dopaは投与当初劇的に症状を改善させるが,長期投与で効果が減退し,パーキンソン病に対する根本的治療でないことが明らかになってきた。このことはL-dopaでは中脳ドーパミン細胞の進行性変性のプロセスを阻止できないことを示唆している。ここでドーパミン細胞の変性を阻止する細胞保護や再生の試みが重要な課題となってくる。もしパーキンソン病において中脳ドーパミン細胞の変性を抑止できれば,それは症状の進行を食い止め,病気に悩む多くの患者さんを助けることにつながる。
パーキンソン病に対する治療の中で最も期待されているものに,神経細胞の脳内移植がある。パーキンソン病で失われたドーパミン細胞を体外から脳に移植することで,より根治的治療としての期待が高まっている。とりわけ神経幹細胞や胚性幹細胞は自己複製能力と多分化能を有しており,ドナーとして理想的な特徴を備えている。しかしせっかく移植されたドナーが,体内で標的となって中脳ドーパミン細胞と同様の運命をたどることも考えられる。ここでも移植された細胞を保護したり再生させたりすることは,重要な戦略となる。
本稿では筆者らが行ってきたパーキンソン病モデル動物に対する神経再生の基礎的研究を紹介し,さらに細胞移植治療の現状と今後の展望を明らかにしたい。
The authors reviewed neuroprotective and regenerative effects of neurotrophic factors on dopaminergic neuron system in the substantia nigra Cell transplantation of sympathetic ganglion and neural stem cells into the brain of parkinsonism was also described. Neurturin, a family of glial cell line-derived neurotrophic factors, showed protection of dopamine neurons and promotion of regeneration of dopaminergic nerve fibers in the striatum in Parkinson model of the rat. Neural stem cells having selfrenewal and multipotent ability were transplanted into the striatum of 6-OHDA-treated rat. Neural stem cells proliferated and transmuted to dopaminergic neurons in the host brain showing decrease of rotational movement by amphetamine injection. Possibility of clinical application of stem cells into the brain with Parkinson disease was discussed.
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