特集 脳のシンポジウム
主題—脳死をめぐつて
司会者の言葉
時実 利彦
1
1東京大学脳研究所生理
pp.7
発行日 1970年4月25日
Published Date 1970/4/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1431903092
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1967年12月3日,C.Barnard博士によつて世界で最初の心臓移植が行なわれ,医学界のみならず各分野に非常なセンセイションをまきおこした。それから数えて第30番目の心臓移植が1968年8月8日,当地の札幌医大の和田寿郎教授によつて日本で最初に行なわれた。手術をうけた患者の宮崎君は,和田教授のすぐれた術式と術後の万全の対策によつて,非常に順調な経過をとつていたのであるが,惜しくも83日目に亡くなつた。
脳は別として,心臓はほかの臓器と違つて,まだ人工心臓が十分に開発されていないために,とりだせばドーナーは死亡する。したがつて,私たちは,医の倫理として,ドーナーが死亡したことが確認されてからでないと心臓をとりだすことは許されない。そこで,法律には明記されてなくて,医師の常識として判定していた死亡の時刻が問題になつてきたのである。せつかく移植するからには,できるだけ生きのよい心臓を使いたいのは医師としての願いである。それには,できるだけ早い時期に死の判定を下すことが要請されるわけである。
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