INTENSIVIST 9巻2号 (2017年4月)

特集 輸液・ボリューム管理

特集にあたって 瀬尾 龍太郎
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私が医師になったばかりの2004年,Surviving Sepsis Campaign guidelines (SSCG 2004)1)が発表された。その最初の項目である初期蘇生initial resuscitationに,early goal-directed therapy (EGDT)が記載されていた。Riversら2)の研究を根拠に,中心静脈圧central venous pressure(CVP),平均動脈圧,尿量,中心静脈血酸素飽和度(ScvO2)または混合静脈血酸素飽和度(SvO2)の目標値を達成すべく治療を開始せよ,とあった。特に補液に関してRiversらの原法では,とにかくまず目標CVPを達成すべく補液をするプロトコルで,これは初期研修医であった私にとって衝撃であった。なぜなら,相当な経験を積まなければ管理ができないと信じていた敗血症性ショックに関して,集中治療医でなくとも,初期研修医であっても,敗血症性ショックを見つけた時点で初期管理が開始できる,ということが示唆されていたからである。

 さらに,SSCG 2004は米国集中治療医学会Society of Critical Care Medicine(SCCM),欧州集中治療医学会European Society of Intensive Care Medicine(ESICM),国際敗血症フォーラムInternational Sepsis Forum(ISF)の3つの団体により作成されており,加えてスポンサー団体として米国クリティカルケア看護師協会American Association of Critical-Care Nurses(AACN),米国胸部疾患学会American College of Chest Physicians(ACCP),米国救急医学会American College of Emergency Physicians(ACEP),米国胸部学会American Thoracic Society(ATS),オーストラリア・ニュージーランド集中治療医学会Australian and New Zealand Intensive Care Society(ANZICS),欧州臨床微生物感染症学会European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases(ESCMID),欧州呼吸器学会European Respiratory Society(ERS),米国外科感染症学会Surgical Infection Society(SIS)が名を連ねていた。

 まさに世界標準治療だ,と感じた。

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大手術後や敗血症など高度侵襲時の輸液療法の主な目的は,血漿量を保つことにより組織灌流を維持することである。しかし,現在,血漿量をベッドサイドでリアルタイムに測定する方法がないため,具体的な輸液の方法は各医師の主観や経験に依存しているのが実情である。このようななか,侵襲時における輸液製剤の体内分布や体液分画fluid compartment間の水移動に関する生理学を理解することは,侵襲時輸液療法の“迷い”を軽減することにつながる。この数年間に侵襲時の輸液療法は理論・実証ともに新たな展開を迎えている1)

Summary

●侵襲時の体液動態は動的であり,体液量の経時変化が重要である。

●いわゆるサードスペースの本態は炎症性浮腫である。炎症時には,細胞間質ゲルが能動的に膨潤することにより,血管内から細胞間質へ水が移動する。

●静脈圧・静脈還流に関与するのはstressed blood volumeである。輸液・血管収縮薬はstressed blood volumeを増加させ,血管拡張薬はstressed blood volumeを減少させる。

●輸液製剤の血漿増量効果は“context-sensitive”である。血管内皮グリコカリックスを導入したrevised Starling式に従うと,毛細血管圧が低い時は,晶質液であっても高い血漿増量効果を発揮する。

●炎症などの侵襲は血管内皮のグリコカリックスを崩壊させる。このため,輸液や血管収縮薬により毛細血管圧が上昇すると血管内から血管外への水漏出が増加する。

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輸液に用いる製剤は「薬物」である。しかし,そのような観点から輸液製剤を考える機会はさほどないと思われる。輸液製剤に関して薬理学的な発想があれば,さらに輸液に関して理解が進み,適材適所で輸液戦略を立てることができるのではないだろうか。本稿では,薬理学的な観点から輸液と輸血の基礎について考えてみたい。

Summary

●晶質液と膠質液といった輸液製剤は,ともに集中治療領域で最も多く使われる「薬物」である。両者の違いは溶質の分子や電解質濃度,浸透圧などである。

●晶質液として汎用される乳酸リンゲル液,酢酸リンゲル液,重炭酸リンゲル液は,乳酸アシドーシスに対する懸念から進化してきたが,臨床的なエビデンスは乏しく,使い分けの有用性は不明な点が多い。

●晶質液,膠質液が血管内にとどまる量は,従来のコンパートメントモデルやStarlingの式だけでは説明がつかず,患者の病態やボリュームステータスによるところが大きい(context sensitive)。

●輸液や輸血は薬物であり,コストがかかる。最も多く使う薬物であるからこそ費用対効果を意識して日常的に使用することを心掛けたい。

●インスリンは,輸液容器やラインに吸着し,しかも輸液内のpHによっても変化し得る。患者以外の因子によって血糖が変動してしまうことを考慮する必要がある。

●末梢静脈輸液における静脈炎は医原性疾患であり,可能なかぎり避けたい。ルートを少しでも長く使用する方法はいくつかあるが,それらを駆使して1日でも長く使用するための工夫をするよりも,不要なルートは抜去し,静脈炎を疑った場合はすみやかにルートを入れ替えることが重要である。

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輸液は重症あるいは周術期患者において欠かせない治療選択肢の1つであるが,どの輸液製剤をどの程度投与すべきかについては,コンセンサスが得られていない1)。酢酸リンゲル液やPlasma-Lyteは,晶質液のなかでもヒト血漿成分の組成に近いことからbalanced(buffered)crystalloidと呼ばれ,生理食塩液と比較して腎障害や凝固障害などの副作用が少ないため,近年注目を浴びるようになってきた1)。その反面,輸液製剤による直接的な影響は長くても24〜48時間であること,また,balanced crystalloidによる弊害も指摘されるようになり2),balanced crystalloidの臨床的優位性は確立されていない。

 本コラムでは,balanced crystalloidが脚光を浴びるようになった背景を紹介し,balanced crystalloidのなかでも,なぜアセテートやPlasma-Lyteが好ましいのかを生理学・薬理学的に述べるとともに,最新の知見について概説する。

Summary

●アセテート,Plasma-Lyteは晶質液のなかでも,ヒト血漿成分に近いことからbalanced crystalloidと呼ばれている。

●生理食塩液負荷に伴う腎障害・凝固障害が知られるようになり,balanced crystalloidが輸液製剤の第一選択として注目されるようになってきた。

●balanced crystalloidは生理食塩液と比較し副作用は少ないものの,長期予後の改善までは証明されておらず,また,各balanced crystalloid間での比較試験も行われていない。

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輸液は血行動態が不安定な患者に対する「蘇生」の基本であり,血行動態が不安定な間は「迷ったら輸液」という判断がなされることが多いのではないだろうか。敗血症性ショックの治療を例に挙げると,敗血症性ショックの患者に対する低用量バソプレシンの効果を調べたVASSTでは,水分出納の平均は来院後12時間で+4.2L,4日後で+11.0Lであり1),極めて大量の輸液が行われていることがわかる。筆者の経験からも,利尿や除水と比べると,輸液により「満たす」ことによる不安や罪悪感は少なく,気がついたときには水分出納が大きく正に傾いていることが多い。それでも近年では,輸液過剰によるさまざまな弊害と合併症がより強く意識されるようになってきている2,3)。また,敗血症性ショックなどの血液分布異常性ショックの患者において,漫然と輸液を行うことにより,拡張した静脈系にプールされるだけの血液循環量unstressed volume(無負荷血液量)を増加させるよりも,早期に血管収縮薬を用いることにより静脈系の収縮を促して静脈還流量および前負荷を増加させることの重要性が指摘されている4)

 本コラムでは,過剰な輸液によって起こり得る生理学的な変化,臓器別アウトカム,その他の重要なアウトカムをレビューする。肺と心臓については他稿で詳しく述べられているため省略する。輸液を制限する群としない群を比較した無作為化比較試験は少なく5〜7),輸液過剰がアウトカムに与える影響の考察に使用できる文献は,ほとんどが後向き研究または前向き観察研究である。したがって,輸液過剰の害を見ているというよりも「大量の輸液が必要になるほど血行動態が不安定な患者や,水分出納が正になりやすい乏尿患者(つまり重症な患者)のアウトカムを見ているのではないか?」という疑問は払拭されないことに注意が必要である。

Summary

●輸液は血行動態が不安定な患者に対する「蘇生」の基本であるが,近年では,輸液過剰によるさまざまな弊害と合併症がより強く意識されるようになってきている。

●くも膜下出血後などの中枢神経系疾患患者においては,過剰な輸液は神経学的予後の悪化と関連しており,意図的に多めの体液量を目指す治療方針による利益は少ないと考えられる。

●腎臓も他の臓器と同じく,ボリュームステータスの「最適化」が重要であり,体液量過多にすることで利益が得られるという考えや,「腎機能が悪いから除水を行わない」というプラクティスは再考の余地がある。

●体液量過多により肝障害が起こり,除水によって改善することは日頃の臨床的な感覚とは矛盾しないが,低血圧とは独立した急性肝うっ血の影響を検討した臨床研究はないため,今後のさらなる研究が待たれる。

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輸液に関するクリニカルクエスチョンのなかで,集中治療にかかわる医療者にとって最大の関心は“目の前の患者は輸液を必要としている状態なのか,輸液の効果があるのか”にあるといっても過言ではない。適切な輸液療法は患者の循環不全をすみやかに安定化させ,不必要な昇圧薬の使用を避けることができる。一方で,過剰輸液は患者のアウトカムを悪化させることもわかってきた1〜3)。したがって,適切な時期に適切な量の輸液蘇生を行うことが重要となる。

 輸液治療を行う際に鍵となる検討事項は,①目の前の患者は輸液によって臓器灌流の低下が改善すると考えられる状態にあるのか,すなわち輸液を必要としているのか,②実際に輸液を行ったら何らかの因子が改善するのか,すなわち輸液に対する反応性があるのか,の2点である。輸液必要性,輸液反応性の両者を意識することが,最適なタイミングで最適量の輸液を行い,過剰輸液を避けるための第一歩になる。

 本稿では,主として輸液必要性,輸液反応性の評価について,方法・有用性・限界・その背景にある生理学などに焦点を当てて解説していく。

Summary

●輸液蘇生の目的は“循環不全の改善”である。輸液が必要か否か,すなわち輸液必要性を判断するには,循環不全の有無とその程度を考慮する必要がある。

●輸液反応性とは,急速輸液によって1回拍出量または心拍出量が10〜15%増加することを言う。ICUに入室している循環不全を呈する患者の50%は輸液反応性がない。

●輸液反応性の指標はさまざまあるが,各々の背景にある生理学を理解し,各検査の利点と限界を知ったうえで利用する必要がある。

●過小輸液・過剰輸液の害を避けるためには,輸液必要性の同定,輸液反応性の事前予測と事後評価を怠らない努力が必要である。

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患者のボリューム管理は,評価方法,着目する所見,優先する臓器によって最も意見が分かれる領域である。ここでは,日頃の臨床で意見が分かれるような敗血症の症例に対し,さまざまな指標,所見,根底の考え方に基づいて,①輸液を制限する,②積極的に輸液するの2つの立場から,その決定までの思考と対応法を述べていただいた。読者諸氏の臨床決断のヒントになれば幸いである。

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ICU入室から3時間後の最大の問題点は,昇圧薬および輸液の投与後も続く低血圧である。すみやかに昇圧をはかりたいが,その手段として輸液か昇圧薬のどちらを追加するか方針を決定する必要がある。

回答2:輸液を制限する 熊澤 淳史
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本症例は,循環不全に呼吸状態の破綻を伴った病態であり,血行動態の安定化と呼吸状態の安定化という2つの観点から治療方針を決定する必要がある。

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提示された症例は,市中肺炎から敗血症性ショックになってICUに入室した高齢男性である。来院時には呼吸不全も合併しており,すでに気管挿管,人工呼吸器管理が開始されている。敗血症性ショックに対して輸液負荷,昇圧薬投与を3時間行うも血行動態は不安定で無尿となり,肺水腫による呼吸不全も増悪している。バランスとしてはICU入室後3時間までで+約2500mLの状態である。このような患者に対して,どのような方針で治療,特に輸液,循環管理を行っていくか,が本稿のテーマである。

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■敗血症性ショックにおける

輸液治療のフェーズ

敗血症性ショックにおける輸液治療のフェーズは,4つに分類される1)。①ショックにより生命の危機に瀕した状態を救命するrescue期,②組織灌流を最適化し臓器障害の進行を最小限にくいとめるため積極的に輸液蘇生を行うoptimization期,③ショックは管理され維持程度の輸液で状態の安定化を保つstabilization期,④ショックから離脱し積極的に除水をしていくde-escalation期,である。フェーズを意識することで治療経過を俯瞰でき,各フェーズにおける輸液治療の目標を明確にできる。

 本例は肺炎による敗血症性ショックに対して,輸液と昇圧薬による循環蘇生が開始されているが,いまだ血行動態は不安定である。来院から4時間程度(初療に1時間と推測)で輸液量2500mLと決して多くはないが,すでに肺水腫が進行している。左室収縮は保たれているようなので,敗血症による急性呼吸窮迫症候群acute respiratory distress syndrome(ARDS)である。今後の循環・呼吸管理が難渋することが予測される。フェーズでいうとrescue期からoptimization期への移行期であり,まずはショックの是正と組織灌流の最適化を優先させたい。結果として,人工呼吸器での呼吸管理に限界を迎える可能性は高く,V-V ECMOの導入は視野に入れておく。

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本稿で論じるのは,いかに輸液を投与するかではなく,“肺を軽くする”ためにいかに不必要な輸液をしないか,利尿や透析によりいかに体外に水分を排出するか,である。

 急性呼吸窮迫症候群acute respiratory distress syndrome(ARDS)患者の大規模無作為化比較試験であるFACTT1)において,輸液量を制限し利尿を促進させる管理conservative strategyを行うことで,酸素化が改善し,人工呼吸期間が短くなると報告されている。つまり,全身の水分量をできるだけ少なくすることで肺の水分量も減り,酸素化が改善し,それにより人工呼吸期間が短くなると考えられている。しかし,肺を軽くするために輸液を制限し利尿を行えば,他の臓器に障害を起こす可能性がある。よって「急性呼吸不全の輸液管理」として本稿で論じる命題は,“いかに他臓器に障害を起こすことなく,肺を軽くするか”である。

Summary

●ARDS患者に対して,輸液量を制限し利尿を促進させる管理conservative strategyを行うことで,酸素化が改善し,人工呼吸期間が短くなる。

●急性呼吸不全の輸液管理は,血行動態不安定期,血行動態安定期,人工呼吸器離脱期のフェーズに分けて考える。

●血行動態不安定期では,輸液反応性の指標(特にSVVやPPVといった動的指標やPLR)を用いながら不必要な輸液を投与しないように管理することが重要である。

●血行動態安定期に入ったら,CVPやPAWP,超音波所見などを駆使しながら,臓器障害を起こさない範囲で積極的に除水を行い(肺を軽くして),早期の呼吸器離脱を目指していくことが重要である。

●人工呼吸器離脱期では,BNPは体液管理における1つの参考所見となるかもしれない。

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心不全の治療において必ず必要となる「水分バランスの調整」だが,ACCF/AHA*1の心不全ガイドライン1)を参照すると,急性非代償性心不全では水分バランスを適切に保つことを推奨している。また,臨床的なうっ血の改善だけでなく,血行動態的うっ血を解除して退院すれば再入院が少ない2,3)ことが報告されている。うっ血の改善方法として利尿薬や血管拡張薬,非侵襲的換気(NIV),体外限外濾過(ECUM)などがあるが,治療で重要なことは患者のうっ血の原因となっている「心機能生理」を考えることである。例えば,全身血管抵抗が高い急性心不全で水分再配分型の肺うっ血をきたしている症例では,利尿薬のみで治療を行うと,うっ血は解除できても末梢循環が悪化することがあるため,治療の主役は血管拡張薬である。このように,心機能生理から心不全にアプローチし,うっ血の病態生理を把握することは,心不全治療において非常に重要である。

 そこで本稿では,圧・容積関係をはじめとした心機能の生理の観点から,心不全における水分管理に関して概説する。

Summary

●心機能生理から心不全にアプローチし,病態生理を把握することは重要である。

●Frank-Starlingの心機能曲線,P-V loopを理解することで,ピットフォールに陥ることを防ぐとともに心不全へのアプローチが深みを増す。

●「心不全治療=利尿薬」ではない。心拍出量維持,うっ血のコントロールのために,血管拡張薬,利尿薬の投与,および心臓自体の機能改善を考えなければならない。

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急性脳傷害acute brain injuryとは,外傷性脳損傷traumatic brain injury(TBI),急性虚血性脳卒中acute ischemic stroke(AIS),くも膜下出血subarachnoid hemorrhage(SAH),頭蓋内出血intracranial hemorrhage(ICH),心停止蘇生後脳症,痙攣重積などを含む中枢神経障害の総称である。

 急性脳傷害患者の管理における最大の使命は,“二次性脳損傷の予防”であり,それは他の臓器不全患者の管理において,残存臓器機能の温存が重要であることと何ら変わりはない。つまり,不可逆的ダメージを受けるに至らなかった脳細胞における,エネルギーや酸素の需給バランスを保つことに焦点を当てた管理が重要であり,これらの供給側因子としての脳血流量の維持,ひいては適切な輸液管理による循環血液量(ボリューム)の維持が重要な管理目標の1つとなる。

 さらに,急性脳傷害患者の管理においては,“脳は浮腫などによる容積変化に極めて弱い臓器である”という特徴が,その輸液管理を独特で困難なものにしている。つまり,急性脳傷害患者の管理においては,脳浮腫(主には細胞内液量の増加)を増悪させないことにも留意が必要であり,細胞内外の体液シフトのコントロール,ひいては適切な輸液管理による血漿張度の維持も重要な管理目標の1つとなっている。

 本稿では,急性脳傷害患者における輸液管理について,その実践のうえで理解が欠かせない病態生理を総論で,そして,実際に用いるべき輸液製剤,目指すべきボリュームステータス,さらには循環血液量の評価方法について,文献的考察を各論で述べる。

Summary

●急性脳傷害患者の輸液製剤は,低張液を避け,等張晶質液を第一選択とする。

●急性脳傷害患者に対する人工膠質液の使用を支持するエビデンスはない。

●外傷性脳損傷に対する蘇生輸液としての4%アルブミン製剤や,虚血性脳卒中に対する神経保護作用を期待しての高用量25%アルブミン製剤は避けるべきである。

●高張液は頭蓋内圧を低下させるが,転帰を改善させるという確固たるエビデンスはない。

●hypovolemiaだけでなくhypervolemiaも避け,euvolemiaを目指すべきである(遅発性脳虚血発症後であっても,hypervolemiaではなくeuvolemiaが望ましい)。

●循環血液量の評価方法としては,超音波検査や動脈圧波形解析法,経肺熱希釈法などが推奨される(静的指標は推奨されない)。

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“腎不全”の輸液管理は,急性腎傷害acute kidney injury(AKI)の輸液管理と慢性腎臓病chronic kidney disease(CKD)の輸液管理に大別される。AKIの輸液管理は,AKIの予防を目的とした輸液管理とAKI発症後の輸液管理とに大別される。そしてその輸液管理は,輸液製剤の選択と輸液量が重要である。AKIはその予防が最重要であり,本稿ではICU患者におけるAKI,横紋筋融解症,そして造影剤腎症の予防を目的とした輸液管理を中心に概説する。そしてCKDの輸液管理は,特に末期腎不全患者である維持透析患者の急性期入院時の輸液管理について概説する。

Summary

●敗血症患者において,AKI予防を目的としたHES含有製剤の投与は避けるべきである。また,アルブミン製剤を晶質液輸液に優先して投与することは推奨されない。

●AKI発症後に,体液過剰の治療以外を目的としたループ利尿薬の投与や,AKIの治療を目的としたANPの投与は行わない。

●heme pigment AKIの予防はCK>5000U/Lで考慮する。炭酸水素ナトリウム輸液の生理食塩液に対する優位性は確立されていない。

●造影剤腎症の予防を目的とした炭酸水素ナトリウム輸液の生理食塩液に対する優位性は確立されていない。現時点では生理食塩液の投与を行えばよい。

●維持透析患者の輸液管理において,ドライウェイトを知ることは不可欠である。しかし,急性期入院時には従来のドライウェイトをそのまま用いることはできない。

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肝硬変・急性肝不全の患者は,アルブミン低下による体液の血管外漏出,門脈圧亢進による腹水貯留と腸管の循環血漿量増加,レニン・アンジオテンシン系や交感神経の亢進による心機能亢進など,特殊な血行動態を呈する。このような患者の血行動態が不安定になった場合は,病態生理を意識しながらボリューム管理をする必要がある。本稿では,肝硬変や急性肝不全の病態生理およびそれに基づいたボリューム管理を中心に解説する。また本邦では広く行われている急性肝不全における血漿交換+血液濾過透析については「人工肝補助療法」として,国内外のガイドラインでの推奨やその背景についても触れる。

Summary

●肝硬変・急性肝不全はともに,末梢血管抵抗低下・有効循環血漿量低下を本態とする循環不全を呈するが,慢性の肝血管抵抗増加・門脈圧亢進由来の症状は肝硬変により特徴的である。

●肝硬変患者において,アルブミンは大量腹水穿刺,特発性細菌性腹膜炎,肝腎症候群で予後を改善し得るエビデンスがあり,使用が推奨されている。

●現時点で,人工肝補助療法の有効なエビデンスはacute liver failureに対してのhigh-volume plasma exchangeのみであり,今後のエビデンスの蓄積が待たれる。

●本邦においての人工肝補助療法は血漿交換+血液濾過透析のことであり,臨床的予後を改善するエビデンスは乏しい。

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外傷を含めた出血性ショックをまねく病態に対する,循環血液量の改善を目的とした輸液療法には,循環の是正は達成できるものの,逆に凝固異常をきたして出血のコントロールができずに出血を助長させてしまうというジレンマがある。また,重症熱傷に対する輸液療法においては,近年“fluid creep”という概念により大量輸液による弊害が強調され,Parkland公式による晶質液のみの輸液蘇生に対して懸念の声も上がっている。果たして,外傷や熱傷に対する輸液療法は,その他の敗血症などによるショックの場合と同じように行ってよいものか,それとも外傷や熱傷には特有の輸液管理が推奨されるのか。本稿では,外傷および熱傷に対する輸液療法の現在までのエビデンスを解説し,そこから読み取れる現段階において推奨できる輸液療法に関して論じる。

Summary

●外傷・熱傷の初期輸液において,推奨される輸液製剤は乳酸リンゲル液などの晶質液であり,アルブミンに代表される膠質液は総輸液量を減少させる可能性はあるが予後には影響を与えない。

●外傷性出血性ショックにおけるpermissive hypotensionの有用性に関しては,まだまだ明確な結論は出ておらず,年齢や動脈硬化などの既往歴を参考にして個々の患者ごとに考慮する必要がある。

●外傷・熱傷の輸液管理は,熱傷における“fluid creep”に代表される大量輸液の弊害を避けるために「必要最低限な輸液量」を心掛けることが大切である。

●熱傷における初期輸液量は,大量輸液の弊害を避けるためにも,Parkland公式よりもその半分量である修正Brooke公式のほうがよい可能性がある。

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救命を目的として大量の輸液を行い,種々の治療介入を行ったものの,改善しない症例がある。さらに,治療で重要な役割を担っていた輸液が皮肉にも著明な浮腫や呼吸困難を引き起こし,患者にとって有害とも思える状況を作り出してしまうことをしばしば経験する。またこれまで積極的な治療を行っていたものの機能が著しく低下し回復の兆しがなく,家族から救命治療よりも緩和ケアを中心とした治療comfort measures only(CMO)へ方針転換する要望がでることもある。これまで行ってきた治療が患者にとって本当に有益かどうかの判断に悩みつつも,新たな治療の制限withholdingや治療の撤退withdrawingの選択を迫られ,倫理的ジレンマや法的問題に悩むこともあるだろう。

 終末期医療の意思決定プロセスをより明確かつシステマチックに理解し,進めることが重要である。

 終末期医療における輸液を考えた場合,終末期の患者状態から同意の取得などで無作為化比較試験(RCT)が困難であり,質の高いエビデンスは多くない。また患者ごとにgoal of careが異なることに注意して,実際の治療を選択していく必要がある。本稿では,このような終末期医療における輸液のエビデンスをまとめるのみではなく,終末期医療における効果的な意思決定プロセスについても述べたい。

Summary

●予後が1か月未満の患者におけるルーチンでの輸液が,予後やその他の身体症状を改善したというエビデンスは乏しい。ただ,患者や家族などの介護者の満足度,尊厳,QOLを改善する可能性はある。

●終末期にルーチンで輸液を行うことで,腹水,胸水,気道分泌の増加,呼吸困難の増悪,嘔吐や下痢,末梢浮腫の悪化をきたす可能性がある。特に1000mL/日以上の輸液で顕著となる。

●終末期には,狭義の終末期imminent deathと広義の終末期nearly deathがある。

●終末期医療の決定プロセスとして,①医学的なこと,②倫理的なこと,③法的なこと,をそれぞれ把握・評価する。

●終末期医療において「輸液をすべきか,否か?継続すべきか,中止すべきか?」といった意思決定に迫られることがある。その際,倫理的ジレンマを感じる。そのとき,意思決定に必要な要素を「Jonsenの4分割法」を用いてもれなく吟味することが重要である。さらに患者の価値観に沿ったgoal of careを患者や家族とともに考え,意思決定することが重要である。

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2001年Riversら1)が,公表したearly goal-directed therapy(EGDT)は,それまで確立した管理法がなかった敗血症性ショックの死亡率を劇的に改善する方略として,世界に大きな影響を与えた。しかし,近年大規模な追試2〜4)が複数行われ,EGDTは通常治療usual careと比べて生存率を改善しないことが示され,Surviving Sepsis Campaign Guideline(SSCG)20165)ではその姿を消すことになった。

 EGDTのようなプロトコル化された循環マネジメントは,もはや有益ではないのだろうか?それとも,我々はプロトコル・アルゴリズムを使用し続けてもよいのだろうか?

 本コラムでは,主に敗血症と周術期の循環管理に関連したプロトコルを題材として,プロトコルとの向き合い方について考察する。キーワードは「標準化」と「個別化」である。

Summary

●プロトコルによる「標準化」は,意思決定の負担を軽減するとともに,標準的治療からの逸脱を防ぐなどのメリットがある。一方,管理の個別性がなくなるといったデメリットも存在する。

●敗血症のような異質性が高い疾患において,すべての患者に有益なプロトコルを作成することは困難である。

●多様な患者に「個別化」した管理を提供するためには,患者を「層別化」してエビデンスを創出することが有用である。

●医療者の行動における標準化と個別化の共存に関して,組織の意思決定プロセスを見直すことが有用であるかもしれない。

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「血圧を上げるならボーラスだ!」

 筆者が米国でインターンだった頃,先輩レジデントにそう叩き込まれた。“ボーラス”とは,輸液の急速静注のことである。急性腎傷害患者など,プラスバランスにするためなら,維持輸液の量を増やすだけでもよい。しかし,低血圧患者の蘇生にはボーラス輸液を行う。筆者の知るかぎり,欧米では今でもこれが輸液に対する一般的な考え方である1)。集中治療領域においても「輸液チャレンジ」という名称でボーラス輸液は頻繁に行われており,例えば,Surviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)2012においても,その重要性が強調されている2)

 ところが,我が国では手術室以外でボーラス輸液を目にすることは,ほとんどない。なぜ,欧米ではボーラス輸液が頻繁に行われるのだろうか?それは果たして患者にとってよいことなのだろうか?「急いては事を仕損じる」というが,ボーラス輸液による害はないのだろうか?

Summary

●ボーラス輸液には生理学的な裏づけがあり,欧米の集中治療領域では頻繁に利用されている。

●ボーラス輸液は臓器灌流の早期改善を可能にするばかりではなく,輸液チャレンジとして,数値的評価に基づいた安全な輸液治療も可能にする。

●ただし,ボーラス輸液と維持輸液を直接比較した唯一の臨床試験では,その安全性に疑問が投げかけられた。

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ここでは「維持輸液」について,歴史的経緯から最新知見までを概説する。なお。3号液は一般に「維持液」と言われているが製剤の一種であり,ここで扱う「維持輸液」とは別であることをご留意いただきたい。

Summary

●「維持輸液」とは,1日に必要な水分量を輸液すれば,細胞外液量と健常な電解質レベルを“維持”できる,と考えられる輸液の概念である。

●急性疾患や重症患者は,バソプレシン分泌過剰の状態にある。「維持液」などの低張液を漫然と投与した場合,低ナトリウム血症から不可逆的な脳機能障害や死をまねくことがあり,特に小児では注意が必要である。

●急性期や重症患者では,維持輸液の組成を一律に規定することはできない。

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読者のなかには,血管内容量過多と評価して利尿をかけているにもかかわらず,維持輸液を続けていたり,尿量が少ないからという理由で輸液のなかにフロセミドを混注するといった点滴内容をみたことはないだろうか。ICUでこのような輸液をみることはないだろうが,病棟ではしばしば見かける光景であり,首をかしげてしまう。

 本コラムでは,このようないわゆる「入れながら引く」輸液について,そうしてしまう心理も含め考察してみたい。内容の性質上,筆者個人の見解が多くなり,エビデンスに欠ける内容になってしまうことはご容赦いただきたい。

連載 港島ICU×ICTカンファレンス

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神戸市の沖に浮かぶ人工島「港島」に位置する神戸市立医療センター中央市民病院には救急患者を中心としたEICU,心臓血管外科術後や院内急変を中心としたGICUがある。それぞれのICUスタッフと感染症科医,総合内科医が集まり,月1回「ICU×ICTカンファレンス」を開催している。今回は,過去2回とは趣を変えて,心臓外科がある病院では避けては通れない心臓手術後の手術部位感染surgical site infection(SSI)予防に関する話題を整理する。

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世界で最初の置換液オンライン作成システムの報告は1978年,Hendersonら1)によるものであった。日本国内では,1990年代にオンラインHDFの開発・臨床応用が開始されると急速に普及し,現在では多くの施設でオンラインHDFが施行され,その患者数は年々増加傾向にある。本稿では,オンラインHDFが普及した背景や臨床効果などについて述べたい。

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This ongoing series provides the readership of Intensivist with the opportunity to read concise reviews of current topics in Critical Care Medicine, in English. It is hoped that these reviews will stimulate the pursuit of other literature written in English.

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無作為化比較試験(RCT)は最も質の高いエビデンスとなる研究です。

しかし,費用・倫理面・その他の理由からRCTを行うことが容易でなく,また,RCTにおける組み入れ基準も非常に厳格であることが多く,その結果の一般化可能性は必ずしも高いとはいえません。

このような背景から,比較的安価で,実臨床を反映した既存のデータを二次利用した観察研究の重要性が近年見直されてきています。

診療報酬請求データベースや一部の疾患・手術などの登録データベースは規模も大きく,世界各国で研究利用のための整備が進んでいます。

今回は,データベースの二次利用,特に診療報酬請求データベースに焦点を当てて解説し,後半で日本の診療報酬請求データベースの代表であるDPCデータベースを利用した研究を取り上げ,その“Methods”を解説します。

連載 Journal clubをやってみよう

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前々回(第3回)は,結果に影響を与えるバイアスと交絡因子に関する総論を述べた。

今回は,交絡に対する具体的な対処方法・評価方法について解説する。

論文の内容を批判的に吟味するには,

①どのような交絡因子が存在するのか,

②交絡因子に対してどのような調整を行っているか,

③その交絡因子の調整は適切なのか,という視点が必要となる。

どのような論文を読む場合でも,常にこの吟味の姿勢をもつことが重要で,そのためには交絡因子に対する調整は,どの段階で,どのような方法で行うことができるのかを理解しておく必要がある。

第3回でも示したが,交絡因子の対処は下記の3段階で行われる。

①研究デザイン段階による対処方法:対象者の限定,マッチング,無作為割り付け

②研究実施時の対処方法:交絡し得る因子の情報収集

③データ収集後統計的解析による対処方法:層別化,調整(回帰モデル,多変量解析),

 傾向スコア解析propensity score analysis,操作変数法instrumental variable

今回はこれらの具体的な方法と注意点に関して解説する。

連載 ICUフェローからのメッセージ

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2016年4月から8月末にかけての5か月間,MelbourneにありますMonash Medical Centre(MMC)でICU臨床研究留学を経験させていただきました。本体験記では,オーストラリアのICUの様子や私の研究生活などについて報告いたします。

 私がおりましたMMCはMelbourne中心部の東近郊に位置するMonash Universityの附属病院です。本院は総ベッド数640床のうちICU 26床をもち,さらにchildren hospitalとsurgical hospitalが併設された大規模病院であり,Melbourneの東側の医療を一手に担っています。このたびの留学では,横浜市立大学医学部 生体制御・麻酔科学 高木俊介先生にMMCのYahya Shehabi教授をご紹介いただき,彼の率いるcritical care research teamのリサーチフェローとして,ある前向き研究の立ち上げ段階から参加させていただきました。このShehabi教授は,高木先生がSydneyに留学されていたときのボスであり,early goal-directed sedationなど集中治療領域でインパクトの大きい研究を多く手がけていらっしゃる方です。

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基本情報

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INTENSIVIST
9巻2号 (2017年4月)
電子版ISSN:2186-7852 印刷版ISSN:1883-4833 メディカル・サイエンス・インターナショナル

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