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輸液は血行動態が不安定な患者に対する「蘇生」の基本であり,血行動態が不安定な間は「迷ったら輸液」という判断がなされることが多いのではないだろうか。敗血症性ショックの治療を例に挙げると,敗血症性ショックの患者に対する低用量バソプレシンの効果を調べたVASSTでは,水分出納の平均は来院後12時間で+4.2L,4日後で+11.0Lであり1),極めて大量の輸液が行われていることがわかる。筆者の経験からも,利尿や除水と比べると,輸液により「満たす」ことによる不安や罪悪感は少なく,気がついたときには水分出納が大きく正に傾いていることが多い。それでも近年では,輸液過剰によるさまざまな弊害と合併症がより強く意識されるようになってきている2,3)。また,敗血症性ショックなどの血液分布異常性ショックの患者において,漫然と輸液を行うことにより,拡張した静脈系にプールされるだけの血液循環量unstressed volume(無負荷血液量)を増加させるよりも,早期に血管収縮薬を用いることにより静脈系の収縮を促して静脈還流量および前負荷を増加させることの重要性が指摘されている4)。
本コラムでは,過剰な輸液によって起こり得る生理学的な変化,臓器別アウトカム,その他の重要なアウトカムをレビューする。肺と心臓については他稿で詳しく述べられているため省略する。輸液を制限する群としない群を比較した無作為化比較試験は少なく5〜7),輸液過剰がアウトカムに与える影響の考察に使用できる文献は,ほとんどが後向き研究または前向き観察研究である。したがって,輸液過剰の害を見ているというよりも「大量の輸液が必要になるほど血行動態が不安定な患者や,水分出納が正になりやすい乏尿患者(つまり重症な患者)のアウトカムを見ているのではないか?」という疑問は払拭されないことに注意が必要である。
Summary
●輸液は血行動態が不安定な患者に対する「蘇生」の基本であるが,近年では,輸液過剰によるさまざまな弊害と合併症がより強く意識されるようになってきている。
●くも膜下出血後などの中枢神経系疾患患者においては,過剰な輸液は神経学的予後の悪化と関連しており,意図的に多めの体液量を目指す治療方針による利益は少ないと考えられる。
●腎臓も他の臓器と同じく,ボリュームステータスの「最適化」が重要であり,体液量過多にすることで利益が得られるという考えや,「腎機能が悪いから除水を行わない」というプラクティスは再考の余地がある。
●体液量過多により肝障害が起こり,除水によって改善することは日頃の臨床的な感覚とは矛盾しないが,低血圧とは独立した急性肝うっ血の影響を検討した臨床研究はないため,今後のさらなる研究が待たれる。
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