特集 輸液・ボリューム管理
Part 1 総論
1.侵襲時輸液の生理学—知っておきたい体液動態
多田羅 恒雄
1
Tsuneo TATARA
1
1兵庫医科大学 麻酔科学・疼痛制御科学講座
pp.259-271
発行日 2017年4月1日
Published Date 2017/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3102200379
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大手術後や敗血症など高度侵襲時の輸液療法の主な目的は,血漿量を保つことにより組織灌流を維持することである。しかし,現在,血漿量をベッドサイドでリアルタイムに測定する方法がないため,具体的な輸液の方法は各医師の主観や経験に依存しているのが実情である。このようななか,侵襲時における輸液製剤の体内分布や体液分画fluid compartment間の水移動に関する生理学を理解することは,侵襲時輸液療法の“迷い”を軽減することにつながる。この数年間に侵襲時の輸液療法は理論・実証ともに新たな展開を迎えている1)。
Summary
●侵襲時の体液動態は動的であり,体液量の経時変化が重要である。
●いわゆるサードスペースの本態は炎症性浮腫である。炎症時には,細胞間質ゲルが能動的に膨潤することにより,血管内から細胞間質へ水が移動する。
●静脈圧・静脈還流に関与するのはstressed blood volumeである。輸液・血管収縮薬はstressed blood volumeを増加させ,血管拡張薬はstressed blood volumeを減少させる。
●輸液製剤の血漿増量効果は“context-sensitive”である。血管内皮グリコカリックスを導入したrevised Starling式に従うと,毛細血管圧が低い時は,晶質液であっても高い血漿増量効果を発揮する。
●炎症などの侵襲は血管内皮のグリコカリックスを崩壊させる。このため,輸液や血管収縮薬により毛細血管圧が上昇すると血管内から血管外への水漏出が増加する。
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