- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
救命を目的として大量の輸液を行い,種々の治療介入を行ったものの,改善しない症例がある。さらに,治療で重要な役割を担っていた輸液が皮肉にも著明な浮腫や呼吸困難を引き起こし,患者にとって有害とも思える状況を作り出してしまうことをしばしば経験する。またこれまで積極的な治療を行っていたものの機能が著しく低下し回復の兆しがなく,家族から救命治療よりも緩和ケアを中心とした治療comfort measures only(CMO)へ方針転換する要望がでることもある。これまで行ってきた治療が患者にとって本当に有益かどうかの判断に悩みつつも,新たな治療の制限withholdingや治療の撤退withdrawingの選択を迫られ,倫理的ジレンマや法的問題に悩むこともあるだろう。
終末期医療の意思決定プロセスをより明確かつシステマチックに理解し,進めることが重要である。
終末期医療における輸液を考えた場合,終末期の患者状態から同意の取得などで無作為化比較試験(RCT)が困難であり,質の高いエビデンスは多くない。また患者ごとにgoal of careが異なることに注意して,実際の治療を選択していく必要がある。本稿では,このような終末期医療における輸液のエビデンスをまとめるのみではなく,終末期医療における効果的な意思決定プロセスについても述べたい。
Summary
●予後が1か月未満の患者におけるルーチンでの輸液が,予後やその他の身体症状を改善したというエビデンスは乏しい。ただ,患者や家族などの介護者の満足度,尊厳,QOLを改善する可能性はある。
●終末期にルーチンで輸液を行うことで,腹水,胸水,気道分泌の増加,呼吸困難の増悪,嘔吐や下痢,末梢浮腫の悪化をきたす可能性がある。特に1000mL/日以上の輸液で顕著となる。
●終末期には,狭義の終末期imminent deathと広義の終末期nearly deathがある。
●終末期医療の決定プロセスとして,①医学的なこと,②倫理的なこと,③法的なこと,をそれぞれ把握・評価する。
●終末期医療において「輸液をすべきか,否か?継続すべきか,中止すべきか?」といった意思決定に迫られることがある。その際,倫理的ジレンマを感じる。そのとき,意思決定に必要な要素を「Jonsenの4分割法」を用いてもれなく吟味することが重要である。さらに患者の価値観に沿ったgoal of careを患者や家族とともに考え,意思決定することが重要である。
Copyright © 2017, MEDICAL SCIENCES INTERNATIONAL, LTD. All rights reserved.