INTENSIVIST 6巻4号 (2014年10月)

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現代の心肺蘇生cardiopulmonary resuscitation(CPR)の礎は,主にSafarら1〜3)やKouwenhovenら4)により今から50年以上前に築かれた。特に,1960年はCPR元年として知られており5),これ以降現代の標準的CPRにつながる閉胸式心マッサージ(すなわち,胸骨圧迫)と人工呼吸を組み合わせたCPRが広く普及することになった。以後50数年の間にサイエンスとしての蘇生科学はめざましい進歩を遂げ,さまざまな工夫やシステム改変などの試行錯誤により,院外心停止の長期的な転帰は改善してきた。心停止症例の転帰改善の理由として,一般市民のかかわる病院前のコンポーネント(早期通報,バイスタンダーCPR,一般市民による除細動など)や,一次救命処置basic life support(BLS)や二次救命処置advanced cardiac life support(ACLS)などのCPRの手技そのものにかかわるコンポーネント(CPRの手順,胸骨圧迫対人工呼吸比,薬物投与アルゴリズムなど)の向上が指摘されている6〜10)

 しかし近年は,これらにとどまらず自己心拍が再開して入院したあとの包括的な集中治療が,心停止患者の転帰改善に寄与しているのではないかと注目されている11,12)。AHA(American Heart Association:米国心臓協会)ガイドライン20108)でも,従来4つの鎖の結合で構成されていた救命の連鎖chain of survivalに「統合的心停止後ケアintegrated post-cardiac arrest care」という5つ目の鎖が加えられた。本誌の今回の特集は,この5つ目の鎖,すなわち心停止の転帰改善における入院後の集中治療の役割に焦点を絞って企画を組んだ。今回の特集のテーマを一言で言えば「自己心拍再開後にインテンシヴィストに何ができるか?」である。

Summary

●自己心拍再開後の体温管理,早期冠動脈造影評価と治療介入をはじめとした包括的な全身管理,すなわち,心拍再開後の集中治療が転帰改善に寄与することが明らかになってきた。

●自己心拍再開後入院患者の転帰には,地域格差,病院間格差,そしてボリューム効果があることが示唆されており,心拍再開後の治療介入を積極的に行う施設に患者を集約化したほうが転帰が改善する可能性がある。

●これらを受けて2010年のAHAガイドラインでは,従来4つの鎖の結合で構成されていた救命の連鎖(chain of survival)に,あらたに「統合的心停止後ケアintegrated post-cardiac arrest care」という5つ目の鎖が加えられた。

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心停止後症候群post cardiac arrest syndrome(PCAS)における虚血再灌流障害について,その病態生理を解説する。現在までに明らかになっている事項を整理しつつ,中枢神経系および全身の障害をいかに低減するのかについても考察した。

Summary

●PCASの病態生理の主体は,全身の虚血再灌流障害に起因する機序であり,①脳損傷,②心筋障害,③全身性虚血再灌流反応,④心停止に至った原病で構成される。

●虚血後脳神経細胞死における,分子細胞レベルの重要な機序は,①Ca2+代謝の変化,②フリーラジカル産生,③ミトコンドリア不全,④タンパク分解酵素の活性化,⑤遺伝子発現の変調,そして⑥炎症反応である。

●低体温療法はどのような症例に有効か,どのタイミングが至適なのかといった点は,これからの研究課題である。

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心停止後の患者の社会復帰を妨げているのは,虚血という脳血流cerebral blood flow(CBF)停止現象に対して,脳が脆弱な臓器であることが主たる原因である。本稿では「心停止」を想定したラットの前脳虚血モデルで得られた結果を中心に,脳蘇生における虚血性神経細胞死のメカニズムについて分子生物学的な観点からとらえ,脳保護におけるミトコンドリア機能不全の重要性について概略を述べる。

Summary

●同じ虚血時間でも細胞死を起こしやすい神経細胞を,“選択的脆弱性”または“易傷害性”を有するという。

●虚血より数日後から起こる細胞死を“遅発性神経細胞死”という。一過性の脳虚血時間が長時間になるに従い,その発現はより早くなる

●グルタミン酸-Ca2+説とは,細胞内Ca2+濃度の上昇がCa2+依存性酵素の活性化,膜構成成分の脂質の障害,ROSの産生,ミトコンドリア呼吸鎖の傷害とATP産生不全という過程を引き起こし,急性あるいは遅発性の神経細胞死が誘発されると考えるものである。

●Ca2+,フリーラジカル,PLA2などによってミトコンドリア内膜に非特異的な孔(pore)が開孔することで,ミトコンドリア膜透過性遷移現象が起こる。このようなミトコンドリア機能不全と神経細胞死の関連が強く示唆されている。

●アクアポリンと呼ばれる,多くの水分子の移動を可能とする孔が細胞膜にあることが証明され,脳浮腫に関連する水の移動に重要な役割を果たしていると考えられている。

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心停止による一連の機能障害は,心停止後症候群post cardiac arrest syndrome(PCAS)という病態にて説明される。特に心停止後の心機能障害は心筋梗塞発症の際はもちろんのこと,冠動脈疾患のない患者においても発症し得る。

 その本態は,心筋の気絶状態stunningであり,収縮能のみならず拡張能も障害された状態である。その結果として招来される心拍出量の低下だけでなく,アシドーシスならびに敗血症病態に類似した再灌流障害による血管拡張と相まって,全身灌流の低下を生じ得る。しかも,自然寛解を得ることが可能なことも多く,かつ昇圧薬への反応性を有していることから,心筋虚血の解除ならびに昇圧薬によって心臓自身,脳ならびに全身臓器へ血流を維持すること,さらに体温のコントロールを行うことが重要である。

Summary

●心停止後の心機能障害は心拍再開後から数時間以内に発症するが,一過性であり,回復傾向にある。

●輸液,昇圧薬に反応することがほとんどであるが,不応である場合の予後は悪いため,積極的な補助循環が必要である。

●発症2時間以内の血行動態は予後に影響するため,早期から十分な血圧のコントロールを行うことが必要である。

●心筋虚血は解除することが望ましい。

●心筋梗塞において,低体温療法は梗塞巣の減少に寄与するものであるが,冠血行再建時に低体温になっていれば予後良好の可能性がある。

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近年,心停止後の急性腎傷害acute kidney injury(AKI)の発生頻度が,重症敗血症や敗血症性ショック患者と同様に高いことが明らかになり,その病態と心停止後症候群post cardiac arrest syndrome(PCAS)との関連を指摘する研究がいくつか報告されている。本稿では,心停止後のAKIの疫学,病態生理,そして予後との関連について,これまでに報告された文献の検証を行った。最後に,American Heart Association(AHA)ガイドライン20101)で推奨されている低体温療法は,心停止後のAKIに影響するのかについて検討する。

Summary

●心停止後の急性腎傷害(AKI)発生の病態生理は,虚血による直接的な腎臓の傷害だけでなく,自己心拍再開(ROSC)後の心停止後症候群(PCAS)が関与している可能性が高い。

●心停止後の患者では,AKIの発生頻度が高い。

●心停止後のAKIは,神経学的予後と関連する可能性がある。

●低体温療法が心停止後のAKIに予防的に作用するかどうかは,現時点では不明である。

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心停止からの自己心拍再開return of spontaneous circulation(ROSC)後の病態は,①心停止後脳障害,②心停止後心筋障害,③全身性虚血再灌流障害,④心停止に至った原疾患の残存と増悪,の4つに大きく分けられるが,近年は心停止後症候群post cardiac arrest syndrome(PCAS)と総称されるようになってきた1)。このうち,特に虚血再灌流障害によって血管内皮細胞の活性化と全身性の炎症が惹起され,高サイトカイン血症を呈すると考えられている*1。Adrieら2)は,炎症性サイトカインの放出という点が敗血症の病態に類似しているとし,“sepsis-like syndrome”という概念を提唱した。この概念が提唱された背景には,敗血症に準じた管理を行うことで,ROSC後の患者に臨床的なメリットをもたらすのではないかという期待があったことが推測される。しかし,その後10年以上が過ぎた現在では,sepsis-like syndromeという用語そのものを文献などで目にする機会が減った印象を受ける。

 今回のコラムでは,PCASを“sepsis-like syndrome”とする概念は理にかなっているのかを探ることを目的とするが,できるだけ臨床的な視点で文献的考察を交えて述べようと思う。

Summary

●自己心拍再開(ROSC)後は,虚血再灌流障害により全身の炎症が惹起され,敗血症に類似した高サイトカイン血症を呈することから,sepsis-like syndromeという概念が生まれた。

●sepsis-like syndromeは,高サイトカイン血症を呈するだけでなく,血行動態など臨床的にも敗血症と似た印象を受けることがある。

●ROSC後の虚血再灌流障害が主体となるPCASと,重症感染症である敗血症では根本的な原因や病態が異なるため,“sepsis-like”という言葉の使用はかえって誤解を生む可能性がある。

●ROSC後の患者に対して,敗血症を意識した管理が試みられてきたが,現状では有用性が証明されたものはない。

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1950年代末から始まる心停止に対する蘇生治療1)は,現在のものと基本的に同じであり,過去30年間の成績にも大きな改善は認められていない2)。それ故,心停止例に対する自己心拍再開return of spontaneous circulation(ROSC)までの情報による予後予測は,費用対効果と倫理的側面から蘇生治療を継続すべきかどうかの判断や,入院後治療の効果判定のための分類法として活用できると考えられる。換言すれば,蘇生中止や体外循環などの高価な蘇生治療の適応を判断するための目安としての役割があると思われる。

 本稿では,心停止例に対する予後予測に関して,主に自己心拍が再開,持続する前の因子から,どの程度予測可能かを概説したい。そこで「院外心停止と院内心停止」「小児と成人」の違いにより,予測因子に対するとらえ方が異なるため,本稿では,成人院外心停止,成人院内心停止,小児心停止に分けて論じたい。

Summary

●地域ごとの病院前救護体制の違いにより,成人院外心停止の予後予測因子は異なる。しかし,病院前の「自己心拍再開(ROSC)あり」と「除細動適応あり」の2因子は,多くの地域で予後予測因子である。

●本邦では,上記2因子に「目撃あり」を加えた3因子のすべてがない場合は,99%強の陽性的中率で,成人院外心停止の1か月後死亡を来院時点で予測できる。

●成人院内心停止の予後予測モデルには,既存疾患を主な因子としたGO-FARスコアやCARTモデルがある。

●小児院外心停止の予後に影響する因子として,除細動適応の有無,目撃の有無,バイスタンダーによる蘇生処置の有無,年齢が重要である。

●小児院内心停止の場合は,除細動適応の有無,蘇生時間,既存疾患が予後因子として重要である。

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自己心拍再開return of spontaneous circulation(ROSC)後早期の身体所見と神経学的所見から,生命予後・神経学的予後を予測する試みは古くから行われてきたものの,まだ確立された予測モデルはない。近年の低体温療法の普及に伴い,ROSC直後から数日間は,評価可能な身体所見を得ること自体が困難である。しかしながら,臨床の現場では,その後の治療方針の決定や患者家族への説明を行うにあたり,できるだけ正確で適切な予後予測が期待される。

 本稿では,これまでに報告された研究をもとに,どのような身体所見が予後予測因子になり得るかについて,エビデンスに基づいてレビューする。

Summary

●身体所見は,多くの道具を必要とせず短時間で繰り返し得られる,習得しておくべき基本手技であり,自己心拍再開(ROSC)後の患者において重要な予後予測因子である。

●低体温療法がしばしば導入され得るROSC後患者の身体所見による予後予測は,タイミングを熟慮し,適切な診察を行い,薬物などの影響を鑑みて慎重に評価する必要がある。

●身体所見による予後予測には,意識レベル,脳幹反射などの神経学的所見のほか,痙攣発作やミオクローヌスの出現,心拍数や血圧などの血行動態,入院時の体温,シバリングの有無,ROSCから覚醒までにかかる時間などが提唱されている。

●予後予測因子としてしばしば検討されているのは,脳幹反射とGlasgow Coma Scale(GCS)であり,これらは,ROSC後さまざまなタイミングにおける所見が検討されている。

●身体所見はそれだけで独立した予後予測因子となることは難しいが,他の検査とともに,予後予測において重要な位置を占めるものと考えられる。

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心停止後症候群post cardiac arrest syndrome(PCAS)の予後を予測するために,画像検査や電気生理学的検査とともにバイオマーカーを用いた研究が進められている。本稿ではその現状と,臨床応用への課題について解説する。

Summary

●バイオマーカーによる心停止後症候群(PCAS)の予後予測に関する研究は近年積極的に行われており,関連する報告が増加している。

●バイオマーカーの利点は,①薬物使用下でも評価可能,②画像検査のような患者移動が不要,③電気生理学的検査のような特殊な装置や技術が不要なことである。

●バイオマーカーの欠点は,①脳損傷に特異的ではないバイオマーカーが多い,②検体採取のタイミングの影響が十分に検討されていない,③測定キットとメーカーごとに標準値が異なることである。

●検体採取のタイミング,予後不良の定義と評価時期などは報告によって大きく異なり,現時点で臨床に用いることができるバイオマーカーは存在しない。また,低体温療法などの新しい治療戦略が,バイオマーカー値および予後に影響を与えるため,結果の解釈を慎重に行う必要がある。今後は,厳密で統一された手法を用いた大規模な研究にて,臨床に適用できるバイオマーカーのカットオフ値を定め,その妥当性の検証もなされる必要がある。

●現時点で,単一バイオマーカーでの正確な予後予測はできず,バイオマーカーとその他の予測手法(臨床所見,画像検査,電気生理学的検査)を組み合わせた手法の研究が必要と考えられる。

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2002年に,自己心拍再開return of spontaneous circulation(ROSC)後で初期心電図が心室細動ventricular fibrillation(VF),心室頻拍ventricular tachycardia(VT)の場合に,低体温療法を行うことで転帰が改善することが,2つの無作為化比較試験(RCT)1,2)により示された。2012年には,J-PULSE-HYPO study3)で日本の低体温療法の現状が報告され,ROSC後の管理に注目が集まっている。

 ROSC後患者の治療はコストが高く4)*1,長期間にわたってベッドを占有することから,すべての患者に一様に行うわけにはいかない。どのような患者にROSC後の治療を行うかが,集中治療医にとって重要な課題となっている。

 患者の予後を予測するうえで,現在注目されている主要なものとしては,バイオマーカー,脳波,画像検査がある。しかし,神経特異エノラーゼneuron specific enolase(NSE)などのバイオマーカーは保険適用がないうえに,すぐには検査結果が得られない。また,脳波については,24時間対応できない施設が多いなどの問題がある。

 その点では画像検査,特に脳CT(場合によっては脳MRI)は,日本の救命救急センターを有する病院のレベルであれば,24時間365日いつでも施行でき,すぐに結果が得られる検査である。この迅速性,簡便さが画像診断の優位な部分であり,利用される理由である。では,これらの脳画像検査はどの程度予後予測でき,マネジメントに役立てることができるであろうか。症例を交えて過去の文献をレビューしていく。

Summary

●低酸素脳症は,CTやMRIでは脳浮腫として描出され,主に大脳灰白質,大脳基底核に変化が生じる。

●脳CT,脳MRI(拡散強調画像,ADC)の低酸素脳症の所見によって,神経学的な予後不良を予測できるかもしれない。

●脳CTでは「GWR(灰白質CT値/白質CT値)<1.14〜1.2」「DCW(灰白質CT値-白質CT値)<5.5」「mASPECTS<13」,脳MRIでは基底核のADC値が0.6〜0.7×10-3mm2/secを下回ると神経学的に予後不良としている研究が存在する。

●しかしながら,脳画像のみで予後予測できるほどのデータはそろっていない。現時点では他の臨床情報を加味し,総合的に判断をすべきである。

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神経細胞は細胞膜のイオンチャネルの開閉により,細胞膜の電位を変化させて活動している。よって,1つの神経細胞からは微弱な電流が流れている。しかし電流が微弱であるため,体外からは1つの神経細胞の活動を記録することは困難である。しかし,脳という臓器は,一定数の神経細胞が同期的に働くことにより機能を発揮している1)。このため,多数の神経細胞の同期的な動きを電位の変化として,体外から測定することが可能である。この電位の変化を電気生理学的にとらえたものが,脳波(EEG),聴性脳幹反応auditory brain stem response(ABR),体性感覚誘発電位somatosensory evoked potential(SEP)である。心停止による全脳虚血が生じると神経細胞の膜電位に障害が生じ,電気生理学的な反応に変化が生じる。

 本稿では,まず心停止による細胞膜でのイオンチャネルの変化を述べる。そして,心停止後脳障害における神経細胞の障害が,脳波,ABR,SEPに与える影響により,何がわかるかを述べる。さらに,自己心拍再開return of spontaneous circulation(ROSC)後に低体温療法を行った際に測定された持続脳波continuous electroencephalography(cEEG)やBIS(Bispectral Index)での最近の検討を紹介する。

Summary

●神経の電気活動は細胞膜上のイオンチャネルで行われるが,心停止による脳虚血によりこの機能が障害を受ける。

●神経細胞活動の総体をとらえる検査として電気生理学的測定があり,自己心拍再開(ROSC)後症例では,脳波,聴性脳幹反応(ABR),体性感覚誘発電位(SEP)の測定により脳障害の程度がわかる。

●ROSC後症例ではROSC後24時間以降の脳波の測定で,α波がない徐波,平坦脳波,burst suppressionや痙攣様波形の存在,α昏睡がみられると,予後不良である。

●心停止後症候群(PCAS)での低体温療法中や復温後に(ROSC後24〜72時間で検討),SEPで両側のN20がみられない症例は予後が不良である。

●新たな神経モニタリングとしてBISやcEEGがあり,PCASで低体温療法施行中の症例で検討されている。

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近赤外分光法near infrared spectroscopy(NIRS)の心停止後患者への使用については,その評価が始まったばかりである。本稿では,現時点で検索可能な文献を参考に,NIRSの現状と臨床応用について述べる。

 本稿では,NIROの測定値を組織酸素化指数(TOI),INVOSの測定値を局所酸素飽和度(rSO2)と表記した。一般論,またはその他の機種での測定値は組織酸素飽和度(StO2)と表記した。特に記載がなければ測定部位は前額部であり,脳の組織酸素飽和度を示している。

Summary

●近赤外分光法によって得られる脳酸素飽和度は,心停止後の脳損傷の評価と,脳保護戦略の指標として期待されている。

●測定部位にプローブを貼付するだけの利便性と,即座に結果を得られる特性から,制限の多い蘇生治療の現場での使用に適している。

● 測定原理と部位が機器によって異なり,測定項目も統一されていない問題点がある。本邦ではNIRO(浜松ホトニクス)とINVOS(コヴィディエン ジャパン)が使用できる。

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本稿では,成人の心原性心停止(除外診断を含む)による心停止後症候群(PCAS)に対する自己心拍再開(ROSC)後の体温管理療法(TTM)の適応について,本特集の「PCASの予後予測」の各項目をふまえて,時間軸に沿って解説する。

Summary

●心原性心停止(除外診断を含む)による心停止後症候群(PCAS)に対する低体温療法の適応基準は,成人,心拍再開していること,血行動態が安定していること,昏睡状態であることである。

●体温管理療法(TTM)施行後は鎮静薬が使用されるため,正確な予後評価は72〜96時間後に,電気生理学的検査(脳波,SEP),脳画像,バイオマーカーなどを併用して,運動反応を含めた神経学的所見から得られる。

●神経学的評価単独では正確に予後を予測することはできない。脳波を加えることで予後評価がより正確になる。特に早期のreactive EEG patternの存在は予後良好を示す。一方,nonreactive or burst suppression EEG patternは予後不良である。

●48〜72時間後のN20両側消失は予後不良を示す。

●NSE,S-100βは脳損傷の重症度を反映するが,その測定方法および正確性に多くの制限がある。

●MRIは重症度の低酸素虚血病変を同定できる能力があり,補助検査として使用できる。

●TTM施行後に判明した予後不良因子は,TTM継続判断の参考となるが,決定的なものではない。

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心停止の原因として急性冠症候群(ACS)は大きな割合を占め,その管理は自己心拍再開(ROSC)後の予後を改善するうえで,非常に重要である。ACSに由来する心停止後のROSC症例に対する冠動脈造影(CAG)や経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の意義について心肺蘇生法国際ガイドライン2005では記載さえなかったが,その後,急速にROSC後早期のCAG/PCIに関する研究や知見が蓄積し,ガイドライン2010から推奨項目とされるようになった。本稿では,ガイドラインの変遷をふまえ,ROSC後早期のCAG/PCIの意義と有用性についてのエビデンスを検証した。

Summary

●院外心停止の原因として最も多いのはACSであり,ガイドラインではROSC後早期のCAG/PCIが推奨されている。

●CAG前にACSを同定する方法として最も頻用されているのは,心電図でのST変化であるが診断精度は十分ではなく,単一の指標でACSを正確に予測する検査法は存在しない。

●ROSC後患者への早期のCAG/PCIが患者予後を改善するという高いレベルのエビデンスは存在しないが,特にST上昇患者では迅速な施行が強く推奨されている。

●非ST上昇患者では,心停止の状況や既往歴などの心原性心停止の危険因子を考慮して症例ごとにCAGの適応を決定する必要がある。

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心停止後症候群post cardiac arrest syndrome(PCAS)の病態は,心停止後脳傷害,心停止後心筋機能傷害,全身性虚血再灌流反応,持続的増悪病態からなる1)。脳は心停止時の低酸素による直接の傷害に加えて,虚血再灌流後の過剰な酸素供給によって生じるフリーラジカルによる傷害も付加される。すなわち,自己心拍再開return of spontaneous circulation(ROSC)後は,低酸素血症による傷害を受けたあとに高酸素血症による傷害を受ける危険性をはらんでおり,どちらも回避できるような動脈血酸素分圧(PaO2)の調整が必要である。また,動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)に着目しても,PaCO2は脳血流を調節する重要な因子であるため,人工呼吸器で換気を調節することは生理的に適った管理であるといえる。

 本稿では,ROSC後のPaO2,PaCO2をどのように維持するべきか,最近の知見を中心に,これらの疑問に答えていきたい。

Summary

●ROSC後のPaO2,PaCO2をどのように管理すべきかに関する質の高い研究は少ない。

●ROSC後の高酸素血症は,生理学的にも臨床的にも優位な点は示されておらず,むしろ有害である可能性がある。

●同様に,ROSC後の低二酸化炭素血症も,生理学的にも臨床的にも有利な点はなく,むしろ有害である可能性が高い。

●高二酸化炭素血症が神経学的予後を改善させる可能性が示されているが,どの程度まで許容されるか不明である。

●現段階では,各ガイドラインの記載を尊重し,SaO2を94〜98%に,PaCO2を40mmHg程度に維持するのが妥当である。

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心肺蘇生に関して2010年に発表されたILCORのCoSTRにて,心拍再開だけではなく,神経学的予後改善のための自己心拍再開(ROSC)後集中治療の重要性が言及された。その結果,AHA,ERCのchain of survivalにROSC後集中治療が加わり,心停止患者の予後は生存ではなく,神経学的予後にあることが強調されるようになった。本稿では,PCASに対し過去に研究された薬物について紹介する(表1)。

Summary

●ステロイドに関しては,院内心停止を対象とした無作為化比較試験で有用である可能性が示唆されているものの,院外心停止患者でも有効であるとするには,さらなる研究が必要である。

●チオペンタールについては,有効性は示されておらず,合併症のリスクが示唆されている。

●リドカインについては,ROSC後の致死的心室不整脈再発予防の検討が行われたが,神経学的予後に有効かは明らかではない。

●その他さまざまな薬物で検討が行われているが,確実に有用であるとされるものは現時点では存在しない。ただし,心停止を一病態としてではなく,より詳細に分類することで,有効性を得られる患者群が存在する可能性は否定できない。

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心停止後症候群post cardiac arrest syndrome(PCAS)に対して,体温管理療法は有用か。有用であるとすれば,低体温療法が有用であるのか,あるいは,常温の維持が重要であるのか,もしくは高体温さえ回避すれば十分であるのか。また,どのような症例に対して体温管理療法が適応となるのか。本来,これらの命題への回答なしに,体温管理療法の実際を語る意味はないのかもしれない。しかし,これらの解説は他稿に譲ることとし,本稿では体温管理療法が有用であるとの前提に立ち,これまで行われてきた種々の研究をもとに,体温管理(主に低体温療法)の実践的方法について検討したい。

Summary

●体温管理の具体的手法について検討した研究は少ない。

●低体温療法の導入時期や目標体温到達までの時間を早めても,予後は改善しない可能性がある。

●ただし,プレホスピタルでの自己心拍再開前(心停止中)からの低体温療法導入に関しては,予後改善の可能性が残されている。

●各種デバイスには一長一短がある。複数の冷却方法を組み合わせ,各施設の実情に合った方法を選べばよい。

●発熱は回避したほうがよさそうであるが,心停止後いつまで体温管理を継続すべきかについてはわかっていない。

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心停止後症候群post cardiac arrest syndrome(PCAS)に対する低体温療法は2002年に大規模な無作為化比較試験(RCT)1,2)が発表され,世界的に注目されるに至った。ところが,近年では,平常体温で管理する場合と比べて予後改善にはつながらない可能性を示唆したRCT3)も発表されており,低体温療法の有用性に陰りが生じてきた。しかし,心停止という最大の侵襲に曝された脳は,不可逆的な経過をたどる可能性があるために,少しでも脳保護につながる可能性がある治療は施行したいと考えるのは自然なことである。一方で,低体温療法では低体温の生理的反応から生じるさまざまな合併症が懸念され,臨床家は治療の効果と合併症を天秤にかけて適応を考慮しなければならない。

 では,低体温療法による合併症は本当に臨床的にも問題があるのか,予後悪化につながるのか,これまでに報告されている文献から検証してみたいと思う。

Summary

●ROSC後における低体温療法に伴い,体温変化のさまざまな段階において,血行動態の変化,凝固異常,電解質異常,免疫能低下などの生理学的変化が起こる。

●無作為化比較試験の結果を参考にすると,ROSC後における低体温療法は平常体温管理と比較して,有意な合併症増加に至らない。

●ROSC後において,低体温療法を施行した患者の合併症のなかで死亡と関連がある因子は高血糖と抗てんかん薬を必要とする痙攣のみであった。

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新生児,小児,成人と年齢にかかわらず,心停止直後の対応はBLS,NCPR,PALS,ACLSなどを代表とする標準化された蘇生プロトコルにより,近年めざましい進歩を遂げている。また,今回の特集でもわかるように,成人の分野では,自己心拍再開(ROSC)後の集中治療についても多くのエビデンスが蓄積しつつあり,この領域の進歩は著しい。しかし,小児領域におけるROSC後の治療の現状はどうであろうか。本稿では,ROSC後のみならず,小児の体温管理療法,特に低体温療法に焦点をあて,小児における低体温療法のエビデンス,低体温療法の生理病理学,禁忌や合併症,適応疾患,低体温療法の施行法を紹介したい。

Summary

● 低体温療法に関しては,新生児領域は質の高いエビデンスがあるのに対し,小児領域は不十分なエビデンスのもとに数々の疾患に試みられている。

● 新生児の低酸素性虚血性脳症に関しては,質の高いエビデンスにより有効性が示されている。

● 小児領域の低体温療法が試みられている疾患で,ある程度の研究が行われているものは,心停止後の脳障害と頭部外傷の2つである。

● 難治性痙攣に対する低体温療法が施行されている場合もあるが,現時点ではエビデンスは不十分と言わざるを得ない。

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PCAS患者において,脳波異常,痙攣やミオクローヌスは,まれならずみられる。PCAS患者の痙攣は強力な予後不良因子と考えられるが,PCASにおける痙攣やミオクローヌスをどのように治療するか,これらの治療が患者予後を改善させるのかについて,文献をふまえ記載する。

Summary

●心停止後症候群(PCAS)患者において,まれならず脳波異常,痙攣やミオクローヌスが出現する。

●最近のガイドラインでは「可視的な症状(発作)の有無によらず,臨床的あるいは電気的(脳波で確認できる)てんかん活動が少なくとも5分以上続く場合,あるいはてんかん活動が回復なく反復し,5分以上続く場合」をてんかん重積状態(SE)と定義している。

●SEは,全身痙攣が症状の主体である痙攣性てんかん重積状態(CSE)と,痙攣を伴わない非痙攣性てんかん重積状態(NCSE)に分類される。また,SEのうち,抗てんかん薬2剤による適切な治療を行っても,てんかん発作が治まらない状態を難治性てんかん重積状態(RSE)と分類する。

●ミオクローヌスは突然の筋収縮により生じる体のぴくつき,不随意運動を指す。ミオクローヌスが持続するてんかん重積状態をmyoclonic status epilepticus(MSE)という。

●持続脳波モニタリングは,低体温療法中においても,脳波異常の確認からNCSEを診断可能であり,また,患者予後予測にも有効であるが,これが治療の指標となり患者予後改善に関与するかは依然明らかになっていない。

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自己心拍再開return of spontaneous circulation(ROSC)後高血糖と死亡や神経学的転帰不良との間に有意な関連があることは,さまざまな観察研究で示されているが,ROSC後ケアにおける血糖管理について,目標となる血糖値範囲を具体的な数値で提示できた無作為化比較試験(RCT)は現在のところはない。ただし,ICU入室患者に対する高血糖の是正と低血糖の回避が,患者予後を改善する可能性が数多くの文献1〜9)で示されており,各ガイドラインでは,それぞれにROSC後ケアにおける血糖コントロールを推奨している。

 また,近年では,高血糖や低血糖だけでなく,血糖値の変動そのものがROSC後の患者転帰と関連があることを示す観察研究も発表されている。

 本稿では,第一にROSC後高血糖と死亡や神経学的転帰不良との関連について,第二にROSC後ケアにおける目標とすべき血糖値範囲について概説し,最後に血糖値変動と患者転帰との関連についても触れたい。

Summary

● ROSC後の高血糖と死亡や神経学的転帰不良との間には有意な関連があることが,数多くの文献で示されている。

● ROSC後ケアにおいて目標となる血糖値範囲を具体的に示した無作為化比較試験やメタ解析はないが,ICU入室患者を対象とした研究では,高血糖や低血糖を避けることにより患者転帰が改善することが明らかになってきており,各ガイドラインでもROSC後ケアにおける血糖コントロールが推奨されている。

● 血糖値の変動と死亡や神経学的転帰不良との間に有意な関連がある可能性が示唆されてきている。

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日本国内において,一般市民が自動体外式除細動器(AED)を使用できるようになったのは2004年のことであり,本年でちょうど10年となる。AEDの普及は院外心停止患者の心拍再開(ROSC)率,社会復帰率を劇的に改善した1)。この10年では,一般市民への心肺蘇生法(CPR)の普及,蘇生に関するガイドラインの改訂もあり,社会復帰率の向上に寄与していると考えられる。

 心停止患者の予後評価あるいは治療成績として扱われることが多いのは,ROSC率や生存退院率だが,これらは長期予後に対して短期予後と表現される。長期予後として調査研究が行われる場合は,生存退院した患者数を母数として,ある一定期間後の死亡率,生存率が調査される。1年,3年,5年,10年生存率や平均生存日数などが指標として用いられる。単純な生存率だけでなく,ROSC後の後遺症,すなわち神経学的障害の程度はもちろん重要な評価項目だが,退院後に神経学的機能を追跡調査するのは容易ではなく,報告は少ない。

 日本国内では,2005年から総務省消防庁がウツタイン様式に基づいた調査を行っており,国際的にも注目される大規模調査となっている。

Summary

●日本国内では消防を通じて集計されている救急蘇生統計(日本版ウツタイン統計)が心停止についての膨大なデータを蓄積している。転帰については短期転帰(1か月後)までしかデータがないが,2009年の時点で全心停止に対する1か月後の社会復帰率は2.8%であり,目撃のある心室細動(VF)症例に限れば20.6%である。

●生存退院症例の長期転帰は,年々改善されつつある。

●心拍再開後(生存退院後)の5年生存率(5年生存者数/生存退院者数)は44〜77%と,地域,年代によってばらつきが大きいが,やはり心原性心停止,VF発症の心停止症例の転帰がよい。

●心停止後,生存退院できた患者の長期転帰は,同年齢で同程度の疾患をもつ非心停止患者と比較しても大きな差はない。

●心停止後患者の治療費は高額になるという印象が強いが,生存退院できた症例の獲得余命年数で考えると,他の疾患に比べて高額ではない。

連載 Lefor's Corner

第13回:Vasoactive Drugs Part III. Norepinephrine
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This ongoing series will provide the readership of Intensivist with an opportunity to read concise reviews of current topics in Critical Care Medicine, in English. It is hoped that these reviews will stimulate the pursuit of other literature written in English.

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人工呼吸器中の不適切な加温加湿により,気管粘膜が障害され,気道分泌物が粘稠になる。これにより,無気肺の原因となるばかりでなく,気管チューブの閉塞などの生命に直結する重大事象が起こり得る。したがって,人工呼吸器の加温加湿システムを正しく理解し,実践することは,人工呼吸器にかかわるすべての医療従事者にとって必須の項目である。本稿では,人工呼吸療法における加温加湿について述べる。

集中治療に関する最新厳選20論文
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2010年,卒後5年目終了時にトロントへ旅立ちました。これまで掲載された数々の「ICUフェローからのメッセージ」と異なることは,私が先立ってのアポイントを何ももたず,留学する夫の生活全般のサポート役として渡航したことです。

 しかし,待ち受けていたのは何もかもが目新しく,一瞬一瞬が生きた勉強であるという旅行気分以上に,予想以上にハードな,人生を賭けた葛藤でした。それは,女性の多くがそうであるように,家庭を守りながら,夫の健康と成功を祈り,夫の最高のサポーターでありたいと強く思うが故の深い葛藤だったと思います。

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基本情報

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INTENSIVIST
6巻4号 (2014年10月)
電子版ISSN:2186-7852 印刷版ISSN:1883-4833 メディカル・サイエンス・インターナショナル

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