臨床眼科 48巻11号 (1994年10月)

特集 高齢患者の眼科手術

巻頭言

高齢患者の眼科手術 大野 重昭
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 近年の眼科診療において,高齢患者の占める割合は増加の一途をたどっている。これは社会環境,公衆衛生,医療の向上により,日本が世界一の長寿国になったことからしても当然である。しかしながら,小児が成人を小型化したものではないように,高齢者でも成人の生理,病理をそのままあてはめては考えられない多くの問題点を含んでいる。

 今回,「臨床眼科」増刊号において高齢患者の眼科手術をテーマに取り上げ,各領域の専門家に具体的な問題点を整理してご助言いただけることは誠に時宜を得たものであり,多くの実地臨床家にとって大変有意義な企画と思われる。

高齢者の眼

高齢者の眼 安達 惠美子
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 眼科が対象とする手術患者の年齢は他科に比べると圧倒的に高齢者が多い。したがって,中央手術場システムをとっているところでは,全身管理に特別の配慮が麻酔医によってなされる。しかし,眼そのものについての管理はわれわれ眼科医の責任である。加齢に伴う眼の変化については術者は経験的にそれを知っており,最善の方法で対処している。著者も術直前に被手術眼を眼前におきながら,年齢を再確認する。例えば,白内障の手術を例にとってみよう。年齢によって,水晶体嚢の弾性力も見かけ上ではわからない軟強度があるし,核の大きさ,チン小帯の強さも異なるから,手術の際,手法のノウハウも少し変法させる。すべての術者は経験的に高齢者の生理学的状態(biolog—ical status)を知ってはいるが,基礎的には文献を読んでいるとも思えない。もっとも,その知識はほとんど正しいのであるが。

 生理学的加齢現象に加えて,その脆弱性に基づいた病的変化が高齢者には生じる。つまり,高齢者にみられる眼疾患である。老人白内障,黄斑変性などに代表されるものである。これらを各論的に記述するわけにもいかないので,ここでは表1に高齢者の眼球各組織の特徴をまとめ,以下に高齢者の視機能が若年者とは明らかに異なる代表的な症状について述べてみる。

併存疾患の評価とリスク判定

循環器系疾患 西山 信一郎
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 近年,寿命の延長によりわが国は世界でも類をみないほどの高齢化社会となり,以前では考えられなかった高齢者に手術を行う機会が増加している。高齢者の眼科手術はもちろんのこと,100歳を越える患者がゴルフを続けたいとの理由で間欠性跛行に対し下肢のバイパス手術の恩恵を受けられる時代になっている。しかしながら,高齢者では生理的な機能が老化しているうえに,虚血性心疾患をはじめとして多種多様な病気を合併していることが多く,術後の合併症も少なくない。したがって,術前に合併疾患の有無を確認しそのリスクを評価しておくことは術中術後の管理を安全に行ううえで重要である。ここでは高齢者に合併しやすい循環器疾患を術前にいかに評価し,またそのリスクをいかに判定するかについて述べる。

糖尿病 大井 一輝
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 糖尿病は,網膜症,視神経症,角膜症,白内障,緑内障などの病変の原因疾患として重要な位置を占めている。なかでも糖尿病性網膜症に基づく硝子体病変や網膜剥離は,糖尿病の経過の長い,しかも血糖コントロールの悪い例に好発し重症化する。今日ではこれらに対して積極的な手術が行われているが,手術の適応と診断されてから即手術が可能な例ばかりではなく,高齢者であったり,血糖高値など種々の条件の悪い状態の者も多い。また外科領域の手術に比べて侵襲の程度は小さいとはいえ,糖尿病患者のもつ特殊な病態はときに変動し,手術前後に内科的治療が最優先されるような事態になることがある。したがって糖尿病患者の手術には一般的管理に加えて血糖コントロール,場合によっては合併症についての慎重な対応が必要である。本稿では糖尿病の病態を概説し,眼科医として術前の諸条件をどのように考えておくべきかを示す。

呼吸器系疾患 塚本 玲三
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 高齢者は,喘息,慢性閉塞性肺疾患,肺結核などの慢性肺疾患に罹患したり,それによる慢性呼吸不全に陥っている頻度が高い。

 また健常人であっても,加齢に伴った肺機能変化によって,手術による病状の悪化あるいは合併症を起こしやすいため,慎重な術前検査による病状評価,適切な術中,術後の管理が必要である。まず加齢による呼吸および肺の基本的変化を,それから,高齢の呼吸器疾患患者の手術に際しての注意点について述べてみたい。

泌尿器系疾患 近藤 厚生
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 白内障は高齢者に特有の疾患であるが,泌尿器科領域でも加齢に伴う排尿筋(膀胱壁を形成する平滑筋)の質的変化が注目されつつある。すなわち排尿筋の収縮力減弱と,排尿筋の過反射状態である。眼科手術を必要とする患者で遭遇する臨床症状として,①混濁尿・血尿,②排尿困難・尿閉,③尿失禁などに注意すべきである。

腎透析 濱野 慶朋 , 佐中 孜 , 二瓶 宏
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 わが国の慢性維持透析患者は,1992年末で123,926人に達し,うち70歳以上の患者は19,917人で全体の16%を占める1)。1992年の新規導入患者は21,563人で,70歳以上は5,619人,全体の26%であった。眼科的に問題の多い糖尿病性腎症は同年末20,820人で全体の17.1%,しかも新規導入では28.4%を数え,年々増加している。透析患者の高齢化・原疾患の変化は眼科的合併症の増加を伴い,透析患者の生活の質を考える上で,眼障害は益々重要になってきている。

神経系疾患 高木 誠
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 眼科手術をうける高齢患者の神経系併存疾患として最も頻度が高く,臨床的に重要な疾患は脳血管障害(脳卒中)である。したがって本稿では脳血管障害の既往がある患者の術前評価とリスク判定を中心に述べるが,手術をするにあたって注意するべきこの他の神経疾患または合併症としてパーキンソン病,てんかん,痴呆も取り上げ,それぞれの留意事項についても簡単に解説する。

感染症 大石 正夫
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 「高齢患者が眼手術を受けることになったが,併存疾患—ここでは“感染症”—を抱えている場合,手術のリスクは?」との設問で考えてみたい。

 一般に高齢者では加齢に伴う主要臓器機能予備力の減弱,免疫能の低下を背景に易感染性となり,一種の日和見感染症が大きな比重を占めている。

骨粗鬆症 中村 利孝
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 加齢による骨格系の変化は大きく2つに分けられる。ひとつは,骨の形の変化であり,もうひとつは骨の量の減少である。

 骨の形の変化は変形性関節症,変形性脊椎症などといわれる疾患にみられ,骨の表面,すなわち外形が変化する。一方,骨の量の減少が骨粗鬆症であり,力学的強度が減少して骨折を生じる。骨粗鬆症も変形性関節症,変形性脊椎症などと同じく,結果的には骨格全体の形の異常が生じてくる。どちらの疾患も脊椎は湾曲し姿勢が悪くなる。骨の形に依存する関節の動きが障害され手足を動かしにくくなる。本稿では,骨粗鬆症の疾患としての特徴のうち,手術を含めた眼科診療の際に必要と思われる臨床症状と対処法を概説する。

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 眼科手術に欠かせない麻酔—特に患者が高齢者の時にはどのような注意が必要になってくるのだろうか。おふたりの麻酔科医に,ご専門の立場から,さまざまなアドバイスをお願いした。麻酔学の日々の進歩などをふまえた上で老人の生理の特徴をどう把握したらいいかなど実戦的なお話をうかがい最後に日帰り手術についても貴重なご意見を披瀝していただいた。

局所麻酔 春田 恭照
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 高齢者のみならず,眼科手術では,全身麻酔の必要な幼・小児などを除いて,通常は局所麻酔が選択される。その目的は,意識を覚醒させたまま,知覚を司る三叉神経を麻痺させ,かつ眼輪筋を支配する顔面神経を麻痺させて瞬目を抑制すること,外眼筋を支配する動眼・滑車・外転神経を麻痺させて眼球運動を抑制することである。

 眼科手術では,ドレーピングにより顔面全体を覆うために,術中の患者の全身状態の把握が困難である。術中に患者の状態が急変して手術を中止し,あわててドレープを剥がし,救急処置を行ったという苦い経験を持つ先生方も少なくないと思う。もちろん,心電図や血圧のモニタリングは行うが,その他の状況は不明なことが多く,患者からの応答や体動で判断するしかなく,意識の覚醒を得ていることが,術者および患者にとって術中の不安感を除くために重要となる。よって,術中に患者とのコミュニケーションを残しながら,無痛(アナルゲジー)と無動(アキネジー)を得ることができる局所麻酔は,手術を安全に施行するために不可欠な要素である。

高齢患者の眼科手術 1 網膜疾患

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●自験例での網膜剥離中,高齢者の弁状裂孔網膜剥離は10.2%であった。そのほとんどは,健康で,社会的に活動力を有するものに発症していた。

●眼底は中間透光体の混濁で視認性が悪く,裂孔は小型化の傾向にあるため,裂孔不明例の確率が高くなる。

●裂孔発見例の手術は小範囲の部分バックリングですむものが多く容易である。裂孔不明例では困難性が高くなるので,裂孔発見のための努力が必要である。

●高齢者は自己主張に乏しいので,患者の治療に対する要求度を把握したうえで,手術にあたることが望まれる。

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●丹念な術前眼底検査により,異常網膜硝子体癒着・網膜裂孔がないと確信できる網膜の部分を,できる限り広範囲にわたり検索する。

●原則として,異常網膜硝子体癒着・網膜裂孔がないと確信できない網膜剥離範囲は,すべてバックルで処理する。この際バックルが大きくなりすぎないように,また渦静脈・長後毛様動脈の圧迫・凝固を避けるように手術を設計する。

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●2回目の手術なので,高齢者は諦めやすい。

●裂孔検出率が悪いので,確実な手術で複数回手術は避ける。

●術後の視機能の点から,眼内レンズは可能な限り除去しない。

●手術時間を短くするために裂孔閉鎖術に光凝固をもちいる二段階手術法(two stepmethod)を採用してみるのも,よい方法である。

●白内障手術後早期では,創口の離開の危険が高い。

黄斑裂孔網膜剥離 檀上 眞次
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●第一選択は硝子体腔内気体注入法である。

●伏臥位が可能な全身状態か確認する必要がある。

●黄斑バックル縫着は慣れれば,比較的簡単,復位率も良好である。

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●高齢者の切迫(stage 1)黄斑円孔や早期(stage 2)黄斑円孔には積極的な手術適応がある。

●高齢者の完成した(stage 3と4)黄斑円孔では,手術成功率は比較的低く,視力改善も大きくは期待できない。積極的に手術すべきかどうかいまのところ不明である。

高齢患者の眼科手術 2 硝子体疾患

裂孔原性硝子体出血 伊野田 繁
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●原因裂孔が発見されれば硝子体手術を要せず,光凝固単独またはバックリング手術ですむことが多い。

●初診時に起座位絶対安静と両眼帯装着が裂孔発見に効果的だが,精神症状発現に注意。

●硝子体手術よりバックリング手術のほうが全身的にも手術侵襲が少ない。

●術中高血圧と術前術後の脱水に注意する。

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●術前には,眼の状態だけでなく,他の全身合併症の有無とその状態を充分にチェックしておく必要がある。

●硝子体手術そのものは比較的難易度の低い手術であり,高齢者だからといって特別なものはない。

●麻酔の選択は全身合併症の状態や自分の手術の技量を考え併せて決定する。

●眼内タンポナーデが必要な症例の手術適応は慎重でなければならない。

●術後「痴呆」の発症防止のためには多少の配慮が必要である。

増殖糖尿病網膜症 島田 宏之
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●高齢者では,網膜剥離を伴わない症例の比率が高い。しかし,非網膜剥離例であっても術後に0.5以上の視力が得られる症例は少ない。

●長時間の手術に耐えられない症例では,他眼の視力が良好であれば黄斑部を含む広範な網膜剥離例などに対しては,積極的な手術適応とはしない。高齢者であっても,長時間の手術に耐えられる場合には,通常どおりの適応基準により手術を行う。

●術後にとれる体位を考えた上で,タンポナーデ物質の種類を選択する。再出血の予防効果があり,術後の体位が楽で,早期に退院できるという点からは,シリコンオイル注入も利点がある。

●硝子体手術前,術中,術後に白内障手術を行った症例の比率が高い。高齢者では,コンタクトの使用は無理であり,手術回数を少なくする目的からも,原則として硝子体手術と同時に眼内レンズ挿入を行ったほうがよい。

加齢性黄斑変性症 白神 史雄
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●本症は中途失明の主要な原因疾患であり,高齢者であるからといって積極的治療を敬遠するのは誤りである。

●侵襲の少ないレーザー治療が第一選択。ただし網膜下血腫や硝子体出血を生じた場合は,外科的治療。

●黄斑下増殖膜の除去は,危険性が高い割には視力改善を得にくく,レーザー治療の適応のないものに限定される。

●高齢者でも後部硝子体剥離は意外に起こっていない。

●手術は1回のみと心に決め,再手術は極力避ける。その対策の一つとして,白内障手術(IOL挿入)との同時手術が推奨される。

高齢患者の眼科手術 3 緑内障

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●高齢者における緑内障急性発作(緑内障発作)では自覚症状に乏しいことがあり,この場合,発見が遅れ治療が困難になる。

●原発閉塞隅角緑内障による緑内障発作の治療の第一は瞳孔ブロックの解除であるが,治療に先立ち正しい診断が不可欠である。

●瞳孔ブロックの解除にはレーザー虹彩切開術(LI)が第一選択であるが,YAGレーザーによる虹彩切開術は高齢者では特に有用である。

●高齢者では,眼圧が正常で緑内障発作を起こしていない場合でも,浅前房の場合,予防的LIが行われることがある。

続発緑内障 近藤 武久
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●視野の障害が少ない例(湖崎分類Ⅲ—a期まで)では,薬物治療で眼圧が21mmHgを越えても(25mmHg位まで)手術療法は回避する。

●服薬に対するコンプライアンスは悪いことが多いので,内服薬の継続を必要とする症例では原則として手術に踏み切る。

●術後は点眼治療も不要になることが理想である。したがって十分な減圧効果が得られる濾過手術を第一選択とする。

●白内障が併存している例では,なるべく同一結膜弁下での合併手術あるいは角膜小切開による超音波乳化吸引術を行い,1回の手術で済ませる。

●入院という環境変化で老人性痴呆の症状が前面に出てくることがあるので,レーザー治療や外来手術も考慮にいれる。

●眼圧レベル,病型にもよるが,平均余命を大きく超えた極端な高齢者では観血手術は原則として回避するほうがよい。

水晶体嚢性緑内障 布田 龍佑
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●外科的処置を早目に考慮する。

●白内障の併存を考慮する。

●術後合併症に対する厳重な管理が必要である。

●眼圧再上昇例が多い。

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●生涯にわたる患者のQOLを最良のものとすべく,各治療法の得失を検討し,手術適応を決定する。

●術中の安静保持の点を含めて局所麻酔が可能か否かを判断する。

●高浸透圧剤が使用可能か否かを検討する。

●手術予定部位の結膜所見に注意を払う。

●水晶体混濁の有無と水晶体手術の必要性を判断する。

レーザー手術の注意点 三木 弘彦
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●緑内障の治療にはレーザー手術は欠くことのできないものになっている。

●手術適応でない症例や緑内障の病型診断を間違って適応でない症例にレーザー手術を行うと無効であったり,かえって増悪するものもあるので十二分に注意する。

●術者はレーザーの特性をよく理解するとともに術後経過まで注意深く患者を管理することが求められる。

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●絶対緑内障で,薬物治療を行っても眼圧が調整できず眼痛が著明な場合,眼痛を軽減する目的で手術療法を行う。

●濾過手術などの減圧手術が無効の場合,毛様体冷凍凝固術や毛様体光凝固術を考慮する。

●減圧手術が無効または非適応の場合,眼球摘出術や眼球内容除去術を考慮する。

●高齢者の絶対緑内障患者には,術前,術中,術後の十分な全身管理が必須である。

高齢患者の眼科手術 4 白内障

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●問診にあたっては,高齢者の場合,自分の全身状態,投薬内容を正確に把握していないこともあり,注意を要する。

●心機能や腎機能などに異常が存在する場合や,糖尿病を有していたり,常用薬の術前の中止などにあたっては,主治医,専門医に問い合わせた上で手術を進める。

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●全身的な合併症が起こった場合,速やかな内科医との連携が必要である。

●眼科医の行う全身管理とは「いかに合併症の発生を未然に予防するか」である。この立場で手術計画を立て遂行することが必要。

嚢外摘出術 柳田 隆
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●術前の投薬および麻酔に十分注意する。

●前嚢切開はできるだけCCCで行う。

●散瞳不良眼では,CCCに成功しても核娩出のためには減張切開を要することがあり,核娩出には虹彩鉤を用いるなどの工夫が必要である。

●症例によっては周辺虹彩切除を行う。

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●前嚢切開はやや小さく行う。

●十分なhydrodissectionを行う。

●段階に応じて粘弾性物質を使い分ける。

●MMP (multi-modulated phacoemulsification)を応用する。

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●なぜ高齢者に二手法超音波手術なのか?

●Phaco chopのすすめ。

●Phaco chopを成功させるためのコツと問題点。

●硬い核のPEA手術合併症について。

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●IOL二次挿入におけるACLおよびPCL毛様溝縫着の選択基準について紹介する。

●ACLは隅角四点支持のセミフレキシブルタイプの1ピースPMMAレンズを,PCL縫着には1ピースPMMAレンズを10-0プロリンを用いて結紮固定する。

●術後視力はACLおよび摘出交換例を除くPCL縫着群とも,術前に比較し同等以上であった。なおPCL縫着群では術後合併症がやや高頻度に認められた。

●ACLは70歳以上・術前眼底15mmHg以下・角膜内皮細胞密度が1,500個/mm2以上であれば適応。PCL縫着は手術侵襲が大きいことを念頭において臨むべきである。破嚢例に一次的縫着を積極的に行う必要はなく,60歳未満ではコンタクトレンズの選択も考えてもよい。

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●術前:全身状態と電解質バランス,散瞳状態,角膜内皮,水晶体核の硬度,虹彩振盪と水晶体振盪の有無に注意。

●適応:原発緑内障はすべて眼内レンズ挿入の適応。視野障害のある例では白内障混濁が軽症でも視力低下が高度。高齢者には白内障と緑内障の同時手術が有用。

●術中:前嚢切開はECCEではintercapsular法が優れ,PEAではCCCが必須。縮瞳例の術野確保には瞳孔形成が有用。虹彩への手術侵襲に注意。

●術後:全身状態,術直後の一過性眼圧上昇,術後炎症に注意。

眼内レンズ挿入後の視機能 渥美 一成
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●高齢者では術後,最高視力が低下する。網膜視細胞の減少や,全身的な体調の崩れなどが原因と考えられる。

●眼内レンズ選択にあたっては,回折型多焦点眼内レンズを避け,夜間視の良好なものなどを考える。

●UVCY眼内レンズは夜間コントラスト感度がよく,夜間視の向上をもたらすとの研究が出ている。

高齢患者の眼科手術 5 ぶどう膜疾患

転移性眼内炎 田中 稔
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●患者のほとんどは,全身的に何らかの基礎的疾患を有するいわゆる日和見感染者で,これに高齢という要素が加わった病態である。

●全身状態を把握し,当該科主治医との綿密な連携が重要である。

●全身状態を考慮の上,手術を行うメリット・デメリットを充分考慮する。

●麻酔および手術による全身への影響を考慮しても,手術の絶対適応があれば,患者本人と家族に手術の必要性や内容を充分説明する。

●手術は可能な限り午前中に予定し,当該科主治医や麻酔医のスタンバイを依頼する。

●手術は可能な限り短時間で,慣れた術者が行い,術中の灌流液への薬剤の使用など工夫し,少なくとも再手術を避けるように努力する。

駆逐型出血 高橋 義公
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●transmural venous pressureの上昇を防ぐ。

●術中の眼圧変動を最少限にする。

●この合併症をたえず念頭において早期発見,早期処置に努める。

高齢患者の眼科手術 6 結膜・角膜・強膜疾患

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●術中マイトマイシンC (MMC)使用により,どのような手術方法でも翼状片術後再発率を1%以下に抑えることができる。

●術中のみのMMC使用により,これまでの術後MMC点眼による強膜壊死の発生を防止できる。

●数十年以上の長期予後は不明であるが,術後短期の成績は良好であり,高齢者の翼状片手術には術中MMC使用が有用である。

結膜腫瘍の診断と治療法 切通 彰
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●結膜腫瘍は発見が容易であり,一般的には悪性度の低いものが多い。

●結膜腫瘍の診断にimpression cytology (パパニコロー染色)も使用可能で侵襲の少ない生検方法ではあるが,病理所見にまさるものではない。

●高齢者の場合は治療的腫瘍切除であっても必ず病理所見を検討し,悪性所見が認められれば,迅速に対応すべきである。

●輪部腫瘍ではボーエン病などの上皮内癌や扁平上皮癌などの悪性腫瘍に注意すべきである。

●腫瘍切除は点眼麻酔,あるいは結膜下注射で行えるため侵襲は少なく,結膜あるいは輪部の再建も比較的容易であり,開眼手術ではないため,高齢者でもほとんどの症例で手術は可能である。

●初回手術後で病理所見が悪性であっても,一般に遠隔転移は少ない。しかし,腫瘍の種類や臨床所見より全身検索を行う必要もある。次に年齢や全身状態を考えて,拡大腫瘍摘出術,薬物療法,放射線治療,眼球摘出術などを選択する。

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●結膜被覆術の適応にはさまざまなものがあるが,最も頻度の高いものは水疱性角膜症である。

●手術手技はGundersen変法が視力保存にすぐれユニークである。

●結膜弁の作成では輪部にそって結膜を切開しできるだけ薄く剥離をすすめる。

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●角膜表層切除の適応には混濁除去,病巣除去,および組織学的診断などがある。

●高齢者では術後の上皮再生障害に注意する。

●エキシマレーザーによる角膜表層切除(PTK)は表面麻酔のみで,短時間で行えるので高齢者の角膜表層切除には有効である。

●ただし,高齢者のPTKでは術中の固視不良や術後の遠視化などに注意が必要である。

角膜移植の適応と注意点 杉田 潤太郎
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●適応としては,内皮細胞代償不全(水疱性角膜症)が最も多い。

●白内障が認められる場合には,積極的にトリプル手術を行う。

●内皮細胞機能が期待できる実質混濁には,深層角膜移植を行う。

●高齢者では視力回復の目的で行う角膜移植がほとんどで,治療的角膜移植は少ない。

角膜移植トリプル手術 島﨑 潤
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●高齢患者の角膜移植では,多くの場合トリプル手術を行うほうがよい。

●手術に際しては,硝子体圧をいかに下げるかが何よりも大事。

●術中に眼球が虚脱しないように強膜リングを併用したほうが安全。

●術後の免疫抑制は,全身状態をよく考えて。

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●周辺部角膜潰瘍は,リウマチや蚕蝕性角膜潰瘍など免疫学的機序を基盤にして発症する。

●手術法としては結膜切除術,角膜上皮形成術,表層角膜移植術がある。

●術直後より長期間の治療用ソフトコンタクトレンズの装用が必須である。

●術後にステロイド剤とともにシクロスポリンの投与が著効する。

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●高齢者に角膜穿孔が生じる原因疾患は,一般成人とやや異なる。

●外科的治療法として,結膜被覆,表層角膜移植および全層角膜移植がある。

●高齢患者では,1回の手術で確実に穿孔創を閉鎖させるべきであり,術式は穿孔時の炎症の程度,現疾患,全身状態により決める。

●緊急時には保存角膜による表層角膜移植が勧められる。

●結膜被覆術は難治性の再手術かつ全身状態が悪い場合に選択する。

強膜壊死 村松 隆次
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●老人は長時間の仰臥位保持は困難なことが多いので,短時間で終わる負担の軽い手術が望ましい。

●安静位保持には確実な局所麻酔を行い,疼痛,不安,興奮を取り除くことが大切である。

●補強手術の第一選択は,軽症例には結膜移植術,重症例には表層角膜移植術を奨める。

高齢患者の眼科手術 7 眼瞼・眼窩・涙道・外眼部疾患

老人性眼瞼下垂 坂上 達志
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●手術方法は眼瞼挙筋短縮術が確実で安全である。

●眼瞼挙筋短縮術の手技は挾瞼器を用いた経皮膚法が容易である。

●短縮量は6〜8mmが適当で,低矯正よりむしろ過矯正に注意する。

老人性眼瞼内反症 井出 醇 , 猪股 健一
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●老人性眼瞼内反症は,大部分が老人性上眼瞼皮膚弛緩症である。

●老人性上眼瞼皮膚弛緩症には単独のものと,老人性眼瞼下垂の合併したものとがある。

●老人性上眼瞼皮膚弛緩症の手術には重瞼を作るか,作らないかの2つ方法があり,老人では単純な皮切も魅力がある。しかし日本人には老人でも前者が勧められる。その方法は,4.7.7.mm 皮膚切開→瞼縁に向け剥離→瞼板前組織の全切除→余分な皮膚の1/2切除→aponeurosisへのU字縫合による重瞼溝作製である。また下眼瞼の老人性内反症は,痙攣性内反症のことが多く,それには,Wheeler法大木変法が長期予後にすぐれ,眼輪筋のバンドを短く作ることにより手術時間を短縮できる。短期的にはダブル・ビーズ法も勧められる。

●老人性眼瞼下垂を合併した老人性上眼瞼皮膚弛緩症の術式は,大部分老人性眼瞼下垂のそれであり,aponeurosisの露出はパクレンによる焼灼切開に勝るものはない。

●高齢者の眼瞼手術は「安全,簡単,短時間で済む」のが望ましい。しかし一方では局麻下で2〜3時間の手術も十分耐え得るので,できれば両眼同時に行うのがよい。

眼瞼の再建 西條 正城
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●加齢による生理的変化の目立つ眼瞼皮膚の再建には隣接する類似の皮膚組織の“たるみ”が有効に利用できる。

●前葉の再建では,眼瞼組織のたるみを利用した植皮や皮弁が主となる。

●全層欠損の再建には隣接する類似組織を利用するのが簡便であるが,ときに手技的に熟練を要する。

眼瞼腫瘍 河野 宗浩
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●眼腫瘍の摘出は常に再建を考慮して行う。

●再建は可能な限り局所でまかない,移植片の選択には注意を払う。

●術式の工夫によって術後のトラブルを最小限に抑える。

眼窩腫瘍 大西 克尚
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●高齢者の眼窩腫瘍に対しては,観血的手術に踏み切るか否かを決定することが最も重要である。その際,全身状態,腫瘍の悪性度,症状の強さなどを特に考慮する。

●皮膚切開は,高齢者では皮膚の皺に沿って行うことにより,術後に瘢痕が目立たなくなるので,腫瘍に最も近いところで行う。

●高齢者では悪性腫瘍を常に念頭に置かねばならないので,腫瘍の被膜を破らないようにする。そのために冷凍チップで腫瘍を保持しながら摘出する。

涙道再建 栗橋 克昭
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●DSI (Direct Silicone Intubation)で成人の鼻涙管閉塞の約50%が治癒する。ヌンチャク型シリコーンチューブの使用が非常に有効である。

●涙嚢摘出術では“取り残し”の可能性があるので注意が必要である。

●DCRには鼻外法,鼻内法,鼻内外合併法がある。最近の内視鏡,レーザー,器具の進歩により,鼻内法が可能となってきたが,現時点では低侵襲のDCR鼻内外合併法が鼻外法に代る最もよい方法である。

斜視 八子 恵子
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●高齢者の斜視は複視を伴うことが多い。

●術中に術量を決定するためには,意識が清明であるほうがよく,前投薬の使用に注意が必要である。

●結膜およびテノン嚢が極めて脆弱であるため,慎重な操作が必要である。

●他の手術の既往歴に注意する。

術後管理

全身的な術後管理 本城 裕子
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 現代医療の進歩は,社会の高齢化に伴って高齢者に対する手術件数および手術適応の範囲の拡大をもたらしている。帝京大学医学部附属病院眼科病棟も例外ではなく,年間入院患者数約2,000名のうち,70歳以上の高齢者は約30%を占めている(表1)。70歳以上で全身に合併症のない患者は皆無に等しく,また合併症に対して正しい知識を持っている患者家族も極めて少ない。

 眼科領域の手術は手術法や機器の進歩により,近年安全かつ迅速に短時間手術・短期間入院が可能になった。しかし,高齢者にとって局所麻酔下手術とはいえ,全身への侵襲は予想外に大きなものであり,手術が全身的な合併症の悪化を招き思わぬ事態に至ることも少なくない。

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 高齢化社会に向けての看護の必要性が重要視されている。老人性白内障手術をはじめとする眼科手術の大部分は,麻酔,手術手技の進歩と発展,さらに器機類の進歩などにより,手術時間もかなり短縮されたが,患者が高齢者ゆえの諸問題すなわち,理解力・記憶力の低下,聴力障害,排尿障害,腰部痛の存在,また環境の変化に対する順応性も乏しいなどの事柄が多い中で,①いかに安金に安楽に術後管理ができるか ②残存視機能を最大限に活用できるよう援助す るにはに的をしぼって,まとめたいと思う。

Siesta

腹半分 U.U.
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 今夏の猛暑は記録破りであるという。夜も遅いというのにシャーベットを噛る子供たちに目をやりながら,私はいつもの癖で脳裏に去来する様々なシーンを追っていた。

 20年前のあの日も暑い夜だった。当直病院でのこと。2歳位の子供が抱えられてきた。腹痛らしい。聞いてみれば,銭湯の帰りがけに子供にアイスキャンディーを与えたという。全く馬鹿な親だと一喝したが,若造の医者に怒られて面目なさそうにしていたっけ。

臨床教育の改善を願う 塚本 玲三
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 30年前,私はよい臨床教育を受けるために渡米し,当時奴隷ともいわれたインターンを含め,レジデント,そしてフェロー,と一通りの臨床教育を終了した。その時点で助教授の地位を提供されたが,かつてより尊敬していた恩師である聖路加病院の日野原先生のお手伝いをして,日本の臨床教育の改善に尽力しようと決心して帰国した。以来,多くの研究医を指導し,日本の卒後臨床教育に微力ながら貢献できたと思っている。

 しかし,日本の医学界の流れは相変わらず学会中心,研究志向で,学閥や医局閥は存続しており,30年間ほとんど変わっていない。したがって大学病院で卒後教育を受けた医師の大半が,全人的医療ができるだけの技術的能力も人格も備えていないといってもよかろう。私と同時期に渡米し,現在アメリカの医科大学の教授として臨床教育に重要な立場にある友人も,帰国するたびに日本の医学教育が余りにもおそまつだといって嘆いている。日米の医学生を比較してみると,スタートの時点では知能面においては日本の医学生の方がはるに優れていると私は思う。ところが,卒業の時点では,すさまじい臨床的実力差がついている。

ドライヴ 濱野 慶朋
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 透析療法は諸事情を背景に飛躍的に発達し,今では,透析とは腎不全の人が人生を楽しむ間に時折利用するもの,といった見方さえできるようになった。自動車はガソリンを入れて動く乗り物だが,次のガソリンスタンドを目指して走っているわけではない。乗客の仕事や楽しみを乗せて,得意先や海山へと進んでいるのである。彼らの人生は豊かで,今後ますます豊かになっていく。そう確信し,また願って私ども透析医は日々励んでいる。どうか他科の先生方も,もう一歩踏み込んで下さると嬉しい。

 また,眼科の先生方には,こんな事をご教授賜りたいと私どもは願っている。この患者はいつまで出血の可能性があるか,眼圧は上がっているか,一番なさりたい治療・お使いになりたい薬は何か,すぐに血糖を下げてよいか,今の治療内容は何か,今度いつ受診してもらえばいいのか。これらをちょっと私どもの耳にも入れていただければ,透析患者は安心してドライヴを続けることができる。

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 「失明の告知」は時と場合により「死の宣告」ともなり,自殺への悲劇を招きかねない。眼科医たるものは,この場面を避けて通ることはできない。ここに患者に適切なアフターケアのアドバイスが必要不可欠となる。

 本邦の視覚障害者の70〜80%は,糖尿病網膜症が原因のトップを占める,人生の途中で視力を失ったいわゆる中途視覚障害者である。網膜症による失明者のなかには,インスリン注射や血液透析などの医療管理を必要とする人が多い。本邦では医療管理をうけながら,生活訓練や職を身につけるためのリハビリテーションを同時に行える更生施設はほとんどないのが現状である。

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 骨は体重を支え,形を維持する器官である。この場合,骨の形とは外形である。出ているところは出て湾曲したところは湾曲したあの微妙な骨の外形である。しかし,同時に骨は全身の細胞の要請に応じてミネラルを出入りさせ,体液中のカルシウムのバランスを維持している。カルシウムは細胞の機能に必須である。全身の細胞のカルシウムの役割は,栄養素というよりも伝令(メッセンジャー)として細胞間や細胞内での小器官の間での情報を伝えることにあるようだ。カルシウムは全身を早い速度で駆けめぐり,さまざまな機能を調節している。

 このような素早い動きをするカルシウムの平衡を,骨のようにどっしりとした臓器が微妙に調節しているとは,外見をみている限り想像もつかない。確かに,全身の要請に応じてカルシウムを出入りさせるとはいうものの,一体どこでそんなことをしているのか?だいいち素早い動きをするカルシウムの要請に応じていたら,骨の形が常に変化しているはずだ。骨の形がそんなに早く変化していたら,身体を支えるという働きが維持できないではないか。

巨人ファン T.M.
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 子供の頃,後楽園球場の3塁側で,よく巨人戦を観た。私の目の前に3塁手長嶋茂雄がいた。3遊間の鋭いゴロ,横っとびにつかんでランニングスロー。かっこよかった。クラスの英雄は,野球のうまい4番でピッチャーの子であった。みんな,巨人のマークのついた野球帽をかぶっていた頃である。長嶋が去り,江川や桑田の騒動があり,大人の議論になってきて,純粋に巨人が好きだった子供の頃の気持ちがしぼんできていた。巨人の成績もいまひとっぱっとしなかった時期でもある。

 1993年Jリーグができた。日本中がサッカーにわきかえり,私もワールドカップ予選を深夜まで観て,悪夢の最終戦も経験した。ああ,自分はサッカーが好きなんだ,野球一筋にみたいにきたけれど本当は野球ファンじゃなかったんだと思っていた。

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 大学医学部の眼科学教室なるものは一体どれほどのもので,どれほどのことができるのだろうか。教授1,助教授1か2,講師2か3,助手が6〜10の定員だとして,都合単純に足せば10〜16人が,もし精鋭だとしても,研究,教育,臨床の全てにわたるとなると,たいしたことはできそうにない。現実には一騎当千の輩はすでに死に絶えて久しいか,ただの伝説にすぎないから,ほとんど何もできないと思えるし,実際何もしていない居眠り教室もあるとの噂すらあるそうだ。実は筆者も居眠りをしている。研究,したくもない,教育,無駄骨だ,臨床はまあ趣味程度。まさに居眠り以外のなにものでもないが,ほんとうのところ目を覚ますのが恐ろしいのである。もし目が覚めたら,日本には眼科学教室が7つしかなく,それぞれが基礎,臨床各部門の専門家を多数抱えていて,筆者は,東海地方唯一の医学専門学校である愛知医専の附属長久手分院—他に鶴舞,浜松,岐阜分院などたくさん—で,眼科手術テクニシャンとして,こき使われる毎日であるはずだ。くわばらくわばら。けっして目覚めますまい。

 近年,ビデオ教材,いや狂材かもしれない,が多数あって,容易に手術手技—手術ではない—を学べる,いや語源はおそらく同じ,真似ることができるようになった。超音波白内障手術と眼内レンズ挿入手術はちょっと器用な眼科医なら簡単に習得してしまうことができる。まあここまではいい。しかし,白内障とはいえその診断は決して簡単なものではない。白内障の存否を誤診することは稀だろうが,それ以外の病態を見落とす,というより知識も興味もないから診断のつけようがないのではないかと,某氏が恐れていたという話を聞いた。それでも手術を教えなければならない立場にいるのはつらい。なんとかに刃物というではないか。実につらいものがある。

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 現在私が勤務している病院を,「セブンイレブン病院」と呼んでいる人もいる。原則として,365日,雨の日も風の日も,24時間いつでも診療科を問わず患者さんは受診可能である。それはそれは,私が患者で,近くにこんな病院があれば,有事の際を考えれば,とてもありがたい病院の存在である。

 しかしである……。

日本の名医
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 ホイチョイ・プロダクションズ著の「東京いい店やれる店」という本がベストセラーになっている。近年,レストランをはじめとしていろいろなお店を紹介する本が巷を賑わせているが,いずれも五十歩百歩の内容で,こだわりの店などと紹介されている店へ行って実際に食べてみてもがっかりすることが多い(作る方も食べる方も,こだわっている人は自分でこだわっているとは思っていないと思います)。こんな中で本書は,全く別の観点からレストランの選び方を紹介したもので,評価できる部分がある。内容的にはきわめて軽薄ではあるが,なかなか理論的に人間心理をとらえており,暇つぶしには最適の一冊ではないかと思われる(向き不向きがありますので,購入される前に必ず内容を確認して下さい。ちなみに女性は読んではならないと書いてあります)。

 ところで,医学界も流行(?)には乗り遅れず,最近,「日本の名医……」などと題された週刊誌や単行本をよく見かけるが,眼科部門をみているとちょっと首を傾けたくなるものが少なからずある。ところが,おもしろいことに,他科部門をみても何の疑義も抱かない。知識のないものの怖さを感じる。また,これらで紹介されない医者は名医ではないという錯覚を読者に与えかねない(必ずしもすべてを紹介しきれていないと注釈をつけているものもあるが)。元来,医者がすべて名医である必要はなく,本やテレビにでたから名医であるということもない(名医と紹介された先生方に対する中傷ではありません)。あまり辛辣なものも困るが,患者さんがこれをたよりに日本中を奔走するわけだから,もう少しまともな内容の「日本の名医……」シリーズが刊行されることを切に希望する。

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 先日,休暇でグレートケイマンでのダイビングを楽しみました。太平洋とはまた一種違った紺青から緑がかったカリブの海の色は,私に少なからずの感動を与えてくれました。

 タイトなスケジュールな手術や診療に忙殺される毎日を過ごしている私にとっては,まだ十分に自然の守られた海底での,魚たちとのゆったりとした散歩は日頃忘れかけている何かを思い起こさせるものでした。部下たちからは,私には忙しく働く姿が一番似合っていると指摘されてはいますが,当分手術のことなど忘れてのんびりとするのも悪くはないと思ったりもしました。小生がカリブで撮影したビデオを,日本に持ちかえり病院で上映会を行ったところ,ダイビングの経験のなかったスタッフですら興味深々となり現在静かなブームで,ライセンスを取りにいこうとするものが増えてきていると聞いています。

見えるということ 柳田 隆
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 数年前のある日,白髪をふり乱したよぼよぼの「おばあさん」が家族に手をひかれて暗室へ入ってきた。1眼はすでに成熟白内障であり視力は手動弁,他眼もかなり進行した白内障で,視力は0.1未満であった。両眼とも白内障手術を行い,経過は良好で「明るくなりました」という言葉を聞いてはいたが,入院中に化粧をする人は少なく,また病院から貸与された病衣を着ているせいもあり,特に気がつくほどの変化はなかった。しかし,術後経過観察のため外来受診されたときは,これが同一人物なのかと目を見張ってしまった。服装がきちんとしているのはもちろん,髪をきれいにとかし,頬紅をつけ,口紅をひき,見違えるような品のいい「老婦人」としてにこやかに私の前に現れたのである。

 いわゆる五感の中でも視覚が最も重要であることを私たち眼科医はよく知っている立場にあり,また患者さんからも,たとえば「片足がなくても眼が見える方がいい」,あるいは,「眼が見えないくらいなら死んだほうがまし」などというやや誇張されたことばを聞くことがある。しかし同じ悩みを持たない限り所詮は他人事であり(もっとも同じ悩み=視力障害,を持ったのでは眼科医としてやっていけないが),その苦しみを本当に理解しているとはいい難い。それでも毎日たくさんの患者さんをみていると,特にこの患者さんのように見えない人が見えるようになったとき,その変貌振りに驚くとともに,“見える”ということはこんなにも人間を変えてしまうものなのかと実感した次第である。

目はだんだん衰える? 稲村 幹夫
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 眼科医が得かなと思うことはいくつかある。患者が死ぬことがまずない,自由な時間がつくりやすい,開業がしやすい,(緑内障の専門家は反対するかもしれないが…)患者に喜ばれやすい等々。たとえば,赤ん坊が産まれたときにはうれしいものだがこれは夫婦の間でうれしいものであり,予供は普通に産まれてあたりまえと思うのである。見えないものが見えた時には自分の不自由が楽になったのであり,同じうれしいでも切実なものがある。しかもこのうれしさはドクターに対しての感謝も強いと思う。歩けないものが歩けたときもうれしいかもしれないが,これは何となく自分の回復力が直したのだとのニュアンスが強い。目はひとりでに悪くなることはあるが,ひとりでによくなることはないという暗黙の常識のようなものがあるのではないだろうか。目は年とともに衰えるというのは,医者の口から言われれば,最初は抵抗あるかもしれないがなんとなく納得してしまう。診療する立場からすればやりやすいのである。しかし,白内障手術がこうも進歩すると,みんながよく見えるようになってあたりまえという考えが一般になってくるだろう。うれしいような悲しいような眼科医のぼやきともなるのである。

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 1989年3月,live surgeryを初めて行った。この時は手術教育を目的としたため,衛星中継を利用し立体映像を用いたが,live surgeryは本邦では初めてであったこともあり,開催にあたっては,賛否両論があった。6例の手術も無事終了し,新聞などでも好意的に取り上げられ,live surgeryも認められるようになった。その後も1991年の臨床眼科学会(広島)をはじめ,ドイツ,フランス,イタリアなども含め十数回行ってきたが,最近,live surgeryのありかたについて疑問を感じるようになってきた。Live surgeryの本来の目的は,一度に多くの医師に手術教育を行うことであったが,私自身観客になってみると,ある意味でひとつの見せ物になってきた感じがしないでもない。Live surgeryを行う者はいつも何がしかの緊張感,および終えた時の満足感が得られる。一方見ている側では興味本意で見ている面がないわけでもない。そうなると本来手術の主役である患者さんの存在が薄れている気がする。振り返ると,live surgeryでの患者さんの顔はほとんど覚えていない。ここが普段の手術を行った場合と異なる点である。しかしlive surgeryの人気は高く,今後も続くであろう。そうであれば,教育性を高くしていく必要がある。教育面では収録ビデオでも可能である。そのため,今後はライブショーにならないよう,live surgeryのみが果たしうる教育のありかたについて,検討する必要があると考える。

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 1983年にTrokelらが,ArFエキシマレーザーを用いて角膜の正確な切除ができることを示して以来,欧米では同レーザーが屈折矯正手術や角膜表層切除に積極的に臨床応用されている。わが国でも1988年にSummit社の装置による治験が開始されて以来,現在では国産の機種も含め,少なくとも4機種による治験が約10大学で行われている。筆者が関係している治験だけでも6大学で,屈折矯正手術(PRK)が300眼以上,治療的表層切除(PTK)が100眼以上計画されている。治療自体は既に400眼近く行われ,現在術後経過を追っている状況である。

 エキシマレーザー治療に対する政府の関与は国によって全く異なり,日本,米国,カナダ,フランスなどでは厳格な治験管理の下に置かれているが,他の欧州諸国や韓国などでは現在広く行われており,正確な統計はないが既に10万眼前後の手術が行われたといわれている。米国での治験はほぼ終了し,FDAがどのような結論を下すか,エキシマレーザー治療の将来を考える点で大変注目されるところである。

ごった煮 村松 隆次
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 翼状片手術は,強膜壊死と再発防止が大切である。通常,上下結膜の有茎弁移植を行っているが,再発は稀である。強膜壊死の経験はない。最小限の手術侵襲で済むよう小さな内に行っている。シリコンバンドが露出した網膜剥離は,単に結膜被覆を行っても接着しないので,バンドの切除か摘出が必要である。口唇粘膜移植術は美容的に満足できないので,義眼挿入のための結膜嚢拡大に使う程度である。保存強膜,人工硬膜は網膜剥離手術のインプラント材料として使用したが,最近は専らエクスプラントを行っている。筋膜は小児の眼瞼下垂の吊り上げ法に使用しているが,刺激症状もなく美容的にはよい。形成外科医に比較的大きく取れる側頭筋筋膜を採取していただいている。

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 上眼瞼皮膚弛緩症や老人性眼瞼下垂は,いずれ,「これは美容手術である」とか「機能的手術ではない」とかいわれて,保険業者(insurance carriers)に給付の対象からはずされるようになる可能性がある。さらに先天性下垂や斜視でさえも,その都度視力や視野に影響することを注記しなければならなくなるかもしれない。この困った事態は眼瞼部の先天性奇形や脳顔面頭蓋異常に及ぶかもしれない。

 1990年12月号のArch OphthalmolでR.L.Anderson博士は,米国における状況を憂いて以下のように巻頭言で述べている。

臨床とアート
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 臨床の仕事はひとつの創作活動です。ひとりひとりの患者さんの大切な人生の1コマとして病気を見つめ,できるかぎりの治療を選びケアをする仕事は,創作の仕事であると思います。

 笑い顔で元気になって帰っていく患者さんをみると,自分達の仕事が少しは役に立った喜びを感じ,また不幸にして私達の仕事が報われない結果に終わったときでも,ありがとうございましたという言葉を聴くと大きな励みになり,次の創作に向かうことができます。

学生アルバイト 八子 恵子
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 学生時代,それなりに貧しかったのでよくアルバイトをした。今になって振り返ると,どうやって見つけたのか覚えていないけれどとにかくいろいろとやった。そしてそれぞれにいろいろあって面白かった。

 デパートのショール売り場。成人式を前にした時期で,母親と娘さんが多かった。あの白くてふさふさのショールがはやりの頃で,沢山の商品が並べてあった。どれも同じようだが,簡単にはどれと決まらない様子。「どれがいいかしらね」とよく相談された。こちらもすっかり店員になってしまっていて,いくつか肩に掛けてもらいながら「お似合いですね」などと言ってしまう。娘さんと同じ年ごろの私のアドバイスにうなずき納得してしまうお客さん。そ—か,迷っているときには誰でも第三者の意見ってききめがあるのかもしれない。もっともあのショールは結局のところどれでも同じにしか見えないものね。

Ojo

看護で心掛けている事柄 林 文彦
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 近年は眼科手術における高齢者の割合が増加している。手術の技術や器具の進歩により,以前はあきらめていたような高齢者の手術を行うことができるようになった。このような高齢者に対しては,手術自体も当然であるが,術前・術後の看護にも十分に気を配る必要がある。ここでは,高齢者の看護について心掛けておくべき事柄について簡単に述べる。

手術中血圧と排尿 新家 真
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 人口の高齢化に伴い,もともと老人が対象となることの多い眼科手術患者の年齢は,今後も,さらに上昇していくことが考えられる。高齢者で,最も一般的な合併症は高血圧であるが,1992年の東大病院本院での全手術患者中,高血圧合併症は28%を占め,うち77%は,薬物治療を受けている例であった。手術当日の朝や,術中に血圧の上昇をみることはよく経験するところである。これは,緊張,痛み,その他のストレス性の刺激が視床下部から血管運動中枢に伝わり,末梢交感神経を経て血圧を上昇させるもので,急激な血圧の上昇は,高齢者では脳出血などの重篤な疾患の原因となる。収縮期血圧は動脈硬化に関連するが,収縮期血圧が200mmHgを超える場合には速やかに処置をとる必要があるとされており,1992年の東大病院での統計では,白内障手術に限ってみても,手術開始前1時間,手術中および同終了後1時間の間に7.3%の患者で収縮期血圧200mmHg以上の高血圧が観察されており,また7.6%の患者で血圧上昇に対して降圧剤が投与されている。

 さて高齢者では,排尿間隔が短いことが知られており,術中または術前後に尿意を訴えることが比較的多いことは,我々のよく経験するところである。緑内障患者などで,術前に高浸透圧剤の投与が行われている場合は特にその頻度が高い。東大病院で局所麻酔下で手術を行った全患者中,術中およびその直前後に実際に排尿に至った例は6%強であり,そのほとんどは手術中であった。尿意を我慢していた例は,実際にはこれよりかなり多いと推測される。ここで排尿前後の血圧を比べてみると,興味あることに,何らかの血圧上昇を示していた患者のうち20例で術中排尿が行われたが,それらの患者では平均34mmHgの速やかな血圧下降が得られていることである。

手術の体位 沖波 聡
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 高齢者であろうとなかろうと,基本的には手術を行うときの体位に違いはない。白内障手術や緑内障手術は比較的短時間で終わるが,硝子体手術や網膜剥離復位術では手術時間が長時間になることが多い。手術は仰臥位で行うが,手術中に背中や腰が痛くなることを減らすように,手術用ベッドの上に柔らかいフリーシーシーツを敷いて,その上に患者を寝かせる。清潔シーツが口をぴったりと覆うと呼吸がしにくくなるので,それを防ぐ目的で,また手術中に息苦しいと訴えたときに酸素を流す目的で,口と鼻孔の上に酸素を流すチューブをつないだ金属製のマスクを置いて固定する。チューブの先端が鼻孔内に少し入るように固定して,その上にディスポーザブルのマスクを置いてもよい。手術用顕微鏡下の手術では,手術中に患者の頭部が動くと,術野が術者の視野からはずれて手術操作が煩雑になる。患者の頭部を固定する目的と,術中に術者の手を安定させるための手首を置く台の目的で箱枕(半田屋,イナミ)を使用し,患者の頭部をその中に入れる。硝子体手術や白内障手術を行うときには,箱枕では灌流液が術野周囲にあふれやすいので,馬蹄形のアームレストを使用することもある(図1)。

 腰の曲がった高齢者に手術を行う場合には,普段の手術と同じようにはいかないことが多い。背中の下側と足の下側に布製の枕を入れ,頭の下には板状の枕を積んで患者が手術中に苦痛を訴えずに安定した姿勢をとれるようにする(図2)。この場合には箱枕や馬蹄形のアームレストは使用できない。頭の下に枕を積んだのに相当して,手術用顕微鏡を通常よりも高い位置で使用することになるので,術者は椅子の高さを高くし,さらに背を伸ばすようにするなど,無理な姿勢で行わざるを得ない。

高齢患者の推移 安藤 展代
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 筆者は,1988年まで某県立病院に勤務し,1989年始めに同じ地域で開業した。開業後は診療時間を延長したこと,白内障手術を日帰りで行っていることなど以前と異なる点もあるが,同一地域において同一医師がみた患者の推移として1981年,1982年の患者統計1,2)と現在のそれとを比較してみようと思う。

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 このタイトルは意味深である。まず医師の立場か,患者の立場か。さらに病院,有床診療所,一般開業医による違いもある。もちろん純粋に医学的な問題も含んでいるし,医師の倫理的問題にも絡んでくる。私のような若輩があまり偉そうなことをぐたぐた並べるのもはばかられるので,自身のわずかな経験から述べさせていただく。

 欧米,特にアメリカでは諸々の事情で大部分の手術が入院なしで行われつつある。それには経済的事情が大きいようだが,この傾向をそのまま日本へ応用することはできない。天理よろづ相談所病院眼科は日本では比較的早く日帰り手術を導入した施設であろう。十数年前,当科の白内障の手術入院待ちは3年に達した。高齢者のなかには手術の夢を抱いたまま他界される方もあった。このようなやむを得ない状況のもとで入院待ち期間を短縮すべく,まず当時の若年者のPEA単独手術が日帰り手術の対象となり,ECCE+IOL,PEA+IOLへと適応は広がっていった。

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 高齢患者の手術の要点のひとつは,手術時間をなるべく短くしてあげることである。長時間じっとしていることの精神的緊張は大きく,術中に不隠状態になることがある。これは実は案外術前に予測しにくいのである。平常時は安定している人でも手術という緊張時はまた別で,子供のように聞き分けがなくなることがある。前後左右に揺れる頭を両横から支えて手術ということにもなりかねない。かといって高齢者は鎮静剤の使い方も難しい。効きすぎて呆けることはよくあることである。鎮静剤は使わず,術前によくよく話をして不安を除き,なおかつ術中もゆったりと話しかけながら,術者の手は的確に迅速に動いて早く終わる。そして術後は安静を強いず,普通通りに生活させてあげるのがよい。この面から考えると自己閉鎖創超音波白内障手術が最もよい。通常は今のところこれに勝るものはない。

 術後の視機能についてはどうか?超音波白内障手術は嚢外摘出術に比べて術後早期から安定した視機能が得られ,術後炎症も軽いことはよくわかっている。通常は,である。通常でなかったらどうなるか?非常に硬い核で超音波時間が長くなったら?一般に高齢者は内皮細胞が少ないはずである。割れた核の角で後嚢が損傷したら?高齢者の後嚢は弱い。小さな亀裂もすぐ大きく拡がる。おまけに硝子体の変性も進んでいて硬い核は落ちやすい。落ちたら硝子体手術の装備をしてとればよいのだが明らかに手術時間が延長する。硬い核の大きな破片ならなおさらである。患者は不隠になるかもしれない。

欧州眼科事情と高齢化問題 真壁 祿郎
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 欧州共同体(EC)が欧州連合(EU)へとヨーロッパ統合が進むなかにあって,医学関係にもヨーロッパ各国間に協調の気運が高まってきている。既に眼科では,総合的なヨーロッパ眼科学会やAER (Association forEye Research)学会のほか,専門別にヨーロッパ緑内障学会,コンタクトレンズ学会,眼形成手術学会,白内障屈折手術学会,黄斑学会,神経眼科学会,眼フルオロメトリー学会などが定期的に聞かれており,学会雑誌も1989年からEuropean Journal of Implant and Refractive Surgery,1991年からは季刊ながらEuropean Journal of Ophthalmologyが発行されている。さらに,新しい研究発表機関として,1993年10月ドイツのBonnでECORA (European Community Ophthal—mic Research Association)の第一回総会が開催された。これはアメリカ主権のARVO(Association for Research in Vision and Ophthalmology)に対抗するような形で,既存のAERと合併してJERMOV(Joint European Research Meetings in Ophthal-mology and Vision)の名称で1994年はフランスのMontpellierでと毎年開かれる予定であるが,既に日本などヨーロッパ以外の国からも多数の参加をみている。

 医療面では1975年EC加盟国間の相互開業自由制度が発効した。しかし各国間の差が大きく,それを調整するため1978年に欧州医学教育・卒後教育・専門医教育協議会,欧州専門医連合が設立された。眼科関係では1993年にEuropean Board of Ophthalmologyの基礎が作られた。その目的は,①EC加盟国内の眼科専門教育の統一 ②眼科専門医のEC内での自由交換 ③教育機関最低基準の設立 ④各国専門医の「欧州眼科専門医」認定試齢である。

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 医療の現場でインフォームド・コンセントinformed consentという言葉をよく耳にするようになった。検査,処置,手術,何をするにもインフォームド・コンセントと同意書である。しかし,インフォームド・コンセントが何のためにある概念なのかを真剣に考えている医師は案外に少ないように思われる。そして,医療事故*,医療過誤から身を守るためにあるかのような錯覚を持っている医師が多いように見受けられる。このような考え方の医師の場合,手術に関するインフォームド・コンセントは手術に伴う事故や合併症の説明になり,私なら手術を受けたくなくなるような雰囲気になることがある。

 欧米で発達したインフォームド・コンセントは,医療行為を受ける患者が,医師から必要にしてかつ充分な説明を受け,この説明に基づいてどのような診療行為を受けるかを自分で決定する権利を尊重するものである。しかし,その本来の理念は『患者が納得いくまで医師がよく説明し,医療行為を強要しない』ということである。したがって,理想的なインフォームド・コンセントは,患者の社会的背景を考慮しつつ自分を相手の立場に置き換えながら治療について充分に説明するものであり,決して医師の自己防衛手段として使用すべきものではないのである。

患者と術者 鎌田 光二
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 高齢化社会の到来とともに,高齢者の医療においても,単に疾患を治すことばかりではなく患者の満足感,幸福感すなわちQOL(quality of life)が重視されるようになった。高齢者の手術を決めるにも,手術に耐えられるか,生命延長が得られるか,そしてQOLの向上が得られるかについて考慮する必要がある。ところで眼科手術の多くはQOLの向上を目的とした手術であるが,劇的な視力回復をもたらす白内障手術では特に患者のQOL向上が目的とされる。

 最近は白内障手術に関する情報も広まり,「簡単にできるそうだから……」と受診するものも増えたように思える。簡単な(?)手術—とのイメージには我々眼科医およびマスコミにも責任があると思われるが,今まで躊躇していた高齢者も手術を受ける機会が増えたことはすばらしいことである。最近の白内障手術では,小切開によるPEA手術などの技術の進歩により,術後安静や栄養補給が問題となることもほとんどなくなった。したがって,重篤な全身合併症がないかぎり手術ができないということはなく,80歳台,90歳台の患者も珍しくない。先日は100歳を越えても手術を受ける元気な患者も現れ,幸いにも無事にIOLも挿入でき,手術後は散歩を楽しむほどに活発となったとのことであり,まさにsuccessful agingである。

痴呆と眼科手術 竹内 忍
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 高齢者の手術に際しては,特別な配慮が必要になる。特に80歳を超える患者では,術後に長期のベッド上安静を強いると身体的負担が加わって,いわゆる寝たきり老人になる恐れもあり,術後の早期離床の重要性は広く知られている。一方,入院後の高齢者の精神状態は不安定になりやすく,その対応に苦慮した経験を持っている臨床医も多いも思われる。

 入院中の病棟内での俳徊,独り言や異常行動などがあり,このような患者は,何のために入院しているかを忘れてしまったり,ときには手術前にもかかわらず,“既に手術は終わっている”と信じ込んでしまうこともある。また,夜中に起きて念仏を唱えたり,幻覚や幻聴をしきりに訴えることも多い。これらは入院によって,今までの生活環境や生活様式ががらっと異なってしまい,突然変化した環境になじめず,状況に対する極度の不安感や孤独感が誘因と思われる。考えてみれば,高齢であれば動作や理解のしかたはゆっくりであり,家庭では自分のペースで生活していたのが,一旦入院すれば,次から次に説明やら検査やらで忙しくなり,不安やあせりを感じないはずはない。さらにさまざまな指示もあり,精神的ストレスも強くなって,一種の拘禁状態に陥って異常な精神状態を呈すると考えられる。これらの精神状態は,入院後の環境変化にスムーズに順応できないことによって引き起こされた老人性痴呆のひとつの表現といえる。

基本情報

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臨床眼科
48巻11号 (1994年10月)
電子版ISSN:1882-1308 印刷版ISSN:0370-5579 医学書院

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