Ojo
痴呆と眼科手術
竹内 忍
1
1東邦大学医学部附属佐倉病院眼科
pp.193
発行日 1994年10月30日
Published Date 1994/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410904080
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高齢者の手術に際しては,特別な配慮が必要になる。特に80歳を超える患者では,術後に長期のベッド上安静を強いると身体的負担が加わって,いわゆる寝たきり老人になる恐れもあり,術後の早期離床の重要性は広く知られている。一方,入院後の高齢者の精神状態は不安定になりやすく,その対応に苦慮した経験を持っている臨床医も多いも思われる。
入院中の病棟内での俳徊,独り言や異常行動などがあり,このような患者は,何のために入院しているかを忘れてしまったり,ときには手術前にもかかわらず,“既に手術は終わっている”と信じ込んでしまうこともある。また,夜中に起きて念仏を唱えたり,幻覚や幻聴をしきりに訴えることも多い。これらは入院によって,今までの生活環境や生活様式ががらっと異なってしまい,突然変化した環境になじめず,状況に対する極度の不安感や孤独感が誘因と思われる。考えてみれば,高齢であれば動作や理解のしかたはゆっくりであり,家庭では自分のペースで生活していたのが,一旦入院すれば,次から次に説明やら検査やらで忙しくなり,不安やあせりを感じないはずはない。さらにさまざまな指示もあり,精神的ストレスも強くなって,一種の拘禁状態に陥って異常な精神状態を呈すると考えられる。これらの精神状態は,入院後の環境変化にスムーズに順応できないことによって引き起こされた老人性痴呆のひとつの表現といえる。
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