medicina 20巻9号 (1983年9月)

今月の主題 肝硬変と肝癌

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 わが国における肝細胞癌(HCC)の多くは,肝硬変あるいは肝線維症を伴っていることは周知の事実である.また臨床病理学的な追跡調査の結果から,ウイルス肝炎→肝硬変→肝細胞癌が一連の肝疾患であることも明らかになっている.一方,B型肝炎ウイルス(HBV)関連抗原抗体系の検出法の確立によって,ウイルス肝炎,肝硬変からHCCへの進展に,HBVが大きな役割を果たしていることが明らかになった.さらに,最近になって非A非B型肝炎とHCCとの関連が臨床面から注目されつつある.

 本稿では,肝炎ウイルスとHCCとの関連および臨床例の追跡による肝炎,肝硬変とHCCとの関連について,自験例を中心に検討を加えた成績を述べる.

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肝硬変と肝癌の関係—その考え方の歴史

 肝硬変症の成因が現在のように明らかになっていなかった昔から,もちろん肝炎ウイルスという概念すらなかった頃から,肝硬変症と肝癌の密接な関係はよく知られていた.ただこの場合,肝硬変症と密接な関係のある肝癌は肝細胞癌であって胆管細胞癌ではないことも当然である.肝細胞癌は高率に肝硬変症を伴うこと,また肝硬変症に肝細胞癌がかなり合併することは,いかなる病理学者の目にも明らかであったからである.ただかつて医学の中心であった西ヨーロッパで肝細胞癌の症例は必ずしも多くなかったことは,むしろ多くの研究者の目を肝硬変と肝癌との関係の追求よりも,肝硬変そのものの成因の解明,とくにアルコールとの関係に向けさせていたといえよう.

 しかし日本では近代医学が導入され,病理解剖が行われるようになってから,肝細胞癌はただちに病理学者の目についたのである.このことはたとえばhepatomaという命名が山極によってなされたことによっても明らかである.また1911年に長与がかの有名な甲乙分類をしたとき,甲型に肝細胞癌を合併することはないが,乙型は高率に肝細胞癌を合併するということで甲乙分類のメルクマールの一つに肝細胞癌の合併の有無を取り上げている.

どのようなとき癌化を考えるか

自・他覚症状 服部 信
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 図に肝細胞癌患者の初発症状を示す.肝硬変はしばしば肝細胞癌を合併する.初発症状といっても,癌による症状なのか,肝硬変による症状なのか不詳な例もある.

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 一見腫瘍と無関係に思われる種々の症状がありparaneoplastic syndromeと呼ばれている.これは原発性肝癌とくに肝細胞癌でも少なからず認められる現象である.Paraneoplastic syndromesの1つに血液学的症候があり,血小板増多症や赤血球増多症などがみられやすい.

生化学的検査 遠藤 康夫
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 肝硬変が肝細胞癌の前癌状態であるか否かに関しては議論があるが,少なくとも日本においては肝硬変は肝細胞癌と密接な関係があり,肝細胞癌発生の母地として以前から注目されてきているのは事実である.両者の関係を考えてみた場合,臨床的には肝細胞癌のハイリスク群として肝硬変があげられるのは当然である.実際に肝硬変患者の予後をみた場合,20〜30%の症例に肝細胞癌の発生がみられている.どのような生化学的検査の異常が現われた場合肝細胞癌を疑うかは,常に臨床家として心をくだいている問題点であるが,実際に切除できるような早期の肝細胞癌を発見することは必ずしも容易なことではない.定期的に細心の注意をもつて治療にあたっていても,発見されたときにはかなり大きな腫瘍となっていることが少なくない.ここでは,肝細胞癌の発生を示唆すると考えられるいくつかの点について述べることとする.

アイソザイム 佐藤 清美
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 種々の臓器の癌(悪性腫瘍)の診断に,アイソザイムが"腫瘍マーカー"として利用されているが,数多くのアイソザイムの癌性変化に関する基礎的知見が1-4),大部分肝(臓)癌について得られたものであるにもかかわらず,臨床的に活用されているアイソザイムは数種に限られ,それらも早期診断には十分役立っていないのが現状のようである.本稿では,まず,実験(動物)肝癌を含めた肝癌組織そのものにおけるアイソザイム変化の特徴を概説し,ヒト肝癌マーカーとしての可能性と限界や問題点を,臨床的に活用されているアイソザイムを中心に論じたい.なお,基礎研究者から眺めた,多少希望的問題提起としてお読みいただきたい.

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 肝硬変から肝癌への進展が疑われる場合に,現在行われている免疫学的検査法は2通りに大別される.1つは担癌患者の血中に出現,または増加する腫瘍マーカーを測定する方法であり,他の1つは担癌患者の細胞性免疫能を測定する方法である.腫瘍マーカーとして報告されているものには,α-Fetoprotein(AFP),Basic Fetoprotein(BFP),Tissue Polypeptide Antigen(TPA),Ferritinなどがあり,腫瘍マーカーであるとともに腫瘍抗原としての意義をもっている.細胞性免疫能検査としてはLeucocyto Adherence Inhibitoin Test(LAIテスト),あるいはStructuredness of Cytoplasmic Matrix(SCM)テストなどがあり,腫瘍抗原によるリンパ球の感作状態をin vitroで測定する方法である.

肝癌の画像診断—早期病変のみかた

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 肝シンチグラムは,非観血的に肝臓,脾臓などを選択的に描出し,肝臓の生理的機能と形態を同時に診断できる優れた検査法である.シンチグラム検査は,数枚のシンチグラムによって肝全体を概括できるので,超音波やCT診断が進歩し普及した現在でも最初に行われる検査の1つである1)

 最近では診断精度を存在診断のみならず,部位診断の方面からも向上させるために,singlephoton emission CT(SPECT)も次第に普及しはじめている2)

CTスキャン 葦沢 龍人 , 木戸 長一郎
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 原発性肝癌,ことに肝細胞癌に対する診断は,各種腫瘍マーカーの出現および画像診断法の発達により近年著しく進歩した.現在は切除可能な肝癌の発見を目的として,肝細胞癌発生のhigh riskgroupである慢性肝炎や肝硬変に対するスクリーニング検査に重点がおかれている.

 肝細胞癌のCT像を中心に詳細な検討を行い,肝硬変からの移行に関する情報を求め,これらの結果を諸家の報告と比較する.

超音波診断法 大藤 正雄
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 最近は画像診断,とくに超音波の応用によって腫瘍径3cm以下,すなわち日本肝癌研究会の原発性肝癌取扱い規約(案)1981年1)におけるsmall liver carcinomaに相当する小肝細胞癌が次々と診断されるようになり,さらにそのような小肝細胞癌の切除手術例も多数経験されるようになってきた2〜5)

 このような診断と治療の進歩を背景として経験される小肝細胞癌(small liver carcinoma)は,これまでのどちらかといえば進行期にある肝細胞癌とはその臨床像が明らかに異なっている6).先行する肝障害や病因についても,したがってあらためて検討することが必要となろう.

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 肝細胞癌のほとんどは腫瘍血管が豊富で,血管造影を行えば腫瘍濃染像を示す.したがって,血管造影は肝細胞癌の占居部位に関係なく,小さなものまで診断できる.肝細胞癌の血管造影所見は特異的なので,他の肝腫瘍との鑑別が高頻度に可能である.血管の解剖を詳しく表わすことができる検査法なので,肝切除を行う患者の術前検査としても重要である.また,血管造影の手技を利用して動脈塞栓,抗癌剤動注による肝細胞癌の治療もできる.このように,血管造影は肝細胞癌の診断と治療に重要な役割を果たす1).今回は小さな肝細胞癌の診断を中心に述べる.

腹腔鏡診断 島田 宜浩
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 血管造影,CT,超音波断層検査など画像診断における最近の進歩を背景にして,肝癌を中心とした局所性肝病変の診断法は飛躍的に向上しつつある.とくに肝癌の早期発見について,できる限りサイズの小さい肝癌の発見を目ざして,各種検査法の診断能が検討されている.現在のところでは,CTはほぼ直径20mmが限界で,それより小さいものは診断困難のようである.超音波断層検査はCTより小さい腫瘍も発見できるというが,部位または探触子よりの距離により,診断能が影響される.血管造影1)は直径10mmの肝細胞癌でも診断可能であったと報告され,現在のところ画像診断を代表する立場にあると評価されている.

 腹腔鏡検査2,3)では,その観察可能範囲がかなり制限されているために,肝癌の発見率からは不利な立場にある.しかしながら,観察可能域にある病変については,直径1mm前後のものでも明瞭に観察しうるという利点をもっている.さらに直視下肝生検による組織診断法を加味すると,その価値はさらに大きい.

肝硬変の代謝異常とその対策—肝癌との関連から

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アミノ酸代謝と血漿アミノ酸

 血漿遊離アミノ酸は生体アミノ酸プールの一部を構成しているが,血漿遊離アミノ酸濃度はアミノ酸の血漿への流入と流出によって支配される.アミノ酸の流入は,食餌中のアミノ酸量,消化管からの吸収速度のほか,生体蛋白の分解速度,非必須アミノ酸の合成速度などによるが,流出量は生体組織のアミノ酸摂取速度によっている.各種肝疾患においては,主としてアミノ酸の血漿中への吸収量,肝における代謝異常と末梢における利用が変動するため血漿アミノ酸濃度が変動する.

 肝硬変では食餌蛋白量の低下や,蛋白質の消化,吸収などの障害によってアミノ酸の血漿内への流入が低下しているが,肝を中心とするアミノ酸代謝異常によって血漿のアミノ酸は一般に増加する場合が多い.たとえば芳香族アミノ酸,すなわちTrp,Phe,Tyr,またMetなどはその血漿濃度が増加する.しかし分枝鎖アミノ酸,すなわち,Val,Leu,lleuなどは末梢での消費が亢進する場合が多く,その血漿濃度は一般に減少する.

糖質 武田 和久
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肝硬変における糖代謝異常の特徴

 生体の糖代謝にとって最も重要なことは血糖,すなわち血中グルコース濃度の恒常性の維持であり,肝がその中心的役割を演じている.したがって,肝障害の程度および病態によって種々の糖代謝異常を生じるが,その特徴は一般的には飢餓時低血糖,糖負荷後過血糖といわれている.しかし,肝硬変においては早朝空腹時血糖は正常かやや高い例が多く,低血糖を示す例は稀であり,糖負荷後耐糖能の低下を示す例が急性および慢性肝炎に比し高頻度(70〜90%)にみられる.肝硬変の成因別の差(肝炎後,アルコール性など)についての特徴は明らかでないが,糖負荷後過血糖を示すにもかかわらず血中インスリン(IRI)値の過剰遅延反応がみられる点において,インスリン依存性の糖尿病とは明らかに区別される1-3)

 このように血中インスリンの高値があるにもかかわらず血糖値は高く,末梢組織でのインスリン抵抗性によることが示されている2).肝硬変においては血中の高グルカゴン値もみられるが,このグルカゴンの増加はインスリン抵抗性の原因となりえないことがPCシャント術前後での血糖,グルカゴン値の比較4,5),ソマトスタチン注入下でのインスリン,グルカゴンの影響をみた実験成績6)から明らかにされている.

糖蛋白質 田岡 賢雄
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糖蛋白質の基礎的事項

 血清蛋白はアルブミンを除いては構造的にはすべて糖蛋白質glycoproteins(以下GP)であり,極端に簡略化したその基本的な構造は図1のようなものである.

 この構造は血清型といわれる蛋白coreへの糖鎖の結合型式で,この型式をとるものには血清糖蛋白のほかにホルモン,酵素,細胞膜糖蛋白,赤血球膜糖蛋白などがある.

脂質 荒木 英爾
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 肝硬変に伴う脂質代謝の異常は,肝での脂質合成の低下,腸管からの脂質の吸収障害などをもととして進展し,そこに肝胆道系の閉塞,肝細胞癌(HCC)に前駆する可逆的な代謝異常などが加わって成立するものと考えられる.それらの異常は経過とともに血漿リポ蛋白の変化をひき起こし,血漿と動的平衡を保つ細胞膜を変化させて,次第に全身的な複雑な病変へと移行する(図1).本稿ではそれらの病変に伴う脂質代謝の異常と,肝の前悪性病変で見出されている脂質代謝について記述する.

核酸 古田 精市
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 細胞の癌化の機序の詳細は不明であるが,細胞の遺伝情報の役割を荷っているDNA,RNAなどの核酸物質におけるなんらかの異常が癌化への第1段階であると考えられている.

 各種の発癌物質の作用はこれら核酸物質との結合によって,DNA,RNAを修飾させ,その遺伝情報の障害をひき起こし,癌発生の準備状態をつくることによると言われている.

ビタミン 武藤 泰敏 , 森脇 久隆
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 肝細胞癌(以下肝癌と略)におけるビタミン代謝異常に関する最近の知見の中から,ビタミンAならびにB12に関するものを取りあげる.前者は肝癌組織の局所はビタミンA欠乏状態を示し,かつ癌胎児性の性格をもつ細胞内ビタミンA結合蛋白が出現するというもので,これらの知見に基づいて合成ビタミンA誘導体(レチノイド:retinoidと総称)を用いた肝癌の化学予防(chemoprevention)の可能性が検討されようとしている.一方後者は,肝癌患者血清中に高ビタミンB12血症および特異的なビタミンB12結合蛋白が出現するというもので,新しい腫瘍マーカーとして肝癌診断面での役割が期待されている.

肝癌の治療と対策

栄養 西平 哲郎 , 黒川 良望
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 内頸静脈や鎖骨下静脈から細いカテーテルを上大静脈に挿入し,それまでの輸液方法では考えられなかった高熱量投与を可能にした経中心静脈高カロリー輸液法(lntravenous hyperalimentation:IVH)の導入は,単なる栄養管理,栄養改善という域を越え,創傷治癒や患者の救命という点で飛躍的な効果をもたらした.

 たとえば,癌悪液質(cancer cachexia)と呼ばれるような,進行性の体重減少,貧血,食欲不振,無力状態を主とする臨床症状をもつ癌末期患者に対し高カロリー輸液法を実施すると,前述の諸症状が著しく改善し,外観からは癌末期患者であることを疑わせるような症例に頻々遭遇するにいたった.この事実から,癌悪液質の主体は栄養不良であることが明らかとなり,高カロリー輸液法による栄養改善がより積極的な癌治療を可能にしてきている.肝癌が,蛋白合成や生体のホメオスターシスの維持に必要な物質を作りだす肝臓より発症しているという特殊性は,、抗癌療法においても他臓器癌とは異なった問題を惹起させた.その重要な問題の1つが肝癌患者における栄養であり,本稿においては,癌と栄養について述べる.

免疫調節剤 長島 秀夫 , 有馬 暉勝
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 現在行われている免疫療法は主として非特異的免疫療法である.また,免疫調節剤(賦活剤)のみで行われる免疫療法は少なく,多くは抗癌剤と組み合わせた免疫化学療法が行われている.肝癌においても免疫療法が期待されるが,その有効性については十分な検討がなされていない1).それを困難にしている原因は臨床効果判定基準の設定が難しいことである.また,長期間の観察と厳密なrandomized trialを必要とする.免疫療法の効果判定には,長期的には生存期間の延長の有無,中期的にはKarnofskyの判定基準2)が有用と思われるが,短期的には,表に示した免疫学的パラメターの変化も参考になる.しかし,患者の生存率に影響を与える因子としては,性,年齢はもとより,合併する肝疾患(肝硬変または慢性肝炎)による肝予備能の低下の程度,肝癌の組織型と分化度,腫瘍の大きさと占居部位などが考えられ,延命効果の判定にあたっては症例の選択が難しく,慎重を要する.

制癌剤療法 岡崎 伸生
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 近年,肝癌の診断および治療方法は著しく進歩した.治療面では肝切除術と肝動脈塞栓術の進歩があげられる.しかし,血行性およびリンパ行性転移を特性とする癌の治療,とくに進行癌の治療においては,全身療法である化学療法が最も理想的であるが,現在,臨床に応用されている制癌剤の効果は必ずしも満足できるものではない.したがって,肝癌の化学療法においては,投与する制癌剤の薬理作用,臨床効果の発現様式や副作用を熟知した上で過不足なくすすめることが必要であるが,新しい制癌剤の開発に関する情報収集も怠ってはならない.

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 腹水は生理的範囲をこえて腹腔内に液体の貯留する状態であるが,その発生機序や腹水の性状は一様ではない.肝疾患のうち腹水貯留をきたす疾患は肝硬変によるものが最も多く,その合併率は48〜78%の数値が示されている.肝癌(転移性肝癌を含む)でも腹水は認められるが,この場合は浸出性の腹水であって,肝硬変時の濾出性の腹水とは区別されるものである.しかし,肝硬変における肝癌合併率は当教室の昭和51年〜56年までの肝硬変症死亡患者剖検例66例中48例(72%)が肝癌を合併し,そのうち20例が有腹水例であった.したがって本文では主に肝硬変時にみられる腹水の治療対策を中心に記す.

食道静脈瘤 杉浦 光雄 , 二川 俊二
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治療方針

 肝硬変症の食道静脈瘤は肝障害の程度により,また食道静脈瘤の内視鏡所見,X線所見によって治療方針を考慮する.

 原発性肝癌例で食道静脈瘤を合併している症例はほとんど肝硬変を基盤としており,肝癌病巣の治療方針をにらみ合わせながら,食道静脈瘤の治療方針を考慮することになる.

塞栓療法 山田 龍作 , 佐藤 守男
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 肝動脈塞栓術とは,腫瘍を栄養する肝動脈内に選択的に血管カテーテルを挿入し,塞栓物質を注入し,阻血により腫瘍を壊死に陥らせようとする治療法である.肝細胞癌に対する肝動脈塞栓術が広く臨床的に応用されるようになりつつあるが,その理由は2点ある.その第1点は肝細胞癌はほぼ100%肝動脈栄養由来で,阻血の治療法にきわめて感受性が高いこと,第2点は非癌部肝組織が動脈と門脈の血流の二重支配をうけており,肝動脈阻血においても耐えうる能力があることである(図1).人間の門脈の酸素分圧は高く,したがって肝動脈枝が閉塞されても肝組織は梗塞に陥ることはない.すなわち,肝動脈塞栓術は腫瘍のみを選択的に壊死に陥らせる治療法であるということができる.

肝切除 山崎 晋 , 長谷川 博 , 幕内 雅敏
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 肝癌の切除療法は歴史が浅いことと,近年の肝診断学の急速な進歩による外科周辺の新しい知識の集積,肝動脈塞栓術(TAE)という肝切除にとって強力なライバルの出現,など肝外科をとりまく環境の激しい変化のために肝癌切除療法の理念もどんどん新しいものにぬり変えられている.まさに激動の渦中にある.

 ほんの5〜6年前までは,切除の対象となる肝癌は肝硬変を合併しない大型肝癌が大部分で,外科医は切除適応を考えるとき,肝癌の局所状況と手術手技とについて考えておれば済んだ.当時少数ながら肝硬変を合併した肝癌も外科に送られてきたが,非合併例切除の知識しかもたぬ外科側は,肝硬変合併例に対し,非合併例での知識を流用して手術を行った.当然成績は不良で,たまたま運の良い症例のみが耐術できた.

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肝癌の発生

 岡部(司会) まず最初に最近肝癌が多くなったといわれ,また実際確かに報告もふえてきておりますが,この理由をどう考えるか.肝硬変が多くなったのか,あるいは肝硬変の治療がよくなって,肝硬変のまま亡くならず延命したために,肝癌に進展する例が多くなったのか.さらには診断法の進歩によるものか.まず臨床の立場で,遠藤先生いかがですか.

理解のための10題

Current topic

AIDS—最新の知見 木戸 友幸
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 Acquired Immune Deficiency Syndrome(AIDS)が現在,米国で非常に注目を集めている.その理由としていくつかのことが挙げられる.過去にまったく報告がなく,ここ数年間に新しい疾患として多数報告されたこと,致死率が非常に高いこと,特定の地域(ニューヨークおよびカリフォルニア)の特定の人間―その大多数が男性同性愛者―に発生していることなどである.AIDSについての記事は今や一般雑誌や新聞にまで頻繁に現われ,この問題は医学のみならず,一大社会問題となっている.

 さて筆者自身,Downstate Medical Centerにて感染症のエレクテイブをとった際に数例のAIDS症例を経験することができたので,ここにレヴューの形でまとめてみたい.

カラーグラフ 臨床医のための甲状腺生検

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 濾胞腺癌は甲状腺癌の15〜20%を占め,通常リンパ節転移よりも血行性に遠隔転移を起こしやすい性質をもつ.よく分化した濾胞癌は甲状腺ホルモン合成能があり,ヨードを取り込む.そこで濾胞腺癌の診断が確実につけば,血行性転移巣の131I療法を考慮して甲状腺全摘を行う適応がある.

 しかし,触診をはじめとして,種々の補助検査法による甲状腺結節の術前診断では,濾胞腺腫と濾胞癌を確実に鑑別することが最も難しい.穿刺吸引細胞診においても多くの濾胞細胞が採取でき,濾胞構造を形成し,コロイドをほとんど認めない,などの濾胞状増殖を示す所見は,濾胞腺腫でも濾胞癌でも共通して認められる.また骨転移を有する濾胞癌とコロイド腺腫の細胞像を並べて比較しても,核の大小不同,異形性,細胞密集度,クロマチンや核小体の所見にほとんど差の認められないことが多い(図1,2).

グラフ NMR-CT

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 前回はNMR-CTによる画像,とくに反転回復(inversion recovery,IR)法によって得られる画像は,軟部組織間のコントラストを強くつけることができるために,正常脳においても解剖学の教科書にある脳の断面の形態に近い像であり,各組織のT1時間の差によるものでIR法におけるパルス系列の緩和待ち時間(τ)を変えることにより,コントラストのつけ具合を調節することができるという特徴があることを紹介したが,この特徴を生かして,病巣からの信号が強くなるようにパルス系列の条件を選択することにより,造影剤を使用しなくとも病巣をあたかも造影されたように描出することが可能である.

 また,アバディーン方式のNMR-CTシステムの特徴は,プロトン密度とIR法による信号からT1値を計算によって得ることができることにあり,T1画像は病的組織の変化を捉えるために再現性の良い有効な画像である.

グラフ 肺癌を疑うX線像

症例編・7

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 症例13 75歳,男性,喫煙歴10本×55年.2カ月前より,右肩に重苦しい痛みを覚えるようになり,近医で胸部X線写真を撮り加療を受けるも軽快せず,次第に右上腕内側部,右胸部に針でさされるような痛みが出現する.たまたま受持医が,当院での胸部X線読影会にて,Pancoast型肺癌の小講義を聞き,この症例もそれに該当するのではないかと疑い当院に紹介.ホルネル症候群や右上肢の筋肉萎縮は認められない.

グラフ 画像からみた鑑別診断(鼎談)

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症 例

 患者 37歳,女性,主婦.

 主訴 呼吸困難.血痰.

グラフ 臨床医のための電顕写真

肝臓・1

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 B型肝炎の発症機序に関しては,細胞性免疫の機構が重要な役割を演じているものと考えられ,電顕により観察されるHB抗原保有肝細胞とリンパ球とのinteractionの像は,このような免疫反応の形態像と考えられている1).この際,標的細胞表面には,標的抗原の表出が必要であると考えられている.筆者らは免疫電顕的手技により肝細胞内HBV関連抗原を検討し,とくに細胞膜に表出したHBs抗原を有する肝細胞とリンパ球との接触像の観察により,肝細胞膜表出HBs抗原の標的抗原としての可能性を検討した.また,単クローン性抗ヒト-リンパ球抗体を用い,肝組織内浸潤リンパ球のT-cel1 Subsetを電顕レベルで検討し,B型肝炎の発症機序に検討を加えた.

 血中HBs抗原持続陽性の慢性肝疾患25例を対象とし,肝組織内HBs抗原および浸潤リンパ球の同定はPLP固定凍結切片上で,抗HBs抗体(rabbit)および単クローン性抗ヒト-リンパ球抗体(LeuおよびOKseries)を用い酵素抗体法にて光顕および電顕レベルで検討した.

誌上シンポジウム 医学教育を考える—より優れた臨床医の教育のために

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はじめに

 本邦の卒後教育は,非合理的な方法で行われているため長時間の研修にもかかわらず,急速に発展・進歩している現代医学に対応できる臨床医の育成が困難であるなどの多くの問題点が存在し,その改善が望まれている.一方,米国における卒後教育は,合理的な方法で行われているため,短期間で質の高い臨床医の育成が効率よく行えると高く評価されている.

 筆者は,本邦と米国において卒後教育を受けた体験に基づき,その両者の卒後教育システムの特色を比較検討し,本邦における卒後研修システムの問題点を考えてみたい.

講座 図解病態のしくみ 神経・筋疾患・9

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 脳腫瘍の部位と症状について述べるとき,画像診断法,内分泌学的手法,その他の発達した今日,頭蓋内圧亢進症からその記述を始めるのはややclassicalに過ぎる嫌いはあるが,基本的にはやはり頭蓋内占拠性病変であるので,まず頭蓋内圧亢進症の病態,そしてその終末的現象ともいえる脳ヘルニアについて簡単に述べ,次いで脳腫瘍の症状・病態を,部位その他の観点から眺めてみることにする.

講座 小児診療のコツ・3

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 小児診療の場では発疹を診る機会がかなりある.その中には一目でそれとわかる疾患もあるが,診断に迷う例も多く,外来で即座に的確な診断を下すのはきわめて困難なこともある.ここでは,日常ありふれた小児の発疹性疾患の診断について解説してみたい.

講座 臨床薬理学 薬物療法の考え方・18

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 新生児・小児は,発育の過程にあることから種々の点で成人とは異なり,したがって薬物療法を行う際にも,成人を対象とした一般臨床科における薬物療法とは種々趣を異にしている.また,新生児・小児を対象とした臨床薬理学的研究を行うにあたって技術的ならびに倫理的に種々の制約があるために,科学的な薬物療法をすすめていくためのベースとして必要な資料が不足している現状は,"therapeutic orphan"なる言葉が存在していることにも反映されている.

 すでに何度も記してきたように,一般臨床の場でしばしば用いられる薬物投与法であるくり返し経口投与時においては,恒常状態に達した後の平均血中薬物濃度(Css)と投与量(D)ならびに投与間隔(τ)との間に,次のような関係が成り立つ.

境界領域 転科のタイミング

自然気胸と膿胸 益田 貞彦
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自然気胸

 自然気胸の治療の基本は,内科的(保存的)治療にしろ外科的治療にしろ,肺を膨張させて再発を防止することであり,穿孔部位の修復と胸膜間の癒着をはかることは双方に共通した方針である.意見が異なるのは手術適応とする症例の割合であろう.

 良性疾患であるだけに,内科は可能ならば外科的侵襲を加えずに保存的に治療したいと願う.もちろん患者の願望もそうであろうということで,再発率は高くとも穿刺脱気,胸腔ドレナージ,胸膜刺激剤注入をくり返し,保存的に粘るわけである.これに反し外科側は,保存的治療も十分に認識していながら,若い時期に再発ゆえに何回も入院をくり返し,いたずらに時間を浪費するよりも,早期に再発率の低い外科治療で完治させることを主張する.そこにcontroversyの発生するゆえんがある.

境界領域 他科のトピックス

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 産褥期の授乳中は排卵が抑制され月経が起こらない.これは授乳性無月経と呼ばれ,次の妊娠から一定期間解放される.授乳期以外にも,脳下垂体からのプロラクチン分泌が過剰になると乳汁の漏出と排卵の抑制が起こり,無月経や不妊の原因となることがわかってきた.

 このような状態を高プロラクチン血性無排卵症hyperprolactinemic anovulation,または乳汁漏出無月経症候群galactorrhea-amenorrhea syndromeと呼ぶ.数年来,本症の治療薬としてプロモクリプチン(パーロデル®)が使用されてきたが,昭和58年5月にわが国においても追加効能として正式に承認されたので,内科の先生方にも紹介させていただく.

連載 演習

目でみるトレーニング 75

連載 ベッドサイド First Contact【新連載】(座談会)

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 西崎(司会)一般外来では黄疸を主訴として来る患者がしばしばみられます.黄疸といってもいろいろ原因疾患があると思いますが,吉岡先生,まず問診ではどのような点に注意しますか.

診療基本手技

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 除細動を行うことはかなり高度な技術を要するように思われがちであるが,その適応と禁忌さえ知っておればさほど難かしいものではない.とくに数分を争う緊急の場合の絶対適応時は,心蘇生法の最も重要な手段として日常用いられている.当院でも後期研修医は,緊急でない場合は専門医の指導のもとに行うが,当直の際などの緊急時はいつでも行えるように教育を受けている.その要点を簡単にまとめる.

Via Air Mail アメリカ留学を志す人に

VQE,ECFMGのための勉強法 辻本 愛子
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 米国でmedical doctorとして臨床にたずさわるには,よく知られているようにECFMGおよびVQEに合格していることが要求され,さらに州によってはFLEXをも受験しなくてはいけない場合がある.というと非常に複雑で,とてもやっかいなように聞こえるが,実際には問題の形式,内容はみなほぼ同じようなもので,ただ時間がかかるのと,手続きが複雑なのに閉口させられるだけなのである.もちろん人によって,その準備に費せる時間や勉強のしかたなど,異なると思われるが,これらの試験にはみな共通の"傾向"があるので,そこにはおのずから"対策"も生まれてくる.

 VQEは臨床と基礎に別れているが,ECFMGはその大部分が臨床的な問題であり,その難易度も決して日本の医師国家試験を越えるものではない.ただ問題の数が多く短い時間に正確に英語で書かれた質問の内容を理解し,答を選ぶという"技術"が必要で,このためには"ECFMG Review"etcといった問題集で練習するのが最も適当であろう(アメリカではVQE,ECFMG,FLEXなどを想定した問題集がいやというほど発行され,日本にも多く出回っている).ECFMGのmedicalpartでは,内科,外科,小児科,産婦人科,公衆衛生などの問題がランダムに出てくるが,やはり内科が中心で,また信じられないほどの難しい問題もあまり見あたらない.

天地人

小粒なれども
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 紀元前44年3月15日,シーザーが暗殺されたとき,アントニウスは,シーザーの血にまみれた衣を示しつつ追悼の大演説を行った.彼の弁舌に熱狂し,シーザーを称える民衆の手によって彼の体は燃え上った.その跡にシーザーを祭るカエサルの神殿が建てられた.私は驟雨に襲われながら神殿跡にたたずんだ.フォーロ・ロマーノに立って,古代ローマが千年にわたって残した栄光を偲ぶことは,私にとっては念願と期待のこめられたものであった.以前,伊太利陸軍の案内で,フォーロ付近を通ってはいる.トレビの泉ではないが,いつの日かフォーロ・ロマーノに戻ってくることを願い,期待していた.私は歩いた.足と目で確かめた.セベレスの凱旋門や崩れ落ちて大理石の柱のみ空に屹立するアウグストゥス帝の凱旋門の石肌にも触れた.フォーロからは現存する古代ローマの遺跡の中で,最も巨大なものの一つである大円形劇場コロッセオの姿が見え隠れする.6万人を収容するこの劇場は,ローマ帝国が征服したエルサレムの捕虜4万人の手で建造された.楕円とアーチの組み合わせは,傑出した工学と建築技術の見本ともいえる.崩れて露出した地下には,猛獣の檻,闘奴たちが出場を待つ部屋が見える.これらの部屋の上の床上では決闘技が行われ,5,000頭の猛獣が使われたという.またグラウンドに水を張って模擬海戦も行われたという.

基本情報

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medicina
20巻9号 (1983年9月)
電子版ISSN:1882-1189 印刷版ISSN:0025-7699 医学書院

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