今月の主題 肝硬変と肝癌
肝硬変から肝(細胞)癌へ—病理学的立場から
志方 俊夫
1
Toshio Shikata
1
1国立予防衛生研究所・病理部
pp.1452-1457
発行日 1983年9月10日
Published Date 1983/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402218408
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肝硬変と肝癌の関係—その考え方の歴史
肝硬変症の成因が現在のように明らかになっていなかった昔から,もちろん肝炎ウイルスという概念すらなかった頃から,肝硬変症と肝癌の密接な関係はよく知られていた.ただこの場合,肝硬変症と密接な関係のある肝癌は肝細胞癌であって胆管細胞癌ではないことも当然である.肝細胞癌は高率に肝硬変症を伴うこと,また肝硬変症に肝細胞癌がかなり合併することは,いかなる病理学者の目にも明らかであったからである.ただかつて医学の中心であった西ヨーロッパで肝細胞癌の症例は必ずしも多くなかったことは,むしろ多くの研究者の目を肝硬変と肝癌との関係の追求よりも,肝硬変そのものの成因の解明,とくにアルコールとの関係に向けさせていたといえよう.
しかし日本では近代医学が導入され,病理解剖が行われるようになってから,肝細胞癌はただちに病理学者の目についたのである.このことはたとえばhepatomaという命名が山極によってなされたことによっても明らかである.また1911年に長与がかの有名な甲乙分類をしたとき,甲型に肝細胞癌を合併することはないが,乙型は高率に肝細胞癌を合併するということで甲乙分類のメルクマールの一つに肝細胞癌の合併の有無を取り上げている.
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