INTENSIVIST 1巻2号 (2009年4月)

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■治療の発展に比べて早期診断法の進歩は頭打ち

sepsisの語源はギリシャ語のseptikosであり,「崩壊」「腐敗」といった意味である。紀元前8世紀頃には使用されており,1914年にSchottmüllerらが新たな概念を導入するまで使われてきた。Schottmüllerらは“septicemia is a state of microbial invasion from a portal of entry into the blood stream which causes signs of illness”1)と定義し,その後,最近になるまで,sepsis,septicemia,toxemia, bacteremiaという単語は混同して使用されてきた。

 sepsisは,感染症による全身の炎症反応によって生じる一連の症候群であり,集中治療領域の中心的話題となって久しい。これは,医学の発展が著しく,EBM(evidence based medicine)の浸透とともに,多くの病態生理が紐解かれ始めているにもかかわらず,sepsisの病態には未知の領域が多く,決定的な新治療が待たれる現状のためである。実際にICUへの入院患者では,感染症のない場合の12.1%に比べ,感染症を有する場合の死亡率は43.9%と高率である2)。しかし,ICU入院患者の20~30%がICU入院中に何らかの感染症にかかっているのが現状で3),米国では年間に約75万例のsepsisが報告されている。

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2004年,“evidence based”なsepsis診療に関する世界で初めてのガイドラインとして,Surviving Sepsis Campaign Guideline(SSCG)は発表された。これは単なる感染症治療の記述のみならず,sepsisにおける初期蘇生方針(臓器低灌流を改善させるための呼吸循環の立て直しの指針)に加え,その後の支持療法を含めた管理指針にまで言及する,sepsis診療を包括的に捉えて詳説した極めて実践的なガイドラインであった。その後,2008年初頭にその改訂版となるSSCG 2008が発表された。これは,この4年間の新しいevidenceにより記載を改めたのみならず,推奨度について新たな基準を設けるなど,随所に新しい工夫がみられている。

 救急・集中治療領域の学会に参加すると,必ずこのSSCGに関する講演が開催されており,そしていつも盛況であることに驚かされる。SSCG 2008は上梓されて1年以上が経過したにもかかわらず,依然としてhotな話題である。私たち集中治療に携わる者の間では,4年前のSSCG 2004の発表時よりもはるかに高い認知度を得つつあるようだ。半面,私たちの領域以外の,内科や外科など,sepsis診療に少なからず携わるであろう,メジャーと呼ばれる臨床科には普及しているとは言い難い。私たちもまた,人の訳したkey statementには目を通してはいても,原著にあたり,SSCG 2004と読み比べ,そこにある科学の是非に目を通しているものは少数かもしれない。

 SSCGは熱狂的に受け入れられている一方,不協和音が少なからず存在するのも事実であり,無批判に日常臨床で使用するには注意を要する。本稿はそうした観点で,この新しいSSCG 2008の概要と,2004からの変更点,そして,その揺らぎ続ける背景を考察する。単なる推奨項目の解説にとどまらず,その裏にある現実まで踏み込んでみたい。

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sepsisが,米国胸部疾患学会 American College of Chest Physicians(ACCP)と米国集中治療医学会Society of Critical Care Medicine(SCCM)の合同会議で感染症を基盤とした全身性炎症反応症候群 systemic inflammatory response syndrome(SIRS)と定義されたのは1991年である1)。心不全や癌などの慢性病態に合併した間接死因も含めると,本邦でもsepsisによって年間約5万人以上が死亡していると推測される。sepsisには多臓器不全が合併しやすいが,この病態生理学的機序もまさにSIRS増悪の機序として,分子レベルで明らかにされてきた。

 sepsis病態では,菌体成分をリガンドとするToll-like 受容体(TLR)の初期シグナルにより産生された炎症性サイトカインが二次シグナルとして細胞炎症を増幅させる。このような炎症性受容体シグナルは,白血球系細胞だけではなく主要臓器の基幹細胞や血管内皮細胞にも認められ,このシグナル強度の差がsepsis初期の臓器炎症の強度の差を規定する。

 炎症性受容体を細胞膜上に発現する鋭敏な細胞は,Alert細胞(警笛細胞),inflammatory alert cellとして,炎症性サイトカイン,ケモカイン,一酸化窒素(NO),オータコイドなどの炎症性分子の産生を高める。これらの分子を統括するのは,個々の細胞内シグナルの結果として高められた転写因子であり,さらにAlert細胞に生じる自己融解やアポトーシスがsepsis病態の改善を遷延させる。

 本稿では,以上を踏まえてsepsisの病態にそくしたテーマをいくつか定め,sepsis病態を総論として論じる。

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2003年3月にヒトゲノムプロジェクトの終了が宣言され,生命科学に支えられた医学,医療の研究も本格的なポストゲノム時代に突入した。ヒトゲノムシークエンス全解析終了という研究成果を背景に,疾患の遺伝的要因をゲノムレベルで明らかにして,オーダーメイド(テーラーメイド)医療につなげるゲノム創薬やゲノム医療を推進する時代を迎えた。ヒトゲノムプロジェクト終了に先行して,日本においても,遺伝子多様性データベースの構築をもとに,疾患感受性遺伝子を同定するミレニアムゲノムプロジェクトがスタートした。疾患関連遺伝子探索の研究は,単一遺伝子疾患における決定因子determination factorの同定,さらには多因子疾患における危険因子risk factorの探索などを含んでいる。

 このような時代背景のなかで,集中治療医学の分野においてもいまだに高い死亡率をもって予後不良であるsepsisという症候群に対して,疾患関連遺伝子研究が行われるようになってきた。ゲノムデータベースに蓄えられた遺伝子多型の情報をもとに「sepsisの発症,重症化と遺伝的な素因についての関連性を追究し,予防,予後改善につながる新たな可能性を見いだせないか」という試みである。本稿では,これまでのsepsisに関する疾患関連遺伝子研究の知見を整理し,今後の臨床研究の方向性について考察を加える。

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本稿の主題は,septic shockにおいて「炎症の制御がどのように行われているのか」について,新旧の知見を交えて解説することにある。しかしながら,逆説的ではあるが,septic shockはおそらく「炎症の制御が破綻した状態」であろう。sepsisに関して「どのような経緯で破綻に至るのか」,「破綻が不可逆性になる点はどこか」,さらには「破綻が不可逆性になる前に,その立て直しを行うことは可能かどうか」との課題に,より科学的に取り組むためには「炎症の制御は通常どのように行われているのか」に関して十分な理解を得ておくことが必要である。

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1980年代頃からsepsisの病態が明らかになるにつれ,sepsisは全身性の炎症反応であるSIRS(systemic inflammatory response syndrome)で,感染症に起因するものであることが明らかになった。sepsisやSIRSによる致死リスクは,炎症をいかにコントロールするかにかかわっていると考えられている。

 一方,近年になり,体内に侵入した病原体を認識して免疫反応を引き起こすメカニズムとしての自然免疫系の役割が明らかになってきた。自然免疫系のなかでも,感染に応答して炎症反応を引き起こすメカニズムとして重要なものにトル様受容体Toll-like receptor(TLR)がある1)。TLRは病原体付随分子パターンpathogen-associated molecular pattern(PAMP)を認識するパターン認識受容体pattern recognition receptor(PRR)である。

 本稿ではこれまでのPRRに関する研究結果を概説する。主にTLR2,TLR4の2つの分子に焦点を絞り,TLRのシグナル伝達経路,リガンド認識と感染防御における役割について,また近年,重要性が明らかになりつつあるPRRの1つ,nod-like receptor(NLR)についても概説する。これらの知見はマウスのモデルを使った研究結果によって得られたものが主であるが,現在得られている,ヒトにおけるTLRの役割についての知見も紹介し,今後sepsisなどの発症メカニズムを分子レベルで考えていくうえで必要となる,基礎的な知識を提供することを目的とした。

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sepsisは,細菌感染によって引き起こされる全身性炎症反応症候群systemic inflammatory response syndrome(SIRS)である。sepsisでは,血中のインターロイキンinterleukin(IL)-1や腫瘍壊死因子tumor necrosis factor(TNF)-αといった炎症性サイトカインが早期に上昇し,いわゆる高サイトカイン血症を認めることから,これがsepsisにおける炎症反応の機序と考えられていた。1999年にWangらは,sepsisで血中IL-1やTNF-αがピークを過ぎた後に上昇してくる後期の炎症メディエータとしてhigh mobility group box-1(HMGB-1:別名HMG-1,amphoterin)を同定し,HMGB-1を阻害することによってマウスsepsisモデルの生存率を著明に改善することを見いだした1)。HMGB-1は元来,核内タンパク質として転写調節に関与することが知られていたが,この発見を契機として炎症反応における細胞外HMGB-1の役割が注目されるようになり,現在ではHMGB-1を分子標的とした新たな治療法の開発も行われている2~7)

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■Who is NO?

一酸化窒素 nitric oxide(NO)と聞くと,読者の方々はまず何を連想されるであろうか。NOは血管内皮由来弛緩因子endothelium-derived relaxing factor(EDRF)の本体であり,生理的に血管内皮から分泌されて血管拡張を引き起こし,これは奇しくもノーベルが開発したダイナマイトの原料であるニトログリセリンの冠血管拡張作用も説明するという発見に対して,1998年にノーベル生理学医学賞が授与された。ただし,言うまでもなく,NOの機能解明に対してノーベル賞が授与されたということは,その生理的機能が血管拡張作用にとどまらず,より広範で重大な生理作用に深く関連していたからにほかならない。実際,ノーベル賞のホームページを見ると,NOは,心血管系における血管拡張作用に加えて,すでに当時から神経伝達物質,免疫系における生体防御因子,陰茎海綿体の膨張に関与する生殖系での役割,さらに新生児肺高血圧の治療における吸入療法の有用性など,さまざまな生理作用を持つ生体内シグナル伝達分子として紹介されている*1

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sepsisは,細菌などの感染により,全身性炎症反応症候群systemic inflammatory response syndrome(SIRS)が引き起こされている状態であり,適切な治療がなされなければseptic shock,多臓器不全に急速に進行する,非常に緊急性の高い疾患である。米国では,sepsisはすべての死亡原因の第10位に位置し,CCU以外のICUにおける死亡原因の筆頭となっており,集中治療分野では避けて通ることのできない重要な疾患である1,2)

 sepsisの疫学調査は主に欧米で盛んに行われており,sepsisの頻度,原因菌や感染源と予後の関係,その他予後に影響する因子の検討がなされている。我が国においても,2000年より厚生労働省が主体となって院内感染対策サーベイランスJapanese Nosocomial Infection Surveillance(JANIS)が行われており3),sepsisに関連する情報としては,ICU部門では“ICUにおけるカテーテル関連血流感染症およびsepsisの頻度”について,検査部門では“血液から分離された菌株の種類と割合”について,継続的なサーベイランスが行われている。本稿では欧米のデータおよびJANISのデータを紹介し,sepsisの頻度,原因菌や感染源の特徴および予後に影響を与える因子について概説する。

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■ショック

ショックの概念

ショックの概念の起源をたどると,出血性ショックに関する病態に端を発するようである。ヒポクラテスは外傷傷病者に対して止血法を行い,Paréは血管の結紮法を示した。外傷,出血による症状から全身状態の悪化としてショックをとらえたのは Guthrie(1815年)といわれる。Crileは出血性ショックにおけるCVPの低下と,循環充満圧と心拍出量の関係を示した。また,Beecherは心拍出量の低下した状態をショックとした1)

 その後,出血のみならず,重症感染症でも出血と同様の重症病態を示すことが明らかになり,septic shockの概念,そしてショックの遷延により複数臓器の機能不全が観察され,多臓器不全 multiple organ failure(MOF)の概念が提唱された。ショックの概念は,①血圧の低下から,②組織への血液灌流不全と変遷し,現在では③末梢組織・細胞での酸素代謝異常,と定義される。

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本稿では「Intensivist」の趣旨である世界の標準を紹介するという立場から,sepsisに伴う凝固異常について俯瞰したい。病態生理,診断基準などについての詳細は,本特集の前半および成書に譲り,sepsisに伴う凝固異常の診療の基本と抗凝固療法の現状について述べる。

 播種性血管内凝固disseminated intravascular coagulation(DIC),特にsepsisに伴うDICの基礎的研究が本邦で目を見張る進歩をとげた。また,その成果が臨床応用された形で,診断基準の発達やいくつかの治療法の開発へと結実した1)。今後,このような素晴らしい研究成果が臨床疫学的研究成果へと花開き,確固たるエビデンスとして世界に発信できるようになることを期待したい。

 しかしながら現在,内外のsepsisによる凝固異常に対する臨床集中治療医の態度には温度差があるようだ(メモ1)。本稿の趣旨は,内外どちらの凝固異常診療が優れているかという解答不能な質問に答えようとすることではなく,sepsisによる凝固異常を世界標準という視点でまとめ,忙しい読者に日常臨床で役に立ててもらえるようにすることである。

 このような内外の温度差を具現するものかどうか定かではないが,最新のSurviving Sepsis Campaign Guideline(SSCG)2008でも「凝固異常coagulopathy」という用語が使用され,DICという用語は使用されていない2)。しかし,sepsisを基礎疾患とする凝固異常とDICは,概念としてほぼ同義であると考えてよいだろう。文献の原文を忠実に引用するために,「凝固異常」と「DIC」という用語の両方が登場するが,筆者の頭のなかでは区別していないので,誤解のないようにお願いしたい。

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■ステロイド治療の歴史

1911年,sepsisで死亡した乳児の剖検所見で,両側の副腎の出血が認められ,sepsis患者における副腎障害への関心が喚起された。しかし,1980年代の3つの二重盲検無作為化比較試験(RCT)では,sepsis,septic shock患者への高用量ステロイドの有効性を示すことができなかった1~3)(表1)。Sprungらの研究1) ではsevere septic shockの患者59人をメチルプレドニゾロン群(30mg/kg,ショックが持続していれば同量再投与),デキサメタゾン群(6mg/kg,ショックが持続していれば同量再投与),プラセボ群に分け検討したところ,24時間以内のショック離脱率はステロイド投与群で高かったが,入院中の死亡率は有意差がなかった(76%対77%対69%)。

 Boneら3) はsevere sepsis,septic shockの382人の患者をメチルプレドニゾロン群(30mg/kg×4回)とプラセボ群に分けて比較したが,ステロイドのショックの予防,離脱率改善効果はなく,14日間の死亡率にいたってはステロイド群で高い傾向となった(34%対25%,p=0.06)。sepsis患者223人をメチルプレドニゾロン群(30mg/kgを15分で投与後,5mg/kg/hr×9時間)とプラセボ群に分けて検討した同年報告の研究2) でも,14日間の死亡率に有意差を認めなかった(21%対22%,p=0.97)。これらの研究結果により,sepsis,severe sepsis,septic shockに対する大量ステロイド投与の有効性は否定された。

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免疫グロブリン製剤(IVIG)は,米国のFDAにおいて,特発性血小板減少性紫斑病,原発性免疫機能不全症候群,慢性リンパ性白血病による二次性免疫不全,小児HIV感染,川崎病,骨髄移植後の対宿主性移植片病や感染の予防に適応が承認されている。

 一方,日本では特発性血小板減少性紫斑病,低または無ガンマグロブリン血症,重症感染症における抗菌薬との併用(後述),川崎病の急性期,Guillain-Barré症候群に適応が承認されている。海外では感染症に対する使用は適応外として認められているものの,日本ではどうして適応が承認されてきたのかを,本稿で紹介し,sepsisへの適応についてもう一度考えてみたい。

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■輸液製剤

sepsisにおける生理学的指標に基づく輸液療法の実施については他の章での解説を参照していただき,ここでは輸液製剤についての解説を行う。

 さて,Surviving Sepsis Campaign Guideline(SSCG)20081)の輸液療法の項で最初になされている推奨コメントは次のものである。

「天然/人工の膠質液あるいは晶質液による輸液蘇生fluid resuscitationを推奨する。ある種の輸液が他の輸液に比べて優れているということを示すエビデンスは得られていない。」

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sepsisでは必ず感染源と原因菌が存在する。これこそsepsisの根源である。感染源コントロールと抗菌薬治療だけが,sepsisの原因療法といってよい。適切な支持療法もsepsisの治療に成功するうえでは欠かせないが,この原因療法が適切に行われなければ,卓越した支持療法も無と化してしまう。本稿では,感染源コントロールと抗菌薬による初期治療の重要性を述べ,さらに,いくつかの代表的なsepsisの原因となる感染症に対する経験的治療の具体例を,日本の実情を踏まえながら提示する。

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sepsisの診療にあたっては,早期の感染源同定と適切な治療が肝要であることは言うまでもない。重要なことは,そのいずれも徹底して行うということである。臨床所見や経過に応じて想定される感染源を検索していくことになるが,その際に画像診断を利用することで,病巣の同定とその程度の評価が早期に短時間で行え,外科的治療やIVR(interventional radiology)といった適切な治療法の選択が可能となることもある。

 sepsis患者の搬送や造影剤腎症にかかわる危険性を考慮すると,できるだけ簡略な画像診断が望まれる。ICU領域でこそ,基本的診察手技や単純写真が重要になってくる。しかしながら,見落とすと致命的な疾患があるため,診断を確固たるものにする,さらなる画像診断の必要性が生じる。そこで,本稿では,比較的頻度も高く,ややもすると見逃しがちであるsepsisの原因病態について,画像診断の位置づけとその方法の実際を解説する。

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肺動脈カテーテル(PAC)は,その使用量が徐々に減少してきているとはいえ,重要な循環動態モニターとしていまだに数々の臨床の場面に登場している。とりわけsepsisに対する使用については,これまで多くの検討がなされてきた。ここでは,これまで報告されてきたこれら知見に関して,その歴史を交えて解説したい。

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sepsis治療についてSurviving Sepsis Campaign Guideline(SSCG) 20081)を参考としている施設は多いであろう。日本の現状とすべて合致しているわけではないが,エビデンスに基づく標準的治療として有用な指針である。SSCG 2008の解説は他章に譲り,本稿ではSSC 2008を理解するうえで重要なseptic shock患者に必要なモニタリングと,重要な対症療法の一つである昇圧薬について解説する。

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Surviving Sepsis Campaign Guideline 2008(SSCG 2008)では,臓器循環灌流量を維持する目的で平均動脈圧(MAP)を65mmHgに保つように推奨されている。一体この65mmHgはどこからきたのであろうか。

 この65mmHgを示唆する2つの研究がある。1つは,septic shock の患者を輸液とノルアドレナリンを使用し,14人ずつ無作為にMAPを65mmHgに維持する群と85mmHgに維持する群に割り付け,代謝性の変数(酸素運搬量,酸素消費量,動脈乳酸値)と腎機能の変化を比較した。この2群では上記のアウトカムに関して有意な差が認められなかった1)。もう1つの研究では,10人のseptic shock患者を,ノルアドレナリンを使用し,同一患者でMAPを65,75,85mmHgに保ち,循環動態パラメータと局所的循環灌流パラメータ,代謝パラメータを測定した。MAPを65mmHgから85mmHgまで上げても,酸素代謝,尿量,臓器循環灌流などを有意に改善させなかった2)

 一方で,正常血圧性虚血性急性腎障害(normotensive ischemic AKI)という概念もある3)。腎臓での自己制御機構の破綻が起こり,MAPが65mmHg以上あるにもかかわらずGFR(糸球体濾過量)の著明な低下を認める。一例として高血圧患者の血圧が低下し正常値を示しているにもかかわらず,このような病態を示すような場合である。この65mmHgはあくまでも大まかな数値であり,強いエビデンスは存在しないことを認識し,患者個人に合わせた適切な組織循環灌流量を維持できるよう,MAPを最低65mmHg以上に保ち,生理学的な反応や血液検査などを総合的に評価することが重要である。

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急性血液浄化法は,あらゆる急性期の病態に対して行われる血液浄化法のことで,近年,人工呼吸管理とともに,救急・集中治療の現場において必要不可欠の治療手段となった。その一方で,標準的な治療が確立されておらず,施設ごとに大きくその施行方法が異なっている。本稿では急性血液浄化法について,expert opinionにとらわれることなく,エビデンスに基づいた現在の標準について述べる。

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2003年に報告されたICD-9コードを用いた米国での推計調査では,pediatric severe sepsisは全米で年間42000件発生し,そのうち4300人が死亡する(死亡率10.3%)。これは小児死亡の7%に相当し,関連医療費は約2億円に相当するとされる1)。しかしこのpediatric severe sepsisあるいはseptic shockという概念は,我が国の臨床現場において正確かつ十分に普及してはいない。我が国における小児専用の救命救急施設,小児集中治療病床(PICU)の未整備という,いわば社会的に特殊な問題点もその背景に存在する2)(コメント1)。

 pediatric severe sepsis患者の多くは一般小児科医により,あるいは小児のみを専門としない救急・集中治療医によって,専用でない医療セッティングで管理されていると思われる。前者においてseptic shockとは重症感染症の治療過程において生じる合併症として評価されてきたし,後者においては成人症例のなかでの希少なバリエーションとして扱われてきたと思われる。つまり,pediatric severe sepsisという病態は独立した一つの治療介入対象概念としてとらえられてこなかった。

 2008年に改訂された国際的ガイドラインであるSurviving Sepsis Campaign Guideline(SSCG)3)では,pediatric severe sepsisへのアプローチを「小児に対する推奨項目」として体系化してまとめている。このガイドラインをうまく活用すれば,我が国の多彩な介入現場において,ある一定のコンセンサスの普及と,ひいては患者予後の改善がもたらされる可能性がある。

 本項ではpediatric severe sepsisに対する治療戦略に関してSSCG 2008の記載を中心に,pediatric severe sepsisにおける重要な診断治療項目を概説する。ショックの初期蘇生,特に組織循環指標の迅速な評価に基づく初期の等張輸液の急速大量負荷と適切な循環作動薬サポート,さらに適切で迅速な抗菌療法が最重要項目である。その他の項目としては,急性副腎皮質機能不全に対するステロイドのより慎重な投与,活性化プロテインC製剤の使用非推奨などが注目すべき点である。しかし,SSCG 2008の根拠となった関連文献は後向き研究が多く,無作為化比較試験randomized controlled trial(RCT)はわずかであり,それぞれ項目の推奨度は高いものではない。その適用上の問題点や“こつ”に関しても言及したい。今後,国内外でのpediatric sepsis領域における質の高い臨床研究の遂行とエビデンスのさらなる集積が不可欠である。

15.sepsisにおける栄養管理 松浦 謙二
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1968年に外科のレジデントであったStanley Dudrickらによって確立された完全静脈栄養total parenteral nutrition(TPN)は,それ以降の重症患者の治療において,輸液・輸血療法に匹敵するほどの劇的な変化をもたらした1)。その後,外科のみならず各医療分野で基礎栄養学とその重要性が再認識され,近年では本邦でも各施設に栄養サポートチームnutrition support team(NST)が設立されるほどにまでなっている。

 臨床栄養学の分野の発展はめざましく,この20~30年でその考え方や方法論は,経静脈から経腸管栄養へ,絶飲食から早期栄養へ,大きくシフトした。しかし,ここで重要なことは,どのような状況の患者であれ,いつも栄養介入nutrition intervention(NI)を考慮することである。集中治療の現場では,すべての患者を毎日,「循環・呼吸・感染…」と体系づけて評価していくことが求められるが,その際に必ず「代謝・栄養」の項目を忘れないようにし,消費熱量,必要熱量,病態別特殊性などを日々考慮するように思考回路を組み立てる必要がある。

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Intensivist第2号では,第1号「ARDS」に引き続き,集中治療医学で最もポピュラーなテーマであるSepsis特集とした。先人がなされてきた基礎的,臨床的研究を振り返り,いまだ解明されていないこと,すでに解明されていることを整理して日常診療に反映できる特集内容になるよう心がけた。第一線でどのような研究がなされているのかを知ることは,治療の限界や可能性を知るうえで非常に重要である。そこで今回の特集はあえて,サイトカインカスケードなど分子生物学を含む病態生理に役立つ基礎的な知識も含めている。

連載 八雲立つ不思議の国な,ICU

第2回:恥を知れ! 橋本 圭司
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ふだんテレビをあまり見ないので,“羞恥心”というユニット名を初めて耳にしたのは,昨年の忘年会の余興の時でした。紅白歌合戦にも選ばれていましたね。“羞恥心”という名前から妄想(?)して,女性のユニットに違いないと早合点してしまったのは,中年の浅はかなところです(なぜ“羞恥心”と“女性”を結びつけるのかと問い詰められれば,逃げるしかありません)。その羞恥心という言葉からは,高校生の頃の課題図書だったルース・ベネディクトの『菊と刀』を思いついてしまいます(これも中年の証拠ですな)。その連想のゆえんは,彼女が,他者の内的感情や自己の体面を重視する日本人特有の文化体系を「恥の文化」であるとし,一方で内面的な罪の意識を重視する西欧文化を「罪の文化」だと特徴づけていたことからきています。今回は,この「羞恥心」の視点から,「不思議の国な,ICU」を語ってみることにしましょう。

 ICUというところは,critically ill患者の治療を安全にかつ有効に行う必要性から,基本的にオープンユニットの室内構成となっており,個室は少ない構造であることが多いはずです。つまり,重症系であるという名の下に,モニタリング機器や治療装置は言うまでもなく,患者,家族,看護師,医師ほか,スタッフみんなを一目で見渡せる環境になっています。誰がどこで何をしているか,隠しようのない状況設定です。だからこそ,そこは“羞恥心”というものが渦巻いている特別な空間であるともいえます。近頃では絶滅の危機にあるともいわれる“恥じらい”の気持ちが,今やどこまで残っているかといえばいささか疑問ですが,「恥の文化」に想いをはせてみることが,特にICUという場所では大切ではないでしょうか。

連載 集中治療室目安箱:ナース/ME,私の言い分

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つれづれなるままに,日暮らし,硯に向かひて,心にうつりゆくICUでのよしなし事を,そこはかとなく書きつくれば,あやしうこそものぐるほしけれ。

連載 米国ICUフェローからのメッセージ

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昨今の米国の医療現場はプロトコール化が進んでいる。私がインターンであった数年前は,ADCAVANDIML*1 というmnemonic(語呂合わせ)をたよりにしながら,医師は紙のオーダー用紙に,おのおの好みのオーダーを記入していた。当時はプロトコールといっても,急性冠症候群や急性肺梗塞に対するヘパリン静注プロトコールや,糖尿病ケトアシドーシスに対するインスリン静注のプロトコールしかなかった。各医師はそれぞれ好みのオーダーを行い,「こういったオーダーの書き方をすると,内容が明確になって,ナースからの問い合わせが少なくなるよ」などと言いながら,先輩から後輩へとうけつがれていくものであった。しかし,時代はプロトコールの全盛時代になり,こういった習慣も薄れつつある。

 本稿では,米国の医療現場においてどのようにプロトコールが使用され,普及したのか説明したい。プロトコールをどのように設計し,運用するかという議論はまた別の機会に行う。

連載 M&Mケースファイル

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M&Mケースファイル第1回「Morbidity & Mortality Conference事始め」1) において,読者がM&Mとは何か,症例検討会とどのように違うかということがイメージできたのではないかと思う。第2回ではさっそく具体的な症例を取り上げ,“誌上M&M”を試みる。ただし,本M&Mケースファイルは実際の症例をもとにしてはいるが,読者の理解を促す目的かつ個人情報保護の観点から細部は変更してある。

 第1回で取り上げられたM&Mを施行する際の重要なポイントを復習しよう(表1)。なかでも重要なのは,M&Mを施行するときには,最低限常に3つのチェックポイント,

・何が起こったか

・なぜ起こったか

・予防できたか否か,予防するためにはどうすればよいか

を明らかにするよう努めることである。読者がそれぞれの施設でM&Mを行う際には,是非,上記の3つのキーフレイズを呪文のように唱えながら行ってほしい。

連載 日本集中治療教育研究会(JSEPTIC)

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次号目次

基本情報

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INTENSIVIST
1巻2号 (2009年4月)
電子版ISSN:2186-7852 印刷版ISSN:1883-4833 メディカル・サイエンス・インターナショナル

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