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ふだんテレビをあまり見ないので,“羞恥心”というユニット名を初めて耳にしたのは,昨年の忘年会の余興の時でした。紅白歌合戦にも選ばれていましたね。“羞恥心”という名前から妄想(?)して,女性のユニットに違いないと早合点してしまったのは,中年の浅はかなところです(なぜ“羞恥心”と“女性”を結びつけるのかと問い詰められれば,逃げるしかありません)。その羞恥心という言葉からは,高校生の頃の課題図書だったルース・ベネディクトの『菊と刀』を思いついてしまいます(これも中年の証拠ですな)。その連想のゆえんは,彼女が,他者の内的感情や自己の体面を重視する日本人特有の文化体系を「恥の文化」であるとし,一方で内面的な罪の意識を重視する西欧文化を「罪の文化」だと特徴づけていたことからきています。今回は,この「羞恥心」の視点から,「不思議の国な,ICU」を語ってみることにしましょう。
ICUというところは,critically ill患者の治療を安全にかつ有効に行う必要性から,基本的にオープンユニットの室内構成となっており,個室は少ない構造であることが多いはずです。つまり,重症系であるという名の下に,モニタリング機器や治療装置は言うまでもなく,患者,家族,看護師,医師ほか,スタッフみんなを一目で見渡せる環境になっています。誰がどこで何をしているか,隠しようのない状況設定です。だからこそ,そこは“羞恥心”というものが渦巻いている特別な空間であるともいえます。近頃では絶滅の危機にあるともいわれる“恥じらい”の気持ちが,今やどこまで残っているかといえばいささか疑問ですが,「恥の文化」に想いをはせてみることが,特にICUという場所では大切ではないでしょうか。
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