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2003年に報告されたICD-9コードを用いた米国での推計調査では,pediatric severe sepsisは全米で年間42000件発生し,そのうち4300人が死亡する(死亡率10.3%)。これは小児死亡の7%に相当し,関連医療費は約2億円に相当するとされる1)。しかしこのpediatric severe sepsisあるいはseptic shockという概念は,我が国の臨床現場において正確かつ十分に普及してはいない。我が国における小児専用の救命救急施設,小児集中治療病床(PICU)の未整備という,いわば社会的に特殊な問題点もその背景に存在する2)(コメント1)。
pediatric severe sepsis患者の多くは一般小児科医により,あるいは小児のみを専門としない救急・集中治療医によって,専用でない医療セッティングで管理されていると思われる。前者においてseptic shockとは重症感染症の治療過程において生じる合併症として評価されてきたし,後者においては成人症例のなかでの希少なバリエーションとして扱われてきたと思われる。つまり,pediatric severe sepsisという病態は独立した一つの治療介入対象概念としてとらえられてこなかった。
2008年に改訂された国際的ガイドラインであるSurviving Sepsis Campaign Guideline(SSCG)3)では,pediatric severe sepsisへのアプローチを「小児に対する推奨項目」として体系化してまとめている。このガイドラインをうまく活用すれば,我が国の多彩な介入現場において,ある一定のコンセンサスの普及と,ひいては患者予後の改善がもたらされる可能性がある。
本項ではpediatric severe sepsisに対する治療戦略に関してSSCG 2008の記載を中心に,pediatric severe sepsisにおける重要な診断治療項目を概説する。ショックの初期蘇生,特に組織循環指標の迅速な評価に基づく初期の等張輸液の急速大量負荷と適切な循環作動薬サポート,さらに適切で迅速な抗菌療法が最重要項目である。その他の項目としては,急性副腎皮質機能不全に対するステロイドのより慎重な投与,活性化プロテインC製剤の使用非推奨などが注目すべき点である。しかし,SSCG 2008の根拠となった関連文献は後向き研究が多く,無作為化比較試験randomized controlled trial(RCT)はわずかであり,それぞれ項目の推奨度は高いものではない。その適用上の問題点や“こつ”に関しても言及したい。今後,国内外でのpediatric sepsis領域における質の高い臨床研究の遂行とエビデンスのさらなる集積が不可欠である。
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