臨床眼科 64巻4号 (2010年4月)

特集 第63回日本臨床眼科学会講演集(2)

原著

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要約 目的:片眼の白内障に対して多焦点眼内レンズの挿入を受けた若年者の検討。対象と方法:過去23か月間に片眼のみに白内障手術を受けた14例を対象とした。男性13例,女性1例で,全例が50歳以下,平均37.9±8.8歳である。白内障の原因は,アトピー性皮膚炎8例,外傷1例,原因不明5例である。4種類の多焦点眼内レンズを挿入し,1か月後に評価した。結果:遠方視力は無矯正で1.0以上が12例(86%),矯正時で全例が1.0であった。無矯正での近方視力は6例(43%)が0.7以上であった。全例での焦点深度曲線は2峰性で,視力は+1D~-4D加入の全領域で0.7以上であった。アンケートによる患者満足度は,遠方と近方ともに良好であった。ハローまたはグレアが8例にあったが,軽度であり生活に支障はなかった。僚眼は眼鏡無使用が10例(72%),コンタクトレンズ装用が3例(21%),1例が術後にLASIKを受けた。結論:片眼に多焦点眼内レンズ挿入を受けた50歳以下の成人では,眼鏡なしに遠方と近方の良好な視力が得られた。

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要約 背景:民間組織(NGO)であるアジア眼科医療協力会(AOCA)は1971年から発展途上国で日本人によるアイキャンプ活動を行っている。目的:ネパールの山岳地帯とインド僻地で行われたアイキャンプ活動の比較。対象と方法:ネパールのボジュプールに眼科医6名を含む12名が2007年に,インドのダラムサラに眼科医4名を含む8名が2008年に派遣された。ボジュプールでは学校を仮設診療所として外来診療,眼鏡処方,白内障手術を行った。ダラムサラでは結核病棟のみの小病院で外来診療と白内障手術を行った。結果:ボジュプールでは778名の診察,200例の眼鏡処方,61眼の手術を行った。ダラムサラでは約400名の診察と77眼の手術を行った。いずれの地でも限られた医療資源で,適切な眼内レンズを使った白内障手術が実施された。結論:AOCAによるアイキャンプ活動は,人的支援の観点から有意義である。

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要約 目的:涙道閉塞がない流涙症に対してヌンチャク型シリコーンチューブと付属ブジーを一体化したプローブで涙小管を拡張した報告。対象と方法:流涙症で受診した50例60側を対象とした。年齢は52~88歳(平均73歳)で,男性12例,女性38例である。下涙点からシリコーンプローブを挿入し,先端が涙囊内に入っている状態でプローブを前後に動かす操作を数回繰り返して抜去した。結果:6側ではプローブを涙囊内に挿入できなかった。3側で軽い出血があったが,仮道形成などの重大な合併症はなかった。1か月以上の経過を追えた36側のうち31側で有効であった。結論:シリコーンプローブによる涙小管の拡張は,流涙症の治療に有効な方法になる可能性がある。

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要約 目的:ロービジョンケア(低視力者への対応)での眼科医の役割を2症例について検討した報告。症例:1例は62歳女性。網膜色素変性でロービジョン外来を受診した。視力は右手動弁,左光覚弁であった。核白内障が進行し,1年後に白内障手術を行った。矯正視力は右0.07,左0.01になり,日常生活が改善した。他の1例は71歳女性で,21年前から当科に通院していた。強度近視で網脈絡膜萎縮があり,矯正視力は左右とも0.3であった。コンタクトレンズを装用で,右0.7,左0.5に改善した。7年前に白内障手術を行い,視力は右0.2,左1.0になった。本人の希望でロービジョン外来を受診した。矯正視力は左右とも0.3で,眼圧は24mmHg以上と高値であった。視野と眼底の乳頭所見とから緑内障の診断が確定し,治療により眼圧が正常化した。結論:ロービジョン外来では,ケアと並行して,治療の可能性を眼科医が再検討することが望ましい。

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要約 目的:健常人眼でのタフルプロスト点眼による視神経乳頭の微小循環の変化の報告。対象と方法:健常な男性9例9眼を対象とした。年齢は24~49歳(平均36歳)である。0.0015%タフルプロスト点眼前と,1日1回点眼を7日間行ったのち,乳頭とその周囲の微小循環をレーザースペックル流量計で測定した。結果:眼圧は点眼後有意に低下した(p=0.03)。点眼後の微小循環は有意に,乳頭全体(p=0.008),乳頭上側(p=0.044),乳頭耳側(p=0.044)で増加した。結論:0.0015%タフルプロスト点眼を7日間続けると,ヒト成人の乳頭微小循環が増加する。

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要約 目的:術後の不満から,多焦点眼内レンズを単焦点眼内レンズに交換した2症例の報告。症例:75歳男性の両眼に白内障手術を行い,回折型多焦点眼内レンズを挿入した。術前からの眼精疲労と羞明感が悪化し,本人の希望で4か月後に単焦点眼内レンズに交換した。症状は持続したが,本態性眼瞼けいれんの治療で症状が改善した。52歳女性の両眼に白内障手術を行い,屈折型多焦点眼内レンズを挿入した。術後に羞明感があり,4か月後に単焦点眼内レンズに交換した。症状は改善しなかった。結論:多焦点眼内レンズを挿入したのち,本人の不満による単焦点眼内レンズへの交換は慎重に判断する必要がある。

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要約 目的:混濁した角膜での白内障手術を練習するために作製した豚眼モデルの報告。材料と方法:ウエットラボ用の摘出豚眼を用い,ジアテルミーで角膜混濁を作製した。これを使って白内障手術を練習した。結果:数分間で,角膜の表層,実質,深部のどの部位にも意図する大きさの混濁が作製できた。この人工的に作った角膜の混濁部位では前房の視認性が悪く,手術の際の操作性を実感できた。結論:今回の方法で,短時間で角膜混濁を作ることができ,前房の視認性が不良な眼での白内障手術の練習に有用であることが期待できる。

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要約 目的:偽黄斑円孔の臨床像と光干渉断層計(OCT)による所見の報告。対象:偽黄斑円孔の自験例21例21眼を診療録の記載に基づいて検索した。男性6例,女性15例である。10例には手術を行い,11例では経過のみを追跡した。結果:手術群では術後の矯正視力が有意に改善し(p<0.05),黄斑厚は有意に増加した(p<0.05)。視力の改善と黄斑厚とは相関しなかった。OCTによる黄斑の術後の形状は,7眼で改善し,3眼で不変であった。非手術群では,平均31.5か月の観察期間内で有意な視力変化はなく,OCTによる黄斑形状には変化がなかった。結論:偽黄斑円孔では,硝子体手術による黄斑形状と視力改善が期待できるが,手術適応はさらなる検討が必要である。

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要約 目的:初回手術で閉鎖しなかった特発性黄斑円孔の光干渉断層計(OCT)による形態の変化の報告。対象と方法:過去2年間に硝子体手術を行った黄斑円孔62例62眼のうち,初回手術で閉鎖しなかった5例を対象とした。全例に内境界膜剝離を行い,2例には空気,3例にはガスタンポナーデを行った。結果:術前には円孔の縁にcystとfluid cuffが全例にあった。術後には,3例ではこの所見が持続し,2例ではこれが消失していた。結論:術前の円孔縁の所見が同じであっても,術後にはこれが持続する例と消失した例があった。円孔に加わるベクトルの方向の違いが関係している可能性がある。

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要約 目的:デジタル一眼レフを装着した眼底カメラで中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)の眼底自発蛍光を記録した報告。症例と方法:CSC 13例13眼を対象とした。年齢は23~64歳(平均47歳)で,8例が発症から3か月以内の新鮮例であった。眼底自発蛍光は,眼底カメラにデジタル一眼レフを装着して記録した。励起フィルタは490-615nm,遮断フィルタは625nm以上を用いた。結果:全例で鮮明な眼底自発蛍光が記録できた。黄斑部の黒点は軽微で,過蛍光部と低蛍光部が混在していた。新鮮例の光凝固部では過蛍光部が増加し,低蛍光部との境界が鮮明化した。陳旧例の光凝固部では強い低蛍光部が生じた。漿液性網膜剝離がある10眼では,光輝がある過蛍光点が9眼にあった。結論:この装置では眼底自発蛍光を詳細に記録できた。中心性漿液性脈絡網膜症では,光凝固後または自然経過の観察に有用であった。

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要約 背景:遠隔地の眼科診療施設間で眼底画像を交換する診療相談システムには,設備投資が必要であり,まだ実用化されていない。目的:携帯電話で眼底情報を通信する可能性の報告。方法:発光ダイオードを使った照明装置を携帯電話機に取り付け,+14Dまたは+20Dのレンズで倒像眼底撮影を行った。模型眼と摘出豚眼を対象とした。結果:瞳孔径が6mm以上であると,眼底出血が判別できる画像が得られた。結論:携帯電話による眼底撮影が可能であり,これによる画像送信が期待できる。

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要約 目的:白点状眼底に錐体ジストロフィと増殖糖尿病網膜症が併発した症例の報告。症例:幼少時から夜盲があり,9年前から糖尿病で加療中の42歳男性が眼科的診察を希望して受診した。両親は近親婚ではなく,2名の同胞に眼疾患はない。所見:視力は左右とも1.2で,両眼に黄斑の色調異常,後極部から周辺にかけて散在する無数の小白点と,単純糖尿病網膜症の所見があった。3年後に増殖糖尿病網膜症になり,汎網膜光凝固を行った。初診から8年後に網膜電図を検査し,錐体系と杆体系反応に振幅低下があった。3時間の暗順応で錐体系反応は変化せず,杆体系反応は著しく改善した。RDH5遺伝子の検査で,複合ヘテロ接合変異(R280H,L310delinsEV)があった。51歳時の視力は不変で,凝固斑の間にある白点は目立たなくなった。結論:本症例は錐体ジストロフィが併発した白点状眼底と診断される。増殖糖尿病網膜症と汎網膜光凝固により白点は消退する傾向を示した。

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要約 目的:強度近視眼に併発した中心窩の網膜分離症に対する手術成績の報告。対象と方法:過去2年間に硝子体手術を行った強度近視眼8例10眼を対象とした。全例に中心窩の網膜分離症があり,1眼には中心窩の網膜剝離もあった。全例に内境界膜剝離とガスタンポナーデを併用した。男性1眼,女性9眼で,年齢は58~83歳(平均70歳)である。結果:全例で中心窩の網膜が復位した。重篤な合併症はなかった。手術から中心窩の復位までの期間は平均2.7か月,最高視力に達するまでの期間は平均4.0か月であった。視力は7眼で2段階以上に改善し,2眼が不変,1眼で悪化した。小数視力が術前0.1以下の6眼では,術後視力はすべて0.1以下であった。結論:強度近視に併発した中心窩網膜分離症には,内境界膜剝離とガスタンポナーデを併用した硝子体手術で黄斑部の網膜剝離が予防できる。術前視力が不良であれば,良好な術後視力は期待できない。

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要約 目的:強皮症に続発したと思われる増殖性網膜症の症例の報告。症例:35歳女性が1か月前からの右眼視力低下で受診した。矯正視力は右0.3,左1.2で,右眼に硝子体出血,上方の血管アーケードに沿う線維血管性増殖膜と牽引性網膜剝離があった。硝子体手術を行い,眼底上方に広範囲の網膜静脈分枝閉塞症が発見された。視力は1.2に改善した。膠原病内科でリウマトイド因子が陽性,抗核抗体が40倍,指先に皮膚硬化と陥凹性瘢痕があるなどから,強皮症と診断された。結論:本症例では強皮症が網膜静脈分枝閉塞症の素因であり,その結果として増殖網膜症と硝子体出血が発症した可能性が高い。

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要約 目的:混合性結合組織病の症例にサイトメガロウイルス網膜症が発症した報告。症例:47歳女性が2週間前からの左眼視力低下で受診した。5年前から混合性結合組織病に対して免疫抑制薬と副腎皮質ステロイドで加療中であった。所見:矯正視力は右1.2,左0.2であり,両眼に網膜出血と顆粒状の滲出斑があり,網膜血管炎が疑われた。前房水からサイトメガロウイルスが検出され,ガンシクロビルの全身投与を開始した。網膜血管炎は鎮静化したが,初診から10週間後に網膜剝離が発症し,硝子体手術を行った。左眼に黄斑と視神経萎縮が生じ,初診から23か月後の現在,右1.0,左0.02の視力を維持している。結論:免疫抑制薬または副腎皮質ステロイドを投与中に生じた網膜血管炎は,サイトメガロウイルス網膜炎である可能性がある。

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要約 目的:悪性貧血と亜急性連合性脊髄変性症に続発した栄養欠乏性視神経症の症例の報告。症例:51歳男性が2週間前からの右眼視力障害で受診した。その2日前から右上肢と下肢の脱力感としびれがあった。所見:矯正視力は右0.3,左0.5で,右眼に相対的瞳孔求心路障害があった。眼底と視野に異常はなかった。脳の画像検査では異常がなく,全身検査で悪性貧血,ビタミンB12欠乏,亜急性連合性脊髄変性症があった。ビタミン複合剤と副腎皮質ステロイドの投与で,2か月後に左右眼とも視力が0.8に回復した。結論:本症例での視力障害は悪性貧血による栄養欠乏性視神経症と診断される。原因不明の視神経炎には,ビタミンB12欠乏が関与する可能性がある。

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要約 目的:変視症を軽減する目的での黄斑上膜の手術時期の検討。対象と方法:過去9年間に手術を行った特発性黄斑上膜94例99眼を対象とした。男性47眼,女性52眼で,年齢は平均69.3±7.4歳であった。術前と術後6か月以降にM-CHARTSの縦方向と横方向の平均値で変視症を評価した。結果:全99眼での変視症の平均値は,術前後で有意差はなかった。術前のM-CHARTS値が0のものは術後に有意に悪化し,0.05~0.5のものでは不変,0.55以上であれば有意に改善した。結論:黄斑上膜による変視症は膜除去により改善が期待できる。術前のM-CHARTS値が小さい初期の症例では再検討が必要である。

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要約 背景:フィナステリドは前立腺肥大症の治療として開発された薬剤で,育毛効果があるため,男性型脱毛症にも用いられる。目的:フィナステリドを10週間服用した後に中心性漿液性脈絡網膜症が発症した症例の報告。症例:35歳男性が7日前からの右眼視力低下で受診した。その10週間前から1日量1mgのフィナステリドを内服していた。所見:右眼視力は0.5(1.0×+1.0D),左眼視力は2.0であった。右眼黄斑部に漿液性網膜剝離があり,蛍光眼底造影所見から中心性漿液性脈絡網膜症と診断した。光干渉断層計所見は改善せず,初診から2か月後にフィナステリドを中止した。中止から3か月後に黄斑部の網膜剝離が消失し,その6週間後に再発し,5.5か月後に消失した。経過中の矯正視力は1.0であった。結論:フィナステリド内服により中心性漿液性脈絡網膜症が発症した可能性がある。

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要約 目的:滲出型加齢黄斑変性(AMD)に対する光線力学療法(PDT)の長期成績の報告。対象と方法:AMDに対してPDTを行い,4年以上の経過を追った42例42眼を対象とした。男性36例,女性6例で,年齢は50~86歳(平均71歳)である。28例には狭義のAMD,14例にはポリープ状脈絡膜血管症(PCV)があった。結果:視力の維持または改善は,1年後には31眼(74%),4年後には25眼(61%)にあった。狭義AMDとPCVとで,治療成績に有意差はなかった(p>0.05)。治療後6か月以内の再発は,狭義のAMD群で有意に多かった(p=0.047)。結論:AMDに対するPDTの成績は治療1年後では高いが,4年後には低下する。日本人のAMDに対するPDTの効果は必ずしも良好でない。

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要約 目的:裂孔原性網膜剝離に対する,20G,23G,25Gシステムによる硝子体手術の成績の評価。対象と方法:過去20か月間に初回手術として硝子体手術を行い,3か月以上の経過を追えた裂孔原性網膜剝離の連続症例103例104眼を診療録の記述に基づいて検索した。男性73眼,女性31眼である。62眼には20G,24眼には23G,18眼には25Gを用い,膨張性ガスを97%の症例で用いた。結果:手術翌日の平均眼圧値と初回復位率には3群間に有意差はなかった。術中合併症として医原性裂孔,術後の早期合併症として前房出血が生じた。結論:裂孔原性網膜剝離に対する硝子体手術では,20G,23G,25Gシステム間の手術成績に差がない。小切開手術に移行する初期では,医原性裂孔に留意する必要がある。

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要約 目的:小児と成人の増殖硝子体網膜症(PVR)に対する手術成績の比較。対象と方法:過去4年間に硝子体手術を行った増殖硝子体網膜症25例27眼を解析した。8眼が15歳未満の小児,19眼が15~85歳の成人であった。結果:網膜の復位は小児では7眼中4眼(57%),成人では18眼中17眼(94%)で得られた。復位率は2群間で有意差があった(p<0.05)。0.1以上の最終視力は,小児では2眼(25%),成人では13眼(72%)で得られた。この値には2群間に有意差があった(p<0.05)。結論:15歳未満の小児での増殖硝子体網膜症は,これ以上の年齢層と比べ,手術による復位が困難で,最終視力が不良である。

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要約 目的:硝子体にシリコーンオイルが長期間ある症例の眼球周囲組織と脳室を磁気共鳴画像検査(MRI)で検索した結果の報告。症例:シリコーンオイルの硝子体注入を受け,長期間その抜去ができない7例9眼を対象とした。年齢は34~74歳(平均54歳)であり,シリコーンオイルの眼内滞留期間は20~122か月(平均47か月)であった。原因疾患は増殖糖尿病網膜症または増殖硝子体網膜症である。結果:白色に乳化したシリコーンオイルの前房内貯留が1眼にあった。脳室へのシリコーンオイルの迷入はなかった。結膜下の貯留が2眼にあったが,眼窩内への逸脱はなかった。術後の脳梗塞が5例(71%)にあった。結論:シリコーンオイルが長期間硝子体内にあっても,眼球外への迷入はなかった。脳梗塞の併発が多く,術後の全身管理が重要である。

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要約 目的:眼底に白点と脈絡膜新生血管が併発した再発性急性網膜色素上皮炎の症例の報告。症例:18歳女性が2週間前からの右眼視力低下と光視症で受診した。所見:矯正視力は右0.6,左1.2で,両眼の黄斑部に多数の暗灰色病巣と,これを黄白色の輪が囲んでいた。2週間後に視力は回復した。4年後に右眼視力が0.4に低下した。黄斑病変は初診時と同様であったが,中間周辺部に白斑が多発していた。急性網膜色素上皮炎と診断した。2か月後に白斑は消失し視力は0.6に回復した。4か月後に右眼視力が0.09になり,黄斑の下耳側に脈絡膜新生血管を伴う漿液性網膜剝離があった。ベバシズマブの硝子体注入を3回行い,再発から10か月後に視力は0.4に改善した。結論:急性網膜色素上皮炎の予後は概して良好であるが,脈絡膜新生血管の併発に注意する必要がある。

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要約 目的:結膜の再発性巨大扁平上皮癌に術前のマイトマイシンC点眼が奏効した症例の報告。症例:83歳女性の左眼に角結膜腫瘍が15年前からあった。8回の切除と複数回の冷凍凝固を受けたが再発を繰り返していた。腫瘍が大きくなり,閉瞼不能になって紹介され受診した。所見:左眼視力は零で,球結膜の耳側から鼻側にかけて角膜を被覆する多房性の巨大腫瘍があった。術前処置として0.04%マイトマイシンCの1日4回点眼を1週間行い,次の1週間を休薬とする治療を4回繰り返した。これにより腫瘍は著しく縮小し,鼻側角膜が露出した。3週間後に角結膜腫瘍切除術を行った。高分化した扁平上皮癌であった。以後6か月間,再発転移はない。結論:術前のマイトマイシンC点眼で,巨大結膜腫瘍が縮小し,侵襲が小さい外科的切除が容易になった。

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要約 目的:肺癌の脈絡膜転移にガンマナイフ放射線治療と全身の化学療法が奏効した症例の報告。症例:66歳女性が右眼の飛蚊症で受診した。矯正視力は右1.2,左1.5で,右眼に乳頭から上方に7乳頭径大で厚さ3.5mmの黄白色腫瘤があった。血液の腫瘍マーカーは肺または消化器系癌の可能性を示した。X線検査,内視鏡,ガリウムシンチは陰性であった。PETで肺に集積があり,造影CTで直径3cmの肺癌が初診7週間後に発見された。眼腫瘍は増大し,視力は0.4に低下していた。眼に対するガンマナイフ治療と化学療法を行い,7か月後に腫瘍は平坦化し,視力は0.9に改善した。初診から18か月後の現在まで経過は良好である。結論:比較的小さい肺癌からの脈絡膜転移にガンマナイフ治療と化学療法が奏効した。

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 再生医療・生体材料研究会(日本眼科生体材料および再生医学研究会)は日本臨床眼科学会初日の10月9日に福岡国際会議場第8会場で開催された。本研究会は,角膜,水晶体,網膜,眼窩周辺など多種領域で研究開発されている生体材料の効果と展望について,眼科再生医療の分野も含めて研究検討することを目的としている。参加者として,眼科医だけでなく実際に生体材料の開発にかかわっている企業研究者も対象にすることで,生体材料の臨床的意義を理解している医師と生体材料の性質を熟知している企業研究者,理工系研究者のコミュニケーションを強化し,お互い異なった領域から刺激しあうことで新しいアイディアの出現や眼科生体材料研究の発展をめざしている。また,本研究会は国際的な情報収集のために,米国Interdisciplinary Club for Biomaterial and Regenerative Medicine in Ophthalmology(ICBRO)と共同して活動している。

 今回の研究会も多くの聴衆を迎え,活発な討論が行われた。以下に研究会講演内容概要を報告する。

黄斑研究会 米今 敬一
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 第63回日本臨床眼科学会黄斑研究会は2009年10月9日(金)午前8時30分~11時10分の日程で福岡国際会議場201/202号室で行われた。学会第1日目の平日早朝にもかかわらず,多数の先生方が参加され活発な議論がかわされた。

 今回の黄斑研究会は2部のシンポジウムから構成され,その内容は以下のとおりであった。(敬称略)

連載 今月の話題

黄斑色素と加齢黄斑変性 尾花 明
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 黄斑色素はルテインとゼアキサンチンからなり,視細胞に有害な青色可視光に対するフィルター効果と活性酸素を消去する抗酸化作用を持つ。疫学調査からルテイン,ゼアキサンチン摂取の多い個体は加齢黄斑変性の発症率が低いことが示唆され,さらに直接的な発症予防効果も検討されている。従来は困難であった生体眼での測定も複数の方法が考案され,今後は黄斑色素と加齢黄斑変性の関係がさらに詳細になると思われる。

連載 公開講座・炎症性眼疾患の診療・25

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はじめに

 真菌性眼内炎には外因性と内因性がある。外因性真菌性眼内炎は穿孔性外傷や眼内手術により,直接眼内に真菌が侵入し,眼内炎が起こるものである。これは近年減少傾向にあり,問題となることは少なくなっている。これに対し,内因性真菌性眼内炎は真菌の全身感染によって血行性真菌が眼内に伝播し,網脈絡膜に感染して眼内炎を発症する。

 本症は1943年に欧米で初めて報告され1),従来は稀な疾患とされていた。日本では1974年に初例が報告された2)。1980年代から医療の進歩とともに増加傾向にあり3,4),消化管手術後・中心静脈カテーテル長期留置・血液悪性腫瘍・臓器移植後・好中球減少・副腎皮質ステロイド薬使用・悪性腫瘍に対する化学療法後・血液透析などの免疫抑制状態や広域抗生物質の投与によって常在細菌叢が抑えられ,真菌血症を起こし,それに続発して発症することが多い5)。本症の約90%が経中心静脈高カロリー輸液(IVH)使用例であり,内因性真菌性眼内炎の重大な誘因である4)。IVHを使用していた患者に対し,眼科以外の医師が本症に気づくのが遅れ,訴訟となって敗訴している症例もある(2003年2月20日名古屋高裁判決,心臓バイパス術後,真菌性眼内炎発症,両眼失明)。

 診断は比較的容易であるが,患者の全身状態が不良で自覚症状を訴えることのできない患者も多いので,担当診療科と綿密な連携をとることが必要である。

 米国感染症学会のガイドラインでは,すべてのカンジダ血症の患者に対して眼科医の診察を推奨している6)。また,「深在性真菌症の診断・治療ガイドライン2007」など各種ガイドラインも作成されている。

連載 視野のみかた・1【新連載】

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はじめに

 視野検査は日常臨床において欠かすことのできない重要な自覚検査である。今日の眼科診療では,コンピュータ化された自動視野計による静的視野測定が広く普及している。自動視野計を用いて閾値測定を行った場合,その測定結果はdB単位で換算された数値のテーブルからなる。しかしながら,単にこの数値テーブルのみでは,測定結果を臨床的に評価することは難しいため,さまざまな視野の表現方法,統計学的解析が行われている。今回は,そのなかでも結果のプリントアウトのなかで最もめだつところに印刷されている濃淡表示(以下,グレイスケール)について述べていきたい。

連載 眼科医にもわかる生理活性物質と眼疾患の基本・4

ET-1 奥 英弘
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 エンドセリン1(endothelin-1:ET-1)は眼内に豊富に存在する生理活性ペプチドで1),強力で持続的な血管収縮作用から,視神経乳頭や網膜循環障害との関連が注目された。また眼圧下降作用を示し,組織血流や眼圧制御に関与している。一方,視神経や網膜を含めた中枢神経系の病態時に増加し,細胞死の制御や,グリア細胞の活性化を介し組織のリモデリングにも深く関与している。臨床的には,特に緑内障や糖尿病網膜症との関連が示唆されている。

連載 つけよう! 神経眼科力・1【新連載】

何をどう診る,神経眼科 若倉 雅登
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神経眼科で大事なことは?……まず話を聞こう

 眼科においては,視力を測定し,前眼部,中間透光体,眼底をみると,大半の疾患の診断は可能なため,どうしても医師の視診が優先されて,患者の愁訴を重視しない傾向がある。なかには「あなたの話を聞くより,診たほうが早い」とほとんど訴えを聞かない医師さえいる。

 だが,神経眼科では「患者の話」が最も重要で,それをきちんと聞けば,それだけで病態を把握できることが多い。「見えにくい」「ぼやける」「かすむ」など,視覚系の訴えに対しては,いつ,どちらの眼が,どのようになったのかを具体的に聴取することで,調べるべきポイントがつかめる。つまり,「いつ」を聞くことで,血管障害のように突然発症なのか,腫瘍などのようにいつの間にか変化してきたのかを探ることができる。また,そのときの随伴症状(前兆,痛みの有無や性状,眼外症状)を聞くことで,正しい診断へまっすぐ進めることもある。

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要約 目的:甲状腺眼症で発症した片眼の上転障害と強い上斜視に対してFaden手術を行った報告。症例:68歳女性が眼位異常で受診した。Basedow病の既往があり,33年前に上下斜視に対し左眼に手術を受けた。所見と経過:左眼に55Δの上斜視があり,右眼の下直筋を5mm後転した。左眼に30Δの上斜視が残存し,18か月後にFaden手術を併用して左眼の上直筋を5mm後転した。術後1年目では左眼に20Δの上斜視があり,改善と判断した。結論:Faden手術は非共同性斜視に用いられるが,本症例では左眼の上斜視が顕著であり,左眼上直筋の後転術にFaden手術を併用し,効果があった。

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要約 目的:正常眼,弱視既往眼,弱視眼での黄斑部網膜厚の報告。対象と方法:3~13歳(平均5.6歳)の幼小児67眼を対象とした。正常眼22眼,弱視既往眼25眼,弱視眼20眼で,屈折は+2~+5Dの範囲にあった。黄斑部網膜厚は光干渉断層計(OCT)で測定した。結果:3群間の屈折には有意差がなかった。Foveal minimum,fovea,inner retinaの網膜厚は3群間に有意差がなかった。結論:幼小児の黄斑部網膜厚には,屈折の影響があるouter retina領域を除き,正常眼,弱視既往眼,弱視眼で差がない。

今月の表紙

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 症例は83歳,女性。右眼の霧視を自覚し,近医を受診した。右眼眼底に白色のわずかに隆起を伴う病変を認め眼内悪性リンパ腫の疑いで当科を初診した。視力は右0.5(0.9p×+0.50D()cyl-1.75D 100°),左0.7(矯正不能),硝子体にわずかな混濁を認めた。写真は当科初診時のものであるが,その後の精査で眼内悪性リンパ腫の診断に至った。

 撮影は,興和社の無散瞳・散瞳眼底カメラVX-10α+Nikon社のD80を用い画角50°で行った。画像加工にはAdobe社のPhotoshop Elements 2.0を用い,眼底像のみを抽出し,画像重複部分を不透明度20%の消しゴムツールで消し,17枚の眼底写真から形成している。眼底カメラの初期設定で撮影すると白色隆起病変がハレーションを起こしてしまうため,フラッシュ光量を1段階下げ,さらにD80の設定をISO感度500から640に変更し撮影している。この条件下では白色の隆起病変もハレーションを起こさず,正常網膜も比較的明るく描出される。写真は今後の経過も考慮し,病変部分以外も撮影した。

べらどんな

天使の翼
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 キューピーは天使の一族である。悪いことはせず可愛いし,首のうしろに親指の爪くらいの大きさの翼がついている。この翼では飛べないが,痕跡器官だと思えば良い。サルのように立派な尻尾があったことをヒトの尾骶骨が示しているのと似ている。

 天使がしっかり空を飛ぶためには,条件がいくつもある。まず問題になるのが翼の大きさと,これを動かす筋肉のことである。

網膜色素線条
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 病気の診断は必ずしも楽ではないが,もっと難しいのが予後の判定である。

 ある全国紙の朝刊に「患者を生きる」という欄があり,もう4年近く続いている。いまは患者さん本人が「目の病気になってどう困り,どう対処したか」が述べられている。

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 コーネル大学医学部留学中に経済を学ぶことの大事さを痛感し京都大学で経済学博士号を得た,医師でありまた医療経済学者でもある筆者は,出来高払いの保険制度は,医師と患者にとっての天国をもたらすものと説く。患者のために高度な診療をするほど,病院や医師に多額の報酬が支払われるからである。しかし,これでは医療費に歯止めがかからず,また,医師と患者の間の情報・知識の格差が,過剰な診療を誘発する。

 さらに,高齢化社会の到来による患者増で医療費は急増していくとの政府予想と財政赤字の深刻化を受けて,医療費の抑制が重要な政策課題となり,包括払い制度,在院日数の短縮,病床数削減,診療報酬引き下げ,ジェネリック薬品の奨励,レセプトの審査強化などが推進されるようになった。延命治療も問題視されるようになった。

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 本書の著者である上石弘先生は長年近畿大学形成外科教授としてご活躍され,2006年にご退職された後はNPO法人クラニオフェイシャルセンターを立ち上げ,その理事長として頭蓋顎顔面外科を志す後進の指導に精力を傾けておられている。著者は日本における頭蓋顎顔面外科領域の草分け的存在であり,私も著者からご指導を受けた一人である。

 約20数年前,私は著者が北里大学におられたときに開催された上・下顎骨切り術のワークショップに参加し,その手術を見せていただいた。さらにその数年後,私は本学で行われた著者による斜頭症の手術の助手を務めさせていただき,その知識,技術を肌で感じさせていただいた。それ以降,私も頭蓋顎顔面外科への道を歩み始めたと言っても過言ではない。また,著者は医科と歯科のダブルライセンスをお持ちで,その修練をされているが,私はさまざまな機会において,頭蓋顎顔面外科における歯科的知識の重要性,さらにその技法を著者から教えられてきた。

やさしい目で きびしい目で・124

私と仕事 根岸 一乃
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 医師をめざす多くの若者がそうであるように,私も医者になろうと決めたときの志は高かった。しかし,医学部に入ると志はどこへ行ってしまったのか,以前と同じように,すっかり勉強することを忘れ遊び呆けた。時はバブル経済全盛期で,大学生の私に怖いものは何もなく,クラブ活動に明け暮れ,その他も含めてほんとうにバラ色の生活を送った。6年生になり学生生活が終わるのは悲しかったが,6年間ですっかり脳が溶けた感じだったので,終わりでもちょうどいいと思った。

 卒業してみると,女性に対する社会の風あたりが予想外に強いことがわかった。4年制大学を出た私の同級生はちょうど「男女雇用機会均等法」の始まりの頃の学年であったが,「機会均等」が名ばかりであったのは有名な話である。医療界も同じであった(と思う)。学生のときにはまったく感じなかったが,社会に出た途端,男性よりもいきなり大きくスタートラインを下げられた感じがした。元来「要領のみ」で生きてきた私は,最初からそんなハンディキャップのある社会で同レベルに扱われようと奮闘するのは,自分の能力の無駄遣いであると思った。そのため,続けているうちは責任をもってやるものの,適当なところでとっととやめようと決心した。予定では30歳前にはやめようと思っていたのだが,医局に所属するうちに,なかには差別観なく教育してくださる先輩もいて義理を感じるようになり,やめる機会を逸していた。

ことば・ことば・ことば

ぎなた読み
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 すこし長い単語や文章の切り方を間違えると,まったく別の意味になることがあります。

 104番の電話番号案内で,奈良県の「ヤマト郡ヤマイチ」に住んでいる人を調べてほしいという問い合わせがあったそうです。奈良県には大和郡は実在しないのですが,実際は金魚で有名な「大和郡山市」のことでした。

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あとがき 坂本 泰二
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 進学・就職の季節の4月は,人事異動の季節でもあります。診療で忙しい毎日を過ごしていると,季節の変化を感じることは少ないのですが,スタッフの入れ替わりがある4月だけは別です。新しいスタッフとともに仕事を始めるこの時期は,毎年新鮮な気持ちになり,年度の節目を迎え思いを新たにします。

 さて,本号から新連載「つけよう! 神経眼科力」と「視野のみかた」が始まります。神経眼科は,患者数が比較的少ないだけでなく,診断が難しい分野ですから,一般の眼科医から敬遠されがちです。しかし,軽微な眼の神経症状が,重篤な疾患の初期兆候であることは少なくなく,神経眼科の知識は眼科医にとって必須のものです。一方,緑内障診療などで広く用いられている視野検査は,「不十分な知識のままで何となく診療に用いているが,いまさら人に教わるのも憚られる検査」の代表ではないでしょうか。

基本情報

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臨床眼科
64巻4号 (2010年4月)
電子版ISSN:1882-1308 印刷版ISSN:0370-5579 医学書院

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