やさしい目で きびしい目で・124
私と仕事
根岸 一乃
1
1慶應義塾大学
pp.575
発行日 2010年4月15日
Published Date 2010/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410103159
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医師をめざす多くの若者がそうであるように,私も医者になろうと決めたときの志は高かった。しかし,医学部に入ると志はどこへ行ってしまったのか,以前と同じように,すっかり勉強することを忘れ遊び呆けた。時はバブル経済全盛期で,大学生の私に怖いものは何もなく,クラブ活動に明け暮れ,その他も含めてほんとうにバラ色の生活を送った。6年生になり学生生活が終わるのは悲しかったが,6年間ですっかり脳が溶けた感じだったので,終わりでもちょうどいいと思った。
卒業してみると,女性に対する社会の風あたりが予想外に強いことがわかった。4年制大学を出た私の同級生はちょうど「男女雇用機会均等法」の始まりの頃の学年であったが,「機会均等」が名ばかりであったのは有名な話である。医療界も同じであった(と思う)。学生のときにはまったく感じなかったが,社会に出た途端,男性よりもいきなり大きくスタートラインを下げられた感じがした。元来「要領のみ」で生きてきた私は,最初からそんなハンディキャップのある社会で同レベルに扱われようと奮闘するのは,自分の能力の無駄遣いであると思った。そのため,続けているうちは責任をもってやるものの,適当なところでとっととやめようと決心した。予定では30歳前にはやめようと思っていたのだが,医局に所属するうちに,なかには差別観なく教育してくださる先輩もいて義理を感じるようになり,やめる機会を逸していた。
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