Cancer Board Square 3巻2号 (2017年7月)

Feature Topic がん診療のコスト原論

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医療とお金。考えるにも面倒な組み合わせです。

抗がん剤の高額薬価が一時期社会を賑わせました。

ニボルマブに代表される免疫チェックポイント阻害薬はその医学的な達成度とは別に、経済的・社会的意義を問われる薬となったのです。

「費用対効果」という耳慣れた言葉が各学会や専門誌上で飛び交い、国の薬価制度見直しまでその影響力を及ぼしました。

結果、ニボルマブの薬価は半額となり、コスト問題はその姿を消していきます。

しかし、このコスト問題は本当に収束したのでしょうか? 

そもそも医療における「費用対効果」とは? 

ニボルマブが私たちに突き付けた医療コスト問題は、これまでの「医療とお金」のパラダイムを一変させたように思えます。

そこで本特集では、「がん診療のコスト原論」と題し、このコスト問題を今一度考え直します。

医療経済の歴史から、そして現場の視点から、または社会学の知見から。

この原論をもとに、これからのがん診療を考えてみたいのです。

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費用対効果への見方は学問分野や国によって違う

 近年医療でも「費用対効果」という言葉が話題になることが頻繁になってきました。なぜ話題になることが多いのでしょうか? 国民医療費が伸びていくなかで財源不足になっており、医療の世界もお金のことを考えなくてはいけない、という見方を政策担当者だけではなく、医療現場の従事者も、そして一般の人々も共有していることが背景にあります。

 「費用対効果」という言葉のイメージは、お金を上手く使って医療を行なわなければいけない、医療の効率性の指標として「費用対効果」というのがある(らしい)、というものではないでしょうか。しかし、皮肉なことに「費用対効果」の認知が広がったことで、逆に医療の効率性に対する理解と「費用対効果」の結果を用いたコミュニケーションを難しくしている点があります。

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国民皆保険制度の変遷

 半世紀以上の長きにわたって日本では、「国民皆保険制度」という言葉が「全ての国民が公的医療制度に加入できる(実質的には、加入する義務がある)」状態という本来の定義を超えて、「その公的医療制度でほぼ全ての医薬品が賄われる」状態として理解されてきた。

 高く評価されてきた日本の医療保険制度であるが、財政面では大きな課題に直面している。国民医療費は、2013年度には初めて40兆円を超え、国内総生産(GDP)に占める割合も8.29%と過去最高になっている。2010年の厚生労働省の試算では、2025年には国民医療費は52.3兆円に達するとみられている。医療費増大の要因としては、高齢化だけでなく、医療技術の高度化なども関与している。例えば2015年のデータでは、国民医療費の伸び率3.8%に対して、高齢化の寄与が+1.2%、人口変動の寄与が−0.1%(人口減少のため、マイナスの値)、そして医療技術の高度化などを含む「その他」の要因が+2.7%と、高齢化以外の要因の寄与が大きくなっている。「その他」の要因の寄与割合2.7%は、2000年以降で最も大きな数値でもある。

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免疫チェックポイント阻害薬のブレイクスルーによって、新規抗がん薬の臨床活用は加速度を増してきた。

臨床現場の「薬のプロ」である薬剤師から高額薬価問題はどのように見えていたのだろうか?

そして、これからの薬剤師の仕事はどのような意味をもつのだろうか?

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二つの論点

 がん診療のなかで、QOL(Quality of Life)とコストの問題を考えるときに二つの論点がある。一つは、「生存延長につながらないが、QOL向上に資するがん治療のコストをどのように考えるか」という問題である。

 通常、新規抗がん剤が認可されるためには、既存薬よりも生存年が延長するという効果の改善が要求される。ということは生存期間(overall survival;OS)を伸ばさない抗がん剤は、そもそもコスト議論の対象となりにくい。具体的には、「果たしてQOLを改善する(だけの)抗がん剤のコストを公的医療制度が引き受けるべきか?」また、「もし引き受けるとしたら、OSの延長効果とQOL改善効果のバランスをどう取るべきか?」という議論の形をとると思われる。

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はじめに—歴史的背景からひもとく

 この1〜2年、わが国でも医薬品など医療用製品の高コストが急に話題に上るようになった。今回この問題が、一般紙やテレビの情報番組などにおいても報道されるようになった直接の契機は、最近の特に高額に値付けされた医薬品(肝炎治療薬や、がんの免疫療法薬など)の登場が、医療財源の8割強を公的資金に頼っているわが国の財政全般を強く圧迫し、このままだと世界に誇るわが国の国民皆保険制度の崩壊をきたしかねない、という危機感が生まれたためと思われる。

 しかし、実際のところ、医薬品などの高コスト問題は急にもち上がったものではない。アカデミアの世界では、「医療資源の効率的かつ公平な配分」、あるいは、「医療技術評価(health technology assessment;HTA)とその政策応用」などの課題として、欧米では少なくとも30年以上、わが国でも1990年代位から地道に研究と政策応用の可能性の模索が続けられてきた。

 また既に、欧州各国ではHTAの資源配分への政策応用の歴史も長く、課題や解決法はかなり学問的に整理されている。わが国では、HTAの具体的な政策応用(「費用対効果評価」と呼ばれるHTAの一部の応用ではあるが)の試行が2016年4月より既に開始されている。

 本稿では、このような、あまり報道されない歴史的・学術的な背景や枠組みを、医療経済評価、生命倫理、臨床疫学など社会医学に必ずしも精通していない医療専門家を対象に概説したい。本稿が、わが国の医療制度改革を考える道標のひとつになると幸いである。

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コストがかかる、という言説の手前に立ち戻ることで見えてくる風景がある。

所有権の観点から医療や病気をテーマに思考を続ける社会学者に訊いた、お金と医療の考え方。

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コストを無視してやってきた

 ニューヨークのMemorial Sloan Kettering Cancer Center(以下、Sloan Kettering)のDr. Leonard B. Saltzはこう書いている。

「レジデント時代、指導医の一人が、ある患者に対して非常に多くの検査をしておけと私に指示した。私には、その検査で患者の治療が変わるとは思えなかった。そして指導医に、そういうのをやるのが正しいことか、cost effectiveであるのかと尋ねた。指導医は私に、“コストのことは我々の関知することではない。私は、cost effectiveであることでもって患者から報酬を受けたことなどない”と言い放った。私はその時、これは間違っているのではないかと思った。今、私は、これは間違っていると、知っている」1

View-point がん診療 「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん」

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予防、診断、治療、フォロー、サポート。

すべての患者に対して、標準的な治療・ケアが適用できるわけではありません。

様々な合併症、薬剤の相互作用、心理的サポートの介入時期、患者ニーズへの対応、医療経済的問題……。

がん診療では、そのほとんどのケースにおいて、個別性が前提となっています。

標準治療の少し先を考えるためには、現場に即した「問い」と異なった視点による「答え」を知ることも必要ではないでしょうか。

Q&Aは企画者が設定しました。

Clinical Questionに対して、エキスパートが視点の異なる考えを提示します。

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1 概要と疫学

 卵巣腫瘍は、上皮性、性索間質性、胚細胞腫瘍に大別され、上皮性が全体の90%を占める。卵巣・卵管・原発性腹膜がんはミュラー(Muller)管から発生し、組織型、進展形式、治療反応、予後が類似することから同一の疾患概念と考えられており、同一の治療方針が選択される。2011年の卵巣がん罹患数は9,314人で微増傾向を示しており、40歳代から増加し、50歳代前半でピークとなり、80歳代から再び増加する。また、卵巣がんによる死亡数は、2014年時点で4,840人となっており、近年横ばいである1。罹患数は子宮体がんや子宮頸がんと比較して少ないが、死亡数はこれらを上回り、婦人科がんのなかで最も予後不良である1。Ⅰ期の5年生存は80%を超えるが、Ⅲ期では40%前後、Ⅳ期は20%に満たない。

 最も重要な発症リスク因子は家族歴であり、全上皮性卵巣がんの約10%は家族性とされ、BRCA1/2遺伝子変異が強く関連する。他の因子として、未経妊、長期月経期間(初潮が早く閉経が遅い)、ホルモン補充、肥満なども発症に関連する。一方で妊娠や授乳、経口避妊薬などは発症リスクを減少させる。

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診断

腹膜がんの診断をどうするか

Q 腹膜がんが疑われる場合、どのように診断しますか? 組織診断まで行ないますか?

実際の診療で行なっている通りにお答えください。

連載 Spot Light「臨床AI論」—AIと医療の未来はどう交差するのか?[1]【新連載】

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今春開催された第106回日本病理学会総会(新宿)でのオープンフォーラム「10年後に病理医は何をしているのか」より市原真先生の講演「α-AlphaGo〜次世代のキシ〜」採録をお届けする。

2017年1月、日本医療開発機構(AMED)から日本病理学会を中心とする「AI等の利活用を見据えた病理組織デジタル画像(P-WSI)の収集基盤整備と病理支援システム開発」研究が採択された。画像識別(診断)の分野ではAIの活用が待望され、その進化も加速度的な様相を見せ始めている。

病理医の主要な仕事のひとつに、生検標本から病名を確定させる形態診断がある。

画像識別を得意とするAIの格好の餌食とも言われる分野である。

果たして形態診断は全てAIが担うのか? 

そのときになにが起きるのか? そしてそれはいつなのか?

連載 漢方のすゝめ—支持療法における処方の考え方[1]【新連載】

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はじめに

 がん領域における「漢方」について、読者諸兄姉はどのような印象をおもちだろうか。処方の考え方が難しい、どのようなEvidenceに基づけばよいのかわからない、標準治療との併用がわからないなど、さまざまな疑問・意見があることと思う。

 漢方は今、国策として新たな展開が求められており、科学の進歩とともに新たなステージを迎えつつある。わが国におけるがん政策の歴史と、これまでの漢方のあり方を振り返ることを欠いて、漢方の「今」を知ることはできない。第1回である今回は、がん政策の歴史をひもときながら漢方が置かれている状況をお伝えできればと思う。

連載 Medical Oncology 2.0[1]【新連載】

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AIとメディカルオンコロジスト

 近い将来、目の前の患者さんの診断や治療をAIが提案するとしたら私たちはどうすればいいのでしょうか?

 近年のAIブームを横目に、いつの日か必ず訪れるであろう未来に思いをはせてみると不安がよぎります。新聞やビジネス誌では、これまで人間が担ってきた仕事のみならず職業自体がなくなるとも言われ、安定な職業として不動の地位を得てきた医師も例外ではないようです。ディープラーニングの進化や画像認識技術の向上で、膨大な医療情報から最適解を導き出したり、画像診断を行なったり、日常診療で私たちが行なっている業務の一部を補完または代替していくことが予想されています。

連載 臨床医のためのワンテーマ腫瘍病理[6]

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 がん診療において、さまざまな遺伝子検索が行なわれる時代となりました。大腸がんの、RAS遺伝子の変異解析。乳がんの、ER(エストロゲンレセプター)、PgR(プロゲステロンレセプター)、HER2/neu免疫染色のスコアと、Ki-67の陽性細胞数インデックス。そして肺がんにおける、EGFRの変異解析、染色体異常EML4-ALKに関連する抗ALK免疫染色、FISHキメラ蛋白解析、ROS1遺伝子変異、RET遺伝子変異の解析。さらには神経内分泌腫瘍における、SSTR(ソマトスタチンレセプター)のサブタイプ発現解析……。書いているだけでつらくなってきます。腫瘍内科の皆さまも大変です。

 このなかで、私のような常勤病理医が「自ら」携わる検査はどれか。免疫染色が分水嶺となります。現状では、ER、PgR、Ki-67、HER2の評価がメインで、そのほかの遺伝子変異解析やキメラ染色体解析は、コマーシャルラボへの外注に頼っている状態です。

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Summary

 乳がん治療は他の固形腫瘍に比べて早い時期から「ホルモン療法」という分子標的治療が行なわれてきた。それだけでなく、1990年代後半には現在の分子標的治療薬時代を引っ張る存在となる薬剤、トラスツズマブがHER2陽性乳がんの治療に応用されるようになった。乳がん領域には、治療の大きな転換期をいくつか垣間見ることができる。

 本稿では、1990年代前半、トラスツズマブ単剤・併用療法の安全性と効果が証明されつつある頃の試験を紹介する。本試験は、Slamon医師ら1が行なったHER2陽性転移乳がん患者を対象にした一次治療における第Ⅲ相試験であり、この結果から、現在のHER2陽性転移乳がんのタキサン系薬剤との併用が確立されることになった。

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Summary

 SHARP試験は、進行肝細胞がんに対して初めて有効性を示した臨床試験である。ソラフェニブ(商品名:ネクサバール®)はわが国においても標準治療と位置付けられている。ソラフェニブ登場後、進行肝細胞がんに対する一次治療、二次治療、更に周術期治療の各病期における臨床試験が活発化した。しかしながら、その結果は期待されたものではなく、厳しい結果であった。それゆえ、依然として進行肝細胞がんに対する標準治療はソラフェニブと位置付けられている。ようやく、レゴラフェニブとレンバチニブが肝細胞がんに対して使用が待たれる状況となったが、多くの臨床試験の失敗から学ぶ教訓は多い。

連載 これからの免疫療法の話をしよう[5]

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はじめに

 連載第2回から第4回までは、開発が先行する免疫チェックポイント阻害薬について解説しました。5回目の今回は、免疫チェックポイント阻害薬に特有の副作用(有害事象)である免疫関連有害事象について説明させていただきます。従来の抗がん剤や分子標的薬剤による副作用は、ほとんどのケースでそれぞれの薬剤が体の各組織に直接作用して傷害することによって生じるものでした。しかしながら、免疫チェックポイント阻害薬はこれまで詳しく説明してきたように、直接作用するポイントが我々宿主の免疫細胞であるリンパ球です。したがって、副作用も我々の免疫細胞を介したものであり、これまでの抗がん剤とは全く異なる作用機序となりますので、どのような機序であるかを説明させていただきます。

 また、トピックスとして、「がん免疫療法の登場によって変わるチーム医療体制について」を取り上げさせていただきます。

連載 病院でこの言葉は使えませんでした。[4]

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聞いたことのない病気になって

 私の夫が消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor;GIST)という希少がんに罹患したのは2004年、今から13年前のことです。罹患者数は10万人に1〜2人。当時はインターネットを使っても、本屋や図書館に行っても、GISTについての詳しい情報は見当たらず、情報収集には大変苦労しました。ようやくインターネットで探した文献を主治医に見せたところ、「よく探し出しましたね。大学の教科書みたいだ」と言われたことを思い出します。

 希少疾患のような患者数が少ない病気では、日常生活ではもちろんのこと、病院に行っても同じ病気の人に出会うことはまずありません。見たことも聞いたこともない「GIST」という病名を目の当たりにして、当事者としてとてつもない孤独や不安、混乱を抱えてしまった患者は、目の前の主治医の先生を己の師とばかりに頼りにします。私たちもそうでした。患者とその家族にとって、主治医の先生はなんでも知っているはずの尊敬すべき人なのです。

連載 ID consult—がん患者の感染症診療[5]

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はじめに

 インフルエンザは毎年12月〜翌年3月にかけて流行する(Fig.1)1。人口の2〜10%が感染するとされ、2016年度の推定患者数は約1,500万人であった1。65歳以上の高齢者、基礎疾患をもつ患者は重症化および死亡のリスクが高い2。がん患者は化学療法や基礎疾患から高リスク群に入り、ガイドラインでワクチン接種が強く推奨されている3,4。しかし、当センターで外来を行なっていると、「抗がん剤投与中だから打てないと思った」「入院が重なって打つ機会を逃した」「必要ないと思っていた」というがん患者の声を聴く。一方で、主治医の推奨がきっかけで接種する患者は多い5

連載 目から鱗のがん薬物療法—薬学的視点からみたケーススタディ[6]

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経口抗がん薬単剤療法に対する薬剤師外来

・近年、分子標的薬など経口抗がん薬の服用患者が増えてきていますが、その副作用マネジメントや患者指導はまだ十分とは言えません。適切な副作用マネジメントは、治療の中止や抗がん薬の安易な減量を行なうことなく、治療を継続することにつながります。そのためにも、がん薬物療法に精通した薬剤師看護師が副作用マネジメントを行ない、必要に応じて処方提案することが求められています。

・薬剤師が関わるタイミングとして、医師の診察前に薬剤師が行なう診察前面談(薬剤師外来)が有用であると考えられます。しかし、経口抗がん薬単剤療法に対する薬剤師外来を実施している施設は少なく、その有用性に関する報告はほとんどありません1,2

連載 レジメンマネジメントの流儀[6]

相原病院のレジメン 河野 勤 , 森 玄
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はじめに

 相原病院は大阪府箕面市にあり、40年の歴史をもつ。ブレストセンターと人工関節センターの専門医療に特化し、今時珍しくDPC(包括医療費支払い制度)を導入していない、病床数31床の病院である。乳がん診療においては、特に看護師の活躍が目覚ましい施設と言える。

連載 これからのがんサポート[6]

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大腸がんとがん相談支援

 前回から、がん種毎のがん相談の様子をお伝えしています。今回は、5大がんの1つであり、日本人が罹患するがん種としては2015年のがん患者数の推計で胃がん、肺がんを抜いてトップになった大腸がんを取り上げます。

 ご存じのように早期の大腸がんには自覚症状はなく、進行すると典型的には、血便や便通異常、腹痛などの症状が現れます。当然ながら予防や早期発見は重要ですが、日本人の場合、比較的症状が現れやすい直腸やS状結腸に約7割が発生しているため、早期発見も多く、5年生存率も他のがんに比べると高値となっています。

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なぜ、がんDDSが必要なのか

 いまや日本人の2人に1人はがんに罹患すると言われています。がん化学療法は、がん治療において欠かせないものとなっていることは論をまちません。前号では、抗がん剤が効く人と効かない人、副作用が出る人と出ない人の要因解明と、がん化学療法の層別化・個別化の戦略について取り上げました。

 一般に抗がん剤は、旧来使用されている薬物を中心に、臨床での投与量において有効域と副作用発現の用量域が狭いものが多く、治療効果と副作用は、表裏一体の関係であることも事実です。これは、がん組織以外の正常組織や細胞にも抗がん剤が分布することを避けられないことがその一因です。そこで抗がん剤をよりがん組織に選択的に到達させることで、治療効果を最大限に引き出し、かつそれ以外の組織への薬物分布を回避して有害事象を軽減することが可能となります。これが、“ドラッグデリバリーシステム(drug delivery system;DDS)”開発の原点です。これを実現するために、現在まで多様なDDSの開発が進められてきました。今回は、私の視点からみた、がんDDSを取り巻く課題とDDSの未来予想図を取り上げます。

連載 フクシマ日記—A diary from Fukushima[6]

2017年6月某日「育てる」 佐治 重衡
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 夏がやってきます。

 4月から新しい生活をはじめた新人さんは、少しずつ環境や仕事にも慣れて楽しくなってきた頃、もしくは想像と違った現実にうちのめされている頃……かもしれません。新人さんの教育をどうするか?は古来より大きな課題であり、さまざまな議論がされてきました。

連載 人間はいつから病気になったのか—こころとからだの思想史[6]

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痛みと叫び声の分類学

「常に不愉快であるとはいえ、大半の痛みとはその目的において有益なものである1」。1803年に刊行された『苦痛論』において、医師のイポリット・ビロンはこのように述べる。ビロンによれば、痛みとは身体をさまざまな危害から守ってくれる「生命の番人」である。痛みは「目が強すぎる光を受けたときに瞼を閉じるように」知らせてくれ、「強すぎる音が聴覚を痛めそうなときには頭の向きを変えるように」促し、筋肉の痛みは「既に疲れている筋肉を酷使するのを防いでくれる2」。痛みは体に差し迫った真の危険を前もって伝えてくれる声なのだから、医師もまたこの声に耳を傾ける必要があるのは言うまでもない。ビロンの場合にはこれは比喩ではない。彼が提唱するのは、痛みに苦しむ患者たちが上げる叫び声を聞き分けることだからである。

連載 Art of Oncology[6]

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 25年ほど前の話になるが、当時はまだ悪性患者さんへの病名告知はほとんど行なわれていなかった。筆者は、医学生時代に故澤潟久敬先生の医学概論の講義を受け「医学の使命は病気を治すことではなく、病人を治すことである。否、病人のみが彼らの対象ではない。生、老、病、死に悩む人間の伴侶たることこそ、医者たるものの使命であり、誇りである。医者は単なる科学者であってはならない」の教えに強く影響を受けていたので、たとえ百パーセント正確ではなくても偽りのない病名や病態を説明することは、患者さんの尊厳を守る意味で医療の本質と考えており、その実践に努めていた。

 その頃、ある黄疸患者さんの奥さまと筆者との間で、病名告知について意見が完全に分かれたことがあった。そのときのやり取りが、ご夫妻が筆者宛てに書かれた文章として残っているので、奥さまの承諾を得て紹介する。なお、ご夫妻とも大学の教授として教鞭を執られていたお二人である。

連載 Voices from...[1]【新連載】

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2016年4月、がん研有明病院(以下、がん研)消化器センター肝胆膵グループが、新たなプロジェクトをスタートさせた。その名もPANDA(PANcreatic Direct Approach team)。切除不能な進行膵がん患者を対象とした、多職種によるサポートプログラムだ。

 早期から緩和ケアを組み込み、各専門職が医師の指示を仰がず、自らの判断で患者にアプローチしていく。どうしても医療者側の事情が優先されがちななかで、「患者の視点が生きている」と感じたこの取り組みの成り立ちと経過を紹介しよう。

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症例

40歳代、女性。閉経後。

主訴:閃輝暗点。

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症例

21歳、女性。

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企画・執筆者紹介

次号予告と今後のご案内

Editorial 三橋

基本情報

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Cancer Board Square
3巻2号 (2017年7月)
電子版ISSN:2189-6429 印刷版ISSN:2189-6410 医学書院

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