Feature Topic がん診療のコスト原論
「コスト」を考慮した効率的ながん診療と医療倫理のバランス
下妻 晃二郎
1
1立命館大学生命科学部
pp.247-252
発行日 2017年7月15日
Published Date 2017/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1430200191
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに—歴史的背景からひもとく
この1〜2年、わが国でも医薬品など医療用製品の高コストが急に話題に上るようになった。今回この問題が、一般紙やテレビの情報番組などにおいても報道されるようになった直接の契機は、最近の特に高額に値付けされた医薬品(肝炎治療薬や、がんの免疫療法薬など)の登場が、医療財源の8割強を公的資金に頼っているわが国の財政全般を強く圧迫し、このままだと世界に誇るわが国の国民皆保険制度の崩壊をきたしかねない、という危機感が生まれたためと思われる。
しかし、実際のところ、医薬品などの高コスト問題は急にもち上がったものではない。アカデミアの世界では、「医療資源の効率的かつ公平な配分」、あるいは、「医療技術評価(health technology assessment;HTA)とその政策応用」などの課題として、欧米では少なくとも30年以上、わが国でも1990年代位から地道に研究と政策応用の可能性の模索が続けられてきた。
また既に、欧州各国ではHTAの資源配分への政策応用の歴史も長く、課題や解決法はかなり学問的に整理されている。わが国では、HTAの具体的な政策応用(「費用対効果評価」と呼ばれるHTAの一部の応用ではあるが)の試行が2016年4月より既に開始されている。
本稿では、このような、あまり報道されない歴史的・学術的な背景や枠組みを、医療経済評価、生命倫理、臨床疫学など社会医学に必ずしも精通していない医療専門家を対象に概説したい。本稿が、わが国の医療制度改革を考える道標のひとつになると幸いである。
Copyright © 2017, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.