INTENSIVIST 8巻1号 (2016年1月)

特集 心臓血管外科 後編

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「手術は手でなく頭でやる」とはよく言われることであるが,心臓血管手術はまさにその真髄であろう。

 例えば全弓部大動脈置換術は,手技としては太い血管を5か所吻合するだけの単純作業であるが,体外循環による全身臓器の灌流,循環停止による臓器障害,冷却や復温のタイミング,脳保護,心筋保護,視野展開などについて同時に考えながら行うわけである。同手術は施設や術者によって手術時間に大きな差が出るが,それを決めるのは血管吻合の速さではなく(質は止血時間にかかわるため重要だが),思考の速さ(よく考えられた効率的な手順や瞬時の判断力)である。もちろん術者以外の要素も大きく,助手,麻酔科医,臨床工学技士,看護師にも同様の思考が求められる。

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かつて手術室で毎日息をするかのごとく成人心臓麻酔を行い,この10年はICUで毎日息をするかのごとく開心術術後ICU患者を診つづけ,多くの方から多くのことを教わった。もちろん,自分の直属の上司である麻酔科の諸先生方から教わったことも多いが,心臓外科医,循環器内科医,臨床工学技士,看護師などの心臓外科周術期チームの各メンバーに教えていただいたことも劣らず多いように思う。

 心臓麻酔のトレーニング中には,臨床工学技士から人工心肺をはじめとする各種の循環補助装置の使い方について教えていただいただけでなく,こちらの循環管理の未熟さゆえにハラハラさせたこともあったように思う。もちろん,看護師からも多くを学び,鍛えられた。ICUに入室した腹部大動脈瘤破裂患者の救命を願って,半ば強引に手術室に連れて行こうとしたら,主任看護師に「まだ家族がお会いしてない。一目お会いさせて」と一喝されたり,術後患者をICUに連れていくと「ちょっとマスイカー,ラインの整理なってないし血がついているし,どうにかして」と部屋中に聞こえる声でご指導いただき,一言も言い返せない経験もした*1。循環器内科や心臓外科ばかりでなく,あらゆる科の重症患者が入室する1つの集中治療室があり,そこに手術室や心臓カテーテル検査室が直結し,循環器内科の先生方にも気軽に相談できる環境で育った。心エコー図検査や心臓カテーテル検査などの評価法から重症心不全や不整脈の診療・管理まで,急性期しか知らない麻酔科医や集中治療医には思いもつかない専門家ならではの考え方を惜しみなく教えていただいた。

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19世紀の中頃,Florence Nightingaleらによって,病院ごとの死亡率の違いや,患者背景によるアウトカムの違いなどに対する観察が始まった。これが,患者の重症度に対するリスク評価の始まりとされている1)

 手術リスクは術式・手術手技および患者の背景により,さまざまである。心臓血管外科領域の手術は手術侵襲が高く,手術手技自体にもリスクを伴うため,術前のリスク評価が重要であるのは言うまでもない。心臓血管外科手術の最大の特徴は,術中に心停止を要し,その間の臓器灌流を人工心肺に委ねなければならないことにある。体外循環による身体への侵襲として,細胞外液のシフト,全身ヘパリン化に伴う凝固能の異常,肺への影響,大動脈への操作による脳をはじめとした重要臓器への塞栓症のリスク,心停止による心機能への影響,さらには低体温循環停止を要する場合の諸臓器への影響などがある。これらを考慮すると,心臓血管外科手術の術前の全身状態の評価は,通常の全身麻酔手術の術前評価にも増して厳重に行う必要がある。また,動脈硬化に伴う疾患を対象にすることが多いため,必然的に術前から他の併存疾患を有した高齢者が多い。故に手術侵襲が全身の各臓器へ及ぼす影響と,それらに対する各臓器の予備能を術前に客観的に評価することが重要である。

 さらに近年では,心臓血管外科領域においても,手術の低侵襲化は避けられない潮流となっており,経カテーテル的大動脈弁置換術transcatheter aortic valve replacement(TAVR)や胸部ステントグラフト内挿術といった術式が広範に普及している。そのため,従来の直達手術でのアプローチには適していない患者を術前に選別することは,以前に増して重要性を帯びてきている。

 本稿では,心臓血管外科領域の手術に関して,人工心肺装置を使用する術式を前提としたうえで,その術前に行うべきリスク評価と術前管理について概説する。

Summary

●リスク解析モデルによる死亡率,合併症発生率の予測は手術適応の検討や,周術期管理に有用であるが,いずれのリスクスコアを用いても完全な予測はできず,心臓血管外科を取り巻く環境の変化に合わせたアップデートが必要である。

●各種リスクスコアに含まれてはいないが,身体的・精神・社会的機能も術前に評価すべき重要な事項であり,これらの因子は別個に評価をして,リスクスコアと合わせて手術リスクの評価を行う必要がある。

●心臓外科手術患者の術前管理として,抗凝固薬の変更・中止の判断,凝固・線溶系の是正,心不全の管理,歯科治療,血糖コントロールなど多岐にわたるため,チェックリストを用いた全身のスクリーニングが有用である。

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心臓血管外科手術の術後転帰を決める主な要素は,“術前危険因子”“術中管理”“ICUでの術後管理”である1,2)。なかでも“ICUでの術後管理”の成否は非常に重要で,冠動脈バイパス術coronary artery bypass grafting(CABG)の周術期死亡の多くが術後管理のトラブルとの関連を指摘されている3)。このように,心臓血管手術の転帰に大きくかかわる術後管理だが,それには,“術前心機能の把握”“循環生理の知識”“人工心肺により引き起こされる生体反応の理解”をもとにした循環管理が不可欠である。

 循環を支える心臓のパフォーマンスは,“心機能(収縮能,拡張能)”“前負荷”“後負荷”で規定されており,これらをコントロールすることが肝心であるが,なかでも“前負荷”のコントロール(≒適切な輸液管理)は最も重要なミッションといえる。

 そもそも,生体にとって許容できる循環血漿量はピンポイントの“点”としてではなく,ある“範囲”として存在し,その“範囲”を逸脱した循環血漿量不足hypovolemiaは低心拍出量による臓器不全をきたし,その“範囲”を逸脱した循環血漿量過多hypervolemiaはうっ血による臓器不全をきたす。そのため輸液管理を行ううえでは,このような最低限維持すべき“範囲”をイメージすることが肝心である。心臓血管手術後の輸液管理の難しさは,心機能の良し悪し,人工心肺使用の有無,術後の時間経過などにより,このイメージすべき“範囲”がダイナミックに変化するところにある。

 本稿が心臓血管手術後の輸液管理に立ち向かう一助となれば幸いである。

Summary

●輸液管理の目標は「左室の前負荷(=LVEDV)を“適切な範囲”にコントロールし,主要臓器の酸素需給バランスを保つこと」である。

●血行動態変化と体液シフトがダイナミックに起こる心臓血管外科の周術期には,適切な輸液管理が欠かせない。

●心臓血管外科手術後の適切な輸液管理には,循環生理の理解と人工心肺により引き起こされる生体反応の理解が欠かせない。

●“Frank-Starling曲線”と“圧-容積関係”,さらには,時間経過を意識した輸液管理を心掛けよう。

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心臓血管外科手術の多くは,体外循環・心停止,低体温といった非生理的な環境を必要とし,生体への侵襲が大きい。また,心内操作を必要とするため,手術操作によって解剖学的電気伝導路を“物理的に”障害する場合もある。さらに,術中術後を通して心筋浮腫,血圧変化,電解質異常,内因性/外因性カテコールアミン変動,低体温,再灌流障害といった複合的要因が重なり,術後不整脈postoperative arrhythmia(POA)が生じる。心外膜ペーシングの主な目的は,POAに対するバックアップである。術後に生じ得る不整脈は多岐にわたるが,特に徐脈性不整脈(房室ブロック,洞不全症候群,洞性徐脈など)に対して心外膜ペーシングが有効である。

 本稿は,心臓血管外科領域で使用する心外膜ペーシングについて,その留置・抜去方法や管理上の注意点,ペーシングモードの選択からトラブルシューティングに至るまでの包括的な理解を目的としている。

Summary

●心臓血管外科手術で使用する心外膜ペーシングには,特有の合併症や管理上の注意点がある。

●心外膜ペーシングは一時的な使用を前提としているため,ペーシング/センシング不全が生じる可能性を常に念頭において管理する。

●標準的な留置部位は右室前壁だが,心房や左室へ留置することで心拍出量が増加する可能性がある。

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ドレーン留置の目的は貯留した液体や空気を体外に排出することであるが,そこには①治療,②予防,③インフォメーションとしての役割がある。

①治療的ドレーン:体内にある血液や滲出液,空気などで正常な臓器機能が障害されている場合に,それらを体外に誘導するドレーンである。心タンポナーデに対する心囊ドレナージや気胸に対する胸腔ドレナージなどが当てはまる。

②予防的ドレーン:予測される血液や滲出液,空気などの貯留を防止するためのドレーンで,手術時に留置するドレーンが当てはまる。

③インフォメーションドレーン:術後体内で生じた出血やエアリーク,感染などの情報をすみやかに知るためのドレーンである。

 術中に挿入するドレーンは予防とインフォメーションの役割が主である。手術時は閉胸前にあらゆる部分の止血を確認するが,時には出血傾向などが原因で外科的に止血できない出血が残ることがある。また,心臓・胸部大血管手術では術後出血のリスクがある。心囊・前縦隔といった限局されたスペースに,ある一定以上の血液などが貯留すると心タンポナーデを生じる可能性があるため,ほぼ全例で心囊・前縦隔ドレーンを留置する。術中に胸膜が開放され,縦隔と胸腔が交通した場合には,胸腔内に血液や空気が入り込むため,胸腔ドレーンを留置する。

 また,術後に気胸や血胸,持続する胸水に対して治療的ドレーンを留置することがあるが,本稿では術中に留置するドレーンの管理について解説する。

Summary

●ドレーン留置には治療,予防,インフォメーションとしての役割がある。

●ドレーンは適切な位置に留置されないと,その役割が十分に果たされない。心臓・胸部大動脈手術時にはどういった腔が開放されるのか,また,ドレーンはどこを経由して留置されるか,その解剖学的な理解が必要である。

●ドレーン管理に伴うさまざまなトラブル例を熟知し,それを回避することが肝要である。

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心臓手術後の心停止は一定の頻度で起こり得るものであるが,他の場合の心停止と異なり,大量出血や心タンポナーデ,グラフト機能不全を含めた周術期心筋虚血,緊張性気胸,ペーシング不全などが原因であることがほとんどであり,早期の対応により蘇生できる可能性が十分にある病態である1,2)

 しかし,心臓手術後患者の胸骨圧迫は,胸郭内構造物および心血管縫合部の外傷リスクが高く,必要最小限にする必要がある2)ことや,盲目的なアドレナリン投与により,自己心拍再開後に重度の高血圧から大量出血する危険性がある3)ことなどから,通常の心肺蘇生cardiopulmonary resuscitation(CPR)のアルゴリズムと区別する必要がある。

 このような背景をふまえ,2009年に欧州心臓胸部外科学会(EACTS*1)が,心臓手術後に特化した蘇生ガイドライン(以下,EACTSガイドライン)2)を発表した。本稿では,日本の実情を考慮に入れながら,心臓手術後心停止のCPRについて考察する。

Summary

●心臓手術後心停止のCPRに関しては,他の場合のCPRと異なる対応が必要となる。

●VT/VFの場合,1分以内に除細動を行える場合は,胸骨圧迫を即座に行うべきではない。

●徐脈性不整脈から心停止となった場合,まずはペーシングを行う。

●ルーチンにアドレナリンの投与を行うべきではない。

●5分以内に蘇生しない場合は胸骨圧迫を行い,可能なかぎり早期に再開胸を検討する。VA ECMOの導入も選択肢の1つとして考慮する。

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我が国は世界的にみても透析療法の先進国であり,年々透析患者が増え,また高齢化している。それに応ずるように心臓血管外科手術を受ける透析患者も増加傾向にあるが,透析患者は一般の患者と比較し,腎臓以外にもさまざまな身体的,社会的問題を抱えている。

 本稿では,慢性透析患者の周術期管理について述べるが,透析患者の特殊性から世界標準といえる確立した術後管理についてはいまだ存在しないのが現状である。

Summary

●心臓血管外科手術を受ける慢性透析患者は増加している。

●慢性透析患者は心血管疾患を合併していることが多く,頭頸部をはじめとした全身の血管評価を行う必要がある。

●慢性透析患者の心臓血管外科手術後の死亡率は非透析患者と比較すると高く,また周術期に感染症や脳血管障害を合併することも多い。

●術後の透析では低心拍出量症候群に陥らないよう緩徐な除水を心がけ,ドライウェイトを早期に達成することにこだわらない。

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本稿では,心臓血管外科周術期に頻用される薬物について,現時点での文献的な背景を振り返ってみたい。代表的な薬物として,冠血管拡張薬(ジルチアゼム,硝酸薬,ニコランジル),フロセミド,カルペリチド,トルバプタンを取り上げる。多くの施設で“ルーチン”に使用されている薬物も多いのではないだろうか。ともすれば,投与していること自体で,あるいは投与後の反応のみに充足感を覚えがちなこれらの薬物について,いったいどの程度の文献的な根拠があるのであろうか。

Summary

●心臓外科術後に強く推奨できる薬物は存在しない。

●心臓外科術後においては,呼吸・血行動態の適正化が最重要課題であり,それぞれの薬物の薬理学的特性,長期・短期的なリスクベネフィットを総合的に判断しての使用が望まれる。

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本稿では,心臓外科周術期において使用されるシベレスタット,チオペンタール,ステロイドについての検討を行う。これらの薬物に関する動物実験や,ヒトにおける生化学的マーカーの改善をみた研究などは他の文献,成書を参照されたい。ここでは,実際に心臓外科周術期患者にどの程度の利益と害がもたらされるかについて,GRADE(Grades of Recommendation,Assessment,Development and Evaluation)システム1)に準じたシステマチックレビュー(SR)により検証を行う(メモ1)。

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平成26年度診療報酬改定の基本方針*1の重点課題「医療機関の機能分化・強化と連携,在宅医療の充実等」で,「急性期の患者の早期退院・転院や,ADL(日常生活動作)低下等の予防のため,早期からのリハビリテーションの実施や退院・転院支援の充実等も重要である」と,早期からのリハビリテーションの必要性が示されている。本稿では,我が国の現状をふまえ,心臓血管外科術後リハビリテーション(以下,術後リハビリテーション)の有用性,急性期と回復期の実際を示す。また,基礎疾患や術式により異なるポイントも合わせて記載する。

Summary

●心臓血管外科術後リハビリテーションの現状を考えると,早期からのリハビリテーションが必要で,歩行獲得遅延や歩行困難症例に力を注ぐべきである。

●心臓血管外科術後リハビリテーションの有用性は,術後早期歩行獲得,譫妄予防,運動耐容能改善,冠危険因子の是正,自律神経活性の改善,グラフト開存率の改善,QOLの改善,再入院率の減少および予後の改善と多岐にわたる。

●心臓血管外科術後リハビリテーションの急性期のアウトカムは術後の酸素化の改善,早期の歩行獲得であり,回復期・維持期の長期的なアウトカムは二次予防を含む疾病管理ができることである。

●運動療法には,主に有酸素運動,レジスタンストレーニング,インターバルトレーニングがあり,安全性と効果は証明されている。

●病態の改善を妨げたり,苦痛や精神的不安感を与えることなく,術後の回復過程を妨げずに,歩行獲得,ADL獲得による早期退院,さらに,生命予後を改善させることを目標とした包括的なチーム医療が重要である。

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心臓血管外科の予定手術患者の多くは「心臓血管手術を受けられるほど健康」であり,大半が順調な術後経過を示す。しかし,慢性透析患者や術前から心機能が低下した患者などの高リスク患者,さらに緊急に手術が必要になった患者では術後に状態が不安定になることは決してめずらしくない。心臓血管外科術後患者が重症になる原因は実は単純ではなく,血行動態的にも個人差が大きい。そのため「不安定な心臓血管外科術後患者の管理」においては,残念ながら無作為化比較試験などで証明されたエビデンスを用いる余地は少ない。そのかわり幅広い生理学的知識,術後合併症についての知識,そしてある程度の経験が重要となる。

 本稿の内容は,これらの知識と経験を持ち合わせた医師らによる「究極のエキスパートオピニオン」である複数の教科書1〜4)およびreview articleに書かれている内容をもとに,Mercy Hospital St. Louisの心臓血管外科ICUおよび東京ベイ・浦安市川医療センター(以下,当院)のICUでの経験を照らし合わせたうえで「不安定な心臓血管外科術後患者にどのように対応すればよいか」を実用的な内容としてまとめたものである。実臨床では心原性ショック,閉塞性ショック,血液分布異常性ショック,循環血液量減少性ショックという明確な分類ができないことはめずらしくない。“心原性ショック”以外の病態も心拍出量の減少による臓器障害を引き起こす原因となり得る。したがって,本稿では純粋な心原性ショックに分類されない病態も,心拍出量減少による臓器障害の鑑別に含めている。輸液の種類や昇圧薬の種類などの細かい内容ではなく,考え方の原則を中心に説明する。

Summary

●心臓血管外科術後に血液分布異常性ショックが一過性に生じることはめずらしくない。

●低心拍出量症候群(LOS)とは「低心拍出量によって低血圧または臓器不全が生じている状態」である。

●LOSは心拍出量を増加させることが治療の中心であり,心拍出量を増加させずに昇圧薬で「血管を締めて待つ」と臓器障害が進行する。

●LOSの原因には,心拍出量をサポートしていれば自然に改善するものと,早急に介入が必要なものがあり,鑑別が重要である。

●LOSの際またはショックの原因が不明な場合は,肺動脈カテーテルから有用な情報を得ることができる。

●臓器障害が進行する前に,すみやかにメカニカルサポートを開始することが重要である。

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我々が臨床的に遭遇する右心不全および肺高血圧症の多くは,左心不全に伴う二次的なものであり,両心不全の形でみられるのが通常である。左心不全を伴わない純粋な右心不全を引き起こす病態は,肺塞栓症や原発性肺高血圧症などの肺疾患や,右室梗塞や三尖弁閉鎖不全症などの右心系自体の問題,さらには先天性心疾患における心内シャントなど多岐にわたるが,どれも比較的まれである。本稿では,右心不全と肺高血圧症について,米国での知見をもとに解説する。

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術後不整脈は,開心術後最も頻度の高い合併症であり,不整脈の予防と治療は,周術期管理のなかで最も重要なものともいえる。最も代表的な術後心房細動postoperative atrial fibrillation(POAF)は,30〜60%1〜3)と高率に発症する。POAFは回復を遅らせるだけでなく,時には血行動態の破綻をきたし緊急対応を要する。また,脳梗塞などの重大な二次的合併症の引き金となり,さらに塞栓症予防の抗凝固療法は術後出血などの合併症を起こし得るため,臨床医に細やかな対応が求められるやっかいな合併症である。このPOAFに対しては,各学会がガイドラインを発表している。それらをベースに,患者の背景・病態を把握したうえでの,テーラーメイドな治療が必要である。

 また,Brigham and Women's Hospital(以下,当施設)のArankiら4)は,POAFは入院日数を延長し,入院費用を患者1人当たり10,000ドル以上増加させるとしている。不整脈は医療経済の視点からも重要な問題である。

Summary

●患者の高齢化により,術後不整脈の頻度も高くなっている。

●POAFは頻度も高く,他の合併症とのかかわりも強く,アウトカムの低下をきたす。

●血行動態の破綻をきたす術後不整脈には適切な緊急対応が必要であり,術後管理チームが精通していることが必須である。

●POAFガイドラインの根拠となる研究には非開心術のデータも用いられており,種々のバイアスが含まれる。よりPOAFにフォーカスを絞った研究と,最新ガイドラインの把握が今後必要である。

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心臓血管外科手術は,他分野の手術と比して出血量が多くなりやすい。その最大の原因は,ヘパリン投与による人工心肺cardiopulmonary bypass(CPB)の使用である。心臓血管外科手術成績は,黎明期から現在に至るまで著しい進歩を遂げたが,縦隔出血はいつの時代においても深刻かつ致命的な合併症であり,ひとたび再開胸のタイミングを逸した場合,患者にとって不可逆的ダメージとなる。本稿では,縦隔出血の頻度,出血を生じやすいタイミング,危険因子,診断,治療について,再開胸の適応とタイミングを含めて解説する。

Summary

●縦隔出血は一般的に数時間で減少するが,約1〜3%の患者では再開胸が必要となる。

●縦隔出血を生じやすいタイミング,危険因子を理解し,適切に評価,診断を行い,すみやかに治療方針を決定する。

●各施設で集中治療医,心臓血管外科医などのスタッフ間で,縦隔出血を生じた場合の対応についてあらかじめ話し合い,的確かつ迅速に対応できるようにしておく。

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心臓血管外科手術において,体外循環中には血液希釈に加え,凝固因子や血小板が減少,凝集能が低下し,血液と人工心肺回路との接触活性による炎症反応が惹起され,トロンビンが大量に産生される。さらにトロンビンは凝固系を活性化するのみならず,線溶系も活性化し,結果的に凝固線溶系全体を亢進する1)。線溶系亢進に伴って活性化プラスミンが増加する結果,凝固能低下をきたして術中・術後の止血に難渋したり,異常出血が起こることがある。本コラムでは心臓血管外科手術患者を中心に,各種止血薬(トラネキサム酸,カルバゾクロム,アプロチニン)のエビデンスについて述べる。

Summary

●トラネキサム酸は全身投与,局所投与ともに止血効果が報告されているが,体外循環前の投与にはさらなる検討を要する。全身投与における重篤な合併症として,痙攣が知られている。

●カルバゾクロムは50年以上用いられている止血薬だが,トラネキサム酸との併用の報告はあるものの,単独使用についてのエビデンスは乏しい。

●アプロチニンは炎症反応を抑制し,出血量を減少させることが報告されている。しかし,トラネキサム酸,ε-アミノカプロン酸と比較すると死亡率,腎機能障害発生率が高いとする研究もあり,さまざまな論争を引き起こしている薬物である。

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心臓手術後の縦隔炎(深部胸骨感染)は,頻度こそまれだが発症すれば致死的な合併症である。また,縦隔炎は遠隔生存率を低下させることが報告されている1〜4)。現時点で,縦隔炎に対する治療戦略に関する強固なエビデンスが存在しないため,個々の医師の判断で治療が進められているのが現状である。本稿では,縦隔炎の頻度,発生時期,危険因子,診断,治療に関する情報をアップデートし,最新のエビデンスを明示しつつ,内在する問題点を明らかにしたい。

Summary

●診断において最も重要な点は,縦隔炎を常に疑うことである。

●外科的処置の基本は感染組織の完全な除去であり,広範囲の郭清と徹底的な抗菌薬治療が必須である。

●持続灌流ドレナージ療法,VAC療法,大網充塡,筋皮弁充塡など,多くのオプションが存在するが,治療適応,開始時期などに明確な基準はない。

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心臓外科手術後の脳合併症は,脳卒中stroke,認知機能障害cognitive dysfunction,脳症encephalopathy(譫妄,痙攣,昏睡)に分類され,いずれの脳合併症も短期・長期転帰の悪化と関連する1〜4)。心臓外科手術の成績は飛躍的に向上し,高齢化社会にあってなお周術期死亡率は低下しているが,脳合併症,とりわけ脳梗塞は,手術の成功にもかかわらず長期間患者を苦しめ死亡リスクを3〜6倍に上昇させるという点で,依然として重要な問題である4,5)。これまで,脳合併症は主に人工心肺の使用や術操作によって発症するとされてきたが,人工心肺を使用しない冠動脈バイパス術off-pump coronary artery bypass grafting(off-pump CABG)が人工心肺を使用するon-pump CABGと比較して脳合併症率を低下させないことが複数のRCTで確認され6〜8),最近では患者側の危険因子評価とそれに基づく予防策の重要性がクローズアップされている。冒頭に示した脳合併症の3つの分類の境界は明確なものではなく,互いにそれぞれが一部オーバーラップするものだが,本稿ではこのうち脳卒中と認知機能障害に関する現在の知見について紹介したい。

Summary

●心臓外科手術後の脳合併症は,脳卒中,認知機能障害および脳症に分類される。

●症候性の脳梗塞の術後発症率はおおむね2〜5%であり,長期ADLの低下や死亡率上昇と関連するため,看過できない合併症である。

●脳梗塞の40〜50%は術中に,残りは術後に発症する。前者の主な機序は脳低灌流によるいわゆる分水嶺梗塞と多発微小塞栓であるが,後者には手術侵襲による過凝固状態や術後心房細動による心原性塞栓などが関与する。

●脳梗塞の危険因子として,高齢,術前の心房細動,脳梗塞の既往,末梢・内頸動脈病変,高血圧,緊急手術,中〜重症左室機能不全などが挙げられる。

●脳梗塞の予防には,術前評価による患者危険因子の抽出と,それに基づく総合的戦略を立てる必要がある。

●心臓外科手術後の認知機能低下は高い頻度でみられる合併症であり,年齢や脳血管障害の既往が危険因子とされるが,off-pump CABGとon-pump CABGで発症率に差はなく,詳細な発症機序は明らかでない。

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対麻痺は,脊髄両側の錐体路の障害により発生する下肢の運動障害である。脊髄前角細胞よりも上位の運動ニューロンの障害では痙性麻痺となり,下位運動ニューロンの障害では弛緩性麻痺となる。脊髄の虚血性障害では,一般に上位運動ニューロン障害が起こるが,この場合でも急性期には脊髄ショックのために弛緩性麻痺を呈する。術直後に弛緩性麻痺を認めた場合は前脊髄動脈症候群の他の症状〔外側脊髄視床路の障害による温痛覚障害(触覚,深部感覚は保たれる)や自律神経路の障害による神経因性膀胱,直腸障害〕を併発しているか否かが鑑別のポイントとなる。合併している場合には,弛緩性麻痺であっても,上位運動ニューロンの障害の可能性が高い。本稿では主に対麻痺に関して取り扱うが,運動障害以外の障害も合併することをご記憶いただきたい。

Summary

●低体温,遠位側灌流,脊髄ドレナージなどの対策により急性の対麻痺の発生率は減少してきている。

●一方で,遅発性対麻痺はむしろ増加傾向にあるとされ,発症機序の解明を含めた対策と治療が重要度を増している。

●脊髄動脈の循環に関するCollateral Network Conceptの登場に伴い,新たな治療戦略が登場してきている。

●脊髄ドレナージは最も広範に用いられている治療戦略であるが,合併症に対する対策が今後重要となる。

●ステロイドを含めて,虚血性対麻痺に対して有効性を証明された薬物は存在しない。

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胸腹部大動脈置換術後のオピオイドによる影響に関しては,モルヒネ投与によって対麻痺が発症した症例をWisconsin大学のAcherら1〜3)が経験し,その後,低用量のナロキソン持続投与(1μg/kg/hr)によって対麻痺の発生率が低下することを継続的に報告している。

 本コラムでは,周術期のオピオイド投与が脊髄虚血を誘発するのか,そうであるならばどのような機序を介しているのかについて解説する。

Summary

●胸腹部大動脈置換術後など,脊髄に短時間の虚血が生じたあとにオピオイドを使用すると,対麻痺を発症することがあり,この機序にはグルタミン酸-NMDA受容体系の関与が示唆されている。

●実験モデルでは,オピオイドによる脊髄虚血の誘発は,全身麻酔下に臨床使用量の2倍量までであれば発症しないとされている。

●外傷性の脊髄損傷では,オピオイドを急性期に使用すると運動機能改善の低下,神経因性疼痛の増悪が起こり,この機序にもNMDA受容体が関与することが示されている。

●麻薬誘発性対麻痺は,κ受容体作動薬では起こらないとされているが,外傷性,虚血性脊髄障害ではκ受容体作動薬が内因性オピオイドによる増悪機序に関与するとされている。

●麻薬誘発性対麻痺は特定の条件がそろった場合に発症する可能性があり,臨床使用に際しては配慮が必要である。

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頻度はまれであるが,しばしば救命が困難である非閉塞性腸間膜虚血non-occlusive mesenteric ischemia(NOMI)は,心臓血管手術後や透析患者に多いと言われている。発症機序に関しては,いまだ不明な点が多いものの,腸間膜の血管攣縮によって発症すると考えられている。特異的な症状・検査所見に乏しく,早期診断が非常に難しい。そのため,診断時にはすでに腸管壊死が進行し,多臓器不全をきたしていることがある。心臓血管手術の術後管理をされる読者の方々も,NOMIに直面し臍を噛む思いをされた方は少なくないと推察する。

 本稿では,NOMIの疫学,発症メカニズム,危険因子,診断と治療について解説し,早期診断,早期治療を目的とした治療プロトコルを提示する。

Summary

●心臓血管手術後の非閉塞性腸間膜虚血(NOMI)は,まれであるが診断や治療が難しい重篤な合併症である。

●NOMIは上腸間膜動脈の攣縮が主病態で,体外循環中の腸管の微小循環障害が関与すると考えられている。

●術前危険因子として高齢,慢性腎臓病,利尿薬の使用,術中因子として長時間手術,術後因子として大動脈内バルーンパンピング(IABP)の使用,赤血球輸血,再開胸止血,ノルアドレナリンの使用などが挙げられている。

●NOMIの特異的な所見は少ないが,血中乳酸レベルを手掛かりに総合的に判断し,疑った場合には積極的に腹部造影CT検査および血管造影検査を行う。

●治療は,血管拡張薬の持続動注療法を基本に,開腹手術を組み合わせ,血管造影や開腹術の反復(セカンドルック)に対する閾値を低くした,集学的な戦略が有用かもしれない。

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心臓手術後患者の高乳酸血症は,しばしば遭遇する合併症である。対応として,バイタルサインや術中のin/outバランス,術中術後の出血量,尿量,血行動態モニタリング数値を考慮に入れ,fluid challenge(輸液負荷試験)を第一に選択する場合が多いかもしれない。高乳酸血症は,患者のアウトカムと関連があるのか,あるとすればどのように関連するのか,また,それに介入を加えることに意義があるのだろうか。本稿では,まず一般的な高乳酸血症の発症機序や鑑別すべき病態を考えたのちに,心臓手術後の高乳酸血症の特徴について述べる。

Summary

●高乳酸血症は,組織低灌流による嫌気性代謝のみが原因ではない。ストレスに対する正常反応としての,好気性代謝でも起こり得る。

●一般的に高乳酸血症は予後不良と関連があるが,それは心臓手術後でも同様である。

●予定手術の場合,ICU入室時に高乳酸血症をきたしている症例や,入室6時間を超えて乳酸値が3mmol/Lを上回る症例の管理では,特に注意を要する。

●緊急手術はそれ自体がすでに高乳酸血症,死亡のリスクであることを認識する。

●遷延する高乳酸血症や急激な上昇を示す高乳酸血症患者では,積極的に腹部臓器の急性虚血性疾患や敗血症などの重大な病態を除外すべきである。

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日本は今,社会の急速な高齢化を迎えている。人口は次第に減少し,2026年には1億2000万を下回るが,65歳以上の高齢者は3600万を超す1)と予測されている。高齢化に伴い,高齢者の大動脈弁狭窄症(AS),冠動脈疾患などに対する手術も多くなっている。その場合,当然手術のリスクは高くなる。米国心臓協会(AHA*1)の周術期のガイドライン2)によれば,一般外科手術のリスクの層別化で1%以上のイベント(心筋梗塞や心血管死亡)予測率であれば高リスク群とされる。また,心臓血管外科手術では,Society of Thoracic Surgeons(STS)risk model*2,European System for Cardiac Operative Risk Evaluation(EuroSCORE)Ⅱ*3で死亡率1%以上は通常なら高リスク群と判定されるが,この高齢化社会ではこうした患者は少なくない。

 ASでは,高齢者でも手術が成功すれば,死亡率が低下する3)だけでなく生活の質(QOL)も改善する4)ことが報告されている。しかし,合併症として,脳梗塞や縦隔炎,非閉塞性腸間膜虚血(NOMI)といったことが生じれば,その後のICU滞在が長期にわたったり,身体機能,認知機能の高度な低下を伴ったりする可能性もある。重症合併症が生じ,生命予後だけでなく身体機能予後,認知機能予後が不良と予測されたとき,さらなる治療を差し控えたり,現在行っている治療を中断し苦痛除去のための治療を中心に行うか,または救命のための治療を継続するか,といった選択に迫られることがある。待機手術の合併症で終末医療の議論をすることは医師にとっても家族にとっても負担が大きい。

 本稿では,心臓手術後に重篤な合併症が生じ,予後が悪いと予測されたときの困難な意思決定をどのように行うか,縦隔炎による敗血症性ショックを伴った架空の症例をもとにそのプロセスを考える。さらに周術期におけるアドバンス・ケア・プランニングについても言及する。

Summary

●困難な意思決定を行うときは,倫理4原則,4 topics methodをもれなく吟味することが大切である。

●生命予後だけでなく,身体機能予後,認知機能予後,QOLへの影響を考えることが大切である。

●患者の価値観を十分理解することが常に大切である。

●特に高リスク患者の術前には,患者とアドバンス・ケア・プランニングを協議し,その結果をチーム全体がシェアすることが大切である。目的は患者の安心のためである。

連載 Lefor's Corner

第19回:Vasoactive Drugs Part VIII. Isoproterenol
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This ongoing series will provide the readership of Intensivist with an opportunity to read concise reviews of current topics in Critical Care Medicine, in English. It is hoped that these reviews will stimulate the pursuit of other literature written in English.

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ICUで何気なく使用している電気,医療ガス,空調。これらの設備は,もちろん,無限に使用できるわけではない。また,これらの設備にもICUで使用する高度な医療機器と同様に,安全を担保するシステムが備えられているのはご存知だろうか。日本集中治療医学会は,2002年3月に「集中治療部設置のための指針」,2004年3月には「CCU設置のための指針」を公表しており,それぞれの「設備」の項目には電源設備,空調設備,医療ガス,吸引設備,照明設備の基準が明記されている。今回はそのなかの医療ガスについて読み解いていく。

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基本情報

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INTENSIVIST
8巻1号 (2016年1月)
電子版ISSN:2186-7852 印刷版ISSN:1883-4833 メディカル・サイエンス・インターナショナル

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