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19世紀の中頃,Florence Nightingaleらによって,病院ごとの死亡率の違いや,患者背景によるアウトカムの違いなどに対する観察が始まった。これが,患者の重症度に対するリスク評価の始まりとされている1)。
手術リスクは術式・手術手技および患者の背景により,さまざまである。心臓血管外科領域の手術は手術侵襲が高く,手術手技自体にもリスクを伴うため,術前のリスク評価が重要であるのは言うまでもない。心臓血管外科手術の最大の特徴は,術中に心停止を要し,その間の臓器灌流を人工心肺に委ねなければならないことにある。体外循環による身体への侵襲として,細胞外液のシフト,全身ヘパリン化に伴う凝固能の異常,肺への影響,大動脈への操作による脳をはじめとした重要臓器への塞栓症のリスク,心停止による心機能への影響,さらには低体温循環停止を要する場合の諸臓器への影響などがある。これらを考慮すると,心臓血管外科手術の術前の全身状態の評価は,通常の全身麻酔手術の術前評価にも増して厳重に行う必要がある。また,動脈硬化に伴う疾患を対象にすることが多いため,必然的に術前から他の併存疾患を有した高齢者が多い。故に手術侵襲が全身の各臓器へ及ぼす影響と,それらに対する各臓器の予備能を術前に客観的に評価することが重要である。
さらに近年では,心臓血管外科領域においても,手術の低侵襲化は避けられない潮流となっており,経カテーテル的大動脈弁置換術transcatheter aortic valve replacement(TAVR)や胸部ステントグラフト内挿術といった術式が広範に普及している。そのため,従来の直達手術でのアプローチには適していない患者を術前に選別することは,以前に増して重要性を帯びてきている。
本稿では,心臓血管外科領域の手術に関して,人工心肺装置を使用する術式を前提としたうえで,その術前に行うべきリスク評価と術前管理について概説する。
Summary
●リスク解析モデルによる死亡率,合併症発生率の予測は手術適応の検討や,周術期管理に有用であるが,いずれのリスクスコアを用いても完全な予測はできず,心臓血管外科を取り巻く環境の変化に合わせたアップデートが必要である。
●各種リスクスコアに含まれてはいないが,身体的・精神・社会的機能も術前に評価すべき重要な事項であり,これらの因子は別個に評価をして,リスクスコアと合わせて手術リスクの評価を行う必要がある。
●心臓外科手術患者の術前管理として,抗凝固薬の変更・中止の判断,凝固・線溶系の是正,心不全の管理,歯科治療,血糖コントロールなど多岐にわたるため,チェックリストを用いた全身のスクリーニングが有用である。
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