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心臓血管外科手術の術後転帰を決める主な要素は,“術前危険因子”“術中管理”“ICUでの術後管理”である1,2)。なかでも“ICUでの術後管理”の成否は非常に重要で,冠動脈バイパス術coronary artery bypass grafting(CABG)の周術期死亡の多くが術後管理のトラブルとの関連を指摘されている3)。このように,心臓血管手術の転帰に大きくかかわる術後管理だが,それには,“術前心機能の把握”“循環生理の知識”“人工心肺により引き起こされる生体反応の理解”をもとにした循環管理が不可欠である。
循環を支える心臓のパフォーマンスは,“心機能(収縮能,拡張能)”“前負荷”“後負荷”で規定されており,これらをコントロールすることが肝心であるが,なかでも“前負荷”のコントロール(≒適切な輸液管理)は最も重要なミッションといえる。
そもそも,生体にとって許容できる循環血漿量はピンポイントの“点”としてではなく,ある“範囲”として存在し,その“範囲”を逸脱した循環血漿量不足hypovolemiaは低心拍出量による臓器不全をきたし,その“範囲”を逸脱した循環血漿量過多hypervolemiaはうっ血による臓器不全をきたす。そのため輸液管理を行ううえでは,このような最低限維持すべき“範囲”をイメージすることが肝心である。心臓血管手術後の輸液管理の難しさは,心機能の良し悪し,人工心肺使用の有無,術後の時間経過などにより,このイメージすべき“範囲”がダイナミックに変化するところにある。
本稿が心臓血管手術後の輸液管理に立ち向かう一助となれば幸いである。
Summary
●輸液管理の目標は「左室の前負荷(=LVEDV)を“適切な範囲”にコントロールし,主要臓器の酸素需給バランスを保つこと」である。
●血行動態変化と体液シフトがダイナミックに起こる心臓血管外科の周術期には,適切な輸液管理が欠かせない。
●心臓血管外科手術後の適切な輸液管理には,循環生理の理解と人工心肺により引き起こされる生体反応の理解が欠かせない。
●“Frank-Starling曲線”と“圧-容積関係”,さらには,時間経過を意識した輸液管理を心掛けよう。
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