- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
日本は今,社会の急速な高齢化を迎えている。人口は次第に減少し,2026年には1億2000万を下回るが,65歳以上の高齢者は3600万を超す1)と予測されている。高齢化に伴い,高齢者の大動脈弁狭窄症(AS),冠動脈疾患などに対する手術も多くなっている。その場合,当然手術のリスクは高くなる。米国心臓協会(AHA*1)の周術期のガイドライン2)によれば,一般外科手術のリスクの層別化で1%以上のイベント(心筋梗塞や心血管死亡)予測率であれば高リスク群とされる。また,心臓血管外科手術では,Society of Thoracic Surgeons(STS)risk model*2,European System for Cardiac Operative Risk Evaluation(EuroSCORE)Ⅱ*3で死亡率1%以上は通常なら高リスク群と判定されるが,この高齢化社会ではこうした患者は少なくない。
ASでは,高齢者でも手術が成功すれば,死亡率が低下する3)だけでなく生活の質(QOL)も改善する4)ことが報告されている。しかし,合併症として,脳梗塞や縦隔炎,非閉塞性腸間膜虚血(NOMI)といったことが生じれば,その後のICU滞在が長期にわたったり,身体機能,認知機能の高度な低下を伴ったりする可能性もある。重症合併症が生じ,生命予後だけでなく身体機能予後,認知機能予後が不良と予測されたとき,さらなる治療を差し控えたり,現在行っている治療を中断し苦痛除去のための治療を中心に行うか,または救命のための治療を継続するか,といった選択に迫られることがある。待機手術の合併症で終末医療の議論をすることは医師にとっても家族にとっても負担が大きい。
本稿では,心臓手術後に重篤な合併症が生じ,予後が悪いと予測されたときの困難な意思決定をどのように行うか,縦隔炎による敗血症性ショックを伴った架空の症例をもとにそのプロセスを考える。さらに周術期におけるアドバンス・ケア・プランニングについても言及する。
Summary
●困難な意思決定を行うときは,倫理4原則,4 topics methodをもれなく吟味することが大切である。
●生命予後だけでなく,身体機能予後,認知機能予後,QOLへの影響を考えることが大切である。
●患者の価値観を十分理解することが常に大切である。
●特に高リスク患者の術前には,患者とアドバンス・ケア・プランニングを協議し,その結果をチーム全体がシェアすることが大切である。目的は患者の安心のためである。
Copyright © 2016, MEDICAL SCIENCES INTERNATIONAL, LTD. All rights reserved.