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心臓外科手術後の脳合併症は,脳卒中stroke,認知機能障害cognitive dysfunction,脳症encephalopathy(譫妄,痙攣,昏睡)に分類され,いずれの脳合併症も短期・長期転帰の悪化と関連する1〜4)。心臓外科手術の成績は飛躍的に向上し,高齢化社会にあってなお周術期死亡率は低下しているが,脳合併症,とりわけ脳梗塞は,手術の成功にもかかわらず長期間患者を苦しめ死亡リスクを3〜6倍に上昇させるという点で,依然として重要な問題である4,5)。これまで,脳合併症は主に人工心肺の使用や術操作によって発症するとされてきたが,人工心肺を使用しない冠動脈バイパス術off-pump coronary artery bypass grafting(off-pump CABG)が人工心肺を使用するon-pump CABGと比較して脳合併症率を低下させないことが複数のRCTで確認され6〜8),最近では患者側の危険因子評価とそれに基づく予防策の重要性がクローズアップされている。冒頭に示した脳合併症の3つの分類の境界は明確なものではなく,互いにそれぞれが一部オーバーラップするものだが,本稿ではこのうち脳卒中と認知機能障害に関する現在の知見について紹介したい。
Summary
●心臓外科手術後の脳合併症は,脳卒中,認知機能障害および脳症に分類される。
●症候性の脳梗塞の術後発症率はおおむね2〜5%であり,長期ADLの低下や死亡率上昇と関連するため,看過できない合併症である。
●脳梗塞の40〜50%は術中に,残りは術後に発症する。前者の主な機序は脳低灌流によるいわゆる分水嶺梗塞と多発微小塞栓であるが,後者には手術侵襲による過凝固状態や術後心房細動による心原性塞栓などが関与する。
●脳梗塞の危険因子として,高齢,術前の心房細動,脳梗塞の既往,末梢・内頸動脈病変,高血圧,緊急手術,中〜重症左室機能不全などが挙げられる。
●脳梗塞の予防には,術前評価による患者危険因子の抽出と,それに基づく総合的戦略を立てる必要がある。
●心臓外科手術後の認知機能低下は高い頻度でみられる合併症であり,年齢や脳血管障害の既往が危険因子とされるが,off-pump CABGとon-pump CABGで発症率に差はなく,詳細な発症機序は明らかでない。
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