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心臓血管外科の予定手術患者の多くは「心臓血管手術を受けられるほど健康」であり,大半が順調な術後経過を示す。しかし,慢性透析患者や術前から心機能が低下した患者などの高リスク患者,さらに緊急に手術が必要になった患者では術後に状態が不安定になることは決してめずらしくない。心臓血管外科術後患者が重症になる原因は実は単純ではなく,血行動態的にも個人差が大きい。そのため「不安定な心臓血管外科術後患者の管理」においては,残念ながら無作為化比較試験などで証明されたエビデンスを用いる余地は少ない。そのかわり幅広い生理学的知識,術後合併症についての知識,そしてある程度の経験が重要となる。
本稿の内容は,これらの知識と経験を持ち合わせた医師らによる「究極のエキスパートオピニオン」である複数の教科書1〜4)およびreview articleに書かれている内容をもとに,Mercy Hospital St. Louisの心臓血管外科ICUおよび東京ベイ・浦安市川医療センター(以下,当院)のICUでの経験を照らし合わせたうえで「不安定な心臓血管外科術後患者にどのように対応すればよいか」を実用的な内容としてまとめたものである。実臨床では心原性ショック,閉塞性ショック,血液分布異常性ショック,循環血液量減少性ショックという明確な分類ができないことはめずらしくない。“心原性ショック”以外の病態も心拍出量の減少による臓器障害を引き起こす原因となり得る。したがって,本稿では純粋な心原性ショックに分類されない病態も,心拍出量減少による臓器障害の鑑別に含めている。輸液の種類や昇圧薬の種類などの細かい内容ではなく,考え方の原則を中心に説明する。
Summary
●心臓血管外科術後に血液分布異常性ショックが一過性に生じることはめずらしくない。
●低心拍出量症候群(LOS)とは「低心拍出量によって低血圧または臓器不全が生じている状態」である。
●LOSは心拍出量を増加させることが治療の中心であり,心拍出量を増加させずに昇圧薬で「血管を締めて待つ」と臓器障害が進行する。
●LOSの原因には,心拍出量をサポートしていれば自然に改善するものと,早急に介入が必要なものがあり,鑑別が重要である。
●LOSの際またはショックの原因が不明な場合は,肺動脈カテーテルから有用な情報を得ることができる。
●臓器障害が進行する前に,すみやかにメカニカルサポートを開始することが重要である。
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