耳鼻咽喉科・頭頸部外科 87巻5号 (2015年4月)

増刊号 こんなときの対応法がわかる 耳鼻咽喉科手術ガイド

序文 小川 郁
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 耳鼻咽喉科・頭頸部外科が「命と機能を守る外科」と称されるように,耳鼻咽喉科を目ざす研修医・専修医,そして若手耳鼻咽喉科専門医にとって耳鼻咽喉科手術は診療の基本であり,その繊細で多彩な手術手技をマスターすることは大きな目標です。誰もが憧れのスペシャリストの手術手技にいかに近づき,いかに追い越すかを目ざして日々研鑽を積んでいます。耳鼻咽喉科・頭頸部外科では,耳,鼻,口腔・咽頭,喉頭,気管・食道などに加えて頭蓋底から縦隔に至る頭頸部全般を守備範囲としていますが,これらの広く複雑な臓器を対象とする耳鼻咽喉科手術の醍醐味は,マクロでダイナミックな手術から内視鏡を応用しロボット手術にもつながるハイテク手術,米粒に文字を書くようなきわめて繊細で緻密な顕微鏡手術まで,多くのモダリティを駆使した多彩な手術手技を要することです。このような繊細で多彩な手術手技をマスターすることは容易なことではなく,すべての手術のスペシャリストから指導を受ける機会に恵まれた若手耳鼻咽喉科医も多くはないと思います。このため,これまでも多くの耳鼻咽喉科手術書が出版され,スペシャリストの代役を担ってきました。

 このたび,「耳鼻咽喉科・頭頸部外科」の増刊号として「こんなときの対応法がわかる 耳鼻咽喉科手術ガイド」を企画し,各耳鼻咽喉科手術のスペシャリストに執筆をお願いしました。本企画ではこれまでの一般的な耳鼻咽喉科手術書とは異なり,経験豊かなスペシャリストの手術のコツが学べるように,「こんなときの対応法」として代表的な症例を呈示していただき,その症例における問題点をポイントとして挙げて,豊富な経験に基づいたスペシャリストとしての対応法を解説していただくという構成にしました。まさに手術に際して困ったときや迷ったとき,予期せぬ対応が求められたときにも活用できるすばらしい手術ガイドになったと思います。

Ⅰ.耳の手術

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はじめに

 胎生期に第1鰓弓後縁と第2鰓弓前縁に3つずつ,計6個の耳介結節ができ,これらが融合して耳介ができる。先天性耳瘻孔はこれら耳介結節の癒合不全により耳介周囲に生じる先天性の瘻孔1)であり,その発生頻度は日本では1%弱から10%とされる。患者自身その存在に気づいていないことも多く,感染により腫脹,疼痛を認めて初めて気づくこともしばしばである。日常診療では比較的遭遇することの多い疾患である。一般に耳瘻孔摘出術は感染を繰り返す場合に行われ,小児症例が多いが,本稿では成人症例を呈示し,その手術の要点を述べる。

鼓膜形成術 田中 康広
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症例呈示

 12歳,女児。幼少期から耳漏を反復しており,右耳の難聴を訴えて近医を受診した。右慢性中耳炎の診断にて,手術目的で当院へ紹介となった。

 初診時の純音聴力検査では低音部を中心とした伝音難聴を認め,気骨導差は全域にわたり20〜30dB程度であった。外耳道の屈曲が強いため,拡大耳鏡および顕微鏡下では鼓膜の所見がほとんど取れなかった。内視鏡を用いた観察では,辛うじて鼓膜に独立した2つの小穿孔と穿孔周囲の著明な石灰化を認めたが,外耳道前壁の張り出しが強いため鼓膜の前下方が明視下に確認できなかった(図1,2)。

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はじめに

 ここでは慢性中耳炎に対する鼓室形成術の手術手技について解説する。どのような症例に対しても鼓膜輪を全周しっかり出せる技術を身につける必要がある。慢性中耳炎の患者さんは,耳漏や難聴で困っていることが多い。また,慢性炎症が続くことで,内耳障害や真珠腫の形成といったさらなる後遺症が生じる危険性もある。患者さんが術後に順調に回復し,楽しく生活している姿を見ることができれば,術者としても大変喜ばしく,また励みになる。

 注意すべき症例は,外耳道が狭い症例,術後耳,骨化例などオリエンテーションのつきにくい症例,小児例,良聴耳例である。このような難易度の高い症例や責任をもって行うべき症例は耳科手術の熟練医が行うべきである。本稿が診療の一助になれば幸いである。

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症例呈示

 37歳,男性,両側の弛緩部型中耳真珠腫の症例。6か月前に難聴の強い左側に一期的に外耳道保存型鼓室形成術(Ⅲi-M)を行った。経過は良好で,今回,右耳の手術目的で入院した。

 右鼓膜所見で,陥凹した弛緩部にデブリが貯留,後上部には白色の真珠腫塊が透見できた(図1)。左側は術後耳で,薄切軟骨で形成したscutumに陥凹はない。オージオグラムでは,右側により強い伝音難聴を認めた。側頭骨CTで右側には,上鼓室,乳突洞,鼓室洞に軟部陰影があり,ツチ・キヌタ骨の破壊像と周囲の石灰化を認めた。半規管瘻孔はなく,耳管から中鼓室まではよく含気していた。

中耳根本手術 白馬 伸洋
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症例呈示

 数年前から両側難聴,特に左耳はほとんど聴こえず,断続的な耳漏も伴っていたが,放置していた。2011年3月末から左耳周囲の痛みが出現し,同年4月初旬より左顔面神経麻痺をきたして前医を受診した。前医では顔面神経スコア(柳原法)は20/40点であった。抗菌薬,ステロイド点滴加療が行われて麻痺は改善傾向にあったが,精査加療目的で4月中旬に当科紹介となった。

 当科受診時,外耳道の腫脹が著明で(図1a),側頭骨CT検査(図2a)では,広範な外耳道骨の破壊,顔面神経の露出,外側半規管に瘻孔を伴う広範囲の陰影を認めた。聴力検査(図3a)では右中等度混合難聴,左高度感音難聴であったが,めまいなどの前庭症状や病的眼振の所見は認められなかった。翌日,左中耳根治術を施行した。

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症例呈示

症例1

患者:50歳,男性

主訴:右難聴

耳硬化症に対する手術 山本 裕
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はじめに

 耳硬化症に対するアブミ骨手術は確立された比較的定型的な手術であり,術後聴力成績も安定している。しかし,純粋な機能改善手術であるため,手術によって聴力低下を生じたり,副損傷による合併症が発生した場合は,非常に深刻な事態となる。そのため術者は慎重を期すあまり,術中に手が止まってしまうことも多い。本稿では,耳硬化症に対するアブミ骨手術の術中に遭遇する困った事態のうち,比較的頻度が高いものを想定し,対処策について考察する。

内リンパ囊に対する手術 北原 糺
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症例呈示

患者:46歳,女性

主訴:繰り返す回転性めまい,右耳鳴,右難聴

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はじめに

 ベル麻痺,ハント症候群患者の10〜40%は保存的治療のみでは予後不良となるため顔面神経減荷術が検討される1)。しかしながら,換言すれば,1施設で行う手術数にはおのずから上限があり,若手・中堅医師が手術技量を磨くには限界も予想される。本稿では,当科で年間15〜20例程度行う減荷術症例のなかから中堅術者である筆者が術中に悩んだ症例を中心に,共著者とともに解説を加える。

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症例呈示

症例:56歳,女性

主訴:左外耳道掻痒感

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症例呈示

症例:17歳,男性

主訴:左進行性難聴

人工内耳手術 南 修司郎
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症例呈示

症例1:common cavity

 新生児聴覚スクリーニングreferにて発見された先天性難聴の男児。ABRなどの精査にて両側重度難聴であり,側頭骨CTで内耳奇形(両側common cavity:CC)と診断された(図1)。生後4か月より補聴器装用を開始したが,補聴器装用効果は不良であった。1歳10か月で右人工内耳埋込手術,4歳8か月で左人工内耳埋込手術を行った。

Ⅱ.鼻副鼻腔の手術

鼻出血に対する手術 鈴木 元彦
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症例呈示

患者:63歳,男性

現病歴:2010年3月下旬,数日前よりの右鼻出血にてA総合病院を受診,出血点は不明であったが,ガーゼ挿入にて止血した。2日後に再度右鼻出血を認め,B総合病院を受診しガーゼ挿入にて止血した。

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症例呈示

 26歳,女性。配偶者に右眼部を蹴られて受傷。眼瞼腫脹と眼球運動障害を主訴に来院。視力の低下はなく,Hessチャートでも右眼球運動の著しい制限と反対側の過剰運動がみられた。右方視,上方視で複視および眼球運動時の眼部疼痛を認めた。CT上,眼窩底と眼窩内側板に一部骨折があり,眼窩内組織の逸脱を認めた(図1)。

鼻中隔矯正術 坂本 達則
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症例呈示

症例1

 66歳,男性(図1)。慢性的な鼻閉,後鼻漏。

 鼻内所見では左鼻腔前下方で目立つ骨棘を伴う鼻中隔彎曲症がみられ,CTでは上顎骨鼻稜のうち左側が左鼻腔に突出しており,上に乗る鼻中隔軟骨が左に半脱臼していると予想された。

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症例呈示

症例:16歳,男性

主訴:水様性鼻漏

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症例呈示

 症例は48歳,男性。他院呼吸器内科医より,抗ヒスタミン薬無効のアレルギー性鼻炎に対する治療目的で紹介された。気管支喘息にて吸入ステロイド薬で治療中で,ロキソニン®で喘息発作をきたした既往があった。

 鼻内所見は両側とも鼻茸で充満しており,CT所見では汎副鼻腔炎を認めた(図1)。血液検査でダニ特異的IgE抗体が陽性であったが,鼻閉と嗅覚障害が主たる鼻症状で,アスピリン喘息に伴う慢性好酸球性副鼻腔炎と診断した。

囊胞に対する手術 近藤 健二
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症例呈示

症例1

 76歳,男性。左の頬部痛あり,術後性上顎囊胞の診断で当院へ紹介となった。20歳ごろに両側のCaldwell-Luc(C-L)手術を受けている。内視鏡による鼻内の観察では左の下鼻道側壁の膨隆を認め,鼻副鼻腔の単純CT写真では左の上顎に径約3cmの囊胞と思われる陰影を認めた(図1a,b)。囊胞を内視鏡下に下鼻道に開窓した。術後1年で開窓部は維持されている(図2)。

内視鏡下鼻内頭蓋底手術 田中 秀峰
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はじめに

 内視鏡の画質改善とバーなどの鼻内視鏡器具の目覚ましい改良により,内視鏡下鼻内頭蓋底手術の適応は,トルコ鞍内から外に出て適応を広げている。それに伴い,ワーキングスペース確保のために行う鼻副鼻腔への操作は,より広範で複雑なものとなりつつある。そのようななかでも,鼻副鼻腔の構造と機能の温存をどこまで維持しながら,内視鏡下鼻内頭蓋底手術の適応拡大に応じて,より良い視野と術野を提供できるかは,熟練した耳鼻咽喉科医の腕を発揮する部分である。その意味でも,内視鏡下鼻内頭蓋底手術を耳鼻咽喉科医と脳神経外科医が協力して行うメリットがあると考えられる(図1)。

 適応拡大に伴う鼻副鼻腔内の操作法について,4症例を提示して解説する。

視神経管開放術 児玉 悟
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はじめに

 視神経管開放術(減圧術)の適応症例は,顔面・頭部外傷による視神経管への介達性外傷性視神経障害,視神経管骨折や損傷,それに伴う視神経浮腫,さらに腫瘍や囊胞などにより視神経が圧迫され,視力障害をきたした場合などが主な適応になり,視神経管骨壁の一部を除去することで,骨折片による圧迫あるいは出血や浮腫,腫瘍による神経の圧迫を軽減させ,視機能の改善を図る手術である1)。視神経管へのアプローチ方法としては脳外科的な開頭による経頭蓋内法もあるが,内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)の発展により,最近では経鼻内視鏡下に行われることが一般的となってきた。しかし,実際に内視鏡下視神経管開放術を行ったことのある術者はそれほど多くないと思われる。

 本稿では鼻性視神経症・視神経炎症例を呈示し,視神経管開放術の手技と注意点について述べる。

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症例呈示

 症例は,32歳,女性。右鼻閉を主訴に近医の耳鼻咽喉科を受診し,右鼻茸の診断にて,外来でポリープ切除を受けた。病理診断にて内反性乳頭腫の診断となり,当科へ紹介となった。画像所見は,単純CTにて右上顎洞内に陰影を認めた(図1)。当科での右鼻腔の内視鏡所見では,右中鼻道に腫瘍の遺残を認めた(図2)。また造影MRIでは,右上顎洞に充満する腫瘍陰影が存在し,腫瘍茎は上顎洞の内側壁寄りを予想させた(図3)。

Ⅲ.口腔咽頭・唾液腺の手術

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症例呈示

 38歳,男性。1年前からの右口腔底の腫脹があり,横浜市立大学附属市民総合医療センターを受診した。

 口腔底に遍在性の暗青色を帯びた囊胞があり,MRIにて内部均一な単房性囊胞性腫瘤を認めた(図1)。

唾石に対する手術 松延 毅
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はじめに

 唾石症は耳鼻咽喉科医が日常臨床で遭遇する機会の多い疾患である。唾石は管内の異物,脱落上皮,細菌構成などが核となり,主としてリン酸カルシウム,シュウ酸カルシウムあるいは炭酸カルシウムが沈着して形成される。その9割以上は顎下腺にみられ,稀に耳下腺にできるといわれている。最新の欧米の報告では耳下腺唾石の割合はもっと高く,30〜40%に上るとされる。唾石は唾液の流出を妨げ,唾液疝痛と呼ばれる食事時の疼痛や腫脹などを引き起こすため,これらの症状が反復する場合,治療の対象となる。

 従来より顎下腺唾石,特に移行部唾石については頸部外切開による顎下腺摘出となるケースもみられるが,頸部に瘢痕を残しうることや顔面神経下顎縁枝の麻痺などの後遺症が問題となりうる。また,舌神経損傷による舌の感覚障害,舌下神経損傷による舌運動麻痺,顔面動・静脈損傷による出血・血腫形成などが起こりうる。

耳下腺浅葉切除術 冨田 俊樹
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症例呈示

 症例は72歳,女性。主訴は左耳下部腫瘤であった。約5年前から左耳下部の腫瘤に気付くも放置していた。徐々に増大したため近医を受診し,耳下腺腫瘍を疑われたため当科を紹介された。自発痛や圧痛は認めなかった。触診すると腫瘍は弾性硬で,辺縁は整,可動性はやや不良であった。

 MRIでは左耳下腺にT1強調画像で低信号,T2強調画像で不均一な高信号を呈する,境界鮮明な腫瘤性病変を認めた(図1)。下顎後静脈は偏位していなかった。エコーでは左耳下腺内に境界明瞭な低エコー病変を認め,深部では部分的に高信号を呈した(図2)。穿刺吸引細胞診では多形腺腫が疑われた。

耳下腺拡大全摘術 河田 了
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はじめに

 口腔癌,咽頭癌,喉頭癌などの頭頸部扁平上皮癌は比較的症例数が多く,それらの治療方針は部位別,病期別にほぼ確立されている。一方,耳下腺癌の場合,組織別,病期別の治療方針が確立されているとは言い難く,一定の方針で治療を行っている施設はむしろ少ないと思われる。耳下腺癌の特徴として,①症例数が少ないこと,②病理組織型が多彩で,それぞれの組織型が特徴的な腫瘍活性を有していること,③低悪性癌が少なくないこと,④術前の病理組織型診断が困難なこと,⑤耳下腺内に顔面神経が走行していること,が挙げられる1)。以上のような特殊性をもつ耳下腺癌であるが,治療の第一選択が手術であることには異論がない2)

 拡大切除という観点から考えてみたとき,組織型・悪性度の術前診断ができているのか,顔面神経温存あるいは切除についてどう考えるのかという問題点がある。頭頸部扁平上皮癌のように単にステージだけで方針が決定できないことが難しい点である。

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症例呈示

症例1

患者:33歳,女性(表1;症例61)

主訴:右頬部腫瘤

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症例呈示

患者:41歳,男性

主訴:左顎下部腫瘤

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症例呈示

症例1

患者:24歳,男性,身長/体重173cm/60kg

主訴・現病歴:いびきの騒音で家族が眠れないことが問題となり,他院で口腔内装置の治療など行ったが眠れず,当院を受診した。エプワース眠気尺度:5点

扁桃アデノイド手術 阪本 浩一
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はじめに

 扁桃アデノイド手術は耳鼻咽喉科医が最初に自ら実施することの多い手術である。しかし,必ずしも簡単な手術ではなく,後出血など重篤な副作用も報告されている。扁桃アデノイド手術は,主に小児の睡眠時無呼吸症候群や,慢性扁桃炎に対して行われることが多い。本稿では,口蓋扁桃摘出術,アデノイド切除術について,主として小児例について,適応,手術,術後管理の概要を当院で行っている方法を中心に解説する。

舌癌に対する手術 鬼塚 哲郎
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症例呈示

 44歳,男性の舌癌(扁平上皮癌),T2N0M0,舌痛が主訴であった。腫瘍は葉状乳頭にかかる後方にあり,MRIでは内向性,境界不整の腫瘍であった(図1,2)。

中咽頭がんに対する手術 菅澤 正
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はじめに

 中咽頭がんの治療体系は,近年大きく変化している。従来の手術主体の治療から,化学放射線療法(chemo-radio therapy:CRT)に移行しており,治療後の機能についてもその優位性が示唆されている1)。また,human papilloma virus(HPV)関与の中咽頭がんは増加しており,わが国でも50%に達している2)。HPV関与の中咽頭がんは治療によく反応することが知られており3,4),CRTが選択されることが多いが,非関与癌では当科のデータでもCRTによる制御率は有意に低く,手術治療は初回治療として一定の意義を有している。

Ⅳ.喉頭・下咽頭の手術

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症例呈示

 声帯ポリープは通常一側性に声帯膜様部に発生する。子どものポリープは稀であり,通常成人に発生し,明らかな男女差はない。ポリープの性状はバリエーションが多く,出血性(赤色),非出血性(白色),有茎性,広基性など多彩である。

 呈示症例は56歳,男性。職業は建築業,喫煙者で,疾患は右声帯ポリープである(図1)。もともと嗄声気味であったが,数か月来,悪化し改善しなくなったため受診した。声は主に粗造性嗄声であった。喉頭内視鏡検査で,右声帯に若干赤色調の広基性ポリープと,その前後に微小血管病変(拡張血管)を認めた。対側声帯にも微小血管病変が認められ,日常的な音声酷使や誤用が推定された。

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症例呈示

症例1:声帯内コラーゲン注入術(図1)

 37歳,男性。数年前から徐々に増悪する嗄声と音声疲労を主訴に受診した。内視鏡検査では声帯溝症の合併を認めたが,発声時声門閉鎖不全は軽度で,最長発声持続時間(MPT)は12秒,聴覚印象評価はG2R0B2A0S1,呼気流率は楽な発声(MFRc)で417.7mL/s,最長持続発声時(MFRm)で366.2mL/sであった。

 声帯ポリープの合併も認めたため,初回手術時には全身麻酔下にポリープ切除と同時に声帯内コラーゲン注入を行ったが,そのあとは外来にて4か月間隔で2回,さらに6か月,10か月の間隔で合計5回の注入を行った。2回目から5回目の注入直前のMPTは,それぞれ14秒,17.5秒,17秒,27秒と徐々に延長した。最終注入後4か月の時点でMPTは33秒,聴覚印象評価はG1R1B1A0S1,MFRcは376.3mL/s,MFRmは240.6mL/sと改善した。内視鏡検査でも発声時の声門閉鎖不全の著明な改善を認め,ストロボスコピーにて良好な粘膜波動を認めた。

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症例呈示

症例1

 53歳,女性。他院で甲状腺乳頭癌に対して甲状腺亜全摘術,頸部郭清術が施行され,左反回神経が合併切除されていた。術後に出現した嗄声は徐々に改善したものの,1年経過した時点でも声が割れたり,大きな声を出せず,日常生活で不自由を感じていたため受診。職業はなし(主婦)。

 初診時,左声帯は副正中位で固定し,膜様部の弓状変形が認められた(図1)。声の聴覚心理的評価はG1R1B1A0S0,最長発声持続時間(maximum phonation time:MPT)は8秒であり,自覚症状を示すVHI-10は28点(40点中)であった。甲状腺手術の際,術創部の違和感がつらかったとのことで外切開による手術を希望せず,喉頭微細手術下で腹部から採取した自家脂肪を左声帯に注入した。術後2か月で声質は安定し,1年後でもG0R0,MPT 19.2秒,VHI-10 9点と良好な状態が維持されている。

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症例呈示

症例:60歳,男性

主訴:高度の気息性嗄声,肺癌(化学放射線治療後)による左声帯麻痺

両側声帯麻痺:Ejnell法 原 浩貴
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症例呈示

症例:70代,女性

主訴:呼吸困難感,吸気性喘鳴

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症例呈示

患者:32歳,女性

主訴:声が出しづらい

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症例呈示

症例1

 73歳,男性,ワレンベルグ症候群

 1年前の左延髄梗塞の後遺症として嚥下障害と片麻痺があった。半年間,嚥下リハビリテーションを行ったが改善しないため,杖歩行で当科を受診した。初診時,左迷走神経の完全麻痺があり,経口摂取不能のため胃瘻栄養であった。嚥下造影検査で,左側の咽頭収縮不良と食道入口部の開大障害により,水分と半固形物の通過障害および誤嚥を認めた。左声帯は正中位固定であり,発声時の声門間隙はなかった。

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はじめに

 声門閉鎖術が適応となる症例は,重症誤嚥,繰り返す肺炎により栄養状態が著しく不良で条件の厳しい症例が少なくない。適応の拡大には,創部の治癒不良や易感染状態にも対応できる高い確実性と術後トラブルを最小限に留める術式や術後管理の工夫が求められる。

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症例呈示

症例:5歳,男児

現病歴:4日前から頸部痛,2日前から左頸部腫脹が出現したため,前医を受診した。CTで頸部膿瘍を疑われ,同日,当院へ紹介となった。入院のうえ,絶食および抗菌薬投与で経過をみていたが,翌日頸部腫脹が悪化したため全身麻酔下に頸部膿瘍開放術を施行した。臨床的に梨状陥凹瘻の感染が疑われたが,炎症による出血,癒着が強く瘻管の同定は困難で膿瘍の開放にとどめた。術後抗菌薬の投与により炎症は改善したため,第8病日に退院となった。1か月後に下咽頭食道透視検査およびCT(図1)を行い,左下咽頭梨状陥凹瘻と診断した。3か月後に喉頭鏡下に梨状陥凹瘻の確認および硝酸銀による化学焼灼術を施行した。合併症なく経過し術後4日目に退院した。その後,外来経過観察していたが,再び左頸部腫脹をきたし,甲状腺左葉切除を含む頸部外切開による瘻管摘出術を目的として入院となった。

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はじめに

 早期声門癌に対する治療には放射線治療と手術があり,治療成績は同等であるといわれている。しかし,あとに発症する可能性のある異時性重複頭頸部癌に対する治療選択肢を狭めないという点も考慮し,われわれは積極的に経口的手術を施行している。本稿では,早期声門癌に対してわれわれが行っている経口的レーザー声帯切除術(transoral laser microsurgery:TLM)について紹介する。

 本文に先立ち,声帯切除術の術式は,切除範囲により9つの型(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・Ⅴa・Ⅴb・Ⅴc・Ⅴd・Ⅵ)に分けるEuropean Laryngological Society(ELS)による分類が一般的である1,2)が,われわれが早期声門癌に対して通常行うものは,Ⅰ型(subepithelial cordectomy),Ⅱ型(subligamental cordectomy),Ⅲ型(transmuscular cordectomy)であることを知っておきたい3)。コンセプトは,レーザーによる蒸散ではなく切除であり,また,放射線治療を前提とした減量ではなく手術単独での完全切除を目ざすものである3〜5)

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症例呈示

 64歳,女性(図1〜3)。声門上癌(喉頭蓋喉頭面原発,T2N0M0)に対し,他院にて化学放射線療法施行(60Gy,TS-1併用)。1年後,同部位に再発を認め,喉頭温存の希望が強く当院へ紹介され受診となった。喉頭内視鏡にて喉頭蓋喉頭面に再発病変(図1a)を認めた。声門への進展はなく,声帯運動は両側正常,CTにて甲状軟骨,舌骨への明らかな浸潤は認めなかった(図1b,c)。頸部リンパ節転移も認めず,声門上癌rT2N0M0と診断した。

 外切開部分切除術などの選択肢も呈示したうえで,患者の同意を得て経口的咽喉頭部分切除術(transoral videolaryngoscopic surgery:TOVS)を施行した。喉頭蓋全摘を主体に右披裂喉頭蓋ヒダまで切除を行った(図2)。気管切開は行わず,術後5日目に嚥下造影を行い(図3b),経口摂取を再開,9日目には全粥摂取可能となった。創傷治癒は放射線照射の影響で遷延したが,術後半年程度で上皮化した(図3c)。追加治療は行わずに,現在(術後5年4か月)まで再発・転移などなく経過観察中である。

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症例呈示

 68歳,男性。喉頭癌(声門癌)rT2N0M0。喫煙は30〜40本/40年,機会飲酒のみ。職業は自営業である。

 前医にて5年前に声門癌T1aN0MOにて放射線治療70Gyを受けCR。2年前より経過観察が中断していた。禁煙はしていなかった。嗄声増悪があり前医を再診した。右声帯に腫瘤性病変を認め,生検にて扁平上皮癌再発と診断された。喉頭全摘を勧められ手術予定となっていたが,喉頭温存を希望して当科を紹介されて受診となった。造影CTでは声門下進展を認め,rT2と診断した(図1)。頸部リンパ節転移は認めなかった。胸部単純CTにて肺転移を認めなかったが肺気腫様であり,肺機能検査では軽度の閉塞性障害を認めた。心機能には問題はなかった。また,上部消化管内視鏡検査では多重癌は認めなかった。

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症例呈示

症例1

患者:41歳,女性。

現病歴:PS 0,舌骨下喉頭蓋原発の未治療扁平上皮癌の症例。内向発育型で喉頭蓋前間隙に浸潤するT3(図1)。

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症例呈示

 58歳,男性。3か月前から増悪する嗄声を自覚し,地域病院を受診した。右仮声帯〜声帯を占拠する腫瘍を認め,生検の結果,扁平上皮癌と診断された。声門癌の診断にて,化学放射線療法(放射線照射70Gy+白金製剤)が施行された。

 病状は一時軽快したが,治療後24か月目に嗄声が再燃し,声帯の固定が確認された。右仮声帯〜声帯の表面に明らかな腫瘍性変化は認められなかったが,症状が改善しないため,初回治療から26か月目に全身麻酔下で生検が行われ,癌の再発が確認された。救済喉頭全摘出術(以下,全摘と略す)が呈示されたが,喉頭機能を喪失したくないという患者の強い拒否があり,当科へ喉頭亜全摘出術施行の目的で紹介された。

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症例呈示

 症例は82歳の男性である。喉頭癌T2N0M0に対して4年前に化学放射線治療を受けた。いったん完治となったが,最近になって誤嚥性肺炎を繰り返すようになってきた。精査の結果,局所再発をきたしていることがわかった。腫瘍は喉頭内に限局しているが,声帯の動きは固定している。重度の糖尿病の既往がある。rT3N0M0と考えられる。

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症例呈示

 52歳,男性。3か月前から軽度の咽頭痛を自覚していた。他院で食思不振の精査目的で上部消化管内視鏡検査を施行したところ下咽頭に腫瘤を指摘され,当科へ紹介となった。初診時,右披裂部に表面不整な病変を認め,生検にて扁平上皮癌の診断であった。内視鏡上,通常光では,右披裂部に限局した表面不整な腫瘤を認めたが,narrow band imaging(NBI)での観察では披裂部の腫瘤に加え,喉頭内腔側と披裂部尾側に向けて異型血管を伴う扁平なbrownish areaが進展していた(図1)。なお,病変全体は直径2cmを越えていると思われたが,食道入口部には及んでいなかった。頸部MRI,頸部CT,頸部エコー,PET検査を行ったが,原発巣は画像上指摘できず,また頸部リンパ節転移,遠隔転移を疑わせる所見を認めなかった。以上より,下咽頭扁平上皮癌右梨状陥凹型cT2N0M0と診断した。

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症例呈示

 59歳,男性。下咽頭癌・輪状後部型T2N2bM0,Stage ⅣA。腫瘍は左披裂部〜PCを主座として左梨状陥凹,右披裂部に広がっていた。反回神経麻痺は認めなかった。また,左上・中深頸リンパ節に転移を認めた(図1)。既往歴として,食道癌にて54歳,55歳時に内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)を施行されている。喫煙歴は20本/35年,飲酒歴は2合×39年であった。

 職業は教師であるが,俳人でもあり俳句の指導をしている。そのため声は絶対に残したいという希望があった。またテレビ講師が予定されていたことから,外見が大事であることや長期間の入院生活は避けたいとの要望があった。

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はじめに

 下咽頭喉頭全摘出術は再建を要する手術のなかでは,剝離する層がわかりやすく温存すべき構造物が少ないので,手術手技としてはさほど難易度の高い術式ではないと思われる。しかし,腫瘍に適切な安全域をつけて切除し術後の合併症を回避するためにはさまざまな工夫や注意点があり,腫瘍の進展範囲や状況によっては術中に特別な対応が必要になる。通常の手術に加え細かな対応が必要な代表的なケースとして,以下のようなものがある。

①中咽頭進展

②頸部食道進展

③化学放射線療法(CRT)後のsalvage手術

④気管浸潤

⑤甲状腺浸潤

 今回は特に上記の①②を中心に症例を呈示しながら,手術の大きな流れではなく,実際の細かな手技について解説していく。

Ⅴ.頸部の手術

気管切開術 小川 真
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症例呈示

症例:74歳,女性

既往歴:5年前,他院にて甲状腺乳頭癌に対して甲状腺全摘手術および頸部郭清術が行われた。1年前に頸部に腫瘍が再発し,これに対して外照射による放射線治療が施行された。

甲状腺全摘出術 岡村 律子 , 杉谷 巌
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はじめに

 甲状腺全摘手術の対象は,良性では腺腫様甲状腺腫,バセドウ病などであり,悪性では甲状腺乳頭癌,濾胞癌,髄様癌,未分化癌などである。対象疾患の病状を理解したうえで適応を決め,ホルモン産生臓器である甲状腺の切除範囲を決める。術中は,特に反回神経の温存,副甲状腺の温存および上喉頭神経外枝の温存に注意して行う。

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症例呈示

 症例は46歳,男性。右咽頭の違和感を主訴に他院を受診し,中咽頭右側壁の膨隆を指摘された。MRIで副咽頭間隙腫瘍を認め,当院に紹介となった。既往に睡眠時無呼吸症候群があり,持続気道陽圧(CPAP)療法を施行中であった。

 初診時の咽頭所見,造影CT所見,MRI所見を図1に示す。咽頭右側の膨隆を認め,弾性硬の腫瘤を触知した。造影CTでは辺縁整で内部均一な造影効果を受けない腫瘤として描出され,MRIでT1強調低信号,T2強調高信号の腫瘤が茎突前隙に存在し,ごく一部が耳下腺と接してみえた。副咽頭の脂肪織の圧排方向ははっきりしなかった。冠状断ではおおむね円形だが一部紡錘状にもみえた。経口腔的に穿刺吸引細胞診を施行したが,検体不適正であった。

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はじめに

 頸動脈小体腫瘍は稀な疾患であり,病理組織学的に同じ傍神経節腫である褐色細胞腫に比べて,その実態解明は大幅に遅れている。傍神経節腫については最近の急激な研究の進展で,原因遺伝子としてSDH遺伝子ファミリーであるSDHA,SDHB,SDHC,SDHD遺伝子のほか,これまでに合計16種類の遺伝子に変異が発見されている。今後も遺伝子変異の解析が進めば,さらに多くの変異が見出される可能性があり,これだけ多くの遺伝子変異で同一の組織型の腫瘍が発生するのは,ほかに例がない。また,sporadicな腫瘍にも何らかの遺伝子変異が存在する可能性を示しており,傍神経節腫における遺伝子変異の解析は極めて重要である。また,少数ではあるが悪性例も含まれるため,発見したら摘出術を考慮すべき疾患である。

 その一方で,頸動脈小体腫瘍は非常に血管に富み,また総頸動脈〜内頸動脈〜外頸動脈の周囲を取り囲むように成長することから,他の腫瘍のような感覚で手術操作を行うと多量の出血を伴ったり,頸動脈壁の損傷を引き起こして,その合併切除や再建術を必要とする危険が高い腫瘍である。われわれは,これまでの経験から術前の栄養動脈の塞栓術の必要性を確認し,放射線IVR医と連携を図ることによって,極めて少量の出血量(10mL前後)でこの腫瘍を摘出できるようになった。症例を示しながら,頸動脈小体腫瘍の手術について解説する。

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症例呈示

 86歳,女性の舌癌症例である。原病巣は右舌縁に3.5×2cmの浸潤を伴う病変であった(画像上はT3であるが茎突舌筋への浸潤の可能性は否定できないのでR/O T4)。頸部についてはレベルⅡaに10.7×6.6×12.9mmのリンパ節を認めた(図1a)。PET(図1b)では淡い集積を認めたが,頸部超音波検査にてリンパ門の構造異常や占拠病変を認めず,転移陰性と判断した(図1c)。遠隔転移所見はなくT3N0M0 Stage Ⅲとした。高齢ではあるが,基礎疾患がなく病状認識および治療への意欲もあったので,腹直筋皮弁による再建を伴う根治切除術の適応とした。

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症例呈示

症 例:76歳,男性

現病歴:2014年8月頃より右頸部腫瘤を自覚し次第に増大したため,同年10月に前医を受診した。同年12月,当科へ紹介されて受診した。

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症例呈示

症例1

 80歳,男性,喉頭癌(transglottic,高分化扁平上皮癌,T4aN0M0)。

 生検にて扁平上皮癌と診断された。腫瘍は右声門部を主座として声門上部,対側声門部にも浸潤増殖していた。甲状軟骨破壊あり。術前診断で明らかな頸部リンパ節転移は認めなかった。この症例に対して喉頭全摘,両側の予防的頸部郭清(elective neck dissection:END)を行った。

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あとがき

基本情報

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耳鼻咽喉科・頭頸部外科
87巻5号 (2015年4月)
電子版ISSN:1882-1316 印刷版ISSN:0914-3491 医学書院

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