胃と腸 35巻3号 (2000年2月)

特集 消化管ポリポーシス2000

序説

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 はじめに

 本誌の編集会議で本号の序説の担当を割り当てられたとき,一度はお断りした.筆者は20年も消化管ポリポーシスの研究から離れているし,最新の考え方に立脚した立派な序説を書ける方がほかに多数おられると思ったからである.しかし,序説を依頼された理由が昔のfamilial polyposis of th ecolon(家族性大腸ポリポーシス;FPC)とGardner症候群(G症)との異同に関する研究過程を述べることにあると聞いて,何となく書けそうな気がしてお引き受けした.そして,本稿を書いている途中で,この面では牛尾恭輔先生の立派な論文(胃と腸28:1305-1321,1993)1)があることを想い出したがもはや遅かった.

 昔,この研究に参画した一員として当時の研究を振り返り,遺伝子解析の時代における消化管形態診断学の役割について考えてみたい.この序説が臨床研究,特に消化管の形態診断学に没頭している人たちの考え方の一助となれば幸いである.

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要旨 消化管ポリポーシスの日本における現状について,主な疾患を取り上げて概説した.若干の遺伝に関する用語の定義と,遺伝性疾患についての情報源を示した.治療においては個別化,低侵襲,機能温存,および長期追跡と支援の方向にある.ポリポーシスの診断と治療において日本の果たした役割が大きかったことが示された.しかし今後は出した結果が世界から直ちに評価を受けるような方向に研究を企画進展させることが望まれる.

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要旨 消化管ポリポーシスの中で,病変の病理組織像が腺腫性または過誤腫性を示す疾患には,遺伝性を示すものが多く,癌も好発し,更に消化管以外にも種々の随伴性病変を伴う,いわば全身症候性疾患とも言えるものが多い.また,疾患の1つの型としてポリポーシスの名称が使われていたり,ポリポーシス様の病変や所見を呈する疾患も多くある.そこで消化管ポリポーシスと鑑別を要する疾患について,最近の知見を加えて,主にX線の立場から述べた.

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要旨 自験101例の消化管ポリポーシスを対象に病変発生部位を比較し,上部および下部消化管内視鏡所見の特徴について症例を中心に呈示した.疾患により大腸病変の形態,分布は異なり,家族性大腸腺腫症とCronkhite-Canada症候群では全大腸に密集して多発する隆起性病変が特徴的であったが,過誤腫性ポリポーシスでは散在性に病変を認めた.一方,上部消化管内視鏡所見からみると,胃病変のみでは必ずしも鑑別は容易ではなかったが,食道および十二指腸病変を考慮すると診断は可能と考えられた.しかし,消化管病変の程度は症例により大きく異なるので,診断においてはX線検査や消化管外徴候の確認を怠ってはならない.

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要旨 若年性ポリポーシスの組織像は胃と小腸・大腸とで異なることを初めて筆者らは述べた.なぜ,そのような差が生ずるのかを解明することが今後の課題である.若年性ポリープとCronkhite-Canadaポリープの組織学的所見は,それぞれ,胃,小腸,大腸で異なっているにもかかわらず,この点も今までの文献では明確にされていなかった.特に,内科的治療で浮腫が著減したCronkhite-Canadaポリープでも組織学的に若年性ポリープとの鑑別が可能であることを述べた.更に,Peutz-Jeghersポリープは非増殖細胞群の集団で形成されていることを筆者らは初めて明らかにした.なぜ,そのような変化が起こるのかも今後の課題である.

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要旨 消化管ポリポーシスを呈する疾患は遺伝性を示すものが多く,患者は通常の人に比べ腫瘍を発生しやすい段階を既に保持して生まれてきた個体と考えられ,癌研究の端緒を担う疾患群として注目を集めている.本稿では家族性大腸腺腫症を中心にTurcot症候群,Peutz-Jeghers症候群,若年性ポリポーシス,Cowden病の最近の分子生物学的知見や臨床の知見をもとに治療法の選択,そしてサーベイランスの方針とその進め方について考察した.

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要旨 消化管ポリポーシスはポリープが消化管に多発したものを言うが,各疾患によりポリープの分布と数に違いがあること,悪性化の頻度も異なることなどを十分理解する必要がある.まず消化管ポリポーシスは,遺伝性,非遺伝性,あるいは腫瘍性,非腫瘍性に大別される.腫瘍発生学上重要な位置を占める疾患が多く,最近の分子生物学の進歩により遺伝性のものから次々にその原因遺伝子がクローニングされてきた.これらは消化管以外にも種々の組織や臓器に随伴病変を伴う,いわば全身性症候群とも言える.主な消化管ポリポーシスの遺伝子異常について概説する.

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要旨 家族性大腸腺腫症は,大腸にポリープが多発し,その経過中に腺腫から癌へと移行していく病態を主とする遺伝性疾患である.大腸腺腫の数・密度から密生型,非密生型,および散発型に分類される,この表現型の違いは大腸癌発生の年齢にも相関するが,それぞれAPC遺伝子の変異部位との関連が認められ家系特異性がある.

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要旨 家族性大腸腺腫症と診断された自験73例を検討し,その大腸外腫瘍状病変の診断と取り扱いについて述べた.上部消化管病変として,胃病変(胃底腺ポリポーシス,腺腫,癌)が74%,十二指腸病変(腺腫,癌)が88%,十二指腸乳頭部病変(腺腫,癌)が57%,空腸病変(腺腫)が62%,回腸病変(腺腫)が19%の頻度で認められた.胃・十二指腸腺腫は,長期経過観察でほとんど不変であり癌化もみられないことより,予防的手術の必要はなく側視型内視鏡を用いた定期的検査のみで十分である.一方,消化管外病変として,骨病変が80%,軟部腫瘍が37%,眼病変が55%,甲状腺腫瘍(腺腫,癌)が8%,その他(膵癌,肝細胞芽腫)が3%の症例で認められた.大腸手術後もこれらの病変(特にデスモイド腫瘍,甲状腺癌,膵癌など)に対するサーベイランスが必要である.

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要旨 Turcot症候群はglioma-polyposis syndromeとも呼ばれている.更に分類すると,①Turcotらの報告例に類似している典型的Turcot症候群と,②家族性大腸腺腫症(FAP)に脳腫瘍を合併した群があると思われる.典型的Turcot症候群では,患者年齢が10歳台後半で既に大腸進行癌を合併している例が多いことが最も特異的であり,更に大型の大腸ポリープが存在することが多い.典型的Turcot症候群の脳腫瘍は,astrocytomaまたはglioblastomaであることが多いが,FAP群ではmedulloblastomaのことが多い.典型的Turcot症候群では,ミスマッチ修復遺伝子の異常と多数のマイクロサテライト領域の複製エラー(RER)が認められている.

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要旨 Peutz-Jeghers症候群は口腔や唇,指趾に特有な色素沈着を伴い,消化管に多発性ポリープを有する優性遺伝の疾患であり,小児期に発症する.消化管ポリープの病理組織像は特徴的であり,粘膜筋板が樹枝状に延長し,正常腺管と同様の過形成な腺管が増生する.過誤腫として位置づける説と過形成性ポリープや再生性ポリープに類似する成り立ちであるとする説がある.ポリープは胃,小腸,大腸に発生するが,発生個数はたかだか数十個である,ポリープの大きさは数mmから腸重積の原因となるような5~6cmの大きいものまで様々である.形は有茎性から亜有茎性,無茎性まで様々な形態を呈するが,大きい病変は広基性となり,表面は分葉して粗大顆粒様を呈する.本症候群では高率に消化管癌,特に大腸癌の発生がみられる.また他臓器悪性腫瘍の合併頻度も高いので,その経過観察にあたって注意を要する.中小のポリープは内視鏡治療で十分に処置できるので,定期的な内視鏡検査を怠ってはならない.

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要旨 若年性大腸ポリポーシスは大腸腺腫症から分けられた独立の疾患単位であるが,両者は近縁関係にある.ポリープの数は腺腫症ほど多くなく,多くても何百の単位であり,組織像は単発性若年性ポリープに類似している.腺腫性変化を経て癌が発生することがあり,大腸癌好発疾患として認識する必要がある.PTEN,SMAD4の遺伝子異常が報告されている.

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要旨 Cowden病は皮膚,口腔粘膜の特徴的な丘疹に加え,消化管ポリポーシスや悪性腫瘍を含めた多彩な腫瘍性病変を合併する遺伝性疾患と考えられている.本疾患は消化管ポリポーシスを高率に合併することが知られており,病理組織学的には過誤腫性もしくは過形成性変化であり,multiple hamartoma syndromeと呼ばれることもある.Cowden病における消化管ポリポーシスの特徴を含めた診断ならびに合併する腫瘍性病変について述べた.

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要旨 Cronkhite-Canada症候群は消化管ポリポーシスに脱毛,皮膚色素沈着,爪甲異常の外胚葉系の病変を伴う非遺伝性の疾患である.中年以降に発症し男性に多い.全消化管に発生するが好発部位は胃,大腸である.ポリープの形態・分布は胃あるいは大腸全体に無数の無茎性ポリープがカーペット状に密生してくるものが多い.ポリープ間の介在粘膜にも炎症がみられるため,胃ではX線上浮腫状の巨大皺襞を呈することもある.内視鏡的にもポリープの発赤は高度でポリープ間介在粘膜の発赤,浮腫,びらんなどが観察される.ポリープ自体は非腫瘍性であり,大部分は1年以内に縮小し,1/3は消失する.しかし,消化管癌,腺腫の合併の頻度が高く診断上注意を要する.

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要旨 attenuated familial adenomatous polyposis(AFAP)は,familial adenomatous polyposis(FAP)の一亜型と考えら,常染色体優性の遺伝様式をとり,発生するポリープは100個以下で右側大腸に好発し,発症年齢は通常のFAPより15年ほど遅いという特徴を有する.60歳までにはその80%に大腸癌が発生すると推定され,胃・十二指腸病変の合併頻度が高いと報告されている.またAFAPでは,FAPの原因遺伝子であるadenomatous polyposis coli(APC)遺伝子の特定の部位に変異を認めることが多い.この新しく疾患概念が確立しつつあるAFAPに関して概説し,自験例を紹介する.

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要旨 sulindacやindomethacinなどの非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)は家族性大腸腺腫症(FAP)の大腸ポリープを退縮させる効果を有する.しかし,その効果は完全とは言えず,大腸癌予防効果について十分な検討がなされていない.したがって,現時点でこれらのNSAIDsは結腸全摘や大腸全摘に替わるものではない.しかし,cyclooxygenase-2 selective inhibitorsを含むNSAIDsの中には,真に大腸癌予防に有効な薬剤が存在する可能性もあり,更なる検討を要する.また,NSAIDsによる大腸ポリープ縮小の機序はいまだ解明されておらず,その解明はFAPのみならず一般の大腸癌の予防法の研究にも役立つ可能性がある.

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要旨 家族性大腸腺腫症(FAP)の原因となるAPC遺伝子変異の95%は,ナンセンス変異か塩基の挿入や欠失によるフレームシフト変異である.およそ310kDの巨大なAPC蛋白は,細胞質中のβ-カテニンを分解し,その量を調節することで癌抑制遺伝子として機能している.β-カテニンは細胞膜のE-カドヘリンとの結合を介して細胞間の接着を調節する以外に,ある種のシグナル伝達系において,核内で転写因子であるLEF-1/TCFと結合し,特定の遺伝子の転写活性を充進させている.変異APC蛋白はβ-カテニン量を減少させる機能を失っており,β-カテニン量の増加による転写因子の活性化と転写の充進を惹起し,腫瘍化に関与しているものと考えられる.

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要旨 消化管ポリポーシスを呈する疾患群において,上皮性腫瘍発生の観点からみて特に重要と考えられる,①家族性大腸腺腫症,②Peutz-Jeghers症候群,および③若年性ポリポーシスを対象として取り上げた.それぞれの疾患群における腫瘍(腺腫および癌)発生の場と経路,およびそれに関わる遺伝子異常について考察した.

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要旨 家族性大腸腺腫症の原因遺伝子として単離されたAPC遺伝子は,散発性も含めた大腸癌発生における癌抑制遺伝子である.APC遺伝子の変異は,複数の遺伝子変異が関わる多段階発癌の中でも最初のイベントであり,ポリープ発生の直接的原因と考えられる.ヘテロのAPC遺伝子ノックアウトマウスでは,正常APC遺伝子がLOHにより欠損することに起因して,腸管にポリープが自然発生する.したがってヒトと同じ機序によりポリープが発生するモデルマウスである.このマウスを用いて,COX-2の活性阻害が腫瘍発生を抑制すること,およびDPC4/Smad4の変異が発生したポリープを悪性化することなどが明らかにされた.

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要旨 大腸腺腫症(APC)で多発する腺腫のほとんどは隆起型,表面隆起・平坦型で主にⅢL型pit patternを呈する.このほかに一見正常粘膜と思われる所にもⅢL型pit patternの集合がしばしば認められる.これらは組織学的に軽度~中等度異型腺腫であり,早急な治療を必要としない.一方,APCで陥凹型由来の癌が発見されることはAPCにもde novo癌発生の可能性を示唆するものであり,Ⅱc病変の発見が重要である.aberrant crypt fociはpreneoplastic lesionとして注目されているが,これらの微小病変は一般的に無数に存在し,pit pattern分類ではⅡ型の過形成とⅢL型の腺腫の芽に相当し,臨床的に診断治療の必要はない.

Zanca症候群の呼称の是非 石川 勉
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要旨 大腸腺腫症(家族性大腸ポリポーシス)に遺伝性多発性軟骨性外骨腫(軟骨性外骨腫)を合併したものをZanca症候群と呼称することがある.しかし,症例数は極めて少ないことから,偶然大腸ポリポーシスに軟骨性外骨腫が合併した症例の可能性もあり,今後,多数例の臨床的検討や遺伝子学的検索により大腸腺腫症と多発性軟骨性外骨腫との間に関連性が証明されるまでは,Zanca症候群を大腸ポリポーシスの中の独立した疾患として使用しないほうがよい,と考えられる.

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要旨 結節性硬化症は常染色体優性の遺伝性疾患であり,全身に種々の過形成性・過誤腫性病変を呈する.直腸過誤腫性ポリポーシスは本症の約50~78%に出現し,重要な診断項目である.形態的には直腸に集簇して発生する5mm前後の光沢のある半球状隆起で,組織学的には粘膜の浮腫と間質の筋線維組織の増生を特徴とする.口腔,食道,胃,小腸にも過形成性・過誤腫性隆起性病変を生じうるが,軽微な所見で見逃される可能性がある.現在まで第9染色体上(TSC1)と第16染色体上(TSC2)に病因遺伝子が同定され,癌遺伝子としての機能解明が進められている.消化管癌との関連は不明だが,不全型の認識とともに今後の研究が期待される.

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要旨 大腸の過形成性ポリポーシス(hyperplastic polyposis;HP)とその関連疾患である大腸のびまん性過形成性結節(diffuse hyperplastic nodules;DHN)の臨床病理学的特徴,特にその癌化について,文献的考察を加えた.HPの文献報告32例中,同一ポリープ内に腺腫が共存するもの9例,癌が共存するもの3例,ポリープとは別に癌を合併するもの14例,腺腫を合併するもの8例などである.つまりHPは,腺腫や癌の共存ないし合併率(64.5%)が高く,通常の過形成性ポリープとは異なる性格を有することが示唆される.DHNの2例でも,多発性腺腫,癌,異型上皮,過形成性結節内腺腫と癌などが認められており,HPと同様の性格を有していることが推測される.以上のことから,HPおよびDHNはまれではあるが,腺腫や癌を発生するhigh risk群として,適切な臨床的対処が必要と思われる.

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要旨 患者は65歳,女性.貧血,便潜血陽性の精査にて,大腸ポリポーシスを指摘された.家族歴上,母親が65歳時大腸癌と大腸ポリポーシスのため手術されていた.本症例の大腸には,径10mm以下のポリープが約200個と,上行結腸に径25mmの山田Ⅳ型腺腫と脾彎曲部に径5mmのⅡc型腺腫が認められた.数個のポリープからの生検組織診断は,すべて軽度から中等度異型腺腫で,癌の合併はなかった.そのほか,胃および回腸腺腫,下顎骨腫および網膜色素上皮肥大を認めた.遺伝子検索では,APC遺伝子exon5に胚細胞突然変異を認め,形態学的所見と合わせAFAPと診断した.上行結腸の山田Ⅳ型腺腫と脾彎曲部のⅡc型腺腫および胃腺腫に対する内視鏡的粘膜摘除のみを行い,経過観察中である.

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要旨 父(31歳で死亡)と息子(25歳生存)に定型的Turcot症候群の発症がみられた1家系例を報告した.父子ともに,大腸ポリープは数が少なく,比較的大きなポリープで,若年での癌化もみられた.脳腫瘍はglioma系の腫瘍であった.文献例より定型的Turcot症候群35報告例を集計し,その大腸病変を検討した結果,Itohらの主張と同様に,家族性大腸腺腫症(FAP)と比較してポリープが大型で個数が少なく,若年時の癌化が特徴であった.しかし本例は優性遺伝と考えられるところが異なっていた.

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要旨 母子3人にみられたPeutz-Jeghers症候群の1家系を経験した.3例とも食道を除く全消化管にポリープを散在性に認めた.経過観察中,胃ポリープは形態変化を認めなかったが,十二指腸・小腸・大腸ポリープは増大傾向がみられたため,内視鏡的あるいは外科的切除を行った.増大傾向の強かった小腸と大腸ではdoubling timeを参考に厳重follow-upとし,切除の際は可能な限り小さな病変まで切除した.大腸だけでなく,十二指腸やTreitz靱帯近傍の空腸の病変に対しても内視鏡的切除を試み,また,手術の際は術中内視鏡の併用や腹腔鏡補助下の手術を行った.以上,Peutz-Jeghers症候群の母子例3例を,若干の文献的考察を加えて報告した.

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要旨 患者は57歳,男性.1993年4月当科を受診し蛋白漏出性胃腸症(α1-antitrypsin clearance高値),鉄欠乏性貧血を認め,胃全体に肥厚した粘膜とびまん性多発性小ポリープを認めた.ポリープは前庭部に高度に密集し組織学的に若年性ポリポーシスであった.また前庭部のポリープの最密集部には腺癌の合併を認めたため胃全摘術を施行した.大腸には4個の若年性ポリープが合併していた.以上,胃癌を合併した若年性胃腸管ポリポーシスの1例を経験したので若干の文献的考察を行った.

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要旨 患者は63歳,女性.57歳時胃ポリポーシスを指摘され,その後下腿・顔面の浮腫および心囊液貯溜を認め,鉄欠乏性貧血および低蛋白血症が持続していた.今回自覚症状の増強および胃ポリポーシスの増大傾向を認め,内科的治療にも抵抗性であるため胃全摘術を施行した.摘出標本では,胃全体に無数の丈の高いポリープが密生しており,一部皺襞の肥厚も認めた.他消化管ならびに皮膚・粘膜・毛髪・爪に異常所見を認めず,病理組織検査を含め胃限局性若年性ポリポーシスと診断した.若年性ポリポーシスの胃限局型は自験例を含め本邦で16例報告されており,そのうち7例は腺癌を合併していた.一般に若年性ポリポーシスは組織学的に非腫瘍性の過形成性病変で,癌化は少ないとされていたが,本邦報告例の検討ではneoplastic potentialの存在も示唆された.

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要旨 患者は49歳,女性.長期間にわたって追跡を行っているJPSの1家系の発端者である.腹痛,嘔吐を主訴とし,腸重積の診断で開腹術を施行した.回腸癌(深達度mp)を先進部とする腸重積であった.腫瘍はp53の過剰発現をfocalに認め,JPSに発生する回腸癌に関しても一般の大腸癌と同じくp53遺伝子異常が関係している可能性を示唆していた.JPSの責任遺伝子と言われるSMAD4,更にJPSに関連する可能性のあるSMAD1,SMAD2,SMAD3,SMAD5,PTEN,PTCHを検索したが異常は認めなかった.JPSの原因遺伝子はSMAD4のみでない可能性が高く,更に検討が必要である.

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要旨 患者は63歳,男性.血疾を主訴に近医を受診.下咽頭腫瘍の疑いで当院耳鼻咽喉科を紹介され,精査の結果下咽頭の扁平上皮癌と診断された.術前の食道透視で静脈瘤を疑われ,消化管内視鏡検査を施行したところ,食道から大腸までの全消化管にポリポーシスを認めた.組織はいずれも過形成性もしくは過誤腫性の変化であった.顔面,両下肢に小丘診が,足底には角化性丘診の多発を認めCowden病と診断した.また,血尿の精査により左腎に腎細胞癌も発見され,Cowden病に重複癌を合併した男性例はほかに本邦報告例がなく,非常にまれな1例と考えられた.

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要旨 患者は48歳,男性.左側腹部痛,背部痛を主訴に当院を受診.上部消化管内視鏡検査にて食道と胃にポリポーシスを認め,精査目的にて入院となった.消化管の検査にて,食道にglycogenic acanthosis,胃には多発する過形成性ポリープ,S状結腸から下行結腸には腺腫と直腸には過形成性ポリープが多発していた.また,皮膚粘膜では歯肉に白色調の小隆起を,前胸部,背部に多発する角化性丘疹を認め,以上よりCowden病と診断した.食道,胃,大腸に多発するポリポーシスと,皮膚粘膜病変を認める典型的なCowden病と思われたので報告する.

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要旨 患者は52歳,男性.集検にて胃粘膜異常を指摘され,精査にて当科入院.胃,大腸にポリポーシス,そのほか脱毛,色素沈着,爪甲萎縮,家族歴よりCronkhite-Canada症候群(CCS)と診断.大腸のポリペクトミーにて,focal cancer in adenoma with hyperplasiaを認めた.退院後sulindacの内服開始.3か月後著明な大腸ポリープの減少を認めたが,約3.5年後に肝彎曲部近傍に進行大腸癌を認め,右半結腸部分切除術を施行,更に1年後,肝転移にて肝部分切除を施行された.その後もsulindacの内服を継続し外来通院1年後,胃ポリープの完全消失を認めた.CCSの治療,癌化および臨床経過を考えるうえで極めて興味ある症例と思われ報告した.

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要旨 multiple lymphomatous polyposis(MLP)は,消化管原発で広範にリンパ組織の腫瘍性増殖がみられる疾患であるが,欧米ではそのほとんどがcentrocytic lymphomaであり,更にmantle cell lymphoma(MCL)と同義とする報告も多い.しかしそれ以外の報告も散見され,その組織型については定説がない.今回,multiple polyposisの内視鏡像を呈し,follicular lymphoma,small lymphocytic lymphoma,T-cell lymphomaと診断された3症例を報告する.これらの診断には肉眼的形態や通常の病理組織診断のみではなく,免疫染色や分子生物学的検索も必要であり,今後の症例の蓄積と病態の解明が期待される.

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要旨 患者は66歳,女性.鹿児島県出身.主訴は下腹部痛,食欲不振,全身倦怠感,発熱.他病院にて大腸のポリープ状隆起および頸部リンパ節の組織検査の結果,ATLと診断され紹介入院となった.上部消化管および大腸内視鏡検査,経口小腸造影,注腸二重造影にて全消化管にMLP様のATLの浸潤が認められ,特に大腸に浸潤が著明であった.大腸では横行結腸から,特に上行結腸,盲腸にかけて隆起が高度に密集・融合し,粘膜ひだも著明に腫大し,びまん性の浸潤病変に進展していた.化学療法が施行され,上部消化管内視鏡検査では病変は消失し,症状も改善したが,その後化学療法に抵抗性となり死亡した.本症例およびMLP様の浸潤を示した他の自験例の画像所見について,その特徴を報告する.

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 竹本忠良教授による本書の「序として」によれば,本書は,1995年から毎年2回開催され,今年で10回目になる「ヘリコバクター・ピロリフォーラム」という,若年研究者による研究会の5年間の結晶がまとめられたものであるという.中高年のいわゆる斯界の権威者を全く含まない,若年研究者だけで作りあげた,活力のあふれる論文が多数並んでいる.

 単に自分のデータのみを挙げて結論を主張する原著形式の論文でなく,これまでの多くの成果を十分咀嚼して,総説として書かれているので,Helicobacter pylori(H.pylori)をとりまく諸問題の現況を理解するのに大いに役立つであろう.

編集後記 渡辺 英伸
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 家族性大腸腺腫症では上部消化管病変が高頻度に必発することを,世界で初めて明らかにしたのが日本である。これは世界に誇れる日本の業績の1つであり,それは1974年から1978年にかけて集中的に世界へ発信された.消化管ポリポーシスには,家族性大腸腺腫症のほかに,Peutz-Jeghers症候群のポリポーシス,若年性ポリポーシス,Cronkhite-Canada症候群のポリポーシス,Cowden病のポリポーシスなど種々のものがある.本増刊号には,これら消化管ポリポーシスの疫学・診断・治療・経過・分子生物学が日本的視野ばかりでなく世界的視野からも盛り込まれている.本号を通読すれば,これら消化管ポリポーシスの歴史が理解できよう.と同時に,どのような問題点が残されているかも理解できる.

 「胃と腸」は形態診断学を中心とした雑誌であり,提示された消化管ポリポーシス症例の記述は詳細・正確である.すべての研究は,詳細で正確な記述から始まる.しかし,これら材料が形態診断学を中心とする研究者ばかりでなく生物学・分子生物学を中心とする研究者にも生かされることによって,初めて生きた材料となるであろう.

基本情報

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胃と腸
35巻3号 (2000年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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