臨床検査 62巻4号 (2018年4月)

増刊号 疾患・病態を理解する—尿沈渣レファレンスブック

序文 下澤 達雄 , 宿谷 賢一
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 医療費の抑制策また高年齢化が進む現在の医療環境は,簡便・迅速・低コストかつ患者に対して非侵襲的である尿検査を有効活用する意義は大きくなっています.特に尿沈渣検査は,腎・尿路系の疾患のスクリーニング検査として意義は高く,より多くの付加価値情報を臨床に提示できると考えています.

 尿沈渣検査による典型的な尿路の腫瘍細胞の鑑別能力は,日本臨床衛生検査技師会主催の外部精度管理調査のフォトサーベイの報告から証明されており,国内の臨床検査機関の約3,000施設のうち,8割以上の施設で鑑別が可能です.今日の尿沈渣検査は,スクリーニング検査の目的以上の検査結果を臨床へ提供可能な施設もあり,尿沈渣検査の鑑別技術の向上が裏付けられていると言えます.しかしながら,臨床の場において腎・尿路系疾患の診断と治療における尿沈渣検査の意義付けが明確にされていない部分もあり,臨床との関連性を明確にする必要があります.

Ⅰ 基礎知識

腎泌尿器系の解剖 池森 敦子
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 腎泌尿器系に属する臓器は,腎臓と排尿路に区別される.排尿路は,腎臓内と腎臓外に分けられ,腎臓内の排尿路は,腎杯(小腎杯,大腎杯),腎盂であり,腎臓外の排尿路は,尿管,膀胱,尿道である.

Ⅱ 尿路の検査

X線 髙橋 哲
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検査の意義

 X線検査は,泌尿器科領域も含め,日常診療においてルーチンで撮像されることが多い.広く普及している検査であり,感度や特異度を考えず習慣的に撮像されていることもあるが,X線検査のみで疾患を否定できることは少ない.泌尿器科領域で扱われるX線検査として,KUB(kidney, ureter and bladder)といわれる腹部単純X線写真のほか,X線透視検査もこの範疇として含まれる.それぞれの検査の特徴について述べる.

血管造影 髙橋 哲
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検査の意義

 血管撮影検査は,血管内に造影剤を直接注入して描出する手技であり,単純X線写真やX線透視検査と並んで体内の情報を得る古典的画像診断法の1つである.過去には血管解剖を評価することで病変の局在や性状診断などを行っていたが,CTやMRIなど断層画像診断の進歩,特に血管を描出する造影CT angiography(CTA),MR angiography(MRA)の進歩により,血管解剖の評価を目的とした血管撮影はほぼなくなった.現在は血管撮影の手法を応用して,狭窄に対する血管拡張術や動脈瘤治療,出血や腫瘍に対する塞栓療法など,血管内治療を行うinterventional radiology(IVR)を前提としたものが大部分である.

超音波 岩嶋 義雄 , 出村 豊
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検査の意義

 超音波検査は腎臓・尿路系の形態的評価が主な目的であり,腎生検では,エコーガイド下で行うために必須となる.カラードプラ・パルスドプラ法を併用することで,腎動脈・腎臓の血流評価も可能となる.非侵襲的かつ簡便に行えることから,泌尿器科系疾患の画像診断のなかでもスクリーニング検査として優れており,腎機能障害においてもよい適応となる.特に,囊胞性腎疾患,腎・尿管結石,腫瘍性疾患,腎動脈狭窄の診断での有用性は高い.

CT,MRI 髙橋 哲
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検査の意義

 コンピュータ断層画像(computed tomography:CT),磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging:MRI)検査は,現在の画像診断の中心を占め,臨床に不可欠となっている.CTはX線を発生する管球と検出器が身体の周りを回転しながらデータを収集し,コンピュータ処理により断層像を得る.MRIは非常に強い磁石と電磁波を用いて体内の水素原子核の信号を捉え画像化する.CT,MRIは本邦で広く普及しており,人口当たりの機器数は先進国で最も多い.安価な検査料とも相まって,諸外国と比べ比較的容易に検査を受けることができる.

内視鏡 西松 寛明
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検査の意義

 尿路内視鏡検査は膀胱・尿道鏡検査,そして尿管鏡検査に分類される.

 膀胱・尿道鏡検査は外尿道口から前部尿道(振子部尿道,球部尿道),後部尿道(膜様部尿道,前立腺部尿道),そして膀胱内を直接観察することができる.混濁や出血がある場合には洗浄吸引などの処置を,腫瘍が存在する場合には生検をとることが可能である.一方,尿管鏡検査は,膀胱尿管移行部から尿管,そして腎盂内を観察することが可能である.

腎生検 平和 伸仁
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検査の意義

 腎臓病には,糸球体腎炎,尿細管間質性腎炎,血管炎,膠原病×糖尿病といった全身疾患に伴う腎病変などの様々な病態がある.尿検査や血液検査,免疫検査などにより,二次性の腎臓病の診断に近づくことができるが,確定診断には腎生検が必要になる.また,一次性の糸球体腎炎や間質性腎炎の診断には,腎生検が最も正確な診断方法であり,特に重要である.さらに,腎生検では,病気の確定診断のみならず,その病勢(活動性)や広がり(障害の程度)を把握することができ,これらの結果から患者の予後を推定することもできる.このように,腎生検は,腎臓病の診断にとっても欠くことのできない最も重要な検査の一つである.

臨床検査(検体検査) 菊池 春人
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 本特集がテーマとしている尿沈渣そのものも臨床検査の1つであり,尿沈渣と関連する臨床検査は,検体検査に限ってもかなり多岐にわたる.いずれも尿沈渣にかかわっている本誌の読者にはなじみ深いものであると思われるが,それらのなかで特に重要と思われる項目について,「1.検査の意義」「2.尿沈渣と関連するポイント」という形でまとめてみることとする.

Ⅲ 尿路の処置・手術

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導尿カテーテル

導尿の目的

 導尿カテーテルの目的は,自排尿が不可能な患者に対して尿を排出することであるが,表1に示すように,検査や治療,全身管理のために実施することもある.

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経皮的膀胱瘻造設術

適応

 通常,腎から尿管を通って膀胱に至った尿は,尿道を通って体外へ排出される.しかし,外傷により尿道の管腔構造が損傷された場合や,前立腺肥大,腫瘍・線維化などにより,尿道が狭窄をきたした場合は,下部尿路通過障害が起きる.この状態を尿閉という.

 尿閉に対する第一選択は,尿道カテーテルの留置である.尿道カテーテルの留置自体は通常は容易で,尿閉の解除も速やかに行える.しかし,時として,尿道カテーテル留置が困難なことがある.このようなケースは,女性であることはまれで,多くの場合は男性である.尿道カテーテル留置が難しい場合には,カテーテルの種類を変えたり(チーマンカテーテルの使用),スタイレットを使用したり,あるいは尿道膀胱鏡で鏡視下にガイドワイヤーを用いて,カテーテルの留置を試みたりする.

尿路変向術 手島 太郎
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総論

 膀胱癌などで膀胱を摘出した場合,尿路を再建する必要があり,これを尿路変向という.

 尿路変向術には非禁制型(失禁型)と禁制型(非失禁型)尿路変向術がある.

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 尿沈渣鏡検時には,尿定性検査結果を参照することは周知の事実である.また,近年の尿沈渣検査の結果入力システムではほかの臨床検査結果を同時に参照することが可能で,鏡検時のサポートとして必要不可欠な機能となっている.得られた臨床検査結果と尿沈渣の各種成分の出現を組み合わせて確認することにより,出現する可能性がある成分の見落とし防止につながるだけでなく,推定疾患を大まかに大別することも可能になる.

 本項では,まず基本的な尿沈渣成分について,画像とともに解説する(図1〜33).そのうえで,尿定性検査と臨床化学検査の結果から出現可能性のある尿沈渣成分,そして推定される疾患・病態との関連性を表に示す(表1,2).さらに,各種疾患・病態の典型的な尿沈渣の弱拡大像(弱拡大像1〜23)を併せて提示する.

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はじめに

 尿沈渣検査は一般スクリーニング検査として幅広い患者層を対象としており,臨床的に尿路系腫瘍が疑われていない段階で悪性細胞の検出が可能となれば,その臨床的意義は計り知れない.

 尿沈渣に出現する悪性細胞は,典型像を示す核異型の「有または強」群と非典型像を示す核異型の「無または弱」群に大別される.

 典型像を示す核異型の「有または強」群の悪性細胞は,正常細胞と比べて核腫大やN/C比大,クロマチン増量,核小体肥大,核形不整などを示して出現し,検出は容易である.一方,非典型像を示す核異型の「無または弱」群の悪性細胞は,変性・崩壊を示す悪性細胞やもともと核異型の乏しい悪性細胞である.これらの悪性細胞は小型で核の大きさが赤血球大〜白血球大程度で,見落とされる危険性が高い.尿沈渣に出現する悪性細胞は,尿路に面した腫瘍辺縁部を構成する悪性細胞が自然に脱落したものである.これらの悪性細胞のなかには腫瘍本体を構成する悪性細胞と異なり,変性・崩壊を示し,小型で核異型のない,または核異型の弱い悪性細胞が認められる(図1).これらの多くは結合性の強い悪性細胞で生または新鮮細胞では脱落しにくいが,壊死後に変性・崩壊し脱落するものと考えられる.また,もともと小型で核異型の乏しい悪性細胞は,悪性リンパ腫細胞や白血病細胞などの小型悪性細胞だけでなく,尿路上皮癌細胞や腺癌細胞,扁平上皮癌細胞などの悪性細胞のなかにも存在する(図2).

 今回,各論として尿路上皮癌細胞,腺癌細胞,扁平上皮癌細胞,小細胞癌細胞,悪性リンパ腫細胞,白血病細胞,悪性黒色腫細胞を取り上げる.尿路上皮癌細胞,腺癌細胞,扁平上皮癌細胞,小細胞癌細胞については,典型像と非典型像に分けて解説する.

Ⅴ 腎疾患 症候群と尿沈渣成分

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代表的な疾患・病態

 扁桃炎・上気道炎などの先行感染後7〜14日の潜伏期の後,血尿,浮腫,高血圧の3症状が急激な経過(日単位)で出現し,一過性の腎機能障害を伴う糸球体腎炎である.

 A群β溶血性連鎖球菌によるものが最も多いが,ほかにブドウ球菌,肺炎球菌や耳下腺炎ウイルス,伝染性単核球症ウイルス,パルボウイルス,コクサッキーなどのウイルス感染でも見られる.IgA(immunoglobulin A)腎症やループス腎炎の一部に急性腎炎症候群様に発症するものがある.

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代表的な疾患・病態

 急性または潜在性に血尿・蛋白尿を伴って発症し,週〜月単位で進行する腎機能の悪化をきたす腎疾患であり,組織学的には半月体形成性糸球体腎炎の像を呈する.

 蛍光免疫染色により3つの型に分類される(表1).副鼻腔炎や間質性肺炎などの慢性炎症巣で好中球が持続的に活性化されると,myeloperoxidase(MPO)やproteinase3(PR3)に対する自己抗体である抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)が産生される.このANCAにより糸球体係蹄壁が障害され,半月体を伴って発症するANCA関連血管炎による急速進行性糸球体腎炎は,pauci-immune型で,高齢者に多くみられる.

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代表的な疾患・病態

 慢性腎炎症候群(chronic nephritic syndrome)は,蛋白尿,血尿,高血圧を伴い,緩徐に腎機能が低下していく症候群である.

 蛋白尿と血尿は,糸球体毛細血管壁(係蹄壁)やメサンギウム領域における免疫グロブリンや補体の沈着,炎症細胞の浸潤,メサンギウム細胞の増殖などにより出現する.その障害が持続し進行することにより糸球体の荒廃,喪失が進行し,ネフロン数が減少し糸球体濾過量が減少する.糸球体障害の原因になった疾患により,障害される部位と尿所見に違いがみられる.慢性腎炎症候群には,原因疾患にかかわらず共通した腎機能低下進展機序があることが知られている.

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代表的な疾患・病態

 無症候性蛋白尿および血尿(asymptomatic proteinuria and hematuria:APH)は,自覚症状がなく,健診で尿蛋白や尿潜血を指摘されたり,ほかの疾患で医療機関を受診した際に偶然に発見される蛋白尿および血尿で,定義に尿蛋白2g/日以下,高血圧や腎機能低下を認めないことなどが含まれる.また,健診や他疾患での検尿時に偶然に発見される蛋白尿や血尿のことをchance proteinuria, chance hematuria(CPH)という.

 血尿の場合は,WHO(World Health Organization)の臨床分類の,反復性または持続性血尿症候群(recurrent or persistent hematuria:RPH)が類義であるが,RPHは潜在性または突然発症の肉眼的血尿または顕微鏡的血尿で,蛋白尿が陰性またはごく少量で腎炎症候群を示すほかの特徴がないものと定義されており,肉眼的血尿も含まれるために無症候性血尿より広義である.また,顕微鏡的血尿は,腰痛などほかに症候がなければ無症候性血尿と臨床的に同義となり,無症候性顕微鏡的血尿と呼ぶこともある.

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代表的な疾患・病態

 ネフローゼ症候群とは,厚生労働省の診断基準によると,①蛋白尿:1日尿蛋白排出が蓄尿3.5g/日(もしくは随時尿3.5g/gCrも参考)以上,②低アルブミン血症:血清アルブミン3.0g/dL以下(血清総蛋白6.0g/dL以下も参考),③浮腫,④脂質異常症(高LDLコレステロール血症),を認める疾患であり,高度な蛋白尿の漏出を主な徴候とする疾患群である.アルブミンに代表される蛋白質が尿から漏出するために,低蛋白血症をきたし,膠質浸透圧の低下から浮腫をきたす.蛋白質の漏出が糸球体と尿細管の両者に障害を与えるため,漏出の程度が強い場合は腎障害から腎不全に至ることがある.

 原因としては,微小変化群,膜性腎症,膜性増殖性糸球体腎炎,ループス腎炎,急性糸球体腎炎などの原発性腎疾患に伴うものと,糖尿病やアミロイドーシス,多発性骨髄腫関連疾患による全身疾患に伴うものに分けられる.

急性腎障害・急性腎不全 今田 恒夫
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代表的な疾患・病態

病態

 急激な腎機能低下を伴う病態をこれまで急性腎不全(acute renal failure:ARF)と表現していた.しかし,近年はより早期に診断・治療介入し予後を改善させることを目的として,新しい概念である急性腎障害(acute kidney injury:AKI)という表現が多く用いられるようになってきた.急性腎障害の診療の詳細は,2016年に刊行された「AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016」1)に記載されている.

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代表的な疾患・病態

 慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)とは,腎障害を示唆する所見(検尿異常,画像異常,血液異常,病理所見など)と糸球体濾過量(glomerular filtration rate:GFR)60mL/分/1.73m2未満,のいずれか,または両方が3カ月以上持続することにより診断される.日本では,約1,330万人がCKDと推計されており,これは成人の約8人に1人に当たる1)

 成人CKDの原因には,糖尿病性腎症や慢性糸球体腎炎が多くみられる.若年成人で最も多い一次性腎疾患は慢性糸球体腎炎であり,特にIgA(immunoglobulin A)腎症の頻度が高い.一方,中年以降は膜性腎症の頻度が増加し,悪性腫瘍の合併にも注意する.

Ⅴ 腎疾患 疾患の解説

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病態

 溶連菌感染後糸球体腎炎(post streptococcal acute glomerulo nephritis:PSAGN)は溶連菌による先行感染後,1〜3週間の潜伏期間を経て発症する急性糸球体腎炎である.主に4〜12歳の小児に発症し,男女比は1〜2:1で男性にやや多い.生活環境の改善や抗菌薬の進歩により,溶連菌感染が減少ないしは早期に治療されるため,本邦における本症の発症率は著しく低下している1)

 PSAGNはA群β溶連菌によって産生される腎炎惹起性抗原によって発症する.溶連菌感染に伴い,nephritis-associated plasmin receptor(NAPlr)やstreptococcal pyogenic exotoxin B(speB)という腎炎惹起性抗原が体内で産生されると,これらの抗原は抗原抗体反応や補体活性化を介して炎症を惹起する.これらの免疫複合体は血管内皮下に沈着する性質があるが,糸球体血管内皮は有窓細胞と呼ばれ,内皮細胞に穴が多数空いている構造となっている.このような構造から,血管内皮下に沈着した免疫複合体は,補体や炎症細胞の豊富な血液循環とほぼ直接接しており,血管内皮において強い炎症が惹起される2).そのため糸球体毛細血管内に炎症細胞が著明に浸潤し,光学顕微鏡上“富核”と表現されるように,あたかも糸球体毛細血管が炎症細胞で“目詰まり”したような,びまん性管内増殖性糸球体腎炎という組織像を呈する.それにより糸球体毛細血管腔は狭小化し,時に閉塞する(図1).また,血管内皮における強い炎症は基底膜の断裂をきたし,そこから漏れ出た血液は血尿となり,また通常濾過されるはずのない蛋白も尿中に排泄されるようになる.

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病態

 糸球体疾患において糸球体病変をきたす原因になっている疾患を病理学的に分類したのが腎病理組織診断である.一方で,その糸球体疾患を,それに伴ってみられる尿所見の特徴や腎機能低下の有無と進行スピードなど臨床症候の特徴に基づいて分類したのが症候診断である.

 半月体形成性糸球体腎炎とは腎病理組織学的診断であり,腎生検で得られた観察糸球体のうち糸球体に50%以上半月体を呈する腎炎と定義される.半月体とは糸球体係蹄とボウマン囊の間のスペースが細胞成分や線維成分で占められた病変であり,管外増殖とも呼ばれる.近接する糸球体係蹄が強い炎症により傷害され断裂した結果,血漿蛋白や炎症細胞がボウマン囊内に漏出することにより病変が形成されると考えられている(図1).

IgA腎症 髙村 武之 , 北村 健一郎
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病態

 IgA(immunoglobulin A)腎症は本邦における原発性糸球体腎炎の中で最も高頻度にみられる腎炎であり,末期腎不全に陥る代表的な疾患の1つである.わが国で行われる腎生検の約1/3がIgA腎症と診断されており,発症率は10万人当たり約4人,有病患者数は3万3,000人程度と考えられている1).発症に男女差はなく,腎生検時の年齢は10〜20歳と35〜45歳で二峰性のピークを認める.IgA腎症発見の理由として,約70%が学校や職場での尿所見異常によるものであり,感冒後の肉眼的血尿も11%みられる.

 IgA腎症は,何らかの原因で糖鎖不全IgA1が糸球体のメサンギウム領域に沈着し腎障害を惹起すると考えられているが,病因はいまだ明らかにされていない.大部分は孤発性だが,家族性発症もあることや明らかな人種差があることから,遺伝的素因があると考えられている.加えて,上気道感染時に悪化する例を認めることなどから,粘膜免疫の病態への関与が想定されてきている2).一方で,長期腎予後は必ずしもよくなく,初診時・腎生検時の尿蛋白量や腎機能障害度によっては高率に末期腎不全へ至ることが知られている.

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病態

 ネフローゼ症候群は,腎糸球体係蹄障害による蛋白透過性亢進に基づく大量の尿蛋白と,これに伴う低蛋白血症を特徴とする症候群である.尿蛋白量と低アルブミン血症(低蛋白血症)の両所見を満たすことが本症候群の診断必須条件である.本症候群では低蛋白血症から浮腫,脂質異常症(高コレステロール血症),血液凝固異常,免疫不全,易感染性などを生じる.

 微小変化型ネフローゼ症候群(minimal change nephrotic syndrome:MCNS)は一次性ネフローゼ症候群のなかでは最も高頻度にみられる病型であり,小児では7〜8割,成人でも3〜4割を占める.続発性にMCNSを発症するものも知られており,原因としては非ステロイド性消炎鎮痛薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)などの薬剤や悪性リンパ腫などの悪性疾患がある.

巣状分節性糸球体硬化症 谷山 佳弘
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病態

 巣状糸球体硬化症(focal segmental glomerulosclerosis:FSGS)は微小変化型ネフローゼ症候群(476頁参照)と類似の発症様式・臨床像を呈するが,多くはステロイド抵抗性の経過をとり,末期腎不全に至る率も高い.初期には大部分の糸球体に病的変化を認めない.多数の糸球体に均一な変化をきたすことはなく,一部の(主として傍髄部領域の)糸球体において「巣状(focal)」かつ「分節性(segmental)」に硬化を認めるという病理形態学的特徴を有する(後述).

 この硬化病変は病期進行とともに拡がっていく.典型的なネフローゼ症候群を発症する原発性(一次性)FSGSのほかに,肥満関連腎症あるいは逆流性腎症など,形態学的に全く同じような組織像を示す続発性(二次性)FSGSの存在もよく知られている.本症で腎不全に至った腎移植症例のなかに,移植直後からネフローゼ症候群の再発があり,なおかつこれが血漿交換療法にて軽減するという現象が知られており,少なくとも一部のFSGSでは発症において糸球体での蛋白透過性を亢進させる何らかの液性因子の存在が想定されている.近年,血清中のsoluble urokinase receptor(su-PAR)がFSGS患者において有意に高値を示し,かつ治療経過と連動して変化することが報告されており,この液性因子である可能性が議論されている.

膜性腎症 鷲田 直輝 , 葛西 貴広
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病態

 膜性腎症(membranous nephropathy:MN)の臨床像としては成人の高度の蛋白尿を特徴とする.IgA腎症と異なり,肉眼的血尿を呈することはまれである.浮腫(下腿や眼瞼など),体重増加などを自覚することで発見される.高血圧を合併することは比較的少ない.進行は緩徐に進むことが多く,自然寛解することもあるとされ,症状がはっきりしないことも多い.そのため,成人健診で初めて蛋白尿を指摘され,診断に至ることもある.中年以降に発症するネフローゼ症候群のなかでは最も頻度が高く(約30%),ステロイド抵抗性を示すことが多い.

 MNとは,組織学的に診断されるもので,糸球体係蹄壁が肥厚していることが特徴である.これは何らかの抗原が糸球体基底膜を通過して上皮側にとどまり,これに対する特異的抗体が結合することで,抗原抗体反応物が顆粒状に上皮細胞下に沈着すると考えられている.MNには,原発性と,他疾患に合併する二次性がある.原発性の70%以上が内因性抗原であるphospholipase A2 receptor(PLA2R)に対するIgG4型抗体により発症することが解明された1).二次性の原因としては悪性腫瘍,自己免疫疾患や感染症,薬剤性などがある.

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病態

 膜性増殖性糸球体腎炎(membranoproliferative glomerulonephritis:MPGN)は,小児から若年者に多く,30歳以下の症例が大半である.血尿を伴うネフローゼ症候群が特徴といえる.発症様式としては,学校健診で血尿・蛋白尿を指摘され診断に至ることからネフローゼ症候群や急性腎炎様の急性発症まで多彩であるが,初診時には約半数がネフローゼ症候群を呈している.そのほかの症例も経過中に中等度(0.5g/日)以上の蛋白尿となることが多い.

 MPGNは糸球体係蹄壁の肥厚とメサンギウム増殖が同時にみられる一次性糸球体疾患である.糸球体係蹄壁において補体系が何らかの原因で過剰に活性化された炎症性疾患といえる.原因不明の特発性MPGNは若年層(〜30歳代)にほぼ限られ,それ以降に発症するものはほとんどが種々の疾患に続発するといわれている.

糖尿病性腎症 小島 智亜里
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病態

 糖尿病性腎症は糖尿病により糸球体,尿細管・間質の障害が生じた結果,蛋白尿の出現と腎機能低下をきたす疾患で,発症・進展には,①高血糖による細胞内代謝異常,②糸球体過剰濾過,③糖化最終生成物(advanced glycation end products:AGE),④遺伝子異常,⑤慢性微小炎症など様々な要因が関与している.糖尿病の三大合併症の1つで,1998年以降透析導入原疾患の第1位となっており,糖尿病の予後に影響する重要な疾患である.

 典型的な糖尿病性腎症では,微量アルブミン尿(尿アルブミン値:30〜299mg/gCr)で発症し,蛋白尿が増悪してネフローゼ症候群となり,その後,血清クレアチニン値が上昇して透析導入に至る.最近,非典型的な経過をたどる症例の存在が明らかになっており,蛋白尿を伴わずに腎機能が低下する症例もみられている.

ループス腎炎 安田 聖一 , 竜崎 崇和
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病態

 ループス腎炎(lupus nephritis:LN)は全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)に合併する腎病変である.SLE患者の生命予後は診断後5年で95%,10年で92%であるのに対し,腎炎合併例の生命予後は10年で88%と低下するとされており,LNは予後を規定する主要な臓器障害であるため,尿検査による早期発見が重要となってくる1)

 SLEは,主に生殖年齢の女性に好発し,明らかな原因は不明であるが,自己寛容の破綻による多彩な自己抗体の出現と免疫複合体を介した炎症による皮膚,神経,腎臓などの組織障害を特徴とする全身性自己免疫疾患である.

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病態

 薬剤性腎障害とは「薬剤の投与により,新たに発症した腎障害,既存の腎障害のさらなる悪化を認める場合」と定義される.薬剤性腎障害を引き起こす薬剤は抗菌薬,非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs),抗癌剤,など多岐にわたり多数存在する.急性腎障害(acute kidney injury:AKI)の約20%が薬剤性とも報告されている.

 薬剤の多くは肝臓で水酸化・抱合化など様々な機序を介して代謝された後,胆汁中に排泄されるものと,血清アルブミンと結合して流血中を循環し,腎臓を介して尿中に排泄されるものがある.特に高い極性あるいは低い血清蛋白結合率の薬剤は,腎臓を介して排泄されやすいとされ,この排泄過程で腎障害が惹起される.腎臓からの薬剤の排泄は糸球体濾過,尿細管分泌による管腔側への排出と,管腔側からの尿細管再吸収の総和であり,それぞれの過程で薬剤性腎障害を引き起こす可能性がある.一般的な薬剤の分子量は小さいため糸球体で濾過される.アルブミンなどの血中蛋白質に結合する薬剤は通常濾過されない.遊離型の薬剤は糸球体で濾過され,その量は遊離型の割合に応じる.蛋白結合型薬剤は糸球体で濾過されないが,一部は尿細管による分泌を受け排泄される.尿細管分泌は主として近位尿細管細胞による経細胞輸送により行われる.そのため薬剤性腎障害は近位尿細管で生じやすい.

Ⅵ 泌尿器疾患 疾患と尿沈渣成分 ①尿路・性器感染症

腎盂腎炎 山口 健哉 , 高橋 悟
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病態1)

 腎盂腎炎は,尿路の逆行性細菌感染により惹起される有熱性尿路感染症である.急性単純性と,基礎疾患を合併する複雑性とに分類される.急性単純性腎盂腎炎は性的活動期の女性に好発する.男性患者の腎盂腎炎はすべて複雑性として扱う.先行する膀胱炎症状,発熱や倦怠感などの全身症状,患側の肋骨・脊椎角部圧痛(CVA tenderness)が出現する.原因菌は単純性では大腸菌が約7割を占めるが,複雑性は多岐にわたるため予測することは困難である.

膀胱炎 山辺 拓也 , 土谷 順彦
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病態

 「膀胱炎」とは文字通り膀胱に生じる炎症のことで,細菌性膀胱炎のほかにも間質性膀胱炎,放射線性膀胱炎,薬剤性の出血性膀胱炎,アレルギー性膀胱炎など様々な病態があるが,本稿では一般的な細菌性膀胱炎について解説する.

 細菌性膀胱炎は明らかな基礎疾患が認められない単純性と,基礎疾患を有する複雑性とに分類され,治療に当たっても区別して考える必要がある1)

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病態

 放射線性膀胱炎は骨盤内の放射線治療に起因する出血性膀胱炎であり,骨盤内への放射線照射後6カ月〜10年で発症するとされている1).放射線治療の合併症のなかでも治療困難なものの1つであり,ひとたび発症してしまうと血尿,膀胱刺激症状が認められ,重症例では血尿のコントロールが困難となり,尿路変更術が必要になったり,時には致命的になったりすることさえある2).重篤な放射線性膀胱炎をきたした放射線治療の原疾患としては子宮頸癌が最も多く,ほかに直腸癌,膀胱癌,前立腺癌などが原因となり得る.照射線量が50Gy以下では発症頻度は約3%に過ぎないが,80Gyを越すと12%に達するとの報告や,90Gy以上ではGrade 2,3(表1)3)の放射線性膀胱炎の発症頻度が急増するといった報告が認められ,照射線量が増えるに従って発症の危険性が高くなることがわかっている4)

 放射線障害の本態は血管内皮細胞による進行性の閉塞性動脈内膜炎であり,組織が傍血管性,低細胞性,低酸素状態になることとされている.病理学的には粘膜浮腫,血管拡張,閉塞性動脈内膜炎,平滑筋の線維化が認められる.通常の創傷治癒に必要な線維芽細胞が機能しないため,長期的には膀胱の線維化をきたす1)

間質性膀胱炎 野田 輝乙 , 雑賀 隆史
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病態

 間質性膀胱炎の原因は今のところ明らかではない.膀胱粘膜の透過性の亢進,肥満細胞の活性化,神経原性炎症,感染,尿毒性物質,自己免疫,低酸素状態などが病因として研究されている.

尿道炎 関田 信之
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病態

 排尿痛と尿道分泌物を症状とする症候群を尿道炎と呼ぶ1).尿道は女性にもあるが,臨床症候を有するのは男性であり,男性症例につく診断名である.尿道炎のほとんどは性感染症(sexually transmitted disease:STD)であり,性的活動期に生じやすい.様々な微生物の感染により発症するが,主な起炎微生物は淋菌とクラミジアである.そのため尿道炎は淋菌性尿道炎,クラミジア性尿道炎,非淋菌性非クラミジア性尿道炎に大別される.

 淋菌性尿道炎は感染後2〜7日の潜伏期ののちに発症する.排尿痛を含めた自覚症状が強く,黄白色で膿性の多量の分泌物が特徴である.

前立腺炎 関田 信之
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病態

 前立腺は,男性の膀胱の出口にあり,尿道を取り囲むように存在する,クルミほどの大きさの臓器である.尿道の一部分を形成すると同時に,精液の成分の一部である前立腺液を分泌する役割を担っている.したがって,前立腺で炎症が起きると,排尿時の痛みや頻尿・残尿感といった排尿症状と,精液に血液が混じる血精液という症状を伴うことになる.前立腺炎は,原因が細菌かどうかで細菌性と非細菌性に,また症状が急性か慢性かによって分類される.臨床的には急性細菌性前立腺炎と慢性前立腺炎が主な対応疾患となる.

Ⅵ 泌尿器疾患 疾患と尿沈渣成分 ②尿路・性器腫瘍

腎癌 福原 秀雄 , 井上 啓史
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病態

 腎癌は,腎実質から発生する悪性腫瘍で,組織型は70%が淡明細胞癌を呈する.まれな組織型としては乳頭状,嫌色素性,転座型などがある.本邦では年間約1万人が腎癌に罹患している.腎癌が発見される症状としては,古典的三徴候(肉眼的血尿,腹部腫瘤触知,腰背部痛)が知られている.最近では,検診やほかの疾患での画像検査で発見される偶発癌の症例が70%以上を占め,古典的三徴候で発見される腎癌は減少している.

 腎癌を発見する低侵襲検査としては,まず腹部エコーで腎腫瘤を発見し,続いて造影CT/MRI検査を実施していく.腎癌に有効な腫瘍マーカーはなく,検診による早期発見が必要である.

腎盂・尿管癌 福原 秀雄 , 井上 啓史
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病態

 腎盂・尿管癌は,腎盂・尿管の尿路上皮から発生する悪性腫瘍で,組織型は尿路上皮癌を呈する.腎盂・尿管癌は,全尿路上皮癌の約5%であり,同じ尿路上皮から発生する膀胱癌に比べてまれな疾患である.50〜70歳の比較的高年齢層に発症することが多く,男性に多く発生する.腎盂・尿管癌の発生リスクとしては,膀胱癌と同様に喫煙,慢性感染症,シクロホスファミドなどの抗癌剤の曝露などがある.また,漢方薬草により,両側性・多発性の腎盂・尿管癌が発生することが知られている.漢方薬草に含まれるアリストロキア酸の代謝物質が腎実質に集積し,腎毒性や発癌性を示す.喫煙は,腎盂・尿管癌の罹患リスクが3倍に増加する.特に45年以上の長期間の喫煙の場合は,罹患リスクが7.2倍に増加する1)

 腎盂・尿管癌は,症状のない血尿が発見の契機となる場合が多い.癌により尿管が閉塞し水腎症を認める場合は,背部痛や腰痛が出現することがある.これらの痛みは尿管結石による症状と類似しており,増悪寛解を繰り返す.

膀胱癌 福原 秀雄 , 井上 啓史
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病態

 膀胱癌は,膀胱の尿路上皮から発生する悪性腫瘍で,組織型が尿路上皮癌を呈する.60歳以降の比較的高年齢層に発症することが多く,男性に多く発生する.膀胱癌は,症状のない無肉眼的血尿を主訴とすることが多い.膀胱癌の発生リスクとしては,喫煙,職業性発癌,膀胱の慢性炎症,シクロホスファミドなどの抗癌剤の曝露などがある.特に喫煙は膀胱癌の罹患リスクが2〜5倍に増加する1).そして喫煙者に発生する膀胱癌は,非喫煙者と比較して腫瘍サイズが大きく,多発する傾向を有し,組織学的にも悪性度の高いものが多い.しかし,喫煙歴のある高齢者など高リスク群を対象とした場合には検尿や尿細胞診が有用とされるが検出精度が低く,スクリーニングマーカーとして有効なものはない.

 また,その診断時において臨床病期TaおよびT1が約60%,上皮内癌が約2〜5%で,これら約70%が筋層非浸潤性膀胱癌といわれる.

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病態

 前立腺は精液の大半を占める精漿を分泌する臓器である.精漿を分泌する腺上皮から発生するのが前立腺癌で,その95%以上は腺癌である.移行上皮癌や扁平上皮癌もまれにみられるが,その頻度は極めて低い.前立腺癌は加齢とともに発生頻度が高くなる.2016年の前立腺癌の罹患者数は全体で4位,男性では1位と近年増加傾向であり,さらなる増加が予想される.死亡者数は全体で8位,男性で6位と比較的予後は良好である.

 前立腺癌は,初期には無症状であるが,腫瘍増大に伴い,前立腺の位置的な関係から排尿症状をきたす.具体的には排尿困難,頻尿,残尿感,尿意切迫感,下腹部不快感,血尿などを生じる.

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病態

 尿膜管は卵黄囊尾方の壁の憩室として発生した尿膜が,膀胱の拡張に伴い巻き込まれ形成された管状物であり,出生後に膀胱底から臍まで続く正中臍索となる.尿膜管は上皮を有する管腔,固有層,筋層,被膜から構成され,独立した構造として胎生期から老年に至るまで存続することが立証されている.尿膜管は膀胱頂部から3〜10cmの円錐状索状物であり,その頂部は臍と膀胱頂部の間の下1/3にあり,内径は膀胱端で8mm,円錐形の頂点で1〜2mmである.約1/3の症例で膀胱端は膀胱粘膜下層で盲端になっているが,残り1/3は膀胱内腔と微細な交通を有している.尿膜は胎生後期までに狭くなり,尿膜管となり出生時には閉じるか,出生直後に正中臍索を形作る.尿膜管遺残とは尿膜管の一部またはすべてが閉じきらない奇形であり,悪性腫瘍の発生は少ない.発生する悪性腫瘍の大多数が癌腫である.

 このように尿膜管は独立した構造であるはずだが,「腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約」では膀胱腺癌の一種として分類されている.全膀胱癌の約0.14〜2.7%を占めており,組織型は腺癌が最も多く86.3%を占め,そのうち53.4%がムチンを産生している.しかし,尿膜管癌は腺癌だけではなく,移行上皮癌や扁平上皮癌およびこれらの癌が混ざりあっているものまでみられ,悪性奇形種や腺棘細胞癌などもみられる.尿膜管癌の原因は現時点でも不明である.

Ⅵ 泌尿器疾患 疾患と尿沈渣成分 ③その他

尿路結石症 磯山 直仁 , 松山 豪泰
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病態

結石存在部位と性差

 尿路結石は部位により上部尿路結石(腎結石,尿管結石)と下部尿路結石(膀胱結石,尿道結石)に分けられ,その比は近年ほぼ一定しており,上部尿路結石が全体の約96%を占める.また男女比は2.4:1で,1965年ごろからほぼ一定であり,男性優位の疾患である1)

前立腺肥大症 関田 信之
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病態

 前立腺は,男性の膀胱頸部から尿道の起始部を取り囲むように存在し,栗の実状と表現される直径4cm程度の器官である.前立腺の働きは,尿道の一部を形成するとともに,精液の一部である前立腺分泌液を産生・分泌することである.前立腺の体積は,性的成熟後40〜50歳までは15mL前後とほぼ一定しているが,その後は加齢とともに増大する.この傾向は人種や地域を問わず普遍的であり,前立腺の肥大は生理的な加齢現象とされる.そのため,年齢が上がれば誰でも前立腺肥大は起こるものといえる.

 一方,前立腺肥大症とは「前立腺の良性過形成による下部尿路機能障害を呈する疾患」と前立腺肥大症診療ガイドライン1)では定義される.すなわち,前立腺肥大症は前立腺の大きさだけで定義されるものではなく,あくまでも排尿症状を伴っているものをいう.

多発性囊胞腎 堀江 重郎 , 河野 春奈
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病態

 多発性囊胞腎は,正式には常染色体優性多発性囊胞腎(autosomal dominant polycystic kidney disease:ADPKD)というが,多発性囊胞腎,もしくはPKDと呼ばれることが多い.その名が示す通り,優性遺伝形式をとる遺伝病であり,遺伝性の腎疾患のなかでは最も頻度が高い.多発性囊胞腎では,両方の腎臓に多数の囊胞が生じ,その囊胞の数や大きさが年齢とともに増加していく.増加,増大した囊胞のために腎臓の働きが悪くなり,腎機能は低下していく.病状には個人差があり,多発性囊胞腎患者の約半数が,70歳までに人工透析や腎移植を必要とする末期腎不全に至る.30〜40代以降に,検診の超音波検査で偶発的にみつかったり,高血圧や血尿の精査でみつかることが多い.

 多発性囊胞腎の原因となる遺伝子はPKD1とPKD2遺伝子であり,患者はこの遺伝子のどこかに変異という遺伝子の傷をもっている.遺伝子は50%の確率で子に遺伝するので,両親のいずれかが多発性囊胞腎の場合,その子どもは50%の確率で多発性囊胞腎となる.

膀胱・腸瘻 多武保 光宏
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病態

 膀胱・腸瘻は膀胱と大腸ないし小腸とに交通(瘻孔)ができる疾患で,原因として憩室炎や大腸癌,クローン病などの腸疾患が多くを占めている.そのほかに,放射線治療や感染,外傷,医原性(術後)などもある.原因として最も多いのは憩室炎(65〜75%)で,次いで悪性腫瘍(10〜15%),クローン病(5〜6%)となっている.好発年齢は55〜65歳だが,クローン病の場合は若年者にも発症することがある.憩室炎患者の約2%に膀胱・腸瘻を経験することが報告され,また,クローン病患者400名を対象とする10年以上の観察で約2%に膀胱・腸瘻を認めたとの報告もある1).発症部位としては,憩室炎の場合は大腸に多く,クローン病の場合は回腸に多いとされている1)

 膀胱・腸瘻の症状には尿路由来ないし腸管由来のものがあるが,早期では尿路症状が主体となる.尿路症状として気尿が最も多く(52〜77%),そのほかに尿路感染症症状として頻尿や尿意切迫などがある(44〜45%)1).膀胱・腸瘻に起因した尿路感染症は,抗菌薬に抵抗性ないし再発性であることがしばしばある.腸管由来の症状には糞尿や肛門のしぶりなどがあり,糞尿に関しては膀胱・腸瘻の36〜51%にみられる1).ただ,膀胱・腸瘻の症状で最も典型的なのは気尿であり,逆に気尿を認めた場合にはまず膀胱・腸瘻の存在を疑うべきである.そこで,膀胱・腸瘻を疑う患者への検査として,まず行うべき尿沈渣について解説する.

膀胱損傷 福原 秀雄 , 井上 啓史
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病態

 膀胱損傷は原因により自然破裂と外傷性破裂に大別される.自然破裂の発生はまれであり,外傷性破裂で発生する場合が多い1).自然破裂が発生する場合は,尿路感染,膀胱腫瘍,膀胱憩室,放射線治療後,長期カテーテル留置,薬剤などによる膀胱壁自体の障害や尿流障害が原因として考えられている.そのほか,限局する硬結,膀胱壁の過伸展,膀胱内圧上昇による膀胱壁の部分的な血流障害により穿孔が誘発されると考えられている.

 外傷性破裂の原因としては,鈍的損傷・鋭的損傷・医原性損傷がある.鈍的損傷は骨盤骨折に伴う場合が多く,70〜95%で骨盤骨折の合併を認める.医原性損傷としては,骨盤内の婦人科領域や泌尿器科領域の開腹手術・腹腔鏡手術に伴う術中損傷がある.婦人科関連手術が52%,泌尿器科関連手術が39%,一般外科手術関連が9%とされている2)

Ⅶ 全身性疾患

高血圧 中野 志仁 , 有馬 秀二
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病態

 血液を全身に循環させるために心臓は血液に高い圧力をかけて動脈に送り出しているが,血圧とはその圧力によって血管壁が内側から押される力のことで,心臓から送り出される血液の量(心拍出量)と血管の硬さ(血管抵抗)によって決定される.高血圧では動脈壁に高い圧力がかかり続けることで動脈硬化が惹起され,心筋梗塞や心不全を含む心血管疾患のリスクが増大する.実際,“健康日本21”では,日本人男性では収縮期血圧が10mmHg上昇すると,冠動脈疾患の罹患・死亡のリスクは約15%増加すると報告されている.したがって,心血管疾患の発症予防ならびに進展・再発予防に高血圧の管理は極めて重要であるが,高血圧は自覚症状に乏しい疾患であるため病識に欠けやすく,未治療者が多いのが問題である.さらに,降圧治療を受けている患者でも,その約半数は管理不十分と推測されている1)

 このようにわが国における高血圧管理はいまだ不十分であり,高血圧管理の改善,さらには国民の血圧水準そのものを低下させるような環境整備が必要と考えられている.

脱水 阿部 倫明
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病態

 脱水は水分や塩分の喪失に対して十分な補給ができない場合に生じる(水分・塩分の摂取不足).脱水の原因としては,発汗・不感蒸泄の亢進(発熱時や高温環境下,激しい運動後など),消化管からの水分喪失(下痢,嘔吐など),不適切な利尿亢進状態,出血,浮腫などが挙げられる.不適切な利尿亢進状態とは,糖尿病性ケトアシドーシスなど高血糖時や過剰な浸透圧利尿剤の使用時に認められる浸透圧利尿亢進,過剰なループ利尿剤・サイアザイド利尿剤・K保持性利尿剤の投与によるNa利尿亢進,未治療の尿崩症や不適切なバソプレッシン受容体拮抗薬の使用による水利尿の亢進などの状態を指す.なお,水多飲時に水利尿の亢進や,高食塩摂取時に圧利尿曲線に従ったNa利尿の亢進が認められるが,いずれも摂取過剰に対する生理学的な利尿現象であり脱水状態にならない.

 脱水の病態は,細胞外液(血液,間質液)や細胞内液の不足による.前者では血管内脱水が生じ有効循環血液量が低下し急性循環不全(低血圧,ショック)が発症しうる.ショックによって賦活される交感神経や副腎機能の亢進した症状(頻脈,四肢冷汗など)にも注意する.後者では痙攣やこむら返りなどの神経学的症状を生じやすくなる.生理学的に慢性的な細胞内液脱水状態である高齢者は重症の脱水になりやすいので注意を要する.

発熱 阿部 倫明
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 発熱の原因の診断には,感染,炎症,腫瘍,内分泌的疾患,精神疾患など多岐にわたることから,病態の鑑別が必要となる.本稿では,最も頻度の高い感染症(特に腎泌尿器感染症)を中心として,症例を通して尿沈渣との関係,治療について述べる.

白血病・悪性リンパ腫 菊池 春人
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病態

白血病

 白血病は造血細胞が骨髄で異常に増殖する悪性腫瘍である.古典的な分類は増殖している腫瘍細胞の由来から骨髄性とリンパ性に分類され,さらにそれぞれ急性,慢性と大きく分類される.急性,慢性という用語はもともと臨床経過を示すものであるが,白血病においては,芽球あるいは分化段階の途中の幼若な白血球が腫瘍化した場合を急性白血病と呼び,分化・成熟を伴って形態としてはほぼ正常な白血球が増殖している場合を慢性白血病と呼ぶ.この古典的な分類は,現在標準的な分類であるWHO(World Health Organization)分類などでは若干捉え方が違う部分もあるが,基本的な考え方として理解しておいてよいと思われる.

 WHO分類では白血病(リンパ腫含む)を細胞形態,遺伝子,染色体や細胞表面マーカーによって分類することで腫瘍細胞の由来を明確にし,治療へとつなげるものであるが,かなり複雑であり,時々改訂されることもあって全体を理解するのは難しいところもある.そのため,現在でもWHO分類の前に用いられていたFAB(French-American-British)分類の名称が(特に急性骨髄性白血病では)しばしば用いられている.

骨髄腫 菊池 春人
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病態

基本的疾患概念

 形質細胞は液性免疫の主役となる抗体(免疫グロブリン)を産生する細胞でリンパ球のB細胞が分化したものである.形質細胞が腫瘍化したものが骨髄腫(形質細胞腫)である.骨髄で多発結節性に増殖する場合がほとんどで,このときは多発性骨髄腫と呼ばれる(英語のmultiple myelomaからMMと略されることも多い).それ以外の病型として,孤立性の増殖をするもの(孤立性形質細胞腫),骨髄以外の軟組織などに発生するもの(髄外性形質細胞腫),白血病化すなわち末梢血に腫瘍細胞が出てくるもの(形質細胞性白血病)などがある.

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病態

 ファブリー病は,ガラクトースとのグリコシド結合を加水分解するα-ガラクトシダーゼの欠損あるいは活性低下により,グロボトリアオシルセラミド(globotriaosylceramide:GL-3)などの非還元末端にガラクトースを結合する糖脂質が,血管内皮や心筋などの様々な細胞に蓄積し,全身の各種臓器障害をきたすX染色体連鎖性の遺伝性疾患である1).従来は,ヘミ接合体の男性にのみ発症すると考えられていたが,ヘテロ接合体の女性においても,男性に比べて軽症ながらも各種症状が出現することがわかっている.本邦の調査では,新生児21,170人中3人(0.014%)がファブリー病と診断されている.また,透析患者では,0.02〜0.2%という頻度が報告されている.

 典型例では,20歳代前半から末梢神経障害に伴う周期的な上下肢痛や知覚異常および発汗低下などが出現し,50歳半ばころから角化血管腫や点状皮疹を認めるようになる.しかし,このような典型的症状を自覚しないまま,成人に至ってから蛋白尿あるいは心肥大などにより,初めて本症の可能性を指摘される症例も少なくない.

貧血 依光 大祐 , 佐々木 環
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病態

 貧血とは,循環赤血球数の絶対数の減少,血液容積の赤血球細胞容積の減少であると定義される.しかし,その測定は容易に行えないため,通常は末梢血のヘモグロビン濃度やヘマトクリット値,赤血球数を用いて判断される.そのなかで血液単位容積当たりのヘモグロビン濃度が酸素運搬能を反映しており,実際の臨床症状に最も直結している.

 貧血の病態を考えるとき,網赤血球に注目する.網赤血球は赤血球の分化・成熟過程において赤芽球が脱核してできるものである.網赤血球が増加した場合,反応性に骨髄で造血の亢進を示し,出血や溶血など骨髄外が原因の貧血を考える.一方,減少した場合,骨髄不全または何らかの理由で赤血球造血が抑制されていること示す.

黄疸 依光 大祐 , 佐々木 環
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病態

 ビリルビンは脾臓で赤血球中のヘモグロビンから作られる(間接ビリルビン=非抱合型ビリルビンという).肝臓に運ばれ,肝細胞内でグルクロン酸と抱合されて水溶性の直接ビリルビン(抱合型ビリルビン)となる.直接ビリルビンは胆汁中に排泄されて,胆汁酸とともに十二指腸に流入する.そして,腸内細菌によってウロビリノーゲンに分解される.ウロビリノーゲンの多くは,酸化されてステルコビリンとなり便中に排泄される.便が黄褐色であるのはステルコビリンによるものである1).しかし,肝臓が何らかの原因で病的状態になると,全身倦怠感などの自覚症状が出現する.さらに血液中のビリルビンが増加して皮膚や眼球が黄染した状態,いわゆる黄疸を認めるようになる.

 黄疸の原因は,①赤血球の破壊の亢進(溶血性黄疸),②肝細胞障害(肝細胞性黄疸),③胆管閉塞による腸管への通過障害(閉塞性黄疸),に分けられる.

Ⅷ 術後・処置後

尿路変向術後 久米 春喜 , 宿谷 賢一
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尿路変向術の概要

 尿路変向術とは本来膀胱に流入していた尿路を別の場所に変向する手術である.ほとんどは,浸潤性膀胱癌による膀胱全摘除術後の尿路の変向である.放射線照射後,結核,間質性膀胱炎など悪性腫瘍ではないが膀胱に萎縮が起こった,血尿のコントロールが不良である,などの理由で尿路を変向することもある.また,直腸癌や子宮癌など他臓器の癌の浸潤で膀胱摘除が行われることも比較的多い.

 尿路変向の主な術式は回腸導管術,自然排尿型代用膀胱,尿管皮膚瘻である.以前は自己導尿型の代用膀胱も作成されていたが,最近ではほとんど見られなくなった(Ⅲ.尿路の処置・手術の項目でも触れられているので参照されたい).

前立腺生検後 西松 寛明
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前立腺生検後にみられる合併症

 前立腺生検の合併症発生時の管理や対策は大切である.本稿では,発生頻度が高く(軽微なものも含めると生検後の40%以上に認められる),尿沈渣所見からその発生を察知できる合併症として,血尿について述べる.なお,発生頻度が最も高い合併症は感染であり,生検前の予防的抗菌薬投与が推奨されている.しかし,近年の多剤耐性菌増加に伴う経直腸生検後の感染症合併症への対策が課題とされている.

眼底検査後 川本 進也 , 小関 紀之
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病態

 眼底検査(蛍光眼底造影検査)に用いられる造影剤(色素)にはフルオレセインとインドシアニングリーンの2つがあり,特殊なフィルターを通した光を当てると蛍光を発する性質を用いて眼底カメラで連続して撮影する.青色光または赤外光フィルターを通して眼底を照明し,造影剤(色素)から発した蛍光だけを撮影し,血管内の血液の流れの状態や,通常の眼底検査では発見が困難な病変を詳しく調べることができるため,糖尿病性網膜症や網膜静脈閉塞症,加齢黄斑変性などの診断には欠かせない,眼科で頻用されている検査である.血管内に投与されたフルオレセインは急速に全身の血管および血管外腔に拡散し,粘膜と皮膚は1分以内に染色され,皮膚は黄緑蛍光色に染色される.これは網膜と中枢神経系の血管を除いてすべての血管から色素が漏れ出るためである.投与された色素は血管内で急速に希釈され,2〜3回目の再循環でほとんど認められない濃度になる.

 フルオレセインは肝で代謝され,大部分は尿中から排泄される.フルオレセインは腎に対して薬理作用を有さないため,腎障害では禁忌ではなく,肝障害では控えるとされている.通常尿に流れてこない物質であるフルオレセインが大量に流れてきた場合は尿細管上皮細胞が再吸収を行い,閾値を超えてしまうほど再吸収を行った場合は,破綻して尿細管基底膜から剝離し尿中に漏れてしまう.

化学療法後 川本 進也 , 小関 紀之
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病態

尿細管機能障害(腎細胞への直接作用)1)

 抗癌剤やその代謝物による尿細管への直接的な障害であり,主なものにシスプラチンやイホスファミドなどが挙げられる.代表的なシスプラチンは静脈内投与後,2時間程度で血漿蛋白と結合するが,非結合シスプラチンは糸球体で濾過され近位尿細管へ移行し,尿細管壊死を引き起こす.このため,尿中シスプラチン濃度を低くするには水分負荷と利尿剤の使用が有用である.

腎移植後 川本 進也
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病態

 1950年代に腎移植が開始されて以来,移植免疫反応の解明と免疫抑制薬の進歩によりその治療成績は著しく向上し,拒絶反応はコントロールできるようになってきているが,免疫抑制薬による感染症はいまだ大きな問題である.

 免疫抑制薬が選択性を持つようになり,腎移植後感染症も変化している.T細胞機能を選択的に抑制するカルシニューリン阻害薬(シクロスポリン,タクロリムス)が免疫抑制薬の主体となり,細菌感染症からウイルス感染症に変化してきている.移植後ウイルス感染症は,新たに曝露されての発症より,レシピエント内に潜在していたウイルスの再活性化やドナーから持ち込まれたウイルスが免疫抑制療法により再活性化されることで発症することが多い.

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目次

バックナンバー一覧

基本情報

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臨床検査
62巻4号 (2018年4月)
電子版ISSN:1882-1367 印刷版ISSN:0485-1420 医学書院

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