臨床検査 62巻3号 (2018年3月)

今月の特集1 症例から学ぶ血友病とvon Willebrand病

佐藤 尚武
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 血友病とvon Willebrand病は代表的な出血性疾患であり,病名としてはよく知られています.しかし,実際は比較的まれな疾患であり,コンスタントに症例を経験できる施設は多くないと予想されます.

 一方,これらの疾患は,診断に際して臨床検査が重要な役割を果たす疾患でもあります.そのため,検査の担当者はこれらの疾患について,ある程度理解しておくことが求められます.

 そこで,症例の提示による疑似体験を通して,これらの疾患の特徴や検査のポイントを知っていただくことを目的として,本特集を企画しました.血友病やvon Willebrand病の経験がほとんどない施設もあると考えられますが,本特集を通じてこれらの疾患に対する知識・理解を深めていただくことを期待しています.そして,これらの疾患に遭遇した際は,当該患者さんの診断に際して,臨床検査がより大きな貢献ができるよう努めていただきたいと願う次第です.

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Point

●血友病Aは第Ⅷ因子,血友病Bは第Ⅸ因子の遺伝子変異を病因として,血液中の第Ⅷ因子または第Ⅸ因子の量的あるいは質的異常によって発症する出血性疾患である.

●血友病AとBはX連鎖劣性遺伝形式をとり,遺伝学的に患者は男性で,反復性の関節内出血や筋肉内出血などの深部出血を特徴とする.

●血友病は,出血症状,家族歴,検査所見によって診断する.

●血液凝固検査はスクリーニングから確定診断まで重要であり,さらに凝固因子製剤の補充療法の効果のモニタリングにも必要である.

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Point

●後天性血友病Aは凝固第Ⅷ因子に対する自己抗体が出現し,皮下出血や筋肉内出血などの出血症状をきたす疾患で,重篤な出血症状によって死亡する場合もある.

●凝固検査でプロトロンビン時間(PT)正常,活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)延長,第Ⅷ因子活性低下,VWF活性正常,第Ⅷ因子インヒビターが陽性の場合,後天性血友病Aと診断する.

●止血治療は,第Ⅷ因子を経由せずに,主に外因系凝固因子を活性化させて凝固反応を促進するバイパス止血療法が主体である.

●インヒビターを除去するための免疫抑制療法によって,大部分は寛解に至るが,一部の症例は出血症状あるいは免疫抑制療法に伴う感染症によって死亡する.

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Point

●von Willebrand factor(VWF)の構造について解説し,マルチマー構造蛋白の特性について理解を深める.

●先天性出血性疾患で頻度の高いvon Willebrand病(VWD)の臨床症状や病型分類について述べる.

●正確なVWDの診断は治療製剤の選択にとても重要で,VWFの抗原量やリストセチンコファクター(Rcof)活性値などの各種検査結果の解釈ができることは大切である.

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Point

●大動脈弁狭窄症患者に貧血を認めれば,後天性von Willebrand病によって消化管angiodysplasiaからの出血を生じるHeyde症候群を疑う.

●Heyde症候群を疑えば,von Willebrand因子マルチマー解析を行い,高分子マルチマーの欠損を確認する.

●Heyde症候群によって消化管出血による重症貧血を生じていても,大動脈弁置換術や経皮的大動脈弁留置術(TAVI)治療によって治癒が期待できる.

血友病の検査 井上 まどか
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Point

●交差混合試験における混合血漿の被検血漿比率は,即時型で0,10,20,50,100%の5点,遅延型で0,50,100%の3点が有用である.

●後天性血友病における凝固因子活性定量や凝固因子インヒビター定量では,被検血漿中の第Ⅷ(第Ⅸ)因子が測定に影響を及ぼすことがある.

●活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)試薬は試薬の組成によって多くの種類が市販されており,凝固因子感受性,ヘパリン感受性,ループスアンチコアグラント(LA)感受性などにおいて試薬間差がある.

●検査に使用するAPTT試薬の特長を理解しておくことが重要である.

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Point

●von Willebrand病(VWD)の診断および病型分類には,von Willebrand因子(VWF)抗原量(VWF:Ag),リストセチンコファクター活性(VWF:RCo),第Ⅷ因子活性の測定と臨床症状から,総合的に判断する.

●血液型がO型の人はVWF:Ag,VWF:RCoともに低めの値を示すので,注意が必要である.

●先天性と後天性VWDとの鑑別には,基礎疾患の検索や家族歴の聴取が重要である.

今月の特集2 成人先天性心疾患

河合 昭人
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 先天性心疾患患者は,医学の発展に伴い小児だけの問題ではなくなってきました.心エコー検査を実施するなかで,未治療患者や妊娠・出産にかかわる評価や,術前・術後の評価など,様々なケースの先天性心疾患患者と遭遇するようになりました.

 今後,増え続けていくであろう成人先天性心疾患の疫学から,術式の解説,また,術前の心エコーの評価方法をわかりやすく解説していただけるよう執筆をお願いしました.心エコー以外のモダリティーによる画像診断も飛躍的に進歩しています.それぞれの利点や欠点を踏まえたなかで,心エコー検査を見直す機会となればと思います.女性では,妊娠・出産といった人生を取り巻く大きな問題点とその評価方法にもクローズアップいたしました.

 担当業務の方はもちろん,他のモダリティーなどの担当業務でない方も興味深くご覧いただける内容となっています.皆さんのスキルアップの一助となれば幸いです.

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Point

●医療の進歩に伴い先天性心疾患患者の多くが成人期に到達するようになったが,決して予後は良好ではなく,これら成人先天性心疾患(ACHD)は診療体制を含め循環器診療のなかで大きな問題となっている.

●ACHDでの死因は心不全と突然死が多い.

●わが国ではACHDを包括的に診療できる施設は限られており,診療体制の構築は急務である.

●日常診療でよく遭遇する先天性心疾患〔心房中隔欠損(ASD),心室中隔欠損(VSD),動脈管開存など〕については十分に理解しておかなくてはならない.

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Point

●成人期の先天性心疾患に対する手術には初回修復術と小児期修復術後の再手術・追加手術があり,疾患による特殊性,先行術式による特殊性,成人期手術の特殊性がある.

●成人期の先天性心疾患に対する手術の多くは小児期修復術の後遺症(合併症・遺残症・続発症)に対する手術介入であるが,特に続発症に対する再介入が重要である.

●代表的な疾患としてEbstein病・房室中隔欠損(AVSD)・Fallot四徴症(TOF)・完全大血管転位(TGA)・修正大血管転位(ccTGA)・大動脈弁狭窄(狭小大動脈弁輪)・機能的単心室などが挙げられる.

●初回修復術の概要・成人期再手術の背景や術式の概略を知っておくことは,診療・検査に極めて有用である.

●再手術の適応は弁逆流・不整脈・心外導管機能不全などが中心で病悩期間の長期化に伴い多くの修飾が加わっていることが多いうえに,現状では明確な適応基準が不明な例も多い.

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Point

●先天性心疾患の診断には区分診断法が重要であるが,それだけでは診断は完結しない.欠損孔だけでなく,半月弁や房室弁の形態診断が重要である.

●先天性心疾患では後天性心疾患と異なり短絡をもつことが多く,体血流量と肺血流量が異なることが多い.

●肺高血圧は手術適応を決定するためには重要な因子であり,肺動脈収縮期圧だけでなく,肺血管抵抗の評価が重要である.

●先天性心疾患では診断名が同じでも,病型や合併病変によって術式が異なることがあるため,どのような手術方法が可能であるかを考えながら診断する.

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Point

●生理機能検査技師も心エコー図法以外の画像評価法の特徴を理解しておくことで,病態への理解が深まるのみでなく,心エコー図法評価の精度を向上させることができる.

●右室容積測定のゴールドスタンダードは心臓MRIである.ほかに肺体血流比(Qp/Qs)の評価に優れている.

●心臓CTは空間分解能が非常に高く,また,retrospectiveな構造解析が可能である.しかしながら,造影剤と放射線被曝についての影響は常に念頭に置くべきである.

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Point

●成人先天性心疾患(ACHD)患者の予後規定因子として肺高血圧(PH)は重要である.

●PHを評価するためには,主な5つの病態(臨床分類第1〜5群)を知り,なかでも先天性心疾患シャント性肺動脈性肺高血圧(CHD-PAH)を理解する.

●PHの評価法は,心エコーと心臓カテーテル検査が中心となるが,病態に応じて適切な補足検査を計画し,CHDの血行動態を把握する必要がある.

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Point

●妊娠・出産を通じて,循環動態はダイナミックに変化する.先天性心疾患をもつ多くの女性が安全に出産する一方,一部の病態では,母児の生命も脅かすハイリスクなものとなる.

●循環血漿量や心拍数の増加,血管抵抗の変化,凝固亢進,血管脆弱化など,妊娠による生理的変化を時間軸と併せて理解し,心疾患合併妊娠の診療に当たる.

●エコー検査は非侵襲的で胎児被曝を与えない,妊娠中に最も適した心スクリーニング検査である.ナトリウム利尿ペプチド値は,心疾患合併妊娠における合併症を予測する.

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AAMLSで痛感した日本の学術レベルの高さ

 アジア医学検査学会(Asia Association of Medical Laboratory Scientists:AAMLS)は1997年に設立され,4年ごとに開催される学会です.第1回は名古屋,その後,上海,横浜,シンガポールで開催され,今回は大韓民国釜山でThe 5th Congress of the Asia Association Medical Laboratory Scientists(第5回AAMLS)が行われました.会期は2017年9月22〜24日の3日間,会場は釜山国際会議場(BEXCO)でした.BEXCOは2002年日韓合同開催のワールドカップの抽選会が開かれた場所であり,近未来的なデザインが印象的な建物でした.

 学会会期中を通して,日本・韓国のほかに台湾・フィリピン・インドネシア・中国・タイ・シンガポールなどのアジア周辺を含む17カ国から5,765名が集い,口頭発表57演題,ポスター発表265演題全てが英語で発表されました.ポスター発表では,韓国内から154演題,国外から111演題(そのうち日本から31演題)が発表され,韓国内・国外からそれぞれ10名の優秀ポスター賞が選出されました.国外の10名中日本人が5名も受賞し,驚くことに名古屋から3名,名古屋大学医学部附属病院医療技術部臨床検査部門・菊地良介さん「Circulating pan VEGF-A and VEGF-A165b balance is associated with pulmonary hypertension-subtypes」,名古屋大学医学部附属病院医療技術部臨床検査部門・名倉鮎里さん「How can we avoid false-report of blood coagulation test?—our laboratory criteria to find blood sampling failure—」,名古屋第二赤十字病院医療技術部臨床検査科・岩田英紘さん「The significance of “Non-classical” HER2 FISH results of 2013 ASCO/CAP guideline in breast cancer」が受賞しました.

Salon deやなさん。・10

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 「ピピピピピ」アラームが耳元で鳴る.眠い.午前5時,外は暗い.就寝直前まで悩んだ「ウェイクアップラン」への参加.

 第50回中四国支部医学検査学会の新企画だ.シンポジストとして学会に参加する私は,何を血迷ったのか“新企画”という文字に胸の高鳴りを覚え,興奮状態で申し込んでいた.しかし,この1年以上,走るという行為をしていない現状に震えた.

Crosstalk 地域医療×臨床検査・4

迅速検査が示す道標 寺裏 寛之
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 へき地での診療では,高度な対応が必要な場合には後方病院に診療を依頼することがある.われわれの勤務する病院では約20km離れた地域医療支援病院に診療をしばしば依頼している.少しでも早く高度な治療を受けるためには迅速かつ的確な診断が必要となる.1分1秒も無駄にできない.このようなときに有用な手段としてPOCT(point of care testing)がある1).POCTとは,医療現場でリアルタイムにデータが得られる臨床検査のことである.今回は,POCTが有用であった経験を紹介する.

 40歳代の男性が,夜間の前胸部不快感を主訴に当院に初診した.来院時の意識は清明であり,呼吸苦はなく,血圧は143/90mmHgで不整脈もなかった.疼痛は最大時と比較して1/10となっていたこともあり,笑顔もみられ,一見,問題ないようにもみえた.訴えをさらに詳しく聞くと,胸部不快を感じるようになったのは3〜数日前からで,冷汗を伴うことがあり,いずれも15分程度で自然に軽快していた.既往歴には高血圧症があった.糖尿病はなく,喫煙者であった.以上から不安定狭心症あるいは心筋梗塞の可能性があると考えた.心筋梗塞は致死的な疾病であり,経皮的冠動脈形成術までの時間が15分遅れるごとに死亡率が上昇する2)

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■治療薬物モニタリング(TDM)

 一般に,薬物の効果・副作用と最も相関する因子とされるのが,薬物の体内における濃度推移(曝露量)である.そこで,薬物の体内における血中濃度を測定して,その効果を確実にし,副作用を回避するために行われるのが治療薬物モニタリング(therapeutic drug monitoring:TDM)である1).わが国においては,1980年に臨床現場でTDMに対する診療報酬が認められて以来,すでに約40年近くが経過し,個々の患者への薬物療法の最適化を行う技術として発展してきた.現時点で,TDMの診療報酬が認められている抗菌薬と抗真菌薬は3薬効分類,7薬剤である(表1).

 本稿では,日常の臨床検査業務に必要な抗微生物薬のTDMの知識について解説する.

Essential RCPC・2

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症例

54歳,女性

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目次

バックナンバー一覧

次号予告

あとがき 関谷 紀貴
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 昨年,棋士の羽生善治氏が史上初の“永世七冠”を獲得したというニュースがありました.名人,王位,王座,王将,竜王,棋王,棋聖という7つのタイトルをそれぞれ通算7期以上獲得したことを意味しており,他と比較することが困難な偉業を達成されました.年明けの1月5日には,棋士では初めてとなる国民栄誉賞受賞が発表されています.

 昨年の夏,その羽生氏が人工知能(AI)研究を積極的に推進しているNTT副社長でNTT武蔵野研究開発センタの篠原弘道氏と対談された記事を拝見致しました.AIといえば,将棋や囲碁の領域においてもさまざまなソフトウエアが開発されていますが,一般のニュースでは“人間対AI”という枠組みでの話題になりがちです.しかし,対談ではAIと人間それぞれの強み・弱点に触れながら,どのように社会へ組み込んでいくかという内容が語られていました.そのなかで羽生氏は,AIが一番得意なことは膨大な情報処理から導かれた最適化であること,最適化は確率的に以前よりよくすることであり絶対的に正しいものではないこと,暮らしのなかでAIが出す答えを人々が“正しい”と勘違いしやすくなる可能性があること,について触れるとともに,“人間を中心として,人が暮らしていくなかにAIがどうあるべきかという視点で普及”することへの願いを述べておられました.既存の情報処理のみから導かれた結果を,人間がきちんと“解釈”して使用することの重要性を強調されており,さまざまな分野でAIの導入が進みつつあるなかで,本質的な視点が含まれた対談であると感じました.

基本情報

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臨床検査
62巻3号 (2018年3月)
電子版ISSN:1882-1367 印刷版ISSN:0485-1420 医学書院

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