臨床検査 62巻5号 (2018年5月)

今月の特集1 肝線維化をcatch

山田 俊幸
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 近年,肝疾患の様相は大きく変わりつつあります.多くを占めたウイルス性肝炎が減少傾向にあり,生活習慣に関連する病態が増加傾向にあります.しかし,基礎病態は異なっても慢性肝障害の行きつく先は,肝硬変であり,肝癌です.肝硬変は肝の線維化であり,サイレントに進行し,捉えにくいものです.本特集は,この線維化についての理解を深め,早期診断について学習することを目的としました.まず,肝線維化の全体像を臨床的にオーバービューし,次に線維化の本態を基礎医学的な観点から解説いただきました.そして,線維化を捉える武器としてのバイオマーカーと超音波診断を取り上げ,最近の知見を紹介いただきました.最後に,診断としての意味だけではなく,線維化を理解するうえで病理学的な解説をいただきました.検体・生理・病理検査を総動員した“線維化のキャッチ”に役立てていただけたら幸いです.

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Point

●肝癌の予後は非常に悪いため,肝癌の母体となる肝硬変に至る前に肝線維化を抑制する必要がある.

●肝線維化の診断は成因となる肝疾患によって異なるため,基礎疾患の精査を併せて行う.

●肝生検の合併症は少なくなく,肝線維化診断には非侵襲的なバイオマーカーやエラストグラフィを積極的に活用することが望ましい.

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Point

●星細胞の活性化が肝線維化の進行における中心的イベントである.

●慢性肝障害では星細胞が持続活性化し,組織にⅠ型コラーゲンが蓄積することで,肝線維化の進行へとつながる.

●肝の常在細胞に加えて,B細胞,NK細胞,NKT細胞,マクロファージ系細胞など,多くの免疫細胞も線維化の進行や改善に関与している.

●慢性肝疾患における肝線維化は可逆的であり,肝硬変に至っても原因に対する治療介入によって線維化の改善が得られる.

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Point

●WFA-M2BPは肝臓の線維化の進行度によって上昇する,非侵襲的な肝線維化評価が可能な血清糖鎖マーカーである.

●WFA-M2BPの全自動化測定法であるM2BP糖鎖修飾異性体(M2BPGi)は従来使用されている線維化マーカーであるⅢ型プロコラーゲンN末端ペプチド(PⅢNP)やヒアルロン酸,Ⅳ型コラーゲンに比べ良好な線維化診断能を有する.

●M2BPGi値を経時的に測定することで,肝線維化評価だけでなく肝発癌予測も可能になる.

●M2BPGiカットオフラインはC型慢性肝疾患に比べて,B型慢性肝疾患,非アルコール性脂肪性肝疾患では低く,基礎疾患を踏まえて評価する必要がある.

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Point

●弾性体である生体に振動を与えると,せん断波が生じる.超音波でその伝搬速度を計測すれば弾性率が求められるため,組織弾性を定量的に評価することができる.

●弾性体においては,加えられた外力が同じならば硬いものほど歪みが小さく,軟らかいものほど歪みは大きい.超音波でこれを計測することで,相対的に組織の弾性を評価することができる.

●超音波による肝組織弾性評価では,組織を変形させるために,①直達外力,②収束超音波による音響放射圧(ARFI),③心拍動に由来する組織の振動のいずれかが用いられる.

●超音波による定量的肝組織弾性評価では,線維化との強い相関が示されており,せん断波伝搬速度の周波数分散性による粘性評価や,減衰による組織の脂肪化評価も加えた,多角的な組織性状評価に期待が寄せられている.

肝線維化の病理像 中沼 安二
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Point

●肝線維化は慢性の肝胆道系疾患で,持続する肝細胞傷害に関連して発生する.同時に,不完全な肝細胞再生も出現する.

●小葉中心性,肝細胞周囲性に線維化の進展する疾患として,アルコール性肝疾患や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)があり,門脈域およびその周囲の線維化の進展を示す疾患として,慢性肝炎や慢性胆汁うっ滞性疾患がある.

●線維化の進展,隔壁形成,線維性に拡大した門脈域や中心静脈域を連結する架橋性線維化の発生,進展,および同時に発生する肝細胞の無秩序な再生,肝小葉構造の改変,分断,結節化を伴い,肝硬変に至る.

今月の特集2 不妊・不育症医療の最前線

河合 昭人
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 ライフスタイルの多様化で晩婚化が進み,不妊・不育症治療を受ける方の年齢も高齢化し,今後,悩みを抱える方が多くなることが予想されます.

 今回の特集では,不妊症に関しては男性と女性で章分けし,それそれぞれの解説をお願いしています.一般的に女性側が大きくクローズアップされがちですが,男性側の原因にもスポットを当てています.不育症では,病態の解説と診断における臨床検査の役割について最新の知見を交えて執筆をお願いしました.

 また,臨床検査技師にはまだまだなじみの少ないエンブリオロジスト(胚培養士)の現状や重要性について解説をお願いし,今後の課題や展望も論じてもらいました.

 担当業務の方はもちろん,他のモダリティーなどの担当業務でない方も興味深くご覧いただける内容となっております.皆さんのスキルアップの一助となれば幸いです.

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Point

●近年,晩婚化・初産年齢の上昇によって生殖医療を受ける患者年齢が高齢化しているため,妊娠率が低下し流産率は増加している.

●わが国は世界有数の生殖補助医療大国となっており,少産・少子化が進行するなか,出生児の約20人に1人は生殖補助医療によって生まれた児である.

●生殖医療の進歩によって,妊娠を望めなかった夫婦でも子をもつことが可能になった一方,新たな医学的,社会的,倫理的,法律的な問題が提起されている.

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Point

●結婚年齢の上昇によって,挙児を希望する患者の高齢化は著しい.そのため,本来の不妊因子以外に高齢化に起因する妊孕性の低下が大きな問題となっている.

●不妊症の原因検索のための1次検査に関しては簡便で,侵襲性が少なく,外来で可能な検査が望ましい.複数の原因が存在することもあることから,必ず網羅的にスクリーニング検査を施行することが重要である.

●不妊原因を正確に診断し,原因に則した治療を選択することが原則である.身体的,経済的に負担の少ない治療法から,順次ステップアップすることが基本となる.

不妊の診断・治療(男性) 小宮 顕
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Point

●男性の生殖年齢人口の8%が不妊症とされ,男女別では不妊症の原因の約半数は男性側にあるといわれている.しかしながら,男性因子の診断や治療を担う泌尿器科の生殖医療専門医がまだまだ不足している.

●男性不妊症の原因として最も多いのが特発性精子形成障害であるが,実際にはタバコや飲酒,高温環境といったさまざまな生活習慣,肥満,内服薬などが精子形成に影響を与える.

●診断される原因として最も多いものが精索静脈瘤である.触診や視診で明らかなものは手術の適応とされ,効果的である.体外受精や顕微授精の治療成績向上にも貢献しうる.

●最も治療に難渋するのが非閉塞性無精子症である.顕微鏡下に精巣内から精子を探索するmicro-TESEが行われるが治療成績は十分とはいえない.

不育症の診断と治療 杉浦 真弓
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Point

●不育症(RPL)の4大原因は,抗リン脂質抗体症候群(APS),子宮奇形,夫婦染色体均衡型転座,胎児(胎芽)染色体数的異常である.

●2回以上の早期流産,1回以上の子宮内胎児死亡,妊娠高血圧腎症や胎盤機能不全による34週未満の早産のときに,APSを疑う.

●2種類のループスアンチコアグラント(LA)として,リン脂質中和法,希釈ラッセル蛇毒法の両方とも測定する.

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Point

●エンブリオロジスト(胚培養士)は不妊治療の体外受精において重要な役割を果たす存在であり,その職務には高度な技術と多くの知識が必要となる.

●現在,資格には2つの学会による“認定臨床エンブリオロジスト”と“生殖補助医療胚培養士”,“生殖補助医療管理胚培養士”という資格認定がある.各学会の認定試験を合格することで取得できるが,取得後も更新手続きが必要となる.

●エンブリオロジストが担う仕事には検卵,精子処理,媒精,卵子の裸化,顕微授精(ICSI),胚の観察,胚の凍結・融解など多岐にわたるが,今回その手技の内容を紹介する.

Crosstalk 地域医療×臨床検査・5

木もみて,森もみる 寺裏 寛之
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 “一患者,一疾患”なのだろうか? 自分に問いかけて,広い視野で診察するように心掛けている.超高齢社会の真っただ中にある地方の地域医療の現場では,複合疾患を有し,複数のプロブレムを抱えている患者に遭遇することが多い1).例えば,高齢者は無症候性細菌尿の頻度が高い2).よって,熱性疾患の精査で細菌尿を認めても,尿路感染症と診断するには,複数の検査を見渡して判断しなければならない.また,インフルエンザの流行警報が毎年のように発令されるが,高齢者はインフルエンザが重篤化して合併症を誘導するため,インフルエンザ1つにしても診断の慎重さが必要である.

 岩手県立千厩病院(以下,当院)救急外来に,92歳の女性が発熱を主訴に来院した.来院5日前,同居のひ孫に咳嗽,喀痰の症状があった.次に,2日前から同居の嫁にも咳嗽,喀痰の症状が始まった.同居の家族は医療機関に受診することなく,自然軽快した.患者は1日前から咳嗽,喀痰の症状が出現した.倦怠感もあり,自宅での検温で38℃を超えたために救急外来を受診した.身体所見では,咽頭発赤ははっきりせず,呼吸音は明らかな湿性ラ音なし,下腿浮腫なし,腹部は平たん・軟・圧痛はなく,肋骨脊柱角の叩打痛もなかった.血圧133/68mmHg,脈拍82/分,SpO2 94%,体温38.3℃であった.経過からみて,同居家族からの感染が疑われた.

生理検査道場・1【新連載】

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概要と適応

 現在,日本国内で流通している主要な血圧脈波検査装置には,上腕足首間脈波伝搬速度(brachial ankle pulse wave velocity:baPWV)と足首上腕血圧比(ankle brachial index:ABI)を連続計測する装置(form®シリーズ,フクダ電子),もしくは心臓足首血管指数(cardio ankle vascular index:CAVI)とABIを連続計測する装置(VaSera® シリーズ,フクダ電子),の2機種があります.当検査の一般的な適応は閉塞性動脈硬化症,もしくはその疑いとなります.現在では国内の総合病院では導入していない施設はほとんどみられない状況にあります.当講座ではform®シリーズの検査結果を用いて,各指標のそれぞれの意味や判読の基礎的な手順,判読のポイントや疾患によるピットフォールの典型例などを解説します.さらにform®シリーズでは,バージョンや設定による自動判定機能・所見記載内容の違いがあるため,当講座では数値や脈波形情報から判断するための考え方も補足します.

Salon deやなさん。・11

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 「うちの柳田を! 柳田のほうが面白いですから!」

 職場のボスが私をスケープゴートにしようとしていた.ボスがずっと断り続けていたラジオ番組への出演.私を差し出して,自分は逃れるつもりだ!

Essential RCPC・3

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症例

22歳,男性.

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■はじめに

 日本産科婦人科学会では,“生殖年齢の男女が妊娠を希望し,ある一定期間,避妊することなく通常の性交を継続的に行っているにもかかわらず,妊娠の成立をみない場合”を不妊と定義し,さらに“その一定期間については1年というのが一般的である”としている.わが国において,女性のキャリア志向や晩婚化などの理由による挙児希望年齢の上昇に伴い,不妊検査・治療を受ける夫婦の割合は6組に1組まで増加している1).特に体外受精をはじめとする生殖補助医療は急激に増加し,2015年には42万周期施行され,51,000人が出生した.これは2015年の出生児の約20人に1人の計算となる2)

第24回第1種ME技術実力検定試験

第5回栄養管理研修会

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目次

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「見えかたのメカニズム」から考える必読の書

 小林弘明先生のご執筆による胸部画像診断の入門書『誰も教えてくれなかった胸部画像の見かた・考えかた』が刊行された.胸部単純X線写真に関する数多くの教科書が存在するが,本書はこれまでの他書とは異なる視点で記載されている.すなわち「画像の見えかたのメカニズム」から考える読影法が紹介されている.どうしてその陰影・線が見えるのか,反対に見えないかを解説しながら,陰影・線の写り方,見かたを習得し,1枚の画像からより多くの情報を取り出すことを目標としている.

 その目標を達成するために,本書には多くの工夫がなされている.まず,Introductionのところで,本書で使用されている最低限押さえておきたい画像ないしシェーマが紹介されており,特に重要なものは付録の「読影時必携!お役立ちシート」に掲載され,実際の画像を読影する際に有用である.CTの横断像やMPR画像が適切に配置されており,読者が胸部単純X線写真上の「陰影や線の成り立ちを考える」ことを容易にしている.また,さまざまな知識の習得と整理を目的として,たくさんのコラムが散りばめられている.本書には極めて多数の手術写真や病理標本,細胞診,組織像が掲載されているが,これらは,ほぼ全てが著者によって撮影されたものである.呼吸器外科医でありながら,画像診断から病理診断までを一人で手がけてこられた著者だからこそなし得た偉業であり,著者の豊富な知識と経験に基づいた完成度の高い専門書である.

「検査と技術」5月号のお知らせ

バックナンバー一覧

次号予告

あとがき 佐藤 尚武
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 本号が書店に並ぶのは晩春から初夏のころでしょうか.この「あとがき」は冬が終わり,春に向かおうとする時期に書いていますが,今年の冬を代表する大きな話題の1つに,2月に韓国の平昌(ピョンチャン)で開催された冬季オリンピックがあります.日本勢は羽生結弦選手のオリンピック2連覇(フィギュアスケート)や,小平奈緒選手,高木姉妹を中心とする女子スピードスケート陣の活躍で,過去最多の13個のメダルを獲得しました.内訳は金メダルが4個,銀メダルが5個,銅メダルが4個です.私が冬季オリンピックを見始めたころは,日本にとってメダルを獲得することはなかなか手の届かない目標であり,メダル0個は当たり前でした.これを考えると隔世の感があります.

 日本は第2回大会から冬季オリンピックに参加していますが,私が初めてテレビ中継を見た第10回のグルノーブル大会までは,メダル獲得は猪谷千春選手(男性です)のスキー回転での銀メダル(第7回,コルチナ・ダンペッツォ大会,1956年)ただ1個でした.続く第11回札幌大会で,スキージャンプ陣が70m級(現在のノーマルヒル)で金,銀,銅メダルを独占したことは強烈な記憶であり,いまでも鮮明に覚えています.メダルを獲得した笠谷,今野,青地の3選手は“日の丸飛行隊”と呼ばれていました.ここで流れが変わり,次の第12回インスブルック大会では,またメダルは0個でしたが,第13回のレークプラシッド大会以降は毎回1個以上のメダルを獲得するようになりました.最近では複数個のメダルが当たり前になっていますが,第20回のトリノ大会では危うくメダルが途切れるところでした.しかし荒川静香選手が女子フィギュアスケートで金メダルを獲得し,救世主となります.日本の冬季スポーツは確実に強くなっているようです.

基本情報

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臨床検査
62巻5号 (2018年5月)
電子版ISSN:1882-1367 印刷版ISSN:0485-1420 医学書院

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