整形・災害外科 64巻5号 (2021年4月)

特集 運動器のバイオメカニクス―Cutting Edge 2021:新しい解析手法と知見

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運動器は,骨・軟骨,関節,筋・靱帯,神経などから構成され,身体の骨格を形成し姿勢を制御して運動を生み出します。すなわち,われわれが日常生活を営み豊かな毎日を享受できるのは正常な運動器の機能の上に成り立っているといっても過言ではありません。一方,バイオメカニクス(biomechanics)は身体の構造や運動を力学的に個体レベルから細胞レベルまで解析評価する学問分野で,運動器の正常機能解明や各種病態の評価,医療機器の開発などに幅広く応用されてきました。

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要旨:従来型X線撮影装置の限界を克服したBiplanar slot-scanning full body stereoradiography(EOS)は,鮮明な2方向の撮影画像および三次元モデリングによる正確なアライメント計測,立位全身評価,X線被曝量低減の特徴を有する新しいX線装置である。全身のアライメントが悪化するほど健康関連QOL(HRQOL)は低下するとされるが,HRQOLの悪化を示唆するアライメントパラメータの評価のためには,脊椎のみでなく骨盤の後傾や膝の屈曲など骨盤や下肢も含めた全身の代償作用の程度を評価することが必要である。したがって,立位で全身の評価が可能なEOSは極めて有用な評価手段である。EOSによる静的安定性(アライメント)の評価に加え,重心動揺計を用いた動的安定性(バランス)の評価も併せて行うことで,より正確な診断が可能になると考える。

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要旨:脊柱後弯変形の発症機序や病態の解明,新たな治療法の開発のため,生体内の力学的動態を再現できる筋骨格モデルを用いた研究が行われている。筋骨格モデルでは,実測による位置データ,外力のデータ,文献値を用いてモデルに入力し,逆動力学解析により応力を算出し,またモデルの妥当性が検証されている。筆者らは,解剖学的に精細で,生体内に近似する筋骨格モデルの作成を進め,その妥当性を検証してきた。本モデルを用いることにより,筋力,椎間板内圧,脊柱アライメントの動態を計測し,さらに様々な身体活動や脊柱変形の病的状態の再現が可能となってきた。今後は本モデルを活用,発展させることにより,脊柱変形の病態や手術,運動療法などの治療効果のさらなる解明への応用が期待できる。

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要旨:変形性膝関節症の評価法として画像検査は非常に重要な役割を担っており,古くから単純X線画像によるKL分類が用いられているが,簡便である一方,誤差の問題や,非荷重位での評価であること,二次元の画像のみでの評価であるなどの問題点が指摘されている。時代の変化とともに,画像検査技術が進歩し,二次元の画像評価からCTをはじめとする三次元画像検査が可能となった。また,EOS imaging systemや2D-3D surface registrationの技術,立位CTの登場により荷重下での三次元画像評価が可能となった。これらの装置は多関節・体幹までを含めた全身の総合的な骨格・アライメント評価が可能であり,ロコモティブシンドロームに代表される機能的疾患の総合的な評価・予防・改善につながる可能性があると考えられる。

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要旨:多方向カメラシステムとはヒトやモノの動作を三次元化する方法であるが,これを様々な状況で十分に活用するためには,その長所と短所を把握しておく必要がある。そこで,動作を定量化したい医療従事者等を対象に多方向カメラシステムの長所と短所を示し,さらに筆者らの活用例を紹介する。多方向カメラシステムは短所がクローズアップされやすいが,知りたい情報を得るために長所を最大限に活用できれば,労力を注ぐ価値がある。多方向カメラシステムは全身の動作を過不足なく撮影できることが最大の長所であり,これが動作メカニズムの解明に役立つ可能性がある。

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要旨:ウェアラブルセンサーをはじめとした体表マーカーを用いない運動解析手法が盛んとなっている。マーカーレスモーションセンサーであるKinect®は体形自動認識により骨格を推定することで,簡易に運動解析を行うことが可能である。われわれはKinect®を人工関節術前後の臨床評価などに応用してきた。Kinect®による運動解析では,歩行速度・歩幅など歩行における基本的なパラメータに加え,精度に問題はあるものの股関節・膝関節などの関節角度の計測も可能である。これらの計測は着衣のまま行えるため,臨床の現場での応用が容易である点が大きなメリットである。また2019年に次世代のAzure Kinect® DKがリリースされた。従来のKinect®の問題点であった計測精度を向上した新たなモーションセンサーとして期待されている。

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要旨:近年,加速度ユニットの低コスト化,小型化が進み,スポーツやリハビリテーションでのヒト運動計測を用途としたウェアラブル慣性センサーが一般に流通し,活用されるようになってきた。これまでのヒト運動計測の主体である,ビデオ画像の二次元解析や,光学式モーションキャプチャーシステムによる三次元計測は,解析にかかる時間や設備のコストの点で,決して導入しやすい手法ではなかった。ウェアラブル慣性センサーの出現は従来手法の限界を緩和し,臨床でのヒト運動解析の可能性を広げた。しばしば,ウェアラブル慣性センサーによるヒト運動解析は簡便であるといわれるが,しかし,これを使いこなすにはセンサーの知識や,データ処理の経験など,それなりの準備が必要となる。これを踏まえ,ウェアラブル慣性センサーが加速度を検出する原理や,センサー選びの注意点,データを扱う上でのTipsを述べた上で,当教室が実際に行ってきた活用事例を紹介した。

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要旨:有限要素法に基づく筋骨格系のコンピュータ解析には,直接計測が困難な関節組織の力学的負担などを評価できる利点があるが,その計算のためには骨の運動姿勢や,筋力などの境界条件が必要となる。本研究では,歩行時の関節負荷を予測的に評価するため,変形性膝関節症などの関節負担を詳細に分析する膝関節有限要素モデルと,歩行運動を生成する全身神経筋骨格モデルとを連携させたコンピュータ解析システムを構築した。このシステムでは,まず神経筋骨格モデルにより歩行運動を生成し,運動中の関節角度と関節圧縮力を算出する。これを膝関節有限要素モデルに境界条件として入力し,軟骨や半月板など関節部の各組織の力学負荷を推定する。本システムを用いれば,実験計測に基づかずに歩行運動とその際の関節負荷の推定が可能となるため,手術やリハビリテーションの効果予測などへの応用が期待できる。

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要旨:肩関節複合体の運動は,肩関節疾患の発症と密接に関連することから,その動きの評価が重要視されてきた。しかし,広範な運動性を有する肩関節では,皮下の骨運動を非侵襲的かつ精密に追跡することは容易ではない。従来より,X線やMRI,赤外線カメラなど,多様な測定手法が肩関節運動解析に適用されてきたが,侵襲性や測定コスト,測定精度,および測定環境など,様々な測定上の限界があった。これらの問題を解決し,多様な肩関節運動を測定する方法の一つが,磁気センサーを用いた運動解析である。磁気センサーは,三次元6自由度の運動解析が可能であり,追跡が難しい皮下の上腕骨や肩甲骨の運動を,非侵襲的かつ比較的精度高く測定することが可能であるため,肩関節の運動解析に有用である。また,装置の携帯性に優れ,セットアップも容易であるため,臨床研究など幅広い活用が期待される。

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要旨:イメージマッチング法により,生体内の関節動態をin vivoで高精度に明らかにすることが可能である。健常股や変形性股関節症,臼蓋形成不全症,大腿骨寛骨臼インピンジメントなどの生理的,病的動態に関する検討のみならず,人工股関節置換術後ではライナー・ヘッド間のセパレーションやライナー・ネック間のクリアランスに関する検討が報告されている。ライナー・ヘッド間のセパレーションは,過去の報告のレビューでは,動作時に最大5.4mm生じていると報告されており,オフセットの再建や脚長差補正,アプローチなどの影響が指摘されている。ライナー・ネック間のクリアランスは,われわれの報告では,動作時の前方距離減少の因子として,股関節屈曲角増加,カップ外方開角低下,ステム前捻角低下,小骨頭使用,後方距離減少の因子として,股関節伸展角増加,カップ前方開角増加,ネック長低下,エレベートライナー使用を明らかにしている。イメージマッチング法は,ライナー・ヘッド間のセパレーションやライナー・ネック間のクリアランスなど,生体内におけるインプラントの三次元動態を高精度に明らかにすることが可能であり,骨盤・股関節動態の影響や,インプラントの選択・設置を含む手術へのフィードバックに極めて有用であり,今後のさらなる発展が期待される。

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要旨:電磁気センサー(EMS)は医療の現場において,運動解析やリハビリテーション,さらには手術支援システムなどにも応用されるようになってきている。運動解析の際にEMSは非接触で計測可能であり,光学式や音波式と違い物理的な障害に影響されないデータをリアルタイムで計測することが可能である。われわれはこのEMSを足関節に応用し,運動解析を行った。2つのレシーバーを脛骨粗面と中足部背側に固定し,スタイラスを使用して足関節周囲の体表上から触知できる骨性ランドマークの位置情報を登録する。そしてそれぞれの相対的位置関係を認識させ,足関節運動の座標系を構築した。この方法で,足関節の動きに伴って生じるセンサー間の動きをコンピュータ処理・数値化することにより,非侵襲的に足関節底背屈可動域や距骨前方移動量の定量化が可能となった。

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要旨:ロボットシステムは正確な位置制御を三次元的に行うことが可能なため,正常関節運動に靱帯損傷モデルや靱帯再建モデルの関節運動を重ね合わせることで靱帯に加わる緊張を算出することが可能である。主に膝前十字靱帯の研究を中心に使用されてきたロボットシステムを足関節バイオメカニクス研究へ応用することで,足関節外側靱帯の底背屈運動におけるin-situ forceを算出することが可能となった。足関節外側靱帯のin-situ forceは10~20Nで,靱帯再建術においては初期固定張力の増加に伴いin-situ forceの上昇が認められた。また,再建靱帯のin-situ force上昇は足関節キネマティクスの変化を認めた。これらの知見が足関節外側靱帯の手術に応用されることで,臨床成績のさらなる向上が期待される。

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要旨:半月板の主たる生体力学的機能は,垂直荷重に対する荷重分散・伝達機能である。われわれは,生理的な関節運動を再現できる6自由度関節シミュレータを用い,種々の半月板損傷の影響を検討し荷重分散・伝達能の詳細な解析を行った。半月板線維構造の主体である円周方向線維に沿った縦断裂では,わずかな断裂幅でも荷重分散・伝達能に影響するが,断裂が進展しても大きな機能低下は起こらない。一方で円周方向線維が破綻する横断裂では,断裂が外周縁近傍にまで達すると急激に荷重分散・伝達能が低下し,特に関節中央部の骨付着部に近い断裂ほど機能が大きく損なわれる。これらの結果より,半月板は円周方向線維がtie-fiber sheetにより束ねられ一塊として働くこと,また横断面が三角形であるため横断裂部には曲げ応力が生じることが解明できた。臨床的には,治癒が見込める半月板損傷に対する縫合法の工夫や,欠損に対する補填を目的とした治療法の開発の一助となると考える。

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要旨:MRIから構築した三次元(3D)軟骨モデルを用いて膝関節の病態解析を行った。再現性の高いMRI軟骨モデルを作成するため半自動画像抽出法を開発した。これを用いて,離断性骨軟骨炎(OCD)の3Dモデルを作成し,病変部を可視化した。また円盤状外側半月板に続発するOCDの発生機序について,大腿骨外側顆部の形状が影響している可能性を示した。変形性膝関節症の発症および進行機序を解明するため,下肢アライメント変化と膝関節軟骨の接触状態の関係を解析すると,荷重によるアライメント変化とは異なる関節内での軟骨接触状態の変化が観察された。同様の手法で大腿骨遠位成長軟骨板の3Dモデルを作成し,その形態的特徴を評価することも可能であった。MRIは非侵襲的な画像検査であることからも,今後ますます応用範囲が広がると考えられ,生体内での病態解析には非常に有用なツールである。

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要旨:前十字靱帯(ACL)損傷に伴う膝関節の前方不安定性は,機器やX線画像などを用いて定量的に評価されている。これに対し,被曝のない安全で簡便な超音波診断装置を用い,腹臥位で下腿の自重と重錘負荷を加えた,膝関節の前方不安定性に対する新たな評価方法を確立した。本手法は十分な精度を有し,ACL損傷の診断に有用である。ACL不全による荷重下の自覚的/機能的不安定性に対する,客観的な評価方法は確立されていない。そこで,下腿前傾を抑制した片脚立位姿勢で体幹を後傾させ,後傾角度と自覚的な膝不安定感を評価する体幹後傾テストを開発した。体幹後傾テストは,ACL不全膝の不安定感を反映し,簡便で信頼性と安全性の高い,機能的評価法である。

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要旨:人工膝関節置換術(TKA)の術後成績は良好であるが,少なからず術後不満足感を有する患者が存在する。術後疼痛残存や可動域制限,関節不安定感が要因であるが,なぜそれらを生じるか不明な点も多い。現在様々な3D動態解析により,術後に問題を生じた患者の異常バイオメカニクス情報が集積されている。一方,同一個体,一定の環境下でインプラント設置角度変更や,靱帯弛緩の程度などを変え,異常動態を再現できるか検証することも重要である。屍体膝を用いたOxford Knee rig研究が代表的であるが,本邦では入手しづらく,解析回数に応じた劣化も存在する。そこで,Oxford Knee rigをコンピュータ化したKneeSIMが米国で開発され,私たちはKneeSIMを用いて,TKAの問題点と解決法,新しいインプラントデザインや手術法の効果を明らかにしてきた。しかし,KneeSIMにも限界点があるため,私たちは有限要素解析法を応用し,関節動態と応力が同時に解析可能な新しい筋骨格コンピュータシミュレーションを開発,成功している。

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要旨:有限要素(FE)モデルと筋骨格(MS)モデルを統合することで,人工膝関節置換術前後の歩行動作と関節面の応力などを同時に推測することが可能となる。患者の下肢モデルを構築すれば,人工膝関節の設計や計画にも展開可能である。このFE-MSモデルは,骨格モデル,膝関節モデル,人工関節モデルを含み,それらの相互作用を解析する。歩行サイクル中の膝荷重を筋電結果と比較することで精度評価を行い,二乗平均平方根誤差(RMSE)と相関係数(r2)で予測精度を定量化する。その結果,従来の筋骨格モデルに対して,FE-MSモデルは高い予測精度を示した。また,接触面積,圧力,応力などを解析した結果,脛骨インサートの内側で最大接触圧力を示したが,超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)の降伏強度以下であった。このFE-MSモデルを用いれば,人工関節コンポーネントの摩耗なども予測可能となる。このように,FE-MSモデルは,人工膝関節置換術における患者個別の治療や人工関節設計へ展開するための方法を提供することが期待されている。

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要旨:人工関節における最も重要な問題はポリエチレン摺動面の摩耗である。摩耗は,人工関節の寿命に大きな影響を与えるため,摩耗量の把握は非常に重要である。人工股関節の摩耗量の計測は,様々な手法で行われているが,正確な摩耗量を把握することは困難であると考える。そこで,人工股関節の摩耗量の計測方法を紹介するとともに,その問題点を検討した。また,人工股関節の摩耗は,クロスリンク化されたポリエチレン製摺動面が実用化されて,かなり改善されている。人工関節の摩耗の問題がある程度解決し,より一層長寿命化すると,今後はストレスシールディングの問題が生じると予想される。そこで,ストレスシールディングの問題を解決する樹脂と金属を複合化するマクロヘテロ構造の人工股関節ステムの可能性について検討した。

Ⅳ.骨・軟骨・細胞

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要旨:骨折は整形外科における重要な問題の一つであり,様々な形態が存在するが,その力学的メカニズムが不明なものも多い。CTを利用して3D骨モデルを作成し,変形体力学を組み込んだ有限要素法により応力解析を行うCT-FEMは,骨折メカニズムの解明に寄与する重要な研究ツールとして期待されている。CT-FEMを用いた解析により,同程度の骨密度を有する2名の変形性股関節症患者の大腿骨が,全く異なる骨強度を有し,異なる頚部骨折形態を示すことが示された。また,正常脊椎と靱帯骨化症を有する脊椎を比較した解析結果より,脊椎の伸展骨折の危険性が増大することが示唆された。CT-FEMの利用で様々な骨折形態の発生メカニズムが明らかになることが期待される。

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要旨:HR-pQCTは,末梢骨用の定量的CTであり,その高い解像度(ボクセルサイズ61μm)により,骨密度測定のみでなく,皮質骨と海綿骨に分けた骨微細構造の解析および有限要素法による予想骨強度の解析が可能である。HR-pQCTを用いて閉経後骨粗鬆症などの病態解析が行われている。女性は加齢に伴い,海綿骨では骨梁が減少し海綿骨骨密度が減少する。皮質骨では特に閉経後に多孔化が進行し,皮質骨の骨内膜面が海綿骨化することで,皮質骨の厚みが減少する。それらの結果,骨全体としての剛性や破壊強度が低下する。骨粗鬆症治療薬の効果をHR-pQCTを用いて解析した論文はまだ多くないが,テリパラチドでは海綿骨の増加と皮質骨多孔性の増加が,デノスマブでは皮質骨の骨密度の増加が報告されている。

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要旨:関節面における接触挙動については数多くの研究がなされてきたが,生体関節では多くの場合,転がりと滑りの複合運動が生じるので,関節接触のメカニズムを解明するためには滑りについても考慮する必要がある。関節面における相対的な滑り量を評価する手法として膝関節における接触移動距離の推定法を提示した。大腿骨と脛骨についてCTスキャンデータから骨の,MRIスキャンデータから軟骨の三次元形状モデルを作成し,両者をフィッティングする。膝関節動作を撮影した一方向連続X線画像と骨モデルとのイメージマッチングにより得た膝関節運動データに対し,連続する時刻で軟骨モデル同士の接触領域を求め,同一箇所が接触していればその相対移動距離を接触移動距離とし,滑り量の指標とした。膝屈曲動作に適用して脛骨関節面における接触移動距離分布を例示した。そして,接触応力に加え,滑り量も考慮した接触メカニズムの検討が必要と考えられた。

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要旨:骨や筋肉,腱,靱帯などの運動器を構成する生体組織は,様々な種類のメカニカルストレスを受ける。メカニカルストレスは,組織の恒常性維持の重要な要素である一方で,関節症などの運動器疾患の病因ともなりうる。関節内に目を向けると,関節軟骨や膝関節の半月板は,物理的な外力を受けるための合目的な形状・構造をもち,マクロなレベルでの理解は深まりつつある。その一方で,メカニカルストレスに対する生物学的な反応について,分子メカニズムレベルの解明を目指した研究は,その端緒についたばかりではあるが,近年,優れた研究成果が報告されつつある。メカニカルストレス研究の問題の一つとして,実験系の構築の困難さが挙げられるが,当研究室では,細胞の三次元培養を目的としたアテロコラーゲンスポンジを企業と共同開発し,独自の繰り返し力学負荷培養システムと組み合わせることによって,関節症モデルとして用いた研究を行っている。

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要旨:軟骨組織の力学挙動をマイクロ断層可視化するdynamic optical coherence straingraphy(D-OCSA)について,その構成システムおよび初期変形性膝関節症(膝OA)軟骨診断能について紹介した。本システムはoptical coherence tomography(OCT)を用いて,軟骨内部を約5μmの高空間分解能にて断層可視化し,取得した連続断層画像から微小ひずみ速度を非侵襲断層可視化することができる。軟骨表層において圧縮ひずみ速度の局所集中が観察され,さらに応力緩和挙動にて,正常軟骨と模擬OA軟骨の相違が認められた。これは,コラーゲン配向特性に関与する軟骨表層の圧密効果と軟骨水の流動特性に基づく組織粘弾性特性に支配されていると考えられる。以上より,膝OAに代表される変性関節疾患において,その力学挙動のマイクロ断層可視化からin vivo臨床診断法としての有効性が示唆された。

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要旨:測定対象物全体の変形場を定量的に可視化する光学的全視野計測法は,光干渉法が代表的であったが,デジタル画像相関法(DIC法)に代わりつつある。このDIC法は,手軽な測定手法であることに加え,変形場を見たい測定対象が平面(2D-DIC),三次元表面(Stereo-DIC),三次元内部(3D-DIC/DVC)といずれでもよく,限定されない。そのなかでも,三次元内部の変形場を測定するDVC法は,基本的に破壊検査ができず,非破壊的に内部状態を観察することを原則とする医学・生物学と相性が良く,これらの分野で最も威力を発揮する測定手法といえる。筆者の研究室では,物理生物学を基盤とするがん研究にこのDVC法を応用し,がん細胞と細胞外マトリックス(ECM)の力学的相互作用に関する研究から,転移の力学的機構の解明に挑んでいる。

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要旨:生体組織のミクロ損傷のAE(アコースティック・エミッション)法による検出評価について,ウシ皮質骨と家兎膝蓋腱を例に挙げて概説する。AE法は,微視割れなどのミクロ損傷の生成に伴い放出される弾性波を検出し,ミクロ損傷に関する情報を得る非破壊検査技術であり,ミクロ損傷の発生時刻・発生位置・規模・モードなどを知ることができる。ウシ皮質骨の繰返し圧縮負荷試験では,個々のミクロ損傷が何サイクル目にどのくらいの負荷で生じたか,負荷中か除荷中かが決定できる。それらの情報から,除荷中にもミクロ損傷が発生・蓄積し,骨の機械的性質の劣化が生じていることが明らかになった。一方,家兎膝蓋腱の引張試験では,トゥリージョンからリニアリージョンに遷移した時点からミクロ損傷が検出され,AE位置評定で決定したミクロ損傷の頻発位置と局所的な伸びの分布がよく一致し,AE法では表面化の内部損傷が検出できることが示された。

Ⅴ.その他の新しい手法

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要旨:3Dプリンターはこの10数年で一般に浸透し,今では個人で使用できる身近なツールとなった。医学領域でも3Dプリンターは臨床,研究,教育に活用されているが,臨床応用を試みるにあたり3Dプリンターによるadditive manufacturingの優位性と周辺技術の理解が必要不可欠である。例えば手関節装具の作製を例にとれば,3DスキャナーやCTで形状を取得しCADへインポートすることで患者ごとに適した装具をオーダーメードで設計できる。さらに構造最適化や有限要素法を組み合わせることで装具の通気性を改善する空孔を設計したり,強度評価にも応用できる。Additive manufacturingがもたらす高い設計自由度に,上記のような手法を組み合わせることで今後さらに臨床への応用が期待されるであろう。

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要旨:本解説では,上下顎骨を撮影したコーンビームCT画像を用いてわれわれが考案した個人特有の三次元口腔内ワールド座標系に基づき,歯の形状重心から求めた三次元歯列を表現し,歯の三次元形状から主成分分析法で数学的に求めた歯の長軸方向である三次元歯軸も併せて示す新たな解析方法について述べた。はじめに,コーンビームCT画像の下顎の両側オトガイ孔2点と上顎切歯管1点を用いた解剖学的特徴点から構築した個人ごとの三次元口腔内ワールド座標系を新たに定義した。次に,正常咬合者を対象に歯列曲線や歯軸を口腔内座標系に基づいて定量的に表現した解析結果例より,上下顎歯列に対して,横断面では4次偶多項式,冠状面では6次偶多項式,矢状面では3次多項式でそれぞれの面内の歯列を数学的に表現できることを示した。

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要旨:変位・ひずみ分布計測は社会インフラから電子デバイスに至る様々なスケールの構造物の検査で必要とされている。従来の変位センサーやひずみゲージといった点計測に比べて,画像を用いた全視野計測が有効である。本稿ではサンプリングモアレ法による変位・ひずみ分布の計測技術の基本原理と,本手法を利用した電子デバイスから巨大構造物に至るマルチスケールでの変形計測の応用例を示した。加えてバイオメカニクスへの応用例の一つとして,蝶の翅にある微細構造に対するモアレ縞の画像解析結果を紹介した。今後のカメラ素子とパソコンの発展により,高解像度な変位・ひずみ分布のリアルタイムの解析と検査現場での利用が可能となることが期待される。

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要旨:人工知能(AI)およびロボット技術は歩行解析や運動解析などのバイオメカニクスやスポーツバイオメカニクス,リハビリテーションや診断,あるいはヘルスケアなどの研究において活用されている。AIの中でも機械学習は,過去のデータを基にデータ中に含まれる重要な情報の特徴を学習できることから,医療における異常判定,回復予測,症状進行予測,リスク推定,あるいはスポーツにおけるパフォーマンス評価やトレーニング最適化などにも用いられる。また,ロボット技術は,運動シミュレーション,リハビリテーション,身体動作支援,手術支援,手術の術前計画および術後動作予測,手術手技評価などに応用されている。今後,AIやロボット技術のバイオメカニクスや医療への応用がさらに進み,研究が飛躍的に進展することが期待される。

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要旨:バーチャルリアリティ(VR)では,現実の身体とは異なる外見・形状や機能をもつバーチャル身体をあたかも自分の身体であるかのように操る体験ができる。この新たな身体経験は,身体を通じて得る知覚やそれに応じた振る舞い,自己や世界に対する認識すらも変化させる。こうした影響を利用して,リハビリテーションや治療,トレーニングの効果を飛躍的に高める手法を紹介,考察した。具体的実例として,身体の外見を変えることで痛みが低減すること,自らの運動やその結果を補正して見せることで運動恐怖の低減によるリハビリテーションの効果向上や運動促進,発揮身体能力の向上が可能なこと,また,身体の外見が与える自己イメージの変容がトレーニングへの向き合い方の改善や無意識的な運動パターンの変容,リハビリテーションの効果向上に活用可能なことを紹介した上で,VRとバイオメカニクスの融合による相互発展の可能性について議論した。

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目次

奥付

基本情報

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整形・災害外科
64巻5号 (2021年4月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0387-4095 金原出版

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