整形・災害外科 64巻4号 (2021年4月)

特集 整形外科疾患の運動療法—最近の進歩

矢吹 省司
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運動療法は,われわれ整形外科医が行う保存療法の中で最も手軽でかつ有用な方法であると思われます。様々な整形外科疾患の治療において,患者に運動療法を勧める機会は多いです。しかし,「痛みが強くならない範囲で行ってください」「ウォーキングはお勧めです」などと話すだけで,十分な指導が行えているとは言い難い状況です(少なくとも私は)。

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要旨:健康づくりのため運動は欠かせない。また,日常生活活動を支えているものは運動機能であり,その運動機能を支えているものは主に筋・骨である。したがって,運動の主なターゲットは,筋・骨であり,運動によって筋・骨の機能改善を介して健康をもたらす。運動によるメカニカルストレスや代謝ストレスがトリガーとなって筋力増強,筋肥大,持久性向上,骨量増加,骨質改善,さらに,代謝機能の改善などが得られる。そのメカニズムとして,筋・骨にメカニカルストレスを感知するメカノセンサーの存在が明らかにされている。また,運動によって筋から分泌されるマイオカインと骨から分泌されるオステオカインがタンパク質合成やエネルギー代謝に関与していることが明らかにされている。特に,IL-6とオステオカルシンによる筋骨連関が運動による運動能力向上に重要であると考えられている。

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要旨:運動は疼痛抑制(EIH)効果を発揮することが知られているが,EIH効果の脳メカニズム,特に痛みの情動的側面からの理解は十分であるとは言い難い。本稿では,まずEIH効果を生み出すmesocortico-limbic systemで生じる変化を中心に述べる。扁桃体は痛みの慢性化に関連する恐怖や不安のような情動的側面に重要な役割を担っている。そこで扁桃体とEIH効果との関係を検討したところ,自発運動(VE)は側坐核外側shellへ投射する扁桃体基底核内側部のglutamateニューロンの活性化を高め,神経障害性疼痛に伴い増加した扁桃体中心核のGABAニューロンの活性化を抑制した。さらにVEは,文脈性恐怖条件づけと恐怖記憶の再現に関与する腹側海馬CA1の錐体細胞の活性化を劇的に抑制することがわかった。これらの研究成果は,運動が恐怖回避思考からの脱却を可能にして鎮痛を生み出す脳メカニズムを理解するための重要な情報を提供するものである。

腰痛に対する運動療法 金岡 恒治
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要旨:腰痛の運動療法を成功させるためには,その患者がもつ腰痛の病態と腰痛発生メカニズムに即した介入が必要となる。腰痛病態は大きく関節障害と筋性腰痛に分けられる。関節障害には椎間板障害,椎間関節障害,仙腸関節障害があり,筋性腰痛は筋筋膜性腰痛と脊柱起立筋付着部障害などに分けられる。各々の腰痛発生メカニズムを推定し,腰痛発生メカニズムに影響を与える身体機能低下部位を推定し,低下している機能を改善させるために有効な体幹モーターコントロールエクササイズやストレッチングを指導することが求められる。これまで腰痛病態や発生メカニズムの分類に基づいた運動療法の調査研究は行われておらず,そのエビデンスは未確立であるが,薬物療法に先立って実施するべき方法と考える。

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要旨:膝関節疾患に対する運動療法は,大きく二つに分けることができる。一つは,外傷や手術後の,日常生活やスポーツ復帰に向けた筋力強化訓練などが挙げられる。もうひとつは,慢性疾患や障害に対して行われる,症状の改善を目的とした運動療法である。手術後の運動療法として,当科で施行している半月板縫合術後のリハビリテーションを紹介する。4週間の患肢非荷重・外固定の後に,1カ月ごとに目標を設定し達成することができたら,次のステップに進むプロトコルで行っている。平均5.2カ月でスポーツ復帰しており,術後成績は良好である。また,膝障害に対する運動療法として,ジャンパー膝に対する前方傾斜台で行う片脚遠心性スクワット(EDS)について述べる。われわれの治療方法として特記すべき点は,スポーツ競技を中断せずに治療していくため,体外衝撃波治療(ESWT)とEDSを組み合わせて行っていることである。短期間ではあるが,治療成績は良好である。

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要旨:凍結肩と変性腱板断裂は50歳以降に発症する疾患であり,その病因や病態は十分にわかっていない。両疾患の初期病態を,① 加齢に伴う肋骨運動制限による肩関節可動域制限,② 腱板疎部の病的血管新生による炎症や烏口上腕靱帯の肥厚,と捉えると両疾患の病態を理解できる。外側第2〜4肋骨運動制限があると屈曲,外転,外旋制限に,内側1〜4肋骨運動制限があると内旋(結帯),90°外転位内旋(2nd内旋)が制限される。また胸鎖関節の運動制限では水平内転が制限される。運動制限のある肋骨や鎖骨をモビリゼーションすると,肩関節の可動域制限が改善する。肋骨運動制限による可動域制限のある症例中80%にMRIで烏口上腕靱帯の肥厚を認める。この肥厚は腱板疎部の血管新生のためであり,炎症による疼痛や靱帯の肥厚による外転・外旋・内旋・2nd内旋制限を生じる。本稿では,これらの病態から凍結肩と腱板断裂の診察と治療について解説する。

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要旨:変形性股関節症では疼痛性の廃用や神経筋抑制により股関節周囲筋の萎縮が生じ,関節不安定性が助長され応力集中の改善が妨げられる。したがって,適切な筋力強化により不安定性を改善し,関節合力の方向を正常化させ応力を分散させることは,症状緩和および疾患病期の進行抑制に有効と考えられる。一方,進行した変形性股関節症に対する究極の治療方法として人工股関節全置換術があるが,手術までに生じた筋萎縮は術後も改善しにくいことが知られている。運動療法としては,変形性股関節症においては低負荷高回数の筋力強化訓練を代償運動の抑制に留意しながら行うことが推奨される。人工股関節全置換術後においても術前から筋力維持を図り,術後も高いコンプライアンスで筋力強化訓練を継続することが重要である。分枝鎖アミノ酸摂取などの栄養療法も追加することで,運動療法への相乗効果が期待できる。

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要旨:肩こりや頚肩腕痛は有訴率の高い愁訴の一つである。その病態は未だ不明な点が多く,筋形態学的変化や不良姿勢,心理的ストレスなどとの関連が指摘されている。治療法としては運動療法が推奨されており,ストレッチングや有酸素運動,筋力増強運動の有効性が一定のエビデンスをもって示されている。また,近年ではMind-bodyエクササイズやモーターコントロールエクササイズの効果に関する報告も増えている。しかし,これらの運動プログラム間での効果の差は明らかでなく,複数の運動を組み合わせることで単独のプログラムよりも効果は大きくなるとされている。また,肩こり・頚肩腕痛は作業姿勢や労働環境,日常の身体活動性などの影響を受けることから,運動療法に加えて不良な作業姿勢の改善や社会(労働)環境の是正・管理などを目的とした包括的な介入が必要である。

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要旨:ロコモティブシンドローム(ロコモ)の運動療法は,機能解剖を考慮し,全身運動と局所運動を組み合わせて実施する。ロコモの要因となる三大運動器疾患は,変形性膝関節症,腰部脊柱管狭窄症(変形性脊椎症),骨粗鬆症であり,主因となる疾患を中心にアプローチする。これらの運動器疾患(ロコモの要因となる疾患)の特徴は,要支援から要介護に至る疾患がほとんどのため,早期発見・早期治療(運動療法など)により改善でき,さらに予防が可能なことである。したがって,運動器疾患の予防や治療の中心は,日常生活における運動・運動療法である。運動療法の基本は患者教育であり,セルフマネジメントの実施により治療効果が高まる。また,より効果を上げたり,継続性や医療安全の観点から多職種連携のもとで実施することが必須不可欠である。ただし運動療法は時に漫然と実施されることがあるので,適宜,再評価することで次の治療のステップとなる「windows of opportunity」を逃さないことが重要である。

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要旨:超高齢社会のわが国において,介護予防につながる骨粗鬆症の予防と治療は急務である。骨粗鬆症の予防には,獲得する最大骨量を上昇させることが最も重要である。そのためには,最大骨量に到達するまでに,十分な栄養摂取の下,骨に機械的ストレスを与える垂直荷重系の運動を取り入れて運動することが必要である。ただし,女性において,過剰な運動は骨粗鬆症を惹起してしまう危険があるので注意を要する。また,成人以降も運動は,骨密度の低下を防ぎ,転倒予防にも効果がある。さらに,運動は,肥満,生活習慣病の予防と改善にも効果があり,続発性骨粗鬆症発症予防にも寄与すると考えられる。よって,一生涯を通じて,運動は骨粗鬆症に対して有効であるといえるが,運動を始めるにあたっては,継続することが必要である。そのためには,各人に合わせた,簡便で,安全で,無理なく楽しめる運動を指導し,実践することが肝要である。

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要旨:サルコペニアは,高齢期にみられる骨格筋量の減少と筋力もしくは身体機能(歩行速度など)の低下により定義される。サルコペニアは,2016年に国際疾病分類(ICD-10)においてM62.84のコードを取得しており,サルコペニアの治療やリハビリテーション,予防の重要性がさらに高まると考えられる。サルコペニアの定義や分類が整理されつつあるが,サルコペニアの判定方法については臨床的な活用可能性も考慮され,改訂がなされている。現状においては,サルコペニアの予防・改善のためには運動と栄養改善による介入戦略が有効であろうと考えられる。特に,運動療法に関しては,筋力トレーニングを中心とした多面的な運動プログラムが推奨される。しかし,サルコペニアに対する運動介入のエビデンスは十分なレベルではないため,さらにエビデンスが蓄積されていくことが望まれる。

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新型コロナウイルスは世の有り様を一変させてしまいました。医療の世界も治療以外の大きな変革を迫られていて,どの医療機関も努力,奮闘させられていると思います。整形外科でもこれまではあまり気にすることのなかった,受診患者さんの発熱を主とした体調管理と待合の3密回避への配慮が求められています。

整形外科手術 名人のknow-how

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近年,Dupuytren拘縮に対する治療は早期のADL改善や患者負担の軽減のため,従来のgold standardであった部分腱膜切除術(limited fasciectomy;LF)に代わり,最小侵襲手技による治療が主流となりつつある。主な最小侵襲手技として,経皮的腱膜切離術1)(percutaneus needle fasiotomy;PNF)や,コラゲナーゼ(クロストリジウムヒストリチクム)(XIAFLEX®)注射法2)3)(injectable collagenase Clostridium histolyticum;CCH)が欧米では広く行われるようになった。PNFは早い(手術時間,社会復帰),安い,安全という利点を有しており,本稿では,25ゲージ注射針によるPNFの手技を紹介する。

スポーツ医学 つれづれ草

見ぬ世の人を友とするぞ 武藤 芳照
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スポーツ医学においては,身体活動・運動・スポ—ツが主たる対象であり,それらに伴う外傷・障害・事故への医学的対応をすることと,身体活動・運動・スポーツを医学・医療に応用することの二つの側面を担うのが,整形外科スポーツ医学の学術的,社会的使命である。

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要旨:骨軟部腫瘍は比較的免疫原性の低い腫瘍と報告されており,未だ免疫治療は臨床応用されていない。骨軟部腫瘍に対する免疫治療に懐疑的な報告もあるが,近年行われた臨床試験では一部の骨軟部腫瘍に対して免疫治療が有効であることを示唆する報告が散見されており,その有効性が期待される。今後骨軟部腫瘍における免疫抑制メカニズムのさらなる解析と,免疫パラメータを基にした機能的分類を進めていく必要がある。

机上の想いのままに

座右の書物 西野 仁樹
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若き後輩に「先生の座右の書物って何ですか?」と聞かれた。

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要旨:胸腹部単純CTから,骨粗鬆症の有無を検索した。対象は,2018年6月に仙台南病院の整形外科以外の科で腹部または胸腹部単純CTを撮影した60歳以上の患者である。男性73例,女性56例が該当し,平均年齢は78.3(62〜101)歳であった。椎体骨折の有無と,第1腰椎のCT値計測を行った。① 既存椎体骨折あり,② 椎体骨折がなくCT値110未満,のいずれかを満たす者を骨粗鬆症ありとした。骨粗鬆症ありとされた症例の割合,骨粗鬆症の加療率を調べた。椎体骨折を認めた症例は93例,椎体骨折なくCT値低下を認めた症例は20例であり,合計113例(87.6%)で骨粗鬆症ありと判断した。骨粗鬆症の加療が行われていた症例は8例(6.2%)にとどまった。病院通院・入院患者における骨粗鬆症の有病率は高いが,診断と治療に直結している症例はまだ少ない。他科に対しても骨粗鬆症の啓蒙を行うことが不可欠と考えた。

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要旨:腕橈関節不適合(RCI)を伴う小児肘頭骨折(POF)を後方視的に調査し,その病態と治療方針について検討した。RCIを伴うPOFはHume骨折,経肘頭脱臼骨折,いわゆるJeffery骨折,橈骨頭の外側転位を伴う肘頭骨折の4つの損傷形態に分類することができた。RCIが生じる原因は尺骨の転位による二次的なものと,橈骨近位部の転位によるものがあった。治療成績はおおむね良好であったが,初期診断で橈骨頭の脱臼を見逃したために後日追加手術を要した2例で可動域制限が残った。RCIは初期に正しく診断されないと成績不良となるため,正確な診断と適切な治療方針の決定が重要である。

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要旨:顆粒細胞腫は末梢神経から発症する良性腫瘍で,頭頚部領域に発生することが多い。通常無症状であるが,有痛性腫瘤を呈することもある。われわれは極めてまれな手掌発生の1例を経験した。本症例は左示指掌側基部に生じた有痛性の腫瘍で,術前のMRI所見において皮膚に浸潤を認めた。手掌部に発生した有痛性の腫瘤で,周囲への浸潤を認める場合には顆粒細胞腫も鑑別の一つとして挙げることができる。

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要旨:転落外傷により背部痛および下肢症状を生じ救急搬送された57歳男性の症例である。第1腰椎破裂骨折を認め,下肢の神経障害が存在することから緊急手術を行った。術中出血が多く,照射赤血球製剤輸血を行った。循環・呼吸器疾患の既往はなかったが,術後呼吸障害を発症した。胸部単純X線像で肺陰影の増強を認めたため,輸血関連急性肺障害(TRALI)を疑い陽圧呼吸管理を行った。術後2日目には呼吸状態は改善し,肺陰影も消失し人工呼吸管理からも離脱できた。

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整形・災害外科
64巻4号 (2021年4月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0387-4095 金原出版

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