臨床婦人科産科 46巻4号 (1992年4月)

今月の臨床 不妊治療の進歩

最近の動向

1.不妊治療—最近の動向 鈴木 秋悦
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 出生率の低下は社会的にも大きな問題となっており,産婦人科医の危機感が高まっているが,出生率を向上させる確実な方法として,児希望夫婦へのより適正なアプローチを進める必要がある。

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 不妊診療の進歩によって,その診断と治療のマップは年々塗り変えられている。とくに体外受精,胚移植などの配偶子操作の発達や腹腔鏡による検査および直視下手術など,近年の不妊症に対する検査,治療の発達にはめざましいものがある。教室でも1985年に体外受精,胚移植による妊娠例を経験し,その後順調に症例が増え,1991年には年間146例にも治療を行った。また同時期より洗浄濃縮精子によるAIHも開始している。腹腔鏡検査は1975年より積極的に行ってきたが,1980年代後半よりビデオシステムの発達や腹腔鏡直視下手術器具の導入などにより,より複雑な手術が腹腔鏡直視下に可能になってきた。このような不妊診療の進歩とともに治療成績などがどのように推移しているかをみるために,本稿では教室の1984年までの10年間1)と1991年までの7年間に分類し,不妊症の頻度および治療の成績などを検討した。

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 クロミフェン(clomiphene citrate,クロミッド®がMerrel社で開発され,Greenblattら(1961)によってヒトにおける排卵誘発効果が立証されてから約30年の歳月が経過した。クロミフェンが今日では視床下部障害による排卵障害に対する第一選択の薬剤として広く用いられ,優れた臨床効果を発揮していることは周知の事実である。

 また,クロミフェンは単独療法の他に,増量療法や閉経婦人尿性ゴナドトロピン(hMG),絨毛性ゴナドトロピン(hCG),エストロゲン,コルチコイドなどとの併用療法などが試みられ,単独療法では効果の見られない例にも優れた排卵誘発効果のあることが報告されている。

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 クロミフェン(clomlphene citrate,クロミッド)は,その高い排卵率,投与法の簡便さ,副作用が少なく安価であることなどの利点を有することから,第一選択の排卵誘発剤として実地臨床上広く汎用されている。このクロミフェンが無効であった場合には,hMG-hCG療法が有効であるものの,多胎妊娠や卵巣刺激症候群といった副作用の頻度が高く厳密な卵胞成熟のモニタリングを必要とし,患者にはかなりの負担となる。本稿では,クロミフェン無効例の定義を,クロミフェン150mg/day,5日間,連続2周期以上投与を行っても排卵に成功しなかった例とし,その対策について概説してみたい。

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 hMGは極めて強力な排卵誘発剤であるが,一方,卵巣過剰刺激症候群や多胎妊娠の発現頻度の高いことが問題である。それに対する対策として,ここ数年前からLH-RH(Luteinizing Hormone-Releasing Hormone)のパルス状投与による排卵誘発法が導入され高い評価を得てきている。本邦においては,私どもがLH-RH律動的投与法による単一排卵誘発法を報告して以来1,2),多数の機関で実施されるようになった。排卵障害が主たる不妊原因である患者に対し,安全にして有効な治療方法である本法が第一線の機関で広く普及することが期待される。

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 不妊・挙児希望を主訴に産婦人科を受診する患者のうち,排卵障害を呈するものが多く占める。内分泌学的検索が比較的容易となった昨今,高プロラクチン(PRL)血症性排卵障害は,重要な原疾患である。本稿では高PRL血症の治療についてわれわれが現在臨床にて行っている方法につき概説する。

 高PRL血症は,非生理的にPRLが分泌過剰状態になり,正常な排卵機構が阻害され,不妊原因となったり,乳汁分泌を呈したり,流産の一因になるとも考えられている。PRLは,夜間に上昇する傾向があるという日内変動も存在するので,昼間の血中濃度は正常だが夜間のみ上昇するものや,TRH負荷試験で過反応を示すのみのものなどもあり,これらの潜在性高PRL血症も高PRL血症と同様に治療を行う1〜3)

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PCOにおける排卵誘発

 多嚢胞性卵巣(PCO)症候群は比較的重症の排卵障害のため,hMG-hCG療法を用いることが多い。PCOに対するhMG-hCG療法の臨床成績は,排卵率75〜90%,妊娠率25〜40%と良好であるものの,内因性LH値の高値も加わってhMG-hCG療法の副作用である卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の発生率が高く,治療管理上の問題となっている1)

 最近hMG製剤から特異的にLHを除去したpure FSH製剤が両用発され,PCOに使用した場合,OHSSの発生率がhMG製剤と比較して有意に低下したと報告されている2)。しかしpureFSH製剤を用いてもまだ約20%程度の症例でOHSSが発生しており,さらに治療法の工夫が必要と考えられる。

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 「Primary ovarian failureは治るか」の難しいテーマに対して国「卵巣機能の回復,妊娠は極めて稀であるが,その病態生理の解明,生殖医学の進歩により決して不可能ではない」とまず解答し,治療を中心に述べる。

卵管

9.卵のpick up障害への対応 杉並 洋
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 卵のpick up障害にうまく対応するには,卵の卵管釆による捕獲および卵管内移送の機構を理解する必要がある。

 ヒトにおいて,排卵が近ずくと腹水の量が増え卵管はその中で一種の無重力状態に置かれる。そのような状況下で卵管平滑筋あるいは卵管間膜が収縮することにより卵管釆は排卵部位の近くに位置するようになる。排卵された卵は卵丘に囲まれている(卵・卵丘複合体)が,この卵・卵丘複合体の表面には大量の細胞間物質が露出している。卵管釆繊毛はその細胞間物質を付着せしめ,これを繊毛運動によって卵管内へと移送する。卵丘に囲まれた卵はその結果として卵管内へ取り込まれる。

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 女性不妊原因の中で,最大かつ難治である卵管性不妊の治療は,腹腔鏡の普及,マイクロサージャリーの導入,さらには体外受精・胚移植をはじめとする配偶子操作治療の発展などによって,着実に治療成績が向上した。高度の卵管障害に対する治療としては,前述の対応に異論のないところであるが,日常臨床の場で卵管通気法,子宮卵管造影法などの不妊一般検査を通して診断される軽度の卵管異常に対する治療は如何にあるべきか。本稿では,従来より行われてきた通気法,通水法の治療的意義について再考したい。

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 卵管を取巻く生殖医学の進歩は著しく,1978年のSteptoe,Edwardsによって初めて成功した体外受精による胚移植と1976年Swollinによって初めて試みられたマイクロサージェリー(以下MSと略す)による卵管形成術は,卵管性不妊の画期的な治療法として全世界に普及してきている。MSによる卵管形成術には,癒着剥離術,卵管開口術,卵管采形成術,子宮内卵管移植術,卵管端端吻合術の5型があり,臨床的には,これらの術式を幾つか組合せて手術を進めて行く。したがって術式によって術後成績や問題点が異なることから各術式別に述べる。

12.外妊の保存療法と予後 田中 俊誠
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 高感度妊娠診断薬と超音波断層法が日常診療に取り入れられるようになったことならびにX線CT,MRI,ラバロスコープなどが普及したこと,などにより,早期に発見される子宮外妊娠(外妊)の症例が増加しつつある。それに伴い,保存的手術やメソトレキセート(MTX)を代表とした薬物療法など,妊孕能の温存を重視した治療法が選択され,施行される機会も増えてきている。

 本稿では各種の外妊に対してわれわれが行っている保存療法とその予後について解説したい。

内膜因子,他

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 子宮内膜症は以前は子宮外に発生する外性子宮内膜症と子宮筋層内に生ずる内性子宮内膜症(子宮腺筋症)とに分類されていた。しかしこの両者は病因,病態,臨床像などを異にし,最近では子宮内膜症とは外性子宮内膜症と同義で用いられることが通説になっている。また不妊との関連が強く認められるのも外性子宮内膜症である。従って本稿では外性子宮内膜症に的を絞って論述する。なお子宮腺筋症は好発年齢は40歳代であり,しかも経産婦に多いため通常不妊が問題となることは少ない。しかし若年者に発生した子宮腺筋症は確かに妊孕性を障害する印象をもつが,頻度も低く実際に不妊との関連を有するか否かは結論が得られていない。

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 着床期における胚と子宮内膜のうちで,着床機転の開始にリーダーシップを演じるのは胚なのか子宮内膜なのか,それとも両者共同によるのか未だ不明な点が多い。しかし,着床開始のためには胚,子宮内膜がともに成熟していることが必要である。すなわち,胚は胞胚期にいたり。子宮内膜は胚受容能(reccptivity)を獲得していなければならない。少なくとも,この観点からすれば胚—子宮内膜には相関した同調性を保持する必要があるように思われる。残念ながら,ヒトの着床開始期における動態は未だブラックボックスの中であり,詳細に関しては不明な点が多い。このギャップをうめるために,われわれはマウス体外受精(IVF)胚の同一個体移植実験による同調性必要性の検討およびin vitroにおける各期子宮内膜上への胚の着床実験による着床開始時期の検討,人為的に着床を遅延させた胚の着床開始のトリガーと胚発生能を検討した。これらの基礎実験の結果と,われわれのヒトIVF-ETによる臨床データからET後の着床開始時間をhCGレベルから類推して,胚—子宮内膜同調による着床適期の存在について考察を行った。

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 子宮の器質的障害は,不妊症・不育症の原因の一つとして重要な位置を占め,その存在の有無を治療開始前に検討しておくことは必要不可欠である。従来,子宮中隔・粘膜下筋腫などの器質的障害は,開腹手術による治療が主であったが,妊孕性保持・技術的簡便性・患者の身体的負担の軽減と言った観点より,子宮鏡を応用した内視鏡的治療が応用され始めている。

体外受精と関連手技

16.IVF-ET法の治療成績 青野 敏博
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 昭和58年10月にわが国において初めての体外受精児が出生して以来,8年以上が過ぎた。その間に国民の本法に対するコンセンサスの追風を受けて治療施設数,治療症例数および出生児数が飛躍的に増加している。一方,治療の成功率の指標である妊娠率,出産率も初期に較べると著しく上昇し,欧米の成績に近付いてきている。

 本稿では日本,米国,全世界を対象とした1989年度の3つの集計成績を比較対照し,わが国の現状を分析するほか,今後の問題点を浮き彫りにしたい。

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 超音波を用いた経腟採卵法の開発により,IVF—ETの手技は大幅に簡便化された。全身麻酔は不要となり,無麻酔でも十分採卵できるようになった。またGnRHアナローグを加味した卵巣刺激法により,卵胞発育のモニタリングも大幅に箇素化された。prcmature LHサージの心配はなくなり,入院して経時的にホルモンを測定する必要もなくなった。HMGの注射開始日を調節することによって,日曜祭日を避けて採卵することも十分可能である,IVF-ETは名実ともに外来レベルの診療になったといえよう。われわれは1988年6月より,IVF-ETはすべて外来ベースで行っている1)

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 体外受精胚移植における卵胞刺激の目的は採卵時に利用できる成熟卵の数を増加させることである。そのため,卵胞のcohortの発育の理想的な同期化を可能にする刺激方法を開発することは体外受精胚移植の重要な課題の1つである。

 GnRHアナログにはGnRHアゴニスト:作動薬(以下GnRHa)とGnRHアンタゴニスト:拮抗薬がある。GnRHアナログの開発とゴナドトロピンとの併用経験は基礎となる生理学の理解と臨床結果の改善に役だってきた。現在,体外受精胚移植の臨床応用にはGnRHaが応用されている。GnRHアンタゴニストは今までヒスタミン遊離作用が強い点で臨床応用上大きな問題点となっていたが,この問題点を克服したアンタゴニストも開発され近い将来の臨床応用が期待されている。日本で体外受精胚移植のプロトコールに使用されているGnRHa(Buserelin nasal sprayヘキストジャパン)とhMG, pFSHの併用法につき述べる。

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胚の凍結保存の意義

 体外受精・胚移植における胚の凍結保存の意義は,多胎妊娠を防止し妊娠成績を向上させる点にある。多胎妊娠率の上昇は必然的にハイリスク妊娠,未熟児の発生頻度を押し上げる結果となる。妊娠率向上のためには複数の胚を移植することは止むを得ないが,健康な児を得るという最終目的を考えると,移植胚の数は制限されなければならない。

 胚の凍結保存の意義に影響を及ぼす因子として,自然排卵周期と過排卵周期における胚の着床率,凍結融解胚の生存率が挙げられる。移植胚数と妊娠率の関係をみると,移植胚の数を増やしても理論的に予測される妊娠率は得られず(表1—A),着床環境などの因子の関与が想像される。われわれは高度の卵巣過剰刺激周期では多数の胚が得られるものの,着床が障害されることを報告しており1),排卵期血中エストラジオール(E2)高値周期の胚の着床率は低E2周期の約1/3であった(表1—B)。またわれわれの凍結融解胚の生存率は50%であり,それを自然排卵周期あるいはクロミフェン周期に移植した場合の胚の着床率は低E2周期の新鮮胚の着床率と等しかった(表1—C,D)。

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緒言ならびに目的

 私達は,1987年11月20日より体外受精・胚移植法の臨床応用に着手し,本年(1991年11月末)にて,丸4年が過ぎた。正に苦闘の歴史であると同時に,何故着床しないのか,何か良い移植法がないかとの浅学無知との戦いの歴史であったように思われる。1990年11月,私共の主催した第4回ポール片山デモ&セミナーの特別講演者として来松した,Gift法で知られるU.C.I.Prof.RicordoH.Ashe氏。彼の1つの新しいテクニックの提案,子宮頸管のポリープ,奇形,その他でET困難例に対し,経子宮筋層的に内膜腟へETする方法。このヒントが,私のずっと温めてきた内膜内へ胚を埋込む方法と合致して正に晴天の霹靂の如くProf.Asheが命名した“The Towako Method”として世に登場することとなる。

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 GIFT法の最大のメリットは,他の治療法より,妊娠率が高いことであり,最大のデメリットは,腹腔鏡を使用せねばならず,患者に身体的負担がかかること,手術室などの設備が必要なことである。

 GIFT法のその他のメリット・デメリットを,A)実施上の諸点と,B)臨床経過につぎ,IVF—ETと比較しながら述べる。

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 われわれの教室では,頻回の人工授精法(AIH,洗浄AIH,AII))を行っても妊娠の成立しない難治性の不妊症症例に対し,従来は子宮腟内へ行っている授精法をさらに一歩進めて,ヒステロファイバースコープを用いて卵管内へ直接精子を注入する子宮鏡下卵管内人工授精法(HysteroscopicInsemination into Tube, HIT法)の臨床応用を行っている。また,高度の乏精子症の症例,およびAIDの症例の一部では,冷凍保存精子を使用したHIT法も行っている。今回は,現在われわれが行っているHIT法の実際とその問題点および妊娠例に関し述べてみたい。

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 男性因子不妊患者の治療法として現在IVF-ETが広く用いられているが,IVFで受精し得ない症例も少なくない。スズキ病院での男性因子不妊症例のET率/OPUは56.4%であり,他因子症例の80.4%に比べ有意に低値である。(1991年1月〜6月)また,いわゆる原因不明不妊症と診断される通常の精液検査で異常を認めない症例の中にも体外受精で全く受精しない症例が存在する。IVF非受精例の卵子では受精例にくらべ透明帯付着精子数は有意に少なく,付着0の卵子も多い。このことは受精障害例に精子—透明帯接着障害あるいは精子の透明帯通過障害が存在することを示唆している。そこで透明帯の一部を切開し,精子透明帯接着をBypassする方法や,囲卵腔内に精子を注入する方法が受精率を向上させる手段として注目されている。1991年11月の日産婦理事会でも“顕微授精法の臨床実施に関する見解”について検討され,わが国でも顕微授精法の実施が期待される。ここでは諸外国における顕微授精法の現況およびわれわれの知見について述べる。

男性因子と人工授精

24.精液性状と治療法の選択 福田 勝
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 近年,不妊夫婦に男性因子の関与が多く存在していることが明らかになるにつれ,男性不妊に対する認識が高まってきた。男性不妊治療において原因の解明とその除去に努めることは当然のことであるが,その原因が明らかになることは多くはない。産婦人科の日常診療でみる治療は薬物療法と配偶者間人工授精(AIH)が中心となっている。本稿では精液性状の異常とAIHを中心とした治療について述べる。

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 精子の凍結保存は人工授精などの補助技術として開発され,広く行われている技術である。精子の凍結保存により夫不在の際にも人工授精ができ,精液採取の回数を減少できるなどの利点がある。しかし,精子の凍結保存は融解後の生存率が低いのではないかといぶかったり,むやみな凍結保存は倫理的な問題を引き起こす可能性があることなどより,われわれは適応のない場合には行わないようにしている。

26.精子免疫と不妊 香山 浩二
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 精子免疫による不妊の中には,女性が精子に感作されて抗精子抗体を産生して不妊となる場合と,男性自身が自己の精子抗原に反応して抗精子抗体を産生し,あるいは自己免疫性精巣炎を起こして不妊となる場合がある。本来精子は血液—精巣関門Blood-testis barrierによって循環系から隔離されており,精子先抗原が免疫系をこ暴露されることはないが,何かの原因でこのbarrierが破綻し,精子抗原が露出すると自己免疫応答が誘導されてくる。臨床的にも精巣での炎症や損傷,精路通過障害あるいは精管結紮患者に高率に抗精子抗体の検出されることが報告されている。

 従来,不妊患者に抗精子抗体が検出された場合にも,それに対する適切な治療法がなかったため,患者に抗精子抗体の検査を受けなさいという説得性に乏しかったが,最近,体外受精—胚移植(IVF-ET)の応用により抗体保有患者も妊娠が可能となって,従来挙児の望めなかった夫婦にとっても希望が持てるようになってきた。現在,精子免疫による不妊の治療法として表1に示すような方法が試みられているが,以下それぞれの治療法について簡単に説明を加える。

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 先天性精管欠損および広範囲の精路閉塞による無精子症例では精巣上体尾部精子を用いて人工受精を行う必要がある。精子を得るために現在では精巣上体の直接穿刺法または人工精液瘤が用いられている。この2つの方法を比較した場合,再現性(何回も精子を採取できるという意味),患者にあたえる心理的影響などの点で,また男性の治療にあたっている泌尿器科医の立場から後者のほうが好ましいものと思われる。そこで本稿では人工精液瘤について概説する。

28.AIHの効果的応用 己斐 秀豊
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 AIHが,不妊臨床に取り入れられて,すでに久しいが,GIFT法,IVFなど,新しく開発された技術が普及しつつある現在でも,有力な治療法の一つと考えて良い。ただ,その効果を最大限に発揮させるには,それなりの工夫が求められよう。適応の限定,精子所見の改善策,実施時期の正確な判定,他因子の治療の併用,などが,そのポイントとしてあげられる。

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 BBTが2相性で,卵管も異常なく,夫の精液も良好で,一見,すべてが正常であるにもかかわらず,どうしても妊娠しない,いわゆる機能性不妊の患者にしばしば遭遇する。このような患者に(排卵があるにもかかわらず)排卵誘発剤であるクロミフェンを服用させたり,クロミフェン—hMG,またはブセレリン—hMG-hCGを投与の上,AIHを行うとよく妊娠する。何故だろうか。BBTが2相性で,排卵があると推定される婦人のすべてが,十分量の卵胞ホルモン,黄体ホルモンを分泌し,それに反応して子宮内膜も発育し,成熟した卵が排卵されるのだろうか。

 この間題を検討するため,一つの指標として,排卵期のエストラジオール値(E2値)と排卵後7日目(高温相の真中)のE2値とプロゲステロン値(P値)を測定した。筆者のところで,妊娠した周期に上記のE2値,P値を測定した患者は約500名いるが,その殆どは排卵期ならびに排卵後7日目のF2値は100pg/ml以上,P値は10ng/ml以上であり,それ以下は僅か5名であった。その5名もE2値は85pg/ml以上,P値は8.Ong/ml以上であった。ところが妊娠しなかった周期のE2,P値は,たとえ排卵があってもかなり低値のものが多く,E2値が40〜60pg/ml,P値が4〜6ng/mlなどざらであり,そのような場合でもBBTは2相性を示した。

カラーグラフ 胎盤の生理と病理・4

Potter症候群と羊膜結節 中山 雅弘
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 羊水は胎児を守る緩衝剤として働くものであり,妊娠の3週頃より認められる.胎児の尿道は8-9週頃に開孔し妊娠中期には胎児尿が羊水の主成分となる.

 羊水過少が遷延すると,胎盤の胎児面及び膜において小結節が見られる.これが羊膜結節(amnion nodosum)である,胎児面に多数の小結節が見られるものとして,この羊膜結節と扁平上皮化生がある.扁平上皮化生は臨床的に全く意味はない.鑑別の要点は,扁平上皮化生は白色調が強いことであり,羊膜結節が胎児面に一様に分布するのに対して,臍帯周囲に集中して見られることである.強くこすると羊膜結節ははがれるが,扁平上皮化生ははがれない.胎児面に石灰沈着様の小結節が1個見られるものは卵黄?の名残である.卵黄?も臨床的な,意義は乏しい.

CURRENT CLINIC

更年期障害の外来診療 安部 徹良
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 本稿では,筆者が産婦人科外来(更年期外来)において行っている更年期障害の診療について,理論面よりも実際面に重点を置いて述べることにする。

 更年期防害の病態生理および病因は,未だ不明の点が多く,一致した見解が得られていないのが現状である。したがって,更年期障害の概念は必ずしも明確にされていないが,筆者は,その診療の中で絶えず診断と治療の科学性を検討しながら,現在行っている方法に到達した.しかし,なお,試行錯誤の過程にあり,今後さらに改善されるべきものであると考えている。

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 1988年から1990年の31年間に当科で治療した進行期の原発性上皮性卵巣癌患者10例(IIc期2例,III期7例,IV期1例)に対し,Etoposide,CDDP併用化学療法を施行し,初回手術により残存腫瘍が2cm以下となったものと2cmを越えるものとに分け効果判定した。投与法はDay 1にCDDP 60mg/m2静中,Day 2,3,4にEtoposide 60mg/m2静中とし,これを4週毎に2〜6クール繰り返した。結果は初回手術により2cmを越える腫瘍が残存した8例は,いずれも画像上化学療法の評価が可能であり,8例中5例にCRを得,1例はPR,2例はPDだつた.奏功率は残存腫瘍が2cm以上の群でも75%であり,全奏功期間は現在までのところ19.3ヵ月であった。さらに副作用も検討したが,骨髄抑制,悪心・嘔吐,脱毛が主なるものであったものの,重篤なものは認めなかつた。

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 最近発見された新しい物質であるヒト肝細胞増殖因子(hHGF)の妊娠中毒症,ならびにHELLP症候群妊婦での血清中濃度の動態について,酵素標識免疫測定法(ELISA)で測定を行い以下の成績を得た。1)妊娠婦人血清中のhHGF濃度は,妊娠経過とともに著明な変動は示さず,非妊娠婦人では0.23±0.05ng/ml,妊娠初期では0.18±0.07ng/ml,妊娠中期では0.19±0.06ng/ml,妊娠末期では0.22±0.05ng/mlであった。

2)妊娠中毒症妊婦血清中のhHGF濃度は,軽症型では0.21±0.06ng/mlであり,重症型では0.15±0.07ng/mlであり,正常非妊娠婦人と優位差を認めなかった。

 一方,HELLP症候群妊婦血清中のhHGF濃度は,1.25土0.35ng/mlであり,正常非妊娠婦人に比し優位に高値を示した。

症例

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 各種の自己免疫疾患の内でもDermatomyositisと悪性腫瘍の関連は以前から知られている。しかし他の自己免疫疾患と発癌の関係は現在でも不明である。私達は代表的な自己免疫疾患と悪性腫瘍の関連について考察し,実際に経験した3症例について報告する。症例1はMCTD治療中に子宮頸癌と診断され手術療法を施行し経過良好である。また一卵性双生児の妹も抗核抗体陽性など免疫学的異常を示していた症例2はRA治療中に子宮内膜癌の診断を得て手術療法,化学療法を施行するも腫瘍マーカーが下降せず,重複癌の検索の結果,上行細腸癌が発見された。症例3は卵巣癌に対して抗癌剤使用中,手指壊疽,筋力低下が出現し抗核抗体,抗DNA抗体など各種の免疫学的検査で異常値を示した。

メルボルン便り

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 毎年8月になるとオーストラリアの大手銀行ウェストパックがスポンサーとなって婦人の健康Women’sHealthについての医学講座が3日間,昼は市内のアートセンターで,夜はメルボルンの郊外にあるモナッシュ大学の病院で開催されます。専門家,医学生はもとより一般市民も無料で参加できるのでいつも満席の盛況です。昨年の8月には当キイセンターの主任Prof.LorraineDennersteinがPost Partum Depressionについて,今年は同センターのDr.Carol Morse(心理学,看護学出身)が月経前症候群(月経前緊張症)について講演しました。

 8月5日(月)は午後7時から10時過ぎまでモナッシュ大学婦人科のDr.Shaun BrenneckがObstetricalcare:historical perspedive and recent advancesと題して極めて一般的なことから説き明かし,産科治療の方法,帝上切開時の感染や産褥熱で苦労した多くの経験談,また腹腔鏡,胎児鏡,子宮鏡からレーザー手術に至るまでの歴史的変遷について多くの図や写真を示しながら話されました。これは一般向けの話でしたが専門医以外の医師達にとっても興味ある基礎講座となるものでした。

基本情報

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臨床婦人科産科
46巻4号 (1992年4月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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