臨床婦人科産科 46巻5号 (1992年5月)

今月の臨床 分娩前後の1週間

ルーチン・ケア

1.入院時の検査 島田 信宏
  • 文献概要を表示

 分娩のために入院した妊産婦に対する診察や検査の目的は,大別すると①いままでの診療カルテから,母体の異常や妊娠経過を確認すること,②分娩の進行状態の診断,③胎児の発育とwell—beingの診断,④分娩の進行と異常に関する予測,になる。そこで,一般的な入院時診察といえるような内容を以下にのべることにする。

2.分娩監視装置のみかた 原 量宏
  • 文献概要を表示

 胎児心拍数は胎児の中枢神経系,とくに交感神経系と副交感神経系の微妙な変化を忠実に反映しており,そのパターンを分析することにより,胎児の状態を的確に判定できる。分娩監視装置では,胎児心拍の一拍ごと(瞬時心拍数)を連続的に検出記録し,子宮収縮と相互の関係をパターンとして表示する。胎児心拍数の検出には,胎児心音信号,ドプラ心音信号,直接誘導胎児心電信号,母体腹壁誘導胎児心電信号があり,子宮収縮の検出には外測法と内測法があるが,現在では妊娠中からもNSTで多用されるドプラ心音信号と外測法の組合せが最も利用されている1,2)

3.分娩経過の診断法 久保 武士
  • 文献概要を表示

 分娩経過を評価するためには,陣痛情報,内診所見,胎児情報などが必要であるが,これらの情報が数値データで表現されている限り,その数値データだけに基づいて分娩の進行状況の良否を判断するのは,煩わしいことも多い。データが経時的に記載されていても,子宮口の開大の速さを評価するには一々経過時間を参照しながら判断せざるを得ない。この難点を解決するためにパルトグラムが考案され広く分娩管理に使われていることは周知のとうりである。それに記載される情報は子宮口の開大度と児頭の下降度,陣痛情報として陣痛周期と発作時間,それに胎児心拍数などが中心で,破水時刻,児頭の回旋,血圧・体温・脈拍などを加えたものが多い.しかし簡便を目指して一枚の用紙に全ての情報を盛り込むことは欲張り過ぎで,無理があり,それはかえってパルトグラムの利点を生かせなくなる。やはり,分娩の進行状況の評価が中心になるべきである。

 正常分娩は,初産・経産で異なるが,それぞれ一定の時間内に終了するはずなので,正常値の時間を過ぎても分娩に至ってなければ,分娩遷延と診断され,何らかの処置を受けるのは当然である。しかし,これは終着駅で定刻になっても列車が列着しないので,あわてて延着の原因を調べるのに似ている。時刻表を参照しながら,途中の通過駅における列車の発着状況チェックしながら,延着を防ぐのが合理的であることは言うまでもない。

  • 文献概要を表示

 臍帯巻絡は全分娩の1/5から1/4に認められるとされ,分娩時によく遭遇するものである。しかしながら,その臨床的意義については明瞭でないのが現状である。いずれにしても,超音波断層法やカラードプラ法を使用することによって出生前に高精度に臍帯巻絡を診断することが可能となってきているので,その方法につき概説する。

  • 文献概要を表示

 前期破水への対応は,妊娠週数,それまでの妊娠経過,母体合併症や胎児異常の有無,感染徴候の有無などにより管理指針が異なる。とくに妊娠週数や胎児の発育状態(児推定体重)および感染の程度が児娩出時期および娩出様式の決定にとって重要な因子である。ここではわれわれの教室で行っている前期破水の予知および対応について紹介する。

  • 文献概要を表示

 分娩時の和痛法または産科手術に際しての硬膜外麻酔法は母体循環への影響が少ないため,心疾患合併例の分娩にも用いられており,その安全性,有効性より広く普及している。本稿ではその適応を中心に,産科麻酔法としての硬膜外麻酔を見直すこととする。

  • 文献概要を表示

 本来,分娩は生理的現象であり,その80〜90%は人為的操作を加えることなく自然に陣痛が発来し正常分娩に至るが,残りの10〜20%は自然放置すれば母体,胎児死亡などの異常経過をとることになる。そこでこれらに対して分娩誘発(陣痛発来以前に人工的に子宮収縮を起こす)を行うわけである。幸い,近年周産期医療やNICUの進歩とともに母児管理が容易になるとともに,早産未熟児の生存率も向上してきたため,比較的安全に分娩誘発が可能となってきた。しかし,一方では子宮破裂,弛緩出血による母体死亡や胎児,新生児仮死,脳性麻痺を引き起こし,医療過誤訴訟の一因ともなりかねない。従って,分娩誘発を行う際にはその適応と要約を十分守り,これに伴う異常や合併症に常時対応できる管理体制が必要となるとともに予期せぬ医療紛争を避け,心の通った患者参加型の医療を目指すために,必ずインフォームドコンセント(承諾書,IC)をとることが必要である。

8.陣痛の促進と抑制 千村 哲朗
  • 文献概要を表示

 陣痛の正常経過は分娩進行を決定づける最大因子といえるが,陣痛促進に対する薬物療法の適応は微弱陣痛である。一方,陣痛抑制を必要とする場合は,自然経過中または子宮収縮剤投与時に出現した過強子宮収縮uterine hyperactivityに対する収縮抑制tocolysisがあげられる。

 陣痛促進剤による分娩時の産科的異常の出現は,最近の医療訴訟上で種々な問題を提起し,母体死亡との関連で十分な注意が必要である。

9.会陰切開と会陰裂傷 伊藤 博之
  • 文献概要を表示

 会陰切開は1742年にFielding Ouldにより初めて紹介されて以来,今日では全経腟分娩の60〜70%に行われ,とくに初妊婦では90%以上に行われている。その目的とするところは会陰裂傷の予防ならびに分娩第II期の時間の短縮であり,それによって母児が得る利点は多い。しかし,一方では分娩後に縫合部の疼痛,腫脹,癒合不全,離解,瘢痕化などの訴えも多く,なかには会陰縫合はお産より辛かったという褥婦もいる位である。

 会陰切開の是非については現在なお議論あるところであるが,ここではあえて触れない。本稿では会陰切開をめぐる問題点と不幸にも生じた会陰裂傷の縫合法の概要につき述べる。

  • 文献概要を表示

 胎盤の剥離は,児娩出後起こる子宮収縮によって胎盤の母体面(基底脱落膜)と子宮筋層の間隙が増大し,その間に形成された母体血の血腫の圧力により起こり,血腫の増大とともに胎盤が剥離される。自然の経過では,3〜4回の子宮収縮で剥離し,胎盤娩出まで30分以内が正常である。通常,胎盤は5〜10分で娩出し,平均出血量は250mlである。

 しかし,最近では良好な子宮収縮を起こし,出血量を減少させるために胎盤娩出時間の短縮への工夫がなされている。私達の施設でも,積極的胎盤娩出法により早期に胎盤娩出を図っているので,その手順を述べる。

エマージェンシー・ケア

11.骨盤位 雨森 良彦
  • 文献概要を表示

 骨盤位帝切ルーチン化の是非 今日の産科学の大きな問題の一つに“骨盤位分娩”があげられよう。この骨盤位分娩の処置については過去10年で劇的な変遷をとげてきた。1970年以前は骨盤位の多くは経腟自然分娩にまかせられていたが,1970年以降,骨盤位に対する選択的社会的適応による帝王切開が増加してきた。この傾向は米国においてはさらに明白で骨盤位のルーチン帝切化が定着してしまった。

 何故にかかる劇的な180度の変化が発生したか。それはなんといっても骨盤位の経腟分娩における周産期死亡率が頭位のそれに比して5倍もの高率を示しているからにほかならない。死亡率にとどまらず罹病率についても経腟骨盤位では児に永久的な中枢障害を後遺することが高い事実が多くの臨床統計によって判明したからにほかならない。さらに社会的にも少産少死型の出産のエコロジーは産婦および家族が児の完全性を強く希望期待すること,医学的というより法律的に,医療過誤に対する厳しい保証を求める風潮(medical-legal)が医療担当者を防衛産科学へ逃避せしめる傾向を助長したからにほかならない。

  • 文献概要を表示

 分娩進行中の臍帯下垂および脱出は,臍帯血の循環障害を誘発し,その結果胎児が重篤なダメージを受ける可能性が非常に高い。臍帯下垂および臍帯脱出が起こりやすい状況をよく理解し,迅速な診断と処置をすることが必要である。

13.ダブルセットアップ 鮫島 浩
  • 文献概要を表示

 分娩方法を決定する際に,なるべく帝王切開を避け経腟分娩を選択することは産科医の目標である。Williamsの産科学によると,帝王切開は通常,児の娩出が遅れることにより児,母体,あるいは双方に重大な障害を起こすと想定される症例や,母児の合併症により経腔分娩が不適当と考えられる症例に限って行われるべきものである,とされている1)。したがって実際の臨床の場においては,明らかな帝王切開の適応症例以外では可能な限り経腟分娩を試みることが多い。

 しかしながら,このような分娩管理を行う中で,経腟分娩中に母体あるいは胎児にエマージェンシーが起こり得ると予測される症例では,一応経腟分娩を試みながらも,一方では帝王切開をただちに施行できるように準備を整えておく必要がある。いわゆる“ダブルセットアップ”を行った上での経腟トライである。

  • 文献概要を表示

 急速遂娩とは,妊娠中または分娩経過中に母親または胎児に生命の危険や回復不可能なほどのダメージを残す可能性があるような異常事態が発生した場合,またはこれから先,もしくは今まさに発生するであろうと予測されるような場合に,直ちに胎児を娩出し,短時間で分娩を終了させることにより,母体と胎児の双方を(残念ながらどちらか一方のこともあるが)救命し治療することを目的とした緊急回避手段である。一般的には,まず母体に対して酸素吸入や体位変換などの処置が加えられたり,子宮収縮抑制剤や促進剤その他の循環改善剤などの輸液が行われることが多いが,そのような保存的治療法が無効であるかまたはその効果の発現を待っている時間的余裕が無いと判断したときは,直ちに適切な急速遂娩術を実施する。そして,母児を分離した上で別個に治療し,できる限り異常や後障害を残さないような管理を行わなければならない。

 日常的に分娩を取り扱っている私達産科臨床医にとって,この急速遂娩術はまさにオールマイティな「切り札」的特殊技術であると言えるが,一方,通常の妊娠分娩経過から逸脱した侵襲的な操作であることには違いないため,母児双方にとって侵襲が少なく,かつ,後障害の無い分娩・出産が理想であるという産科管理の原則から鑑みると,使い方いかんで両刃の剣になる危険性もある。したがって急速遂娩術の適応や適切な選択を誤らないということは,その手技の習熟とともに非常に重要な問題であるといえる。

15.鉗子と吸引分娩 合阪 幸三
  • 文献概要を表示

 急速遂娩術としては,鉗子・吸引分娩および帝王切開術による分娩がある。本稿では,エマージェンシーケアとしての鉗子・吸引分娩について,適応,要約などを帝切と比較して述べることとする。

16.羊水混濁 平 省三
  • 文献概要を表示

 羊水混濁が胎児仮死の徴候であることは,既に1858年Schwartz1)が記載し,1959年にはWalker2)が,羊水混濁症例における周産期死亡率が8.8%であることを発表した。このように従来より羊水混濁は,胎児仮死徴候の1つと考えられていた。しかしながら,羊水混濁の頻度は,満期産で10〜12%,早期産で3〜5%,過期産では40〜44%であるが,このうち10%のみが低アプガースコアになると言われており,羊水混濁が胎児仮死診断の必要十分条件であるかというと,必ずしも明確ではない。たとえば,Kubliは胎便で羊水が混濁する場合,統計上胎児の危険は増加するが,必ずしも胎児低酸素血症を伴うものではないと言っている。この理由を考えてみると,胎便排泄が,種々のきっかけで起こるためであろう。もちろん,胎児低酸素血症が,胎児臓器間における血液の再配分を引き起こし,胎児腸管血管収縮の結果,腸蠕動亢進と肛門括約筋の弛緩が起こり胎便排泄につながる場合もあるが,その他,臍帯圧迫による迷走神経反射や,自然排便ということも考慮しなければならない(図1)。いずれにしても,羊水混濁が胎児仮死診断の上で,Fetal heart rate moni—toringと共にdecision making の一助となることは明白であろう。

  • 文献概要を表示

 胎児仮死とは,日本産婦人科学会での定義(1972年)では「胎児・胎盤系における呼吸,循環不全を主徴とする症候群をいう」とされ,何らかの原因で胎児が低酸素状態に陥り,その結果循環不全状態となった場合をさすと解釈されている。しかし,胎児の低酸素状態も軽いものから,高度になり重度の脳障害に陥るものまで存在する。また,胎児は,母体循環,胎盤循環,臍帯などにより影響をうけ,胎児仮死の病態を一層複雑にしている。

 胎児仮死の診断には種々の方法があるが,胎児の実際の状態を反映している方法はまだ十分確立されたものはない。また,治療についても,胎児仮死の程度の判定が不十分なため,急速遂娩になってしまうことが多いのも事実であろう。今回は,正期産の分娩中における胎児仮死の診断および治療について述べてみたい。

18.頸管裂傷と子宮破裂 末原 則幸
  • 文献概要を表示

 頸管裂傷と子宮破裂は共に分娩の際に生じる子宮の損傷で,弛緩出血と並んで妊娠分娩時の重要な疾患である。

19.第3期出血の応急処置 岡田 悦子
  • 文献概要を表示

 産科臨床は米国でbloody business(血塗れの仕事)といわれるように出血との戦いである。出血の発生は分娩第3期から分娩終了直後に集中し,母体死亡の最大病因となっている。分娩開始前からの出血では胎盤早剥,前置胎盤など,第3期出血では癒着胎盤など,第3期以後の出血では弛緩出血,頸管裂傷,腟裂傷,会陰裂傷,骨盤内血腫,子宮内反などがあり,胎盤早剥,羊水栓塞,死胎児稽留症候群などによるDIC,ITP,vonWillebrand病など血液凝固障害による出血もある。これら疾患の鑑別診断も治療上重要である。

介助者へのアドバイス

20.浣腸・導尿・食事 佐藤 昭江
  • 文献概要を表示

 妊産褥婦の声の中で「沈腸が一番嫌だった,つらかった」,「管でお小水をとる時とても痛かった」という言葉をよく耳にする。私達介助者は,この苦痛の訴えを謙虚に受け止めて介助に当たりたいものである。

  • 文献概要を表示

 13年程前に,年末を期して聖母病院産科でそれまでのエイル大学式の心理的無痛分娩の方針を一転して一挙にラマーズ法式採用に踏み切った時,私達の指導訓練プログラムを受けていない妊婦が産婦として入院して来ることもまだ少なくなかった。その時産婦の不勉強を決して責めることなく,待期室(普通にいう陣痛室)に過ごす数時間の間に,開口期の呼吸法や弛緩法を直接コーチしながら,手短かに娩出期その他ラマーズ法のコツを伝授するよう分娩室の担当助産婦にたのみ,私自身もその心がけでつとめた。こんな急場しのぎは余りうまくゆくまいと覚悟していたが,案に相違して努力の甲斐は空しくなかったようである。「初めは不安だったけれど,お話を聞いてからよく分かって安心することができ,よいお産ができました」という感謝を聞いたこともある。お産をとりあげながらラマーズ式の指導も熱心にやるというのは,現在の日本助産婦のすぐれた能力のひとつで,(フランスや米国のようにモニトリスとかラマーズ分娩インストラクターなどのタイトルを掲げて塾の先生におさまったりせずに親身になって産婦と協力してくれるのは有難いことである。ラマーズ法を知らなくては日本のよい助産婦にはなれないというのは当然であろう。

22.産婦の呼吸法 竹内 美恵子
  • 文献概要を表示

 産婦の呼吸法は,産婦自身が出産をコントロールするための一方法である。介助者は,産婦が分娩の進行に身を委ね,自らに適した呼吸のリズムを発見し,意識的に特定の呼吸が選択できるよう支持し励ますことである。その指導は,産婦の振る舞いに目を向け,産婦の期待に耳を傾け,それを踏まえて行うことが必要である。

23.分娩第II期の介助 水沢 信子
  • 文献概要を表示

 当院での分娩数は,年間1,200〜1,300例(91年は1,344例であった)である。設備としては分娩室が2室,陣痛室は6人部屋と個室が2室であるが,夫立ち合いの産婦には個室を利用してもらっている。つまり,この2つの分娩室をできるだけスムーズに回転させて,より安全に,また産婦さんにはゆったりとした気持ちでお産体験をさせたいというのがモットーである。分娩が重なりそうになったり,非常に多忙な中でもゆとりある対応に向けて日々格闘しているのが現状である。

  • 文献概要を表示

 分娩終了後は,褥婦,介助者ともにホッと一安心する時期であるが,多量の出血など生命に関わる異常の起こりやすい時期でもある。したがって特に十分な観察が必要である。以下観察のポイントを述べる。

25.骨盤位分娩の介助 田村 慶子
  • 文献概要を表示

 骨盤位分娩は頭位分娩より予後が悪いと言われ,ている。少産少死,すべての児が貴重児となった現在,骨盤位分娩は非常に少なくなった。聖バルナバ病院における平成2年の総分娩数1,971例中,骨盤位43例(2.2%),その内経腟分娩13例(初産婦9例,経産婦4例)である。このことは,出生数の減少と骨盤位の帝王切開例が多くなったことと,外回転術の成功によるものと考えられる。このような状況の中で,助産婦としてどのように援助すべきか考えてみたい。

26.子宮復古の促進 久米 美代子
  • 文献概要を表示

 産褥期間中の子宮が妊娠前の状態に復帰する過程を子宮復古という。復古現象のなかでも最も著しい変化は巨大化した子宮の急速な縮小や胎盤剥離面をはじめ子宮内膜の再生である。

 正常分娩では胎盤娩出後は,子宮体部が強く収縮して弾性硬となり,子宮は強く前屈し,子宮底は臍下2〜3横指となる。そして,この子宮筋の強い収縮により胎盤剥離部の血管は圧迫閉鎖され止血する。その後,子宮底の高さは時間とともに上昇し,子宮底長が最大になるのは12時間後であると言われている。しかし産褥第1日以降の子宮底は漸次下降する。

  • 文献概要を表示

 臍帯結紮の目的と要点は,確実に臍帯内の血管を圧迫して臍出血を防ぐことと,適切な時期に結紮することであろう。また結紮後,切断した臍帯の断面は,創面と見なして感染防止を考慮しながら,清潔にその手技や処置を行わなければならない。結紮の時期と具体的な方法について順を追って述べる。

  • 文献概要を表示

 扁平乳頭は,先天的に発育不全があり,乳輪,乳頸,乳頭頂がほぼ同一平面上に位置するものと,後天性のものとして,乳房うっ積乳輪下の炎症,稀に腫瘍や外傷によるものがある。先天的な扁平乳頭に対しては妊娠中からの乳頭・乳輪部マッサージが有効である。先天的なもの後天的なもの両方にいえることだが,乳首の捕獲に必要な伸展性の悪い,うっ積・浮腫のみられる時期(乳頭・乳輪部の長さが2.0cm以下)は直母禁とし,マッサージの励行,搾乳にて状態の改善をはかり柔軟化伸展性が出てくれば直母可能となるので,あせらず先飲みによる内出血などトラブルを予防することが必要である。

 注・直母の際,児が乳首を捕獲した長さを想定し,I〜III指でつまみ,乳輪部から乳頭頂までの長さを,乳首の伸展度とする(図1参照)。一応正常範囲は2.5〜3.5cmとし,2cm以下は捕獲不可能として直母禁。3.5cm以上は伸展過多とし乳輪部まで深くくわえ込ませる指導が必要である。

新生児

29.臍帯処置 大川 昭二 , 蘇 娟楠
  • 文献概要を表示

臍帯への認識

 臍帯は胎児と胎盤を介して,母体と連結する臓器の一部であり,出生後の処置は長い慣習によって,胎児娩出後臍帯拍動の停止を待って,結紮切断されてきた。最近では胎児内の状況を検査する目的で,経腹的臍帯血採血1),およびDopplerによる臍帯血流の測定2),あるいは出生後の臍帯血より薬物あるいは内因性の諸物質の測定による母児相関の解明などが行われ,また,いわゆる母児相関面から考慮すれば,残されたへその緒はまさに母児相関の証しとなる7)

  • 文献概要を表示

 新生児蘇生法は子宮外環境への児の適応を助けることにあり,出生直後の適切な処置で異常なく,もしくは,異常があってもかなりの病態を軽減できる。また,新生児仮死に対する処置法としての蘇生法は仮死の成因(原因),発症時期により,また,重症度により異なる。新生児仮死発症原因は母体側要因,胎児側要因,胎盤要因および分娩・出産時要因に分けられ,妊娠中の母児の経過を把握することは大切であり,予防もしくは予想される事態に十分な準備で待機ができる。さらに仮死の重症度評価にアプガースコアが用いられているが,その時点の評価でありそれ以上の情報は得られず,周産期の児の状態(状況)把握が重要である。

 蘇生は主として中枢神経系保護のため行う処置と言えるが,不適切,不必要な操作,薬品使用による新しい病態(医原疾患)に陥らせないことを肝に銘ずるべきである。

31.沐浴か清拭か 笠 則義
  • 文献概要を表示

 今日では,ほとんどの分娩が病院で行われるようになり,正常新生児のケアも病院の日常業務の一つとなって久しい。病院で行われる新生児のルーチンケアのなかには,従来から単に習慣的に行われてきただけで,医学的に十分な検討がされていない手技・方法も少なくない。新生児のスキンケアもそうしたものの一つである。入院中の新生児の健康管理に責務のある新生児科医・産科医は,自己の施設における新生児のルーチンケアについて,「沐浴か清拭か」の問題を含め,常に再検討を行い,必要があれば従来の手技・方法を変革することも必要である。

32.新生児の保温・観察 秋山 正
  • 文献概要を表示

 母親の深部体温よりわずかに高い胎児の体温は,出生を境に急激に下降する。ことに未熟児では環境温度の影響を強く受け容易に低体温に陥る。新生児の低体温は,アシドーシス,低酸素症を引き起こし,全身状態の悪化を招くことが知られているが,実際の臨床の場では十分な体温管理がなされていないのが実情である。ここでは新生児の体温管理を行うにあたっての基本的事項および実際について述べることにする。

33.新生児感染症の見分け方 上田 隆
  • 文献概要を表示

 新生児に感染が起こっても症状が出にくいし,明らかな感染症の症状が認められる時は手遅れのことが多い。臨床的には「not doing well(どこかおかしい)」状態に気付いて早期に検査することが重要で,ベテランの医師や看護婦の勘に頼っているのが現状である。新生児感染症の検査は,成人の場合と違って検体量が制限され迅速にしかも24時間いつでも測定されることが要求される。これらの条件を満足する検査を選んで新生児感染症を早期に見分ける方法を述べる。

産褥

  • 文献概要を表示

 産褥期は産後6週間であり,この期間に子宮,腟,会陰部などは解剖学的に妊娠前の状態へ戻り,非授乳婦人の排卵周期はほぼ再開する。この妊娠,分娩によって生じた生殖器や全身の器質的および機能的な変化が非妊娠時の状態へ戻ることを産褥復古(puerperal involution)という。復古現象は全身に生じるわけであるが,妊娠中の変化が大きい分だけ産後の変化が最も強く現れるのは子宮である。

  • 文献概要を表示

乳汁分泌の促進

 通常,乳汁分泌は産褥2〜3日から開始し,4〜5日目には200ml/日以上の十分量になる。しかしながら重症の妊娠中毒症や糖尿病などの母体合併症があったり,帝王切開分娩や分娩時大量出血などの場合には,産褥期の乳汁分泌が低下する。

 産褥期の乳汁分泌を促すためには,まず妊娠中から乳房管理を開始することが重要である。すなわち,妊娠中から乳頭の異常(扁平乳頭,陥没乳頭など)を矯正しておくこと,乳頭・乳輪部マッサージを行い児の吸綴刺激に耐えられるよう外的刺激に慣らしておくこと,などの準備が大切である。このような手入れは,母乳哺育に対する意識の向上にもつながる。また,分娩後は早期から授乳を始めること,乳汁分泌が開始する以前から乳房マッサージを行い,射乳を促進することも大切である。授乳後は乳汁を搾り出して乳腺腔を空虚にし,乳房のうっ滞を防ぐことで乳汁の産生を促進するようにする。

36.乳房マッサージ 根津 八紘
  • 文献概要を表示

 母乳哺育推進とともに乳房マッサージの必要性が叫ばれ,久しくなる。しかし多く,産褥看護の一環として,看護婦や助産婦が産褥にしてやるという方向で行われている。妊娠・出産・育児が人間のごく当り前の生き様であるならば,育児の中の母乳哺育,中でも母乳を出して子供に飲ませて行くことは,母親が自ら行って行く当然の事柄であり,自ら行って行けるよう指導者が指導して行くことも当然の事である。にもかかわらず,褥婦全員にマッサージを施行している施設や,指導者が居ることは,大の大人に御飯を箸で口まで運んでやったり,トイレでお尻を拭いてやっているのに等しいことである。自立自活して子育てのできる母親へと指導してやることが本来の指導者の役割であり,そうしてやることは,手を掛けてマッサージしてやることより,もっと労力を要することである。

 最近,親切医療を強調する余り,何でも褥婦にしてやる傾向があるが,ただでさえ育児能力の無い親が多くなったと言われる現在,マッサージをしてやることは,それを一層助長する行為に外ならないのである。

37.マタニティーブルー 前原 澄子
  • 文献概要を表示

 女性は,妊娠や分娩を契機にして精神障害を起こすことがある。その中でも産褥期に精神障害を多発するらしいことは,よく知られている。その病像にも特長が見られ,神経症・感情病,特にうつ病が多いことが諸家の一致した見解である。

 産褥ブルー症候群としてマタニティブルーを意図的にまとめたのは,Hamiltonに始まり,次いで1968年にB.Pittが,産褥期にうつ病になる女性が多いことに注目して,一過性に経過するうつ状態を産褥期うつ病から独立させるべきであるとの考えから研究を進め,これをマタニティブルーと報告した。

カラーグラフ 胎盤の生理と病理・5

絨毛膜羊膜炎 中山 雅弘
  • 文献概要を表示

 子宮内感染症は,上行性感染症と血行性感染症に大別される.上行性感染症は羊水に感染症が発生し胎盤では表面の混濁,臍帯では浮腫あるいは色調変化を見る.胎盤表面では母体白血球の浸潤が混濁としてみられ,従って,胎盤表面の混濁度は母体の感染徴候と相関する.胎盤の胎児面及び臍帯の肉眼的観察により絨毛膜羊膜炎は診断できる(表1)2).しかも,羊膜と絨毛膜との癒着の程度を見ることにより,炎症が急性のものか慢性のものかがわかる.一方,臍帯は胎児の感染に対する反応を示す.

 早産に特異的な感染症として,石灰沈着性臍帯炎がある.臍帯に炎症後の産物と考えられる石灰沈着がみられるのが特徴的で卵膜には強い炎症細胞の浸潤を認める.Navvaro,Blancらはsubacute necrotizing funisitis(SNF)として報告しているが3),これが新生児のWilson-Mikity症候群と強く関連する(約1/3の例がWilson-Mikityになる)ので極めて重要な所見である4)

  • 文献概要を表示

 子宮頸癌の発生は疫学的に性交と深く関連していることが知られており,従来より性行為により感染する微生物が頸癌発生の原因ではないかと考えられてきたが,近年の子宮頸癌とhuman papil—lomavirus(HPV)に関する知見が集積されるにつれて,HPVはまず間違いなく大部分の頸癌の発生過程に重要な役割を果していると考えられるに至っている。

 性行為による子宮頸部のHPV感染と頸癌の発生を考察する上で,比較動物学的に頸癌の発生をみると,ヒトにおける頸癌の発生頻度に比べ,ヒト以外の哺乳動物における頸癌の発生頻度は極めて稀である。そこで,頸癌発生のリスク因子としての性交を両者についてみると,ヒト以外の哺乳動物では性周期と発情周期が一致し,主に発情期のみに性交を営むのに対して,ヒトでは性周期は存在しているが発情期はなく,性周期と無関係な性交が営まれていることがわかる。ヒトとヒト以外の哺乳動物の頸癌発生頻度の著しい差異は,このような両者の性交形態の差異に基づくものであるのかも知れない。このような比較動物学から得られた示唆が本研究の出発点であった。

  • 文献概要を表示

 1988年から1990年の3年間に当科で治療した進行期の原発性卵巣癌患者10例のうち,初回手術により腹膜播種を残して腫瘍の大半を切除し寛解化学療法を施行後の2例と,初回手術により母指頭大から小児頭大の残存腫瘍が残った8例のうちの寛解化学療法によりCRとなった5例の計7例を対象に,維持化学療法としてエトポサイド内服を5〜26(平均15.4)クール施行した。投与法はA法として25mg/body×10日,B法として25mg/body/21日,C法として100mg/body×5日とし,4週間毎に繰り返した。7例中1例に12ヵ月目再発をみたが,6例は奏効中で現在までのところ全奏効期間で20.4ヵ月間を得ている。また副作用は脱毛と悪心・嘔吐のみで骨髓抑制などは認めなかった。

基本情報

03869865.46.5.jpg
臨床婦人科産科
46巻5号 (1992年5月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

文献閲覧数ランキング(
12月9日~12月15日
)