臨床婦人科産科 46巻1号 (1992年1月)

今月の臨床 子宮内膜症

病因と病態

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 子宮内膜症は,独立した疾患単位として認められているものの,稀なものと考えられていたために,あまり注目されてこなかった。しかし,近年,その原因と発生機序,頻度の著増,不妊症との関連,新しい診断法および治療薬の導入や,本症が主にヒトに発生する疾患等々の面で,不可解な点が多く,謎の疾患(enigmatic disease)といわれ,現在,最もhotな婦人科疾患となっている。

 子宮内膜症の発生頻度については,近年増加傾向にあることが認識されてきている。表1に国内外の開腹手術によって確認された子宮内膜症の頻度を報告年度別に示した。1930,40年代では0.8〜9.0%で,1950年代には0.1〜12.8%で,1960年代には2.5〜27.8%で,1970年代には0.2〜39.8%で,1980年代には13.9〜24.0%になっている。報告者によって,対象とした母集団の患者構成が一定しないために,単純には比較できないが,全体として1960年代には10%未満,1970年代には10%台,1980年代には20%台と,年代を追うごとに発生頻度の増加傾向が認められる。

2.発生機序 青野 敏博
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 子宮内膜症Endometriosisは子宮内腔以外の場所に内膜様組織が異所性に発育増殖し,性ステロイドホルモンに反応して出血,癒着をもたらす疾患である。発生部位は小骨盤腔内が多いが,遠隔の部位にも認められ,発生機序についても多くの説がある。

 本稿では子宮内膜症の発生原因に関する諸説を紹介し,原因に占める頻度や重要度を分析したい。

3.組織所見 植木 実
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定義ならびに進行期分類

 子宮内膜症は子宮内膜あるいはその類似組織が異所性に増殖する疾患とされている。その定義の詳細については日本産婦人科学会の生殖・内分泌委員会(子宮内膜症の診断および進行度分類基準設定小委員会)で検討されている。そこでは子宮内膜症とは子宮およびその周囲漿膜および卵巣の病巣を指すものとし,子宮筋層に病巣の存在する内性子宮内膜症は子宮腺筋症と呼び,またそれ以外の他臓器にみられるものはそれぞれの臓器の子宮内膜症と呼称することで内定している。

 また,同小委員会では従来研究者によって用いられてきた種々の進行期分類をRe-AFS分類に統一することに決定した。しかし本分類は腹腔鏡を用いて診断するので,実地臨床医や腹腔鏡の設備のない病院では使用出来ないため,そのような臨床的診断の際には当面Beecham分類を用いる意向にある。尚,このBeecham分類も問題があるので,将来日本独自の臨床進行期分類を新しく作成することになり,その作業が開始されている。

4.発生部位と症候 足髙 善彦
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 子宮内膜症(endometriosis, EM,本症)は卵巣からエストロゲンを分泌している婦人にのみ認められる疾患で,病理学的には良性疾患でありながら,卵巣,子宮体部後面,仙骨子宮靱帯などの性器や,ダグラス窩などの隣接臓器に好発・多発し,さらには遠隔臓器へも波及して浸潤性に進展するので,benign carcinomaとも称せられる。日本産科婦人科学会生殖・内分泌委員会の考えに沿うと,従来よりの外性EMは子宮内膜症,内性EMは子宮腺筋症と表現されるが,ここでは主として外性のEMに焦点を絞りつつ,その発生部位と症候についてまとめておく。

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 子宮内膜症は生殖年齢層に発症すること,そして内膜症組織は去勢により萎縮をきたすことから,内膜症の増殖ならびに進展は卵巣ホルモンであるエストロゲンに依存することが明らかである。月経血の経卵管逆流による内膜片の骨盤腔内移植が内膜症発生の誘因と考えられているが,本症の罹患率は30歳より40歳代前半にわたって最も高いことから1)(図1),長期間のエストロゲン刺激のもとに内膜症は増殖,進展するものと考えられる。

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 子宮内膜症は,狭義には外性子宮内膜症を意味するが,広義にはこれに加えて子宮腺筋症をも含む。しかし,外性子宮内膜症で月経痛を伴うものは30%に過ぎないが,子宮腺筋症では月経痛は程度の差はあるが必発の症状である。

 近年,欧米では内・外性子宮内膜症は発症のメカニズム,臨床症状,治療法も異なるため,それぞれ別の疾患であるとの考えが主流であり,外性子宮内膜症を子宮内膜症,内性子宮内膜症を子宮腺筋症として区別している。従って,ここでは月経痛が必発である子宮腺筋症における月経痛のメカニズムについて話をすすめていきたい。

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 近年,子宮内膜症患者の一部に免疫グロブリンや補体の変化,細胞性免疫応答の異常,また正常の子宮内膜組織やそれを超音波破砕して得られた子宮内膜抗原に対しての抗体の出現といった自己免疫疾患の性格を示唆する所見が報告された。そのため,子宮内膜症を自己免疫疾患の一つとして捉える意見まで提唱されてきている。しかし他方,子宮内膜症患者でも対照婦人と比して免疫系には有意な変化は認められなかったという報告も見られ,子宮内膜症と免疫機能の関連についてはなお議論が多い。本項ではわれわれの行った子宮内膜症患者の免疫機能解析の結果と抗子宮内膜抗体検出の試みについて述べる。

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 子宮内膜症の組織発生に関して種々の説が提唱されている(表1)。その中で現在主流をなすものは子宮内膜播腫着床説(Sampson説)1)と体腔上皮化生説である。子宮内膜播種着床説とは,月経時に剥脱した子宮内膜が月経血とともに卵管を逆流し腹腔内に到着しそこで着床し増殖するという説である。一方,体腔上皮化生説は,第二次体腔上皮coelomic epitheliumに由来する組織(Müller管,卵巣被覆上皮,腹膜,胸膜など)は子宮内膜化生を起こす潜在能力を持っており,ある化生誘導因子の存在下に子宮内膜症が発生するという説である2,3)。先日,特殊な子宮内膜症例をreviewした4)が,その際に述べたように私自身は体腔上皮化生説を支持したいと思っている。

 さて,子宮内膜症の好発部位はダグラス窩,仙骨子宮靱帯,膀胱子宮窩,卵巣などの骨盤内臓器である5)が,時には肺,胸膜,横隔膜,消化器系臓器,尿路系臓器,四肢など種々の遠隔臓器,あるいは非常に稀ではあるが男性にも発生する4)。子宮内膜症の好発部位はいずれも体腔上皮由来の組織であり常に腹水に暴露されている。さらに,肺,胸膜,横隔膜,消化器系臓器などにも体腔上皮由来の組織が含まれており,且つ腹水に曝される機会を持っている。

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 子宮内膜症の診断に超音波断層法やCTスキャンによる画像診断を活用し,腹腔鏡検査による確定診断が一般的に行われるようになってきた。ようやく欧米のレベルに追いついたといえよう。その診断の進め方は,臨床的に子宮内膜症を疑い,画像診断や腫瘍マーカーにより診断をすすめ,そして腹腔鏡検査か開腹術によって直接観察し,確定診断に到達することである。

 本項目では,超音波やCTによる画像診断,腫瘍マーカー,さらに内視鏡診断が検討されていくが,本稿では診断の進め方—内診でどこまで分るかを述べることとする。

10.超音波診断 大屋 敦
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 婦人骨盤内疾患における超音波断層法の有用性は広く認められているが,超音波機器の進歩による解像力の向上と従来より行われていた超音波経腹走査法に加えて近年超音波経腟走査法が導入され,骨盤内の種々の病態把握がより明瞭となり,とくにその非侵襲性,手技の容易さから日常診療に広い範囲で活用されている。

 超音波診断は,CT検査やMRI検査や内視鏡検査などを必要とするような疾患の場合でもそれらの検査の適応を決定するためのスクリーニング検査として,まず第一に施行すべき検査である。

11.HSG 小倉 久男
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 子宮内膜症の診断には問診,内診を初め,超音波断層法,腹腔鏡検査,子宮卵管造影法などの検査が行われており,最近ではCT,MRIなども応用されている。

 子宮内膜症の子宮卵管造影法(HSG)による臨床期分類の診断は困難である。特にHuffman,新AFS分類によるI・II期では,ほとんどHSGでは異常が認められないので診断は困難といわざるを得ない。III期,IV期でみられるチョコレート嚢胞や強度の骨盤腔癒着を伴った場合では,内膜症の可能性を示唆する所見が得られる。

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 内膜症性嚢胞は特異な貯溜嚢胞であるが,臨床上しばしば真性卵巣腫瘍との鑑別が問題となる。若い女性では,保存的治療が行われる場合が多く,内膜症性嚢胞の正確な診断が重要である。画像所見は多彩で一般に特異的診断は困難とされてきた。しかし,近年MRIの普及に伴い診断能が大きく向上しつつあり1〜4),これについて簡単に解説する。

13.腫瘍マーカー 根岸 能之
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 近年,産婦人科疾患の中で子宮内膜症の頻度が著しい増加を示しているため,その診断ならびに治療法に大きな関心がよせられている。従来,子宮内膜症の診断とくに臨床進行期の診断は,腹腔鏡または開腹術によって確定されている。特に最近では卵巣癌の診断に有用とされている腫瘍マーカーCA125が,子宮内膜症の診断と治療効果判定に役立つことが証明され,臨床応用がなされている。一方,基礎的には異所子宮内膜腺管上皮培養細胞からCA125の産生に関する検討がなされ,CA125が子宮腺筋症の血清診断に役立つことも示唆されている。そこで今回,CA125に加えてCA19-9,CA72-4を用いて子宮内膜症とくに内膜症性嚢胞患者を中心に,その臨床的有用性を検討した。さらに免疫組織化学的染色によって各種瘍マーカーの組織局在についても検討した。

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 近年,外性子宮内膜症は増加傾向にあり,不妊症例との関連も深く,より確実な診断とともに,初期病変の発見が重要となってきている。診断には,問診,内診,直腸診,子宮卵管造影(Hystero—salpingography,HSG),超音波断層法,ComputerTomography(CT),Nuclear Magnectic Reso—nance(NMR)などの画像診断,あるいは,CA125,CA19-9などの腫瘍マーカーによる血清学的診断があるが,明らかな卵巣嚢腫(チョコレート嚢腫)を認める症例を除いては困難であろう。そこで近年,産婦人科領域において普及してきた腹腔鏡による直視下診断は,確定診断,早期発見という意味においても有効な手段であり,治療的な面からも今後広く活用すべき手段である。本稿では,腹腔鏡の子宮内膜症における当科での適応,方法,診断,副作用につき不妊症との関連も考慮しまとめてみた。なお,本論文での子宮内膜症とは従来の外性子宮内膜症であり,内性子宮内膜症(子宮腺筋症)は除いてある。

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 子宮内膜症の臨床進行期分類のうち,内診所見によるBeecham分類1),開腹所見によるAcosta分類2),ラパロスコピーによる杉本分類3)などが本邦ではよく用いられている。しかし最近本邦でも子宮内膜症の診断は開腹またはラパロスコピーによらねばならないとの考えが確認され,アメリカ不妊学会での新分類法の発表(AFS分類)ともあいまって一挙に子宮内膜症の分類にはアメリカ不妊学会分類改訂版(Re-AFS分類)4)を使用すべきとの意見が大勢を占めた。しかしRe-AFS分類も臨床症状や不妊に対する予後と相関せず,大きな問題点を含んでいる5)。日本産科婦人科学会子宮内膜症診断基準設定委員会での検討の結果,委員会として独自の臨床進行期分類設定の必要性は認識しつつも現在では国際性も考慮しRe-AFS分類を採用することが適切であろうとの結論を得た。しかし実際には,挙児希望のない子宮内膜症に全例腹腔鏡を実施することの困難さも考慮し,直視下による診断がでないときには当面Beecham分類をも採用し,診断を〈臨床子宮内膜症〉とすることで意見の一致をみている。

 そこで本論文では,R-AFS分類と共にBeecham分類についても解説する。

子宮内膜症と不妊

16.不妊の発生機序 三橋 直樹
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 子宮内膜症を合併した不妊症は頻度も高く,治療に抵抗性であることから大きな問題となっている。卵巣に限局した小さな内膜症性嚢胞を切除しただけで妊娠する例,あるいはラパロスコープではじめて診断されたような初期のものがホルモン療法で妊娠することもあり,子宮内膜症の不妊原因は癒着のような肉眼的に明らかなものの他に,内分泌あるいは免疫などの因子が関係していることはおそらく間違い無いものと考えられている。しかし内膜症によるどのような因子が妊娠成立のどの段階を阻害しているのかについては多くの研究がなされているにもかかわらず,まだ明確な結論は出ていない。また重症の子宮内膜症が不妊の原因となることは疑いないとしてはたして軽症あるいは中等症例でも不妊の原因となり,積極的な治療を行った方がよいのか,必ずしも明らかではない。このような基本的な疑問があるにもかかわらず,子宮内膜症と不妊の関係は多くの研究者の注目をあびているテーマである。子宮内膜症のうち内性子宮内膜症つまり子宮腺筋症は発症年齢も40歳以降に多く,不妊症という点では問題になることが少ないので,以後の議論は外性子宮内膜症に限ったものとしたい。

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 子宮内膜症に関心が高まった最大の要因は不妊との密接な関係が明らかにされたためで,不妊患者の過半数に本症が認められる。本稿では,子宮内膜症不妊に対するわれわれの治療方針とその成績を述べる。

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 体外受精は今日ではさまざまな原因の不妊症の治療として一般に用いられるようになった。子宮内膜症は子宮内膜が異所性に存在し,種々の病態を引き起こす疾患であるが,この治療にも体外受精は用いられるようになった。体外受精は新しい治療の概念であるからして,内膜症の治療を考える際には以前とは異なりこの存在を考慮に入れて治療方針を立てなければならないし,治療方針を決定するためには正しく病態を把握しなければならない。

 腹腔鏡は子宮内膜症の診断には,なくてはならない診断法であり,かつまた腹腔鏡検査時に,癒着剥離,chocolate cystの吸引,alcoholによる固定,laserによるminimal lesionの焼灼,蒸散などの手術も積極的に施行されている。この腹腔鏡の所見やその際に行われる手術操作によってその後の治療方針が決定される。

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 子宮内膜症が不妊の原因となることは周知の事実である。しかしながら,子宮内膜症の存在が妊娠経過に与える影響については一定の見解を得ていない。特に子宮内膜症と自然流産との関連性についてはむしろ否定的報告が多い。このような背景から今回は,現在までの報告例とともに若干の自験例も加えて子宮内膜症と自然流産の関係について述べてみたい。

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 腺筋症と子宮筋腫はともに性成熟期の子宮に発生する良性腫瘍で,その臨床症状および内診所見が類似し,また両者を合併していることも多いことからその鑑別診断は必ずしも容易ではない。しかし,子宮筋腫核出術を施行する際は腺筋症と子宮筋腫の鑑別は必須である。また,閉経前の腫大した子宮が腺筋症であれば,閉経を待てば保存的対応が可能となることや,手術の適応を判断する際に両者の鑑別が必要となることがある。

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 子宮腺筋症は性成熟期から更年期にかけての女性に好発する。本症は子宮筋層内に存在する異所性子宮内膜症組織のため,さまざまな臨床症状を引き起こす。例えば,月経時におこる強度の疼痛,過多月経,さらに月経時以外でも下腹痛,腰痛,反復する鉄欠乏性貧血などである。

 子宮腺筋症の治療は上記臨床症状を軽減,消失させることであるが,その治療は意外と難しい。本症の治療上の問題点として,下記のことが考えられる。本稿ではこれらの点を中心に治療法を述べていく。

治療と予後管理

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 内膜症は女性の生殖可能年齢期に発症する。すなわち初経から閉経までの婦人が月経随伴症状や不妊症を訴えて婦人科を受診し内膜症と診断されることになる。本章では内膜症の年齢別治療指針について述べる。

23.対症療法 岡村 均
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 子宮内膜症患者の代表的な症状としては骨盤痛と不妊が挙げられる。月経期に一致した下腹部や仙腰部などの骨盤痛(月経困難症)が最も特徴的である。一方,月経期とは関係なく骨盤痛が出現したり,排便時の肛門痛や性交時の骨盤深部の痛み(deep dyspareunia)を訴えたりするものも多く,その出現時期(月経周期との関連で)や程度は複雑多岐にわたり,一つの症状から本症を類推することは可能ではあるが確定診断に至ることはない。また症状と臨床進行期による重症度とは必ずしも一致しないことも本症の特徴である。これらの痛みの発生病理に関する現時点での知見は乏しく,さらに軽症子宮内膜症と不妊との問題にしても残された研究課題は多い。

 なんらかの症状を訴え腹腔鏡検査で確定診断が得られた症例では,保存的な手術療法や異所性子宮内膜の増殖抑制あるいは枯渇を目的とした薬物療法(ダナゾールやGnRH analogue)を行うのが原則である。これらについては別稿で述べてあるので,本稿ではこれ以外の治療法を主に痛みと不妊に絞って述べてみたい。ただし,本症の対症療法には限界があり,進行性の疾患であるがゆえに,治療期間や重症度について十分に考慮することはいうまでもない。

24.ダナゾール療法 伊吹 令人
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 子宮内膜症は腹腔鏡の使用などによる診断法の改善の影響もあって増加しており,不妊症との関連など治療法も種々開発されつつある。ここには子宮内膜症のダナゾール(ボンゾール)療法とそのバリエーションについて述べる。

25.GnRHアナローグ療法 白須 和裕
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 GnRHアナローグがもつゴナドトロピンのdown-regulationを介しての卵巣機能の抑制は,ホルモン依存性のある疾患に対して臨床応用がすすめられてきた。生殖年齢にある婦人に好発する子宮内膜症もその一つであり,妊孕性の向上を考慮した薬物療法への期待は大きいものがある。

 ここでは,現在わが国で唯一市販されているGnRHアナローグ製剤ブセレリンによる治療成績を中心に,臨床試験中にある新しいGnRHアナローグ製剤についても紹介する。

26.薬物療法の選択 岩下 光利
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 子宮内膜症の治療として現在広く用いられているのはダナゾールとGnRHアナログの二つである。本稿ではこれら二つの薬剤の使い分けについて述べるが,もとより使い分けに対して確立されたものがあるわけではなく,私見を交えて解説する。

27.保存的手術療法 松本 裕史
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 保存的手術の目的は内膜症に基づく不妊を治癒させることにある。したがって,目に見える全ての病変部を除去し,術後の骨盤内臓器の関係が本来の形に保たれるような治癒状態を創りださなければならない(以下,保存的手術を手術と書く)。

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 外性子宮内膜症(以下内膜症)に対する腹腔鏡下レーザー療法は欧米を中心に活発に行われており,有効な治療法として定着しつつあるといわれる。今回,筆者はNd:YAGレーザー装置を使用する機会を得たのでその成績をまとめ考察を加えてみたい。

29.根治療法 蜷川 映己
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 子宮内膜症のうち,不妊症を伴うか挙児を希望するものにたいしては,保存的療法が選択される。薬物療法の進歩,保存的手術法のうちレーザー,アルコール固定法などの新しい展開,IVF—ETをはじめとする不妊症の別ルートによる治療などによって,子宮内膜症を伴う不妊症の,不妊に対する治癒成績は向上しつつある。また妊娠の成立は,子宮内膜症の病状にも,好結果をもたらすので,妊娠分娩を契機として,ほとんど完治の状態にいたる症例をも経験する。

 この意味で行くと,根治療法には,保存的療法の組合せで結果的にこれが期待されるものと,始めからラジカルに手術療法を行うものとがあることになる。表1に当院での治療法の選択基準を示したが,挙児希望,ホルモン依存度,チョコレート嚢腫の有無,子宮筋腫の合併などが治療法選択の分岐点になる。

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 外性子宮内膜症は不妊原因の一つとして重要視されてきており,本症の治療にダナゾール,Gn—RHアナログなど多くのホルモン剤が開発されその有用性が報告されている。

 しかしながら,内膜症重症例に認められる卵巣チョコレート嚢胞はこれらのホルモン療法によっても縮小効果に乏しく抵抗性を示すことが多い。また,開腹による保存的手術療法においても強度の癒着により完全摘出が困難であったり,術後の周囲臓器との広範な癒着形成により妊孕性が低下する危険性があり,その適応には慎重でなければならない1)

31.消化管子宮内膜症 小林 博
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 消化管子宮内膜症は,外性子宮内膜症のうち腸管壁に発生したもので,腸管子宮内膜症と称してよいが,腸管の内膜症病変が高度となり,明らかな臨床所見を示すものが腸管子宮内膜症とされ,最近本症の報告例が増加している。

 欧米ではMeyerの最初の報告(1908),Macker—rodtの最初の手術例(1909)以来,多数本症例が報告されているが,わが国では比較的稀な病変で,癌との鑑別が問題となることが多い。

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 子宮内膜症は肺を含んで胸郭内にも発生する。頻度は極めて稀であるが,月経に随伴して発生することから,その症状から診断の糸口がつかめる。また,その病因にも興味が持たれる。

33.臍内膜症 下谷 保治 , 高嶋 知
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 臍内膜症は臍部に発生した皮膚内膜症であり,外性子宮内膜症に含まれる。近年外性子宮内膜症の頻度は増加してきているが,本症の発生頻度は0.5〜1.0%とされ極めて稀である1)

 筆者は最近臍内膜症の症例を経験したのでその治療方法および予後管理について述べてみたい。

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 子宮内膜症の拡がりの程度は,内診所見によるBeecham分類,開腹手術所見によるHuffman分類,そして,最近の腹腔鏡所見を加えたRevisedAmerican Fertility Society(RAFS)分類などがある。このうち,内診上,ダグラス窩が閉鎖し,骨盤内臓器が一塊となって,相互の境界が不明となり,移動性を失なった症例をfrozen pelvis(以下FPと略)と称し,子宮内膜症の重症型とされる(表1)1,2)。このFP症例は,病理学的には良性疾患であるが,隣接臓器への浸潤や癒着形成による機能障害など悪性腫瘍の病態に類似するため,通常の子宮内膜症とは,全く異なった慎重な取扱いを必要とする。

 この観点から,最も重要な問題点は,診断面では,1)病巣の拡がりの程度の把握,2)大腸・直腸,卵巣,膀胱,後腹膜などの悪性腫瘍との鑑別,3)子宮内膜症より発生する悪性腫瘍の可能性などであり,治療上では,薬物療法の適応と手術術式の選択である。以下,これらを中心としてFP症例の臨床上の取り扱いの要点につき述べる。

カラーグラフ 胎盤の生理と病理・1【新連載】

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 今回より,数回にわたって胎盤図譜シリーズを開始する.典型的な症例の胎盤を出来るだけ多く掲載したいと考えている.第1回はBreus' moleとRohr's fibrinを取上げた.発生学的に共通項をもつものではないが,どちらもIUFDや早産と関連し,胎盤の所見が非常に印象的なものである.

Current Research

子宮内膜症と不妊 杉並 洋
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 子宮内膜症は主として生殖年齢婦人に発生し,月経痛,性交痛などをもたらし日常生活の大きな障害となるとともに不妊症の一原因であると考えられている。子宮内膜症の頻度は高く,生殖年齢婦人の3〜7%,不妊婦人の20〜40%,原因不明不妊婦人の40〜70%に本症が認められると言われている。子宮内膜症の好発部位はダグラス窩,仙骨子宮靱帯,膀胱子宮窩,卵巣などの骨盤内臓器であるが,時には肺,胸膜,横隔膜,消化器系,尿路系,四肢など種々の遠隔臓器,あるいは非常に稀ではあるが男性にも発生する1)

 子宮内膜症の発生に関して種々の説が提唱されている(表1)。その中で現在主流をなすものは子宮内膜播種着床説(Sampson説)2)と体腔上皮化生説である3,4)。子宮内膜播種着床説とは,月経時に剥脱した子宮内膜が月経血とともに卵管を逆流し腹腔内に到達しそこで着床し増殖するという説である。確かに月経血の経卵管逆流は腹腔鏡下によく観察される現象であり,またその中に着床可能な子宮内膜組織が混在しているのも事実である。しかし,剥脱した子宮内膜が本当に腹腔内に着床し増殖するという証拠は現在のところまだ得られていない。

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 妊婦に合併した子宮頸部病変(高度異形成4例,上皮内癌4例,浸潤癌2例)より得たパラフィン包埋切片に対し,ビオチン標識HPV6/11型,16型,18型DNAプローブを用いたin situ hybridization法または,E7領域をprimerとしたPCR法によりHPV DNAの検出を行った。

 その結果,10例中9例(16型5例,18型4例)にHPV DNAが検出され,組織型別では,高度異形成の4例中3例に16型が,1例に18型が,上皮内癌4例のうち2例に16型,1例に18型が,浸潤癌2例に18型がそれぞれ検出された。治療はレーザー療法,手術療法を施行し,10例中9例は再発なく経過しているが1例は急速な発育を示し17ヵ月後死亡した。

 妊婦に合併した子宮頸部病変の中にはHPV陽性で病変の急速な進行を認める症例もあり,今後妊婦に対するHPV感染検索を含めた子宮頸部病変のスクリーニングの重要性が示唆された。

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1)黄体期では卵胞期と比べ明らかに味覚感受性は低下し,感受性に周期性のあることが認められた。また,健康男子と比較すると塩味をのぞき月経周期のいかんによらず感受性は低下し,塩味だけは黄体期に限り男子より低下していることが認められた。

2)妊娠に際しては,妊娠3ヵ月で急激な感受性の低下がみられ,漸次回復し妊娠5カ月より黄体期にみられる感受性の範囲を推移するが,塩,酸味に限り妊娠9ヵ月で再び軽度感受性の低下する傾向が認められた。

3)更年期婦人の感受性は成熟婦人の卵胞期でのそれと比べ低下が認められた。

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 EDTAで処理した血液で血小板が凝集をおこすものがあることをGowlandらが1969年に報告,1973年,shreinerらはこれを見かけの血小板の減少として,Pseudo—thrombocytopeniaと称した。当科で同様の症例を経験したので報告する。

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 メルボルンの市街地はシティCityと呼ばれています。Cityは端から端まで見渡せる程度のこじんまりした範囲で道路が京都や札幌のように碁盤の目になっています。この道路を市電トラムが小まめにストップして市民の足になっています。Cityの建物は新旧の対照宜しく調和がとれ,20ほどある超高層ビルもメルボルンのダイナミックな空に映えるよう美しく設計されています。そしてこの市街地から美しい住宅が郊外の四方八方に広がり,また交叉路で眺めると前後左右にのびた道路のその広さ,長さに気が遠くなります。

 Cityから車で数分の北の隣接地には広大なキャンパスを持つメルボルン大学があり,その周囲をとりかこむように大学の付帯施設があります。大学はイギリスの制度をとり入れており,人文科学,自然科学,その他すべての学部が集まって綜合大学を作っています。学部間の交流もなかなか盛んで,医学部でも倫理問題や教育・思想問題(ここでは今女性のフェミニスム運動が盛んです)を議論したり考える場合には各方面の専門職の人達がすぐ集まり,数多くのmeetingがひっきりなしに開催されています。思索しながら行動するという大学の特質が例えば体外授精や臓器移植を盛んにし,また1991年から医療拒否もできるような法案の立法化を生む土壌を育んでいるのかもしれません。

基本情報

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臨床婦人科産科
46巻1号 (1992年1月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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