生体の科学 36巻4号 (1985年8月)

特集 神経科学実験マニュアル

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 最近,神経科学の新しい実験法が次々と開発され,また他の研究領域から導入され,研究室で用いられる材料や技術はまことに多彩なものとなってきた。

 各研究室ではそれぞれ独自に新しい技術の導入や開発に心を砕いておられることと思われるが,近頃のように要求があまりに多岐にわたると,これに応えていくことがなかなかに容易でないという面も出てきた。一方,神経科学の研究室には以前と違っていろいろと性格の違う準備過程を経た新人が集るようになり,従来のように比較的画一的な訓練では効果が少ないという状況も見られるようになってきた。

実験動物取り扱い法

甲殻類 川合 述史
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 ■ 特徴と実験例

 甲殻類は無脊椎動物神経系の実験材料として広く用いられているが,その理由として,1)種類や数が豊富で入手や飼育が比較的容易である。2)神経や筋細胞に大型のものが多く,電極刺入などに有利である。3)結合組織が少なく,目的とする器官の遊離が容易である。4)特別な実験を除き,標本を室温下で,酸素供給なしに長時問維持できることなどが挙げられよう。

 図1にザリガニやイセエビを用いた実験標本の部位を示した。代表的な研究例を以下に記す。

昆虫類 久田 光彦
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 ■ 実験動物としての特徴,意義

 1)昆虫の神経細胞数は105〜106程度である。神経系の構成が簡単であり,違った種のあいだでも基本構成がよく類似している。

 2)飼育,繁殖が容易である。成長が早く,大量飼育でき,経費もかからない。

軟体動物(ヤリイカ) 松本 元
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 ■ はじめに

 ヤリイカは巨大神経軸索と巨大シナプスをもつこと(図1)でよく知られている。このため古くから神経生理学実験に欠かせない動物として用いられてきた。ヤリイカを用いる実験にかかわる問題点は,ヤリイカを通年にわたって定常入手することの困難とヤリイカ実験を行う場所に関する制約であった。すなわち,実験が行える時期的制約と実験を行う場所の制約が常にヤリイカ実験に伴っていた。時期的制約はヤリイカがある漁場で釣れる期間が1年のうち約3ヵ月程度であることにもよるが,ヤリイカが実験室の水槽で飼育できないということが主因である。水槽内飼育が可能であれば季節の異なる全国各地のヤリイカの漁場から生きたヤリイカを運ぶことにより時期的制約は取り除かれる。場所的制約もヤリイカの水槽内飼育が困難であったため生きたヤリイカを運んで海から遠く離れた内陸部にある研究所で研究することができず,止むなくヤリイカのとれる臨海実験所に研究者が実験装置をもって行かざるを得なかった,という事情によっている。ヤリイカ実験のためにおおいに機能している臨海実験所として有名なのが,Woods Hole(米国,マサチュセッツ州)とPlymouth(英国)にそれぞれある海洋生物学研究所である。

両生類 佐藤 真彦
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 ■ 実験動物としての特徴・意義

 両生類,とくに無尾類は従来から神経生物学の実験用動物として好んで用いられてきた。この理由として,脊椎動物(とくに四足動物)としての基本的特徴を備えている,身近で研究者自らが容易に捕獲できる,動物業者から購入する際にも廉価である,大きさが手ごろで取り扱いやすい,野外で捕獲後短期間なら餌を与えなくても維持できる,などの優れた特徴を持っていることが考えられる。さらに,摘出した状態でも,本来の機能を長く保持できるので,神経筋標本・摘出脳標本を用いた多くの優れた研究がある。

 反面,後述するように,とくに陸上生活をする両生類では動く餌しか食べないので,長期間よい状態で維持するためには,餌の確保・飼育環境の整備などに特別な工夫が必要となる。

魚類 上田 一夫
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 ■ 実験動物としての特徴・意義

 魚類はその神経系,内分泌系,循環系,消化系,排泄系などの構造や機能が基本的には他の脊椎動物と同一であり,しかもそれらは概して魚類の方がより単純である。このため脊椎動物の一般的生物現象の追及には好適の動物である。とくにその脳の構築と機能は高等脊椎動物(哺乳類)と比べてはるかに単純なので,神経科学の基礎的研究には優れた実験系となる場合が多い。たとえば,神経行動学の分野では,行動を発現させる刺激(鍵刺激)を認識する神経機構,一群の筋肉を合目的に協調させ特定の行動をひき起こさせる司令の機構,運動パターン発生の機構,動機づけの機構などが研究の対象となるが,適当な魚種を選べば上記の研究を遂行することができる。すなわち,行動に関連する諸筋肉の筋電図記録,脳局所の破壊や刺激の実験,行動時の脳の電気的活動の記録など神経生理学の分野で日常使用されている諸手法を適用することが可能である1)。また,一般に,実験魚の入手および飼育は容易であり,かつ,それらの経費が比較的安価であることも研究材料として優れているといえよう。

トリ 斎藤 望
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 ■ 特徴と意義

 ニワトリは昔から卵と初期胚の発生の実験動物としてよく利用され,哺乳類のモデルとしても発生学の重要な位置を占めてきた。しかしトリ一般は脳の実験動物としてはあまり重要視されていない。哺乳動物と比較すると小脳のみ発達しているが,大脳は小さく,皮質が欠除していることが主な理由である。しかし,哺乳動物の大脳皮質の構造とは異なるが,それに対応する過線状体はよく発達して,ニワトリとハトの学習(すり込み現象など)の座(連合野)として評価されている。カナリヤでは過線状体後頭葉に聴—発声中枢がよく発達し,さらに性差が著しく性的二型をなす。発声中枢のニューロンは,性ホルモンに鋭敏に反応して発声の学習と深い関係がある1)(この変化は雄の季節的羽色の変化と平行する例もある,図1)。

 視聴覚は特異的に発達して,ある種のトリは聴覚により精密な方向定位(フクロウ),視覚器により磁気受容する(ハト)など,哺乳動物と大きく異なった感覚をもっている。

爬虫類 寺嶋 真一
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 ■ 実験動物としての特徴・意義

 実験動物としての爬虫類(Reptilia)にはワニ,カメ,トカゲ,ヘビなどがあるが,当教室ではヘビしか扱っていないので,ここではヘビについてのみ説明する。

 当教室でとくにヘビを使用する理由は,赤外線受容器は特殊なヘビにしかないので,もっぱらその方面の研究のためである(寺嶋,1980)。

マウス 大野 忠雄
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 ■ 実験動物としての特徴・意義

 マウスは,齧歯目,ネズミ科,ハツカネズミ属,ハツカネズミ種の動物で,学名はMus musculusである。本来日本語ではハツカネズミと呼ばれるべきであるが,実験動物としては一般にマウスと呼び習わされている。マウスは,性質が温順で扱いやすく,繁殖力が強く,飼育管理が容易で,経済的にも安価なので大量に使用することが可能であり,遺伝的にはっきりした系統も数多くある。これらの利点のために,マウスはいろいろな研究分野で広く用いられており,現在もっとも使用頻度の高い実験動物となっている4)

 しかし,神経科学の分野においては,正常なマウスが,正常な神経系の形態学的・生化学的・生理学的性質を調べる目的のための実験動物として用いられることは少ない。マウスはラットに較べて体が小さい(成体重:マウス18〜40グラム,ラット200〜800グラム)1,9)ために神経系の構造も小さく,そのために正確な外科的操作を加えることが難しく,試料を大量に採取することも不可能であり,生理学的な急性実験を行うにあたっては全身状態の管理が難しいなどの難点があることが原因であろう。上記の様な目的のためには,もし齧歯目の動物を使う必要があるならば,ラットを使う方が効率が良い。

ラット 有藤 平八郎 , 鳥居 鎮夫
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 ■ 実験動物としての意義と特徴

 ラットの生物分類学的位置は脊椎動物門,哺乳綱,齧歯目,ネズミ科,クマネズミ属,ドブネズミ種である。Philipeaux(1856)が副腎除去実験にはじめてラットを用いて以来,ラットは基礎医学の実験的研究に実験動物として数多く使用されてきた。たとえば神経科学学術集会(大阪,1984)における口演総数308報告のうち,ラットを用いた研究報告がもっとも多く,108件にものぼった。神経科学の研究にラットが多用される第一の理由として,ラットは実験動物として長い歴史をもち,遺伝学的および微生物学的統御が施こされ,均質な動物が安価に供給される点をあげることができる。第二の理由として,上述の108件のラットを用いた研究が電気生理学,組織形態学,神経化学,行動学などの様々なアプローチによってなされている点から示唆されるごとく,様々な方法によるラット脳を用いた研究成果の蓄積は中枢神経系の機能の総合的理解に役に立つ。たとえば,青斑核や縫線核モノアミンニューロンに関する最近の研究の発展はこの範疇に属する。

家兎 前川 杏二
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 ■ 特徴

 家兎は入手,飼育が容易でおとなしく,大きさも手頃であつかいやすいので,生理学,解剖学,薬理学,免疫学などの研究に,哺乳類の代表的実験動物として古くから用いられてきた。神経科学の研究のためには,サルやネコにくらべて大脳皮質の発達がわるいので,脳の高次機能の研究には不適であるが,眼球運動,自律系反射機能の研究や神経回路網の生理—形態学的研究には現在もさかんに用いられている。

ネコ 田中 啓治
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 イエネコの学名はFetis domesticaまたはFelis catusである。哺乳動物の食肉目ネコ科(Felidae)に属する。この科には,ピューマ,ヒョウ,ライオン,トラなどが含まれる。

 起源は科学的には明確にされていないが,ナイル川上流地方の原住民が野性ネコであるリビヤネコを狩猟用にならし,これをエジプト人が受け継いだと言われる。エジプト人はネズミの駆除を日的とした。BC 1500年には人にならされていた証拠がある。やがて東洋にも広まった。日本には平安時代にもたらされ,次第に広まった。

 イエネコはすべて似た身体的特徴を持ち,個々の血統の先祖を調べることはほぼ不可能である。ペルシャネコとシャムネコは他の血統との差が大きく,イエネコを野性ネコと掛け合わせて作られたものと推定される。シャムネコは視覚系が他のイエネコと異なる。

サル 松波 謙一
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 ■ 実験動物としての特徴・意義

 実験動物としての特徴と意義は,サルがヒトに一番近い動物であるということにつきる。医学に枠を絞っても,ポリオワクチン,B型肝炎といった予防・臨床医学からの要望が強い。またレトロウイルスを目安に,霊長類の系統進化を調べることができたりする思わぬ局面が開かれたが,これもヒトとの近縁性を抜きにしては考えられない。こうした観点から,サル使用の要望は強い。しかし,サル使用の規制も強い。アメリカ合衆国は世界一のサルの消費国であるが,その輸入数は1982年に16,651頭,1983年には13,148頭と2万頭を割った。

 中枢神経系の研究という面だけから,サルを使う理由を挙げれば,(1)大脳が発達しており,知能が高く,複雑な課題を学習させられる。(2)連合野の発達が良く,連合野の機能,解剖を知るのに適している。(3)視聴覚系はヒトと似ており,神経心理学,神経生理学の実験をするのによい。(4)手の操作が発達しており,運動機能の研究にむいている。ということである。

全動物実験法

麻酔 佐々木 成人
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 動物に手術などの侵襲を加える実験においては麻酔は必要不可欠である。今日まで種々の麻酔薬,麻酔法が開発されてきているが,それぞれ特徴を有するので使用する動物,実験目的に合わせ選択する必要がある。ここでは中枢神経系の研究に広く用いられている全身麻酔法について,筆者が経験しているネコの場合を中心に述べるが,サル,ウサギ,ラット,マウスについても言及する。全身麻酔は吸入麻酔と静脈麻酔に大別され,それぞれ特徴を有する。静脈麻酔は僅かな器具で,手軽に,速やかに全身麻酔状態を導くことができるが,いったん静注してしまった静麻剤は吸入麻酔のように換気をさかんにして追い出すことができず,麻酔の深さをコントロールすることが比較的困難である。一方吸入麻酔では,麻酔器などの設備を必要とするが,麻酔の深度をかなり自由にコントロールできるという利点がある。以下吸入・静脈麻酔の各々について使用される麻酔薬の種類,その使用方法,特徴について述べる。

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 上位脳から脳幹brain stemと脊髄spinal cordの機能が離断されたネコ,イヌなどの実験動物は除脳標本decerebrate preparationと呼ばれる。そして除脳の目的で用いる手法の相違から,除脳標本は外科的除脳標本と貧血性除脳標本の2群に大別される。この章ではネコを実験対象として,除脳標本の作製法を説明する。

覚醒・行動動物 宮下 保司
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 脳がその機能を十全に発揮しているのは,動物が自已の生態系の中で行動している時であろう。実験室内でのニューロン活動記録や局所薬物投与を,そのような行動の一断面の内で実現するのが覚醒・行動動物標本である。これまで用いられてきた動物はネズミ,ウサギ,ネコ,サルなどの多岐に渡り,その行動条件も,まったく無拘束・ナイーブなものから厳密に統制されたオペラント行動まで多様であるので,それらの実験操作を網羅することは既刊のモノグラフに譲る1,2)。本稿では,主に筆者の経験に基づいて,サルを対象にして微小電極法によりニューロン活動を記録するための手技について述べる。そのうちとくに頭蓋骨へのアンカーボルトおよび記録用チェンバーの埋め込みについては節を改めて詳述する。

脳組織の実験材料

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 生体より摘出した細胞や組織を人工環境下で生存させ,機能させる初代培養法,一次培養法(primaryculture)は,神経細胞,筋肉細胞など細胞分裂能力の乏しい細胞にひろく用いられている培養法である。それと相対する手法に,癌細胞,神経芽細胞,線維芽細胞など増殖性の強い細胞に用いられる継代培養法があるが,実験室における運用の面で大きく性格を異にしている。神経細胞の初代培養は1907年カエル脊髄神経細胞よりの軸索再生実験に端を発するもので,一時期名人芸的な熟練を求められたこともあったが,最近の細胞工学,遺伝子工学の急速な進歩のおかげをこうむって,培地,器具,装置が大幅に改良されて,現在では比較的導入の容易な研究法の一つとなっている(図1)。しかし一口に「初代培養」と称しても多種多様であり,それぞれに有利な点と不利な点がある。したがって,目的に応じて適当な方法を選択していくべきである。また,研究室のおかれた状況によって条件が異なることが多い。たとえば入手可能な血清の種類や皿の種類などがあり,また同じ種類の血清などでもロット差が大きく,培養の成否を左右しかねない。したがって良い培養を行えるようにするためには,試行錯誤による手法の改良と材料の選定をあらかじめ見込んでおくべきである。

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 ■ 概要

 神経系細胞を均一な集団として取り扱う実験方法はマウスC1300神経細胞腫が培養系に移されて以来広く用いられるようになった6)

 クローン細胞にはアセチルコリン性(N20),アドレナリン性(N115)および不活性(N18)があり,それぞれの実験目的に応じて用いられている1)。またニューロブラストーマとグリア細胞のハイブリットのNG 108-15細胞は元のニェーロブラストーマと比べて分化した神経細胞の形質を多く持っており広く用いられている2,3)

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 ■ 概要

 グリアには中枢神経系に分布するアストロサイト(星状神経膠細胞),オリゴデンドロサイト(稀突起神経膠細胞),ミクログリアと,末梢神経系に分布するシュワン細胞,mantle細胞(外套細胞)がある。グリアの生理的機能については,(1)ニューロンの支枝作用,(2)脳欠損組織の補填作用,(3)脳血液関門を通してのニューロンへの栄養補給,(4)ミエリン鞘形成などが古くから知られているが,最近では,培養したニューロン,グリアの実験系から,グリアが神経伝達物質の代謝やニューロンの増殖・分化の制御に関与していることがわかってきた。このように培養した各種のグリア細胞を用いることにより,個々のグリア機能の研究が可能となり,さらにニューロンとのcoculture系などを用いることにより,生理的に近い環境下での神経科学的実験が可能となってきた。

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 神経系の発生を研究する場合,形態学的観察(電子顕微鏡・免疫組織化学などを含めて)以外に,細胞骨格や細胞表面膜分子の生化学的・免疫化学的分析,細胞・組織培養下での細胞生物学的実験など様々なアプローチが可能であるが,いずれの場合においてもまず必要なのは材料をいかに入手し実験に供するかである。ここではニワトリとマウスに関し形態学的研究を行う場合必要と思われる事項を述べる。

脳切片—生理実験 山本 長三郎
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 ■ 概要

 生体脳をそのまま用いたのでは実施不能な実験操作を施したいことがある。たとえば,i.ニューロンのイオン環境を変える,ii.ニューロンに既知の濃度の薬物を作用させる,iii.ニューロンの特定の部位に刺激を加えたり,特定部位から電位記録する,ことが要求される場合などである。このような時には,脳組織を厚さ約0.35mmの切片として人工液中に取り出して実験を行えば,生体脳での困難を避けることができる。これまで脳切片法を利用して,長期増強の機構,中枢ニューロンのCaチャネルの性質などが調べられている。

 脳切片は,脳の軟膜表面に平行に切り出す場合と,軟膜表面に垂直に切り出す場合とがある。前者では,後述のガイドを使えば再現性よく切片を作ることができるが,シナプス後細胞の細胞体や樹状突起の起始部が切片中に含まれないことが多い。それでも,比較的大きなシナプス後電位が場の電位として記録される。後者では,シナプス後細胞が切片の中に完全に取り込まれており,切片の切断面を見ると細胞体層がはっきり見えることが多いので,電位を記録するのに便利である。しかし,切片を切る時の角度が少し斜めになっただけで電気活動は著しく減弱する。ニューロンが傷害されるためであろう。

脳切片—生化学分析 金澤 一郎
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 ■ 概要

 脳の生化学的分析を行う場合,脳内の部位別な機能分化を考慮に入れて,固定液による固定を行わない新鮮な脳から切片を作成し,その切片から必要とする部位を切り出すのが通常である。したがって,その適応範囲はきわめて広いが,実験の目的によって切片の作成の手順が異なる。すなわち,脳を凍結してよいかあるいは凍結がゆるされないかという点である。たとえば,神経終末からのアミノ酸やカテコールアミンの放出,あるいは神経終末へのこれらの物質の取り込みなどダイナミックな生化学的側面を研究する際には,終末ボタンの膜が凍結により破壊されるから,凍結操作はゆるされない。また多くの酵素は凍結・融解の繰り返しにより多かれ少なかれ活性低下をきたすものであり,正確さが要求される場合には凍結操作は望ましくない。それ以外の場合には脳を凍結した上でクリオスタットなどにより切片にすることができる。

脳の灌流実験 渡辺 英寿
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 ■ 概要

 脳切片標本は細胞外液の組成を自由に変えることができ,また細胞活動によって遊離される物質の測定が容易で,直視下に細胞内記録を長時間安定に行えるなどの特徴から,神経薬理学的および神経生理学的な研究に多用されている。しかし切片中に保存される神経回路が限られており,多数のシナプスによって構成されているような神経回路を研究するには不適切な場合がある。そのため小動物の脊髄や脳幹などでは摘出したまま外部のメディウムからの拡散のみによって神経活動を維持する標本が使用されている。しかし脳全体となると外表からの拡散のみでは不十分なため動脈を通してメディウムを灌流する必要が生ずる。このような目的で考えられたのがこの項で扱う全脳灌流モデルであり,灌流開始後7〜8時間は神経活動を保つことができることが確認されている。

哺乳類の摘出脊髄標本 大塚 正徳
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 1973年頃からわれわれの教室では新生ラットの摘出脊髄標本を用いて実験を行っている。この標本は脊髄ニューロンに対する興奮作用のbioassayを目的に開発されたものである。当時われわれは脊髄神経後根の抽出物を分画し,各分画を脊髄ニューロンに対する興奮作用についてスクリーニングしていた。Bioassay系としては最初カエルの摘出脊髄標本を用いた。これは適用する物質の濃度を正確にコントロールし,力価を正確に測定し得るからである。しかしわれわれが目標としていたのは哺乳類の後根中に存在するsubstance Pであったので,bioassay系としてはカエルではなくて哺乳類の脊髄が望ましかったことはいうまでもない。一般に哺乳類の脊髄がカエルの脊髄のようにin vitroで生きることができないのは主として酸素の供給が十分に行われないためと思われる。そこで灌流液から拡散によって酸素が供給されるように,できるだけ小さな脊髄を用いればよいと考え,最初は生れたばかりのマウスの脊髄を用いたが,これはあまりにも小さくてdissectionが困難であった。そこで次に新生ラットの摘出脊髄を試みた。Dissectionは後にも述べるように比較的簡単であった。最初,取り出した脊髄が果して生きているのかどうかを突き止めるのがやや困難であったが,生きているとわかってからは灌流条件や記録条件,dissectionなどを改善することは比較的容易であった1)

脳組織の移植 川村 光毅
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 ■ 概要

 哺乳動物の中枢神経系の組織は,末梢神経系の組織と異なり,損傷をうけた部位の再生および修復は一般には起こり得ないとされてきた。近年,中枢神経系組織の損傷によって生じる異常運動,概日リズムの障害,神経内分泌機能の障害などが動物を用いた移植実験の結果かなり改善されることが明らかにされた1,2,5)

 神経症状の改善ないし神経機能の回復を目指すという実際上の目的のほかに,中枢神経組織の移植の実験は再生過程で起こる生物学的諸問題を解明するアプローチの一つとして大きな意義をもっている。すなわち,①宿主または受領者(host,recipient)と供与者(donor)の組織間を再生線維が通過する条件の問題,②その通過した再生線維がどのようにして標的細胞に到達し,③シナプス結合を完成させるかという問題,また,④どの程度の厳格さ(特異性)—組織レベル,細胞レベル,さらに部位局在のレベルetc.—をもって2種のニューロンが結合するのか,⑤結合する際に起こる物質変化の時間的・空間的問題,⑥シナプス形成または"偽"シナプス形成時におけるリセプターレベルでの物質発現の問題など神経生物学上の基本的問題が山積している。

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 ■ 概要

 神経組織はニューロンの他に,グリア(アストロ,オリゴ,ミクロの3種)細胞や毛細血管内皮細胞を含み,組織塊を生化学的に分析しても,ニューロンの純粋な性質を知ることができない。従来のニューロンをマスとして分別分離する方法(bulk isolation法)を用いても,分離標品中にはグリア細胞体やその破片が必ず混入する。また近年盛んにニューロンの一次培養や株化した神経芽腫細胞が用いられるが,培養細胞の量は種々の生化学的分析には不十分なことが多い。また培養操作は,in situのニューロンの特性以外の表現形質を誘発する可能性があり,培養細胞の分析結果をそのままin vivoのニューロンに適用することは危険である。そこで直接単一ニューロンを顕微鏡下で分離採取し,種々の超微量測定法を用いて分析することが試みられてきた。

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 ■ 概要

 脳組織を軽くホモジナイズすると,神経終末膨大部が軸索部からちぎれ,閉じた膜顆粒「シナプトソーム」を生ずる。シナプトソームは人工産物ながら,神経伝達物質を含有するシナプス小胞やミトコンドリアなどの内部構造を保っており,in vitroの神経終末部として多くの生化学的研究に用いられてきた。しかしながら,哺乳類脳から得られるシナプトソーム標品の純度は50〜70%で,しかも伝達物質の面からは異種のシナプトソームの混合物である。このような限界を知ったうえで,個有の機能を識別できるような実験法を選ぶ必要がある。

 また,目的によっては,脳以外のより均質な材料(たとえば,シビレエイ電気器官,イカ頭部神経節など)から得られる高純度,均質なシナプトソーム標品を用いることができる。ここでは,哺乳動物脳を材料とした一般的なシナプトソームを中心に,シビレエイ電気器官コリン作動性シナプトソームについても簡単に説明する。

細胞分画—チュブリン 酒井 彦一
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 神経組織内に含まれるチュブリンは総蛋白質の1/20量,可溶性蛋白質の1/10量以上で,神経組織にもっとも多量に存在する蛋白である。その多くは微小管として,神経細胞体,樹状突起に多く,また,ニューロフィラメントとともに軸索の長軸に並行して配向する細胞骨格線維系を形作っている。

 ニューロンにおけるチュブリンの生物機能は軸索輸送と神経興奮への関与が示唆されているが,その存在量を考慮すれば,他にもいくつかの未知の機能があるに違いない。

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 ■ 概要

 ニューロフィラメントはニューロンの中にあって,微小管に匹敵する量をしめるタンパクであると同時に電顕的構造物としての形態をもつ。その直径が10nmの線維状であるところから10nmフィラメントあるいは中間径線維とも呼ばれている1)

 HoffmanとLasekがニューロンの軸索流内容物の分析で発見したトリプレット(分子量200K,160K,68Kの3本のポリペプチド)2)はニューロンにのみ特異的に存在して,グリア細胞には含まれない3)。また末梢神経組織から中間径線維を単離したところ,その構成タンパクは上記のトリプレットであった4)ことから,ニューロンに観察される中間径線維(ニューロフィラメント)はトリプレットから構成されていることがわかる。ニューロフィラメントとグリアフィラメントの形態学的な区別は至難であるが,分子組成からはまったく別個のタンパクであることが確立している。

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 ■ 概要

 グリア細胞(神経膠細胞)は,星状,希突起,小膠細胞の3種類に分類される。このうち星状膠細胞は,10nmフィラメント(中間径フィラメント)に富んだ突起を有し,このフィラメントは古くよりグリアフィラメント(glial filament)と呼ばれてきた。脳には前述のニューロフィラメントも多量に存在するため,この2種類の10nmフィラメントの構成蛋白質の同定の過程では若干の混乱が生じた。現在では,グリアフィラメントの構成蛋白質は,グリア線維酸性蛋白質(GFA蛋白質;glialfibrillary acidic protein)とビメンチン(vimentin)であることが広く認められている。GFA蛋白質は多発性硬化症の脳のプラーク(主に星状膠細胞よりなる)よりEngらが分離した分子量45,000〜54,000の酸性蛋白質1)で,この蛋白質から試験管内で10nmフィラメントを再構築することができる2,3)。ビメンチンは主に間葉系の細胞の10nmフィラメントの構成蛋白質として広く分布する分子量約55,000の蛋白質で,これも試験管内で10nmフィラメントを形成することができる。多くの星状膠細胞ではこの両者が共存するが,GFA蛋白質のみが認められる細胞もある。グリオーマ細胞ではこの2種類の蛋白質が共重合して10nmフィラメントを形成していることが免疫電子顕微鏡法により示されている4)

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 ■ 概要

 コート小胞(coated vesicle)はほとんどすべての真核細胞に存在する細胞内小器官の一つである。大きさは60〜200nm(直径),形は類円〜楕円である。形質膜からの陥入(エンドシトーシス)やゴルジ体膜からの芽出によって形成される。この小胞を特徴づけているのは,その外側(細胞質側)をおおっている網目状の構造である。この網目状の構造はコート(coat)とよばれており,全体としてみると多面体となっている〔図1,2)〕。この多面体を構成している一つ一つの面の形(網目の形)は正六角形または正五角形である〔図1,3)〕。

 コート小胞の機能として次のようなものがあげられている。1)神経終末で,シナプス小胞のエキソシトーシスで過剰になった終末形質膜を除去し,終末内に搬入する8,10)。2)細胞内で,分泌蛋白や酵素といった巨大分子の運搬に関与する。たとえば培養筋細胞内でゴルジ体から終板へのACh受容体の運搬3)。3)形質膜表面上の受容体に結合した血清中の巨大分子(リガンド)などを細胞内に取り込む〔図1,1),2)〕。この受容体を介し,コート小胞の形成を伴うリガンドの取り込み方式は,受容体介達性エンドシトーシス(receptor mediatedendocytosis)とよばれている1,6)。受容体を介するため,取り込まれるリガンドの選別がなされる。また取り込まれるリガンドの濃縮がなされるのも特徴の一つである。

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 ■ 概要

 形質膜(plasma membrane)は細胞の外壁として細胞外空間に接し,刺激や情報の授受など細胞が生命活動を営むうえで基本的な反応に密接に関わっている。厚さ7.5〜10nm,脂質と蛋白質で構成された形質膜を単離し,その特異的構造や反応特性を解析する傾向がますます強まっている。哺乳動物の脳を構成する細胞は多様性に富んでいるが,とくに重要な細胞はニューロン(神経細胞)とグリア細胞である。ニューロンは,その存在部位や役割によってPurkinje細胞,錐体細胞,星細胞,顆粒細胞,梨形細胞,紡錘状細胞に大別され,またグリア細胞は,オリゴデンドログリアやアストログリアに分類される。さらに,脳内に存在する細胞は,細胞種類における多様性ばかりでなく,細胞形態でも他の組織には見られない特徴を持っている。たとえば大形のニューロンでは,突起部分の細胞質は細胞体よりもはるかに大きく,形質膜含量は細胞体に10%突起部分に90%という場合もあり得る。したがって形質膜の単離は,核周部,軸索,樹状突起およびシナプス部に分けて行われている。なかでももっとも良く研究されているのが神経伝達に関係したシナプス部の形質膜である。図1に代表的な形質膜単離法を示すが,その基本は肝などの組織からの単離法と変らない1-3)

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 ■ 概要

 糖蛋白は複合糖質(Glycoconjugate)の一種として,神経系の膜の興奮性,シナプス伝達,ミエリン形成などに重要な役割を担っている。最近ではアセチルコリン受容蛋白,ナトリウムチャネル蛋白,Na-K ATP ase,N-CAM(neuronal cell adhesion molecule),シナプス膜糖蛋白,ミエリン膜糖蛋白など,糖鎖を含む蛋白の分析が進み,糖鎖がその機能に深く関与することが明らかにされつつある1)。蛋白のアミノ酸配列に関しては遺伝子クローニング法によって,従来のEdman分解法では分析が困難であった不溶性の巨大分子の構造の解明が可能になったが,遺伝子翻訳後の蛋白修飾の一種である糖鎖構造の決定には複雑な手段が必要で,その実体に関する報告はまだ少ない。神経系の糖蛋白の糖鎖構造と機能についての研究はまだ始まったばかりで,今後の大きな発展が期待される分野である。

細胞分画—RNA 高橋 康夫
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 ■ 概要

 分子神経科学の領域の進歩は急速であり,その範囲も広範であるが,ここではRNAとその卵細胞内注入について述べることにする。

 Xenopus laevis(ツメガエル)の卵母細胞に他種由来のmRNAを細胞内注入し,そのmRNAに特異的な蛋白質を生合成させる技術はGurdonらによって始められてから15年近くになろうとしているが,この翻訳系は多くの研究者によって利用されてきた。最近ではクローン化した単一のDNAの注入も行われるようになっている。神経科学の領域ではMiledi,澄川らによるアセチルコリンレセプター,セロトニンレセプター,BarnardらによるGABAレセプター,さらにMishinaらによるクローン化されたcDNAから転写されたmRNAを卵母細胞中に注入しアセチルコリンレセプターの発現を電気生理学的に証明した最近の研究はこの力法の有効性を鮮やかに実証した。

ニューロンの染色・標識法

HRPの順行性,逆行性標識 伊藤 和夫
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 ■ 概要

 西洋ワサビから精製されたHorscradish peroxidase(HRP)は分子量約40,000のprotohaeminを含む糖タンパクである。神経組織に注入されたHRPはニューロンに取り込まれ,軸索流により輸送され順行性に軸索とその終末(図1a),逆行性に細胞体と樹状突起(図1b)を標識する。LaVailらによって神経系の線維連絡研究の手段として導入されて以来1),HRP法は多くの改良を加えられ,今日では形態学の分野のみならず生理学の領域でも簡易かつ鋭敏な方法として定着している。

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 ■ 概要

 脳の働きを知るためには,まずそれを構成しているニューロンやニューロン群(神経核)が脳内においてどのように配列され,またそれぞれがどのようにつながっているかを知ることが必要である。このことを知る手段の一つとして,形態学的に脳切片に種々の染色を行ってニューロン特有の構造物である神経突起の追求が行われている。それらの方法は多岐にわたっているが,神経解剖学の分野では過去数十年,正常な組織をそのまま染色し観察するGolgi,Weigert,Cajal法などから変性した髄鞘を染め出すMarchi法,さらに変性軸索やその終末を染め出すNauta,Fink-Heimer法などが使用されてきた。これらの方法によって多くの重要な知見がもたらされてきたが,近年はとくに軸索流に特定の物質を乗せこれをマーカーとしたり,免疫学的特異性を指標にすることによって脳内のニューロン群の結合を明らかにする方法が発達し,脳内構造の解明が進んでいる。ここでは脳内の一定の部位に放射能活性をもつアミノ酸を注入しその部のニューロンから取り込まれ,蛋白合成された後軸索流に乗って運ばれる物質をオートラジオグラフによって検出する方法の手技と問題点に関して記載する。さらに1980年代に新たに神経解剖学領域におけるマーカーとして有用視されているレクチンの一つであるWheat Germ Agglutinin(WGA)の特性と放射性ヨードとの標識に関しても付記する。

2-デオキシグルコース法 加藤 元博
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 ■ 概要

 ニューロン活動,したがって脳活動はエネルギー消費を伴うので,脳のエネルギー代謝を計測することによっても,脳活動を観察することができる。2-deoxyglucose(2-DG)法1)はオートラジオグラフィーによって局所脳グルコース利用率(local cerebral glucose utilization,LCGU)を観察するもので,動物の脳活動を実験的に検索するのに適している。

 本法にトレーサーとして用いる2-deoxy-D-giucoseには3Hまたは14Cをラベルした2種類があり,前者はミクロオートラジオグラフィー,後者はマクロオートラジオグラフィーに適している。ミクロオートラジオグラフィーによるLCGU検索は,定量的分析が困難で応用に限界がある。一方,〔14C〕2-DGによるマクロオートラジオグラフィーは,ニューロンレベルの観察はできないが,肉眼的にかなり細かく脳局所のLCGUを画像的に観察でき,また定量も可能であるので,脳活動の観察に現在広く用いられている。したがって本稿では〔14C〕DG法によるマクロオートラジオグラフィーについてのみ述べる。

コバルト注入 松本 修文
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 ■ 概要

 Pitmanら1)によって開発された塩化コパルトCoCl2による細胞標識法は,細胞内注入を行うには電極抵抗が非常に高いため,最近ではほとんど用いられていない。電極抵抗の高さにおいては,現在主として用いられているHRPやLucifer Yellowも同様の欠点を持っている。ここでは,3価のコパルトとアミノ酸であるリジンの複合化合物を作ることによって,塩化コバルト法の欠点を克服した,コパルトーリジン法2-5)について解説する。

 この方法の最大の長所は,細胞内注入用の電極抵抗がきわめて低く,電解質溶液のみをつめたときとの差がほとんど感じられないことである。また,軸索内輸送距離も長く,染色像は黒色で背景とのコントラストがよい。HRPやLucifer yellowで,電極抵抗の高さに困難を感じている研究者は,ぜひ一度試してみられたい。図1にこの方法の概要を示す。

HRP注入 吉田 薫
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 ■ 細胞内染色法とHRP1-3)

 神経細胞にガラス微小電極を刺入して電気生理学的性質を調べ,同時に標識物質を注入して形態学的特徴を観察する細胞内染色法は,単一細胞レベルで機能と形態の対応関係を明らかにし得る有力な方法である。とくにHRP(horseradish peroxidase)による細胞内染色法は,従来の螢光色素やコバルトを使う方法と比較して優れた特徴を持ち,生理学・解剖学の分野でもっともポピュラーな手法となりつつある。

 HRP法の長所として以下の点が挙げられる。注入されたHRPは細胞内で速やかに拡散して樹状突起の細部まで明瞭に染め出すことができる。染色距離は注入部から最大20〜30mm程度であるが,軸索に直接注入すれば側枝や終末部を調べることも可能である。HRPの発色処理による反応生成物は螢光色素と較べ遙かに安定で,通常の光学顕微鏡で長時間観察してもほとんど退色しない。さらにHRP反応生成物は電子密度が高く,細胞内微細構造を損なうことが少ないため,電子顕微鏡による形態解析にも適している。またHRPを含む電極は螢光色素電極と較べて電気抵抗が低く,細胞内記録の点でも有利である。

変性法 川名 悦郎
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 1950年にNautaが変性した神経線維を追跡する方法として変性軸索を選択的に染色する方法を発表する以前は,中性脂肪染色,変性髄鞘を染めるMarchi法,変性軸索を染めるGlees法などが用いられていた。その後,Nauta法はいろいろの動物に,そして各種の線維系に適するように,また終末部まで染めだせるようにという意図をもって種々の変法が考案された。たとえば,Nauta-Gygax法(1954)1),Nauta-Laidlaw法(1957)2),Albrecht法(1959)3),Fink-Heimer法(1967)4),Ebbesson-Rubinson法(1969)5),de-Olmos法(1969)6),Eager法(1970)7),Desclin-Escubi法(1975)8)などである。多種多様な変法のなかでどの方法を用いたらよいのかが問題となる。筆者の経験では,Nauta-Laidlaw法のアンモニア性炭酸銀液の調製は微妙であった。比較的安定して良好な結果が得られたのはNauta-Gygax法とFink-Heimer法であった。de-Olmos法を用いた経験はないが,正常線維の鍍銀性をおさえ,変性した線維を終末部まで染色するよい方法と思われる。各変法とも捨てがたい面を持っているが,ここではNauta-Gygax法,Fink-Heimer法,de-Olmos法について述べたい。

膜電位感受性色素 神野 耕太郎
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 ■ 概要

 膜電位依存性の光学的変化は,膜自体の光学的特性の変化に直接関係した光散乱,複屈折性など内因性(intrinsic)の変化と,外部から特定の色素を結合させたとき観測される吸光度,螢光,複屈折性などの外来性(extrinsic)の変化に分類される。

 膜電位の光学的測定は,このような膜電位の変化に伴う光学的変化の特性を利用して,光学的変化から逆に膜電位変化をモニターしようとするものである1,2)。一般に内因性の光学的変化は小さいので,特殊な測定をしない限り,膜電位の光学的測定には,indicatorとしての膜電位感受性色素(voltage-sensitive dyes)による外来性の吸光あるいは螢光の変化が用いられる。

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 ■ 概要

 細胞内の遊離Ca量は10−8〜10−7Mに保持されており,細胞運動など多くの細胞機能が細胞内Caの増減によって調節されている。神経系においても神経伝達物質遊離が細胞内Caの一過性の上昇が引き金になって生じていることはよく知られた事実である。また,シナプス後膜の内側にもCaを介した受容器感受性調節機構の存在が示唆されており,この系にはCa依存性酵素が関与しているものと考えられている。m秒オーダーで計測される早い電気現象の後に生ずる細胞下の様々な系の変化が,もっと長い時間経過の神経系の機能にどのような形で反映されるのかを解明することは神経科学の重要なテーマの一つと考えられる。細胞内Caの上昇はまさにその引き金であり,real timeでその動向を捕えたいという要望は非常に高まってきている。一般的な細胞内遊離Ca量の測定法については詳しい総説1)を参考にしていただくこととし,ここでは螢光プローブ法について述べる。1970年以降,aequorinやarzenazo Ⅲが細胞内Caの重要な指示薬として応用されている。しかし,これらの試薬については細胞内への微量注入操作が必要であって,応用できる細胞の大きさに制限がある。Tsien(1980)2)が開発したquin 2はそのacetoxymethyl ester誘導体,quin 2/AM3)(図1)を用いれば,細胞に機械的損傷を加えることなく負荷できる。

モノクローナル抗体 小幡 邦彦
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 最近,神経科学実験にモノクローナル抗体が繁用されるようになった。目的とする抗体を自分で作製したり,また発表されているものの供与をうけたり市販品を購入することができる。

 そのニューロン染色法は次項で述べられている抗血清(ポリクローナル抗体)による免疫組織学と同じであるが,モノクローナル抗体は抗原分子中の一ヵ所だけに結合することから,次のような特徴がある。1)動物の種特異性が一般に高い。2)固定などの標本作製過程で染色性が失われやすい。3)染色性が強くないことがある。4)また染色とは無関係であるが,抗体が結合しても抗原分子の機能が阻害されないことが多い。したがって個々の場合で抗体の選択と染色法の検討が必要である。ここでは1例として筆者らが日常行っている,凍結切片に対する間接螢光抗体法の操作を記すことにする。

免疫組織化学的標識 井端 泰彦
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 免疫組織細胞化学Immunohistocytochemistryは免疫反応を組織切片に応用し,組織細胞中に含まれている物質を抗原とし,それに対する特異抗体を用いてその抗原物質の存在部位を検索するものである。その方法には免疫反応物質(領域)を可視的に光学顕微鏡,電子顕微鏡的に観察するために標識物質を何にするかにより幾つかのものがある。それぞれに利点,欠点があるわけであるが,光学顕微鏡的にも電子顕微鏡的にも簡単に,またコンスタントな結果が得られ,検索する物質もペプチド,酵素,その他多くのものに利用できる方法として,酵素抗体法の一つであるperoxidase-anti-peroxidase(PAP)法について光学顕微鏡および電子顕微鏡的標識法について以下に実際の方法および注意点について述べる1)。その方法の原理は図1に示す。

ゴルジ染色,ニッスル染色 金関 毅
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 ゴルジ染色,ニッスル染色が発見されてから,100年以上が過ぎたが,今日でもこの染色法は神経科学の検索の上には無視することができない染色法である。

電気生理学実験手技

金属微小電極 鈴木 寿夫 , 東 正夫
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 ■ 金属微小電極の必要性

 近年,覚醒行動時の動物の脳内で単一ニューロンの活動電位を記録し,その発火パターンから細胞の担う情報を調べる研究が広く行われるようになった。また一方,脳の微小部分を電気刺激し,それによって生じる反応を指標として脳内の出力系の微細な構成を知ることが試みられるようになった。そこで,このような研究をさらに発展させるため,次のような条件を満たす微小電極の開発が望まれるようになった。すなわち,(イ)intactな脳硬膜を介して脳内に穿入できる機械的強度を持つ。(ロ)長時間,安定に活動電位の細胞外記録ができる。(ハ) 記録部位の同定ができる。(ニ) その部位の皮質内微小電気刺激ができる。しかし,今まで開発された金属微小電極にはそれぞれ特徴はあるが,これらの条件を満たさない部分があった。たとえば,タングステン針をガラス毛細管に封入した電極1)や,白金イリジウムをソルダガラスで絶縁したもの2)は丈夫であるが,記録部位のマーキングが困難である。一方,ステインレス・スチール製の電極3)はマーキングができるという利点はあるが,曲りやすいという欠点がある。以下,これらの欠点を改善すべく開発された,ガラス被覆エルジロイ微小電極4,5)について述べる。他の電極については文献を参照していただきたい。

ガラス電極 田崎 京二
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 ガラスは電気抵抗も高く,熱による成形も容易で,金属表面になじませることもできるので,ガラス管を材料とした各種の電極が作られてきた。しかし,ここでは微小電極,とくに細胞内微小電極について述べる。

 微小電極はガラス管の一部を電熱で熔かし,一気に引きちぎって作る。市販の電極製作器(プラー)には,ガラス管を水平に保持するものと垂直方向に保持するものの二種がある。いま使われている多くのものでは,ガラスが熔融中に,弱く持続的に引っぱっておき(一段引き),一定の長さだけ延びると,自動的にソレノイド電流が流れて,強い"二段引き"がくるようになっている。"一段引き"は,垂直型プラーでは重力で,水平型では弱いソレノイド電流で実現している。二段引きプラーでは,ヒーター電流,一段引き用のソレノイド電流(垂直型では固定),二段引きの開始場所,そして二段引き電流の四つが可変量となる。これらの変数はガラス管の質,太さ,厚さなどで決められるわけであるが,ヒーターの形とか外気温,とくに冷暖房用の風などの変化も問題となる。

ワイヤ電極 小野 武年
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 ■ 概要

 単一ニューロン活動の安定な長時間記録には,長時間使用可能で,しかもアーチファクトを発生しない電極および記録法が必要である。そのために,これまでにもフレキシブルな絶縁マイクロワイヤを慢性的に埋め込む方法が用いられていた1,2)。しかし,動物の大きくて激しい動きや硬い餌(ペレット)の咀嚼など機械的な衝撃によるアーチファクトや筋電図などの単一ニューロン活動記録への混入が非常に大きな問題であった。

 最近,われわれは無麻酔行動下動物の脳内からアーチファクト混入のない単一ニューロン活動の記録法を開発し,実際にラットやサルでの研究に応用している3,4)。この方法の利点は,電極の作製および脳内への埋め込みが容易であり,単一ニューロン活動を長時間安定に記録できることである5)

イオン電極 岡田 泰伸 , 老木 成稔
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 ■ 概要

 細胞の電気的活動性は主として膜のイオン透過によってもたらされ,その駆動力は当該イオンの細胞内外における電気化学的勾配である。したがって,細胞内遊離イオン濃度(より正しくは活量)の測定は重要である。その測定によって,①そのイオンに対する平衡電位を直接的に得ることができる。これにより,各種膜応答・活動電位のイオン機構を求める上で不可欠の情報が与えられる。②また,平衡電位と膜電位の比較によって当該イオンの輸送が受動的か能動的かの判定も可能となる。③もし当該イオンの細胞内含量が化学的測定などによってわかっている場合には,そのイオンの非遊離(結合またはsequestration)の程度を見積ることができる。④また,膜におけるイオン輸送のみが細胞内イオン濃度変化をもたらす場合,その測定によりイオン・フラックスを求めることができ,constant field式から膜のイオン透過性や伝導度を計算することができる。

 細胞内イオン活量の測定には,先端1μm前後のイオン選択性微小電極(以後イオン電極と呼ぶ)が用いられなければならない。現在使用されているものとしては,イオン選択性ガラスを用いたrecessed-tip型電極と,イオン選択性液体交換剤(LIX)を先端につめた電極の二種がある1)

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 ■ 目的

 無麻酔,自由行動下で日常生活を過ごしている動物の自律神経活動がどのように変動しているかを長時間にわたり連続記録するために本電極を開発した。

 とくに著者らは,本電極を用いて,腎神経活動,心臓神経活動および大動脈神経活動を自由行動下の動物から連続記録した1-3)

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 ■ 概要(適応・必要性など)

 In vive voltammetryは,微小カーボン電極を脳内に埋め込み,電気化学的手法(ポーラログラフィーの原理)により細胞外に放出されて存在する電気化学的に活性な酸化還元物質を直接測定する方法で,なかでも酸化を受けやすい神経伝達物質であるドーパミンとセロトニンおよびそれらの代謝物である3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸(DOPAC)と5-ヒドロキシフェニル酢酸(5-HIAA)の測定への応用が1976年以来試みられている。その後電極材質(主にカーボンファイバー)や表面処理の改良,測定装置の進歩により選択性および感度が増大し,現在では,一般に代謝物であるDOPACと5-HIAAを各々分離して測定することが可能となった。ここでは,DOPACと5-HIAAを分離して同時に測定できる微小カーボンファイバー電極を用いた実験方法について述べる。

 In vive voltammetryは無麻酔無拘束の動物の脳から経時的に,しかも行動を観察しながら測定できるためその応用範囲は広く,とくに行動薬理学的実験に適している。たとえば,ストレスや運動量の変化あるいはサーカディアンリズムや睡眠が中枢神経系のドーパミンニューロン,セロトニンニューロンに及ぼす影響をDOPAC,5-HIAAの変化を指標に調べた実験などがある。

電位固定法 河 和善
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 ■ 概要

 単位生体膜は電気容量と電気抵抗とが並列に並んだモデルで近似されるが,このうち電気的,化学的刺激に応じて変化するのは電気抵抗の方である。一定電流を膜に加えて電位の応答を測る(電流固定)方法では膜容量のために膜電位の経過が修飾され,膜特性の変化が表に出ない。電位固定法は負帰還回路を用い生体膜を一定期間,一定電位に保ちこれに要する膜電流を測る。この膜電流は直接に膜抵抗の経時変化を示す。さらに特定イオン種の電流成分を分離し解析することもできる。これまでに多くの材料での研究と工夫改良がある1,2)

パッチクランプ 吉田 繁
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 ■ 概要

 チャネルの開閉によってイオンの流れが生じるであろうということは概念にしかすぎなかったが,ガラス電極下に含まれる微小膜領域(patch)を電位固定(clamp)することによって単一チャネル(single channel)を流れるイオン電流(single-channel current)の計測が,patchclamp法という新しい技法によって1970年代後半より可能になったことは,電気生理学研究においてまさに画期的な出来事であった。現在の所,このパッチクランプ法によってしか単一イオンチャネル活動を直接的に観察することはできない。また,後述するように,パッチクランプ法にはさまざまな技法があり,必要に応じて使いわけられている。さらに,single-channel currentの記録のみでなく,細胞全体(whole-cell recording)や局所から(loose patch clamp)のmacroscopic currentを得ることもできる。

ノイズ分析 大森 治紀
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 ■ 概要

 ノイズ解析は電位固定法によって得られるイオン電流に対して主として行われる。イオン電流に含まれるゆらぎの成分は,電極,測定機器あるいは細胞膜のインピーダンスなどによる熱雑音以外に,イオンチャネルのゲート機構に直接関連した成分をも含む。興奮性膜におけるノイズ解析とは,このイオンチャネルのゲート機構に関連して生ずる伝導度のゆらぎの解析である。

微小イオン泳動法 桜井 正樹
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 ■ 概要

 薬物溶液をガラス微小管に充填し,これに通電することにより薬物を流出させる,微小イオン泳動法は,時間・空間分解能において非常に優れた薬物投与法であり,これまで神経系の薬理・生理学的研究に大きな成果をもたらしてきた。この方法を用いれば,神経細胞のごく一部(たとえば樹状突起の或る枝)に数10ミリ秒のごく限られた時間だけ,少量の薬物を適用することも可能である。さらに多連微小電極法と併用すると,同一の神経細胞において一度に数種類の薬物の作用やそれらの相互作用を調べることができる。しかしながらその反面,この技法の施行や得られたデータの解釈にあたっては,慎重を要する点も多い。紙幅に制限のある本稿では,これらの点に重点をおいて述べることにする。技法のより詳細については文献1)2)などを参照されたい。

細胞内灌流法 赤池 紀扶
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 ■ 概要

 小型細胞の膜を横切る膜電位依存性のNa,K,Ca2+やCl電流(電気的興奮膜)や化学受容器を介する各種のイオン電流(化学的興奮膜)の一つを他イオン電流より分離し,それぞれのイオン電流のkineticsやこれへの薬物の作用機序を解明するには膜電位固定下に細胞内外のイオン環境を人工的に制御して実験を行うことが必要である。この目的のために開発されたのが吸引電極法1-3)で以下の長所を有する。①ニューロン,酵素処理にて単離した心筋4,5),平滑筋ならびに各種培養細胞など,直径5μm以上の細胞に適用できる。②同一電極で各種細胞の細胞内を人工液で灌流すると同時に電流,電圧固定実験ができる。③吸引電極本体に使用するガラス電極抵抗は100〜200KΩで,普通の微小ガラス電極抵抗の1/50〜1/200と低い。このため細胞内へ大電流が通電できるし,その低抵抗のため信号雑音比が大きく各種イオン電流ノイズまたは"ゆらぎ"の測定6)に適している。④細胞内へ各種化学物質や代謝活性または抑制物質を直接灌流,投与したり,細胞内pHや浸透圧などを自由にしかも連続的に変えることができる7)。⑤吸着して標本を維持するため外界からのアーチファクト(たとえば振動)より細胞膜を損傷することなく長時間の測定が可能である。⑥通電と記録を同一電極で行うにもかかわらず,時間分割法による膜電位固定回路を使用することにより膜電位を正確に測定できる8)

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 2個の神経細胞あるいは2群の神経細胞間のシナプス結合を同定する電気生理学的手法は一方の細胞に電気刺激を加え,これによってひき起こされる他方の細胞の反応を調べることであった。この電気刺激の手法はLoyd(1944)により初めて脊髄反射の神経回路の解析に用いられ,ついでEccles(1957)によって細胞内記録法と組合せて用いられ,中枢神経系の神経回路の解析のためのもっとも有力な手法として確立された。しかしながら,電気刺激法は刺激電流の滑走,artifact,通過線維の刺激などの問題点があり(後述),局所の微小神経回路の解析には用いることができない。

 この難点を解決する手法として,2個の細胞の反応の相関から神経細胞間の神経結合を同定する相関解析の手法が開発された。2個の細胞活動の相互相関の求め方には,1)パルス-アナログ相関と 2)パルス-パルス相関の二つの方法がある。第一の方法はJankowskaら1)によって開発されたもので,1個の細胞からインパルス反応を細胞外で,他の1個からシナプス後電位を細胞内で記録し,前者のインパルスを基準として後者のシナプス後電位を平均加算(Triggered averaging)するものである。

インパルス・PSP相関法 内野 善生
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 ■ 概要

 インパルス・PSP相関法(Spike triggered averagingtechnique)は脊髄神経機構の解析で初めて導入され1,2),その後中枢神経系とくに単シナプス性結合のある神経回路網の解析に応用されてきた。この方法を使用する目的の一つは単一ニューロンとその標的ニューロンとの間にあるであろうシナプス結合の直接的証拠を得るためである。あるAとB二つのニユーロン群の間のシナプス結合の有無を調べる場合,A核を刺激しB核の細胞から細胞内記録し,短潜時PSPを記録することで結合の有無を推定してきた。しかし神経核Aを刺激することは,A核内通過線維を同時に刺激することを意味し,A核群細胞とB核群細胞間のシナプス結合の有無を決定ずける実験とはなりにくいことがこの種の刺激実験の弱点とされてきた。強固な結論を得るためには,通過線維をあらかじめ変性破壊させ,A核を刺激するなどの補助手段を用いる必要がある。インパルス・PSP相関法はこの弱点を補う有力な実験手段であり,後述するがトリガニューロンと標的ニューロンとのシナプス結合部位,トリガニューロンの標的ニューロンに対する神経支配比なども明らかにすることができる。

脳組織の破壊法 永雄 総一
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 脳組織の一部を破壊もしくは冷却し,その脱落症状を調べ,その組織が本来持っていたと考えられる機能を推定することは,記録実験とともに,中枢神経の研究にとって不可欠な方法である。本稿では,古典的な吸引,電気凝固による破壊方法の他に,興奮性アミノ酸や,伝達物質選択性のある薬物などを用いた化学的破壊方法について述べることにする。

眼球運動の測定 小澤 哲磨
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 眼球運動に含まれる周波数帯域はかなり幅の広いものであり,さらに眼瞼の動きや頭部の動きに両眼の協調運動が加わり,その運動はきわめて複雑なものとなる。眼瞼,頭部の動きに含まれる周波数成分は,眼球運動の成分に類似し,商用交流,筋電図,脳波などS/N比を劣化させる要素もきわめて多い。

 このようなことから,眼球運動の要素から必要なもののみを選び出してS/N比を良くしないと満足な結果は得られない。

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 今日の神経生理学研究の進展は微小電極による単一神経細胞のスパイク活動記録法の開発と汎用デジタル計算機(コンピュータ)によるオンライン実験システムの開発によるところが大きい。とくに,計算機によるオンライン化は,(1)神経スパイク系列の定量的なデータ処理,(2)刺激パターンやパラメータの発生および変更,実験装置の制御,(3)実験スケジュールの制御・運用,そして(4)動物の行動統制などに効果的な実験システムを構築することを可能にし,神経生理学実験や神経心理学実験の系列化した複雑な学習行動課題において有用であることが実証されてきた1)

 本稿はサルの視覚神経生理学研究への計算機の応用例について述べる。最初にこの分野の基本的な計算機システムのハード構成とソフトの概要について述べ,次に,現在われわれの研究室で行っているサルの視覚パターン弁別学習における電気生理学実験,電磁誘導式眼電位測定装置を用いた注視行動実験およびタッチパネルを用いた行動学習実験などの各システム例について紹介する。

基本情報

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生体の科学
36巻4号 (1985年8月)
電子版ISSN:1883-5503 印刷版ISSN:0370-9531 金原一郎記念医学医療振興財団

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