耳鼻咽喉科 25巻12号 (1953年11月)

特集 扁桃摘出の病理と手術

扁桃腺と音聲 颯田 琴次
  • 文献概要を表示

 ある知名の女流聲楽家が,"颯田は,扁桃腺をどしどしとるが,これは聲を職業とするものにとつて絶對禁物だ"と,以前,某日刊新聞にかいていた。まことに迷惑至極なはなしである。私も醫者だから,とるべき扁桃腺をとるのに,決してちゆうちよするものではないのだが,この言葉のように,扁桃腺と見たら,必ずとつてしまうというような,そんな亂暴な醫者が,もともとありようはずはない。

 扁桃腺に,癌や肉腫が早期に發見されたとしたら,どんな慎重な專門家だつて,摘出手術をするのが當然だ。そんな極端な例は別としても,慢性扁桃炎による腎臓障害でも發見された場合,時期をみはからつて,とつてしまうというのが,適切な處置であろう。聲楽家もまた一個の人間だ。人間として,生命の危険にさらされているとすれば,その原因を,できるだけ完全に除去するよう努力するのが醫者の義務である。とるかとらないかは,適應症の如何によつて定められているのだから,たとえ聲楽家でも,醫者の專門的見解に立入る資格はないはずだ。やたらにとるとかとらないとか,そんな感情的な言動は,決して受付けられるべきものではない。

最近扁桃病理の綜説 山本 常市
  • 文献概要を表示

 最近扁桃の病理學的研究に各方面の觀點より行われ相當多數發表されているが,私はこれをA)生化學的とB)病理組織學的の2つに大別して記述して見たいと思う。尚文献は昭和21年より昭和28年7月迄の各專門雑誌によつたものである。

  • 文献概要を表示

 Ⅰ.病巣感染の沿革 先ず病巣感染の研究の沿革を尋ねて見るに,其歴史は相當に古く,既に17世紀の時代に於て,其片鱗を思はせるような記載があるが之を體系づけて始めて報告したものは,ドイツのペスラーのものである。

 即ち1909年に氏は病巣感染より發した色々の疾患を擧げて報告を行つたのであるが,ドイツに於ては,如何なる譯であつたか,之は全く省みられずに終つた。

  • 文献概要を表示

 Fokale Infektionなる概念が一般に認められたのはかなり古いことで,これに關する先人の研究も多いが,口蓋扁桃がそのFokusとして最近再び重要視されて來たことは周知の通りである。

 Gutzeitは「Fokale Infektionとは身體の何處かに限局した慢性の感染性炎症状(原病巣)があつて,それ自身は殆んど無症状であるか又は時に症状を呈するといつた程度のものにすぎないが,しかしそれが原因となつて,その原病巣から離れた諸臓器組織に反應性の器質的又は機能的障害を起してくる病像をいう」と定義しているが,この考えは一般に認められた考えで,我々臨床醫家にも理解しやすい。原病巣から如何なる機序によつて病巣感染が成立するかについては,いろいろの説があるが要約すれば細菌説とアレルギー説の2つに分つことができる。前者は原病状に於ける細菌又は菌毒素がリンパ行又は血行を介して遠隔臓器に達し,ここに二次疾患を起すという考えで(Hunter,Rosenow,Curschmann),後者は原病巣から時にその内容物が個體の體液中に混入し,これが抗元となつて抗體を産生し抗元抗體反應の結果として二次疾患が起るという説で(Berger,Horster,馬杉,岡林),今日一般の支持を得ている説であろう。最近Scheiffarth u. Bulittaがdysproteinämische ReaktionをもつてFokaleInfektionを論じているのはまことに興味深い。

  • 文献概要を表示

 小兒は勿論成人に於ても輕度の運動,麻醉實施中又は其の直後,或はワクチン,血清注射直後,驅虫劑の服用,輕症なる傳染病の經過中特に認むべき原因なくして,突然死を來し,又シヨツク症状を呈する事あり,此れ即,所謂胸腺死と言われるもので,時には死因に對する疑義より法醫學的對照となる事すらある。此の樣な事柄は古くより認められて居り,Kopp及Rokitanskyの記載に次いで,1889年Paltauf氏は小兒225例,成人5例の突然死の剖検例に於て,胸腺肥大,淋巴系統即淋巴濾胞,扁桃,脾臓の腫脹,骨端軟骨の佝僂病樣變化,大動脈の狹小を認め,之を異常體質となし,抵抗力の減弱並に異常反應を以て突然死を來すことがあると述べ,其の形態的特徴より胸腺淋巴體質と稱したのが最初である。之から原因不明の突然死の場合,剖検により死因と認められる著明な變化なく,胸腺,淋巴腺の肥大のある時は,胸腺淋巴體質だと言つて死因を體質異常に負わす傾向が強くなれども,此の樣な突然死があると言う事は私達臨床にたづさわるものにとつて,日常注意せねばならぬ事と考えられ,又最近當教室にて剖検上胸腺死と診斷された症例を經驗したので,胸腺死について考察を進め,此處に併せ症例を報告し御參考に供したいと思う。

  • 文献概要を表示

 肺結核患者のなかには,絶えず,咽頭異和感を訴えたり,習慣性アンギーナに罹患してときどき高熱を出す患者が尠くない。われわれは,日常この樣な患者を診療しておるが,肺結核患者でも,なかには,一般患者と同じく,扁摘術を施行して根治させ得るものがあるのではないかと考え,この樣な患者のうちから,肺病巣が治癒に趣き,喀痰中の結核菌が培養陰性になつたものを原則として扁摘適應とて現在まで27例(51個)について手術を行つた。尚,摘出扁桃腺について細胞學的,病理組織學的検査を行つたので,上記のような題目のもとに報告し,御批判を乞う次第である。

  • 文献概要を表示

 口蓋扁桃腺機能に關しては,諸説多くして帰する所明でないが,私は自己經驗例を土臺として再び自分の見解を述べてみたい。

  • 文献概要を表示

 口蓋扁桃手術の一つとしての扁桃切除術の歴史は古く,現在に於いても相當多數施行されているが,その臨床的意義に關しては未だ多くの疑問と論議が殘されている。即ちその適用の問題は根本的には現在未だ不明のまゝ殘されている扁桃機能の問題と關係を有しているからである。然るに臨床上我々は嘗つて扁桃切除を受けたにも拘はらず依然として,或いは切除後反つて扁桃炎に悩まされて外來を訪れて來る患者に遭遇する。其處で我々にはこの樣な症例に於いて何故に斯くの如き現象が起るのかと云う疑問が當然生じて來た。之の問題に就いて從來少數の先學によつて扁切後の扁桃組織についての組織學的検索が報告されているが扁切の適應の問題とも關聯しての解決は與えられていないので吾々は斯る症例を集め,剔出扁桃に就いての病理と臨床の關聯を追求した處認むべき成績を得たので此處に報告する次第である。

  • 文献概要を表示

本年7月のA.M.AのArchivesに昨年度の扁摘及びアデノトミーに關する展望がのつている。その適應症の頁を見ると,やはり十年前と少しも變つていない。そこに擧げられたLederer及びGaleの適應症に對する考え方は,2人ともほゞ同樣で,

 1)習慣性扁桃炎(周圍膿瘍を含む)

 2)focus of infection

 3)呼吸や嚥下に支障を來す大きさ。アデノイドの場合は鼻閉,口呼吸,イビキ等の原因と考えられるもの。

 4)慢性中耳炎,耳管狹窄症

 5)ヂフテリーの保菌者

 6)原因不明の發熱

扁桃剔出の自家臨床 千葉 眞一
  • 文献概要を表示

 私が局麻扁剔をやり出したのは大正元年以來の事であつて,それから今日迄約42年を經過して居る,其間には勿論習得期,研究期,練習期,確信期の4期があつて,夫等の時期を經過して遂に今日に及んだ,此長年月の間には,勿論扁剔手術上種々の事故,困惑等に幾度か遭遇し,其都度或は術式に於て,或は處置法等に於て,工夫改善した結果,遂に漸く現行の域に立ち至つたのである。今回醫學書院から「扁剔の自家臨床」と云う課題の下に,執筆を請はれたのを機とし,此際今日迄の自分の經驗に基き,扁剔手術上の2, 3の事項を述べて,同僚及び後進者諸君の參考に供し樣と思う。若し之に依て多少とも讀者に稗益する所があれば,私の望外の悦びである。

 元來扁剔の手術は,文書又は圖解のみでは充分其眞諦を會得し難く,結局床上の水練に墮し終るので,矢張り機會ある毎に,先輩又は同僚の實演を親しく目撃する事が,理解上最上の路であつて,所謂百聞一見に如かすである。

  • 文献概要を表示

 扁桃炎が屡々急性炎症をくり返し,或は病窠感染症の感染原である場合,その原病窠を拔本的に剔除することは最良の治療法である。而も手術は完全な剔出こそ絶對必要であつて單なる部分的切除では充分な効果を期待出來ぬのみか殆んど意味がないと云つても過言ではない。F. L. Lederer及びA. R. Hollenderは,其の著書Textbookof Ear,Nose and Throat,1947に病窠感染症の意義が確立されるようになつてから,肥大した扁桃の一部を「そぎ取る」"slicing off"扁桃切除術は今や全く影をひそめ合理的な扁桃摘出術が之に代つたと述べ,"Tonsillotomy"なる文字は既に歴史的遺物となり現在では如何なる成書,醫學雑誌等にも,も早見出されない状態で,我國の現状とは大分趣を異にして居る。我國では今尚小兒の扁桃手術は主として局所麻醉或は無麻醉の下に部分的切除のみなされ,摘出手術は少數の例外を除き殆んど行われて居ないようである。之に就いては種々理由もあるが,主として麻醉に原因すると思われる。小兒の扁摘は局所麻醉では特例を除いては全く不可能で,從來使用されて居る假面による吸入麻醉,或は靜脈麻醉等では幾多の困難があり殆んど成功しない。余は米國のEther Insufflation法に改良を加え,之を本手術に應用し昭和25年1月より昭和28年6月末日までの3年6カ月間に854例を經驗した。以下手術々式及び成績等につき述べる。

扁桃摘出の自家臨床 立木 豊
  • 文献概要を表示

 大學の臨床のように,多數の醫者がおり,而も年々新しい學士諸君を迎えなければならない所では,必ずしも熟練した人ばかりが手術するとは限らないから,こうすれば必ず正確にこう云う結果が得られると云う手術の大綱が明示せられていることが極めて必要である。

 著者は與えられた課題に對し,まず著者の教室において行つている扁桃摘出の型通りを記載し,その間本手術の手技に關する著者の鄙見をも明かにすることにつとめ,以て今回の回答としたい。

扁桃の剔出の自家臨床 佐藤 重一
  • 文献概要を表示

 扁桃剔出による効果の臨床例は誰人もいくつかもつておられること,又同剔出に就て苦い經驗も感じられたこともあろうと存ずる。私もその例に漏れず,2, 3の之に關する經驗を有しているので,其れに就て語りたいと思う。別に記載をたどつて書くなどの系統立つたものでなく,記憶を呼び起して走り書きすることは,かゝる臨床座談的の項目に適當かと思つて,而かく書き列ねたものである。

 先ず扁剔後に工合のよかつた例に就いて語ろうと思う。

  • 文献概要を表示

 扁桃の手術に際し扁摘か扁切かの何れを選ぶかは既にしばしば論ぜられた問題であるが,現今わが國では幼小兒には扁切,年長兒や成人には扁摘が行われるのが普通であり,又一般教科書にも扁切,扁摘の兩者の適應が別々に書かれている。

 私共は從來より全く扁切を排し專ら扁摘のみを行つてきた。と云うのは扁切の適應症なるものがあいまいで且つ非學理的であると考えたからに外ならない。

扁桃全摘の自家臨床 黑須 巳之吉
  • 文献概要を表示

 本論に入る前に扁剔についての自分の經歴をお話する必要があると思います。

 と云うのは自分は耳鼻咽喉科について何の素養もない時に,而して又本邦に於ける扁剔に關する當時の状況を知らずに大正3年に渡歐し(目的はベルリンのグッツマンの所へ行き言語並に音聲障碍の治療法を學ぶ爲でした)先づフライベルグのカーラーに就き耳鼻咽喉科學を修め,一通り修得したらグッツマン氏の所へ行く積であつた,所が2ケ月にして第一次世界大戰勃發ロンドンに逃れ其所に半年見學次いでバーゼルのジーベンマン先生につき,始めは外來診察を手傳い後に助手を勤めて約1年で帰朝金杉病院に職を奉じたわけで扁剔に就いて師につき本當に學んだことはない。從つて自分の行つてる居る扁剔は大體に於いて先哲の教を書物によつて學び2, 3の人の手術を見て他は我流でやつて居る樣なもので諸氏の樣に正式な修業をしておりませんから其を御披露して皆さんの御批判を仰ぎたい。

扁桃全摘の自家臨床 山本 常市
  • 文献概要を表示

 私の扁桃全摘の方法はまことに平凡で教室に居る時分恩師や先輩から教わつた術式を30餘年の間少しも改良もせずそのまゝ施行している次第である。

 まず手術の準備として,出來れば2, 3日入院せしめるが近頃は病室や色々の關係で外來ですることが多い。空腹時に手術するようにする。午前中にする時は朝食を,午後にする時は晝食を與えないようにする。胃に内容物がある時は手術の際しばしば嘔吐をして手術部位を不潔にする恐れがある。手術前にはよく含嗽させて口腔や咽頭を清淨ならしめる。又出血の豫防として臓器製止血劑トロンボゲン(0.5)などを内服せしめる。(手術の禁忌症として,扁桃の急性炎症があつて體温が37゜以上ある時,衰弱のある患者,出血性素質あるもの,女子月經時等とあげる)。麻醉は局所麻醉を用いる。先ず10〜20%コカイン液を兩側の前後口蓋弓,咽頭後壁,鼻咽腔等に塗布する(私は兩側口蓋扁桃を同時に手術する。又アデノイドがある場合はこれも同時に手術する)。次に5000倍アドレナリン液を同樣に塗布する。次に約5〜10分ののち浸潤麻醉として1%プロカイン液10ccに1000倍アドレナリン液2, 3滴の割合に混じたものを1側に注射する。注射する部位は前口蓋弓の上・中・下部と,後口蓋弓上部で先ず一方の前口蓋弓の中央部に注射し,次に下部,上部に及ぶ。それから下部にもう一度注射する。この部位は,絞斷の際最も疼痛を感ずる場所である。それから後口蓋弓の上部に注射する。たゞし高度の肥大の時は後口蓋弓が見えない場合がある。かゝる場合には前口蓋弓の上部からやゝ深く注射する。

扁摘出の自家臨床 津田 終吉
  • 文献概要を表示

 扁桃腺の手術を完全に行うには先ず第一に其の腺の解剖と組織及生理と機能について最新の醫學的知識がいる。次に熟練した技術的手腕が必要た。其第一のことは日本耳鼻咽喉科全書の中で猿渡博士が文献を擧げて詳しく述べて居る。又獨文では「カアツ」のハントプツフ扁桃腺外科の部にヂヨセフ,ブンムバア,が英文ではパービンソンのトンシリーがあり,其他1951年版耳鼻咽喉科イヤーブツク等を見ることに依て大體世界の此の方面の趨勢を察知することが出來る。尚本特集號に於ても他の適任者から此の方面の記述もあるたらう因て第二の技術的方面への參考にもと既往45年の臨床經驗を記憶のままに叙列し,之れに最近の状況を加味して自家臨床と云うことにしよう。

 明治40年頃までは扁桃腺を切ると云うことは普通一般に輪状の扁桃腺刀で肥大突出した部分を切斷除去することを意味したものでした。丁度其頃米國では,扁摘と稱して此の器械を用い此樣な方法で扁桃腺を取つて居ると東京の耳鼻科學會で高橋研三氏の供覧があつた。歐洲でも1911年にブリユーニンク其他が彼地學會にレクトミー用シリンゲーなど提出供覽して居た記事がある。尤も當時紹介された方法は,今日米國式とでも解すべき例の全麻,懸垂法では無く局麻,座位の方法であつた樣でした。明治41年に筆者が開業匇々扁摘第1號を21歳の男子(ペリトン2週日後)に文献を當てに指導者も無く行つた,手際の程は御推量にまかせるとして手術後數時間實質性出血があり,ガーゼ指頭壓迫によつて止血せしめた。當時アドレナリンは第1回日本醫學會席上で高峰博士により發表され,我科でも岡田先生によつて紹介された直後であつて日常には未だ使用されて居なかつた。局麻もコカインを使用したと思う。其の當時は扁桃腺切除の際でも往々後出血を經驗した時代,扁摘にあつても少々位の後血出は付きものの樣にも考えられていた。其頃から2,3年經た後では最早扁桃腺の手術と云うと摘出することが普通となり兩側は勿論更にアデノイトまでも1回に除去することが常織とまでなつた。丁度其頃から學會で扁手術後の不幸例が報告せられ,又巷間でも扁手術の際注射で又出血で小供を失くしたなその事を聞くこともある樣になり,本手術の慎重性に警戒を與える樣になつた。此間に處して筆者も數多へ施術者の中に若干數の後出血例を持ちましたが,其都度適當の處置により止血が出來未だ1例の不幸者をも出さなかつたことは眞に幸幅と云うべきです。其頃順天堂病院に千葉博士の手術見學,ペルリンではハルレーのクリニツクを參觀して漸次自法を改善簡易化に勉めたものでした。最近では扁桃腺手術には一滴の出血にでも細心の關心を持ち感染に對する注意は勿論,適應症の選擇更に遠隔成績に迄も格段の注意を拂う樣になつた。一般も漸次其の傾向をだとり米國にあつても扁は全部取るべしより,病的扁のみ除去し尚且つ5歳以下は其れさいも制限され,夏期にあつては例の小兒麻痺との關係上之れを見合せると云う樣に随分と大きな變りかたになつた。我國でも數日前東大耳鼻科醫局で扁桃腺問題を取り擧げ一夕語り合うと云う工合に,從來よりは變りた觀點から扁桃腺を見直す樣になつた。

  • 文献概要を表示

 口蓋扁桃腺は色々の目的で摘出せられる。從つて摘出した扁桃腺に就いても色々の研究が爲され,特に細菌學的乃至病理組織學的研究は多數にある。然し乍らレ線的に之を検索した報告は比較的少い樣に感ぜられる。然るに私は嘗て或る目的を以て摘出扁桃腺多數を集め,之をレ線的に検査した事がある。然し乍ら其の成績は未だ纒つて誌上に發表して居ないので,特集號發表を機會に改めて之を發表させて頂き度い。

  • 文献概要を表示

 適應症:扁桃肥大症,慢性扁桃炎,習慣性アンギーナ,其他所謂扁剔を必要と認める場合。(但し膿瘍扁剔は行なわない)。

 年齡:必要と認める場合は幼兒にも行う。一般的には滿10歳以上。

  • 文献概要を表示

扁桃摘出手術の適應を年齡的に考えると,

 1)14〜15歳を境としてそれ以上の年長者と

 2)それ以下の年少者の場合とが有る。

 年長者の摘出適應ついては,從來各方面より検討されているものと同意見であるが,年少者の適應については,強度の肥大及びアデノイドと云う事が更に加味されて鼻腔中耳又はその他の周圍器官に及ぼす影響という點で,病的なるべき扁桃は多數である關係上,摘出適應も亦多いわけである。摘出か切除かと云う事については笹木教授も指摘して居る樣に「扁桃に於ける病窩は咽頭腔に向う表面より,深部の被膜附近に潜在して居る場合が多い故,摘出が最良の治療法であると云い得る」とあるが吾々も苟しくも病的扁桃である場合は,年少幼兒を除いては摘出を實行している。吾々醫學的分野に於ては,つとに各種の豫防醫學と云う事が叫ばれて居るが,年少者の適應ある扁桃を摘出すると云う事も,その關係する疾患のみに限局せず凡ゆる意味で手術に依る豫防醫學の實行であると吾々は考えるものである。昭和8年以來靜岡赤十字病院耳鼻咽喉科に於て20年間に摘出した症例5000餘例に就て検討して見樣と思う。

戰後に於ける扁剔の臨床經驗 畑 秀雄
  • 文献概要を表示

 昭和20年9月當院建物が米軍により占領されて以來,その日常診療の規模は甚だしく縮小されたが,昭和20年11月1日診療再開から昭和28年7月末までに當醫局に於て行つた扁剔に就いての調査報告をしたい。我々は原則として,術前に内科乃至小兒科醫の診察を受けしめ,出血及び凝固時間の測定,検尿を行つた。また膿瘍扁剔以外は急性炎症があると思考される時期を避け,住居が遠方のもの,たとえ病院の近所の者でも特に必要と思われた者は豫め入院せしめた。

 手術は早朝空腹時に行い,術前約1時間ビタミンK劑又は種々の止血劑を皮下注射した。手術の初めに當り10%コカイン液0.4〜0.5ccを咽頭粘膜(後壁並びにアデノイド附近)に塗布し,0.5〜1%ノボカイン液約10〜15ccを扁桃腺周圍に型の如く注射し,注意して剥離を行い,絞斷器をかけて剔出した。アデノイド切除にはLa-Forceの箱形切除刀及びBeckmannの輪状刀を用いた。

扁剔の今昔感 山川 強四郞
  • 文献概要を表示

 12月卒業と同時に入局した吾等は翌年4月に始めて扁剔の許が出た。それ迄幾度か見學はして居た。久保(護)先生は高橋式のあの直角に曲つた刀で頗る巧妙にパツパツと手術され患者に膿盤を持たせて控室にやつて居られた。先輩達が學會出席で留守中4月に恐る恐る扁剔をやつて見た。注射はすべて0.5%コカイン水1ccに對しアド2滴の割に入れたもの片側2筒4cc用いた。鉗子をかけたが十分引出したかどうか記憶しない刀は高橋式又は久保式鎌状刀を用いた。扁桃上部に附着して居る粘膜に切線を入れ剥離子を挿入して剥離するのであるが,時には淡紅色糊状の物が現われたり,この中に網目状の線が出たり出血して組織が染まり,暫くこの藪の中を夢中に掻いて居ると硬い白い被膜に達する。あとは剥離容易でやれやれと思つた。剥離したら扁桃下極に絞斷器をかけて取つた。又久保(猪)先生は下極をマツケンジーの扁桃刀で切つて居られた。剔出後の創面にはオキシフルを塗布しフイオホルムを散布して控室に送つた。出血がひどい時は綿球を創面に當て,或は其綿球を指でおさえたりした。リコルドをかけた事は殆んどなかつた。入院させる事は稀で大抵は病院前(九大)の宿屋に泊つた。然し後出血は絶無ではなく出血の知らせに病院に馳けつけたり又當直で居合わせると,血塊が創面を充たし咽頭にはみ出して居る。患者は數分毎に新鮮な血液又時に血塊を吐いて居る。血塊を除去すると大出血が起こりそうで血塊には觸れずアドやコカインを附近に塗布したり,高調葡萄糖液やカルシウム等を靜注した。手術日の當直は厭われ,又小使が呼びに來たら出血を眞先に想像する程で扁剔が行われた晩は安眠出來なかつた。この血塊がとれる迄は安心出來なかつた。

 術後の疼痛も強く,その晩は粘稠な唾液が出で痛の爲之を嚥下する事も吐さ出す事も困難で唾液は咽にたまり,喘鳴を發し眠りかけると呼吸困難さえ起つて安眠が出來なかつた。順調にゆけば翌朝には唾液が水樣に復し,粥食が可能となるが,嚥下時の痛みは尚1週日位續く。若し創面に血塊が附着したり,周圍粘膜に血液浸潤又粘膜下出血を來たす事もあり,其時は疼痛が數日も甚しく液食しかとれぬ事もあつた。當時扁剔は厄介な手術の一であつた。

扁剔放談 石井 俊次
  • 文献概要を表示

 「扁剔」と私は書いた。「扁摘」とも書くようである。剔は「えぐる」で摘は「つむ」である。どちらも口蓋扁桃腺を手術によつて全部とり出すことを意味する。漢字など小六カしいことを云う時代ではないかも知れないが識者に頼んで何れかに定めて貰いたいと思う。私には然し剔の方が感じが出るようだから茲には扁剔と書くことにした。

 昨年の2月頃在京耳鼻科專門醫の重だつた人達が長老千葉眞一博士邸に招かれて扁桃腺座談會というものが開かれた。私も末席を汚したのだが此席に日本醫事新報の人が速記者を同伴して列席し詳細を同誌に發表した。主として扁桃腺手術に關する各自の全くの放談でなかなかに面白かつたし此記事は全國讀者にも評判がよかつたようである(扁桃剔出術座談會,日本醫事新報1479號,昭和27年8月30日發行)。

私はこう考える 林 義雄
  • 文献概要を表示

 昭和7, 8年頃かと思うが,長崎での學會の帰途福岡,岡山と各教室を見學して廻つた。久保(猪)教授の扁剔も見せてもらつたが,コカインの局所麻醉の慎重さに驚いたものである。久保教授は例の鎌状の刀で,上極を3回に分けて切斷され,而も最初の一刀を重視された。確かにこれは大切なことだ。岡山では田中教授の口蓋破裂を希望したので扁剔は助手の方のを見たゞけであるが,開口器をかけて曲つた鋏で前後口蓋弓を切斷していた。

 私の習つた時代のO教授の方法は剔出と言うよりは切除を極限まで擴大したものである。先ず鉗子で掴み前後口蓋弓を押し下げるようにしてシユリンゲをかけるのである。この頃は後出血のために當直醫は悩まされたものである。

私はこう考える 大野 喜伊次
  • 文献概要を表示

 私は震災と戰禍で診療録も失い且無學で81歳の頽齡だから,學術的の記事は到底出來得べきでないが,本邦での扁摘開始からの實状を見聞して來た生き殘りの一人として,不文も省ず命に從い敢で筆を執つた。

 約半世期以前で扁桃腺の認識極めて幼稚な時代の明治41, 2年に,私は博覧強記と稱せられた恩師故小此木信六郞先生から多數の外誌を示された上,この通り歐米では扁桃腺に關する新研究が續々澤山發表され,智能の發達に影響すること,ロイマチス腎炎などを誘起すること,そして全摘で治癒すること及び其方法まで詳細に報告されて居る。だから吾々も大いに注意し全摘も試むるようにせよ,と熱心に教えられたのであつた。先生の懇篤な指導を受けても扁摘器もなく私は手の下しようもなかつた。

  • 文献概要を表示

 術後疼痛の有無は色々の意味に於いて―術前には手術に對する恐怖を,術後には安靜妨害を等―非常に重大なる意義がある。然るに術後疼痛の成因に關する研究は殆んどなく,只僅にBaer(1937)が「ロイマチス」性であろうと推論して居るに過ぎず,多くは疼痛除去のため各種藥品の利用並びに効果を検査せる報告のみである。從つて吾人は術後疼痛緩解のためには其の疼痛の發生機序を検討するの要を感じる。此處で吾々は先ず術後疼痛の成因を検索し,其の結果に基づき簡單にして無害な治療方法を考案實施し良好な結果を得たので此處に報告し御追試を乞う次第である。

  • 文献概要を表示

 症例 中○安○○,男,56歳(算年),鐵工場主。

 既往症:39歳の時に重症な左扁桃腺周圍炎に罹り,切開排膿により辛うじて治癒したか,その後は屡々扁桃腺炎に罹るようになつた。特に昭和18年春頃からは繰返し罹病したが,手術は受けなかつた。同年11月26日頃より左坐骨神經痛を惹起し内科醫の治療を受け,その後約2カ年間は起居も不自由であつたのみならず,殆んど常に扁桃腺炎を患らつていた。なお昭和14年に肺炎と急性中耳炎に罹つた。

喉頭神經症と扁剔 執行 孝胤
  • 文献概要を表示

 喉頭部に自覺的苦痛(輕度の疼痛,異物感,蟻走感,呼吸困難等)を訴へて來る患者に他覺的にその訴える苦痛の原因となる異常所見を認め得ない場合には一般に,喉頭神經症なる診斷の下にその訴へに對症的に治療を施しているが,最近牧田氏は之に對して自律神經遮斷劑の注射により輕快した2例を報告してをられる。

 私も該症と思われる2例に遭遇していづれも口蓋扁桃の肥大を認めたので之れに扁剔を施行して患者の苦痛を消失し得たのでその概要を述べる。

  • 文献概要を表示

 扁摘後の合併症或は偶發症として後出血,菌感染,中耳疾患,呼吸器疾患,軟口蓋血腫形成等の報告はみられるも,音聲言語障碍を來した報告例は本邦に於ては僅かに大藤教授が扁摘後の非弛緩性口蓋機能障碍に因る一時的閉鼻聲について論ぜられているのみである。私は先年扁摘後にみられた一過性の音聲言語障碍の2例を經驗したので茲に報告し聊か私見を加えてみたい。

  • 文献概要を表示

 日常我々が取扱う扁桃腺潰瘍又は白苔を生ずる疾患は,デフテリー,猩紅熱,梅毒,結核,急性扁桃腺炎,腺熱,血液疾患等に併發する潰瘍及び,ヴアンサン氏アンギナ等があげられる。而して專問的經驗ある人には,各種補助診斷法により診斷を確定する事は特別の場合を除きさしたる困難はない。我々もかかる經驗から靜岡市を中心とする附近の患者を20年來診察治療し,これ等疾患の發生状態が慶大臨床に於る場合と大差ない事を經驗して居る。所が終戰後昭和21年5月から9月の間に過去經驗せざる樣な,主として一側性に發生し所見に比して主訴及經過良好の一種の扁桃腺潰瘍を極めて多數例經驗し,同時に非專問醫により充分なる検討を行はれずヂフテリーとして取扱はれて居たものを發見し,之を細菌的,病理的其他の諸検査併用により一種のヴアンサン氏アンギナと稱すべきものである事を確認した。同時に昭和20年から24年までの臨床例を追及した所,この發生が食糧事情の惡化と略平行して居る事を發見し今回の終戰直後の如き歴史的食糧事情の惡化から發生する耳鼻咽喉科疾患の一つとしてその要點を報告する。

扁剔と腎臟炎 白川 吾一郞 , 古川 精一
  • 文献概要を表示

 急性腎炎の治癒の遷延し困難なるもの又は慢性腎炎の場合に扁剔を行うことは我々の專門領域では殆ど常識的となつている。勿論此の際扁桃に腎炎の原因があるということが確實に診斷さるべきは言うまでもないことである。而し扁剔を行つた成績はどうであらうか。一方には澤山な良結果の報告があるが,他方には餘り良くない報告もある。少數ではあるが惡い結果を得たものさへある。又手術の時期に關してもVolhardの如く腎炎發病後可及的早期に行へと云うものもあるし,又手術侵襲の腎臓に及ぼす惡結果を恐れ腎臓の炎症が休止状態になつた時に行うべきであると主張する者もある。斯くの如く扁剔の効果及び時期に關しては我々の了解に苦しむ點が少くない。そこで我々は不斷から此の問題に關心を持つていたが,最近10例を得たので其の所見を報告してみ度いと思う。

  • 文献概要を表示

 數多い扁桃剔出術の中には苦々しい思いをする事もある。これには不注意による失敗もあれば,又不可抗力の場合もあり,何れにしても適切な對策のとれるよう種々なる事故例に廣く目を通しておく事は有意義な事であるので,かゝる意味で最近遭遇した事故3例を報告したい。

余の扁摘手術法と扁摘經驗例 笹木 實
  • 文献概要を表示

 私の行つている扁摘手術法は一般に行われている手術方法より可なり異つているので先ず余の手術法について述べ然る後手術例中著者の印象に殘つている症例を略記することにする。

 凡て手術には適應症と禁忌症と云うものがある樣に,扁摘手術にも,手術をしなければならぬ場合と,してはならぬ場合とがある。從來扁摘の適應症として擧げられている疾患としては,第1に慢性扁桃炎を擧げねばならない。この内には習慣性口峽炎も含まれていること勿論である。

扁摘 大藤 敏三
  • 文献概要を表示

 扁摘問題は臨床醫家にとつて自明中の自明の間題ではあるが,それに含まれる各人各説の趣味と習慣があり,此の機會に何か發言し度いという要求が起る。扁摘は夫程臨床醫に日常茶飯事であると共に又追求す可き多くの點を持ている。色々の面で。

 扁摘は單なる一つの技術としてのみ片付けて割り切るか又は扁桃炎病學の基礎の上に立て之を行うか,專問の臨床醫としては後者を壓縮したもの,即ち多年の經驗と知識とから割り出した上の自信から出發するものであると思う。

編集後記と感想 西端 驥一
  • 文献概要を表示

耳鼻咽喉科專門家の誰でも經驗の多いのが扁桃手術であろう。それ故誰でも一家言を持つているに相違ない。口さえあけば容易に見える扁桃:人によつては幾百と云う摘出例を持つ扁桃:それ故容易に手に入れる事が出來,随つて容易に組織標本にも出來る扁桃:

 然るにその機能に到つてはなんとまあ多くの説に別れている事か。どの説が本當なのであろうか。扁桃は口の中で笑つているように思える。摘出して掌にのつている扁桃は黙して語らない。癪にさわる事だ。併しそれと共に自然の神秘の前には頭を垂れざるを得ない。

基本情報

03869679.25.12.jpg
耳鼻咽喉科
25巻12号 (1953年11月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0386-9679 医学書院

文献閲覧数ランキング(
9月13日~9月19日
)