特集 扁桃摘出の病理と手術
扁桃腺と音聲
颯田 琴次
1
1東京藝術大學
pp.705-706
発行日 1953年11月30日
Published Date 1953/11/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492201004
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ある知名の女流聲楽家が,"颯田は,扁桃腺をどしどしとるが,これは聲を職業とするものにとつて絶對禁物だ"と,以前,某日刊新聞にかいていた。まことに迷惑至極なはなしである。私も醫者だから,とるべき扁桃腺をとるのに,決してちゆうちよするものではないのだが,この言葉のように,扁桃腺と見たら,必ずとつてしまうというような,そんな亂暴な醫者が,もともとありようはずはない。
扁桃腺に,癌や肉腫が早期に發見されたとしたら,どんな慎重な專門家だつて,摘出手術をするのが當然だ。そんな極端な例は別としても,慢性扁桃炎による腎臓障害でも發見された場合,時期をみはからつて,とつてしまうというのが,適切な處置であろう。聲楽家もまた一個の人間だ。人間として,生命の危険にさらされているとすれば,その原因を,できるだけ完全に除去するよう努力するのが醫者の義務である。とるかとらないかは,適應症の如何によつて定められているのだから,たとえ聲楽家でも,醫者の專門的見解に立入る資格はないはずだ。やたらにとるとかとらないとか,そんな感情的な言動は,決して受付けられるべきものではない。
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